『栄光への5000キロ』:1969、日本
レーシングドライバーの五代高行は恋人の坂木優子、フランス人レーサーのピエール・ルデュックと妻のアンナ、ケニア人メカニックのジュマ・キンゴリーで「ジプシー・クルー」というチームを組み、世界各地を巡っていた。五代とピエールはモンテカルロ・ラリーに参加し、順調に走行を続けていた。五代がチェックポイントに到着すると、ジュマはブレーキのパーツが気になって声を掛けた。マネージャーは彼を押し退け、五代に「次のチェックポイントにある」と告げた。
パーツの交換が必要だと考えたジュマは「危険だ」と言うが、五代は「心配するな」と笑顔を見せた。しかし彼はカーブが続く峠で事故を起こし、重傷を負って病院に搬送された。優子は病院に駆け付け、ジュマは面会を希望するが病室には入れなかった。ラリーで優勝したピエールは、アンナから五代の事故を知らされた。彼はジュマの元へ行き、責任を追及して殴り付けた。ピエールは「ジプシー・クルーは終わりだ」と通告し、アンナと共にトレーラーで去った。
その夜、アンナはホテルから優子に電話を入れ、寄り添う言葉を掛けた。ピエールが次の現場へ向かおうとすると、彼女は1人で行くよう促した。「今さら変更できない」とピエールが言うと、アンナは「五代は死にそうよ」と告げる。「俺に何が出来る?」とピエールが言うと、アンナは「それが貴方の口癖よ」と述べた。彼女が「リヨンに帰して。もう40歳になるのよ。トレーラーの中で死ぬなんて嫌よ。平凡な生活がしたい」と訴えると、ピエールは何も言わなかった。
退院した五代は日本グランプリに参加するため、優子と共に帰国した。2人は日本でのエスコートを担当する山崎が用意した車に乗り込み、スケジュール表を受け取った。2人はクラブに赴き、取材を受けた。五代は優子と3年も付き合って結婚しないのかと記者に問われ、何も答えなかった。山崎が迎えに来たので、五代は店を去ることにした。優子はラリーカレンダーで今後の予定を知っており、ずっとレースが続くことに対して「貴方は何も変わってない」と告げた。
五代は病院へ出向き、精密検査を受けた。ホテルに戻った優子はテレビを付け、ファッションデザイナーのジャック・シャンブロルが番組に出演しているのを見て驚いた。翌日、五代は日産本社へ出向き、山崎の案内で常務の高瀬雄一郎と会った。今回の日本グランブリに五代を招聘した一番の推薦者が高瀬で、五代は精密検査の結果を見せた。既に高瀬は病院長から連絡を受け、太鼓判を押されていた。彼は五代をヘリコプターに乗せ、特殊実験場へ案内した。日本グランプリ監督で特殊実験課長の竹内正臣は、五代と旧知の仲だった。五代は竹内がワークスチームと共に開発したレースカーに乗り込み、特殊実験場で試走させた。
優子は東急百貨店へ出掛け、ファッションショーを開いているジャックと再会した。かつて彼女はジャックのファッションモデルを務めていたが、五代に付いて行くために仕事を辞めていた。ジャックは仕事に戻るべきだと言い、五代と話すよう促した。五代はメカニックの江藤勉に、竹内との関係を語った。3年前の日本グランプリで、五代と竹内はレーサーとして最後までトップを争った。ラスト2周で五代が抜いた時、テールが竹内のノーズにクラッシュした。五代は優勝したが、竹内は事故を起こして病院に運ばれ、右腕の神経を切断していた。委員会では走路妨害と決められ、五代のチャンピオンシップは取り消された。しかし五代は江藤に、「あれは走路妨害じゃない」と断言した。
ホテルに戻った五代は、優子からジャックが日本に来ていることを知らされた。五代が全く気に留めず「明日からプラクティスだ」と就寝しようとするので、優子は「ジャックと一緒に京都へ行くわ」と話した。それでも五代が何の反応も示さないので、彼女はヒステリックに喚き散らした。翌日、優子は出発前にサーキットへ行き、五代からピエールがUACのファクトリーチームで日本グランプリに参加することを知らされた。五代が「日本グランプリが終わるまでに帰って来てくれるね」と言うと、優子は何も返答しなかった。
ピエールはチェッカーを狙おうとするが、監督から「本命は4位のフランクだ」と五代をマークするよう命じられた。トップを走っていた車がスピンし、五代と順位が入れ替わった。UACの監督はピエールをピットインさせ、1周待ってから五代の前に出て妨害するよう命じた。雨が降り出す中で命令を遂行していたピエールは、スピンしてリタイアに追い込まれた。しかしフランクが五代を抜いてトップに立ち、そのままゴールした。
五代も高瀬もレースの結果には満足しており、笑顔で握手を交わした。高瀬は「頼みたいことがある」と言い、ヨーロッパに発つ予定を3日間だけ待ってくれと頼んだ。ホテルのレストランではパーティーが開かれ、五代、アンナ、優子が行くとピエールが悪酔いしていた。心配したアンナが歩み寄ると、ピエールは「俺に触るな。君は何も知らん。俺が何をしたか、五代に聞いてみろ」と声を荒らげた。彼が「別れよう。もう俺たちはダメだ」と言うと、アンナは「貴方が望むなら構わない。でも覚えておいて。私は小さな平和が欲しかっただけ。あんな女にはなりたくなかった」と語った。
五代は高瀬の元へ行き、来年4月に開かれるサファリ・ラリーへの参加を要請された。高瀬は彼に、チーム監督の野村憲一と技術主任の西島保を紹介した。ホテルの部屋に戻った五代は、サファリ・ラリーのことを優子に話す。優子は「待ちたいけど、駄目なのよ。もう我慢できない」と泣き出し、五代は「今度のサファリ・ラリーだけは捨てられないんだ」と述べた。優子はジャックと共に、パリへ発った。五代は東アフリカ・モーター・スポーツ連盟に連絡し、ジュマの所在を教えてほしいと要請した。
ナイロビに渡った五代は2年ぶりにジュマと再会し、サファリ・ラリーでのナビゲーターを依頼した。東モンバサ港から車を運んだ彼らは、砂漠でトレーニングを行った。前を走るUACの車を目撃した五代は、対抗心を燃やしてスピードを上げた。彼はUACからサファリ・ラリーに参加するピエールと遭遇し、アンナとも再会する。アンナは五代から「ピエールの目的は?」と訊かれ、「彼は賭けてるの。勝てば私と別れる気よ」と答えた。
スタート順位の抽選会が開かれ、五代たちが会場に集まった。ラリーは東アフリカのケニアとウガンダの2ヶ国に渡り、5000キロの悪路を5日間で走破する。フィニッシュに戻って来る車は、10台に満たないと言われている。ドライバーにとって、抽選順位の運不運がレースの行方を大きく決定付ける。ピエールとナビゲーターのローズが乗るUACエスコートは、4号車という好位置に付けた。五代は90号車となり、日産のチーム会議では見捨てるべきだという意見も出た。しかし江藤の熱弁もあり、その意見は却下された…。監督は蔵原惟繕、笠原剛三 栄光への5000キロ より(荒地出版社刊)、脚本は山田信夫、製作は石原裕次郎&中井景&栄田清一郎、企画は蔵原惟繕&栄田清一郎、エクゼクティブ・プロデューサーは銭谷功、撮影は金宇満司、照明は椎葉昇、録音は紅谷愃一、美術は横尾嘉良、編集は鈴木晄&渡辺士郎、音楽は黛敏郎。
出演は石原裕次郎、三船敏郎、仲代達矢、ジャン=クロード・ドルオー、エマニュエル・リバ、浅丘ルリ子、アラン・キュニイ、伊丹十三、内藤武敏、笠井一彦、金井進二、武藤章生、玉川伊佐男、キナラ、ロバート・レイガン、ラリ・ウラバス、ジョン・チーデスタ、アーサー・スターク、フランチェスコ・ロメオ、ジョー・マーシャル、立花一男、鶴田忍、中吉卓郎、平田守、児玉謙次、坂本眸、井上初江、平川秀子、桧よしえ他。
ナレーターは鈴木瑞穂。
サファリラリーで日産のチーム監督を務めた笠原剛三のノンフィクション『栄光への5000キロ 東アフリカ・サファリ・ラリー優勝記録』を基にした作品。
監督は『愛と死の記録』『愛の渇き』の蔵原惟繕。
脚本は乱れ雲』『めぐりあい』の山田信夫。
五代を石原裕次郎、高瀬を三船敏郎、竹内を仲代達矢、ピエールをジャン=クロード・ドルオー、アンナをエマニュエル・リバ、優子を浅丘ルリ子、ジャックをアラン・キュニイ、野村を伊丹十三、山崎を内藤武敏、江藤を笠井一彦が演じている。最初に五代やピエールなど5人が浜辺で一緒にいる様子が映し出され、彼らがトレーラーで移動しながらレースに参加する様子が描かれる。
5人は「ジプシー・クルー」というチームなのだが、その名称はピエールがジャマに「もう終わりだ」と言うシーンまで分からない。
細かいことかもしれないけど、そのチーム名は最初の段階で分かっていた方が絶対にいいはずだ。
そして、それは浜辺で遊んでいるシーンで誰かに台詞で言わせれば済むことなので、簡単に消化できる作業だ。ピエールは五代の事故を知り、ジュマを激しく責める。ジュマはブレーキの交換が必要だと考えており、決して仕事を怠ったわけではない。なので、そこにはピエールの誤解があるのだが、それ以前の問題として「本当にブレーキのパーツが事故の原因なのか」と感じる。
まず、ジュマが危険だと警告したのに、五代はパーツを交換しないまま走り続けた。
さらに、峠の道ではナビゲーターが危険だと感じ、3度も「速すぎる」と助言したのに五代はスピードを落とそうとしていない。
その結果として車がスピンして事故を起こすので、「それは五代の無謀な運転が原因じゃないのか」と思ってしまうのだ。あと、五代とピエールはジプシー・クルーとして一緒に行動しているけど、レースでは全く別のチームでエントリーしているんだよね。
モンテカルロ・ラリーでも、ピエールが五代のナビゲーターを務めるのかと思ったら、そうじゃないのよね。
それが悪いとは言わないけど、だったら最初から「チームとして一緒に行動している」という設定は避けた方が良くないか。
あと、ピエールがジュマに怒るのは分かるけど、そのまま五代や優子に別れを告げずに去るのは、薄情すぎやしないか。モンテカルロ・ラリーで事故を起こした五代は意識不明の重体で病院に搬送されているのだが、普通に生活できる状態で帰国している。
退院するまでにどれぐらいの時間を必要としたのかは全く分からないので、「再起不能ぐらいの状態だったのに、すぐ元気になっている」という印象を受ける。
退院したとしても、まだ足を引きずったり、体のどこかに後遺症が残ったりしそうなものなのに、顔に少し傷が残る程度なのよね。
「その状態に戻ってから帰国した」ってことなのかもしれないけど、それは映画からは伝わらないからね。五代とピエールは「金で自由を奪われたくない」という理由でファクトリーチームに入らず、フリーランスで各地を転戦しているらしい。
だけどメーカーと契約しないフリーの状態で、わずか5人のチームが有名レースに次々と参加するってことは可能なのか。
レースの度に、スタッフやナビゲーターを雇っているのか。
そんな少数精鋭のチームなのにピエールがモンテカルロ・ラリーで優勝したのなら、そこがクライマックスでもいいぐらいの快挙じゃないのか。ジプシー・クルーはメカニックが1人で、女性2人も常にクルーとして参加しているわけではない。サーキットではピットで仕事をしているようだが、ラリーの時はホテルで待っている。しかもラリーとサーキットの両方のレースに参加しているが、それぞれの車は別物だ。
なので、合計4台を自分たちのトレーラーで運び、全てジュマが修理や調整を担当しているってことなのか。
「レースの度にチームと契約して走っている」ということなのかもしれないが、その辺りは映画を見ていても良く分からないし。
それにレースの度にチームと契約しているのなら、トレーラーでレースカーを運んでジュマが修理しているシーンがあるのは変だろ。
そもそも、そんな契約で何年もレーサー活動を続けることが可能なのか。あと、五代とピエールが異なるチームと契約しているのも引っ掛かるし。五代は高瀬と会った時に精密検査の結果を持参しているが、高瀬は病院長から太鼓判を押されたことを話す。
だけど何の問題も無かったのなら、精密検査のシーンを挟む必要性なんか無いでしょ。
その後、高瀬は五代をヘリコプターで特殊実験場へ案内する際、「UACの連中が視察に来た時も東京を案内した」と話す。すると回想シーンが挿入され、高瀬がUACという企業の人間と英語で喋っている様子が描かれる。
この回想シーンも、全く必要性が無いでしょ。映画開始から1時間ぐらいの段階で、日本グランプリがスタートする。上映時間は2時間55分であり、まだ1時間55分も残っている。
その時間配分で大丈夫なのか、早すぎるんじゃないか、どれだけレースに尺を使うつもりなのかと、不安を覚える。そして嫌な予感は的中し、ものすごく冗長になっている。
とは言え日本グランプリではないので、そこは20分ぐらいで終了する。
だけど大して面白くないし、そんなに盛り上がらないので、それでも「長いなあ」と感じるのは事実だ。レースの駆け引きがどうなっているのか、映像からは上手く伝わって来ないしね。日本グランプリが始まった直後、UAC監督が「作戦を見破られたな。作戦変更だ」と言い出す。
でも、ただレースが続く様子を見せられているだけなので、どういうことなのかサッパリ分からない。
どういう作戦を実行していたのか、何を見て監督は「五代に見破られた」と思ったのか。そもそも、本当に五代が作戦を見破ったのかどうかも分からないし。その時点では、まだトップはUACの車だし。
その後に五代がトップに立つので、それを受けて作戦を変更するなら分からんでもないけどさ。素人が知らない部分を細かいトコまで詳しく描いて、レース魅力を伝えようとしているわけではない。
そこに関わる人間の心情を丁寧に描き、ドラマを深く掘り下げているわけもない。
そういうことで、時間を掛けているわけではないのだ。ただレース風景を流しているだけの時間も少なくないし、シンプルに間延びしているだけなのだ。
そして20分の日本グランプリでもそんなことを感じてしまったわけだから、もちろんメインイベントになると、もっと残念な事態に陥るわけだが、それについては後述する。ジュマはメカニックだったはずなのに、五代が東アフリカ・モーター・スポーツ連盟に所在を教えてほしいと依頼する時は「ドライバー」と言っている。
それは妙だと思っていたら、五代はサファリ・ラリーでジュマにメカニックではなくナビゲーターとしての手伝いを頼む。
ようするに、ジュマをナビゲーターとして雇うためにはメカニックじゃ都合が悪いから、ドライバー扱いにしているわけだ。
だけどジプシー・クルーでは明らかにメカニックの仕事をしていたわけで、矛盾してるでしょ。それなら最初から、ジュマをドライバー設定にしておけばいいでしょ。別にジプシー・クルーの時も、メカニックじゃなきゃ絶対にダメなわけじゃないからね。
モンテカルロ・ラリーの時も、五代のナビゲーターをジュマが担当していた設定にすりゃいいでしょ。その設定でも、「ピエールが理不尽に怒る」という手順は余裕で消化できるし。
っていうか、彼が怒ってジュマを切り捨てなくても、どうせクルーは解散するんだから「ジュマがクルーと離れて東アフリカに帰る」ってのは同じことになるし。
もっと言っちゃうと、ピエールがジュマに激怒する手順が無くてもいいぐらいなのよ。それが後のドラマに繋がることは皆無なんだから。サファリ・ラリーに1時間ぐらいの尺を割いているのだが、その過酷さが充分に伝わって来るとは言い難い。
また、レースのスピード感や迫力、駆け引きの妙やチーム戦略の面白さ、息詰まる順位争いなども、全くと言っていいほど感じられない。
ハラハラも、ドキドキも、ワクワクも、ちっとも喚起されない。音楽に頼ることもやっていないし、モノローグの多用という方法も使っていない。
そういう道具を利用すれば何とかなった部分もありそうだが、何の細工も施さず、愚直なだけの映像に全てを背負わせている。五代がどのぐらいのポジションで走っているのか、前の車にどれぐらい迫っているのか、そういった情報も台詞やナレーションが無ければ全く分からない。
では、どうすればラリーの面白さを映像で表現できるのかと考えた時、かなり難しいんじゃないかと。少なくとも私は、すぐにはアイデアが思い浮かばない。
そうなると他の方法で、観客を引き付ける何かを用意しなきゃいけなくなる。例えば心理描写を多く持ち込んで、そこで緊張感を高めるとか。
とにかく、この映画だと、とにかくサファリ・ラリーの時間が本当に退屈で、ひたすら忍耐を強いられるのだ。(観賞日:2025年1月25日)