『宇宙大怪獣ギララ』:1967、日本

日本宇宙開発局のFAFC(富士宇宙開発センター)に、バーマン博士が濃縮原子燃料を運んできた。それは新型の火星探検ロケットである アストロボート・AAB-γ号に積み込まれる燃料だ。船長の佐野、宇宙生物科学者のリーザ、医者の塩田博士、通信員の宮本が集められ、 技官の説明を受けた。技官は佐野に、「今までの火星ロケットは原因不明のまま全て失敗に終わっている。その原因がUFOと関係がある かどうか。関係があるとすれば飛来する元がどこにあるのか。細心の注意を持って行動してほしい」と語った。
加藤所長が濃縮原子燃料のセット完了を伝え、4人を乗せたAAB-γ号が発射された。やがて磁気嵐が発生して地球との通信が途絶え、 UFOが出現した。佐野が塩田を見ると、宇宙病で生気を失っていた。リーザが塩田博士を手当てすべきだと言うが、佐野は「UFOから 逃げることを優先する」と命令し、ロケットを加速させた。通信が回復し、佐野は現状を報告した。加藤の指示で、塩田の体調を考えて 月ステーションへ緊急着陸することになった。
AAB-γ号は月ステーションの道子と通信し、着陸した。塩田の体調は回復したが、乗船を続けること難しかった。佐野に好意を抱く道子は 、リーザが彼に惹かれていることに不安を感じた。FAFCからの通信で、塩田の交代要員は月ステーションのスタイン博士に決定した。 スタインは嫌がり、愚痴をこぼす。スタインを乗せて、AAB-γ号は出発した。隕石が衝突したことでAABガンマ号には穴が開き、空気が 入って来た。何とか修理して、穴は塞がれた。
UFOが襲ってきたため、佐野は加速して脱出しようとする。だが、UFOの引力によってAAB-γ号が引き付けられてしまう。佐野は エンジンを停止させ、「奴らの引力は強い。無駄にエネルギーを使うより、奴らを観察調査する方がいい」と言う。しかし、スタインは 「そんなことしてたら自滅だ」と反対する。彼が宇宙船を動かして月へ帰ろうとするので、佐野たちは慌てて引き離した。
道子は電波の混乱でAAB-γ号と通信できなくなったため、心配になった。リーザはロケットのエンジン部分に正体不明の宇宙物質が付着 していることに気付き、佐野に知らせた。佐野とリーザは外に出て、発光体を採取した。通信が回復し、佐野は加藤に「円盤状の飛行体は 周囲にガス体を噴射しながら火星方面に飛び去りました。原子燃料、出力は半減。原因不明。なお正体不明の発光体を採取、保存中。 航行計器機能停止。当方、現在地不明。指示を請う」と告げた。
加藤は「無理をせずに、そのままで救援ロケットを待て。発光体は真空容器に保存のこと」と言い、道子に救援ロケットを発進させるよう 指示を出した。佐野たちは救援ロケットから予備の原子燃料を受け取り、AAB-γ号のエンジンは再始動した。ロケットは道子も乗せて、 地球へ帰還した。バーマン博士の家で帰還パーティーを開いていると、センターから加藤に電話が入った。研究室が荒らされ、真空容器が 割れて発光体が消えたというのだ。
佐野たちがセンターに赴くと、真空容器が壊れ、床を溶かして穴を開けた形跡が残っていた。発光体は抜け殻を残して消えていた。床には 鶏のような足跡も残されており、バーマンは「あの発光体の中に、宇宙生物が潜んでいたのかもしれない」と口にした。佐野たちがホテル のバーで一杯やろうとしていると、停電が起きた。その直後、火山が噴火して怪獣が出現した。翌朝、佐野たちは現場に入り、巨大な足跡 を発見した。調べた結果、大きさは違うが、研究室の足跡と全く同じであることが判明した。
怪獣は猛威を振るい、東京方面に向かっていた。政府は対策会議を開き、出席した加藤は科学的な対策について問われる。彼は「残念 ながら現在のところは無いですが」と言い、リーザに発言させた。リーザは宇宙発光体の抜け殻とロケットエンジン部分に付着していた 宇宙物質を見せ、「比較分析の結果、抜け殻と同様の分子構造を持つ物体であることが判明しました」と語る。バーマンは、この物質の中 にギララに対抗する何かが隠されているのではないかという意見を述べた。ギララとは、加藤たちが怪獣に付けた名前だ。
自衛隊は戦車や戦闘機でギララを攻撃するが、まるで歯が立たない。抜け殻を分析したリーザは、加藤たちに「完全真空中なら、有機的 復元合成の実験が用意に出来るかもしれません。宇宙空間、例えば月面とか」と述べた。加藤の指示を受け、佐野、道子、宮本、リーザが 月へ向かった。月ステーションで実験を開始したリーザは、加藤からの通信に「まずギララニウムの完全な真空合成に成功しました。月面 の鉱石に相当量のギララニウムが含まれていることも分かりました」と報告した。
加藤が「ギララニウムの特性は?」と尋ねると、リーザは「熱エネルギーを初めとして、宇宙放射能を完全に反射する性質を持った物質 です」と説明した。それを聞いていたバーマンは、加藤に「そうすると、その抽出したギララニウムで怪獣を包み込んでしまえば、ギララ はエネルギーを吸収できなくなり、勢力は弱るかもしれない」と語る。佐野たちは量産したギララニウムをAAB-γ号に積み込み、地球へ 向かう。だが、操縦不能で動かなくなり、電波妨害で地球と通信できなくなった。
佐野たちはUFOによる妨害行為ではないかと考えるが、そうではなかった。リーザは「原因はこれだわ」と言い、ギララニウムの入った ケースにガイガーカウンターを当てる。そこから漏れた放射能によって、ロケットに障害が発生していたのだ。「ギララニウム反射作用を 最小限に食い止めるには?」と佐野が問い掛けると、リーザは「どこか適当な場所を見つけて遮蔽するしか方法は無いと思います」と言う 。道子は、ギララニウムを原子炉室に入れるよう提案した。それは危険な選択だったが、他に道は無かった。ギララニウムを原子炉室へ 入れた佐野たちが地球へ向かおうとしていると、そこへUFOが襲ってきた…。

監督は二本松嘉瑞、特技監督は池田博、脚本は元持栄美&石田守良&二本松嘉瑞、監修は光瀬龍、製作は中島渉、製作補は島田昭彦、撮影 は平瀬静雄&編集は杉原よし、録音は中村寛、照明は津吹正&高橋利文、大越千虎、美術は重田重盛、特技監修は川上景司、特撮美術は 福田太郎、音楽は いずみたく。
主題歌「ギララのロック」作詞:永六輔、作曲:いずみたく、唄:ボニージャックス。
「月と星のバラード」作詞:永六輔、作曲:いずみたく、唄:倍賞千恵子。
出演は和崎俊也(現・和崎俊哉)、原田糸子、柳沢真一、園井啓介、藤岡弘(現・藤岡弘、)、岡田英次、ペギー・ニール、フランツ・ グルーベル、マイク・ダニーン、北竜二(北龍二)、穂積隆信、渡辺紀行、浜田寅彦、大屋満、仲子大介、須藤照夫、小田草之介、加島潤 、中田耕二、キャッシー・ホーラン、川村禾門、小森英明、山中淳、沖太一、園田健二、加登秀樹、川島照満、比嘉照子、深山悦子ら。


東宝は1954年に『ゴジラ』を発表して以降、怪獣映画の製作を続けていた。
1965年に入ると大映が『大怪獣ガメラ』を発表し、シリーズ化されるヒットとなった。
1966年には円谷プロのTVシリーズ『ウルトラQ』が放映され、怪獣ブームが巻き起こった。
そんな中、松竹と日活は怪獣映画市場への参入を決定した。
日活は『大巨獣ガッパ』を製作し、対抗して松竹が送り込んだのが本作品である。

佐野を和崎俊也(現・和崎俊哉)、道子を原田糸子、宮本を柳沢真一、塩田を園井啓介、加藤を岡田英次、リーザをペギー・ニール、 バーマンをフランツ・グルーベル、スタインをマイク・ダニーンが演じている。
月ステーションの通信員役で、藤岡弘、が出演している。
監督は、これが3作目となる二本松嘉瑞。もちろん怪獣映画を手掛けるのは初めてだ。
この映画がコケたため、松竹は怪獣映画市場から撤退した。
つまり、松竹が作った唯一の怪獣映画ということだ。

作詞が永六輔、作曲がいずみたくというコンビによる主題歌『ギララのロック』が流れ、映画は始まる。
この歌、一応は8ビートだけど、何しろ歌っているのはボニージャックスだし、ちっともロックじゃない。
ブーガルー調の曲かな。
間奏では「見ろ、僕らの地球だ。見ろ、小さく光っている」「ほら、私たちの宇宙だ。ほら、どこまでも続く」「さあ、みんなの未来だ」 「さあ、この腕に抱こう」というセリフが入る、爽やかでノンビリした雰囲気の歌である。

本編に入ると、バーマン博士が濃縮原子燃料を運んで来る。
アルミみたいな箱に、わざわざ「濃縮原子燃料」と書いてある分かりやすさ。
バーマンは「ショックに注意してください」と言い、職員たちは慎重に運んでいるんだけど、それぐらい危険な物質なのにヘリで遠くまで 移送しなきゃいけないのだから、大変だね。
それを使わなきゃ飛ばせないロケットって、また厄介なモノを作ったもんだね。

その濃縮原子燃料が運び込まれた途端、すぐロケットにセットされて、たちまち出発する。
時間を掛けてチェックするとか、そういう作業は無い。
これまで原因不明の失敗が続いているのなら、そこに原因がある可能性だって考えられるんだが、全くお構いなし。
っていうか、今まで何度もロケットが失敗しているのに、対策が何も無いまま新しいロケットを発射しちゃうのね。
杜撰な計画だなあ。

出発前に、宮本は「前の宇宙飛行の時、アガっちゃって通信機の電源スイッチを入れずにマイクにかじりついた」と佐野に言われているが 、そんなドジな奴を再び乗組員に選んでいる。
おまけに、火星を目指しているのに、まだ月まで辿り着いていない距離で塩田が宇宙病になっている。
どうやら出発前に、博士が簡単に宇宙病になるかどうかのチェックをしていなかったらしい。
甘い計画だなあ。

SF作家の光瀬龍が監修しているのだが、科学考証は見事なぐらい「ファンタジーの世界」になっている。
船内で「重力安定装置」のスイッチを入れると、それまでフワフワと浮かんでいたファイルが落下し、みんな浮遊せず地球と同じように 動くことが出来るようになる。
そこから映像がユラユラと小さく揺れ動くのだが、どうやら「船の揺れ」を表現しているらしい。
海に浮かぶ船と違って宇宙空間なのに、なぜか船がユラユラと揺れる。
まさにファンタジーだ。

ロケットが月への着陸を命じられてから、実際に着陸するまでに、ものすごく無駄な時間がある。
そんなトコはショートカットしちゃえばいいのに、時間の使い方を間違えている。
っていうか、そもそも月ステーションに着陸する展開そのものが無駄。塩田の宇宙酔いなんて削ぎ落とせばいいし、ステーションにいる 道子は三角関係に絡むけど、その恋愛模様も邪魔。月でトランポリンみたいに飛び跳ねるとか、檜風呂でゆっくりするとか、そんな描写も 余計な寄り道。
「そんなことより、さっさとギララを出せ」と思ってしまう。

ギララを登場させるための序奏、何か恐ろしい出来事が起きる予兆を表現するために時間を取るならともかく、ノンビリと宇宙で過ごして いる様子に時間を使ってどうすんのかと。
ギララの調査やギララとの戦いの中で人間模様を描いていけばいいものを、全く怪獣が出て来ない中で、佐野と道子とリーザの三角関係 とか、スタインが不平を抱くとか、そういう人間模様を描いているので、「完全にピントがズレてるだろ」と言いたくなる。
幾らホームドラマを得意とする松竹であっても、そりゃ違うだろうと。

スタインは佐野がエンジンを停止させた時に「月へ帰る」と言って暴れたのに、地球の様子を挟んで再びロケットのシーンに戻ると、もう 落ち着いている。
だったら暴れたシーンは無意味だ。そこで何か大きなトラブルに発展しなきゃダメでしょ。
その後、ロケットが地球に帰還する際、道子も一緒に乗っている。だったら最初から、彼女を地球にいる設定にしておけばいい。そう すりゃ月ステーションなんて全く要らない。
予備燃料も簡単に手に入るんだから、特にトラブルやピンチは無いんだから、それを届けに行くミッションも無駄。そこは佐野たちが自力 で帰還する形にしておけばいい。

始まって47分ぐらい経過して、ようやくギララが出現する。火山から出現したのだから、普通、そのまま暴れさせるでしょ。
ところが、吠えた後、すぐにシーンが切り替わり、翌朝になってしまう。
いやいや、ギララはどうなったんだよ。
で、佐野たちは実験のために再び宇宙へ行くが、すげえ簡単にロケットで宇宙へ行っちゃう。
でも、その必要性って無いんだよね。いや、そりゃあシナリオ上での必要性は説明されているよ。だけど、そこは地球でも実験できる ような設定に変更すればいいわけで。

そこまでして再び月面へ行く展開にしたことで、何か物語にプラスがあるのかと考えた時に、何も無いのよ。
むしろ、もっとマトモに怪獣とと絡んでくれと。それはギララとの絡みから逃げているようにしか見えない。主人公がギララから離れて いってどうすんのかと。
そんで月面へ簡単に到着するが、今回はUFOの妨害は無かったのかよ。
そんで、すげえ簡単に、ギララニュウムの完全な真空合成にも量産にも成功してしまう。
そこに苦労や苦難は皆無なのよね。

その後、「宇宙船が動かなくなって地球へ戻れなくなる」「ギララニウムの放射線を遮蔽するため原子炉室へ入れる危険なミッションを 行うことになる」というピンチが用意されているが、それはギララと直接の関連が無いピンチやトラブルなのよね。
もっとギララと正面から向き合おうよ。
そういう展開なら、別にギララがいなくても支障が無いんだよね。
「ある物質を地球へ持ち帰る任務を遂行する」という物語だけで、普通に成立しちゃうのだ。

「ギララニウムの放射線を遮蔽するため原子炉室へ入れる」というミッションの前に、佐野は「万一の場合は逆に原子炉が過熱、一瞬に して爆発するかもしれん」とか言ってたけど、原子炉室へギララニウムを入れるシーンは無いし、「過熱して爆発するかも」という危険は 全く感じられない。
あと、ギララニウムから漏れた放射能で、佐野たちは被曝していないのか。
それと、ギララニウムのせいでロケットにトラブルが起きたのなら、そんなモノを原子炉室に入れたらマズいんじゃないのか。

佐野と宮本が濃縮原子燃料を積んだ車でギララからに逃げる際、時速60キロとか80キロでも、しばらくは追い付かれずに済んでいるけど、 そんなに遅いのかよ、ギララって。
っていうか、なんで「スピードを上げろ」と佐野に言われるまで、宮本は50キロぐらいで車を運転しているのかと。
幾ら振動されるとマズい危険物質を積んでいるとは言っても、そんな余裕は無いはずだろ。
っていうか、ギララって最終的に燃料を積んだ台車を掴んで投げ捨てているけど、何も起きていないぞ。どうなっているんだ。

ギララは自衛隊の飛行機によるギララニウム攻撃で発光体に戻り、リーザが「ギララは地球上では破壊できません」と意見を述べ、加藤が 「元の場所へ戻すか」と言っている。
だけど、そもそも発光体を地球に持ち帰ったせいで、そんな騒ぎになったわけで。
大勢の犠牲者が出たのは、全てアンタたちの責任なんだぞ。それに関する反省の言葉が全く無いのね。
ヒドいな。
あと、UFOの正体や目的は不明のままなんだけど、完全に投げっ放しなのね。
そして倍賞千恵子の青春歌謡みたいな歌で、映画は幕を閉じる。

(観賞日:2011年12月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会