『一週間フレンズ。』:2017、日本

高2の春。長谷祐樹は図書室で分厚い本を探し、片っ端からページをめくる。ある1冊を手に取った彼は、「よし」と満足そうに呟いた。東京都立緑川高等学校の図書利用カードが落ちているのを見つけた祐樹は、藤宮香織という生徒の名前を確認する。彼は一緒に来ていた親友の桐生将吾に、興奮した口調で「凄い美少女なんじゃない?」と告げる。将吾は「そういうのは大抵、名前負けしてるんだよな」と興味が無さそうに言うが、祐樹は「夢が無いなあ」と告げてカードの匂いを嗅ぐ。
「めっちゃいい匂いする」と興奮した祐樹は、カードの持ち主である香織に見られていることに気付いた。香織はカードを奪い取り、無言のまま走り去った。分厚い本について「何に使うんだ」と将吾に問われた祐樹は、「内緒」と答えた。将吾と別れて列車に乗り込んだ祐樹は、近くに香織が立っていることに気付かなかった。転寝した彼は駅に着いたので慌てて降りようとするが、本を座席に忘れてしまう。香織が気付いて本を投げ、祐樹は走り出した列車に向かって「ありがとう」と叫んだ。
1学期が始まり、遅刻しそうになった祐樹は学校に駆け込んだ。すると1年で同じクラスだった幼馴染の山岸沙希が近付き、寝癖を直そうとする。彼女は祐樹に予備のハンカチを渡し、ネクタイを締め直す。同じ3組になったと知り、祐樹は渋い顔をする。将吾も3組で、好意を抱く加藤美咲や菅原彩たちが嬉しそうに取り囲んでいるが、彼は面倒そうな様子を見せる。祐樹はクラス表を確認し、香織の名前を発見して笑顔になった。
祐樹は教室で香織を見つけ、「この前はありがとう」と声を掛ける。しかし彼女は怪訝そうな表情を浮かべ、何も言わずに立ち去った。後を追い掛けた祐樹は「俺と友達になってください」と手を伸ばすが、「無理」と断られた。香織はクラスメイトと関わることを避けており、女子からは目の前で「冷たいよねえ」と言われることもあった。彼女は1年の3学期に転校してきたが、ずっと1人でいたので、やがてクラスメイトは誰も話し掛けなくなっていた。
担任教師である井上の元へノートを持って行くよう香織が指示された時、祐樹は手伝いを申し出た。香織が断っても、彼は構わずに手伝う。昼食の時間に香織が屋上へ行くのを見た祐樹は、すぐに後を追った。気付いた香織は、「いいかげんにして。もう私に構わないで」と告げる。慌てて呼び止めようとした祐樹は、誤って弁当箱を落としてしまう。香織は自分の弁当を渡し、祐樹が食べている間に立ち去った。祐樹は所属する漫画研究部の部室へ行き、図書館で借りた本を取り出した。彼は余白が多くて分厚い本を選び、そこに漫画を描いて後世まで伝えようと目論んでいたのだ。
翌日、祐樹は香織に弁当箱を返す名目で接触し、拒絶されても構わずに話し掛ける。走り去る香織は祐樹に追い掛けられると、「私は友達を作っちゃいけないの。絶対に」と口にした。その様子を見ていた井上は祐樹を職員室へ呼び出し、香織の秘密を教えた。日曜日の夜に寝て月曜日の朝に目覚めると、香織は1週間の記憶を全て忘れているのだ。ただし両親のことは記憶しており、クラスメイトや新しく知り合った相手だけを忘れてしまうという症状だった。
母の志穂も父の隆之も記憶喪失になった理由は思い当たらなかったが、主治医の神崎は人との関わりの中で何かあったのだろうと告げた。香織は記憶に重い蓋をしており、無意識なので本人も気付いていないのだと彼は説明した。井上から香織が解離性の健忘だと聞かされた祐樹は、俄かには信じられなかった。しかし次の月曜日、祐樹が声を掛けると、香織は初対面のような様子を見せた。確かに、彼女の記憶は無くなっていたのだ。
高2の夏。井上から「藤宮のためを思うなら、そっとしておいてやれ」と言われた祐樹は、どうすればいいのか分からないまま悩み続けていた。そんな中、古文の授業で『土佐日記』について説明する教師の「子供の頃、日記なんか付けたことあるでしょう?」という言葉を耳にした彼は、いいアイデアを思い付いた。祐樹は沙希に付き添ってもらい、ノートとペンを買いに出掛けた。沙希は自分へのプレゼントだと思っていたが、もちろん祐樹の目的は違っていた。
祐樹は香織にノートとペンを渡し、交換日記をやろうと持ち掛けた。「毎日だと大変だから、1週間交代でやるのはどうかな。少し考えてみて」と言い、祐樹はその場を去った。千穂は香織から「交換日記しか、したことある?」と質問され、小学生時代にやっていたことを話して「学校じゃ出来ない内緒話してるみたいで、楽しかったなあ」と言う。香織は中学の友人だった近藤まゆに声を掛けられるが、全く覚えていなかった。千穂はまゆに話し掛けて誤魔化し、香織を連れて立ち去る。隆之は千穂から香織が交換日記を始めるつもりではないかと言われ、「医者も言ってただろ。あまり他人と関わらせない方がいい」と告げた。
月曜日、香織は祐樹を屋上へ呼び出し、「1週間で記憶がリセットされてしまう病気なので友達にはなれない」と告げる。祐樹が「それでもいいって言ったら?」と言うと、彼女は「私は友達に迷惑を掛ける。前にあったことを、いちいち説明しなきゃいけないから。前の学校では、みんなが離れていったみたい。貴方もきっと面倒になる」と話してノートとペンを返した。祐樹は「俺は絶対に嫌になったり面倒になったりしない」と食い下がり、香織がノートとペンを返しても執拗に付きまとった。彼は強引にノートを渡し、香織は「金曜日は自分が持ち帰ること」を条件に交換日記を承諾した。月曜日になっても、日記を読むこととで祐樹を認識できるからだ。
こうして交換日記が始まり、祐樹と香織はクラスメイトに内緒の関係となった。そんな中、机にノートを忘れた香織が慌てて取りに戻ると、教室に残っていた彩と美咲が勝手に覗こうとしていた。そこへ将吾が現れ、ノートを回収して香織に渡した。「それって交換日記だよね。桐生君と付き合ってるの?抜け駆けしないでよね」と彩と美咲に詰め寄られた香織は、記憶がフラッシュバックして頭痛に見舞われた。近くにいた沙希は心配し、一緒に帰ろうと声を掛けた。
職員室には9月から編入する九条一が両親と共に訪れ、井上に会った。両親は丁寧に挨拶するが、一は無愛想で面倒そうな態度を見せた。祐樹は香織と下校しながら、将吾と沙希を紹介する。沙希は四ツ谷橋の天燈祭りに4人で行こうと提案し、香織はOKした。挨拶を終えた一に目をやった香織だが、全く記憶に残っていないので、そのまま通り過ぎた。4人が楽しげに話す様子を見た一は、意味ありげな様子で「ふーん、そういうこと」と呟いた。
8月9日、祐樹たちは?4人で天燈祭りの会場へ行く。香織は赤信号で先に行った他の3人とはぐれてしまうが、祐樹が戻って来た。場所取りに行った将吾と沙希を捜す中、香織は「高校生活なんて早く終わればいいと思ってた。でも今は違うよ。新しく友達を作ることも怖くない。長谷くん、ありがとう」と口にした。一はまゆを誘い、天燈祭りの会場に来ていた。まゆは沙希と合流した香織に気付き、「心配してたんだよ」と声を掛ける。しかし香織は彼女が分からず、事情を知る祐樹は「将吾が待ってるし、行こうよ」と告げる。すると一が香織を呼び止め、「裏切り者」と睨み付けて立ち去った。フラッシュバックがよぎり、香織は失神した。
香織は病院に運ばれ、祐樹が付き添う中で意識を取り戻した。すると香織は祐樹を全く覚えておらず、一のことは思い出していた。連絡を受けて駆け付けた隆之は、祐樹に「後で話があります」と告げて残ってもらう。隆之は香織が中学3年生で交通事故に遭って記憶障害になったことを語り、もう娘に近付かないでほしいと頼む。「貴方が香織に関わるのは一時の感情ですよね。私たちは一生、香織に関わるんです」と言われ、祐樹は「香織さんが嫌だって言うんなら諦めます。でも違うなら、俺は香織さんの友達です」と告げる。後日、退院した香織を訪ねた祐樹は、「これを読んでくれたら分かるから」と交換日記を渡して去る。志穂は祐樹を追い掛け、「交換日記のこと、感謝してる」と告げた。
高2の秋。祐樹と香織の交換日記が続く中、一が3組に転入してきた。学園祭で3組は、イケメンパティシエが作るパンケーキが売りのハワイアンカフェを開くことに決定した。くじ引きによって、後夜祭の火祭り担当者は将吾と一が選ばれた。学園祭の準備が始まる中で、沙希は一に「なぜ香織と互いに知らないフリをしてるいのか」と質問した。すると一は凄むような態度を取り、香織を嫌っていると告げた。沙希は香織の元へ行き、一について「元カレ?」と尋ねた。
香織が黙っていると、沙希は「祐樹のこと、どう思ってるの?」と質問した。「祐樹を傷付けるようなことがあったら許さないから」と言われた香織は、「私にとって、大事な友達だよ」と答える。それを聞いた祐樹は、香織の前で嬉しさを分かりやすく表現した。香織は「日記を読み返して、大切な思い出が、私の中に確かにあるって感じるんだ。ホントに、長谷くんがいて良かった」と感謝し、祐樹は後ろから彼女を抱き締めた。
祐樹は将吾に呼び出され、残った香織の元へ一がやって来た。一は彼女を睨み付け、「なんで俺が無視されなきゃなんねえんだよ。元はと言えば香織が俺を裏切ったんだ。ムカついてんの、こっちだよ」と語った。香織が何か言おうとすると、一は「あの日、俺が引っ越してしばらくして、最後らにもう一度だけ会おうって約束したろ。ずっと待ってたのに」と告げる。その日の記憶を取り戻した香織は「私、行ったんだよ」と言い、軽い頭痛に見舞われた…。

監督は村上正典、原作は葉月抹茶『一週間フレンズ。』(ガンガンコミックスJOKER/スクウェア・エニックス刊)、脚本は泉澤陽子、製作総指揮は大角正、製作代表は武田功&木下直哉&中山良夫&佐野真之&松浦克義&大川ナオ&堀口壽一、エグゼクティブプロデューサーは関根真吾、プロデューサーは石塚慶生&寺西史&関谷正征、アソシエイトプロデューサーは秋山直樹&三好英明、撮影は藤本信成、照明は和田雄二、録音は関根光晶、美術は山下杉太郎、編集は山本正明、デザインは中村綾香、衣裳は加藤優香利、音楽プロデューサーは高石真美、音楽は やまだ豊。
主題歌『奏(かなで)for 一週間フレンズ。』スキマスイッチ 作詞・作曲・編曲:大橋卓弥&常田真太郎。
出演は川口春奈、山崎賢人、松尾太陽、上杉柊平、高橋春織、戸次重幸、国生さゆり、甲本雅裕、岩瀬亮、古畑星夏、伊藤沙莉、岡田圭右(ますだおかだ)、森田望智、比嘉梨乃、芳村宗次郎、桜井美南、三上亜希子、山本伸梨、餅田コシヒカリ、土井きよ美、荒木誠、松本頼、五十嵐健人、水月優希、青木愛美、石川政明、泉谷勇住、板羽龍、上木拓久海、沖津海友、尾屋葵、加藤康貴、櫻井敬介、佐藤はるか、柴崎宏樹、鈴木晃平、高橋一真、寺島里香、豊平美萌、中村穣、長谷川遥陽、林澪花、牧野楽夢、森朱里、山口太暉、山本和樹ら。
声の出演は山谷祥生、雨宮天。


葉月抹茶の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『電車男』『赤い糸』の村上正典。
脚本はTVドラマ『ランチのアッコちゃん』『オトナ女子』の泉澤陽子。『ルームメイト』で脚本協力としてクレジットされたことはあるが、正式に脚本担当として映画に参加するのは本作品が初めてだ。
香織を川口春奈、祐樹を山崎賢人、将吾を松尾太陽、一を上杉柊平、沙希を高橋春織、井上を戸次重幸、志穂を国生さゆり、隆之を甲本雅裕、神崎を岩瀬亮、まゆを古畑星夏、図書委員のフミを伊藤沙莉、古文教師を岡田圭右が演じている。

「ヒロインの記憶が短期間で無くなるラブストーリー」ってのは、これが初めてというわけではない。
2004年にハリウッドで製作されたヒット作『50回目のファースト・キス』ってのが存在する。
「短期間で記憶が無くなる」という要素を使った映画は他にもあるだろうが、私がパッと連想したのは、この映画だ。
『50回目のファースト・キス』の場合、「ヒロインは事故に遭うまでの記憶はあるが、新しいことは一晩で忘れてしまう」という設定だった。

「1日で記憶が消える」という『50回目のファースト・キス』と比べて、「1週間で記憶が消える」という本作品は、越えなきゃいけないハードルがかなり高い。
どちらも都合の良すぎる設定ではあるのだが、そのレベルは桁違いと言ってもいいだろう。
「月曜日の朝に起きると、そこまでの記憶が消える」というヒロインの設定が明らかにされた時、「いやいや無理があるだろ。マジかよ」とツッコミを入れたくなったとしても、それは仕方のないことだ。

しかも、この映画におけるヒロインの記憶喪失設定は、それだけでは済まない。全ての記憶が消えてしまうのではなくて、「高校で親しくなった人間の記憶だけが消える。家族や友人ではない人物、高校までに知り合った人物との関係については全て明確に覚えている」という設定なのだ。
もうね、「ひょっとして笑わせようとしているのか」と言いたくなるぐらい、なかなかの御都合主義である。
もちろん、それが実際には有り得ない病気なのは言うまでも無いが、だからダメってことではない。現実に無い設定は持ち込んじゃいけないというルールなど、映画には存在しない。
ただ、そこまで無茶な設定だと、ハードルは高い。

そんなキツいハードルを越えるためには、「だって少女漫画だもの」という言葉を呪文のように唱え、自分に言い聞かせることが助けになるかもしれない。
「それは少女漫画をバカにしてないか」と思うかもしれないけど、実際に原作は少女漫画だからね。
でも少女漫画だと、そんなに苦労せず受け入れることが出来るモノなんだよね、こういうのって。
誤解の無いように補足しておくと、「漫画だとOKでも、実写映画にしたら厳しい」ってのは少女漫画に限らず、少年漫画や青年漫画でも起きる現象だ。

ただ、そういう最初のハードルさえ越えてしまえば、後は楽なモンだ。たぶん何のストレスも感じずに、最後まで観賞することが出来るはずだ。
何しろ最初のハードルが高いので、その後に出て来る厄介な問題は「それに比べりゃ、どうってことない」と思えるに違いない。
おっと、「厄介な問題」って書いちゃったけど、たぶん問題とも感じないだろう。「そういう作品だからね」ってことで、あったかい目で見られるはずだ。
大事なのは、最初のハードルを越えること。
それが無理なら、下をくぐっちまおう。
「どういうことだよ」と言いたくなるかもしれないが、まあ雰囲気よ、雰囲気。

なんかダラダラと駄文を書き連ねて全く内容の批評が進んでいないが、そろそろ先へ進めよう。
と書いたものの、実は前述したハードルの問題が、ほぼ全てと言ってもいいんだよね、この映画。それ以降のストーリーは、極端に言ってしまえばオマケみたいなモンだわ。
大まかに言えば、たぶん多くの人が想像するような展開が繰り広げられる。
ようするに、「祐樹が香織の気持ちを掴むために奔走する。香織は彼を忘れてしまうが、あるきっかけで祐樹と過ごした日々を認識して」みたいな展開ね。
そして、もちろん、最後は「祐樹と香織が恋愛関係になりました」ってなハッピーエンドに至るわけだ。

ベタが悪いわけじゃなくて、この手の甘いラブストーリーには、むしろベタであることが求められる。
だから「誰もが先読み出来るような予定調和のハッピーエンドのラブストーリー」として作ることを否定するわけじゃなくて、むしろ大賛成だ。変に捻りを加えても失敗する可能性が高いだろうし、この話でハッピーエンドを避けるなんて愚の骨頂だしね。
だから本作品の欠点は一言で表現するならば、「作りが雑」ってことなのよ。ベタであればあるほど、繊細な神経で丁寧に作らないと。
だってベタってことは、「今まで多くの作品で使われてきた」ってことなんだから。
つまり「みんな見慣れている」ってことだから、それだけ見る側の意識も厳しくなるはずでね。

まず雑だという印象は、冒頭シーンから表れている。
最初は屋上にいる後ろ姿の祐樹、すぐにカットが切り替わって図書室にいる後ろ姿の祐樹が写し出される。どうやら彼は分厚い本に何かを書いているらしいってことが示される。
そこから「高2の春」に入って行くのだが、その導入部のシーンって、ほぼ無意味なんだよね。
もちろん伏線として、時系列をいじって最初に配置しているのは分かるのよ。だけど、わざわざ時系列をいじって後のシーンを冒頭に持って来るのなら、もっと考えた方がいいんじゃないかと。
その程度だと、「そのシーンに何の意味があるんだろう」とか「そこから何が起きるんだろう」という興味を喚起しないよ。

図書カードを見つけた祐樹が匂いを嗅ぐのは、「何故に?」と疑問しか湧かない。
相手の名前だけで美少女だと妄想するのは分かるとして、「美少女だと妄想したから匂いを嗅いでみる」ってのは不自然でしかないぞ。
これも「漫画だったらOK」という前述した問題に関係しているけど、それだけではない。
「こいつは妄想たくましいモテない男子」ってことを何かしらの台詞で表現しておけば、カードの匂いを嗅ぐのも「自然な流れ」に見えた可能性はある。

ただし、それは「違う俳優ならね」という条件が付くけどね。だって山崎賢人だと、「いつも妄想を膨らませているモテない男子」には到底見えないでしょ。
ホントは祐樹と将吾って「モテない男子とモテモテの男子」という関係性のはずだけど、そんな風には全く見えないわけで。これが神木隆之介ならピッタリだけどさ。
それを考えると、そもそもキャスティングの時点で苦しい部分はあるのよ。
そりゃあ、若者向けの恋愛映画だから、女子がキャーキャー騒ぐようなイケメン俳優を起用するのは当然っちゃあ当然だろう。だからこそ、この手の映画は、同じような俳優ばかりが起用される傾向にあるわけで。
でも、それと引き換えに「まるで役柄に合っていない」というデメリットも抱えることになるわけで。
この映画の場合、そこはかなり大きなハンデだわ。

祐樹が軽い調子で香織に「友達になってください」と手を伸ばすのも、断られても構わず付きまとって明るく話すのも、やはり山崎賢人だと「似合わない役を無理に演じている」という印象が良い。
そして、「これが神木隆之介ならピッタリだよなあ」と感じてしまうのだ。
もうね、頭の中に「神木隆之介が祐樹を演じているイメージ」が浮かんだら、それが離れないのよ。
たぶん神木隆之介だったら、祐樹が放つ「ただのストーカーじゃねえか」という大きなマイナスも、何とかしてくれそうな気がするしね。

そう、祐樹には「ただのストーカーでしかない」という、大きな問題もあるのだ。
香織が嫌がっても、友達になるのを断っても、彼は全く気にせずガンガンとアプローチする。まだ、その時点では単純に「かなり強引な男」「デリカシーに欠ける男」という程度で済んでいる。
しかし、病気のことを知った井上から「藤宮のためを思うなら、そっとしておいてやれ。無理に関わっても、相手を困らせるだけだぞ。遠くから見守ってあげるのも、友達と言えるんじゃないか」と言われた後も、交換日記を始めようと持ち掛けて香織に付きまとい、相手が事情を明かして断っても執拗に食い下がる辺りで、
もう完全にストーカーの領域へ足を踏み入れている。
香織が都合良く受け入れてくれるけど、やってることはストーカーと変わらんからね。

あと、祐樹には「見過ごせない犯罪者」という一面もある。
彼が分厚い本を借りたのは、そこに自分の漫画を描くためだ。ちなみに細かいことを言うと、その本を借りた時点で「何のために」というミステリーを発生させ、種明かしまで少し時間を取るのは余計な仕掛けでしかない。
それはともかく、図書室で借りた本に落書きをして返却するのは立派な犯罪だ。実際に器物損壊罪で処罰するには学校が犯人を特定して告訴しないと無理だろうが、少なくとも悪質な行為であることは断言できる。
なので、それを全面的に肯定している時点で、この映画はアウトでしょ。「難しい本だから誰も読まない」ってのは、何の言い訳にもならない。
そもそも原作って漫画なんでしょ。それなのに、借りた本に落書きするのを良しとしているのか。どうにも理解し難いな。

列車のシーンも、演出が雑だと感じる。
まず、祐樹も香織も列車に乗り込んだ時点では、近くに相手がいると気付いていない。ところが、祐樹が慌てて列車を降りた時、すかさず香織が座席に走って本を手に取り、彼に投げるのだ。
これは不自然極まりない。
最初から「そこに祐樹がいると知り、ずっと気にしていた」という状況でもなかったら、そんなに迅速な行動は取れないはずだ。
彼が慌てて降りる時に存在を認識しても、座席に本を忘れたことまでは気付かないだろう。

それと、転寝した祐樹の手から本が落ちた時、その本をアップで捉えるカットがあるけど、これは余計だわ。
「分かりやすくアピールしておこう」ってことなんだろうけど、そんなカットを挟まなくても、列車を降りた彼のリアクションだけで「本を忘れた」っのては分かるよ。
っていうかさ、実は「香織が座席に駆け寄って本を取りに行く」という映像すら、実は無い方がいいんじゃないかと。
つまり具体的に改変の案を書くと、「祐樹は座席の端に座り、そこへ背中を向けて香織が立っているので互いに気付かない」→「慌てて列車を降りた祐樹は、本が無いことに気付く(この時、列車の中は画面に写らないようにする)」→「振り向くと香織がドアの前にいて、本を投げる」という流れにすればいいんじゃないかと。

香織は記憶喪失のことを、同級生には明かしていない。井上は知っているのだが、「お前には話しておいた方がいいかもしれないな」と前置きし、祐樹だけには教える。
いやいや、そんな勝手なことをしちゃダメだろ。
香織にしろ両親にしろ、同級生には内緒にしてほしいという考えだから、誰にも打ち明けていないんでしょ。だからこそ、担任の井上だけが知っているんでしょ。
だったら、それを井上の判断で勝手にバラしちゃダメでしょ。
それは香織や両親との信頼関係に関わる問題であり、担任として失格だろ。

あと、そもそも香織と両親が秘密にしている理由も良く分からん。
そもそも、「そんなヘンテコな記憶喪失の症状を抱えている人間が、何も無いように装って普通に高校に通う」という時点で、「いや絶対に色んな問題が起きるだろ。両親が止めろよ」と言いたくなるよ。実際、記憶喪失のせいで冷たいと周囲に誤解され、阻害されているわけで。
でも、そういう問題は置いておくとして、普通の生徒と同じように高校へ通うのなら、ちゃんとクラスメイトには事情を説明した方が絶対にいいでしょ。そうすれば、冷たいんじゃなくて事情があってのことだと理解してもらえるはずで。
両親は「医者が人と関わらない方がいいと言っていた」と言い、香織は「前の学校で迷惑を掛けて皆が離れていったみたい」と言うけど、それが腑に落ちる理由になっていない。

この手の話だと、メインの男女には、それぞれ彼(彼女)に片想いする相手や恋のライバルが登場するのは必要不可欠な要素と言ってもいい。
この映画の場合、祐樹には密かに彼を思い続ける幼馴染の沙希がいて、香織には以前に好意を寄せ合っていた一がいる。
もちろん、この2人も恋愛劇に絡んで来るが、大きな違いがある。
それは、一は「祐樹と香織の恋愛」における障害として使われるが、沙希は最後まで「一途に祐樹を思い続けるが報われない可哀想な女性」で終わることだ。

「いい奴だけど恋が実らない脇役」ってのは、少女漫画における定番キャラである。そんな中でも沙希は、かなり不憫さが強い。
何しろ、登場した時点で「祐樹にベタ惚れ」ってのが露骨に見える奴だからね。
その後もラブラブ光線が漏れまくっていて、だから「祐樹が全く気付かず単なる幼馴染として彼女を扱う」ってのが、無神経極まりない奴にしか見えない。
そして沙希の方は、ちっとも嫌な部分の無い奴だしね。そういう部分でも、祐樹は好感度を著しく下げている。

それを何とか誤魔化そうとするのが、一というキャラクターの使い方だ。
こいつは恋のライバルとしてのポジションにいるのだが、登場した時から愛想が悪くて嫌な奴の印象をアピールしている。その後の行動も、最初の印象通りの嫌な奴だ。
それが完全にアウトの域に突入するのは、「裏切り者」と香織に言い放って立ち去るシーン。
香織が失神した時の一の反応は、全く描かれていない。一応は病院にも来ている姿が写るが、やはり冷淡な態度だ。なので、ただのクズ野郎でしかない。
後で香織を裏切り者呼ばわりする事情は明かされるが、それが分かっても「粘着質で陰険だわ」と感じるだけ。記憶障害の事情を知った後も、こいつの態度は全く変わらないし。

後半、学園祭のシーンで、まゆが香織の記憶障害を知っていることが判明する。
だけど、それって変でしょ。まゆは香織を町で見掛けた時、いかにも「香織は自分のことを覚えていて当然」みたいな様子だったじゃないか。祭りの日も同様で、「知っていて当然」という態度だったじゃないか。
もしも記憶障害のことを知っているのなら、「私のこと、覚えてる?それとも、分からない?」みたいに、探るような感じで質問する方が自然じゃないかと。
「まゆが記憶障害を知っている」ってことを隠したかったんだろうけど、そのために彼女の行動が整合性の取れないモノになっている。

っていうかさ、まゆが記憶障害を知っていることを隠しておく必要性が、そもそもあるのかと。そこは彼女の使い方を少し工夫するだけで、彼女が知っていることを最初から観客に明かして話を進めることも出来たんじゃないかと。
あとさ、友人に焚き付けられたとは言え、まゆが酷い言葉を浴びせたせいで香織はトラックにひかれて記憶障害になっているわけで。
そういう事情を考えると、町や祭りの会場で普通に声を掛けているけど、まずは謝罪しろと。せめて、もう少し申し訳なさそうな態度を取れと。
何だか、好感の持てない奴らばかりが出て来る話になっちゃってるぞ。

香織は事故の日の記憶を取り戻した途端、祐樹が優しく「俺が藤宮さんを守るから」と言っているのに、それを完全に無視して「一くんに会いたい」と口にする。
目の前で自分を慰めてくれている相手がいるのに、ガン無視は酷いだろ。
過去を思い出しても、少なくとも数日間における祐樹の記憶はあるはずだし、日記を読んで彼との関係も理解しているはずでしょ。そっちへの気遣いとか遠慮とか無いのかよ。
どいつもこいつも、好感度を自ら下げていく。
あと、謝罪を受けて事故の記憶を取り戻したのなら、もう記憶障害は治ったんじゃないのか。その後も「高校で知り合った相手のことは1週間で忘れる」という症状が続くのは、ちょっと解せないぞ。

終盤、香織は祐樹が分厚い本に描いていたパラパラ漫画を見る。そこには出会いからの経緯が描かれており、それで香織は祐樹との関係を思い出す。
ここはクライマックスだし、感動で観客の涙を誘うことが必須と言ってもいいようなシーンだが、残念な描写になっている。
まず根本的な問題として、「祐樹が漫研で漫画を描いていることのアピールが弱すぎる」ということが挙げられる。
彼の漫画アピールって、分厚い本を借りている理由を後輩部員に語るシーンぐらいでしょ。ホントに漫画を描くのが好きなら、図書室の本以外にも漫画を描いているんじゃないかと。
暇さえありゃ漫画を描いているぐらいでもいいのに。恋愛劇を描くのに精一杯で、そっちが疎かになっているのよね。
あと、そこはパラバラ漫画だけで表現した方がいいはずで、そこに「今までのシーン」を重ねるのは余計だわ。

(観賞日:2018年6月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会