『HK/変態仮面』:2013、日本

警視庁捜査一課の色丞張男は、連続爆弾魔が気に入っている女がいるという情報を入手し、部下2人と共にSMクラブ「ソドム」を張り込んだ。連続爆弾魔が現れたので、張男は店に突入した。SMの女王様である魔喜は、仕事を邪魔され腹を立て、彼を縛り付けて鞭で何度も叩いた。部下2人が拳銃を構えると、張男は制止して「これはこれで、いい」と漏らした。硬派一徹で女に目もくれない鬼刑事の張男だったが、初めての恍惚感にすっかり溺れてしまったのだ。こうして張男と魔喜は結婚し、狂介という息子が誕生した。
狂介が産まれて3年後、張男は犯人に撃たれて殉職した。狂介は成長して高校1年生になったが、まだ魔喜は現役を続けており、息子に対しても女王様のように振る舞った。狂介は父親譲りの正義感に溢れた男であり、見た目も強そうなのだが、喧嘩はからっきしだった。クラスにやって来た転校生の姫野愛子に、彼は一目惚れした。狂介は強くなりたいと考えて紅優高校拳法部に入っているが、ちっとも強くならなかった。愛子が拳法部のマネージャーになったので、狂介は喜んだ。
学校からの帰り道、狂介はサラ金のコスモ金融で複数の犯人が人質を取って立て篭もっている現場に遭遇した。人質の中に愛子を見つけた狂介は、コスモ金融のビルに潜入した。ロッカーで武器を探していた彼は、そこに現れた犯人の1人をノックアウトした。狂介は犯人に化けてコスモ金融のオフィスへ乗り込もうと目論むが、覆面と間違えてパンティーを被ってしまう。しかし肌に吸い付くフィット感に彼はエクスタシーを覚え、それを外せなくなってしまう。母親譲りの変態の血が覚醒し、彼は100パーセントの潜在能力を引き出して変態仮面に変身した。彼は残る犯人2名を変態奥義で成敗し、人質を救った。
その後も狂介は変態仮面に変身し、正義の行動を繰り返した。愛子は相手が変態だと分かっていながら、変態仮面への恋心を抱いてしまう。そのことで愛子が悩んでいると知った狂介は、「変態仮面は、本当は変態じゃないと思うよ」と告げた。自殺願望の男がビルの屋上から飛び降りようとしている事件をTVのニュースで知った狂介は、すぐに変身しようとする。だが、その直前、彼はパンティーを捨てていた。狂介はパンティーを購入するため、女装してランジェリーショップへ赴いた。しかし試着室で新しいパンティーを被っても変身できず、使用済みでなければ覚醒しないのだと気付いた。「やっぱり自分は変態なのか」と落ち込んだ狂介だが、干してあったパンティーを被って変身し、自殺願望の男を助けた。
ある夜、狂介と愛子が拳法部の道場に行くと、部員が全て倒れていた。学校の乗っ取りを企む大金玉男が空手部の主将となり、拳法部員を叩きのめしていたのだ。狂介が立ち向かうが、パンチ一発で倒れ込んでしまう。愛子を残して同情から逃げ出した彼は、変態仮面に変身して戻って来た。変態仮面に成敗された大金は、「このままで済むと思うなよ」と捨て台詞を吐いて逃亡した。彼が紅優高校の乗っ取りを企んだのは、その土地に眠る埋蔵金が目当てだった。彼は埋蔵金を手に入れるため、紅優高校を廃校に追い込もうと考えていた。
大金は変態仮面を倒すため、刺客を送り込むことにした。少しでも規則に違反すれば天誅を加える真面目隊を率いて、刺客の真面目仮面が学校に乗り込んだ。変態仮面は真面目理論でピンチに陥るが、そこに愛子が駆け付けて「貴方は変態でいいのよ」と叫んだ。変態仮面はパワーを取り戻し、真面目仮面を成敗した。さわやか仮面、モーホー仮面、ほそマッチョ仮面という刺客が次々に差し向けられるが、変態仮面は全て成敗してみせた。
大金は変態仮面の出現データを分析した側近から、「変態仮面が現れる時、必ず姫野愛子という女子生徒がいる。変態仮面は彼女が好きなのではないか」と告げられる。そこで大金は新たな刺客として、戸渡という男を送り込んだ。臨時の数学教師として紅優高校に赴任した大金は、補習という名目で愛子を特別教室に呼び出した。狂介はジムのプールに通っているという愛子から「今度の日曜日、狂介君も体験に来る?」と誘われ、喜んでOKした。
家で日曜のことを考えて興奮していた狂介は、偽変態仮面が女性たちのスカートめくりを始めたというTVニュースを見て驚愕した。町に飛び出した狂介は偽変態仮面を見つけて追い掛けるが、見失ってしまった。愛子は翌日以降も放課後になると、補習のために特別教室へ出向いた。偽変態仮面は新聞紙上で、1000人の女性のスカートをめくると予告した。しかし決行日が日曜だったため、狂介は愛子とのデートを選ぼうとする。偽変態仮面の事件を知った愛子が「変態仮面は、やっぱり変態だったのね」と泣き出したので、迷いが生じた狂介だが、やはり偽変態仮面との決戦よりも、デートを優先することにした。
日曜日、待ち合わせの場所に赴いた彼は、愛子から「今日も補習なの」と言われてしまう。なぜ熱心に補習へ通うのかと質問された愛子は、「戸渡先生のことが好きになっちゃったみたいなの」と打ち明けた。ショックを受けた狂介だが、変態仮面に変身し、偽変態仮面の前に参上した。偽変態仮面は自分こそ本当の変態仮面だと主張し、勝負を要求した。偽変態仮面の恐るべき変態ぶりに圧倒され、変態仮面は敗北感に打ちひしがれてしまう…。

脚本・監督は福田雄一、原作は あんど慶周『HENTAI KAMEN』(集英社文庫コミック版刊)、脚本協力は小栗旬、製作は間宮登良松&百武弘二&宮路敬久、企画は日達長夫、エグゼクティブプロデューサーは加藤和夫&村上比呂夫&鈴木仁行、プロデューサーは川崎岳、小林智浩、ラインプロデューサーは原田耕治、撮影は工藤哲也、美術は松塚隆史、照明は福長弘章、録音は高島良太、アクションコーディネートは田渕景也、特殊メイク・特殊造形は松井祐一、編集は栗谷川純、音楽は瀬川英史、主題歌はMAN WITH A MISSION「Emotions」。
出演は鈴木亮平、清水富美加、ムロツヨシ、安田顕、佐藤二朗、池田成志、塚本高史、岡田義徳、大東駿介、片瀬那奈、大石吾朗、木南晴夏、高畑充希、松永博史、今野浩喜、鈴之助、平子祐希、安田聖愛、大水洋介、牧田哲也、久保田悠来、足立理、森渉、上地春奈、笠原秀幸、立花彩野、矢崎広、加藤貴宏、鵜飼真帆、内倉憲二、佐藤正和、朝香賢徹、山本泰弘、小林優太、太田恭輔、千代将大、金子伸哉、藤原基樹、野村啓介、木田毅祐、龍坐、望月ムサシ、友成響、長島竜也、リーナ、林龍太、この葉、坪内悟、佐藤真子、飯野惟、栗原唯ら。


あんど慶周の漫画『究極!!変態仮面』を基にした作品。
脚本・監督は『大洗にも星はふるなり』『コドモ警察』の福田雄一。
狂介を鈴木亮平、愛子を清水富美加、魔喜を片瀬那奈、張男を池田成志、大金をムロツヨシ、戸渡を安田顕、真面目仮面を佐藤二朗、変態仮面が自殺志願の男を助けた現場へ駆け付ける刑事を塚本高史、自殺志願の男を岡田義徳、さわやか仮面を大東駿介、連続爆弾魔を今野浩喜、偽変態仮面の出現を報じるTV番組の司会者を大石吾朗と木南晴夏、その番組のリポーターを高畑充希が演じている。

転校してきた愛子は狂介の口元の傷に気付き、鞄から「良かったら、これ」とスプレーを取り出す。喜んで受け取った狂介だが、良く見てみると虫よけスプレー。
ここのギャグは、「そこまではBGMが流れていて、それが止まるタイミングでスプレーがアップに」という演出も含めて、ベタではあるが、笑いの作り方は間違っていない。
しかし、マネージャーになった愛子を見つめる狂介が母の言葉を思い出して「食事に誘うべきか否か」と悩み、でも「お疲れ様です」と言ってしまうギャグはイマイチ。
ネタ振りとしてのモノローグが長すぎるし、「よし、誘おう」と決めたタイミングで発言するのではなく迷っている状態で「お疲れ様です」となるのもタイミングが違う。
また、長いモノローグででオチが予想できちゃうのに、用意されているオチは弱い。

サラ金の立て篭もり事件を起こす連中は、着陸させる場所も無いのにヘリコプターを要求して警官から「バカなんだ」と言われるような奴らだ。
それなのに、支店長の腕に発砲して怪我を負わせるってのは、キャラクターの動かし方として上手くない。
そんなマジな殺傷性は見せない方がいい。
ある程度の緊迫感はあってもいいけど(実は無くてもいいが)、そこまでシリアスにやらなくてもいいと思う。

狂介がパンティーを被った時、「なんだ、この肌に吸い付くようなフィット感は。駄目だ、こんな物を被っては。しかし、それとは裏腹に高鳴っていく俺の鼓動。駄目だ、愛子ちゃんにこんな姿見せられない。もはやパンティーが俺の顔と一体化している。なんだ、この体内か湧き上がるマグマは」などと長い台詞を語るのは、見せ方として不格好。
そこは心の叫びとして表現した方がいい。
それと、変態仮面に変身すると声が変わってしまい、吹き替えの状態になるのは大きなマイナス。
本人が喋っているように見えないと、どうにもテンションの高まりがイマイチになってしまう。

変態仮面って、ほぼ出オチみたいなキャラクターなので、初登場シーンまでは何とかなるけど、そこからどういう物語を作っていくのかが重要になる。
それなのに、そこからのシナリオが雑。
最初の事件の後、すぐに「変態仮面が次々に事件を解決する」というダイジェスト処理の手順に移ってしまう。
ってことは、狂介は何の迷いもなく、あっさりと自分が変態仮面であることを受け入れたのかよ。変態仮面に変身することに対して、何の葛藤も無いのかよ。

初登場の時、変態仮面は愛子に「こっちへ」と呼び掛けても逃げられており、犯人グループからは変態扱いされ、新聞にも「正義の変態」と書かれている。
つまり、狂介は「正義のヒーロー」として行動したはずなのに、世間的には変態のレッテルを張られているのだ。
ならば、「こんな扱いは屈辱だから、もう二度と変態仮面には変身しない」「あんな格好は恥ずかしいから、もうパンティーは被らない」と決意し、しかし素顔で悪党に立ち向かうと歯が立たずに「力が欲しい」ということでパンティーを被るとか、そういう「狂介が人助けをしたい正義感と変態仮面になる恥ずかしさの狭間で苦悩する」というドラマで盛り上げた方がいいんじゃないのか。

狂介の苦悩と葛藤のドラマを膨らませて、2度目の変身は中盤辺りまで引っ張ってもいいぐらいなのに、すげえ簡単に変身してしまう。
本来なら1本の映画でやってもいいようなことを、30分程度で慌ただしく処理してしまう。
2度目の変身を軽視して、そこから何をやるかというと、「大金が差し向ける刺客たちと変態仮面が戦う」という展開だ。
人々が変態仮面をバカにして嘲り笑うとか、そのことで狂介が落ち込むとか、「自分は本当の変態じゃないのか」と悩むとか、そういうトコを淡白に処理している。

でも、そういうのを厚くしないと、ただ単に「変態仮面が敵を順番に成敗していく」というだけの、メリハリの無い単調な進行になってしまう。
こんなキワモノ映画で前半の内に退屈を感じてしまうってのは、登場人物の個性だけに頼っているせいで、飽きちゃうからだよ。
ぶっちゃけ、敵は普通の人間でもいいのよ。「何とか仮面」とか、そんな奴らじゃなくていいのよ。
普通の事件を用意して、それを解決しようとする狂介に降り掛かるピンチや、精神的な問題という部分で、話を膨らませた方がいいよ。

もう「何とか仮面」が次々に登場してくる時点で相当にダメなんだけど、偽変態仮面が登場するってのは、最もやっちゃいけないパターン。
シリーズ2作目以降にやるなら構わないけど、まだ変態仮面の可能性を充分に表現できていないのに、その段階で「本物と偽者の対決」というアイデアを使うのはダメだわ。
それに、変態仮面は彼との対決で「俺は変態ではなくノーマルだったのか」と悩んでいるけど、ついさっきまで「俺は変態じゃない」と主張していたじゃねえか。
1作目なんだから、まだ「俺は変態じゃない」と抵抗するところで引っ張り、最後の最後で「俺は変態だ」と自覚するような展開でいいのよ。
まだ「俺は変態ではなかったのか」と悩ませるには早すぎる。それをやるのは続編まで待つべきだ。

偽変態仮面を倒しても、まだ大金という敵が残っている。
で、そこをどう描くのかと思っていたら、大金はロボットを操って襲って来る。
この映画は『スパイダーマン』のパロディーをやっており、その時点で「パロディーをやるのならオリジナル作品でやってくれ」と思っていたのだが、ロボットまで持ち込んじゃうんだよな。
そうなると、ますます「だったら『究極!!変態仮面』じゃなくていいだろ」と思うのよね。

(観賞日:2014年1月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会