『犬神の悪霊(たたり)』:1977、日本

東日開発でウラン技師をしている加納竜次は、仲間の西岡、安井と共にジープで山奥へやって来た。山道で休息を取った竜次は、全裸になって川に入る剣持麗子と垂水かおりの姿を目撃した。竜次は安井に声を掛け、もっと近くで見ようとする。しかし竜次は覗きに気付かれ、川に落ちてしまった。再びジープを走らせた3人は、機械がウランに反応しているのを見て喜んだ。直後、ジープは小さな祠を壊すが、3人は全く気に留めなかった。かおりの息子・勇は飼い犬の太郎を連れて、近くを散歩していた。その太郎が突如として走り出し、ジープにひかれて死んだ。駆け付けた勇は太郎を抱き締めて泣き、ジープで去る竜次たちを睨み付けた。
半年後、晩秋。竜次は麗子と結婚した。竜次に恨みを抱く勇は、パチンコで三々九度の盃を撃ち落とした。かおりは祝宴に出られなくなり、勇を叱責した。どうせ垂水家は嫌われ者だから行かなくていいと勇は告げ、太郎を殺したのが竜次たちだと話す。そこへ村の若者たちがバイクで現れ、2人を馬鹿にして折詰を投げ付けた。かおりは勇を説き伏せ、東京へ向かう麗子の見送りに行く。しかし麗子の父・剛造は、かおりに気付くと車のスピードを上げた。
東京では披露宴が開かれ、スピーチを求められた西岡はウラン鉱山を発見した時のことを話し始めた。だが、途中で様子がおかしくなり、何かを振り払おうとするように暴れ始めた。後日、西岡はビルの屋上から転落死した。夜、安井は竜次を助手席に乗せ、酔っぱらって車を暴走させた。立ち小便をするために車を停めた安井は、野良犬の群れに追われる。車内で転寝していた竜次は悲鳴で目を覚まし、安井の元へ行こうとする。しかし野良犬が走って来たため、慌てて車に避難した。安井は群れに襲われ、無残に食い殺された。
安井の葬儀の日、麗子は村で何があったのか竜次を問い詰めた。竜次は彼女に、小さな祠をジープで引っ掛けたこと、勇の犬をひき殺してしまったことを明かした。すると麗子は「犬神よ、犬神の祟りだわ」と口にした。麗子が竜次と共に帰宅すると、かおりから手紙が届いていた。その夜、竜次は西岡のようにビルから転落死する悪夢にうなされた。麗子が手紙を読むと、「今だから言うけど、私も加納さんのことが好きだったのよ」と冗談めかして記されていた。
麗子は具合の悪そうな竜次を見て、「貴方には犬神は憑かせない。どうしても憑くっちゅうなら、ウチに憑けばいいんじゃ」と呟いた。彼女は西岡に、古くから家に伝わるお守りの首飾りを付けさせた。夜中に目を覚ました西岡は、隣の部屋で麗子が手紙を何度も突き刺して「かおり、やっぱりアンタ方は犬神筋じゃったのね。その祟りで人が続けて死んでしもうたわ。ウチの竜次には手を出さんで」と言っている鬼気迫る様子を目撃した。
竜次は麗子から、妊娠したことを電話で知らされる。彼が帰宅すると、麗子は犬の形をしたおくるみを編んでいた。狂ったように笑う麗子を見た竜次は、彼女を医者に診せた。麗子の母である佐和は「犬神に憑かれたんじゃ」と言うが、竜次は全く信じなかった。竜次は麗子を精神病院に入院させるが、一向に症状は回復しなかった。翌年春、竜次は麗子を故郷の村へ連れて行く。麗子の妹である磨子は、剛造に「お姉ちゃんを土蔵に入れるの、ウチ、嫌よ」と告げた。
剛造は麗子のために、村の祈祷師と霊媒を呼び寄せた。霊を降ろした霊媒は祈祷師の質問を受け、「垂水家から来た」「お前の夫が祠を壊した。犬を殺した」と語った。「お前が来る所ではない。帰れ」と祈祷師が呪文を唱えると、霊媒は「赤飯(あかめし)をくれ。赤飯をくれたらいんでやる」と告げて気絶した。竜次や剛造たちは、赤飯のおにぎりで麗子の体を撫で回した。その後、男たちは垂水家へ行き、赤飯を投げ付けた。主人の垂水隆作と妻の君代、勇は家の中で、それが終わるのを待つしか無かった。
剛造たちは帰宅し、祈祷師は「どうやら憑き物は落ちましたな」と言う。しかし、どこからか不気味な笑い声が聞こえ、眠っていた麗子が体を起こした。彼女は犬神の声で、「わしゃあ、そげえ簡単にお前から離れんきのお。わしゃあ、お前が羨ましい。わしもお前の夫が好きじゃったんじゃ」と述べた。麗子は「お前がシロ、わしゃあクロ。そげんこつ、誰か決めたんじゃ。お前だけが、たった一人の友達じゃ思うち、心の底じゃあわしらのことを。わしゃあ許せんのじゃ」と恨みを吐露した。
麗子は竜次に抱き付いて唇を奪い、「とうとうお前の夫を取っちしまうたわい」と不気味に笑った。村の男たちは棒で麗子を殴り付け、彼女を縛り上げた。男たちが寝静まった後、竜次は物音で目を覚ました。彼が雪の積もる庭へ出ると、縄から抜け出した麗子が倒れていた。竜次は慌てて駆け寄るが、麗子は彼の腕の中で絶命した。深い絶望感を抱えて山に入った竜次は、新たに設置されている祠を発見した。彼は怒りに任せ、祠を破壊した。目撃した勇が止めに入ると、竜次は彼を突き飛ばした。
磨子が泣きながら制止すると、竜次は落ち着きを取り戻した。彼が脱げた靴を渡そうとすると、勇は走り去ってしまった。竜次は勇を追い掛け、垂水家に辿り着いた。洗濯物を干していたかおりと遭遇した竜次は、靴を手渡した。かおりが逃げるように家へ入り、隆作が外へ出て来た。竜次は「僕の妻は犬神に憑かれて死んだ。犬神筋っていうのは、人に何をするんだ?なぜ罪も無い者に呪いを掛けるんだ」と、激しい怒りをぶつけた。竜次は同情心を見せつつも、「今度のことではウチの娘の被害者じゃきな。憑き物騒ぎの後で、嫁いだ家から追い出されちの」と述べた。
その夜、竜次は磨子から、「垂水家の人たちは悪い人じゃないよ。あん人たちがお姉ちゃん呪い殺したりせんわ」と言われる。彼女は「勇のお父さんは光る石を取っちゃいけん言うんでしょ。あれは原子爆弾を作る素になるんでしょ。それじゃったら土の中に静かに眠らせておいた方がいいのよ」と話す。後日、竜次は土地の所有者である剛造たちは、ウラン鉱山へ村長を案内する。そんな彼らは、採掘用ドリルの暴走で作業員が死亡する事故を目撃した。
竜次は山頂から硫酸を注ぎ込み、ウランを採取する方法を提案した。彼は硫酸が地下水に紛れ込んで村の飲料水を汚染する可能性を懸念するが、所長の梶山は「地理的には絶対に大丈夫だ」と告げた。その計画は成功し、竜次たちは乾杯した。村祭りの日、かおりは若者たちに襲われた。崖から激流に飛び込んだ彼女を、川辺で寝転んでいた竜次が見つけて救助した。若者たちは剛三の元へ行き、竜次がかおりに取り憑かれたと吹き込んだ。
竜次が垂水家で風呂に入っていると、かおりが来て背中を流した。村の男たちは垂水家に押し掛け、「犬神封じ」と称して肥やしを外壁に投げ付けた。竜次は腹を立てて出て行こうとするが、かおりや隆作が制止した。垂水家で泊めてもらった翌朝、竜次が立ち去ろうとすると、かおりが忘れ物を持って追い掛けて来た。かおりと見つめ合った竜次は、彼女に接吻する。かおりは竜次に抱き付き、「前からアンタが好きじゃった」と告白した。その途端、竜次は彼女を振り払い、「麗子は俺と君がこうなることを」と呟いて逃げ出した。
山道を走った竜次は「麗子」と叫んだ直後、大量の魚が裏返って死んでいるのを目にした。彼が急いで村に戻ると、磨子の祖父母が死んでいた。剛三は竜次に「井戸の水に毒が入れられたらしい。あっちでもこっちでも人が死んでおる」と言い、昨夜の仕返しに垂水がやったと村人たちが思っていることを教えた。井戸水を調べた竜次は、鉱山で使った硫酸が混入したことを突き止めた。しかし梶山は、その事実を公表するなと命じた。そこへ磨子が駆け付け、若者たちが垂水家の襲撃に向かったことを竜次に知らせる…。

監督は伊藤俊也、脚本は伊藤俊也、企画は天尾完次&安斎昭夫、撮影は仲沢半次郎、録音は小松忠之、照明は小林芳雄、美術は桑名忠之、編集は戸田健夫、擬斗は日尾孝司、人形は吉徳大光、舞踏制作は早川洋子、音楽は菊池俊輔。
出演は大和田伸也、山内恵美子(山内絵美子)、長谷川真砂美、泉じゅん、小山明子、岸田今日子、室田日出男、鈴木瑞穂、三谷昇、小野進也、白石加代子、三重街恒二、川合伸旺、小林稔侍、相馬剛三、畑中猛重、伊藤高、河合絃司、青木卓、望月天、町田政則、宮地謙吾、松本智正、関山耕司、団巌、高月忠、久地明、新宅剛、加藤淳也、清水昭夫、亀山達也、木村修、山浦栄、佐川二郎、溝山繁、長尾信、平井亜矢子、野平ユキら。


「女囚さそり」シリーズの3作目までを手掛けた伊藤俊也が監督&脚本を務めた作品。
『オーメン』などのヒットで起きていた恐怖映画ブームに便乗しようとした東映が、前年の東宝配給作品『犬神家の一族』を意識したようなタイトルを付けて製作した。
竜次を大和田伸也、かおりを山内恵美子(山内絵美子)、磨子を長谷川真砂美、麗子を泉じゅん、佐和を小山明子、君代を岸田今日子、隆作を室田日出男、剛造を鈴木瑞穂、駐在を三谷昇、西岡を小野進也、霊媒を白石加代子、青年団長を小林稔侍、安井を畑中猛重が演じている。

伊藤監督は『女囚さそり けもの部屋』をヒットさせたにも関わらず、続編要請を拒否してから4年間も映画を撮らせてもらえなかった。この映画で久々に声が掛かったわけだが、今回は完全にコケてしまい、5年後の『誘拐報道』まで干される結果となった。
一応はオカルトの要素を中心に据えているのだが、とにかく話がバラバラになっており、コケたのは当然だろう。ただし現在では、カルト映画として一部マニアの間では有名な作品になっている。
だけど、カルト映画として楽しめるほどの支離滅裂っぷりや奇妙奇天烈っぷりは感じない。期待したほど狂った作品ではないなあ。単純に、出来の悪い映画という印象だ。
終盤のシーンにはクレイジーなパワーを強烈に感じたけど、全体としては大したことが無い。

冒頭では麗子&かおりが全裸になって川に入り、結婚披露宴の後には怯えた麗子がシャワーを浴びる竜次に抱き付いてオッパイをさらし、 おにぎりで大勢の男たちに体を撫で回された麗子は悶絶しながらオッパイをさらすというエロ描写が盛り込まれている。
この頃の東映はピンク映画も作っており、山内恵美子と泉じゅんはそっち系の映画にも出ていた人なので、そういう意味では特に意外性があるわけではない。
ただ、この映画で果たしてエロ描写が必要なのかと考えると、全く必要性は無い。
余計なサービス精神が、ただでさえ混沌としている映画を、ますます混沌とさせることに繋がっていると言えなくも無い。

鈴木清順を意識したわけでもないんだろうが、伊藤俊也は本作品でシーンを飛ばしまくる。
鈴木清順監督が多用したのはジャンプ・カットだが、この映画の飛ばし具合は、それとは比較にならないぐらいスゴい。大胆にジャンプするので、話の流れが分からなくなるほどだ。
もはやジャンプ・カットと言うより、単に必要なカットまで落としちゃってるだけにしか思えない。
っていうか、実際に話の流れが不鮮明になっているんだから、それが意図的であれ結果的であれ、ダメなモンになってるってことだよな。

まず序盤、覗きがバレて川に落ちた竜次が飛び出すと、カットが切り替わってジープが走っている様子が写る。
つまり、もう竜次たちは川を離れているわけだ。
普通なら、そこで麗子たちとの会話シーンを入れるだろう。彼女たちが1シーンだけのチョイ役ならともかく、それ以降も登場する主要キャストであることを考えれば、尚更のことだ。しかも、それから半年後には竜次と麗子が結婚しているんだぜ。
とういう経緯で2人が親しくなり、愛を育んだのか、サッパリ分からんぞ。ジャンプしすぎだろ。

披露宴で西岡が異常な行動を取ったのだから、翌日以降にでも竜次や安井が彼と接触して「あの時はどうしたのか」と質問するような描写があっても良さそうなものだが、そういうのは無い。
悪夢に怯えた麗子がシャワーを浴びる竜次に抱き付くシーンの後、西岡はビルの屋上から転落死している。
で、転落死した途端にカットが切り替わり、「西岡のバカヤロー」と言いながら酔っ払い運転をする安井と竜次の様子が写し出される。
それはテンポがいいとか小気味よいというんじゃなくて、雑だわ。

麗子は具合の悪そうな竜次を見て、「貴方には犬神は憑かせない。どうしても憑くっちゅうなら、ウチに憑けばいいんじゃ」と呟いて、かおりから届いた手紙をグシャッと乱暴に丸める。
しかし、その時点では手紙の内容に対して彼女が怒りを示しているわけでは無いので、そこで小道具のように使うのは引っ掛かる。
その後に麗子が手紙を突き刺し、かおりへの怒りを吐露するシーンがあるので、やはり手紙を読んで激怒していたわけだが、だったら手紙を読んだ時点でその感情を表現すべきだろう。
手紙を読むシーンから、怒りに我を忘れるシーンまで、間隔を空けるのはテンポが良くない。

麗子は妊娠したと言い出して犬のおくるみを編み上げ、狂ったように笑うのだが、それが「妊娠したという思い込み」であることが今一つ分かりにくい。
あと、その発狂が犬神の祟りなのか、かおりへの怒りや竜次を独占したい一心から正気を失ってしまったのかも、イマイチ分からない。
どっちにしても、いきなり発狂しているので、色んな手順をすっ飛ばしていると感じる。仮に犬神の祟りだとすると、どのタイミングで憑依されたのかがサッパリ分からない。
それに、麗子が憑依されるのは筋違いだろ。そりゃあ本人は「どうしても憑くっちゅうなら、ウチに憑けばいいんじゃ」と言ってたけど、犬神を怒らせるようなことを彼女はやっていないわけで。
それと、自分で「ウチに憑けばいいんじゃ」と強気に言っていたんだから、憑依されたのであれば、それを甘んじて受け入れるべきだろう。そして竜次に「貴方のためなら私が犠牲になる」という旨のことを言って、そんな彼女を救うために竜次が行動する、という流れにすべきだろう。

精神病院で麗子の症状が回復しない中、「早くここから出して」と彼女が竜次に懇願すると、いきなり翌年春のシーンに飛んでいる。それまでの期間、2人が何をやっていたのかサッパリ分からない。
っていうか、なぜ竜次が彼女を村へ連れて行くのかも分からん。最初から「村で祈祷してもらおう」とか「麗子に憑いた霊を祓ってもらおう」という目的があるならともかく、そういうことではないし。
そもそも、垂水家がどういう家系なのかという説明が著しく不足している。
村の嫌われ者であること、犬神筋と言われる一族であることはセリフによって分かるけど、その程度だ。もうちょっと詳しい説明が必要だろう。

それと、麗子に憑依した犬神は「彼女が羨ましい。竜次横取りしたい」という欲望を語っているけど、それって「かおりの本音」という風にしか受け取れないのよね。
だとすると、その段階で「かおりの呪いではないか」という疑惑が示され、それを使った展開があっても良さそうなものだが、なんにも無いのね。
っていうか、「竜次が祠を壊して犬を殺したから憑依した」と言っておきながら、「竜次をモノにしたい」と言い出しちゃうと、憑依した目的がブレちゃうでしょ。恨みを晴らすためか、竜次を横取りするためか、どっちなのかと。
そこは「最初に霊媒が語ったのは憑依した芝居をしていた本人のインチキな言葉であり、夜に目を覚ました麗子が語ったのは本物の犬神が語った言葉」と解釈すれば、憑依の目的がブレているという問題は解決する。 ただし、それは勝手な解釈であり、実際にそういうことだったとしても説明が不足している。

麗子が死んだ後、竜次が祠を見つけて破壊するのは「なんでやねん」と言いたくなる。
そもそもテメエが祠を壊したことが全ての始まりであって、祠に八つ当たりしてどうすんのかと。そんなことをしたら、また祟りが復活するだけだ。
で、落ち着いた後、祠を壊したことを反省して修復しようとするとか、「ヤバいことをしてしまった」と焦るとか、そういうことも無くて、それどころか麗子が祟りで死んだことさえ軽い出来事だったかのように、ウラン鉱山の様子が写し出される。
だからさ、シーンの繋ぎ方が雑なのよ。

採掘用ドリルが暴れて作業員が死亡するのだが、「それも犬神の祟り」と匂わせるような台詞や描写は無い。
っていうか、そこも犬神の祟りじゃないと話の流れとしておかしなことになるんだけど、祟りだとすると、それはそれで疑問が生じる。それは、「なぜ犬神はウラン鉱山の作業員まで祟るのか」ってことだ。それは最後まで見ても、全く分からない。
で、作業員が死亡するシーンに続いて、竜次が山頂から硫酸を注ぎ込み、ウランを採取する方法を提案する。
なぜ急にそんなことを言い出すのか、繋がりがサッパリ分からない。
どうやら撮影したシーンをカットしたせいで繋がりが変になったらしいけど、そういうシーンをカットしちゃマズいでしょ。

かおりは若者たちに殺されてしまい、「麗子が羨ましい、竜次が欲しい」という、かおりを連想させる犬神の欲求が何だったのかは全く分からずじまいになっている。
それ以前の問題として、「かおりが竜次に惚れている」「麗子はかおりに竜次を奪われることを不安視し、犬神にお願いまでする」という描写がある中で、その筋を放り出したまま彼女が惨殺される展開に持って行くというのは、どういうつもりなのかと。自分で用意した流れや伏線を、伊藤監督は途中で忘れちゃったのか。
「犬を殺された勇が竜次を恨んでいる」という筋も、いつの間にかボンヤリしちゃってるのね。新しい祠を壊したり投げ飛ばされたりしたことで、さらに怒りや恨みが強くなったはずの勇は、竜次が入浴するシーンでシャボン玉を作ると笑顔さえ見せている。でもハッキリとした和解のドラマがあるわけではなく、勇も若者たちの襲撃で死んでしまう。君代は特に何も無いまま、やはり襲撃で殺される。
ここは完全に岸田今日子の無駄遣い。

終盤、「土蔵には犬神に憑かれた剣持家の長男・真一が隔離されていた」ということが唐突に明らかとなる。
一応、磨子の「お姉ちゃんを土蔵に入れるの、ウチ、嫌よ」というセリフがあったので、後から急に思い付いた展開ではなさそうだ。
でも、伏線らしい伏線は何も用意されていなかったので、やはり唐突すぎる印象は否めない。
っていうか、麗子の時は祈祷師に頼んでいるんだから、真一も祈祷師を呼べば良かったんじゃないのか。もし真一の時に祈祷師を呼んでも効果が無かったのだとすると、それが分かっていながら麗子の時にも祈祷師を呼ぶのは行動として筋が通らないし。

剛造は撃たれた真一の持っていた刀に刺されて命を落とす直前、竜次に「磨子を頼む」と告げる。
そこでは強い口調で「はい」と答えた竜次だが、磨子を捜そうともせず、酒を飲んで潰れてしまう。
そのくせ、犬神が磨子に憑いて「お前はこの家から全てを奪う。呪われた男じゃ。早ういね。いなんと死ぬぞ」と言うと、「出て行かんぞ。まだ磨子が残っている。俺の可愛い磨子を取り戻すまでは出て行かん」と拒絶する。
いつの間に竜次は磨子に対する強い愛情を抱き、彼女を守る使命感に目覚めたんだよ。

終盤は話を盛り上げなきゃダメだろうと思ったのか、赤い襦袢がタンスから這い出して磨子に覆い被さるシーンでは急にチープな特撮が使われ、犬神に憑依された磨子が竜次を襲うシーンではアクション的な要素も盛り込まれる。
スタント・ダブルの磨子は軽やかな動きで飛んだり跳ねたりしつつ、竜次と格闘する。反撃に出た竜次は磨子の首を絞め、彼女の顔が瞬間的に元へ戻ったのを見て「もうすぐだぞ」と言う。でも、そのまま首を絞め続けるので、磨子は死んでしまう。
そりゃそうだろ。
なんだ、そのアホすぎる展開は。

「お前まで俺を見捨てるのか」と自分が殺したことを棚に上げたような発言をした竜次は、「麗子、お前だけじゃない、磨子までこの手に掛けてしまった」と、今度は自分が手を掛けていない麗子を殺したかのような発言をする。そんな彼が釣瓶の縄を首に巻き付けて庭の井戸に身を投げると、飛び散った水を浴びた磨子が蘇る。
いやあ、見事にワケが分からん展開だ。
そんでラスト、野焼きにされている棺に磨子が「お兄ちゃん」と呼び掛けると、死体の竜次が棺を壊して上半身を起こす。そして再び「お兄ちゃん」と呼び掛ける磨子を見つめたまま炎に包まて顔が溶けて行き、「完」の文字が画面に出る。
いやあ、見事にワケが分からんラストだ。

(観賞日:2014年11月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会