『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)』:2015、日本
ある夜、故障した宇宙船が裏山に墜落し、操縦していた宇宙人は意識を失った。翌朝、のび太は空き地で数名の幼児を相手に、あやとりを披露していた。そこへジャイアンとスネ夫が通り掛かり、彼を馬鹿にして笑う。のび太は不愉快に感じるが、彼らが持っている箱の中身に興味を抱く。しかしジャイアンとスネ夫は何も教えてくれず、その場を立ち去った。3人の子供たちが活躍する人気の特撮ヒーロー番組『銀河防衛隊』が始まる時間になったため、のび太は慌てて空地を後にした。
のび太は帰宅して『銀河防衛隊』を観賞し、自分もヒーローになりたいと考える。妄想を膨らませた彼は、自分でヒーロー映画を作ろうと思い付く。彼はしずか、ジャイアンとスネ夫を誘うために家を訪れ、全員が裏山へ向かったことを知る。のび太が裏山に行くと、3人は『銀河防衛隊』の主人公に成り切って撮影をしていた。スネ夫がカメラを買ってもらったので、映画を撮ることにしたのだ。のび太が参加したがると、ジャイアンとスネ夫は嫌がる。だが、しずかが仲間に入れるよう求めたので、彼らは宇宙怪獣の役を割り当てた。のび太は怪獣のキグルミを着せられ、ジャイアンに思い切り投げ飛ばされた。
のび太は家に戻ってドラえもんに泣き付き、自分たちだけでヒーロー映画を撮りたいと話した。しかし『銀河防衛隊』の大ファンであるドラえもんは、3人にも参加してもらった方が面白い映画が作れると主張する。のび太は不満を抱くが、ドラえもんの説得を受け入れた。裏山へ赴いたドラえもんはグレードアップライトを取り出し、しずかのヒーロースーツに光を当てた。するとスーツは強化服へと変化し、しずかは空高く浮かんだり大きな岩を投げたりする能力を会得した。
ドラえもんは映画監督ロボを取り出し、バーガー監督に希望の映画を説明すれば必要なセットや機材、シナリオを全て用意してくれることを説明する。ドラえもんは道具を使わせる条件として、のび太をヒーロー役に起用し、自分を銀河防衛隊のキャプテンにすることを求める。ジャイアンは激しく反発するが、スネ夫が「ジャイアンがキャプテンになるよう、後でバーガー監督に編集してもらえばいい」と囁き、条件を納得させた。
バーガー監督は立体映像による背景や怪獣を用意し、ドラえもんたちは戦闘を開始する。ドラえもんは全員に、特技が必殺技になることを説明した。ジャイアンは怪力になり、スネ夫は手袋から機械が飛び出し、しずかは両手から水を放出した。他の面々が特技を使って活躍する中、のび太も必殺技を出そうとする。しかし手袋から糸が出て来ただけで、彼はあやとりをやってみるが怪獣には何のダメージも与えられない。最終的にジャイアンが怪獣を退治したものの、のび太は何の活躍も出来ないままだった。
宇宙船から出て来た操縦者のアロンは故障を直していたが、物音を耳にして洞窟を出た。ドラえもんたちが怪獣と戦う様子を見た彼は、本物の銀河防衛隊だと誤解した。彼が「ポックル星を救うために力を貸して下さい」と頼むと、ドラえもんたちはバーガー監督が用意した演出だと思い込んだ。ドラえもんは快諾し、他の面々も賛同した。映画のシナリオではないのでバーガー監督は焦るが、のび太たちは全く気付かないまま、アロンの案内で宇宙船に乗り込んだ。
アロンはポックル星へ向かう途中、事情を説明した。彼が保安官を務めるポックル星は、疑うことを知らない人々ばかりが暮らす平和な場所だった。ある時、スペースパートナー社の社員と称する3人の異星人が現れ、ポックルランドという観光施設の建設を持ち掛けた。ポックル星の住人たちは歓迎し、遊園地と温泉街、巨大なスペースタワーの建設が進められた。しかし完成が近付くにつれ、森が急速に枯れ始めた。その光景を目にしたアロンは調査を行い、異星人が宇宙海賊団の幹部を務めるハイド、メーバ、オーゴンであること、首領のイカーロスが目を付けた星は必ず滅びていることを突き止めた。
アロンはポックル星の危機を人々に訴えるが、全員が宇宙海賊団を信じ切っていた。宇宙海賊団の目的を探ろうとタワーへ潜入したアロンだが、警備員に化けた宇宙海賊に発見される。アロンは宇宙船で逃亡するが攻撃を受け、ワープを繰り返して地球に辿り着いたのだ。彼の説明も全てバーガー監督が用意した映画の内容だとドラえもんたちは思い込み、ポックル星を救うために協力することを確約した。アロンは嬉しさのあまり、涙を流した。
ドラえもんたちが遊園地エリアに入ると、警備員に化けた宇宙海賊が現れた。彼らが発砲して来たので、いきなり撮影がスタートしたのだと一行は思い込む。のび太が尻に光線を浴びて熱さを訴え、ドラえもんはバーガー監督に抗議する。バーガー監督の説明を受け、ようやく一行は撮影ではないことを知った。しかし、のび太はアロンの涙を思い出し、「一か八か戦おう」と熱い口調で告げる。強化服が本物だと思い出した一行は、戦うことにした。ドラえもんたちは特技を使って敵を倒すが、のび太だけはあやとりが何の役にも立たず、また活躍できなかった。
敵を倒した一行はアロンに案内されて洞窟へ移動し、ドラえもんが秘密基地を設置した。他のみんなが寝静まった後、のび太はアロンから保安官になった動機を聞かされる。のび太は自分たちが本物のヒーローでないことを打ち明けようとするが、内緒にしたままアロンのために戦おうと決めた。同じ頃、宇宙海賊の手下たちはアロンが助っ人を連れて戻ったことをイカーロスに報告していた。イカーロスは手下を粛清した後、ハイドたちに「計画実行の時は近い。邪魔立てする者は葬り去れ」と命じた。
翌朝、アロンはドラえもんたちに、翌日に控えたポックルランドのお披露目で宇宙海賊が何かを目論んでいると話す。アロンが再び議員の説得を試みることを話すと、のび太は同行を申し出た。ジャイアンとスネ夫は遊園地エリア、ドラえもんとしずかは温泉街を調査することにした。アロンはのび太を待機させ、改めて議員に宇宙海賊の計画を訴える。しかし議員も周囲の人々も、宇宙海賊を信じ切っていた。のび太は警備員姿の手下を発見して捕まえるが、誤って井戸に落下した。
のび太が装着しているヒーロースーツの手袋から糸が噴射され、枝に絡み付いた。井戸を滑落する途中で胸の星が外れ、のび太の変身は解除された。同じ頃、ジャイアンとスネ夫はオーゴンと遭遇して戦うが、まるで歯が立たずに捕まってしまった。アロンは糸を見つけて井戸に入り、のび太と合流した。物陰に隠れていた2人は、宇宙海賊の手下が「巨大な装置で地下からエネルギーを汲み上げ、溜まったら一気に宇宙へ放出する。目的は知らないが、そうなれば星は消滅する」と話しているのを耳にした。
のび太が大声を上げたため、宇宙海賊に気付かれてしまう。のび太とアロンは逃げ出すが、メーバに捕まった。しずかは川を流れる星を発見し、ドラえもんはのび太の物だと見抜いた。彼はバーガー監督に超小型撮影カメラの映像を表示させ、のび太、ジャイアン、スネ夫、アロンが捕まっているのを知った。ドラえもんたちは救助に駆け付け、ハイドと戦った。ハイドはしずかを捕まえて降伏を要求するが、バーガー監督が立体映像の怪獣を出現させた。ハイドが怯んでいる隙に、ドラえもんはのび太たちを連れて脱出した。
一行は秘密基地へ戻り、傷の手当てをする。スネ夫耐え切れなくなり、ジャイアンの制止を無視して自分たちが映画の撮影をしていただけであることを暴露した。スネ夫は地球へ帰ろうと訴えるが、のび太はポックル星を守るために戦うべきだと熱く語る。ドラえもん、しずか、ジャイアンも同意したため、スネ夫も戦うことを決めた。真実を知らされたアロンだが、それでもドラえもんたちを本物のヒーローだと認めた。ドラえもんたちは充分な休息を取り、スペースタワーへ向かった…。監督は大杉宜弘、原作は藤子・F・不二雄、脚本は清水東、キャラクターデザインは丸山宏一、美術監督は皆谷透、撮影監督は末弘孝史、編集は小島俊彦、録音監督は田中章喜、効果は糸川幸良、チーフプロデューサーは増子相二郎&菊池寛之&大倉俊輔&斎藤満、企画・原案協力は むぎわらしんたろう、絵コンテは大杉宜弘、演出は酒井和男&浅野勝也、作画監督は丸山宏一&秦洋美&土屋祐太&西村貴世&吉田誠&小野慎哉&をがわいちろを&河毛雅妃&岡野慎吾&永田亜美、メカ・エフェクト作は鈴木勤、色彩設計は松谷早苗、プロデューサーは川北桃子&鶴崎りか&小野仁&齋藤敦&大金修一&沢辺伸政、音楽は沢田完。
オープニングテーマ「夢をかなえてドラえもん」作詞・作曲:黒須克彦、編曲:沢田完、歌:ドラえもん&のび太&しずか&ジャイアン&スネ夫。
主題歌 miwa「360°」作詞:miwa、作曲:miwa&NAOKI-T、編曲:NAOKI-T。
声の出演は水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、三石琴乃、竹内都子、市村正親、観月ありさ、田中裕二(爆笑問題)、井上麻里奈、能登麻美子、古川裕隆、関根信昭、清川元夢、こぶしのぶゆき、大西健晴、鳥海勝美、北村謙次、深田愛衣、佐藤奏美、天神林ともみ、まつだ志緒理、古田うた、岩田龍門、上田弦、日下雅貴、曽我夏美ら。
映画ドラえもんシリーズの通算第35作。声優陣が交代してからは10作目。
ドラえもん映画作品35周年記念作で、今回はリメイクではなくオリジナル脚本。
これまで原画や作画監督などでTVシリーズと劇場版に参加して来た大杉宜弘が、初めて映画の監督を務めている。
脚本は4作連続で清水東が手掛けている。
ドラえもん役の水田わさび、のび太役の大原めぐみ、しずか役のかかずゆみ、ジャイアン役の木村昴、スネ夫役の関智一といったレギュラー声優陣の他、イカーロスの声を市村正親、メーバを観月ありさ、ハイドを田中裕二(爆笑問題)、アロンを井上麻里奈、バーガー監督を能登麻美子、オーゴンを古川裕隆が担当している。まず導入部からして、大いに引っ掛かる。
のび太は空き地で得意のあやとりを披露しているのだが、それを幼児たちがワクワクした様子で見ているのだ。のび太が空地を去る時には、2人の幼女が「また見せてね」と言っている。
つまり、通り掛かったジャイアンとスネ夫はのび太を嘲笑しているが、幼児たちにとっては全く違うのだ。あやとりを披露するのび太は、ある意味で幼児たちにとって憧れの存在というポジションになっているのだ。
でも、それって違うでしょ。明らかに間違った描写でしょ。のび太ってのは、少なくとも映画が始まった段階では、「周囲からバカにされる存在」であるべきなのだ。
そして、そんな情けない少年が、劇中で描かれる物語では勇ましく活躍したり、意外な特技で評価されたりするってトコに、『映画ドラえもん』シリーズの面白さがあるはずなのだ。
もちろん、あやとりがのび太の特技ってのは有名な設定だ。
ただ、映画が始まった段階では、「本人は得意げにしているけど、周囲は全く興味を示さず馬鹿にしている」という形を取るべきだ。その上で、「馬鹿にされていた特技だけど、意外な場面で役に立つ」という流れに繋げるべきなのだ。ママが「見たい映画がある」と言ってテレビの前に来たことで、のび太は「映画を作ればいいんだ」と思い付く。
しかし、彼はテレビ番組『銀河防衛隊』のファンであり、同じようになりたいと妄想していたわけだから、そこが「自分で特撮テレビ番組を作ればいいんだ」じゃないのはズレを感じる。
ところがジャイアンたちも、『銀河防衛隊』に似せたキャラクターを演じているのに、やっぱり「映画を作る」ということになっていて、そこは大いに引っ掛かるんだよな。
もちろん「映画を撮っていたら本物に間違えられる」というトコからの逆算なのは明らかなんだけど、そこは無理を解消できていないぞ。それと細かいことではあるんだけど、のび太たちが見ているテレビ番組の題名も、ちょっと引っ掛かるんだよな。
のび太は空き地の男児たちは、『銀河防衛隊』と言っている。
しかしドラえもんは、『ミラクル銀河防衛隊』のファンだと口にしている。
そして彼の背後にあるポスターでは、『ミラクルヒーロー 銀河防衛隊』と書かれている。
つまり最後の3つ目が正式なタイトルなんだろうけど、その呼び方がバラバラなのは何の意味も無いんだから、統一感を持たせた方がいいでしょ。バーガー監督は、見事なぐらい御都合主義のためのキャラクターになっている。
本来なら、のび太たちがシナリオを用意したり、演出を担当したりすべきでしょ。「面白いヒーロー映画を作りたい」と思っているんだからさ。
つまり必要なのはセットや機材だけのはずなのよ。
シナリオや演出は全てバーガーに任せた上、場合によっては体まで操られるってことになると、それって単なる道具になっちゃうでしょ。
後の展開のためにバーガー監督というキャラを登場させたことが、下手な形で露呈しちゃってるとしか思えんわ。「ドラえもんたちがアロンからの依頼をバーガー監督の演出だと思い込む」という筋書きでバーガー監督というキャラを利用しているが、無理がありまくりだわ。
そこまではシナリオらしいシナリオなんて何も用意していなかったのに、ドラえもんたちはアロンの説明を映画の内容だと思い込む。アロンがバーガー監督をリーダーだと誤解しているのに、何の疑問も抱かない。
バーガーは「これは撮影じゃない」と、なかなか言い出さない。
そんな風に、色々と無理があるのよ。「映画の撮影だと思い込んでいたが、途中で現実だと気付く」という『サボテン・ブラザーズ』のようなネタを使うのであれば、「現実と知って怖くなったので逃げ出そうとする」とか、「偽物だとバレないように取り繕う」とか、そういった手順を用意するべきだろう。
だが、それが現実だと知った直後、のび太がアロンの嬉し涙を思い出して「戦おう」と勇敢に言い出し、ドラえもんたちも「強化服は本物だ」ってことで全く怯まない。
実際、宇宙海賊の手下とは普通に戦えるし、快勝してしまうのよね。ドラえもんがグレードアップライトを使うと、しずかは空高くに浮かんだり大きな岩を持ち上げたりする。のび太たちは「すごいよ」と感嘆しているけど、そういうのって他の秘密道具でも出来ちゃうことなのよね。
それどころか、空高くに浮かんでも飛び回ることは出来ず、撮影の時にはタケコプターを使っているわけで、「じゃあ他の道具を使って特殊能力を表現すればいいじゃん」と思ってしまうのよ。
「強化服によって特技が必殺技になる」という部分だけに大きな意味があるんだから、それ以外の能力は別に無くてもいいんだよな。
それ以外の部分に関しては、ただ「他の秘密道具でいいでしょ」というツッコミの餌食になっているだけ。『ドラえもん』ってのは、ドラえもんの秘密道具で様々なことが出来てしまうので、「普通の人間が特殊能力を得て活躍する」という話をやっても上手く機能しないのよ。
それって『ドラえもん』の世界観においては、「良くある光景」でしかないわけだからさ。
もちろん、重要なのは「特殊能力を会得する」という部分じゃなくて「ヒーローとして活躍する」という部分ではあるんだけど、秘密道具があるもんだから、「偽物のヒーローだから本物みたいな力は無いけど、勇気と知恵で立ち向かう」という話が成立しないのよ。
だから『サボテン・ブラザーズ』みたいなプロットって、『ドラえもん』の世界観に馴染まないのよ。のび太がアロンへの罪悪感から、本物のヒーローじゃないことを打ち明けようかどうか迷うシーンがある。
しかし、その直前に彼らは普通に宇宙海賊の手下を倒している。それも、「ラッキーで勝てた」ということじゃなくて、強化服のパワーによって普通に圧倒できている。
だから、もはや偽者か本物かってのは全く意味が無いんだよね。
オーゴンに負けて怪我を負ったスネ夫が真相を暴露する手順が後で用意されているけど、でもドラえもんの道具でハイドを怯ませて脱出できているわけで。
つまり「敵の強さに怯んで逃げようとする」という手順が成立しないのだ。ただ単にスネ夫がビビっているだけで、それって「いつものパターン」でしかないのよ。
「真相がバレて人々に幻滅されたり、非難されたりする」という手順も無いし。ポックル星の住人は、「疑うことを知らない、お人好しばかり」と好意的に表現されている。
しかし、ただ愚かなだけにしか見えない。
しかも「観光施設で大勢が来ますよ」という美味しい話に騙されて宇宙海賊を歓迎しているもんだから、アロンの訴えに耳を貸さない態度が不愉快にさえ見えてくる。
「人食い鮫の危険があるから海を封鎖すべきだ」という訴えに耳を傾けなかった『ジョーズ』の市長や観光産業に携わる人々と、大して変わらない憎まれ役に見えてしまうのよ。アロンが「僕はずっと、カッコイイ活躍をするヒーローに憧れていたんです。でも気付いたんです、星の人々の何気ない笑顔を守り続けることが大切だって。それを奪おうとする者が現れた時には、全力を尽くしてみんなを守ろうと」と、のび太に語るシーンがある。
そういう台詞を彼に言わせるのなら、クライマックスでは「スーパーパワーが無いので全く敵に歯が立たなかったアロンだが、何かしらの活躍でヒーローになる」という展開を用意すべきだろう。
それは「敵を倒すために貢献する」ってことじゃなくて、「窮地に陥った星の人々を救うために体を張る」ってことでも構わない。
しかし、彼がヒーローになるためのシーンは、何も用意されていないのだ。ハイドは幹部3人の中でリーダー的存在なのに、ちっとも強そうには見えない。
実際、メーバとオーゴンがのび太やジャイアンたちを圧倒して捕まえる仕事をやっているのに、ハイドは「ドラえもんからバカにされたり、立体映像の怪獣に怯んでいる隙に逃げられたり」という情けない役回りだ。
ただし、メーバとオーゴンにしても、次に宇宙防衛隊と戦う時には、メーバはしずか、オーゴンはジャイアンに軽く退治されてしまうのだ。メーバが捕まえたのは強化服の無いのび太とアロンだから単純比較は出来ないが、オーゴンの場合は「最初は圧倒したジャイアンに2度目は圧倒される」という関係性が出来上がっているわけで、ぞいうパワーバランスなのかと。
それは「ジャイアンが2度目は強くなった」と解釈すべきなんだろうけど、何がどうなってパワーアップしたのかサッパリだ。
ドラえもんは前夜に「ヒーロースーツの力を最大限に引き出す必要がある」と話しているけど、そのために何をするのかというと、ただ休息を取るだけだ。だから「休息を取ったおかげでパワーアップした」ということになるんだろうけど、何だよ、そのカタルシス皆無の設定は。
そこは例えば「最初は自分のために戦っていたが、2度目はポックル星を守ろうとする正義感に目覚めたので強くなった」とか、そういう形にでもすれば良かったでしょうに。宇宙海賊が地下のエネルギーを汲み上げて宇宙に放出しようとしていることは、のび太とアロンが手下の会話を盗み聞きして知ることになる。
しかし、なぜイカーロスが星のエネルギーを宇宙へ放出しようとしているのかを知らないまま、彼らは最終決戦に挑んでいるのだ。
もちろん「星が滅びるのを阻止するため」ってことで、戦いの動機としては成立している。
でも、「アルマスの地下に眠るグラファイトを体内に取り込み、かつての力を取り戻す」というイカーロスの真の目的がドラえもんたちに伝わらないまま最終決戦へ突入するのは、構成として失敗だろう。強化服での行動が始まると、「のび太の特技はあやとりになるが、何の役にも立たない」という描写が何度か繰り返される。
「なぜ射的ではなく、あやとりなのか」という疑問の答えは、何も用意されていない。
また、「特技が必殺技になる」とドラえもんが説明しているのに、のび太の特技が役に立たないってのも引っ掛かる。
そういうネタとして持ち込んでいるのは分かるが、前述したように冒頭シーンでは「のび太のあやとりを空地の子供たちが憧れの目で見ている」という描写を入れておいて、そこに来て彼を貶めるってのは、構成として違うんじゃないかと思うのよね。そういう諸々の不満や引っ掛かりを全て置いておくとして、ともかく「あやとりが役に立たない」という描写を繰り返して入れるのならば、終盤には「あやとりが仲間を救ったり、敵に大ダメージを与えたりする」という風に、のび太が分かりやすく活躍する展開を用意することが必須条件となる。
しかし驚いたことに、あやとりは最後まで大して役に立たないのだ。
あやとりが機能するのは、「井戸に落ちたのび太をアロンが発見する」「イカーロスを網で封じる」という2ヶ所だけ。たぶん2つ目を「のび太の活躍」と位置付けているんだろうけど、ちっとも必殺技になってないでしょ。
何しろ、封じる前の段階で、既にイカーロスは衰弱してヘロヘロの状態なんだから。おまけに、封じるだけで仕事は終わりで、退治するのはドラえもんが担当しちゃうし。
あと、イカーロスを封じる直前、のび太の能力が急にアップする描写があるけど、すんげえ唐突。
イカーロスの「あんなちっぽけな星、消滅して何が困る」という言葉に「お前たちは絶対に許さないぞ」と憤慨すると急にパワーアップする展開で、やりたいことは分かるけど、説得力は無い。
そもそも前述したように、既にイカーロスは衰弱している状態なので、覚醒する必要性も弱いし。ただ、そもそも他の面々の特技も、必殺技と呼べるほどではないけどね。
必殺技ってのは読んで字の如く相手を倒すぐらいのモノでなきゃダメなのに、ただの得意技になっちゃってるのよね。
終盤には敵を倒しているけど、そこまでは「必殺」という言葉の意味が死んでいる。
あと、のび太が「あやとりが役に立たない」という手順で披露する技は「ホウキ」なんだけど、あやとりが得意なのに、そんな誰でも出来るような技ばかり出すのも変でしょうに。のび太に関しては、「あやとりが全く必殺技として役に立たない」という状態が前半から続いているんだから、ドラえもんに秘密道具を借りればいいんじゃないか、っていうかドラえもんが彼に道具を渡すべきじゃないかと思ってしまうんだよね。
ドラえもんは敵と戦う時に空気砲を使っているけど、のび太は射撃が得意なんだから、それを使わせてやれば活躍できるはずだし。
「何の役にも立たないあやとりだけで戦わせる」ってのは、敵を舐めているのかと言いたくなってしまうわ。前述したように、のび太は急に覚醒した力に必殺技によって、既に衰弱したイカーロスを退治してしまう。
それだけでも描写として上手くないが、周囲にドラえもんを始めとする仲間が誰もいないってのも上手くない。
あと、ラスボスのはずなのに、イカーロスが全く強さを発揮しないまま退治されるってのも、どう考えても失敗でしょ。
しかも、そんな衰弱しているイカーロスを退治したものの、エネルギーを放出してアルマスを狙う計画は阻止できていないのよ。そんで、どうやって計画を阻止し、ポックル星を守るのかと思ったら、「バーガー監督の早戻し機能で元に戻す」という方法を使っている。
何の伏線も無かったわけじゃないけど、さすがに御都合主義が過ぎるわ。
秘密道具に頼るのは全否定しないけど、あまりにもデウス・エクス・マキナ感が強すぎるわ。
それに、「当初は映画撮影の中でのヒーローだったけど、本物のヒーローになる」という転換があったのに、最終的には「映画撮影」の要素を使うってのも、キレイな解決方法としては乗れないなあ。(観賞日:2016年5月11日)