『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』:2016、日本

城南大学に通う色丞狂介は、マッハPIZZAでアルバイトしていた。マッハPIZZAの店長は20分以内の配達をモットーにしており、8キロ先でも引き受けていた。店長はプロのオートレーサーまで雇っており、何度も配達に遅れる狂介を叱責する。店長はラストチャンスとして配達を指示するが、狂介は途中で現金輸送車強盗を目撃してしまう。狂介は車で逃げる覆面強盗2人組を追跡し、変態仮面に変身した。強盗を成敗した狂介だが、バイトはクビになった。
変態仮面の活躍は新聞でも報じられるが、狂介は愛子から「やっぱり変態の狂介君より、変態じゃない狂介君の方が好き」と告げられる。 「誤解しないでほしい。僕はただの変態じゃない、正義の変態なんだ」と狂介は訴えるが、愛子は「冷たいようだけど、こういうことは警察のやることだと思うのよ」と告げる。愛子は自分のパンティーを返すよう要求し、「大金玉男はいない。変態仮面はもういないのよ」と説く。狂介は悩みながらも、彼女にパンティーを返した。その様子を、小心者で生真面目な同級生の真琴正が密かに見ていた。真琴は愛子に声を掛けようとするが、荒っぽい2人組に絡まれる。狂介が来て2人を追い払うが、彼は真琴のことを知らなかった。
女子学生たちのパンティーがロッカー室から盗まれる事件が発生し、愛子は狂介の仕業だと確信して問い詰める。狂介は潔白を訴えるが、女子たちがノーパンだと知って興奮する。新しく生物学を担当する教授の彩田椎名が教室へ現れ、授業を始める。椎名に呼び出された狂介が教授室へ行くと、「貴方のことがタイプなの。付き合って」と言われる。狂介は困惑して「禁断です」と告げるが、椎名は「大学になったら禁断じゃないのよ」と言う。狂介は恋人がいることを明かし、授室から走り去った。
すると廊下にいた女子生徒が、見えない何者かにパンティーを引っ張られていた。狂介は飛び去るパンティーを掴むが、強い力に驚嘆する。そこへ通り掛かった愛子は、狂介がパンティーを手に入れようとしているのだと誤解した。大学からの帰り、落ち込んでいた狂介は椎名に誘われ、彼女の家で一緒に夕食を取る。そこへ椎名の元カレが来て執拗に復縁を迫り、ナイフを構える。怯えた狂介は寝室へ逃げ込み、パンティーを見つけて変身しようとする。しかし愛子の言葉を思い出した彼は、変身しないまま元カレに飛び掛かる。偶然にもパンチが命中し、元カレは退散した。
帰る狂介を外まで送った椎名は、頬にキスをする。その様子を愛子が目撃し、また狂介は誤解されてしまった。帰宅した狂介は、愛子が来ていたことを母の魔喜から知らされる。父である張男の仏壇に手を合わせた後、寝室に入った狂介が苦悩していると停電が起きた。それは狂介の家だけでなく、街全体で起きている現象だった。異変を悟って飛び出した狂介は、ミスターバキュームという怪人と遭遇する。彼は狂介に、パンティーを全て盗んで変態仮面に変身できないようにするのだと語る。狂介はバキュームの差し向ける戦闘員たちと戦うが、一方的に殴られる。彼はポケットに入っていた椎名のパンティーに気付き、顔に被って変身した。バキュームは変態仮面に成敗されると、「玉男様は貴様を、絶対に許さない」と漏らした。
翌日、変態仮面とミスターバキュームの戦いが動画サイトにアップロードされたため、愛子は狂介が変身したことを知る。狂介は大金が生きていると説明するが、愛子は信じようとしない。彼女は「私が邪魔になったんでしょ。彩田教授と付き合いたいから」と言い、両親のいるニューヨークに留学すると通告した。大金は頭部だけが残っており、その下に機械を取り付けた状態で生き延びていた。変態仮面への復讐に燃える大金は、大金ホールディングスのメカと人間を合体させて無敵の怪物を生み出そうと企んでいた。
大金は真琴を操って大学から連れ出し、研究所へ導いた。大金は変態仮面の正体が狂介だと教え、「狂介は変態仮面の力を利用して愛子を手籠めにしている。愛子が本当に好きなのは君だ」と吹き込んだ。「変態仮面を倒して愛子を自由にしてほしい」と言われた真琴は快諾し、ダイソンの掃除機と合体した。翌朝、東京のパンティーが全て見えない力によって盗まれ、上空を舞った。狂介はミスターバキュームの仕業だと考えて家を飛び出し、使用済みのパンティーが無いことに愕然とした。
大金の戦闘員たちはデパートへ乗り込み、パンティーを全て回収しようとする。ガードルで変身していた変態仮面がワゴンから現れて戦うが、思うように力が発揮できない。戦闘員は「あと3日もすれば日本自由から使用済みパンティーは消える」と言い放ち、勝ち誇った態度で立ち去った。金は日本中のパンティーを集め、全て焼却するよう手下に命じた。次の日、狂介が大学へ行くと、ダイナソンという怪物に変身した真琴が待ち受けていた。ダイナソンは世界中のパンティーを食べ、それを栄養にして成長していた。
ダイナソンは愛子を差し出すよう要求し、近くにいた椎名を捕まえて「こいつを食ってやろうか」と脅す。椎名はパンティーを差し出し、狂介は顔に被って変態仮面に変身した。しかしダイナソンには歯が立たず、椎名を連れ去られてしまう。狂介は今のままだと勝てないと感じ、愛子のパンティーを手に入れようとする。彼は愛子が住むニューヨークの家を探し当てるが、愛子は拉致され、パンティーも全て無くなっていた。
狂介は愛子を連れ去るダイナソンを発見し、椎名のパンティーで変態仮面に変身する。しかし力が弱って体が動かなくなり、ダイナソンに逃げられた。すると夢の中に張男が現れ、呪いのパンティーのせいで弱っているのだと話した。彼は息子に、「変態仙人の下で修行して、より偉大な変態になれ」と説いた。狂介は日本に戻り、山で暮らす変態仙人の元を訪れた。狂介は変態仙人に弟子入りし、1週間の修行に入った。修行期間を終えた狂介は、未使用のパンティーでも変身できる能力を会得した…。

脚本・監督は福田雄一、原作は あんど慶周『THE ABNORMAL SUPER HERO HENTAI KAMEN』(集英社文庫コミック版刊)、製作は間宮登良松&村田嘉邦&鈴木仁行&遠藤茂行&木下直哉、エグゼクティブプロデューサーは加藤和夫&村上比呂夫&鈴木仁行&紀伊宗之、プロデューサーは川崎岳&田坂公章、キャスティングプロデューサーは田端利江、ラインプロデューサーは鈴木大造、撮影は工藤哲也、美術は尾関龍生&小林美智子、照明は藤田貴路、録音は高島良太、スタントコーディネーターは田渕景也、怪人デザインは赤井孝美、特殊メイク・造形進行は飯田文江、編集は栗谷川純、VFXプロデューサーは石澤智郁、VFXディレクターは中口岳樹、音楽は瀬川英史。
主題歌: CTS『WAVINESS feat.南波志帆』作詞・作曲:CTS、編曲:CTS 砂守岳央/松岡美弥子(未来古代楽団)。
出演は鈴木亮平、清水富美加(現・千眼美子)、柳楽優弥、ムロツヨシ、安田顕、池田成志、片瀬那奈、水崎綾女、皆川猿時、新井浩文、やべきょうすけ、勝矢、足立理、上地春奈、木根尚登、佐藤仁美、戸塚純貴、鈴木あきえ、南波志帆、水野哲志、HIKAKIN、瀬戸弘司、東龍美、小栗山晃市、小澤雅貴、黒岩司、杉山裕右、長濱優、錦織聡、油木田一清、中沢友秀、辞本直樹、関寛之、今井英二、磯野雄基、聖毅、鈴木咲、佐藤栞菜、瑞帆、佐々木萌詠、百合沙、後藤健流、花沢将斗、緑川良介、関健介、石田亮介、長部努、東條公美、平田小百合、佐田淳、入矢麻衣、尾崎優子、小澤唯、小俣里奈、香瀬あざみ、木三原さくら、桜井えりな、桜木さら、高咲里音、福島瑠莉、大串有希、山本泰弘、鎌倉太郎、野村啓介、保坂聡ら。


あんど慶周の漫画『究極!!変態仮面』を基にした2013年の映画『HK/変態仮面』の続編。
脚本&監督は、前作に引き続いて福田雄一。
狂介役の鈴木亮平、愛子役の清水富美加、大金役のムロツヨシ、張男役の池田成志、魔喜役の片瀬那奈は、前作と同じ役での続投。仙人役の安田顕は、前作では臨時教師の戸渡を演じていた。
真琴を柳楽優弥、椎名を水崎綾女、バキュームを皆川猿時、マッハPIZZAの店長を新井浩文、椎名の元カレをやべきょうすけが演じている。

前作ではサム・ライミ版『スパイダーマン』のパロディーをやっていたが、今回は『スパイダーマン2』のパロディーをやっている。
前作に関しても「サム・ライミ版『スパイダーマン』のパロディーをやるなら、『究極!!変態仮面』じゃなくていいだろ」と思っていたので、今回も同様の感想になる。
そういうことをやりたいのなら、オリジナル作品でやってくれと。
『究極!!変態仮面』を都合良く利用しないでくれと言いたくなるのだ。

別に私は、『究極!!変態仮面』の熱烈なファンだったわけじゃない。でもね、そういうの、すんげえ不愉快だわ。
しかも「そういう要素も盛り込んでいる」という程度なら構わないけど、全体を通してガッツリと『スパイダーマン』3部作のパロディーなのよ。
そこに他の映画のパロディーも盛り込んでいるので、ようするに『最終絶叫計画』みたいな作品になっているのよ。
そりゃあ大まかに言えば、変態仮面だってヒーロー物のパロディーと言えるかもしれないけど、そういう問題じゃないわ。

そもそも狂介を高校生から大学生に成長させている時点で、要らない変化だわ。
前作から3年が経過したとか、出演者の年齢が上がったとか、色々と理由はあるのかもしれないけど、そこは高校生のままでいいのよ。
前作で高校1年生だったんだから、今回は2年生ってことにすりゃあいいでしょ。むしろ高校生にしておいた方が、「学園物」として色々とやれそうなこともある。
そこを大学生に成長させている理由は簡単で、『スパイダーマン2』に合わせているのだ。

原作を忠実に映画化しろと言いたいわけではない。作品によっては、それが望ましいケースもあるだろう。
しかし『究極!!変態仮面』だと、原作を忠実に映画化したら、愛子がヒロインの座から脱落してしまうなど多くの問題が生じる。なのでオリジナル要素が多くなるのは、一向に構わない。
でも、自分が実現したいアイデアのために原作を利用するのは、誠実さに欠ける行為じゃないか。
あと、118分という上映は、作風や内容を考えると無駄に長すぎるわ。
実際、すんげえダラダラしちゃってるし。

そしてダラダラしている一方で、描写が大いに不足している部分もある。
ようするに、どこに時間を使うか、どこを削除するかという感覚に問題があるってことだ。
色々とユルいネタを盛り込んで笑いを取るのは福田雄一の持ち味だし、それを全否定するつもりは無い。ただ、そのせいで犠牲になっている部分が多すぎる。
それと、この作品って「おバカなことを熱く真面目にやる」ことで笑いが生じるはずなので、モロに笑いを取りに行くのも、なんかズレているような気がするなあ。

愛子は「大金がいなくなったから、もう変態仮面に変身する必要は無いはずだ」という理屈で、狂介からパンティーを没収する。
だけど、そもそも変態仮面って、大金を倒すために誕生したヒーローじゃないでしょ。そこに存在意義があったわけじゃないでしょ。前作でも正義のヒーローとして活動を開始して、その中で大金が悪人として登場する流れだった。
それなのに、今回は「大金がいなくなったから変身する必要は無い」と言い出しちゃうので、なんか違うじゃないかと。
そこは理屈が通っていないようにも思えるが、通らなくても構わないという考えなんだろう。
っていうか、あまり深く考えていないんだろう。どうでもいいから、雑に片付けているんだろう。

前作の愛子は、まだ大金が悪党として活躍する前から、正義のヒーローとして活躍する変態仮面に恋心を抱いていた。途中で「変態仮面は、やっぱり変態だったのね」ってことで心が離れる展開もあるが、最終的には変態仮面が狂介だと知った上でカップル成立になっていた。
今回の愛子が変身することを快く思わず、「やっぱり変態じゃない狂介君の方が好き」ってことでパンティーを回収するのは、話の流れとして用意されるのは理解できる。
しかし、その後も彼女がずっと変態仮面を嫌悪するのは、どうにも違和感がある。
そこは葛藤があるべきじゃないかと思うのだが、でも用意されていない理由は分かるのよ。
その理由は、「どうでもいい」と思っているからだ。初っ端の部分は適当に盛り込んで、そこを膨らませる気が無いから雑に片付けているってことだ。

っていうかさ、実は今回の愛子って、あまり存在意義が感じられないんだよね。
「狂介が愛子にパンティーを没収されたので困る」とか、「愛子に椎名との関係を誤解される」とか、「真琴が愛子のことで大金に騙される」とか、色んなトコで愛子を使っているので、存在意義は充分じゃないかと思うかもしれない。
だけど、それって実は全て表面的なモノに過ぎない。
「大金が再登場して刺客を差し向け、狂介が偉大な変態にパワーアップして立ち向かう」というメインのプロットだけを抽出した時、愛子の存在意義が乏しいことに気付いてしまう。
あと、ちょっと話がズレるけど、今になって考えると、この映画の出演も清水富美加は嫌だったのかねえ。

真琴が変身するダイナソンは、『スパイダーマン2』のドクター・オクトパス(ドック・オク)を意識した怪物になっている。
「そもそも『スパイダーマン』シリーズのパロディーに賛同しかねる」ということをひとまず脇に置いておくとすれば、見た目で模倣するのは良しとしよう。
だけど、単なる力押しのキャラにしてあるのは手抜きにしか思えんよ。
だって、真琴は真面目な学生として登場したはずでしょ。だったら、「真面目と変態の戦い」という構図で描くべきでしょうに。

っていうかさ、そもそも真琴の真面目さをアピールするための作業が、ほとんど用意されていないのよ。
登場シーンで気弱そうな様子は見せているのと、女子生徒から「ノートが役に立つ」と言われるのと、それぐらいじゃないか。ダイナソンに変身してからでも充分に間に合うんだけど、それも無い。
何しろ「真琴は優等生」という設定を活用する気が全く無いんだから、それも当然だろう。
なので変態仮面とダイナソンの戦いには「信念の激突」が無く、質の低い、そしてタチの悪い『スパイダーマン2』の模倣と化している。

(観賞日:2017年8月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会