『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』:2009、日本

封印から目覚めた第3使徒を倒すため、旧北極のNERV基地からエヴァンゲリオン仮設5号機が出撃した。搭乗者であるユーロ支部所属の 真希波・マリ・イラストリアスは、楽しそうに第3使徒を追跡した。仮設5号機は第3使徒を捕まえるが苦戦し、脚を失った。使徒のコア を破壊した仮設5号機は、マリが脱出した直後に自爆した。基地に来ていたNERV主席監察官の加持リョウジは、それが予定通りの自爆で あり、マリを利用したことを口にした。しかしマリの方も、自分の目的のために大人たちを利用しようと企んでいた。
エヴァンゲリオン初号機のパイロットを務める碇シンジは、NERV最高司令官である父・ゲンドウと共に、母・ユイの墓参に訪れた。シンジ はNERV戦術作戦部作戦局第1課課長・葛城ミサトの車で戻る途中、第7使徒を目撃した。その直後、エヴァンゲリオン2号機が輸送機から 放たれ、使徒を倒した。そのパイロットである式波・アスカ・ラングレーは、シンジと同じくミサトの家に住むこととなった。アスカは シンジや零号機パイロットの綾波レイに対して、生意気な態度を取った。
ゲンドウと副司令の冬月コウゾウは建造中のEVANGELION Mark.06を視察するため、ゼーレの月面基地へ赴いた。そこで彼らは、Mark.06の パイロットである渚カヲルと遭遇する。衛星軌道上に第8使徒が出現し、NERV本部への落下攻撃が明らかになった。ミサトはシンジ、レイ 、アスカの3人に、第8使徒を受け止め、協力して撃滅する作戦を指示した。使徒を破壊した後、シンジはゲンドウから誉められて喜んだ 。一方、アスカは自分一人で使徒を倒せなかったことに苛立ちを覚えた。
シンジ、レイ、アスカは、クラスメイトの鈴原トウジたちと共に、日本海洋生態系保存研究機構へ遊びに出掛けた。シンジが作って来た 弁当を全員が食べる中、アスカだけは口を付けようとしなかった。だが、シンジに勧められた味噌汁を飲んだ彼女は「美味しい」と呟いた 。シンジは中学校に通う自分とアスカの昼食として弁当を作っていたが、レイの分も作るようになった。ある日、シンジが屋上にいると、 マリがパラシュートで舞い降りてきた。極秘入国した彼女は、内緒にするようシンジに告げて立ち去った。
レイはゲンドウと食事を取った際、シンジとの会食を提案した。最初は断ろうとしたゲンドウだが、レイの表情を見て承知した。レイは 食事会に向けて、料理の秘密練習を開始した。食事会の目的は、シンジとゲンドウを和解させることだ。レイはシンジだけでなく、アスカ とミサトにも招待状を出した。レイはゲンドウが来ることも、自分が料理を練習していることも、シンジには内緒にした。
試験中のエヴァ4号機が、NERVの北米第2支部を巻き添えにして消滅するという事件が発生した。NERVはパイロットの安全を確保するため 、人を乗せずにエヴァを動かす「ダミーシステム」の実戦投入に向けてテストを重ねた。また、アメリカで開発されていた3号機は、日本 へ移送されることが決まった。これを受けて2号機は封印されることになり、アスカは居場所を奪われたような感覚に捉われた。
3号機の起動実験が行われることになるが、それはレイの企画した食事会と同じ日だった。それを知ったアスカは、自らテストパイロット に志願した。実験当日、アスカは3号機に乗り込むが、使徒が侵入していたために暴走してしまう。ゲンドウは3号機を第9使徒と認定し 、シンジに初号機を出撃させた。しかしシンジはアスカが3号機に乗っていることを知り、戦うことを拒否した。
「殺されてもいい」とシンジが命令に逆らったため、ゲンドウは初号機の制御をダミーシステムに切り替えた。初号機はシンジの制止に 従わず、3号機を徹底的に破壊した。「もうエヴァに乗りたくない」と言い出したシンジをゲンドウは冷徹に突き放し、パイロットから 外した。ミサトの家を出た彼は、第10使徒が出現したためにジオフロント内のシェルターへと避難した。NERV本部に侵入したマリは2号機 を起動して出撃するが、敵の強さに歯が立たなかった。するとレイの零号機が、N2航空誘導弾を抱えて突っ込んで来た…。

企画・原作・脚本・総監督は庵野秀明、監督は摩砂雪、鶴巻和哉、エグゼクティブ・プロデューサーは大月俊倫&庵野秀明、主・ キャラクターデザインは貞本義行、主・メカニックデザインは山下いくと、作画監督は鈴木俊二&本田雄&松原秀典&奥田淳、特技監督は 増尾昭一、色彩設計は菊地和子(Wish)、美術監督は加藤浩(ととにゃん)&串田達也(美峰)、CGI監督は鬼塚大輔・小林浩康、 撮影監督は福士享(T2studio)、編集は奥田浩史、音楽は鷺巣詩郎、テーマソングは宇多田ヒカル 『Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-』。
声ノ出演は緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、山寺宏一、石田彰、立木文彦、清川元夢、長沢美樹、 子安武人、優希比呂、関智一、岩永哲哉、岩男潤子、麦人ら。


1995年から1996年に掛けてテレビ東京系列で放送されたTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の新しい劇場版シリーズ第2作。
シンジの声を緒方恵美、レイを林原めぐみ、ミサトを三石琴乃、リツコを山口由里子、カヲルを石田彰、ゲンドウを立木文彦、冬月を 清川元夢が担当している。
宮村優子が声を担当するアスカ、山寺宏一が担当する加持は、2作目からの登場。
坂本真綾が声を担当しているマリは、この新シリーズで初めて登場したキャラクターだ。

この映画を楽しむためには、前提条件をクリアしておく必要がある。
まず、TVシリーズ、これまでの映画を全て観賞していることが必要だ。
さらに、その全てを観賞しているだけでなく、「エヴァにドップリとハマった」ということも条件となる。
さらに、TVシリーズの内容を詳細に記憶していることも、重要になってくるだろう。
もし忘れていたら、この映画を見る前に復習しておく必要がある。

それらの条件を全て満たした人間でなければ、この映画を楽しむことは出来ない。
つまり、「いちげんさんお断り」どころのレベルではないのである。
意味不明な固有名詞を大量に盛り込んでいるのも、ものすごく慌ただしくて説明不足な展開も、一部の熱烈なファン以外を最初から拒絶 している姿勢と言っていい。
エヴァを知らない人は、この映画に全く入っていくことが出来ないだろう。

1作目とは違い、TVシリーズとは異なる展開やキャラクターの描写が盛り込まれているが、それは「TVシリーズを見ていて、それを 覚えている」という条件が無ければ分からないことだ。
この映画シリーズだけを単独で見た場合に、「違いを楽しむ」ということは出来ない。
そして、「ここが違う」という楽しみ方を除外した場合、その異なる部分に単独での面白さや魅力があるのかというと、それを 見出すことは難しい。
例えば「3号機のテストパイロットがアスカになっている」というのも、この新シリーズだけを見ていた場合、それ自体は特にどうと言う こともない出来事だ。

テレビ版は、庵野監督が、自分の見てきたアニメや漫画をコラージュして構築された作品だった。
意味ありげな要素を色々と盛り込んで、それを放置したまま終わらせることで、観客に「深い意味があるんじゃないか」と思わせているが 、実際は深い意味なんか無い。
最初から全ての伏線をキレイに回収して、ちゃんと風呂敷を畳むつもりなんか無い。そういう作品だ。
過去の作品から拝借したネタのコラージュだけじゃマズいってことで、意味ありげなネタを持ち込んだだけ。

テレビ版で「意味が分からない」と思った人も多いだろうが、それは当然で、作ってる本人も、明確な答えは持ち合わせていなかったはず 。
そもそも最初から、分かるようなモノを作る気もないのよ。
「意味ありげに、色んなものを放り込んだら面白いじゃん」という程度の感覚なの。
ちゃんと説明できない、伏線を回収できないっていう箇所は、そのまま投げ出してしまう。
それを勝手に評論家やファンが深読みしてくれたんだから、思うツボだ。

だから私は、中身について深い考察をする気には、全くなれなかった。
そんなことには何の意味も無いのだから、深読みするだけ無駄。
監督の中に明確な答えが無いのに、こっちが考えてどうする。
思わせぶりな設定やセリフは、全て思わせぶりなだけで、全く気にする必要は無いのだ。どうせ回収することなんか、まるで考えて いないのだから。
シンジくんに「逃げちゃダメだ」と言わせておいて、監督は答えを出すことから逃げていたのだ。

富野由悠季なんかと違って、庵野監督はオタク世代の人だから、閉じた世界でしか話を作れない。
キャラクターが生きていないという富野氏の指摘はズバリその通りで、主人公のシンジなんてウジウジしているだけだ。
そんな作品に多くのファンがハマったのは、庵野監督と同じくオタク脳だからだろう。
そんなオタクな人々が観客層だということは、製作サイドも承知している。
新キャラクターのマリを眼鏡っ子にしたのも、やたらとアスカが肌を露出するシーンを盛り込んでいるのも、「そういうのを入れておけば オタクは喜ぶでしょ」ということだ。

しかしながら、コアなファンだけが楽しめる映画を作っても、充分すぎるほどの稼ぎを叩き出しているのだから、それでいいのである。
私のように、TVシリーズに全くハマらなかった人間は何が面白いのかサッパリだったが、そんな連中の意見など無視すればいいので ある。
庵野監督は、クリエーターとしてはともかく、商売人としては優秀だと言える。
ただし、少なくとも、金曜の夜9時から民放地上波のテレビで放映するような作品ではないわな(日本テレビは放送したけど)。
それは例えば、鳥肌実のネタをゴールデンタイムに放送するような暴挙だよ。

(観賞日:2011年9月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会