『いらっしゃいませ、患者さま。』:2005、日本
近馬記念病院を出て行く医師の風間を、看護婦の長内和実が必死で引き留めようとする。和実は「先生まで辞めてしまったら、患者さんはどうなるんですか」と説得するが、風間は「知るかよ。あの院長が一人で見ればいいだろ」と吐き捨てた。一方、ストリップクラブの『ドリームハウス』には、大勢の客が集まっていた。支配人はスペシャルイベントの司会者として、「風俗界の救世主」「ショービズ界の風雲児」の異名を持つオーナーの恩地明郎を紹介した。
ステージに登場した恩地は、「ラスベガスでも絶賛された、天使が舞い降りるショー」と得意げに告げた。ワイヤーで宙吊りになった踊り子のサユリが、ステージへ降りて歌い始めた。近馬記念病院の院長を務める近馬仲喜は、特等席でショーを見物した。するとチンピラの石松がステージに乱入し、「口パクじゃねえか」と怒鳴った。出所したばかりの彼は、「留守中に人の女を引き抜きやがって」と恩地をに拳銃を向けた。撃たれた恩地は立ち上がり、それも含めてショーだという振る舞いを見せたが、実際には大量出血していた。
店に駆け付けた救急隊員の市原は、緊急手術が必要な恩地の搬送先に連絡を入れる。しかし最初の病院は「玉突き事故があったので医師が足りない」と拒否され、次の病院は居留守を使われた。苛立った市原は、刑事が事情聴取で近馬を連行しようとする様子を目撃した。彼は近馬を救急車に乗せ、近馬記念病院へ向かう。車で立ちはだかる2人の男に気付いた近馬は、怯えた様子を見せた。市原は構わずに救急車で突っ込み、車にぶつけて道を開けさせた。他に医師がいないため、近馬は夜勤の和実に手伝わせて恩地を手術した。
翌朝、ナースステーションに集まった看護婦は、和実、主任の尾上貴子、清水円、工藤明美、村越由佳の5名だ。貴子は和実たちに、2人の看護婦が辞めたことを知らせた。他に看護婦がいないため、和実は続けて日勤に入るよう指示された。医師は近馬しか残っていないが、大勢の患者が病院を訪れる。そこで近馬は適当に診察し、次々に患者を片付けて行く。青木のように文句を言う患者もいたが、2時間待ちは当たり前という状況の中、近馬は迅速に診察することしか考えていなかった。
三島ファイナンスの寺脇が、怪我をした2人の子分を引き連れて病院に乗り込んで来た。前夜の車に乗っていたのは、ヤクザである寺脇の子分2人だった。寺脇は近馬に、治療費と慰謝料は借金に上積みすることを告げた。近馬は死んだ父親に多額の借金があるのを知らず、病院と一緒に相続していたのだ。「払えないなら病院を空け渡せ。今月分の利子が払えない場合はジ・エンドということで」と寺脇は告げ、病院を立ち去った。
恩地は事務局長である山形知恵蔵の元へ行き、すぐに退院させるよう要求する。しかし却下され、和実が連れ戻しに来た。三島グループの会長である三島武雄は、寺脇から「時間の問題です」と報告を受けた。三島は近馬記念病院を乗っ取り、極道専門の病院にしようと考えていた。彼は具合の悪さを自覚しているが、大学病院にヤクザだという理由で診察や入院を断られていた。三島は「脅しても本気で治療する医者はいない」と考え、極道が満足な治療を受けられる病院を作ろうと決めたのだ。
和実は仕事に追われ、自分の余命が長くないと悟っている患者の中島和夫から「人に頑張れっていう顔じゃないよ」と言われるほど疲労が顔に出てしまう。近馬は恩地から早く退院させてほしいと言われ、「最低でも2週間は入院が必要だね」と告げる。山形は恩地の病室へ行き、「保険が利かないので今日までの費用を清算してほしい」と述べる。「傷害事件なので加害者に治療費を請求すればいい」と彼は軽く言い、107万円の治療費を請求した。VIPルームということで、差額ベッド代金の12万円も入っていた。
近馬は請求書を破り捨て、「それより、この患者さんの再入院先を探してくれ。病院は畳むことにした」と山形に言う。恩地が「その方が賢明だよ。俺だって意識があったら、こんな病院には来ないな。アンタには病院を経営する上での才覚がまるで備わってなさそうだしな」と語ると、近馬は「アンタに病院の何が分かる?」と腹を立てる。恩地が「俺が分かってるのは、俺がここの経営者なら、もっとマシな病院にしてるってことだな」と自信たっぷりに言うと、近馬は「じゃあ任せる。好きにしたらいい」と述べた。
恩地はスタッフを集め、「患者はお客様です。お客様は神様です」ょ合い言葉にサービス料で売り上げを伸ばすと宣言した。彼は看護婦のパンフレットを作成し、指名制のシステムを採用した。薬を待つ患者には、特急券を販売した。ナース経験のある一流ホステスのタクミ、ナオ、アイミを雇い、同伴人間ドックのオプション料金で積極的に稼ぐよう指示した。恩地は近馬に対しても、患者への接し方を変えるよう求めた。近馬は笑顔で患者を楽しませるよう指示されるが、なかなか上手く振る舞うことが出来なかった。
恩地は癌を切らせたら右に出る者がいないと言われる流れ医者の岡谷以蔵を呼び寄せ、「岡谷以蔵、入荷しました」のチラシを貼って宣伝した。若手医師の木南慎太を面接した恩地は、学生時代にディズニーランドのジャングルクルーズでバイトしていたという経験を買い、「必要なのは優秀な医者ではなく、医者の出来るジャングルクルーズのお兄さんだ」と告げた。恩地の指示を受け、ジャングルクルーズのアトラクションのように患者を迎えた。
ホステス3人組が同伴や指名のポイントを次々に獲得する中、既存の看護婦たちも「負けるわけにはいかない」と電話攻勢を掛けたり患者を誘惑したりする。そんな中、和実だけは「中身で勝負する」と主張し、お色気サービス合戦には加わらなかった。寺脇が病院に来たので、山形は今月までの利子を支払った。寺脇から報告を受けた三島は、厚生労働省監査官の沼田孝司に連絡を入れた。近馬記念病院について知らされた沼田は、「閉鎖させるのに何の問題も無い」と断言した…。監督は原隆仁、脚本は真崎慎&川崎いづみ&山口正太、企画・製作は鈴木光&川城和実&奥田誠治、プロデューサーは藤田義則&原田文宏&久保聡&水田伸生、撮影は上野彰吾、照明は赤津淳一、美術は小澤秀高、録音は林大輔、編集は田中愼二、音楽は大谷幸、音楽プロデューサーは長崎行男、エンディングテーマ『SAYONARA SONG』はHound dog。
出演は渡部篤郎、大友康平、原沙知絵、石橋蓮司、渡辺えり子(現在・渡辺えり)、石原良純、藤岡弘(藤岡弘、)、梨花、板谷由夏、菅野みずき、佐藤康恵、田中千代、池内博之、篠原ともえ、さとう珠緒、松重豊、村田充、原史奈、津田寛治、小日向文世、田山涼成、六平直政、螢雪次朗、有薗芳記、木下ほうか、正名僕蔵、飯田基祐、佐藤恒治、武発史郎、大倉孝二、井之上隆志、吉田朝、桜むつ子、小池章之、永堀剛敏、おのまさし、やべけんじ、長岡尚彦、島津健太郎、松島亮太、東山麻美、顔田顔彦、東俊樹、峯村淳二、真下有紀、村松利史、林田河童ら。
原隆仁監督が7年ぶりにメガホンを執った光和インターナショナル製作の映画。
この人は映画監督デビュー作である『バカヤロー! 私、怒ってます』以降、本作品までに7本の映画を撮っているが、1989年の『べっぴんの町』を除く6本が光和インターナショナル製作だ。
近馬を渡部篤郎、恩地を大友康平、和実を原沙知絵、山形を石橋蓮司、貴子を渡辺えり子(現在・渡辺えり)、沼田を石原良純、三島を藤岡弘(藤岡弘、)、タクミを梨花、円を板谷由夏、明美を菅野みずき、由佳を佐藤康恵、ナオを田中千代、風間を池内博之、青木を篠原ともえ、サユリをさとう珠緒、岡谷を松重豊、木南を村田充、アイミを原史奈、市原を津田寛治が演じている。この映画は、初期設定の段階で大きな違和感を抱かせる。
まず、恩地のキャラクター設定に違和感がある。
彼は勝手に「風俗界の救世主」「ショービズ界の風雲児」と名乗っているわけではなく、実際にそう呼ばれている設定のようだ。だが、それにしては、経営している店はストリップクラブだけ。
で、なぜか金持ちらしき大勢の中年男女が客として来ている。それも変だ。
繰り返すけど、ただのストリップクラブなんだぜ。ブルジョアに対する訴求力があるような、特別なショーをやっているわけではないんだぜ。そりゃあ、そんな「ちょっと内装を頑張っている程度ストリップクラブ」に金持ちのオッサン&オバサンを呼べるのなら、確かに恩地は「風俗界の救世主」「ショービズ界の風雲児」と言えるだろう。
だが、そこには何の説得力も無いのだ。
「そういう趣向を凝らせば、大勢の客が来るわな」と納得できるようなモノは何も無い。スペシャルイベントとして始まるショーにしても、ヒラヒラの服を着たサユリがワイヤーで宙吊りになってから口パクで歌うだけ。しかも脱がないし。
そんなモン、ストリップクラブで誰が見たがるんだよ。どうせ「ストリップクラブで大勢の客を集めるようなショーをやっている」という部分に説得力を持たせることなんて不可能に近いんだし、だから別の方法で恩地が「風俗界の救世主」と呼ばれていることをアピールすれば良かったのだ。
具体的には、彼が数多くの風俗店をオープンから手掛けたり、立て直したりしたことを示せばいい。
そこは「恩地が次々に風俗店を巡り、支配人に指示したり感謝されたりする様子を見せる」とか、「恩地を取り上げている風俗雑誌の記事を近馬が読む」とか、色々な見せ方があるだろう。
ともかく、「質」より「量」で恩地の才能をアピールした方が良かったと思うよ。近馬と近馬記念病院の設定も、やはり違和感に満ちている。
「多額の借金を抱えて給料が支払えず、だから医者と看護婦が次々に辞めていく」という設定なのだが、それにしては大勢の患者が押し寄せている。
医師や看護婦が不足すれば満足な診察も受けられないのだから、患者も減っていくのが普通じゃないのか。それとも、その辺りには他に病院が無いのか。でも市原が恩地の搬送先を探す時に、他の2つの病院に連絡していたよな。
ド田舎ならともかく、そうでもなさそうだから、他にも病院はあるでしょ。それと、医師不足で満足な診察を受けられないのなら、もっと文句を言う患者が多く出てくるはずじゃないかと。なぜか、適当な診察でも受け入れちゃってる患者が大半なんだよな。
あと、そんだけ大勢の患者が押し寄せているのに、今月分の利子も払えないってのは変だろ。
っていうかさ、そもそも父親は、なんで多額の借金を背負ったんだよ。そこの説明って、最後まで無いんだよな。
それが無くても物語に大きな影響はないけど、やっぱり説明しておくべき事柄だと思うぞ。それと、そもそも「多額の借金を抱えて給料が支払えず、医者と看護婦が次々に辞めていく。大勢の患者が押し寄せるので、近馬と看護婦は仕事に追われる」という状況だったら、恩地は要らないでしょうに。
恩地は「アンタには病院を経営する上での才覚がまるで備わってなさそうだしな」と近馬に言うけど、あれだけ大勢の患者が来ているんだから、経営としては問題が無いはずなのよ。問題は、多額の借金を父親から相続してしまったということだけだ。
借金が無ければ給料を支払うことが出来るから、医師や看護婦も辞めない。そうすれば、満足な診察も出来る。
つまり、全ては多額の借金が問題なのであり、経営のやり方に問題があるわけではないのだ。「恩地が風俗界のやり方を病院経営に導入する」という話にしたいのなら、それを持ち込む病院は「経営不振で患者が全く来ない」という設定にすべきなのだ。既に大勢の患者が来ているのなら、そこに新しい経営方法を持ち込む必要など無い。
映画として描きたいことと、近馬記念病院の初期設定に、大きなズレがあるのだ。
「近馬は医師としては優秀だが、経営が下手なので閑古鳥が鳴いている」という設定にしておかないと全てが上手く転がらないことぐらい、ちょっと考えれば誰だって分かることでしょうに。
製作サイドが、このシナリオでゴーサインを出した理由が分からん。みんな病んでいたのか。三島がヤクザということで診察や入院を断られ、他のヤクザたちのことも考えて極道専門の病院を作ろうとしていることを彼の登場シーンで明かしているのは、得策とは言えない。
それは観客が三島に共感したくなる部分を作ってしまう描写だ。
そうではなく、そこでは「病院を私欲のために乗っ取ろうとしている悪党」という風に見せておいて、後になって「実はこういう事情で極道専門病院の必要性を考えていて」という理由を明かした方がいい。
最初は卑劣な悪党として見せておかないと、話として上手く機能しない。恩地はサービス業のやり方を病院経営に取り入れるが、それはアイデアとしては、意外に悪くない。
ただ、やってることの大半は「病院のキャバクラ化」なので、結局はエロに頼っているだけだ。
それ以外にも、薬を待つ客に特急券を配るとか、ジャングルクルーズのように患者を迎えるとか、そういった描写はあるものの、オマケ程度。
看護婦がキャバクラのホステスのように振る舞い、お色気で患者をその気にさせて指名や同伴で金を貰うという描写が圧倒的だ。恩地は病院経営に乗り出す前に、現在の病院が報酬を得るための医療システムを「保険料の水増し」「製薬会社との癒着」「余分な薬を大量に出して儲けている」批判している。
でも、彼がやっていることが「サービス業の手法を病院経営に取り入れる」ではなく「病院のキャバクラ化」だと、その批判もバカバカしいモノになる。「お客様を楽しませなきゃ」と言っているけど、楽しませる方法がエロばかりなので、ヌルすぎる艶笑コメディーになってしまう。
しかも、看護婦がお色気サービスを始める設定ではあるけど、脱いだりするわけではないので、エロ映画としての実用性は皆無だし。
そっちでも振り切ってないのよ。サービス業の中で風俗業に特化しても、その精神やエッセンスだけを病院経営に取り入れるのであれば、また違った形になっただろう。 そこを「口移しバリウム」とか「ひざ枕点滴」といった、高級クラブではなく安手のキャバクラっぽい接客方法を直接的に取り入れるので 、おのずと深みの全く無い作品になる。 別に深みが無くても、コメディー映画として面白ければいいんだが、ただ安っぽいだけだし。
(観賞日:2014年7月22日)