『映画ドラえもん のび太の宝島』:2018、日本

帆船に乗って冒険をしていたドラえもん、しずか、ジャイアン、スネ夫は、宝島を発見した。そこへキャプテン・シルバーの率いる海賊が襲い掛かると、船長ののび太が現れた。のび太は一騎打ちでシルバーを退治し、ドラえもんたちと小舟に乗って洞窟を進んだ。大きな扉を開けた一行は、財宝を発見した。その出来事は全て、のび太の妄想だった。空き地にいた彼は、地震の揺れで我に返った。のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫は、出木杉から小説『宝島』の内容を聞いていたのだ。
出木杉はのび太たちに、『宝島』を題材にして現代に海賊が現れる小説を執筆中だと話す。しずかが「素敵」と目を輝かせると、のび太は嫉妬して「小説なんかじゃなくて、本物の宝島へ行こうよ」と言い出す。出木杉が困惑した表情で「海賊が財宝を隠したというのは、後世に書かれた作り話なんだ」と告げると、ジャイアンとスネ夫はのび太を馬鹿にして笑う。のび太は悔しがり、「必ず宝島を見つけるんだ」と宣言した。ジャイアンとスネ夫に「見つからなかったら?」と問われた彼は、鼻からカルボナーラを食べると約束した。
のび太は家に戻り、ドラえもんに助けを求めた。のび太が同情を誘う芝居を打つと、ドラえもんは「宝探し地図」を出した。ドラえもんは「たぶん見つからないと思うよ」と言うが、のび太が太平洋沖に針を刺すと地図が反応した。「太平洋の真ん中に島なんて無かったはず」とドラえもんは驚くが、テレビのニュースでは新しい島が誕生したことが報じられていた。それを見たのび太が興奮して「今すぐ行こう」と口にすると、ママが「夏休みの宿題はどうしたの」と叱り付ける。パパはのび太から「分かってくれるよね」と同調を求められるが、ママに睨まれたので「そういうのは宿題を片付けてからだな」と告げた。のび太は憤慨し、家を飛び出した。
誕生した島にはガガとビビの夫婦がおり、取材ヘリコプターの接近に気付いた。ヘリコプターのカメラマンは人間がいるのを見て驚くが、噴火で映像が途絶えるとガガ&ビビの姿は消えていた。これ以上は危険だとパイロットが判断し、ヘリコプターは島を離脱した。のび太はドラえもんに「組み立て帆船」を出してもらい、しずかを誘って乗り込んだ。海に出たのび太は船にノビタオーラ号と名付けるが、雰囲気が出ないことに不満を漏らした。そこでドラえもんが「なりきりキャプテンハット」を使い、辺りをカリブ海の景色にして自分たちの服装も変化させた。ハットを被った者が船長で、その命令は絶対だとドラえもんは説明した。
ジャイアンとスネ夫は新しい島へ一番に上陸しようと考え、イカダを漕いでいた。2人はドラえもんたちの帆船を見つけ、乗り込んだ。ドラえもんはしずか、ジャイアン、スネ夫に新しい島が宝島だと話し、全員で目指すことになった。ドラえもんはミニドラを出し、船員として使う。夜になるとドラえもんは、目的地への針路を示す蛍光方向クラゲの種を出した。しずかは1匹のクラゲが水を怖がるのを見つけ、ポケットに入れて部屋に運んだ。
翌朝、ドラえもんたちは島に近付くが、ガガとビビが海賊を率いて襲い掛かって来た。ドラえもんたちはひみつ道具で応戦するが、すぐに制圧されてしまう。しかし島が沈み始めたため、一味は急いで戻ることにした。ビビはしずかをセーラという少女と間違えて連れ去り、水中に沈んで逃亡した。ドラえもんたちは近くに浮かんでいたフロックという少年を捕まえ、一味の行き先を聞き出そうとする。フロックのペットロボットであるクイズがなぞなぞを出すと、ドラえもんが正解した。
フロックはドラえもんたちに、島は海賊船のカモフラージュであること、潜水艦に変化して潜航中であることを話す。さらに彼は、一味が時空海賊であること、自由自在に形を変える海賊船を作って海底に眠る世界中の財宝を集めていることを語った。フロックはメカニックとして働いていたが、船長のシルバーが嫌になって逃げだしたのだという。彼は妹のセーラが残っていることを話し、写真を見せる。しずかがセーラに間違えられたと悟ったドラえもんたちは、助けに行こうとする。しかしフロックは、「海賊船は遥か遠くに行ったし、現在地は分からない」と述べた。
しずかは海賊船に連行され、海賊たちによってセーラの部屋に案内された。料理中だったセーラはしずかと遭遇して驚くが、彼女が海賊に気付かれないよう匿った。ドラえもんはクイズの出したなぞなぞを解き、「宝探し地図」で海賊船の位置を突き止めた。のび太はフロックに、しずかとセーラを助け出すために力を合わせようと持ち掛けた。セーラはしずかにフレンチトーストを提供して「必ず貴方を守るわ」と言い、兄が父と喧嘩して船から出て行ったことを語った。
セーラは海賊船の食堂「マリア亭」でパンを焼いており、女将のマリアに事情を説明してしずかを働かせてもらう。セーラはしずかに、マリア亭は治外法権なので安全だと言う。マリアはしずかに、シェフのムッシュを含む食堂の男たちにも秘密を守るよう命じていると話す。セーラはフレンチトーストが母の得意料理だったこと、5年前に病死したことをしずかに語った。仕事が終わった後、彼女はしずかを連れて、本来は立ち入り禁止の部屋へ行く。兄がロックを解いたため、入れるようになったのだと彼女は話す。その部屋には、海賊船が世界中の海底から集めた財宝が保管されていた。セーラは父が「いつか財宝が役に立つ」と言っていたこと、上で働いているが長く会っていないことを語った。
ドラえもんたちは低気圧の接近に気付くが、船が岩礁に激突して底に穴が開いてしまう。一行は島を見つけた直後、嵐に見舞われた。全員が協力して船を操り、何とか難破を免れた。一行は島に上陸するが、船はボロボロになった。フロックは修理を引き受け、一行は翌朝まで島でキャンプすることになった。一方、しずかは隠していたクラゲに、のび太たちに知らせるよう頼む。クラゲは海に入ることを怖がるが、しずかに懇願されると勇気を出して飛び込んだ。
フロックは翌朝までに船を修理しただけでなく、性能をアップさせた。ドラえもんは風神うちわを使い、船のスピードを上げる。フロックはのび太から、海賊船に乗っている理由を問われた。フロックは彼に、海賊船が元々は科学者だった母のフィオナが設計した物だと話す。フロックの両親は新しいエネルギーを見つけ、地球の力を少しだけ分けてもらって誰もが幸せになるための研究を続けていた。しかしフィオナが1年前に死亡してから、夫のシルバーは豹変して研究に没頭した。フロックは少しでも力になろうとメカニックの勉強を積んだが、シルバーは船を海賊船に改造して財宝を集め出したのだ。のび太とフロックが話していると、クラゲが船に辿り着いた。
シルバーは目的地に着くと、ホログラムで海賊船の乗員の前に姿を見せた。彼は地球が破滅する未来を見ており、ノアの方舟計画の遂行を宣言した。シルバーは「人類を救うには、地球を捨てて新天地を求めるしか道は無い」と考え、そのために地球の膨大な星体エネルギーを取り出して新たな星へ向かうことを決めていた。彼は乗員に計画を説明し、「心配は要らない。現状の地球への影響は限定的だ」と話す。そこへドラえもんたちの帆船が近付くと、しずかはセーラの制止を聞かずに外へ出た。
シルバーはドラえもんたちに、邪魔をせず立ち去るよう要求した。フロックはシルバーから戻るよう促されるが拒絶し、セーラに自分たちの元へ来るよう訴えた。シルバーは渦潮を発生させ、ドラえもんたちの帆船は飲み込まれてしまった。じすかは海賊に捕まり、逃がそうとしたセーラは海に転落した。ドラえもんたちは救命イカダで助かり、セーラはフロックに救われた。ドラえもんはシルバーの目的地が海底火山の並ぶ場所であり、そこから湧き出る熱エネルギーを吸い取るつもりだと悟った。ドラえもんたちはフロックの作った水上バイクを使い、海賊船へ向かう…。

監督は今井一暁、原作は藤子・F・不二雄、脚本は川村元気、企画原案は藤子プロ、プロデューサーは吉田健司&高橋麗奈&川北桃子&松井聡、チーフプロデューサーは大倉俊輔(藤子プロ)&大金修一、絵コンテは今井一暁、演出は八田洋介、総作画監督 キャラクターデザインは亀田祥倫、色彩設計は松谷早苗、美術監督・美術設定は秋山健太郎&河合伸治、撮影監督は末弘孝史、編集は小島俊彦、録音監督は田中章喜、音楽は服部隆之。
主題歌「ドラえもん」星野源 作詞・作曲・編曲:星野源、間奏作曲:菊池俊輔。
挿入歌「ここにいないあなたへ」星野源 作詞・作曲・編曲:星野源。
声の出演は水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昂、関智一、三石琴乃、松本保典、萩野志保子、金元寿子、大泉洋、長澤まさみ、高橋茂雄(サバンナ)、山下大輝、折笠富美子、悠木碧、大友龍三郎、早見沙織、勝杏里、乃村健次、鳥海勝美、陶山章央、亀井芳子、一条和夫、渡辺宜嗣ら。


TVアニメ『ドラえもん』の劇場版シリーズ第38作。声優交代からは13作目。
TVシリーズの演出&絵コンテを手掛けている今井一暁が、初めて劇場版の監督を務めている。
脚本は映画プロデューサーの川村元気。
ドラえもんの声を水田わさび、のび太を大原めぐみ、しずかをかかずゆみ、ジャイアンを木村昂、スネ夫を関智一、のび太のママを三石琴乃、のび太のパパを松本保典、出木杉を萩野志保子、ミニドラを金元寿子が担当している。
他に、シルバーの声を大泉洋、フィオナを長澤まさみ、トマトを高橋茂雄(サバンナ)、フロックを山下大輝、セーラを折笠富美子、クイズを悠木碧、ガガを大友龍三郎、ビビを早見沙織が担当している。

冒頭で描かれるのは、『宝島』の物語を聞いているのび太の妄想だ。だったら、船長になった彼がカッコ良く活躍する姿を描くべきだろう。
ところが、勇ましく登場したのび太が床に開いた穴に落下するとか、樽に乗ってしまってバランスを崩すとか、そういう情けない様子も含まれているのだ。
本人の妄想なのに、それは不可解だ。
それが妄想だとバレないようにする狙いがあったのかもしれないが、だとしても全く要らない。そこはのび太の妄想だとバレバレでも、何の問題も無いのだ。

その妄想シーンには、別の問題も含まれている。
のび太が帆船でシルバーと戦って倒した後、シーンを切り替えて「小舟で洞窟を進み、扉を開けて財宝を発見して」という風に話を進めているのだ。
そこは1つのシーン、1つのシチュエーションで終わらせた方がいい。
財宝を見つける展開まで進めないと、「のび太が現代の宝島を見つけようと言い出す」というトコに繋がらないという事情は分からんでもない。
でも、シルバーを倒した後もシーンを切り替えて話を進めると、ダラダラして間延びしてしまうのだ。

序盤から「いつもの劇場版とは雰囲気が違うな」と感じる。キャラクターデザインは大幅に変更されているのだが、それよりも演出面での違いを強く感じる。
例えば、のび太が宝島を見つけると宣言した直後、「八百屋の前を人が歩いている」というカットを挿入する。のび太が鼻からカルボナーラを食べると約束すると、パパがカルボナーラを食べているシーンが挿入される。
その辺りは、いつもと違っていても、面白いリズムになっていると感じる。
ただ、「主題歌が流れてオープニング・クレジットに入る」という手順を無くしたことについては、賛同できない。
変化を付けたかったのかもしれないが、そこは「主題歌でオープニング・クレジット」というシリーズの定番をやった方が、「これから物語が本格的に始まります」という風に観客の気持ちを盛り上げることが出来るはずだ。

宝島を見つけたいのび太はドラえもんの同情を誘うため、「鼻からカルボナーラを食べる練習をする」と神妙な表情で言う。ドラえもんは泣きながら「そんなことはさせられない」と言い、秘密道具を出す。
だけど、そこのドラえもんの反応は違和感がある。むしろ、のび太に呆れながらも、仕方なく道具を出すという行動の方が腑に落ちる。
その後、のび太がパパと口論になる展開があるが、これも違和感が強い。
パパとの絡みを無理に盛り込んでいるという印象が強い。後で「シルバーと子供たちの関係」を重ねようとする狙いがあり、伏線として用意しているんだろうけど、それも上手く行っているとは言い難いし。

のび太は賛同してくれなかったパパに憤慨して家を飛び出し、「1人でも宝島を見つけてやる」と宣言する。
でも、そんな手順が無くても、そもそものび太はジャイアンとスネ夫に「宝島を見つける」と約束しているわけで。つまり、パパとの口論で家を飛び出す手順は、全く意味が無いのだ。
それに、のび太は出木杉への嫉妬心やジャイアン&スネ夫への対抗心から「宝島を見つけよう」と考えたはず。
それが、いつの間にか「両親に腹を立てて家出を決意し、その一環として宝島の捜索に出掛ける」ってことに摩り替っているのよね。

ジャイアン&スネ夫が新しい島に一番で上陸するためイカダを漕いでいるってのは、かなり無理がある展開だと感じる。
ドラえもんたちと2人を合流させなきゃいけないから、そういう形を取っていることは良く分かるよ。でも分かった上で、ものすごく強引だと感じるのだ。
例えば、のび太がしずかを誘う時に、たまたまジャイアン&スネ夫が通り掛かるという形でもいいんじゃないかと。そうやって出航の時に全員を集合させておいた方が、何かと都合がいい。
この映画だと、帆船を大きくして出航し、なりきりキャプテンハットで周囲の光景を変化させた後で、ジャイアン&スネ夫が合流している。なりきりキャプテンハットを使った時点で冒険気分は一通り揃っているのに、その後でジャイアン&スネ夫が合流し、ドラえもんが事情を説明して「宝島へ向けて出発進行」と宣言する手順になる。
これだと話のテンポが悪いのよね。

海賊が帆船に乗り込むとドラえもんたちはひみつ道具で戦い、一時的に相手を圧倒する。だけど結局は制圧されてしまうので、それなら「ひみつ道具で一時的に相手を圧倒する」という手順は無くてもいいんじゃないかと。
たぶん、ビビが剣で空気を切り裂いたり、ガガの腕が伸びたりする様子を盛り込むことで、普通の人間じゃないってのを示しておきたかったんだろう。
でも、そのアピールが上手く行っているとは思えない。
それに、そのアピールは、普通に制圧する手順を踏むだけでも描写できることだ。

ビビがしずかをセーラと間違えて連れ去るのは、かなり無理のある展開だ。
顔が瓜二つだから間違えたのに、しずかの髪止めが外れるまでセーラだと全く思わないという不可思議な点については、とりあえず置いておくとしよう。
でもビビがセーラとして呼び掛けたのにしずかが嫌がって抵抗した時点で、変だと気付くはずでしょ。そもそも、本物のセーラだったら、普通に海賊と戦っている時点で不可解なんだし。
つまり、「瓜二つなので驚くけど、別人ってことは認識する」ってのが普通の反応じゃないかと。
「ファミリー映画なのに、細かいことをネチネチと指摘するなよ」と思うかもしれないけど、そこは下手な子供騙しに思えちゃうのよね。

海賊がしずかをセーラの部屋に案内するってのも、おかしな話だ。海賊船でセーラは仕事をしているのに、海賊がしずかを彼女と間違えているのは、どういうことなのかと。
「それぐらい海賊がバカなのだ」ってことかもしれないけど、それにしても無理があり過ぎるよ。
この映画が持ち込んでいる「しずかがセーラと誤解されて海賊船へ連行される」という展開は、「セーラが行方不明」とか「セーラか船を飛び出している」という設定でやるべきことじゃないかと。
用意した展開を成立させるための無理がデカすぎるのよ。

セーラはマリア亭でしずかを働かせ、「ここは治外法権だから、どこよりも安心」と言う。
だけど海賊船の中で治外法権の場所があるって、どういうことなのかサッパリ分からんよ。船長や海賊が介入できない場所があるとしたら、どういう組織体系なのかと。
マリアは事情を知った上でしずかを匿っているけど、船長に反抗するようなことになるわけで、だとしたら海賊船に乗っている理由は何なのかと。
あと、マリアは食堂の男たちに秘密にするよう命じているけど、それが守られる保証は無いだろ。それに、店に来た海賊がしずかに気付く恐れも充分に考えられるわけで。

それとさ、その食堂にずっと匿われているわけじゃなくて、仕事が終わったらセーラはしずかを連れ出して遊びに行くんだよね。だから、ちっとも「海賊にバレないように」と気を付けている様子が見えないぞ。
っていうか根本的な問題としてさ、しずかの存在が海賊に露呈して、何か問題があるのかな。
見つかったら殺されるとか、拷問に掛けられるとか、そういう危険があるのかね。
その辺りがボンヤリしているので、「しずかの存在がバレたらマズい」というトコのスリルが弱くなっちゃうのよね。

フロックは時空海賊について、「過去、現在、未来を行き来し、世界中の海底に眠る財宝を集めている」と語る。
だけど、目的に対して行動が合致していないでしょ。海底に眠る財宝を集めるのに、時空を行き来する必要性がどこにあるのか。
未来の世界だと他の誰かが財宝を回収しているから、その前に入手するため過去へ来ているってことなのか。でも、どうせ過去へ行くなら、海底に沈む前に手に入れることも可能なんじゃないか。わざわざ海底に眠ってから回収するより、そっちの方が手間が省ける可能性も高いんじゃないか。
色んな時代を感じさせる財宝があるのかと思ったら、セーラがしずかを部屋に案内するシーンで集められている王冠や剣や首飾りなどは、全て古い時代の財宝にしか見えない。なので、それを集めるために色んな時代を行き来する必要が乏しいんじゃないかと。

シルバーのノアの方舟計画という目的が判明すると同時に、整合性が取れていないことも露呈する。
ノアの方舟計画のために動いているのなら、なぜ海賊船の船長という形を取る必要があるのか。
その目的を乗員の誰も明かさず進めているのも、どういうつもりか分からない。
また、乗員だけを救おうとしていることになるが、略奪行為を喜んで繰り返すような奴らばかりなのに、それでホントにいいのか。そこは「人類の唯一の希望」なんだから、ある種の選民思想が入っても良さそうなものなのに。

シルバーは計画を乗員に説明する時、「自分たちの子や孫が、新天地では今までに集めた富と共に新しい国を築くだろう」と話す。
だけど、シルバーが集めた財宝って、宝石とか黄金でしょ。そんな物が、新しい星で役に立つとは到底思えないぞ。
地球とは全く環境が違うし、宝石や黄金に価値を見出せるような場所じゃないことは明白でしょ。下手をすれば、何も無い不毛の地をゼロから開拓しなきゃいけないわけで、そこで宝石や黄金なんて何の役にも立たない荷物でしかないぞ。
だからシルバーが財宝を集めていたことは、全く意味の無い愚かな行為になってしまうのだ。

ドラえもんはシルバーの計画を知ると、「大変なことになる」と危機感を見せている。だけど具体的に、何がどう大変なのかは全く教えてくれない。
シルバーは「地球への影響は限定的」と言っているので、だとしたら深刻に考える必要は無いんじゃないかと思ってしまうのだ。
観客の危機感を煽りたいのなら、ドラえもんが「地球のエネルギーを吸い取られたら大変なことになる」と言った時点で、具体的な危機を説明すべきだ。シルバーの計算が間違っているとすれば、それを指摘すべきだ。
シルバーの「影響は限定的」という計算が正しいとするならば、彼の計画を阻止する必要は無くなってしまう。しずかさえ救出すれば、それで事足りることになってしまう。

フロックは渦潮から助かった後、「自分だけ助かろうなんて許せないよ。僕が嫌いだから置いていったんだ」とシルバーへの怒りと嘆きを示す。
だけどシルバーが海賊船へ戻るよう促した時、彼は「もう父さんは僕の知ってる父さんじゃない」と拒否していたはずでしょうに。自分の意志で戻ることを拒否しておいて、今さら「父は自分が嫌いだから置き去りにした」とか言い出すって、支離滅裂じゃねえか。
あと、そこでのび太とパパの関係を重ねようとしているけど、まるでドラマとして機能していないからね。
何しろ、そこまでにのび太がパパを気にする様子なんて皆無だったし、パパが心配している様子を挟むことも無かったし。

もちろん最終的には「問題は解決してハッピーエンド」という形にしてあるのだが、そこには大きな欠陥がある。
何しろ、肝心の問題は解決していないのだ。
「ドラえもんたちはシルバーの計画を阻止しました」ってのを「問題解決」としてているけど、そうじゃないでしょ。
シルバーは地球の破滅を知ったから、計画を進めていたわけで。つまり「いずれ地球が破滅する」という危機を何とかしないと、根本的な解決とは言えないのよ。

そりゃあ地球の破滅を防ぐってのは容易じゃないし、そこまで手を出すのは厳しいかもしれない。
でも、そういう問題が起きることを劇中で描いたのなら、せめて解決の糸口ぐらいは示さないとダメでしょ。
そうじゃないと、ドラえもんたちは「人類の危機」という観点から見ると極悪人になっちゃうぞ。
シルバーは身勝手で強引だったかもしれないけど、人類を救おうとしていたんだぞ。それなのにドラえもんたちは、近視眼的にしか物事を捉えることが出来ず、人類を滅亡に導いたってことになるだろ。

シルバーが「子供たちの未来を救わなければならない」と言った時、ドラえもんは「それで地球が滅びてしまってもいいの?」と告げる。
でも、今の地球を守ったところで、未来の地球が滅びることは確定しているわけで。
つまりドラえもんの主張は、ただ問題を先送りにしているだけに過ぎない。
ドラえもんは「自分たちだけが助かればいいの?」とシルバーを責めているけど、ドラえもんの主張も「自分たちが助かるために未来の子供たちを犠牲にする」ってことになるのだ。

シルバーの「犠牲を払わずに守れる物などない」という考え方に対し、のび太は「僕たちはまだ子供だよ。分かっていないことだらけだよ。でも僕たちが大事にしたいと思ってることは、そんなに間違ってるの?」と反発する。
だけど、のび太の言葉は問題の本質から完全にズレているんだよね。代わりの解決法を何も提示せず、ただ感情的になっているだけだ。
ザックリ言うと、シルバーとドラえもんたちの問答はエゴのぶつかり合いなんだけど、どっちの方がマシかと言われたら圧倒的にシルバーなのよ。
ドラえもんたちが視野の狭い近視眼的な考え方しか出来ていないのに対し、シルバーは大局観を持っているわけで。

(観賞日:2019年5月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会