『ISOLA 多重人格少女』:2000、日本
1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起きた。他人の考えや過去を読み取るエンパス能力を持つ賀茂由香里は、自分でも何か出来ることがあるのではないかと考え、西宮にやって来た。雨の夜、彼女は犬に吠えられている少女を見掛けた。だが、少し目を離した隙に少女の姿は消えた。そして由香里は、犬の無残な死体を発見した。
避難所でボランティアに参加した由香里は、被災した老人が別のボランティアに乱暴な振る舞いをする様子を目撃した。由香里はエンパス能力によって、老人が戦争で亡くなった友人への罪悪感に苦しんでいることを知り、彼を慰めた。
高校で心理カウンセラーをしている野村浩子は、由香里を下宿に連れて行った。浩子は由香里に、多重人格の少女が描いた絵を見せた。翌日、浩子が勤める高校に出向いた由香里は、その少女・森谷千尋と会った。彼女は、犬に吠えられていた少女だった。
その夜、由香里は再び千尋を見掛けるが、彼女の態度は昼間とは全く違っていた。由香里は、千尋に13人の人格があることを知った。千尋が書いた人格関係の図表には1つだけ、“ISOLA”というアルファベットの名前があった。千尋は、そこに「磯良」と書き込んだ。浩子によれば、それは雨月物語に登場する女性の名前らしい。
学校に戻った千尋は、教師の前園をバカにするような態度を取ったため、平手打ちを食らわされ、階段から転げ落ちた。その夜、前園は自分の首を突き刺し、死亡した。一方、入院した千尋は、伯父の森谷竜郎によって強引に退院させられる。由香里は竜郎から、「お前は西宮大学の高野弥生の知り合いか」という言葉を投げ付けられた。
由香里は西宮大学に行くが、弥生は震災によって実験室で亡くなっていた。由香里は大学職員から、弥生が精神薬理の真部和彦と親しかったこと、彼女が裸の状態で発見されたことを聞く。実験室に行った由香里は、硫酸マグネシウムの袋を発見した。
由香里から話を聞いた浩子は、弥生が瞑想タンクに入っていたのではないかと告げた。由香里は弥生が幽体離脱の実験をしていたのだと確信し、真部に話を聞く。真部は震災の日、弥生の幽体離脱実験に協力していた。実験は成功したが、地震が発生したため、真部は瞑想タンクに入った弥生を置き去りにして逃亡したのだった。
由香里は、肉体を失った弥生の魂が、幽体離脱したまま生きていることを確信した。弥生の魂は千尋の中に潜り込み、13人目の人格となって現れたのだ。“ISOLA”とは「磯良」ではなく、瞑想タンクの「アイソトレーション・タンク」の最初の5文字だったのだ…。監督は水谷俊之、原作は貴志祐介、脚本は水谷俊之&木下麦太、脚本補は桑原あつし&畑島ひろし、プロデューサーは山田俊輔&井上文雄、エクゼクティブ・プロデューサーは原正人、撮影は栗山修司、編集は高橋信之、録音は山田均、照明は豊見山明長、美術は稲垣尚夫 福澤勝広、音楽はデヴィッド・マシューズ&見良津建雄。
出演は木村佳乃、黒澤優、石黒賢、手塚理美、渡辺真起子、山路和宏、寺島進、室田日出男、下元史朗、伊藤洋三郎、広岡由里子、木下ほうか、しみず霧子、佐久間哲、長曽我部蓉子、平沼紀久、川本淳一、伊吹今日子、貴志祐介、三池崇史、田口育実、酒井直子、岡村麻純、しらたひさこ、種子、翠美恵、七枝実、一条かおり、野貴葵、国本武春、森尚彦、森本奈美、琴波一寿、若林衛、谷原葉子、康喜弼、石田晃、林幸、西口真生ら。
貴志祐介の小説『十三番目のペルソナ ISOLA』を映画化した作品。
由香里を木村佳乃、千尋を黒澤優、真部を石黒賢、浩子を手塚理美が演じている。黒澤優は故・黒澤明監督の孫娘で、第2回ミス東京ウォーカーグランプリ受賞者。この映画、要らない要素が多すぎる。
いや、本当ならば、それは要らない要素ではなく、必要な要素であるはずなのだ。
ところが、それぞれの要素が上手く絡み合わずにバラバラに置かれているだけになっているので、必要な要素とは思えないのだ。まず、震災という要素が要らない。序盤、被災者がボランティアに対して「慈善の押し売りは迷惑だ」とケンカ腰で言い放つシーンがあるが、別に被災者の哀しみや不安が深く関わってくるわけでもないし、由香里や千尋に対して震災が大きく影響を与えることは無い。舞台設定だけならば、震災後の兵庫県である意味を感じない。
次に、エンパス能力も要らない。由香里の能力が意味を持って発揮されるのは、最初の老人を慰めるシーンぐらいだ(しかも、そこでは「老人は自殺した」というハテナマークのオチが待っている)。後は、能力があろうが無かろうが、物語の展開に大した差は無い。竜郎や真部の心を読み取るシーンがあるが、そこは「調査して明らかになった」という形でも処理できる。由香里が千尋にシンパシーを感じるとか、特殊能力者として苦悩するとか、そういう部分も、それほど深く掘り下げられているとは思えないし。
多重人格も要らない。千尋にはISOLA以外に12の人格があるが、その描き分けがキッチリとされているわけではない。様々な人格が自己主張したり、争ったりという様子も見られない。千尋とISOLA、この2人の人格だけがあれば充分だろう。浩子は会ったばかりの由香里に、千尋が多重人格だというプライバシーを平気で喋る。途中から多重人格じゃなくて幽体離脱が中心になるし、由香里と真部が千尋を探すと、なぜか彼女は瞑想タンクに入っていたりする。幽体離脱したISOLAが中に入っても、真部の様子は一向に変わらない。
もう、何が何やら、サッパリ分からない。原作は未読だが、どうやらボリュームたっぷりの話を無理に詰め込むため、かなり端折っているようだ。そのせいか、話が分かりにくい。ハサミを幾つも入れつつ必死で原作をなぞるより、思い切って幾つかの要素を削り落とした方が良かったのではないだろうか。
ところで、この作品、ホラー映画だったことに見終わってから気付いた。