『エクスクロス 魔境伝説』:2007、日本

ロッジの押入れで携帯電話が鳴った。水野しよりが恐る恐る携帯を取ると、「早くそこから逃げろ!足を切り落とされるぞ!!」という男の声が聞こえてきた。直後、ロッジのドアを激しくノックする音がした。そこから時間を遡る。温泉に入っていた物部静は、不気味な気配を感じた。村人たちが追い掛けて来る中、彼女は慌てて宿に戻り、押入れに入って携帯で「阿鹿里村。助けて」とメールを打った。直後に彼女は捕まった。静は磔にされ、村の儀式が行われる。村人たちが見守る中、彼女は斧で左足を切り落とされた。

[第一章 白いケータイは、押入れの中で]
大学のサークル仲間である水野しよりと火請愛子は、人里離れた温泉地の阿鹿里村へ車で向かっていた。男好きの愛子は、車内でも携帯で男と話している。彼女は複数の男と浅い関係を楽しんでおり、しよりは顔をしかめる。車がトンネルを抜けたところで、眼帯を着けて傘を差したゴスロリファッションの女・西園寺レイカとぶつかりそうになる。運転していたしよりは慌ててブレーキを踏む。愛子が車を降りて激怒すると、レイカは右手でハサミの形を作って「チョキチョキチョキ。チョキチョキチョキ。本物の地獄がどんなものか知ってる?」と不気味に微笑し、その場を去った。
しよりと愛子が霧深いロープウェイ駅の近くにあった地図を見ていると、村の住人・大碓と小碓が声を掛けて来た。2人は阿鹿里温泉の車で来ており、「どうぞ」と手招きする。しよりと愛子がロッジに到着すると、宿の老婆・八重がお茶を入れる。山奥にしては立派な宿で、八重は「村のみんなで作りました。代々、樵を務めております」と説明した。しよりが何人ぐらい住んでいるのかと尋ねると、八重は聞き取れない謎の言葉を発した。
しよりと愛子は温泉へ行く。愛子が「とんでもない所へ来ちゃったね」と言うと、しよりは「別にどこでも良かったの。あいつから遠く離れられれば」と口にする。「浮気の一回ぐらい、大目に見てやれば」と告げる愛子に、彼女は「愛子には分かんないよ。だって、愛子、泣いたことなんか無いでしょ。たくさんの人と付き合って。初めて付き合った人だったのに」と語る。愛子は不機嫌そうな態度になり、「だったら何?」と告げる。しよりは先に温泉を出た。
しよりが去った後、愛子は携帯を取り出して「もしもし、しより、今、お風呂出たから。後は予定通り」と誰かに連絡を入れた。しよりは恋人の朝宮圭一からのメールを受け取るが、それを無視する。しよりはクラブで女と一緒にいる圭一を目撃し、傷心旅行に来たのだった。彼女は滝壺へ自分の携帯を投げ捨てた。彼女は何かを叩くような物音を耳にして、ロッジへ戻る。すると、携帯の音が聞こえた。しよりは2階へ行き、押入れで携帯電話を発見した。
しよりは携帯の男と話した後、激しいノックに怖がりながらもドアのチェーンを外した。すると八重が立っており、「夕食、食べない内にどうぞ」と言う。彼女はヒヒヒと笑って去った。夕食のメニューは蛇や虫や蛙などのゲテモノばかりだった。また携帯に電話があり、男が「何かあったのか。すぐにそこから逃げろ。奴らに掴まったら生贄にされてしまう」と警告した。「この携帯、私のじゃないんですけど」としよりが言うと、男は「君は誰だ、静じゃないのか。なぜ君が妹の携帯を」と告げた。
しよりが友達と温泉へ来て押入れで見つけたことを説明すると、男は「まさか、静はもう……」と漏らした。突如としてロッジの電気が消え、しよりからそれを聞いた男は「ついに奴らが」と口にした。その時、ロッジの固定電話が鳴り響いた。しよりが受話器を取ると、「お客様、おみ足は綺麗になさいましたか。停電ですが、ご安心ください。これからすぐに伺います」という八重の声がした。しよりは「大丈夫です、すぐ寝ますから」と電話を切った。
しよりは男に「生贄にされるって、どういう意味ですか」と尋ねた。男は物部昭と名乗り、城南大学で民俗学を研究していることを語る。彼は「日本には古来から災いから逃れるために若い女を神に捧げる風習があった。君がいる、その阿鹿里村でも。元々、阿鹿里は樵たちの村だった。男たちが山へ木を切りに出掛けている間、女房たちが村から逃げ出さないように、男たちは女たちの左足を切った。それが酷い風習の始まりだった」と述べた。
さらに物部は、「時が経つと、村人は旅の女を捕まえて、山へ捧げる生き神として祀るようになった。生き神にされた女たちは、左足を切られて山の祠に閉じ込められた。そして、その風習は今も密かに続いている。村人はみんな足を引きずっていただろう。奴らは子供が産まれるとすぐ、左足の腱を切るんだ。仲間の証、ひいては村から逃がさないために」と語る。しよりが「有り得ない」と叫ぶと、物部は「だが君も見たはずだ、村のあちこちに飾られた案山子たちを。あれは飾りなんかじゃない。死んだ女たちをミイラにして、村の守り神にして守ってるんだ。気を付けろ。儀式はもう始まっている」と述べた。
しよりが窓から外を見ると、懐中電灯を照らしてロッジに近付いてくる村人たちの姿があった。村人たちはロッジのドアや窓を激しく叩く。物部は「君を助けたい」と言うが、通話が切れてしまう。村人たちはドアチェーンを壊してロッジに突入するが、しよりは2階の窓から飛び降りて逃走した。しよりは森の中を走りながら、愛子に「大変なの。大至急連絡ちょうだい」とメールを送信した。しばらく走ってから愛子に電話を掛けるが、応答は無かった。だが、すぐに愛子から「ピンチ!温泉のトイレで待つ」というメールが届いた。
しよりは物部からの電話で、「東の外れに古いトンネルがある。そこで待っていてくれ。俺は今、車でそっちに向かっている」と言われる。物部の「ところで、君はどうやって阿鹿里村のことを知った?」という質問に、彼女は「サークルの友達が、愛子っていうんです。その子が温泉に誘ってくれて」と答える。「彼女は、どうやって阿鹿里村のことを?」と訊かれて「ネットで調べて」と言うと、物部は「危険だな。俺の調べた限り、阿鹿里村の情報は一切、ネット上には存在しない。奴らの仲間かもしれない。「とにかく生きて村を出ることが大切だ。生き延びなければ。何があっても、誰も信じるな」と語り、そこで通話が途絶えた。
しよりは森を走り、温泉のトイレに到着する。だが、女子トイレに鍵が掛かっていたため、愛子に電話を掛けた。「この番号って何?」と訊く愛子に、しよりは「説明は後、それより今、どこにいるの?」と尋ねる。彼女が「トイレ」と答えるので、しよりは「私、今、トイレの前にいるよ」と言う。すると愛子は「トイレはトイレでも、違うトイレ」と告げる。しよりは「とにかく村の人には気を付けて。この村、マジでヤバいから」と警告した。
しよりは少し間を置き、「愛子、私を騙してなんかいないよね。ホントに信じていいんだよね」と確かめる。愛子は少し黙り込んでから「実はね」と何かを話し始めようとするが、悲鳴と共に通話が切れた。しよりがドアが開いている男子トイレへ入ると、誰もいない。床に血痕があり、個室の扉が全て壊されている。しよりは友人の橘弥生に電話して事情を説明し、助けを求める。弥生がネットを調べると、確かに阿鹿里村の該当ページは無かった。
弥生はしよりに「物部っていう人の言うことは筋が通ってる。でも、信用出来るっていう根拠が無い。静っていう人が本当にいるかどうかさえ分からない。とにかく警察には私から連絡しておく。物部っていう人のことも調べておくから」と告げた後、「それから言いにくいんだけど、愛子のことも気を付けて」と言う。しよりが「どういう意味?」と訊くと、弥生は「私、あの子、苦手だし、ハッキリ言って信用できない」と言う。しよりは愛子に「東のトンネルで待ちます」とメールを打った直後、村人たちに捕まった。

[第二章 赤いケータイは、トイレの個室で]
時間を遡る。温泉で1人になった後、愛子はレイカを目撃した。温泉を出て服を着た愛子は女子トイレへ行くが、ドアに鍵が掛かっていた。愛子が男子トイレで個室に入ると、レイカがやって来る。愛子が個室で身を潜めていると、しよりからのメールが届く。愛子はピンチを知らせるメールを返信した。彼女はレイカに発見され、両手に持った大きなハサミで襲われる。レイカは自分の彼氏を横取りし、あっさり捨てた愛子に激しい恨みを抱いていたのだ。愛子はトイレの洗浄剤を噴射してレイカを苦悶させ、その隙に逃走した。一方、村人たちに捕まったしよりは、必死に抵抗して逃げ出した。

[第三章 しよりのケータイは、闇の中で]
しよりは物部に連絡し、「もう少しで到着する。いいか、俺は君の味方だ。何があっても、それだけは信じてくれ」と告げられた。彼女は挫いた足を引きずりながらトンネルへ到着するが、そこへ村人たちがやって来た。その時、車がトンネルに到着するが、乗っていたのは物部ではなく圭一だった。圭一はしよりを車に乗せて逃走する。その直後、しよりに弥生からの「ネットで調べたら城南大学にモノノベなんて人はいない。村の仲間かも・・・」というメールが届く。その物部から電話が掛かるが、しよりは取らなかった。時間を遡る。愛子は逃げながら、電話で圭一と話していた。「しよりは?」と問われ、愛子は「ちょっとはぐれちゃって」と答える。圭一は冷淡な口調で、「そうか、じゃあ頑張れ」と言って電話を切った。

[第四章 愛子のケータイは、炎の中で]
簡易トイレを見つけて入った愛子に、しよりから電話が入った。「説明は後、それより今、どこにいるの?」「トイレ」「私もトイレにいるよ」「トイレはトイレでも、違うトイレ」という会話を交わしている最中、レイカが先程より巨大なハサミを手にして簡易トイレに歩いて来た。「実はね」と愛子が話そうとしたところで、レイカの襲撃を受ける。レイカは簡易トイレを横倒しにするが、愛子はドアを壊してチェーンソーで反撃する。さらに油を浴びせて火を放つと、レイカは大爆発する。愛子はしよりからの「東のトンネルで待ちます」しいうメールを確認した。しかしレイカは死なず、しぶとく襲い掛かる。愛子は後頭部に回し蹴りを食らわせ、トンネルへ向かう。彼女は圭一がしよりを車に乗せて走り去るのを目撃した。

[終章 二人のケータイは、XX(エクスクロス)で]
しよりが物部からの電話を取らずにいると、圭一は「俺としよりが別れるように仕組んだのは、実は愛子なんだ。俺に気のあるバイト仲間が愛子に俺を誘惑させて、しよりとの関係を壊そうとしたんだ。それに引っ掛かっちまってさ」と語る。クラブで彼とキスしていたのは愛子だと知り、しよりはショックを受ける。圭一は「どうしてもお前とやり直したくて、愛子に頼んで、ここに来るのをセッティングしてもらったんだ」と述べた。
しよりは阿鹿里村を旅行先に選んだのが愛子だと知り、彼女に電話を掛ける。そして「全部聞いた。愛子の正体も。ずっと信じてたのに」と涙ぐんで責める。「村の秘密も、全部知ってたんだよね」と言うと、愛子は「何の話?」と訊き返した。しよりは「とぼけないでよ。人殺し」と電話を切った。そこへ物部から電話が掛かり、しよりは迷いながらも通話することにした。「貴方は誰なんですか。友達が調べてくれました。城南大学の名簿貴方の名前は無いって」としよりが言うと、物部は「そんなことか。俺は講師だ。教員名簿もちゃんと調べたのか」と言う。
その時、しよりは村に車が戻っていることに気付く。圭一にどういうことなのか尋ねるが、彼は前を見たまま何も答えようとしない。困惑しているしよりに、物部は「妹を村に連れ出した奴の名前を聞いた。朝宮圭一。阿鹿里村の出身者だ」と告げる。しよりは驚愕し、圭一を凝視した。圭一は急ブレーキを掛け、しよりを失神させた。圭一と村人たちは、しよりを磔にして生贄の儀式を開始した…。

監督は深作健太、、原作は上甲宣之『そのケータイはXXで』宝島社刊、脚本は大石哲也、製作は千葉龍平&樫野孝人、製作委員会は田中迪&坂上順&石井徹&川崎代治&中西一雄&村山創太郎&古玉國彦&下島健彦、企画は劔重徹&高木政臣&遠藤茂行&幕内和博、プロデューサーは小池賢太郎&松橋真三&近藤正岳、企画プロデューサーは渡辺真喜子、アソシエイトプロデューサーは菅野和佳奈&莟宣次、協力プロデューサーは西口典子、撮影は小松高志、照明は松岡泰彦、美術は仲前智治、録音は益子宏明、編集は洲崎千恵子、VFXスーパーバイザーは諸星勲、アクション監督は横山誠、特殊メイク・造型は原口智生、音楽は池頼広、主題歌『こわれそうな愛の歌』(原題:Potential Breakup Song)はAly & AJ。
出演は松下奈緒、鈴木亜美、池内博之、小沢真珠、中川翔子、森下能幸、神威杏次、仁科貴、岩根あゆこ、岩尾望、倉田竜太郎、近藤大介、佐藤幸一、津本雅彦、徳大寺辰弥、原田信義、針原武司、宮崎邦重、矢島星児、浅井忠雄、小田桐一、岡田実、片山重滝、小松木嘉二、佐藤政昭、高橋孝夫、橋本宗篤、廣田美知男、福田七郎、保谷和明、横田一善、龍崎陽ら。
声の出演は小山力也。


上甲宣之の小説『そのケータイはXXで』を基にした作品。
監督は『同じ月を見ている』『スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』の深作健太、脚本は『DEATH NOTE デスノート』『DEATH NOTE デスノート the Last name』の大石哲也。
しよりを松下奈緒、愛子を鈴木亜美、圭一を池内博之、レイカを小沢真珠、弥生を中川翔子、八重を森下能幸が演じており、物部の声を小山力也が担当している。

冒頭、温泉に入っていた静が村人たちが追い掛けられて携帯で「阿鹿里村。助けて」とメールを打ち、捕まって左足を切り落とされたこと、その携帯をしよりが押入れで見つけたことが時系列を遡る形で描写される。
だけど、どうして最初にネタバレさせちゃうんだろ。
そういう構成だと、村で生贄の儀式が行われていること、しよりが標的にされることがバレバレになってしまう。
だから、そこから時間を遡り、それまでの流れを描いて行く過程に入った時に、どういう展開が待ち受けているのか、こっちは分かっているわけで、ハラハラドキドキ感が薄まってしまうのよね。

「こうなるだろうな」と確信していて、その確信通りに進んでいくという予定調和は、コメディーなら上手く作用するケースもあるだろう。でも、ホラーで予定調和がプラスに作用することって、ほぼ有り得ないでしょ。
わざとネタバレのように見せ掛けておいて、「そこに行き着くと思わせておいて、意外なドンデン返しが待ち受けている」というミスディレクションを狙っての描写なら分かるけど、そういうわけでもないし。
あと、松下奈緒と鈴木亜美は並列表記でダブル主演扱いなのに、アヴァン・タイトルで片方しか登場させないってのは、構成として上手くないと思うよ。

しよりと愛子がトンネルでレイカと遭遇した後、シーンが切り替わるとロープウェイ駅の近くにいる。どうやらロープウェイで山を登ってきたらしい。
ところが、車を降りてロープウェイを使わなきゃ辿り着かない場所のはずなのに、村の人間が車で迎えに来ている。
どういうことだよ。
それ以降も、
「ロープウェイ駅では携帯が全く使えなかったのに、温泉や森では普通に使えるようになる」
「阿鹿里村はネットに全くデータが無いような知られざる村のはずなのに、なぜか物部は東に古いトンネルがあるという、部外者では知りえないような詳細な情報まで知っている」
「顔が汚れたのに、シーンが切り替わると元に戻っている」
「動きに支障が出るほどの怪我を負ったはずなのに、いつの間にか元気になっている」など、引っ掛かる描写が色々と出て来る。

ひょっとすると、「ツッコミを入れながら見て下さいね」ということで、おかしな描写を意図的に入れているのかもしれない。
老婆の八重を男である森下能幸が演じているとか、その八重がお茶を入れる時にコントみたいに異常に手を震えさせるとか、その辺りで、「これはこれは純然たるホラーではなく、おバカなノリを狙っているのかな」という考えが頭に浮かぶ。
ただ、八重の登場シーンはそれだけで笑いとして成立するけど、前述したモノについては、ツッコミ担当がいるわけでもないから、単に「雑な作り」にしか見えない。
ネタに思えるほど誇張されているわけでもないし。

トンネルで不気味な女(レイカ)が現れるとか、ロープウェイ駅の近くに村の不気味な男たちがいるとか、森では不気味な物音がするとか、とにかく最初から「ここは不気味な村ですよ、怖いことが起きますよ」ということを執拗にアピールしている。
落差を付けておいて恐怖へ持ち込む、という計算は全くしていない。
最初から怖い雰囲気を醸し出すというのは、お化け屋敷と同じようなやり方だね。

しよりと愛子のリアクションが変。なぜ、しよりは森にいる時、物音がしただけで怖がってロッジに戻り、鍵を閉めるのか。まだ怖がるようなことは何も起きていないのに。怪奇現象を体験したとか、そういうわけでもないのに。
押入れの携帯を取る時の「恐る恐る」という態度も、それは怖がるの態度が先走り過ぎている。
怖がるのは、物部の「早く逃げろ」という言葉を聞いてからでいい。
その言葉を聞いたにしても、ノックへの反応はビビリすぎ。「既に不気味なことが周囲で起きている」という反応だぞ、それは。
しよりをビビらせるための仕掛けが弱いのよね。
八重は不気味だけど、それだけでは弱い。不気味と同時に滑稽な雰囲気もあるぐらいだしね。

あと、不気味な感覚を体験したり、物部の警告を聞いたりするのが、しより一人だけってのも上手くない。
しよりを最初からビビらせるのなら、その隣には「バカバカしい」と軽く考えるキャラを配置した方がいい。
愛子は、その役割を果たさないからね。
で、軽く考えるキャラが犠牲になることで、しよりが恐怖に見舞われる、という形にでもすればいいんじゃないの。
スクリーミング・クイーンを配置する類のホラー映画なんだから、観客だけでなく、そのスクリーミング・クイーンを怖がらせることを考えて物語を構成すべきでしょ。

物部は「日本には古来から災いから逃れるために若い女を神に捧げる風習があった。君がいる、その阿鹿里村でも」と語るが、すぐに「男たちが山へ木を切りに出掛けている間、女房たちが村から逃げ出さないように、男たちは女たちの左足を切った」と阿鹿里村の風習を説明する。
それは災いから逃れるための風習ではないだろ。
で、そんな風習から、なぜ時が経つと、村人が旅の女を捕まえて山へ捧げる儀式を行うようになるのか、そこの変遷がサッパリ理解できない。
しかも、「生き神にされた女たちは、左足を切られて山の祠に閉じ込められた」っていうけど、閉じ込める意味も良く分からない。死んだ女たちをミイラにして飾っているらしいけど、だったら閉じ込める手順って要らなくないか。
あと、それと村人が自分たちの足の腱を切るようになったのも、筋が通っているようで通っていない。自分たちは生贄じゃないんだから、腱を切る必要性は全く無い。それに腱を切ってしまったら、生贄に狙った女が逃げた時に追い掛けられないでしょ。

あと、村人たちが腱を切る目的について物部は「村から逃がさないために」と説明しているけど、本気で逃げようと思えば可能だと思うぞ。村には車もあるんだし。
実際、圭一は東京へ出ているじゃねえか。
っていうか、彼は「東京へ出るために腱をくっ付けた」と言っているけど、ってことは村でくっ付けたんだよな。
そんな医療技術を持つ奴が、その村にいるのかよ。
どういう村だよ、そこは。

弥生は親友が殺されるかもしれないという状態にあるのに、ものすごく落ち着いている。
それは「しよりを落ち着かせるために冷静に対処している」とか、そういうことではなくて、どこか真剣味に欠けているように感じられる。
それと、彼女が左足を怪我しているという設定は何か意味があるのかと思ったら、何も無いのよね。
伏線っぽく触れておいて放り出しているのは、ただの悪ふざけでしかないぞ。

なぜ愛子はレイカを見た時、怖がって逃げ出すのか。
そりゃあ確かに不気味ではあるけど、トイレに逃げ込んで隠れるってのは、ちょっと怖がり方が強すぎるんじゃないかと。
まるで相手が自分を襲ってくることが最初から分かっているかのようなリアクションだ。
でも、相手が凶器を持っているのを見たわけでもないし、その時点では相手の正体も分かっていないんだし、そのリアクションは不可解だ。

レイカが愛子の命を執拗に狙う理由は、愛子が彼氏を奪ったからだ。ようするに、村の風習や儀式とは何の関係も無い。
そんなキャラを登場させてどうすんだよ。
終盤にはレイカが村人たちと戦う展開があるが、なんだよ、そりゃ。
あと、なんでレイカは、しよりと愛子が村へ来ることを知っていたのか。
わざわざトンネルで待ち受けたり、温泉に姿を見せたりしたのに、そこでは愛子を襲わず、しばらく彼女を泳がせた意味は何なのか。

それまでビビりまくっていた愛子が、なぜか急に強気になってチェーンソーを振り回して戦うとか、もうメチャクチャだ。
チェーンソーを振り回して戦うにしても、「怖いけどやらなきゃ殺されるから」とか、そういう形にしておけよ。もしくは、強気な態度になるなら、少しずつ変化させていけよ。なんで急に変貌しちゃうのか。
急変を納得させられるようなきっかけも無いし。
簡易トイレを倒されたら、そこのドアを勢いよく弾き飛ばし、いきなり強気になっている。
もうさ、ホラー・アクションをやりたかったのなら、最初からそのノリでやれば良かったじゃねえか。
たぶん原作からは大きく外れてしまうだろうけど、別にいいんじゃねえの。

圭一はしよりを生贄にするつもりなら、なんで村人たちに包囲された彼女を助ける必要があるのか。
さらに言えば、車に乗せた後、なぜ「俺としよりが別れるように仕組んだのは、実は愛子なんだ」とか、「どうしてもお前とやり直したくて、愛子に頼んで、ここに来るのをセッティングしてもらったんだ」とか、適当なことをベラベラと喋る必要があるのか。
さっさと気絶させて村に戻ればいいじゃねえか。
どうせ村に戻ったところで気絶させているんだし。

ラスト近く、それまで小山力也の声で話していた物部が救出に駆け付け、しよりと愛子がイケメンだと思い込んでいると、振り向いたらフットボールアワーの岩尾望、というシーンがある。
明らかにギャグを狙っており、ってことは、やはりホラー・コメディーを狙っているのかもしれんけど、それにしては中途半端。
あと、物部は妹の静を助け出していないんだけど、それでいいのか。
静が生贄の儀式で祠に閉じ込められてから、まだ間もないはずだよね。だったら、まだ生きている可能性が高いんじゃないの。

(観賞日:2012年8月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会