『インスタント沼』:2009、日本

沈丁花ハナメの朝は、シオシオミロで始まる。実家に戻った彼女は、母の翠から「間が悪い。なんでも5秒遅い。肝心なことが見えて いない」と言われる。翠は「アンタのお婆ちゃんの家には主の沼があったのよ。たまには有り得ないものを見なさい。今そこの庭で河童が ウロウロしてるけど、アンタには見えないんでしょ」と告げる。ハナメは庭に視線をやるが、河童は見当たらなかった。
アパートに戻ったハナメは、ジリ貧の人生について考えた。彼女が8歳の誕生日に、父は家を出て行った。父は楽な暮らしがしたいために 、金持ちの女と再婚したらしい。ハナメは腹いせに、父から貰った物を全て近くの沼に捨てた。最後に彼女は、黒い招き猫を捨てた。その 祟りか何かではないかと、ハナメは考えた。蒲公英出版社の雑誌「HATENA」の編集長をしているハナメは、それを編集部員の立花まどかに 話した。その沼は埋め立てられ、今は空き地になっている。
ハナメは西大立目部長から呼び出される。売り上げが全く伸びないため、「HATENA」に廃刊の可能性があると言われた。編集部で立花たち が占いの話をしていると、ハナメは「そんなもの信じない」と強い口調で言う。「じゃあハナメさんは何を信じているんですか」と立花に 訊かれたハナメだが、まるで聞いていなかった。彼女は自分の野望について、妄想を膨らませていた。
彼女には、雨夜風太という好きな相手がいる。かつては雑誌の写真部にいたが、今はミラノでカメラマンとして活動している。ハナメは 静電気がきっかけで彼のことが好きになった。あまり好きでもないタイプと握手する時は静電気が起きるのだが、彼とは全くパチッと 来なかったので、運命を感じたのだ。今の雑誌が成功したら、いずれは海外の情報を扱うファッション雑誌を立ち上げ、イタリアで雨夜と 結婚生活を送るというのがハナメの野望である。
ハナメはライターの市ノ瀬千と会い、一緒にラーメン屋へ赴いた。部長から会社に呼び戻されたハナメは、「次の号は話題性のあるものに しないと」と言われる。都会派の女性向きの雑誌なのに、立花が心霊特集を提案し、部長が賛同した。ハナメは反対したが、心霊特集を することになった。彼女はカメラマンの氏家、スタイリストの浦田、モデルのクララと共に、心霊スポットの取材に行く。宿泊したホテル 他の3人が不気味なものを感じたのに、ハナメは何も感じなかった。
呪いの沼の取材に赴くと、クララが異様なものを感じて怖がった。ハナメは「ビクビクしてるんじゃないよ」とバカにして、沼に枝を 投げ込んだ。すると投げ込んだ枝が戻ってきたため、氏家たちは「祟りだ」と怖がって逃げ出した。「HATENA」は長期休刊が決定し、腹を 立てたハナメは会社を辞めた。あんまりツイていないので、ハナメは今さら黒招き猫の救出を試みたが、空き地を掘っても出て来なかった 。人生をリセットしようと思った彼女はリサイクル業者の東、川端、大谷を呼び、所持品を全て売却した。
ハナメはペットのウサギ・権三郎の恋人を見つけてやろうと思い立ち、草刈正の営む農場へ行く。しかし何匹ものウサギの中に紛れて しまい、どれが権三郎か分からなくなった。そこへ警察から電話が入り、母が万年池に浮かんでいるところを発見されたと知らされた。 ハナメが病院に向かうと、翠は意識不明の状態となっていた。ハナメは刑事の植木と隈部から、池の中からキュウリを結び付けた釣竿を 発見したことを知らされた。ハナメは、母が河童を捕まえにいったと察知した。
池の中からは、30年近く前に盗まれたポストも発見されていた。水浸しの封筒やハガキの中に、植木は「沈丁花ノブロウ様」という宛名の 手紙を発見していた。手紙の差出人は翠だった。ハナメは手紙を渡され、読んでみた。そこには、ハナメが父親の娘ではなく、その前に母 が交際していたノブロウの子供だということが記されていた。調べてみると、ノブロウは翠の遠い親戚に当たる人で、一族の鼻つまみ者 だったらしい。ハナメが生まれる1年ほど前から、行方不明で音信不通だという。
ハナメが手紙にあった住所を訪れると、そこには怪しげな骨董屋「電球商会」が建っていた。そこの店主・電球が、ノブロウだと名乗った 。落胆して早々に立ち去ろうとしたハナメだが、電球に呼び止められる。インチキな商売をして嘘ばかりつく電球の態度に、ハナメは 苛立った。二度と会わないでおこうと決めたが、携帯を忘れて取りに行くハメになった。食堂に誘われてオムライスを食べていると、電球 と親しいパンクロッカーのガスがやって来た。彼は2人を見て、「似てるなあ」と言う。
翌日、ハナメが骨董屋を訪れて電球やガスと話していると、飯山和歌子という女性が訪れた。美女の訪問に頬を緩ませる電球に、和歌子は 「ツタンカーメンの占いマシンってどこかにありませんか」と言う。20年以上前にあった機械だという。和歌子が少女の頃、「魔の素」と いうバーの前に置いてあった。それは将来の結婚相手の顔を占うという機械だった。出て来た写真を友人に見られたくなくて、和歌子は 食べてしまった。それ以来、彼女は独身を通している。結婚を申し込まれたこともあったが、相手の顔がその時の写真と同じかどうか気に なってしまうのだという。
電球は二つ返事で、占いマシン探しを引き受けた。ハナメは一ノ瀬に情報を求め、泰安貿易という会社が輸入していたと知る。彼女はガス と共に泰安貿易を訪れ、亀坂社長に機械が残っていないか尋ねるが、もう無いという。その帰り、ハナメは折れ曲がった釘を取り出し、 「この良さが分かる人は信用できる」と告げた。少女の頃、彼女は納屋で折れ釘を見つけて学校で自慢したが、誰もいいと言わなかった。 最初に「素敵な釘ね」と認めてくれたのは母だった。雑誌の骨董品特集で折れ釘を表紙にしようと提案したら、一蹴されたと彼女は話す。 その折れ釘の良さは、ガスには全く理解できなかった。
ガスはゲーム機の墓場と呼ばれる場所の情報をハナメに告げ、電球、和歌子も含めた4人で出掛けることにした。そこで待っていたのは、 リサイクル業者の面々だった。ゴミの山から占いマシンを発見して動かしてみると、出て来た写真は電球だった。この件をきっかけに、 ハナメは骨董品にハマっていった。ハナメが折れた釘を電球に見せると、彼は「いい釘だな。理想の折れ釘だ」と感心した。彼はハナメに 「お前、骨董品屋やったら?才能あるかもな」と告げた。
ハナメは電球に連れられ、山寺へ宝物の鑑定に赴いた。住職は河童のミイラだと言って箱を出すが、開けてみるとビックリ箱だった。 ハナメは一ノ瀬に、骨董品屋をやるつもりだと話す。すると一ノ瀬は、骨董品のオピニオンリーダー的存在だという「無能」という店へ 案内した。しかし異様に静けさを求められ、一ノ瀬は我慢できずに大声で喚いた。ハナメは一ノ瀬から、立花が新しい雑誌の立ち上げに 選ばれてイタリアへ行き、雨夜と同棲したことを聞かされた。
ハナメは貯金の大半を使って「空白」という骨董品屋を開いたが、なかなか客が寄り付かない。彼女が電球に「パッとしない」と漏らすと 、「そういう時は水道の蛇口をひねれ」と妙なアドバイスをされる。水を出しっぱなしにしたままでジュースを買いに行ったり外食に 出たりすることでスリルを感じるという行動に、ハナメのテンションは上がった。残りの貯金を使って黒くて可愛い物ばかり揃えてみると 、一気に客が増えて、ハナメは最初の投資額を回収した。
電球に呼び出されたハナメは、「店を辞めて明日には旅に出る」と告げられた。電球は家に代々伝わる蔵の鍵を見せ、「中には相当の財宝 があるはず」と告げて、100万円で買ってくれと頼んだ。ハナメは金を彼に渡し、鍵を受け取った。そこへガスが現れ、電球が和歌子と 暮らすことにしたと話す。さらにガスは、占いマシーンが埋まっていたのは嘘で、機会を見つけてゴミの山に埋め、電球の写真が出るよう に細工したのだと話す。「サイテー、何一つ信用できない」と呆れたハナメは、鍵を投げ付けて走り去った。
店に戻ったハナメは、折れ釘を気に入った客に300円で売却した。「なんで私はお父さんって言わなかったんだろう」と考えた彼女は電球 の元へ向かうが、既に彼は去った後だった。ガスは彼から鍵を預かっていた。ハナメはガスと一緒に蔵のある村へ向かうが、扉を開けると 中は土砂の山だった。騙されたと腹を立てたハナメだが、旅館の女将のシオシオミロに対する「泥みたいなもの」という言葉を聞き、再び 蔵へ行く。彼女はガスに、「土砂はインスタント沼よ。水を注げば沼が出来るのよ」と興奮した様子で言う…。

原作・監督・脚本は三木聡、製作は加藤武史&鮫島文雄&尾越浩文&石井晃、プロデューサーは鈴木剛&土川勉&和泉吉秋、アソシエイト ・プロデューサーは渡辺正純、撮影は木村信也、編集は高橋信之、録音は小宮元、照明は金子康博、美術は磯見俊裕、 コスチュームデザインは勝俣淳子、ハナメ・コスチュームデザインは山瀬公子、音楽は坂口修。
主題歌「ミス・イエスタデイ」YUKI 作詞:YUKI、作曲:Nanami、編曲:YUKI/玉井謙二/橋本竜樹。
出演は麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子、岩松了、渡辺哲、笹野高史、相田翔子、ふせえり、白石美帆、松岡俊介、温水洋一、 宮藤官九郎、はな、石井聰亙、村松利史、松重豊、森下能幸、伊吹吾郎、不破万作、五頭岳夫、海原はるか、新屋英子、佐々木すみ江、 堀部圭亮、江口のりこ、玄覺悠子、森田ガンツ、少路勇介、松浦祐也、広川三憲、粟根まこと、加賀谷圭、陰山泰、才藤了介、 五月女ケイ子、伊藤太一、小林でび、中津川朋広、松本公成、間彰文、David M、古川実、石毛栄典、小西康久、宮川佳大、宮木ヨシオ、井上文雄、 五影雅和、芹那、中野麻衣、渡辺かな子、紀ノ国屋順子、高橋美和子、野口径、桜井紘子、谷山尚美、Claudia、Marina、弥香、滝沢カレン、 楠村ニコ、高橋りか、三木美稀、長久梨那、新原里彩、小松凛、斉藤雅子、今成恵菜、田畑舞子、小宮七歩ら。


『イン・ザ・プール』『亀は意外と速く泳ぐ』の三木聡が原作・監督・脚本を務めた作品。
ハナメを麻生久美子、電球を風間杜夫、ガスを加瀬亮、翠を松坂慶子、部長を笹野高史、隈部を渡辺哲、亀坂を岩松了、和歌子を相田翔子、市ノ瀬をふせえり、立花を白石美帆、雨夜を 松岡俊介、東を村松利史、川端を松重豊、大谷を森下能幸、氏家を堀部圭亮、浦田を江口のりこが演じている。

やや早口のナレーションと共に、「ナレーションと連動した小ネタの洪水」の映像が目まぐるしく繰り広げられるオープニングの段階で、 「ちょっと乗れないかも」という印象を持ったら、やっぱり乗れなかった。
まあ『亀は意外と速く泳ぐ』にしても、上野樹里の魅力だけが評価点だったわけで、内容には全く乗れなかったしなあ。
で、今回のヒロインは麻生久美子で、女優としての実力が無いわけではないが、コメディエンヌとしてどうなのかというと、そっち系の スキルはあまり高く無さそうだ。
ただし、この映画を見た時の私の比較対象が上野樹里なので、敵わなくて当然ではあるんだが。
あと、ハナメのキャラクターに魅力を感じないってのもある。

「まず小ネタありき」で後から話をくっ付けている感じで、スムーズな展開とかテンポの良い流れとか、そういうのは無視。
例えば、それまでハナメは編集部の人間と話していたのに、「ハナメさんは何を信じているんですか」と訊かれても無視し、野望について の妄想に突入する展開とか、すげえギクシャクしていて唐突だ。
ロビーへ下りていく前に名刺を探していて、尻から椅子にぶつかって後ろにバランスを崩すシーンとかも、何の必要があるのかと。
そのネタをやりたいがために、無駄な時間を使ってテンポを悪くしている。
ハナメが市ノ瀬とラーメンを食べ終わった後のシーンでも、「なんだもな」「違います、なんらもな」という会話があり、通り掛かった男 に「えっ、何か言いました」と訊かれるとか、そのやり取りも、笑えるわけじゃなくて単にナンセンスなだけだし、とにかく全編に渡って 「取って付けた感」に満ちている。
一部分じゃなくて、全てが取って付けたような感じって、どんな映画だよ、それは。

ずっとダラダラしたコントをやっているような感じで、まるて話が先に進んでいる感じがしない。推進力はゼロに等しく、話がどこに 向かっているのか全く見えてこない。
で、ショートコント集という構成なら、それでもいいとしよう。
だけど、実質的にはまるで物語性の無い「小ネタを散りばめた情景のスケッチ」の羅列なのに、表面上は「大きなストーリーのある作品」 を装っているので、その推進力の無さに疲労感が蓄積される。
意外な展開の連続というより、単に行き当たりバッタリで支離滅裂としか感じないし。

「ノブロウ宛の手紙が発見される」というところから、ようやく話が前に進み出すはずなのに、そこまでに全く必要性の無いネタで時間を 費やしている。
その間にヒロインのキャラ紹介をするとか、人間関係を描くとか、そういう目的を果たすための時間帯ではなく、単に小ネタがやりたい だけ。そのために30分以上も使っている。
ようするに三木監督は「変なキャラばかり揃えて、変なことをやらせて、変なネタを散りばめる」というところで思考がストップして いるんだよな。
それでもテレビの深夜枠で30分ぐらいの放送時間でやっていれば面白いかもしれんが、それだけで2時間はキツいぞ。

っていうか、その手紙が見つかった後も、脱線しまくリングなんだよな。
そこからハナメと父親の関係をメインにして話が進んでいくのかと思いきや、急に出てくるツタンカーメンの占いマシンのエピソードを 描いたりして、全く違う方向でネタをやっている。
あと、そのエピソードではハナメが占いマシンを見つけ出そうと行動しているが、なんでそんな気持ちになるのか全く分からないぞ。

ハナメが「ちょっと見てよ」と折れ曲がった釘をポケットから取り出すのも、あまりに唐突。ヒロインの行動が支離滅裂だ。 何から何まで、まずネタありきなんだよな。
先にちゃんとしたストーリーを用意して、そこに小ネタやギャグを盛り込んでいるわけではなく、作り方が全く逆になっているのだ。
っていうか、ストーリーらしいストーリーは無いに等しい。
っていうか、無い。

「この件をきっかけに、私は骨董品にハマっていった」というのも無理がありすぎる。
様々な骨董品に触れたわけじゃなくて、ただハナメは占いマシンを探しただけだ。それに占いマシンって骨董品じゃねえし。
大体、占いマシンのエピソード、全く要らないじゃねえか。それを通じて電球との関係に変化が生じるわけでもないし。
特にこれといったきっかけも無いまま、寺から戻るシーンでは仲良く微笑み合っている。
どこに心を通じ合わせるような出来事があったのかサッパリだ。折れ釘の一件だけじゃねえか。
しかも、その後に山寺のエピソードを挟んでしまうから、その印象が薄くなっちゃうし。

ハナメは一ノ瀬から立花と雨夜の同棲したことを聞かされるが、そんなことは全く関係無しに、骨董品屋を始める。
落ち込んで何かをするでもなく、それがきっかけで骨董品屋の開店を後押しされたわけでもない。
ハナメは電球に「そういう時は水道の蛇口をひねれ」というアドバイスを受け、水を出しっぱなしにしたまま外出するが、それは テンションが上がるだけで、店の経営とは何の関係も無い。
それとは無関係なアイデアによって、店は上手くいくのだ。
だったら、そのエピソードは要らないだろうに。

ハナメは折れ釘を気に入った客に300円で売却した後、電球のことを思い出し、「なんで私はお父さんって言わなかったんだろう。二度と 会えないかもしれないのに、変な意地を張っている場合ではなかった」とモノローグを呟くが、そんな風に思うのも違和感たっぷり。
彼女の思考回路がまるで分からない。
蔵へ行った彼女はガスに「土砂はインスタント沼よ。沼を乾かして土にしたもので、水を注げば沼が出来るのよ」と興奮した様子で言うが 、だとしても、それは財宝じゃねえだろ。
なぜテンションが上がるのか理解不能。

あと、その土砂で沼を作ったら龍が出現するってのは、幾らデタラメな世界観だからって、それは飛躍しすぎでメチャクチャだよ。
そのファンタジーは違うだろ。それを納得させられるような世界観や流れは全く構築できてないぞ。
思い起こせば河童は出て来ていたけど、もう忘れてるし。
そんで最終的に、ヒロインがラスト十数秒でセリフを使って作品のメッセージを説明してオシマイ。

(観賞日:2010年11月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会