『一度死んでみた』:2020、日本

慶明大学薬学部3年のの野畑七瀬は、父の計が社長を務める野畑製薬の面接試験を受けた。1分間の自己PRを求められた彼女は生意気な態度で父を罵り、「入社を希望しない」と言い放った。七瀬は「魂ズ」というデスメタルバンドで、ボーカルを務めていた。計は彼女が幼い頃から「人生は実験と観察だ」と説き、科学者になるための英才教育を続けた。魂ズでライブハウスに出た七瀬は、父の死を願う歌を熱唱した。12月23日、連絡を受けて野畑製薬に駆け込んだ七瀬は、計の急死を知らされた。
2日前。七瀬は母の百合子を亡くしてから計と2人で暮らしていたが、朝から反抗的な態度を示した。5年前に百合子が死の床にあった時、計は研究室で仕事に没頭していた。魂ズのライブ会場には、計の部下である松岡卓が来ていた。彼は存在感が異常に薄く、「ゴースト」と呼ばれていた。松岡は音楽ディレクターのジェームス布袋と遭遇し、今月中にデビューの目処が立たなければ魂ズが解散することを語る。ジェームスは彼に、七瀬の歌には魂が入っていないと告げた。
松岡は魂ズを応援するオタクたちに目を付けられ、居酒屋へ連行された。松岡は計の命令で七瀬を見張っていること、若返りの薬を研究している野畑製薬が狙われていることを彼らに語った。計は高級クラブでワトスン製薬の田辺社長と会い、合併を持ち掛けられた。田辺は以前から手を組むよう提案しており、野畑製薬の経営が苦しいことを指摘した。計は経営再建のプロである渡部に来てもらったことを話し、合併の話を断った。かつて計と田辺は同じ研究室にいたことがあり、百合子を巡る因縁もあった。研究内容がワトスン製薬に漏れていることを知った計は、内部にスパイがいると確信した。
12月22日。松岡は七瀬を見張るため、彼女がアルバイトしている「ちゅ〜か地獄屋」へ赴いた。七瀬は松岡が父の命令で見張っていることを知っており、露骨に嫌悪感を示した。松岡から「なんで父親の嫌がることばかりするの?君は何がしたいの?」と問われた彼女は、答えに詰まった。12月23日る松岡は社長室を訪れ、魂ズはデビューできないと計に報告した。渡部がドアをノックすると、計は出掛けたと嘘をつくよう松岡に頼んでロッカーに隠れた。渡部は計がいないと思い込み、社長室を去った。
計は松岡を連れて研究室へ行き、若返り薬の「ロミオ」を研究している研究員の藤井と話す。そこへ渡部が来てロミオの進捗状況を訊くと、藤井は別の薬が完成したことを話す。それは少しだけ死ねる薬で、藤井は「ジュリエット」と名付けていた。その薬を飲めば一錠で死亡するが、2日で生き返るのだと彼は説明した。既に藤井は自身で治験を終えており、計たちの前で一錠を飲んで休憩室に入った。同じ頃、七瀬は魂ズのラストライブを控え、メンバーの桃子&念持&ほのかと話していた。桃子と念持は就職先が決まっており、ほのかは念持との結婚が決まっていた。七瀬が不愉快そうに「それって本当にやりたいことなの?」と口にすると、桃子は「じゃあ七瀬の本当にやりたいことって何よ」と問い掛けた。
松岡は社長室へ行くが、計がいないのでロッカーを開ける。計と渡部が来ると、彼は慌ててロッカーに隠れた。渡部は計に、ワトソン製薬のスパイを探るためにジュリエットを飲む計画を提案した。自分がスパイの動きを観察することを彼が話すと、計は計画に乗った。渡部は計にジュリエットを飲ませ、意識朦朧となっている最中に書類を渡して署名させる。さらに彼が研究データの保管場所を尋ねると、計は研究ノートに書いてあると答えた。しかし場所については「あそこに」としか言わず、「詳しいことは妻に聞いてくれ。パスワードは一番大事な物」と告げて死亡した。
渡部は計を騙して、七瀬に会社を譲渡する遺書に署名させていた。会社に呼ばれた七瀬は、父が死んで後継者に指名されたことを聞いて困惑した。死んだ計は天国への案内人である火野に連れられ、三途の川を小舟で移動した。百合子と遭遇して会話を交わした彼は、すぐに岸へ戻った。七瀬は食堂に安置されている計の遺体を確認し、松岡に死因を尋ねた。松岡から「君が死ねと言ったからだ。言霊のせいだ」と言われた彼女は、罪悪感を抱いて泣き出した。
七瀬は計の幽霊を見て、激しく狼狽した。渡部は田辺に電話で報告を入れ、役員会で合併を決めると告げる。近くにいた松岡は、その言葉を耳にした。計は七瀬に悪臭を指摘され、消臭スプレーを浴びて逃げ出した。七瀬は松岡が何か隠していると睨み、芝居を打ってボロを出させた。追及を受けた松岡は、計が薬を飲んで2日だけ死んだことを打ち明けた。七瀬は父に腹を立て、会社を去った。計は火野から、親子にしか分からない匂いで七瀬には姿が見えたこと、声は届かないことを知らされた。
12月24日。計は自分の死を全く気にしていない研究員や役員たちの姿を見て、火野の前で苛立った。渡部は役員会に出席し、合併の話を進めると告げる。最初は軽く聞き流していた役員たちだが、「計が幽霊になって見ているかも」「化けて出るかも」と冗談めかして話している内に、全員が「合併は無しで」という意見になった。渡部は慌てるが、役員たちは解散してしまった。田辺は渡部から報告を受けると、「死んだ人間を殺しても犯罪にはならない」と告げた。
渡部は計の告別式を行わず、生き返る3時間前の25日午前11時に火葬することを決めて社内に貼り紙を出した。しかし七瀬は「自業自得」と冷淡に言い、父を助ける素振りを見せない。松岡は「遅れて来た反抗期だ」と非難し、本心では助けたいと思っていることを指摘した。七瀬は否定するが、松岡に挑発されると「生き返らせて、言いたいことを言ってやる」と告げる。七瀬は火葬を先延ばしにするため、下手な泣き芝居で役員たちに「告別式をやりたい」と訴えた。役員たちが同情したので、渡部は仕方なく承知した。
田辺は全ての葬儀場を予約で一杯にして、告別式を阻止しようと目論む。七瀬は郷ひろみが急病でディナーショーをキャンセルしたホテルへ行き、「魂ズのライブ」という名目で会場を借りる。彼女はミサという形式を取り、そこで父の告別式を行うことにした。田辺は棺桶を全て買い占め、告別式を阻止しようと目論む。しかし松岡から話を聞いた魂ズのメンバーが、当日お届け便で棺桶をホテルに運び込んだ。七瀬と松岡は計の遺体を見張りながら弁当を食べ、ケーキでクリスマス・イヴをお祝いした。
渡部は夜の内に火葬の時刻を変更し、メールを送信した。翌朝、松岡は火葬が15時から11時に繰り上げられていると知り、七瀬に知らせる。計はジェスチャーを使い、2人に「早く生き返らせる方法はゴミ箱」と伝えた。七瀬と松岡が社長室のゴミ箱を漁ると、「研究ノートを見るべし」と書いたメモがあった。2人は研究ノートの隠し場所を調べ、松岡はロッカーを開けて計のスマホを見つける。七瀬は父が今も母宛てのメールを送り続けていること、母の治療薬を研究していたこと、間に合わずに後悔していることを知った。
ロッカーの扉の裏側には、七瀬が幼い頃に描いた計の絵や、七瀬と百合子の写真が飾ってあった。松岡は計の言葉を思い出し、七瀬の実家へ赴いた。仏壇に飾られている百合子のホログラムを動かすとスイッチがあり、それを押すとパスワードを入力するためのキーボードが出現した。松岡が幾つか試すが、どれも外れていた。家族写真を見た彼は、七瀬の名前を元素記号に変換した数字がパスワードではないかと推測した。七瀬が入力すると金庫が開き、中から研究ノートが出て来た。ノートを開いた七瀬と松岡は、高電圧の電流を流せば早く生き返らせることが出来ると知った。七瀬は田辺が差し向けた2人の手下をKOし、松岡と共にホテルへ向かった…。

監督は浜崎慎治、脚本は澤本嘉光、製作は大角正&石原隆、プロデューサーは吉田繁暁&松崎薫&永江智大&山邊博文、共同プロデューサーは中居雄太&岡田翔太、撮影は近藤哲也、照明は溝口知、美術は小島伸介、録音は反町憲人、編集は小池義幸、音楽はヒャダイン。
出演は広瀬すず、堤真一、吉沢亮、小澤征悦、嶋田久作、リリー・フランキー、木村多江、松田翔太、佐藤健、池田エライザ、志尊淳、古田新太、大友康平、竹中直人、妻夫木聡、でんでん、城田優、野口聡一、森下能幸、おかやまはじめ、湯浅卓、眞鍋かをり、加藤諒、芹澤興人、駒木根隆介原日出子、 稲川実代子、永井若葉、真壁刀義(新日本プロレス)、本間朋晃(新日本プロレス)、カトウシンスケ、池上幸平、柄本時生、前野朋哉、清水伸、西野七瀬、安藤ニコ、スズキリクオ、鈴木つく詩、久慈暁子、宇野常寛、吉田尚記、遠山大輔、フォーリンデブはっしー、はあちゅう他。


CMディレクターの浜崎慎治が初監督を務めた作品。
脚本は『犬と私の10の約束』『ジャッジ!』を手掛けたCMプランナーの澤本嘉光。
七瀬を広瀬すず、松岡を吉沢亮、計を堤真一、火野をリリー・フランキー、渡部を小澤征悦、田辺を嶋田久作、百合子を木村多江、藤井を松田翔太が演じている。
他に、高級クラブのボーイ役で佐藤健、あかね役で池田エライザ、社員役で志尊淳&柄本時生&前野朋哉&清水伸&西野七瀬、計の元同僚役で古田新太、ジェームズ布袋役で大友康平、坊主役で竹中直人、クラウンホテルの支配人役で妻夫木聡、ラーメン店主役ででんでん、警備員役で城田優が出演している。

冒頭、七瀬は野畑製薬の面接を受けているが、父を罵って「そんな奴が社長をやってる御社の入社は希望しません」と言い放つ。
だけど、入社する気が無いのなら、なんで面接を受けたのかと。
どうやら「父への反発から来る行動」ってことらしいんだけど、アホにしか思えん。だって、その面接会場に計はいないんだし。
あと、百合子の死がきっかけで父を嫌うようになったのなら、「父の教育方針への嫌悪感」を語るのは違うでしょ。母が死ぬまでは、そこへの反発心は抱いていなかったはずなんだから。

七瀬は計への強烈な憎しみを序盤からアピールしており、ライブでも「アンタの言うこと聞く気ゼロ」などと熱唱する。
しかし、その流れで回想シーンに入ると、七瀬が計に元素番号をスラスラと語ったりしている。つまり、ちっとも反発する様子は無い。
幼少期だけでなく、もう七瀬を演じる役者が広瀬すずになってからも、父と仲良くやっている回想のままだ。それは構成としておかしいでしょ。
「かつては仲良くやっていた」ってことを描くなら、父を罵る歌からの回想というのは違うでしょ。

12月21日のシーンで初めて、七瀬が計に対して直接的に反発する様子を描く。
そこから百合子が死んだ時の回想シーンに入るが、これは無くてもいいよ。台詞だけでも充分だよ。
そもそも、「母が死んだ時に父が仕事で来なかったことをヒロインが怒っている。でも実は父が母を愛していたことを知って和解する」って、すんげえ使い古された設定だよね。
それを何の捻りも無く真正面から扱っている上、丁寧に描いて感動の家族ドラマにしようとする気も無いんだよね。

松岡はライブハウスで初登場し、「存在感が無いからゴーストと呼ばれている」と自己紹介する。
でも、まず会社で社員として勤務する姿を描いて、その中で「ゴーストと呼ばれる理由」を示すべきだよ。
いきなりライブハウスに来ているシーンを描くと、社員としての印象が伝わらないでしょ。
あと、彼はオタクたちに「社長命令で七瀬を見張っている。若返りの薬を作っている会社が狙われている」と話すけど、会社が狙われている状況と七瀬を見張る任務の関係性が全く分からないぞ。

松岡は居酒屋でオタクたちと飲んで悪酔いし、荒れた態度でクダを巻く。ここで「普段とは違う姿」を示しているのだが、これも見せ方として失敗している。
なぜなら、「普段の姿」を描いている時間が短すぎるからだ。
なので「酔っ払うと普段とは違うキャラに変貌する」という仕掛けが弱くなっている。
そもそも、普段とは違うキャラを見せるタイミングが早すぎるだろ。何しろ登場した次のシーンでは、もう変貌しちゃってるからね。

七瀬がボーカルを務める魂ズは、デスメタル・バンドを茶化したような設定になっている。歌詞はふざけているし、デスメタルに関する描写は古臭い。
デスメタルのファンは不愉快だろうけど、コメディー映画なので、茶化した描写になっているのは別に構わない。問題は、「七瀬がデスメタル・バンドのボーカルをやっている」という設定の意味が無いってことだ。ほぼ出オチみたいなモンなのよ。
「広瀬すずがデスメタルを歌ったら面白くね?」ってトコで内輪で盛り上がって、そこで思考停止しているんじゃないかと。
七瀬が挑発の意味で中指と間違えて人差し指を立てるのも、ちっともギャグとして成立していないし。

計は社長室で松岡から報告を受け、渡部が来るとロッカーに隠れる。そのシーンが終わると計は松岡を連れて研究室へ行くが、そこへ渡部が来て話し掛ける。
だったら、社長室のシーンは全く要らないでしょうに。
「ロッカーに隠れた計が、出て来ると白衣に着替えている」というネタを見せたかっただけなのか。
真相は不明だけど、そんなの要らんよ。松岡が研究室にいる計に報告して、そこへ渡部が来る手順にでもしておけばいいでしょ。

藤井は2日だけ死ぬ薬について、「ロミオを研究している中で完成したから」という理由で「ジュリエット」と名付けている。
「若返りの薬を研究していたら2日だけ死ねる薬が完成した」という設定は、幾らなんでもバカバカしさが過ぎるとは思うが、そこは目をつぶろう。
で、仮死状態に陥る薬なので、『ロミオとジュリエット』からの「ジュリエット」という連想は理解できる。
ただ、そもそも若返りの薬を「ロミオ」と呼んでいた理由がサッパリ分からんぞ。むしろジュリエットありきのロミオになっちゃってるだろ。

藤井はジュリエットについて「自分で治験した」と言うだけでなく、その場で一錠を服用して休憩室に入る。
でも、藤井が死ぬ瞬間は描写していないし、それでホントに2日だけ死ねるのかどうかは全く伝わらない。
そして実証にならないのなら、そんなシーンは全く要らない。
そこは藤井がホワイトボードに外出を意味する「行ってきます」ではなく、「逝ってきます」と記入するネタをやりたかっただけにしか思えんわ。

研究室のシーンの後、七瀬とバンドメンバーの会話を挟み、松岡が社長室へ計を捜しに来る様子が描かれる。
だけど、これは流れとして変でしょ。ついさっきまで松岡は、研究室で計と一緒にいたわけで。その直後のはずなのに、なんで計を捜して社長室に来ているのか。
あと、ここで松岡がロッカーに隠れるので、前述した「計が社長室で松岡から報告を受けるシーン」ってのは、そのための伏線のつもりなのかもしれない。ただ、それを考慮しても、やっぱり要らんよ。松岡がロッカーに隠れるのは行動として不可解だし。
そもそも松岡って、「すぐ近くにいても気付かれないぐらい存在感が薄い人」という設定なんでしょ。だったらロッカーに隠れるんじゃなくて、「部屋の隅にいたのに渡部は全く気付かない」というネタにしちゃっってもいいだろうし。

渡部はジュリエットの存在を知った直後なのに、それを使って計を騙す計画を立てる。なかなか都合の良すぎる展開だ。
そんな都合の良さは他にもあって、計は研究一筋の科学オタクのはずなのに、ジュリエットの注意事項を詳しく読まずに安易に飲む。
幾ら渡部が急かしても、何があるか分からないんだから注意事項は絶対に読むべきだろうに。
あと、死ぬ前に意識朦朧となるのは、そこで初めて分かる現象のはずでしょ。なのに渡部は最初から分かっていたかのように、その状態を利用して計に署名させたり情報を聞き出したりする。それも都合が良すぎるだろ。

死んだ計の様子を描くのは、ただ邪魔でしかない。そういうのを描きたいのなら、そっちメインで話を作るべきだよ。
七瀬だけに計の幽霊が見えるという要素も、話が散らかっているだけ。計がジュリエットを飲んだら、後は復活するまで「死んでいる」というだけでいいのよ。こいつを幽霊として動かす必要なんて無い。
こいつも動かすことで、親子ドラマを厚くしたかったのかもしれない。
だけど、そもそも親子ドラマすらも、陳腐で安っぽいモノになっているからね。

七瀬は計の死を知っても全く悲しんでいなかったのに、松岡から「死ねと言ったからだ。言霊のせいだ」と言われた途端に泣き出す。
それは反応として変だよ。ちょっと真剣に親子ドラマを描こうとする度に、「ウザイなあ」と感じてしまう。
コメディーに感動の要素を入れることが、絶対にダメというわけではない。この映画で邪魔に感じるのは、上手く扱えていないからだ。
ただし、だからって親子ドラマを完全に外しておバカなコメディーに徹すれば面白く仕上がったのかと問われると、それも難しかっただろう。

計はジェスチャーを使い、七瀬と松岡に「早く生き返らせる方法はゴミ箱」と教える。
でも彼がゴミ箱に捨てたメモに書かれているのは、「研究ノートを見るべし」というヒントだけだ。
その研究ノートの隠し場所は七瀬も松岡も知らないんだから、それを教えないと何の意味も無いわけで。
っていうか早く生き返らせる方法をジェスチャーで伝える際に、「ゴミ箱」じゃなくて「研究ノート」を教えろよ。もしくは、最初から「仏壇を調べろ」と教えろよ。

終盤の展開はワチャワチャしているだけで、ドタバタ劇としての面白さなんて全く感じられない。
もちろん最後は「親子愛のドラマ」として着地させているが、感動的な部分なんて皆無だし、ただ安っぽいだけ。
オチとして「実は若く見えた奴が若返りの薬の使い過ぎで80歳になっている」というネタを用意しているが、これもバカバカしいだけ。
で、最後は七瀬が野畑製薬への入社を決めているのだが、これも正しいハッピーエンドとは到底感じられないぞ。

(観賞日:2021年7月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会