『エイトレンジャー』:2012、日本

2035年、日本の人口は7500万人に減少した。超少子高齢化によって、この国は歪んだ。国は存続を懸けて、ほとんどの国家機能を民営化し、「小さすぎる政府」計画を断行した。東京シティー、大坂シティー、名古屋シティーなど、主要都市のみが深く広い運河で囲われた。住むエリアによって受けられるサービスは大きく異なり、日本はモザイクのような分断国家に変貌した。日本は混乱し、円の価値は激しく落ち込んだ。政府は新通貨として「カン」を制定した。
子供はあらゆる意味で貴重な存在となり、その運命は6歳で決められた。教育庁が主催する全国小学一年センター試験において90点以上を取った子供とその家族、それに高額納税者だけが、国に守られたシティー暮らしを認められた。それ以外の者たちは国に見捨てられ、未来の無い街で貧しい暮らしを余儀なくされた。やがて荒廃した街にはテロリストがはびこり、子供たちの誘拐や人身売買などの悪事が横行した。そんな中で、ヒーローのみが街の唯一の救世主となった。
八萬市に住むニートの横峯誠は闇金に手を出し、借金取りのヤクザたちに追い詰められた。そこへヒーロー協会理事長の三枝信太郎が現れ、ヤクザたちを追い払ってくれた。彼は横峯に名刺を渡し、「困っているならば、私の所へ来ないか。君の活躍次第では、借金を肩代わりしてやってもいい」と持ち掛けた。八萬市にも警察署はあったが、市民を守ろうとはせず、捜査の請負には金銭を要求した。やる気の無い同僚たちに怒りを覚えた刑事の鬼頭桃子は、激しい言葉で糾弾する。すると同僚や署長たちは、「拳銃も支給されないのに、治安維持なんか出来るわけないでしょ」「危険なことは全部、ヒーローにお任せ」と口にした。
横峯がヒーロー協会の建物を訪れると、すっかり閑散としていた。三枝は横峯に、全国各地で「ダーククルセイド」と呼ばれるテロリストがはびこっていること、八萬市も彼らの第三部隊によって牛耳られていることを語った。ダーククルセイド総統も、第三部隊の指揮官であるミスター・ダークも、正体不明で謎の存在だ。ヒーロー協会に所属する100人のヒーローが彼らと戦っていたが、次々に命を落とし、今や7名しか残っていなかった。その内の1人は、八萬市の人々に良く知られているキャプテン・シルバーだ。
横峯は三枝から、シルバーを除く6名のリーダーに任命された。渋沢薫、村岡雄貴、丸之内正悟、安原俊、錦野徹朗、大川良介という6名は、頼り無さそうな連中だった。それぞれに色の異なるヒーロー用スーツが用意されており、横峯はブラックのスーツを与えられた。三枝は横峯に「ヒーローの心が一つになった時、エイトマークの力が解放されて空も飛べるようになる」と語り、スーツを使いこなせるようにトレーニングするよう促した。
横峯はトレーニングを始めようとするが、他の6人はスーツの使い方さえ分かっていなかった。今まで生き残って来たのは、ただ敵から逃げていただけだった。渋沢と村岡を除く面々は「金が貰えるからやっているだけ」と言い放ち、さっさと協会本部から去ってしまった。渋沢と村岡は横峯に、全員が闇金から金を借りていることを明かした。一方、他の4人は「ニコニコワーク」という職業案内所の前を通り掛かり、「ハティーへのパスポートを夢見る人に、超高収入の仕事を紹介します」というポスターを見つけた。4人は所長に勧められてエントリーシートに記入しようとするが、ヒーロー協会の給料日が2日後だと気付き、それを待ってから辞めようと考えた。
チェリーボーイの村岡は「一皮剥けてエイトレンジャーに革命を起こす」と宣言し、新米刑事の仁科遥を口説き落とそうと試みる。しかし彼女がシルバーに憧れていると知り、ショックを受けた。横峯と渋沢が村岡を慰めながら街を歩いていると、ダーククルセイド戦闘員たちが子供を拉致する現場に遭遇した。子供に助けを求められた横峯が前に出ようとすると、渋沢たちが「相手にするな。今の俺たちに勝ち目は無い」と制止した。
ヒーロー協会に集められたエイトレンジャーは、三枝から子供たちの救出任務を命じられる。丸之内や安原たちは「絶対に無理」と拒絶し、シルバーに任せようとする。しかし三枝の「スーツを使いこなせるようになったら時給1万カンにアップ」と言われ、目の色が変わった。横峯は自分の考えたトレーニング内容を披露するが、丸之内たちは「手っ取り早く、スーツを使いこなしている人に教わろう」と言う。丸之内、安原、錦野、大川はシルバーに声を掛け、リーダーになってもらおうとする。しかしシルバーは、「誰とも組まないのが私のポリシーだ」と断った。
丸之内たちは諦めず、シルバーの弱みを握って協力してもらおうと目論んだ。そこで彼らはシルバーを尾行し、アパートに乗り込んだ。彼らはシルバーの素顔を撮影して脅迫し、リーダーになってもらう。しかしシルバーが特訓を積ませようとすると、エイトレンジャーは舐めた態度を知った。シルバーは襲い掛かって来たダーククルセイド戦闘員たちを倒して老人の素顔を露呈させると、エイトレンジャーに「お前らは、こいつらと同じだ」と告げた。
エイトレンジャーが反発すると、シルバーは厳しい口調で「テロリストには、もはや革命を起こす心など残っていない。希望を失い、ただ金のためだけに略奪に走る。金のためにヒーローをやっているお前たちと、何が違う?心から人を救う覚悟を持たぬ者に、ヒーローを名乗る資格は無い」と批判した。横峯が「そうなったのは国が見捨てたから。だから僕たちは悪くありません」と反論すると、シルバーは「今のお前たちには、何を言っても分からないだろう」と告げて立ち去った。
丸之内、安原、錦野、大川はニコニコワークを訪れ、エントリーシートに記入した。遥は署長に人身売買ルートの根絶を訴えるが、冷たく却下された。署長は桃子と遥に、「やるなら2人だけでやりなさいよ」と告げた。横峯はシルバーを飲みに誘い、センター試験の不合格で母の聖子から責められた時に父が「ずっとお前を見守るから」と庇ってくれたこと、それなのに家族を見捨てて出て行ったことを明かす。そして彼は、三枝から「見捨てられたこの街を守る人間になってみないか」と誘われ、父がやらなかったことを自分がやってみようと考えてヒーローになったことを話した。
ニコニコワークの課長は、丸之内たちのエントリーシートの前職を記入する欄に「エイトレンジャー」とあるのを見つけた。横峯は出来ることから始めようと考え、渋沢と村岡を誘ってパトロールに出掛けた。桃子と遥は、ダーククルセイド戦闘員が子供たちをトラックで連行しようとする現場を張り込んでいた。桃子は出て行こうとするが、そこへ横峯たちが現れた。3人は戦闘員を倒そうとするが歯が立たず、子供たちはトラックで連れ去られた。桃子は戦闘員を倒し、3人を助けた。
桃子は大切にしている鈴を拾ってくれた横峯に、自分の過去を語る。彼女は両親を亡くしており、母は留置場で死んでいた。母は無実の罪で捕まったが、ある刑事が逃亡を手助けした。刑事は桃子に鈴を渡し、「困ったら鳴らしなさい。すぐに駆け付けるから」と告げた。だが、その刑事は桃子の母を警察署に突き出した。母は留置場で自殺したことになっているが、桃子は何かあったと確信しており、それを調べる目的で刑事になったのだ。
ニコニコワークの課長は丸之内、安原、錦野、大川を地下施設へ連行し、ダーククルセイド戦闘員としての本性を現した。丸之内たちが命乞いすると、ミスター・ダークは「シルバーとブラックを連れてくれば助けてやる」と持ち掛けた。1人だけ解放された錦野は本部へ戻り、横峯たちを発見する。しかし渋沢と村岡は身勝手な錦野を非難し、横峯は同行を拒否した。シルバーは「本当にそれでいいのか?」と3人に問い掛け、地下施設へ向かう。シルバーが捕まって丸之内たちが殺されそうになった時、横峯、渋沢、村岡が駆け付けた。横峯は戦闘員たちを倒すが、渋沢たちに「エイトレンジャーを辞める」と告げる…。

監督は堤幸彦、原案協力は関ジャニ∞、脚本は高橋悠也、製作指揮は藤島ジュリーK.&市川南&石橋誠一&長坂信人、製作は中村浩子&山内章弘&田中良明&福冨薫、プロデューサーは原藤一輝&中沢晋、撮影は斑目重友&杉村正視、照明は川里一幸、美術監督は相馬直樹、録音は鴇田満男、編集は伊藤伸行、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太、VFXスーパーバイザーは野崎宏二、スタイリスト/コスチュームデザインは袴田能生、音楽は長谷部徹&Audio Highs。
主題歌「ER」エイトレンジャー、作詞/作曲:UNIST、編曲:久米康隆。
出演は横山裕、渋谷すばる、村上信五、丸山隆平、安田章大、錦戸亮、大倉忠義、ベッキー、舘ひろし、東山紀之、上島竜兵、竹中直人、蓮佛美沙子、田山涼成、石橋蓮司、六平直政、野添義弘、佐藤二朗、高橋ひとみ、加藤侑紀、吹上タツヒロ、黒石高大、辻本一樹、蛇電炎、吉永秀平、迫田孝也、稲垣雅之、出口哲也、奥村幸礼、辞本直樹、辻本耕志、竹森千人、吉田ウーロン太、屋良学、山野海、加藤直美、仲田育史、松村真知子、伊藤俊、宇田卓也、遠藤誠、玄也ら。


ジャニーズのアイドル・グループ「関ジャニ∞」がコンサート中のコントで演じていたキャラクター「関ジャニ戦隊∞レンジャー」を基にした作品。ただしキャラクターや世界観の設定がコンサートとは大幅に異なっている。
脚本を担当したのはTVドラマ『怪物くん』やTVアニメ『TIGER & BUNNY』の高橋悠也で、映画は本作品が初めて。
監督は『BECK』『はやぶさ/HAYABUSA』の堤幸彦が担当。
横峯を横山裕、渋沢を渋谷すばる、村岡を村上信五、丸之内を丸山隆平、安原を安田章大、錦野を錦戸亮、大川を大倉忠義が演じている。
エイトレンジャーのキャラクター設定はコンサートと異なっているが、担当カラーは同じだ。
他に、桃子をベッキー、シルバーを舘ひろし、ダーククルセイド総統を東山紀之、ヒーロー協会志願者を上島竜兵、警察庁長官を竹中直人、遥を蓮佛美沙子、八萬署の署長を田山涼成、三枝を石橋蓮司が演じている。

最初の10分程度で、「ああ、これはダメな映画っぽいな」と感じた。
近未来の世界観をナレーションで一気に説明してしまうのも、その世界観が無駄に細かいのもマイナス。
もちろん、SFの要素が含まれる映画の場合、特にディティールってのは重要だ。だが、この作品に関しては、特撮ヒーロー物のパロディー・コントが原案であることを考えれば、そんなに丁寧に説明する必要は無くて、「何となく」でいいのよ。
そもそも近未来じゃなくて、現代でも構わない。その中で近未来的な装置や設定が登場しても、「特撮ヒーロー物」という概念があれば、そこはスンナリと受け入れることが出来る。
だから街の風景も普通でいい。

特殊な世界観に設定したことが、むしろマイナスに作用している。
「6歳で人間の運命が決まる」など、我々の世界とは異なる生活環境で育った設定にしてあることで、エイトレンジャーが「等身大ヒーロー」ではなくなっている。
しかし横峯たちのキャラ設定からすると、それは特殊な世界観じゃなくて「我々の住んでいる現代日本」であっても成立する。
それなら、普通に「現代の日本」の設定にしておけばいい。近未来の特殊な世界観にしていることのメリットが見えて来ない。
新しい通貨まで設定しているけど、「時給1万カンにアップ」とか言われても、1カン(実際の表記は「もんがまえ」の中に「千」)の価値がイマイチ良く分からんから、ピンと来ないし。

物語の舞台が大阪じゃないってのは、意外に大きなマイナス要素だ。
関ジャニ∞が関西弁を使って演技をしており、しかもコンサート中のコントがモチーフってことは「関ジャニ∞」であることが前面に押し出されているわけで。
だったら、大坂を舞台にするってのはマストじゃないかと思うぞ。
しかも、「東京シティー」「大阪シティー」など都市が分割されているという世界観の設定まであるわけで、余計に大阪を舞台にして「東京との差別化」を図るべきじゃないのか。

新たにスカウトされるメンバーは横峯だけで、他のエイトレンジャーのメンツは最初から揃っているというのはダメでしょ。
そこは7人が集められる形にしておかないと。
そうじゃないから、「なぜか新入りなのにリーダーに任命される」という不自然な点が生じており、そこに納得のいく説明も用意できていないし。
上映時間の都合も考えて、1人ずつスカウトして集める過程を排除したのかもしれないけど、近未来の特殊な世界観にこだわるぐらいなら、そっちに手間を掛けるべきだよ。

モチーフになっているコントは「特撮ヒーロー物のパロディー」を意識しているはずだが、この映画版はアメコミのテイストを持ち込んでいる。おまけに、パロディー的な要素は著しく薄まっている。
そりゃダメでしょ。
映画用にキャラクター設定を変更するのは構わないけど、「特撮ヒーロー物のパロディー」ってのは踏襲すべきじゃないか。
そこを外して、やたらとシリアスな世界観設定にしているのは納得しかねる。
そのせいで、たまに出て来る喜劇シーンが上手く馴染まないし。もっと徹底してコメディー寄りに作ればいいのに。

エイトレンジャー全員が闇金から金を借りていることが明らかになるとか、シルバーを脅してリーダーになってもらうとか、コメディー色が濃くなっていく時間帯があるが、「だったらオープニングのシリアスすぎる設定は邪魔だろ」と感じるし、その一方で「話の進め方が上手くないんじゃないか」とも感じる。
既に子供たちの拉致が横行している状況が描写されており、エイトレンジャーは三枝から奪還の任務まで命じられている。横峯が目の前で子供から助けを求められるシーンまである。
そんな中で、報酬アップのためにスーツの使い方を教わろうってのは、「そこから始めるのかよ」と言いたくなってしまう。状況はもっと深刻で切羽詰まっているわけで。
つまり、シリアスとコミカルの融合や配分が上手く出来ていないんだな。

先に「深刻な悪事が横行している」ってのをアピールしちゃってるから、そんな状況なのに役立たずの状態からヒーロー修業を始めるという喜劇的な展開がミスマッチになっている。
「ヒーロー協会という胡散臭い団体にスカウトされた若者が、金目当てでヒーローになる。訓練が厳しいので嫌気が差して辞めようと考える。そんな中で本物の悪党が現れて人々が危険にさらされ、ヒーローが必要になる」というぐらいの展開で良かったんじゃないか。
それはベタ中のベタだけど、そこを無理に捻っても、上手く転がる可能性は決して高くない。
実際、この映画だって、意図的に捻ったのか、ただ単に雑なのかは知らないけど、失敗しているわけだし。

そもそも、「金のためにヒーローをやってる」というのを肯定する形で、コメディーとして作れば良かったと思うのよ。
だけど、そこを全否定して「ヒーローとは何ぞや」ってのを真面目に語ろうとするんだよな。
それって明らかにアメコミ映画に感化されすぎているし、しかもアメコミ映画をパロディー化するんじゃなくてマジにやっちゃうんだよな。
真剣に取り組むのは、もちろん大いに結構だ。
だけど、真剣にふざけりゃ良かったのよ。

桃子の過去に関しては、明らかに欲張り過ぎで、処理能力が追い付いていない。
そもそも横峯の過去でさえ邪魔だと感じるぐらいなのに。やたらと「信じていた人に裏切られる辛さ」ってのをアピールしており、桃子だけじゃなくて横峯と錦野にも同様の設定を用意して、そこをテーマに据えているけど、上手く表現できているとは思えない。
っていうか、それ以前の問題として、そんなテーマ、要らない。
だけど、桃子が語った20年前の事件には、実は横峯も繋がりがあって、しかもミスター・ダークもその事件の復讐が目的で動いており、警察組織も総統も絡んでいることが明らかになる。
ようするに、その事件が物語の核なのよね。
要らないわあ、そういうミステリー。もっと単純に、ダーククルセイドは「日本征服を目指す悪の組織」でいいのに。

ミスター・ダークの行動目的を「20年前の復讐」ってことにしちゃうと、「ダーククルセイドが子供の拉致と人身売買を繰り返しており、それをヒーロー協会が止めようとしている」という図式が無関係になってしまうでしょ。
最初に提示された「日本が分断国家になって、新通貨が制定されて、子供の運命は6歳で決められて」という世界観と、「桃子が刑事に裏切られて云々」というエピソードも、これまた全く関連性が無いし。
最初の特殊な世界観を説明したのなら、そこを使って物語を作るべきじゃないのか。

ダーククルセイドの総統はチラッと出て来るだけで、エイトレンジャーとは一度も絡まない。
だから当然のことながら、悪の組織は残ったままで話が終わっている。
総統は「力による再生を」という野望を持っているらしく、どうやら彼とエイトレンジャーの戦いも、最初に提示した世界観と関連させた物語も、続編でやるつもりのようだ。
だけど、最初から続編を狙って製作するにしても、とりあえずは最初に提示した世界観を使ったり、敵のボスと戦わせて一応の決着を付けたりすべきだわ。

(観賞日:2014年3月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会