『いばらの王 King of Thorn』:2010、日本

2012年12月12日、ニューヨーク。上空から石化した女性が街に落下し、地面に叩き付けられて体は粉々に砕け散る。WHOは緊急総会を開き、人間が石化する奇病のACIS(通称「メデューサ」)について声明を発表する。メデューサの原因は不明だが、WHOはS級の伝染病として認定し、各国に情報提供を求めた。メデューサは潜伏期間を経ると12時間で石化し、その致死率は100パーセントだった。国連は緊急安全保障委員会を開き、非常事態宣言を採択した。
大手化学メーカー「ヴィナスゲイト社」でCEOを務めるアイヴァン・コラル・ヴェガは記者会見を開き、コールドスリープで病気の促進を遅らせる計画を発表した。アメリカ国家安全保障局の会議に出席したウォルターは、メデューサがヴィナスゲイト社のバイオテロだと指摘した。ここ数年のヴィナスゲイト社は製品らしい製品を発表しておらず、その一方で世界中の生物サンプルを採集して自社施設に保管していた。彼はコールドスリープ施設について、実際は強固な警備に守られた要塞だと説明した。
ヴィナスゲイト社は歴代の与党に多額の献金をしていたが、現在の大株主は終末思想を持つカルト集団だった。ヴェガは元ロシア内務省科学事件担当の一等捜査官だったが、「私は選ばれた。神に至る道を見つけた」という」妄言を唱え始めるようになって免職されていた。大統領はメデューサで死去しており、ウォルターが提案したオペレーション「スリーピング・ビューティー」の遂行は国家安全保障局で決定された。
高校生のカスミは、ヴィナスゲイト社が公募した160人の枠に当選した。2015年10月13日、スコットランド。カスミは付き添いである双子の姉のシズクとバスに乗り、コールドスリープセンターとなっている古城へ向かった。2人の他、看護師のキャサリンや小学生のティム、黒人警官のロン、刑事に手錠を掛けられたマルコらが乗っていた。テレビ局のリポーターもバスに同乗していたが、インタビューには誰も応じようとしなかった。
バスが城に着くと政治家のペッチノがヘリに乗って現れ、ヴェガは丁重に出迎えた。城に入ったカスミたちは、識別コードの刻まれたブレスレットを装着される。奥へ入ることが出来るのは資格者だけで、カスミはシズクと別れて説明会の場へ赴いた。ヴェガは資格者たちに対し、施設はコンピュータのアリスによって管理されており、恒久的に維持されると語った。さらに彼は、アリスがブレスレットを装着した人間を保護対象とみなし、詳細なデータをバックアップしていることを説明した。
ヴェガが「メデューサの第二段階に入るとブレスレットのインジケーターに黒い斑点が出る」と語ると、1人の女性が悲鳴を上げた。女性のインジケーターには斑点が出ており、職員たちによって別室に連行された。カスミは両親をメデューサによって亡くしており、シズクとの別れを悲しむ。シズクは「まだ死ぬと決まったわけじゃない」と言い、「目が覚めたら真っ先に私のことを捜して」と明るく告げた。資格者は服を着替え、荷物を回収される。カスミたちは注射を打たれて地下へ移動し、カプセルに入って目を閉じた。
センターで複数の男たちがマシンガンを乱射する中、カスミは「生きて」というシズクの声で目を覚ました。暗闇の中でカプセルは開いており、カスミは困惑する。室内には茨の蔦が生えており、周囲のカプセルが次々に開く。目を覚ました資格者たちはカプセルから出るが、職員と連絡を取ろうとしても内線は通じなかった。カプセルを出て移動しようとしたカスミは、コウモリのような怪物を目撃した。驚いた彼女は転落しそうになるが、何とか助かった。
怪物の群れは人々を襲い始め、ピーターという男はエレベーターに逃げるよう指示する。しかしエレベーターの籠が無かったため、押し寄せた資格者たちは次々に墜落する。シャフトの底には巨大な食虫植物が潜んでおり、人々を食らった。ピーターが別の扉を開くと、光が差し込んだ。生き残ったカスミ、マルコ、キャサリン、ティム、ロン、ピーター、ペッチノの7人は、奥の部屋に避難した。今後の行動について、マルコは「上に行くしかない」と言う。ペッチノが「ワシは残るぞ」と頑固な態度を示すと、マルコは彼を残して移動しようとする。しかしカスミが「これ以上、誰かを置いていきたくありません」と訴えると、ペッチノも渋々ながら同行を承諾した。
以前に同じようなプラントを設計したというピーターが、一行を先導した。海水を冷却水にするタンクは壊れており、ペッチノは文句を言う。その直後、巨大な怪物が出現し、ペッチノは餌食となった。カスミたちが逃げようとすると、ティムは「逃げちゃダメだ。あいつはデモンザウルス。音に反応するんだ」と言う。するとロンは彼を水流に投げ込み、カスミたちに泳いで逃げるよう指示した。しかしカスミは途中で溺れてしまい、ロンが戻って救出した。
何頭ものデモンザウルスが現れたため、一行は慌てて逃走する。ロンとピーターは銃を見つけ、デモンザウルスに向けて発砲した。ロンもショットガンを手に取って攻撃し、何とか群れを退散させる。1頭が戻って来たが、カスミたちの前で石化して砕け散った。メデューサは人間にしか感染しないはずだが、ピーターは「突然変異か。もしくはメデューサに観戦した者が、その特性を持ったまま変異したのか」と口にする。ピーターのペンダントに気付いたマルコやキャサリンたちは、彼が患者ではないこと指摘した。
ピーターは釈明するが、誤魔化し切れないと悟るとカスミに銃を突き付けて人質に取った。「僕には崇高な使命があるというのに」と言い、4ブロック先の非常階段から逃げるよう指示して隣のブロックに逃亡する。彼は扉を封じた後、カスミに「君に会ったことがある。何者なんだ?」と問い掛ける。ピーターを追い掛けようとしたマルコたちはコンピュータのデータを見て、コールドスリープから2日しか経過していないことを知った。
カスミはコールドスリープ開始直後に自分と会ったとピーターに言われ、シズクだろうと告げる。シズクが生きていたと知ったカスミは安堵するが、ピーターはいつの間にか彼女が消えたと告げる。マルコはキャサリンたちに、茨を使って上へ向かうよう指示した。最後まで残っていたマルコはデモンザウルスの群れに包囲され、ガスタンクを撃って爆発させた。意識を失っていたカスミは目を覚まし、幾つもの標本が並んでいる部屋に入った。彼女は「ラルー」と書かれたサンプルを発見した後、マルコとピーターが話す声を耳にした。
カスミが様子を覗き込むと、ピーターはコンピュータを操作しながらマルコに「咄嗟の機転で患者に成り済ました」と話した。彼は情報の入ったメモリーカードを紛失し、バックアップをコピーしている最中だった。マルコが周囲の巡視に出た後、ピーターはカスミに気付いて自分がコールドスリープカプセルの開発者だったことを明かす。コピーが終わると彼はメモリーカードを差し出し、ヴィナスゲイトの正体を世界に公表してくれと頼んだ。
カスミが受け取らずに抗議していると、背後からデモンザウルスが静かに迫って来た。ピーターはカスミを助け、「報いは受けるさ」と言ってデモンザウルスに食われた。そこへマルコが戻ってデモンザウルスに発砲し、カスミを逃がす。マルコはメモリーカードを渡すよう要求するが、カスミは拒否した。デモンザウルスに襲われた2人は追い込まれるが、駆け付けたロンたちに救われた。しかし彼らが火炎瓶を投げてデモンザウルスを始末する際、メモリーカードも燃えてしまった。マルコは「これでお前さんが追われる可能性も無くなった」とカスミに言い、ロンたちと共にティムの待つ酒蔵へ移動した。
マルコはカスミたちに、自分がSASの潜入スパイであり、ピーターの手引きで情報の確保と外部からの破壊活動をサポートするはずだったと明かす。彼はメデューサがバイオテロだという証拠を掴む目的があったことを話し、「任務を遂行する。感染していないヴィナスゲイトのリーダーを拘束する」と言う。メデューサの治療法について、ヴェガは何か知っているはずだとマルコはカスミたちに告げた。そこへヴェガが疲れ切った様子で現れ、「被験者が暴走した。もう私の手に負えない。手の届かない所へ行ってしまった」と言う。
キャサリンが何の実験なのか尋ねると、ヴェガは「夢を現実にする実験とでも言っておこうか」と答えた。マルコが酒蔵に来た目的を訊くと、ヴェガは壁の一角を指差した。マルコが発砲して壁を壊すと、その奥に地下へ続く階段があった。マルコはヴェガに先導させ、事情の説明を要求した。ヴェガは8年前の出来事から、詳しく語り始めた。宇宙から隕石が落下し、近くの村では1人の少女を除く全員が奇病で死亡した。そこまでヴェガたちの想定内だったが、同時期にUMAが出現した。部下たちが射殺すると、生き残りの少女はUMAの名を呼んで駆け寄った。その様子を見たヴェガは調査を進め、UMAは少女の空想から誕生した生物だと悟った。
少女はメデューサに感染したが、オルタナティブを生み出すことによって克服したのだ。メデューサは人類が生まれる遥か前から宇宙に存在し、高度な精神活動を有する生物に進化を促す存在だった。それに気付いたヴェガはメデューサをコントロールしようと考え、アリスという少女を実験台にした。アリスは何も言わずに実験に耐え続けたが、犠牲になってしまった。そこでヴェガは、可能性の高い被験者を集めて一気に進化させようとした。それがコールドスリープ計画だ。この計画は大国に妨害されたが、資格者リストに無かった1人の少女が第2の適合者として現れた。だが、その少女の増殖力はすさまじく、実験中に精神が暴走してしまった…。

監督は片山一良、原作は岩原裕二 掲載『月刊コミックビーム』(エンターブレイン刊)、脚本は山口宏&片山一良、製作は川城和実&内田健二&森好正&椎名保&田村明彦&高田佳夫&毛塚善文、プロデューサーは土屋康昌&木村淳一、キャラクターデザインは松原秀典、モンスターデザインは安藤賢司、メカニックデザインは山根公利、総作画監督は恩田尚之、エフェクト作画監督は橋本敬史、美術監督は中村豪希、CG監督は中島智成、色彩設計は中内照美、撮影監督は佐藤光洋、編集は掛須秀一、音響監修は鶴岡陽太、絵コンテは片山一良&須永司、演出は遠藤広隆&内田信吾、録音は土屋雅紀、音楽は佐橋俊彦。
主題歌『EDGE OF THIS WORLD』MISIA 作詞:MISIA、作曲:Sinkiroh、編曲:Gomi。
声の出演は花澤香菜、森川智之、仙台エリ、磯部勉、大原さやか、矢島晶子、乃村健次、三木眞一郎、廣田行生、川澄綾子、久野美咲、藤田圭宣、夏樹リオ、四宮豪、滝知史、石川ひろあき、織田芙美、水落幸子、鈴森勘司、赤池裕美子、高岡瓶々、最上嗣生、石川和之、舟木真人、峰あつこ、鳥海勝美、はらさわ晃綺、平田真菜、甲斐田裕子、友永朱音ら。


アメリカ図書館協会の推薦グラフィックノベルに選出された岩原裕二の漫画『いばらの王』を基にした作品。
監督はTVアニメ『エルフを狩るモノたち』『THEビッグオー』の片山一良で、これが初めての映画。
脚本は『超劇場版ケロロ軍曹』シリーズの山口宏。
カスミの声を花澤香菜、マルコを森川智之、シズクを仙台エリ、ヴェガを磯部勉、キャサリンを大原さやか、ティムを矢島晶子、ロンを乃村健次、ピーターを三木眞一郎、ペッチノを廣田行生、ローラを川澄綾子、アリスを久野美咲、ウォルターを藤田圭宣が担当している。

原作は未読だが、内容は大幅に改変されているらしい。
ってことは、その改変が失敗だったんだろう。
いや海外では高い評価を受けているらしいんだけどね、でも失敗だわ。
まず初っ端から、観客を引き付ける力が物足りない。
「ニューヨークの街に上空から石化した少女が降って来て、地面に叩き付けられて壊れる」ってのは、言葉で表現すると充分なインパクトを感じるかもしれない。でも実際に映画を見てみると、そこまでのインパクトが無いのよね。

インパクトに欠ける理由は幾つかあるけど、「そもそも石化するまで生きてたことが分からない」ってのが1つ。
つまり降って来た時点で、「人形か何かが落ちて来たのかな」とも受け取れちゃうのだ。
「人間の異様な死」としてストレートに伝わって来ないので、どうしてもインパクトが弱くなる。あと、同じシーンでも実写ならそれなりのインパクトがあったと思うので、ここはアニメーションの弱さが出たね。
で、さらに困ったことがあって、そのシーンを見せただけなのに、すぐ「人間が石化する奇病が世界中で拡大している」というニュースを報じてしまうのだ。
そうじゃなくて、実際に「世界各地で次々に石化が起きている」ってのを見せないと、パンデミックの恐怖は充分に伝わらないのよね。

「奇病が拡大している世界」ってのがメインじゃなくて、その後の物語を描きたいので、初期設定の部分は早く切り上げようとしている。
その事情は良く分かる。分かるけど、それが本作品の大きな間違いだと感じる。
そのせいで、石化する病気の症状も全く分からない。「体が石になる」というのはザックリしすぎた情報であり、「どういう変化を経て最終的に全身が石化するのか」という部分が欲しくなる。
それ以外でも、とにかく情報が少なすぎるため、事態の深刻さがピンと来ない。

どうせパンデミックを上手く表現できないのなら、いっそのこと「カスミが目を覚ます」というトコから始めても良かったんじゃないか。
で、そこから「過去にこういうことがありまして」ってのを、カスミが思い出すとか、誰か他のキャラが解説するとか、そういう形を採用して断片的な映像を挿入するのだ。
そっちの方が、まだ本作品よりは導入部の力が上がったんじゃないかな。
それだと後の展開にも影響が出て来るけど、その辺りは「根本的な部分から変更した方がいいんじゃないか」と感じる部分も多いし。

バスのシーンになると、キャサリンの語りが入る。最初は何なのか良く分からなかったが、カスミが『いばら姫』の物語を読んでいると教えてくれる。
その後、説明会の会場でもキャサリンは同じ物語の続きを読んでいて、「変な女」という印象が強くなる。
異変が起きた後は、「キャサリンが物語を読んでいる」という映像は無いが、その内容を語るナレーションが何度か挿入される。
どうやら『いばら姫』の要素を持ち込んで映画用に改変したらしいのだが、だからって物語を語られても「だから何なのか」と言いたくなる。

キャサリンの語りは意味ありげだが、最後まで見ても「結局は何だったのか」と疑問が残るだけだ。いや、疑問と言うより、違和感に近い。その語りを使ったことが、何の効果も生んでいないのでね。
後半に明かされる真相は『いばら姫』を連想させる設定なので、関連性はあるのよ。ただ、前半から何度も触れていることが、伏線のように機能しているけではないのよ。
あと、『いばら姫』を語るってことは、キャサリンが謎を解く鍵を握るキャラなのかというと、そうじゃないし。
だったら、場所や状況を問わず『いばら姫』を語る彼女は、ただ不自然な行動を繰り返しているだけの女になっちゃうでしょ。

カスミはヒロインだし、置かれている状況を考えれば同情心を抱き、応援したくなるべきキャラクターのはずだ。
しかし実際のところ、どうしようもなく疎ましい奴になっている。
苦悩や葛藤を抱えるのは一向に構わないのだが、変なトコで自己主張が強くなったり、無意味にしか思えない行動を取ったりするのが悩みの種だ。
それが「義侠心の強さ」みたいなプラスに見えればいいんだろうけど、厄介な奴でしかないのよね。

例えば、ペッチノがエレベーターシャフトから転落しそうになった時、助けるために駆け寄るのは賛同できる。
しかしペッチノが「ここに残る」と高慢な態度を取った時、置き去りにしようとするマルコに「ダメです。もうこれ以上、誰かを置いていきたくありません」と抗議するのは疎ましい。
「じゃあお前が何とか出来るのかよ」と言いたくなる。
ペッチノはカスミの説得で同行を了承するわけでもないし、そこでのカスミは「主張はするけど自分では何もやっていない無力な奴」でしかないのよね。

それでも、そのシーンのカスミは、まだ「キャラの動かし方が疎ましい」というだけだ。
しかしコンピュータを操作していたピーターと対面するシーンの彼女は、それとは全く別の問題で疎ましくなっている。
彼女はピーターに見つかると「なぜ、どうして?」と心で呟くが、そこで漏らすべき感想じゃないでしょ。それか何に対しての「どうして?」という疑問なのか、サッパリ分からんし。
メモリーカードをピーターが託そうとした時に、それを受け取らずにグダグダと抗議するのも、不自然な行動にしか思えない。そこは「デモンザウルスにカスミが気付かず、ピーターが彼女を助けて食われる」というシーンからの逆算に失敗しているとしか思えない。

マルコは自分の正体と目的を明かす時、「奴の手引きで」と言っている。この「奴」とは、ピーター以外に考えられない。
だが、それだと大いなる矛盾が生じることになってしまう。ピーターが患者でないことをカスミたちの前で真っ先に指摘するのは、マルコなのだ。
それは何の狙いがあっての行動だったのか、サッパリ分からない。「ピーターを逃がし、コンピュータでデータのバックアップを取らせるため」ということなのか。
でも、それは結果的にピーターが逃亡したことで成立しているが、あそこでロンたちに捕まっていた可能性だって充分に考えられるわけで。下手すりゃ死んでいたかもしれないし、まるで筋が通らない。
「最初はピーターが協力者と知らず、コンピュータ室で再会した時に初めて知った」ということなのかもしれないが、だとしたら説明不足が甚だしいし。

後半に入り、「生き残りの少女の空想が現実の生物になった」「メデューサは生物に進化を促す存在だった」という過去がヴェガの口から説明される。
この説明が入った時に、どうしようもないバカバカしさを感じてしまう。
SFやファンタジーでは荒唐無稽な設定なんて幾らでもあるし、その全てを「バカバカしい」と切り捨てるようなことは無い。そこまでガチガチに「現実しか信じない」という類の人間ではなく、むしろ私は幻想家だ。
そこはファンタジーな設定がダメなのではなく、それを観客にすんなりと受け入れさせるための歩みや土壌が全く無いってことが問題なのだ。
丁寧な手順を踏んでいないから、「そんなことを急に言われても付いて行けない。っていうか、「付いて行きたい気持ちが芽生えない」ってことになってしまうのだ。

もう少し詳しく問題の本質について説明すると、「ヴェガの説明によって、メデューサの原因だけに留まらず、今まで全く言及の無かった生き残りの少女や夢から誕生した生物という要素まで登場する」という部分が厄介なのだ。
これまで「メデューサが蔓延していた」という設定はあるので、「メデューサの原因は何なのか」という謎解きだけなら簡単に付いて行ける。
だが、そこに「メデューサに感染した少女がオルタナティブを生み出すことで克服した」とか「メデューサは生物に進化を促す存在だった」という設定が示されると、「意外すぎる真実」として歓迎できなくなる。
その突拍子も無い要素に対して、拒絶反応が出てしまう。

終盤に入ると、「実はコールドスリープ前に崖でシズクと揉み合いになり、カスミは転落死している。その後のカスミは、暴走したシズクが生み出したオルタナティブ」ってことが明らかにされる。
つまり、カスミはシズクが見ていた夢だったというわけだ。
一応は伏線を回収している形なのだが、そこに「パズルのピースが組み合わさった」という心地良さなど無いし、謎が解けた満足感も無い。
観客を置き去りにしたまま、ミステリアスな面白さを遥かに逸脱した分かりにくさを残して映画が終わっているという印象だ。

(観賞日:2019年1月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会