『エロティックな関係』:1992、日本

KISHINはパリの路地裏で私立探偵事務所を開いているが、ほとんど客は来ない。秘書のRIEは報酬を得るため、「観光案内引き受けます」という張り紙を出した。RIEは電話で依頼を受け、観光ツアーのガイドを務める。そんな中、珍しく探偵稼業の依頼が飛び込んで来た。依頼人は奥山という男で、愛人であるロレーヌを寝取られたので不貞の事実を突き止めてほしいのだと彼は説明した。10万フランの費用を提示され、KISHINとRIEは調査を引き受けた。その夜、RIEはKISHINを連れてディスコに出掛け、楽しく踊った。
次の日、KISHINはカメラを持って仕事に出掛け、ロレーヌの行動を監視する。ロレーヌの美しさに心を奪われたKISHINは、彼女がNEMOTOという年寄りと浮気している現場を目撃して困惑した。KISHINが2人を尾行すると、パリ社交界の連中が利用している秘密の場所へ入っていった。マダムに話を聞いたKISHINは、2人が最近になって来るようになったことを知った。彼はRIEに電話を掛け、忘れた盗聴器を現場まで持って来てもらった。
KISHINとRIEは秘密の館へ入り、ロレーヌたちの隣の部屋に入る。ロレーヌはSMプレーでNEMOTOに鞭打たれ、激しい喘ぎ声を発していた。その声は盗聴器を使うまでも無く、部屋の外に漏れていた。KISHINとRIEは、ドアの隙間から情事の様子を盗み見た。KISHINに気付いたロレーヌは笑顔でウインクした。館を去った後、KISHINは「俺は降りる」と言い出した。「あの女は俺に気付いていたんだ」と彼は話すが、RIEは「降りちゃダメよ。せっかく来た仕事ですからね。謎は私が解くわ」と告げる。
RIEはKISHINに、「尾行しているのが旦那に雇われた探偵だと気付き、誘惑して浮気の証拠品を取り戻そうとした」という推理を語った。その上で彼女は、「問題は条件ね。良い値段を付け方に売るのよ」と述べた。「俺はどうすればいいんだ」とKISHINが尋ねると、RIEは「とにかく尾行を続けて、相手の出方を待つのよ」と指示した。翌日以降も、KISHINはロレーヌの尾行を続行した。するとロレーヌは、彼をホテルの部屋に連れ込んだ。
ロレーヌはKISHINを誘惑し、肉体関係を持った。彼女はKISHINに、奥山が強請りを生業にしていること、自分を金持ちに抱かせることで脅しの材料に使っていることを打ち明けた。KISHINはすっかりロレーヌの虜となり、絶対に離したくないと考えた。一方、レストランで奥山と遭遇したRIEは、服を買いに行こうかと誘われた。奥山はRIEを連れてショッピングに出掛け、高価な服や靴、宝飾品をプレゼントした。RIEと店員が目を離した隙に、彼は首飾りを盗んだ。
奥山はRIEを高級車に乗せ、ジバンシーの店で2人だけのファッションショーを見学した。バーで軽く飲んだ後、奥山はRIEを古城へ案内した。室内楽団が演奏する中で、奥山はRIEに豪華なディナーを食べさせた。夜遅くになってKISHINの元へ戻ったRIEは、奥山と一緒にいたことを告げる。KISHINが驚いていると、彼女は嬉しそうな表情で「こんな女をほっとく奴はバカだって」と述べた。KISHINが「どういうつもりなんだ」と言うと、RIEは「さあ。でも素敵だった」と口にする。KISHINは「あいつは大悪党だ。明日、話を付けに行く」と言い、説明を求めるRIEに苛立った様子で「なぜ説明しなくちゃいけないんだ」と告げた。
翌日、KISHINは奥山に電話を掛け、不貞の証拠となる写真とテープの買い値を尋ねる。浮気相手の所へ持って行けば高値で買ってもらえるとKISHINは語り、20万フランを要求した。RIEはフィガロ紙で記者をしている知人のNEGISHIと会い、奥山のことを調べて欲しいと依頼した。するとNEGISHIは、奥山が日本の週刊誌で騒がれている2千億円裏融資の黒幕であること、国際的な地上げ屋であることを教えた。彼はRIEに、2千億円を持ち出した奥山を日本の警視庁や裏の組織が捜しているので気を付けた方がいいと警告した。
その夜、KISHINはロレーヌから拳銃を渡された。取り引きのために奥山のオフィスヘ赴いたKISHINは、拳銃を向けられた。発砲を受けたKISHINは反撃し、奥山を撃ち殺した。彼は金の入ったスーツケースを持ち、慌てて逃げ出した。彼はロレーヌの待つホテルへ戻り、事情を説明した。スーツケースを開けると、中身の大半は現金に見せ掛けた紙切れだった。KISHINはロレーヌを車で待機させ、NEMOTOの画廊へ行く。KISHINは浮気の証拠テープをNEMOTOに聴かせ、買い取りを要求した。
NEMOTOが取り引きを拒否していると、部屋にロレーヌが入って来た。NEMOTOが罵りの言葉を浴びせると、ロレーヌは彼を射殺した。狼狽するKISHINだが、泣き出すロレーヌを突き放すことが出来なかった。次の日、KISHINはロレーヌの別の浮気相手であるHANADAと会うため、彼が経営するジムへ行く。事務所でHANADAと会ったKISHINは、女性客を次々に連れ込んで関係を持っているという噂を告げる。しかし彼は全く悪びれず、「それがどうした?女たちもみんな喜んでるぜ」と軽く返した。
HANADAはボディーガードを呼び寄せ、KISHINを殴らせて追い払った。KISHINがホテルへ戻って休んでいると、ロレーヌはメモを残してジムへ向かった。KISHINがジムへ行くと、HANADAがロレーヌと交わっていた。激昂したKISHINはHANADAに襲い掛かるが、すぐに反撃を食らう。するとHANADAの背後からロレーヌが発砲し、彼を射殺した。ロレーヌはKISHINと打ち合わせて、館でSHIGAという男に抱かれる。館へ乗り込んだKISHINは、ロレーヌを拘束して写真を撮っていたSHIGAに掴み掛かる。KISHINが反撃されると、ロレーヌはSHIGAを射殺した…。

監督は若松孝二、脚本は内田裕也&長谷部安春、製作総指揮は奥山和由、製作は小口健二&須崎一夫、プロデューサーは岡田裕&内田裕也、撮影は長田勇市、照明は豊見山明長、録音は北村峰晴、美術は山崎輝、編集は鈴木歓、音楽は大野克夫。
出演は宮沢りえ、ビートたけし、内田裕也、ジェニファー・ガラン、宇崎竜童、佐藤慶、荒戸源次郎、斉藤洋介、ジョー山中、丘ナオミ、藤田めいる、長谷部香苗、林みつこ、JUNG KEUN LEE、叶岡正胤、三原保紀、大伴修、野中麻木、ZOHRA ALAMI、PHILIPPE HOREKENS、GEORGES JACOB、SYLVIE GUERMONTら。


レイモン・マルローの小説『春の自殺者』を基にした1978年の日活ロマンポルノ『エロチックな関係』をリメイクした映画。
脚本は前作の監督である長谷部安春と内田裕也の共同、監督は『水のないプール』『寝盗られ宗介』の若松孝二。
前作で主人公の探偵を演じた内田裕也が、今回も私立探偵のKISHIN役で登場する。
RIEを宮沢りえ、奥山をビートたけし、ロレーヌをジェニファー・ガラン、NEGISHIを宇崎竜童、NEMOTOを佐藤慶、HANADAを荒戸源次郎、SHIGAを斉藤洋介、ボディーガードをジョー山中が演じている。

一言で表現するならば、「内田裕也とビートたけしと若松孝二が、宮沢りえにイカれちゃった」という映画である。
公開当時の宮沢りえと言えば、その前年にヌード写真集『Santa Fe』を発売して150万部のベストセラーとなり、貴花田(現・貴乃花)と婚約していた頃だ。
まさに新世代のアイドルとして人気絶頂の時期だったわけで、そんな魅力的な少女にオッサンどもがメロメロになって作った内輪受けの映画が、この作品というわけだ。
いや、あくまでも勝手な推測に過ぎないけど、この映画を見ると、そういう印象になるんだよな。

登場人物の名前は、KISHINが『Santa Fe』を手掛けた写真家の篠山紀信(苗字の設定も「Shinoyama」だ)、RIEは宮沢りえ本人、奥山は製作総指揮の奥山和由から取っていることは間違いないだろう。
HANADAは貴花田、NEGISHIは映画監督の根岸吉太郎、SHIGAは『コミック雑誌なんかいらない!』の撮影監督だった志賀葉一かなあ。
NEMOTOに関しては、まるで見当が付かない。
まあ、それが分かったところで、だから何なのかという話ではあるんだけどね。

原作はパリが舞台だが、だからって本作品もパリが舞台という設定にする必要性は全く無い。キャストの大半は日本人だしね。
むしろ、日本人だらけなので、明らかにパリってのがミスマッチだ。まるで似合わないのに、無理にオシャレを気取っているような感じだ。
あと、なんかバブルの匂いを感じるんだよなあ。既にバブルは弾けていた時期なのに、まだバブルにしがみ付こうとしているというか、バブル崩壊に気付いていないというか、見て見ぬフリをしているというか。
いずれにせよ、「カッコ付けようとしたら、ものすごくカッコ悪くなりました」という仕上がりである。

当時の宮沢りえは、お世辞にも芝居が上手いわけではなかった。
だったら周囲を演技力のある面々で固めた方がいいに決まっているのだが、両サイドを固めるのが内田裕也とビートたけし。この2人も、演技力には難がある。つまり芝居が上手いとは言えない3人がメインという状態。
ただし不幸中の幸いというべきか、実は本作品、そんなに演技力の高さを必要としていない。
若松孝二監督の、良くも悪くもアングラな雰囲気が強い作風の中では、素人臭い芝居ってのも、意外に大きなマイナスにならない。

とは言え、もちろん演技力のある俳優を起用した方が遥かに良かったってのも、これまた間違いない事実だ。
特に内田裕也の担当しているモノローグは、その棒読みっぷりがハンパない。
それと、演技力の問題だけでなく、キャラクターとも合っていない。
KISHINという男は、もうちょっと軽妙さも漂うような男優の方が合うだろう。奥山の方は、もっと「いかにも紳士的な二枚目」という感じの男優がいいし、ビートたけしだと年齢的にも高すぎる。もう少し若い人の方がいい。

シナリオや演出にも大いに難があるのだが、その2人のキャスティングに引っ張られている影響は少なくない。
例えば、KISHINがロレーヌを尾行するシーンでは、「彼女の魅力に惹かれる」というのを表現すべきなのに、いい女だと感じたことをモノローグで触れる程度。
彼女に誘惑されて 関係を持ったKISHINが「この女を離したくない」と感じるのも、モノローグだけに頼ってしまう。その態度や表情からは、KISHINの気持ちが見えない。
それは「ハードボイルド作品だから、主人公の感情表現を抑制している」というのとは全く別で、単純に演出や演技力が追い付いていないだけだ。

RIEが奥山の誘いを受け、色んな物を買ってもらったり、一緒にファッションショーを見たり、古城でディナーを食べたりするシーンは、ホントなら「RIEがブルジョアな一日を過ごして夢心地になり、奥山に心を惹かれる」という風に見えなきゃいけないはずだ。
だけど奥山は無愛想で全く紳士的な態度を示さず、RIEとのデートを楽しんでいる雰囲気も皆無。ディナーもRIEに食べさせて、自分は参加しない。
そんなデカい古城にポツンと残されてディナーを食べても、それを「素晴らしい時間」とは思えないでしょ。
もっと奥山を女扱いの上手い紳士的に描くべきなのに、それをやっていないんだよな。だからRIEが「あの人、紳士よね」と言っても、説得力が無い。

探偵のKISHINを演じているのは内田裕也なのに、トップビリングはRIE役の宮沢りえになっている。
これは人気や知名度を考えて彼女をトップに据えたとか、製作に携わった男どもが彼女を持ち上げたとか、そういうこともあるかもしれないが、実質的な主役も確かに彼女なのだ。
ぶっちゃけ、内田裕也は芝居らしい芝居なんて、ほとんど見せていない。
物語を引っ張って行くのは明らかに宮沢りえだし、この映画を支えているのも間違いなく宮沢りえだ。

ひょっとすると、内田裕也や奥山和由の中には、「この映画で宮沢りえの魅力をアピールしてあげよう。彼女の素晴らしさを大勢の観客に知ってもらおう」という意識があったのかもしれない。
しかし、むしろ男どもが宮沢りえをバックアップしているというよりも、彼女のおかげで本作品が何とか成り立っているという状態だ。
この映画、宮沢りえがいなかったら、どうしようもない。
まあ宮沢りえがいてもポンコツはポンコツなんだけど、それでも彼女のおかげで「見所のあるポンコツ映画」としての救いがギリギリで生じている。

ようするに、これは「宮沢りえだけを見ておけば、それでいい」という映画である。
当時の彼女はお世辞にも芝居が上手いわけではないと前述したが、それでも魅力的であることは確かだ。これを宮沢りえのアイドル映画として捉えた場合、彼女の魅力はそれなりに発揮されている(あくまでも「それなり」だが)。
ただし、優れたシナリオや巧みな演出が彼女の魅力を引き出しているわけではない。
宮沢りえが自身で放っているアイドル的な魅力が、映画のグダグダな仕上がりを打ち破って、何とか伝わってくるということだ。

(観賞日:2014年10月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会