『映画 ホタルノヒカリ』:2012、日本

2012年、冬。蛍は高野と結婚しても、相変わらず干物女のままだった。高野から新婚旅行でイタリアのローマへ行こうと誘われた彼女は、イタリアに関する知識は間違いだらけだったが、それを喜んで承知した。しかし仕事が忙しく、夏になっても新婚旅行へは行けていない。しかも蛍は旅行の準備をしようともせず、休日は家でゴロゴロしていた。既に蛍は、イタリア旅行へ行く意欲を完全に失っていた。
蛍は早智子と二ツ木から、ローマ行きが高野の夢であることを教えられる。2人は先にローマへ旅行に出掛け、『ローマの休日』を意識した写真も撮影していた。高野は日本市に参加するため、仕事でローマへ行くことになった。「新婚旅行は君がその気になるまで何年でも待つことにした」と言う高野に、蛍は「一緒に行きます」と告げた。プライベートで海外へ行ったことの無い彼女は、「命懸けで海外旅行を戦ってみます」と、妙な闘志を燃やした。
蛍のパスポートの有効期限は切れており、苗字が雨宮のままだった。彼女は慌ててパスポートを再発行してもらうが、飛行機は並びの席が取れなかった。寂しがっていた蛍の隣に座ったのは、冴木優という青年だった。蛍が「若僧のくせにビジネスクラス?」と心で呟くと、優は「今日のために気合い入れて溜めたんですよ」と告げる。彼はやたらと元気で、ものすごく饒舌だった。彼は離陸するとジャージ姿に着替え、すっかりリラックスした態度を取った。
機内で優と酒を酌み交わした蛍は、飲み過ぎてベロベロになった。ローマに到着した高野は、仕事相手のドメニコと会話を交わした。蛍は迎えの車に乗り込むと、『ローマの休日』で使用されたロケ地を自信満々でガイドする。慌ただしくロケ地を巡ろうとする蛍だが、高野は疑問を口にする。実は『ローマの休日』のロケ地巡りというのは、高野ではなく二ツ木の夢だったのだ。高野は蛍に、ただ観光地を忙しく回るだけでなく、五感を研ぎ澄ませて心に刻むべきだと説教した。
ホテルに到着した蛍と高野は、干物女の冴木莉央と遭遇した。オーナーのミケーラによると、ふらりと日本から来て住み着いているらしい。まったり出来る空間が無いので、蛍は心の中で苦悩する。それを悟った高野が「明日の日本市に顔を出せば、それでいい。とっとと日本に帰ろう」と言うと、蛍は大喜びした。翌朝、蛍が帰る準備をしていると、テレビのニュースを見た早智子から電話が掛かって来た。ローマで日本人が誘拐され、10億円の身代金が要求されているという。二ツ木から意味ありげなことを言われ、蛍は高野のスーツケースの中身が気になった。だが、すぐに忘れて、高野が帰るまでゴロゴロすることにした。
部屋を散らかしてノンビリしている蛍の様子を覗き見ていた莉央は、同じ匂いを感じた。蛍が来るまでその部屋を使っていたという莉央は、探し物があることを話す。莉央が高野のスーツケースを開けると、中にはコカインの詰まった袋が入っていた。ミケーラが部屋に来ると、莉央はさっさと出て行ってしまった。蛍は莉央と幼女の写真が入っている古い箱を発見し、そこにコカインの袋を隠してベッドの下に滑り込ませた。
蛍はコカイン問題で焦り、莉央に相談しようとする。しかし彼女は、弟に居場所を突き止められて電話が掛かって来たので、そのことで激しく狼狽していた。ホテルに車が到着すると、莉央は急いで隠れた。車から出て来た莉央の弟は優で、スーツケースを取り違えたことを蛍に説明した。そこへエレガントな姿に変身した莉央が現れた。さらに彼女は、高野を婚約者として優に紹介する。莉央の勢いに負けて、高野は彼女に話を合わせた。
優は高野に、莉央がバツイチで子供がいることを話した。蛍は家政婦として紹介された。莉央は優に、「心配しないで、私は幸せよ」と告げる。同じ頃、清掃係の女性が蛍と高野の部屋を掃除し、あの箱をゴミだと思って捨ててしまった。優は莉央の嘘を見抜いており、彼女が酔い潰れたと思い込んで、蛍と高野に「こういう人じゃなかったんですけど。寂しいですね」と漏らす。だが、莉央は寝たフリをして全て聞いていた。
高野は優に、「本人も分かってるんじゃないかな、下手な小芝居打ったことも、それがバレてることも」と言う。優がバーを去ると、蛍は後を追った。莉央は高野と酒を飲みながら、自分のことを語り出した。一方、優はホテルに戻りながら、蛍に姉のことを話す。大学で建築を学んだ莉央はイタリアに留学し、大学時代に知り合った俊也と結婚した。彼は理解のある男で、結婚してからも莉央は自由に暮らしていた。優は蛍に、莉央は俊也から逃げているのだと語った。
部屋に戻った蛍は、あの箱が無くなっているのに気付いて焦った。莉央がやって来た後、蛍は高野に電話を掛けるが、イタリア語を喋る男が出た。困った蛍は、莉央に電話を代わってもらう。相手の男と話した莉央は、顔を強張らせた。電話を切った後、莉央は相手がマフィアであること、高野が誘拐されたことを蛍に教えた。莉央は蛍に、人質を助けたかったら警察の手を借りないよう忠告する。莉央は「テメエが救うんだよ」と、素直に身代金を用意するよう促した。
翌朝まで蛍が待っても、犯人から身代金を要求する電話は掛かって来なかった。高野のスーツケースを開けた蛍は、ウェディングドレスを見つけた。早智子に電話を掛けた蛍は、高野がローマで結婚式を挙げようと考えていたことを知った。一方、莉央は優に、誘拐されたというのが嘘であることを明かす。「冗談よ、その場のノリ」と軽く言う彼女に、優は「わざとじゃないかな。姉貴が忘れてしまったものを、あの2人は大切にしているから」と述べた…。

監督は吉野洋、原作は ひうらさとる『ホタルノヒカリ』(講談社KC Kiss)、脚本は水橋文美江、製作指揮は宮崎洋&桜田和之、製作は菅沼直樹&堀義貴&市川南&吉岡富夫&阿佐美弘恭&平井文宏&長坂信人&弘中謙、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治&今村司、企画・プロデューサーは櫨山裕子、プロデューサーは三上絵里子&内山雅博&星野恵、撮影は長嶋秀文、照明は角田信稔、美術は高野雅裕、録音は湯脇房雄、編集は松竹利郎、音楽プロデューサー/エディットは志田博英、音楽は菅野祐悟。
出演は綾瀬はるか、藤木直人、松雪泰子、手越祐也、板谷由夏、安田顕、ジョンテ★モーニング、PAOLA MAFFIOLETTI、神児遊助(上地雄輔)、小西美帆、FRANCESCO CASTALDI、高橋努、中別府葵、井出卓也、ORAZIO STRACUZZI、ANTONIO CALAMONICI、MASSIMILIANO NICOSIA、PIERO MARTORIO、MATEO PIO ALBANESE、MAURO VIZIOLI、JOHN KEVERN、飯田基祐、吉村妃鞠、八嶋咲幸、保科紗奈、金光祥浩ら。


ひうらさとるの漫画『ホタルノヒカリ』を基にした連続TVドラマの劇場版。
ドラマ版の演出を手掛けていた吉野洋が、初めて映画監督を務めている。
蛍役の綾瀬はるか、高野役の藤木直人、早智子役の板谷由夏、二ツ木役の安田顕は、ドラマ版第1シリーズからのレギュラー。
井崎役の高橋努、真菜役の中別府葵、梅田役の井出卓也は、第2シリーズのレギュラー。
他に、莉央を松雪泰子、優を手越祐也、高野の取引相手のドメニコをジョンテ★モーニングが演じており、新婚カップル役で上地雄輔と小西美帆が1シーンだけ出演している。

TVシリーズは「恋せよ干物女」という内容であり、グータラ生活で男に全く関心の無かったヒロインの蛍が恋愛に頑張ろうとする姿を描いた。第2シリーズで彼女は高野と結ばれ、結婚することになった。
「ヒロインが好きな男と結ばれました」というのは、恋愛劇の完結を意味していると言い切ってもいい。
もちろん、幸せだった2人の「その後」を描く恋愛劇もあるが、それは最初の時点で「交際中の2人、もしくは夫婦」としてメインの男女を登場させた場合だ。
最初に交際していない男女を登場させ、そんな2人が結ばれるまでの様子を描いて来たのなら、その物語は「結ばれました」ってのが終着点だ。

だから本作品も、第2シリーズで完結させておくのが賢明なやり方だ。
っていうか、賢明とか賢明じゃないとか、そういうレベルではない。そこで終わらせるべきであり、他の選択肢なんて無い。
あえて言うなら、数年後にTVスペシャルで「その後の2人」を描いてファンにサービスするというのは充分に「有り」だ。
しかし、結婚直後の2人の物語を、それも映画でやろうなんてのは愚の骨頂である。

テレビのスペシャル版で「2人の新婚旅行」を描こうというのであれば、それはファンに向けた作品として、まだ百万歩譲ってOKとしておこう。
しかし、その場合でも、ドラマが終わってからファンの熱が冷めない内に放送すべきだろう。
この作品の場合、第2シリーズが終わったのは2010年9月15日。この映画の封切は2012年6月9日。
明らかにタイミングが遅すぎる(この批評を今頃になって掲載しているテメエが言うなって話だけどね)。
金儲け第一主義的な目線で捉えても、「なぜ今さら?」という疑問は拭えない。

映画版を作ろうという時点で愚かだし、ドラマが終わって随分と経ってから公開しようってのはさらに愚かしい。
しかし、ともかく企画としてゴーサインを出した愚者のボスがいるのだから、後は「難しい条件の中でどれだけ魅力的なコンテンツを用意できるか」ってのが重要になる。
ところが、群れの中には利口な人間がいなかったのか、手抜き感覚に満ち溢れた映画が仕上がっている。
映画人としての矜持とか魂とか、そういうのはひとまず置いておこう。
しかし興行屋としても、その感覚はどうなのかと。
こんなモンでお手軽に金儲けをしようというのは、さすがにナメているんじゃないかと。

ただ単に「蛍と高野がイタリア旅行に出掛けて観光スポットを巡る」という観光映画の一面だけで満足してくれるほど寛容な観客、もしくは娯楽に飢えている観客ってのは、そんなに多くないだろう。
しかし、無駄にイタリアでロケをやっている時点で、そこをメインに考えているような気がしないでもない(物語としてイタリアである必要性があるのかと問われたら、答えはノーなので)。
まるでバブル真っ只中のような雰囲気が漂って来るのだが、もちろんバブル時代の映画ではない。

蛍と高野の幸せで平穏な生活に波乱や変化を生じさせるってのが、結婚した2人の物語を描く上で思い付く方法だ。
「蛍が干物女からの脱却を目指す」というアイデアも考えられなくはないが、TVシリーズを2つ使っても干物女から脱却できなかった彼女が、映画1本の間に脱却しちゃうってのは、ちょっと無理があるだろう。
それに彼女が干物女じゃなくなったら、それはそれでTVシリーズのファンからすると違和感を覚えるかもしれない。
そこで本作品は、「新たな干物女を登場させる」という方法を取った。

「それって蛍と高野の生活に関係なくねえか」と思うかもしれない。まあ実際、普通にやってりゃ無関係だ。
ただし、蛍と高野が彼女に影響を与えたり、逆に感化されたりするという形にすれば、関連性を持たせることが出来る。なので当然のことながら、この映画はそういうアプローチにしてある。
ただ、それで面白い物語、魅力的な物語が仕上がるのかというと、それはまた別の問題だ。
それに、「蛍と高野が莉央に影響を与える」という筋書きが用意されていることは用意されているものの、ものすごく薄っぺらいし。

この映画、莉央が干物女である必要性も、そもそも彼女を登場させる必要性さえ感じない。
っていうか、「干物女」という設定なのだが、ホテルの部屋でグータラしている蛍と比較すると、探し物があるとは言え、散らかっていることに文句を言ったり、せっかちな態度を示したりする莉央は、あまり干物女としての度数が高いとは感じない。
そこに干物女を配置するのであれば、「蛍を遥かに凌ぐ干物女」じゃないと意味が無いんじゃないか。

で、そんな風に思っていたら、あっさりと莉央は干物女としての仮面を外してしまう。
彼女にとっての干物女は、あっさりと脱ぎ捨てることが出来る程度のモノでしかないのだ。そもそも彼女は、単に「格好に無頓着」というだけだし。
やがて彼女については「バツイチで娘もいて、夫から逃げていて」という設定が明らかになるのだが、そうなると蛍が干物女である意味も無くなってしまう。
この話、彼女が干物女じゃなくても、「天然ボケ」という部分さえあれば、何の問題も無く成立してしまうのだ。

「優が覚醒剤を持って来たのかも」ってのも、やはり蛍が干物女であることは関係が無いし、蛍と高野の関係に変化を生じさせる要素にもなっていない。
しばらく話が進むと「高野が身代金目当てで誘拐される」という展開があるが、そこまでの話の大半は、その展開と何の関係もない。
一応、「誘拐事件が起きている」という前フリはあったが、それだけだ。
蛍が莉央や優と出会ったことも、莉央の事情を知ったことも、優がコカインを持って来たと思っていることも、誘拐事件とは全く連動していない。

しかも、誘拐事件ってのは嘘なんだよね。この映画、そういう「あっさりとネタが割れる。そして割れたネタは脱力感を誘う」ということの連続だ。
「高野がコカインをスーツケースに入れていた」というのは、すぐにスーツケースの取り違えであることが判明する。
莉央は高野が婚約者だと優に説明するが、すぐに嘘だとバレている。そして前述したように、莉央は蛍に「高野が誘拐された」と言うが、翌朝には狂言であることを優に明かしている。
次から次へと色々なネタを撒いて、すぐに自ら潰してしまうとは、何がやりたいんだよ、この映画。
「まだ散らかしたままにせずに掃除するだけマシ」とか、そんなことは絶対に思わないからな。

ちなみにコカインの問題に関しては、「なぜ白い粉を見ただけで莉央がコカインだと断定できるのか」というところで引っ掛かる。
それを高野が見た時には瞬時に白玉粉であることを指摘するのだが、それもまた「なぜパッと見ただけで白玉粉だと断定できるのか」という疑問が沸く。
ただし、もっと問題なのは、それがコカインであろうと無かろうと、まるで映画の盛り上がりに貢献していないってことだが。
ぶっちゃけ、そのエピソードが無くても、映画は何の影響も受けない。むしろスッキリするかも。

(観賞日:2014年3月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会