『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜』:2007、日本

天文学者の満月博士と助手である娘の美夜子は、謎の天体の接近に危機感を募らせていた。一方、のび太はそんなことを全く知らず、 冴えない日々を過ごしていた。たまたまTVアニメ『魔法少女マミ』を目にしたのび太は、「魔法があれば」と考える。しかしドラえもん からは、「魔法なんて存在しない。かつて魔法と呼ばれたものは全て科学で解明された」と言われてしまう。
のび太の部屋で2人が話していると、天井を突き破ってドラえもんと瓜二つの石像が降って来た。さらに2人はしずかちゃんから、空き地 でジャイアンとスネ夫がのび太そっくりの石像を甚振っていると聞かされる。2人はのび太の石像を持ち帰り、ドラえもんの石像と共に 物置の横に並べた。台風の接近で雨が降り出し、2人は家に入った。
その夜、不審な声を聞いて家の中を調べた2人は、石像が廊下にあるのを発見した。しかも、先程とはポーズが変わっていた。ドラえもん は石像を四次元ポケットに収納するが、腹痛に襲われる。彼は慌ててタイムマシンに乗り込み、ドラミとセワシのいる未来へワープした。 しかし腹痛が治まったため、ドラえもんは検査を勧めるドラミとセワシを振り切ってのび太の部屋に戻った。
空想をめぐらせていたのび太は、もしもボックスがあれば魔法の世界を実現できると思い付く。彼はドラえもんにもしもボックスを出して もらい、「もしも魔法の世界になったら」と受話器に告げた。しかし、のび太とドラえもんがどんな言葉を唱えても、全く実現されない。 2人は諦めて、眠りに就いた。ところが翌朝、目が覚めると、周囲の人々は全て魔法を使っていた。
学校に行ったのび太は、自分だけ上手く魔法が使いこなせずバカにされる。練習を積まなければ、魔法を使うことは出来ないのだ。元の 世界に戻そうかとドラえもんに持ち掛けられたのび太だが、「せめて1つでも覚えたい」と意欲を見せた。彼はしずかちゃんの協力も得て 物体浮遊の練習を積み、彼女のスカートを持ち上げることに成功した。
のび太、ドラえもん、しずかちゃんは黒い流れ星が森に落ちるのを目撃した。現場へ向かうと、森は枯れていた。先に来ていたジャイアン とスネ夫が、猿のような使い魔ギムに襲われていた。2人はホウキから墜落するが、美夜子が助けに現れた。皆が合流したところで、短い 地震が起きた。昨日も一昨日も地震があったという。美夜子は皆に、「この森が枯れたのは強い魔力を浴びたせい」と説明する。そして 「長い居ては危ない」と告げ、皆を自分と父親が暮らす教会へ案内した。
美夜子は皆に、魔界星が近付いているせいで地震や異常気象が続いているのだと告げた。彼女の父親は、魔法学の研究者である満月牧師 だった。牧師はのび太達に、かつて人間が悪魔族から魔法を授かったこと、悪魔族が魔界星から来た宇宙人だということを語った。彼は 魔界星が接近して地球が危機にあることを警告しているのだが、誰も信じないのだという。
満月牧師はのび太たちに、美夜子が幼い頃の出来事を語った。美夜子の母は病に倒れた娘を救うため、命と引き換えに悪魔と契約を交わした。 それが魔界星を近付ける引き金になっているのだという。5千年前、ナルニアデスという男が悪魔族の力を封印したという言い伝えがある。 その方法を記した魔界歴程がどこかにあるのだが、その手掛かりとなる古文書が解読できずに困っていると牧師は説明した。そこで ドラえもんは、ほんやくコンニャクを牧師に食べさせて古文書が解読できるようにした。
のび太とドラえもんは元の世界に戻ろうと考え、帰宅した。しかしママがもしもボックスを廃品回収に出したため、使えなくなって しまった。その夜、教会には大魔王デマオンの配下メジューサとギムが現れた。のび太とドラえもんは地震に遭遇し、震源地が樹海の森と ニュースで知った。2人が満月牧師と美夜子を心配して赴くと、教会は跡形も無くなっていた。
ピンクのネズミが出現したため、ドラえもんは慌てふためいた。そこへ使い魔が襲撃してきたが、美夜子が駆け付けて戦う。ドラえもんも 加勢し、敵を追い払った。美夜子はのび太とドラえもんに、悪魔族が教会ごと牧師を魔界星へ連れ去ったと説明した。牧師を助けるには、 魔界歴程を見つけて魔界星に乗り込み、デマオンを倒すしかないという。協力を求められたのび太とドラえもんだが、怖さから迷いを 示した。すると美夜子は「これは私の問題だわ」と口にして、その場を去った。
翌日、のび太は学校へ行き、昨晩の出来事をジャイアンたちに語った。台風の影響が強くなったために午後の授業は中止となり、のび太は 帰宅した。部屋にネズミが現れたため、ドラえもんが追い払った。そこへ、のび太宛ての速達が届いた。それは美夜子からで、中には 古文書が入っていた。手助けに行こうと決めた2人の元に、ジャイアンとスネ夫、しずかちゃんも駆け付けた。
5人はどこでもドアを使い、美夜子の空飛ぶじゅうたんにワープした。すると彼女は、南極圏で悪魔族と戦っていた。美夜子とドラえもん が戦っている間に、残りの4人は魔界歴程の眠る洞窟へと向かった。4人が洞窟に入ると、悪魔族は退散した。魔界歴程を見つけた4人を 、美夜子とドラえもんが出迎えた。しかし美夜子は魔界歴程を奪い取り、のび太たちを氷漬けにする。実はメジューサが化けていたのだ。 悪魔族は洞窟に入れないため、のび太たちを利用したのだった。
何とかのび太の部屋に戻った5人だが、魔界歴伝は奪われてしまった。しかしジャイアンが、隠し持っていた巻物を皆に見せた。実は 魔界歴程は2巻あり、渡したのは片方だけだったのだ。そこへ、またもネズミが現れた。しかし雲間から覗いた月光を浴びると、ネズミは 美夜子の姿に変わった。彼女は悪魔族に捕まり、ネズミに姿を変えられていたのだ。のび太たちは美夜子と共に魔界星へ向かい、牧師を奪還 して地球を危機から救おうと決意した…。

監督&絵コンテは寺本幸代、原作は藤子・F・不二雄、脚本は真保裕一、プロデューサーは小倉久美&吉川大祐 &藤森匠&山崎立士、チーフプロデューサーは増子相二郎&杉山登、総監督は楠葉宏三、演出は腰繁男、作画監督は金子志津枝、 作画監督補佐は加来哲郎&大杉宜弘、絵コンテ補佐は鈴木孝義、美術監督は土橋誠、色彩設計は吉田晴絵、色指定は上田明子、撮影監督は 熊谷正弘、編集は岡安肇、録音監督は田中章喜、音楽は沢田完。
主題歌『ハグしちゃお』作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童、編曲:京田誠一、歌:夏川りみ。
『かけがえのない詩』作詞:hiroko,mitsuyuki miyake and Hidemi、作曲:mitsuyuki miyake、編曲:mitsuyuki miyake and takashi morio、歌:mihimaru GT。
声の出演は水田わさび、大原めぐみ、木村昴、関智一、かかずゆみ、相武紗季、河本準一(次長課長)、久本雅美、つぶやきシロー、 大下容子(テレビ朝日アナウンサー)、hiroko(mihimaru GT)、miyake(mihimaru GT)、千秋、松本さち、萩野志保子 (テレビ朝日アナウンサー)、高木渉、山下亜矢子、福圓美里、桃森すもも、三石琴乃、松本保典、松元環季、銀河万丈、山崎バニラ、 後藤史彦、幸田昌明、板倉大、東明弘、深津智義、宇垣秀成、高戸靖広、瀬那歩美、成田剣、菅原淳一、まるたまり他。


声優を一新してリニューアルした“新・ドラえもん”の劇場版第2作。通算ではシリーズ第27作。
監督に寺本幸代(シリーズ初の女性監督)、作画監督に金子志津枝という女性コンビが起用され、脚本はシンエイ動画の元社員である作家 ・真保裕一が担当。
声の特別出演として、相武紗季(美夜子)、お笑いコンビ「次長課長」の河本準一(満月牧師)、久本雅美(メジューサ)らが参加している。
ゲスト声優の内、相武紗季はそれほど違和感無く受け入れられた。
声優として上手いとは思わないが、最近の若い声優(特に女性)には、彼女と同程度の技量で普通に主要キャストを演じている者もいるし。
河本準一と久本雅美は、ハッキリと「ヘタクソ」だと断言できる。
チョイ役なら別にどうってことも無いのだが、下手な門外漢が主要キャストにいるってのはキツい。

キャラクターのデザインは、旧作ともTVシリーズとも異なっており、前作を受け継ぎながらも手を加えている。
前作にあったような「ゲストのキャラクターが別作品の登場人物に見えてしまう」という問題は生じていない。
デザイン自体は特に気にならないが、枠線が太くクッキリしているのは、マイナスではなかろうか。
キャラクターが背景から浮き上がって見えてしまう。

この作品は、シリーズ第5作『ドラえもん のび太の魔界大冒険』のリメイクだ。声優リニューアル1作目に続いて、またもリメイクとなった。
声優一新の1作目は、リメイクでも構わないと私は思った。しかし2作目もリメイクってのは、手抜きしすぎだろう。
そりゃあ藤子・F・不二雄先生が偉大だったことは確かだけど、だからって彼の遺産に頼りすぎだ。
オリジナルの新作を生み出すことが出来ない、そういう気概が無いというのなら、無理にシリーズを続ける必要など無い。旧作を見れば 充分だということになる。
もはや声優一新の1作目と違って、リメイクする理由・必然性も全く見当たらない。
それにファンの中では最高傑作と評されることもある作品をリメイクするのも無謀だろう。
「最高傑作」ってことは、手を加える余地がほとんど無い、それをやっても改悪にしかならないってことなんだから。

真保裕一はリメイクに際して、旧作で疑問の余地が残ったところに答えを用意すること、いびつだった部分を修正することに重点を置いたようだ。
というか、そこに全ての力を注いだと言っても過言ではないぐらいのスクリプトになっている。
その甲斐あって、旧作にあった穴はキッチリと塞がれている。ちゃんと説明が付くように、理路整然と仕上げようとしている。
例えば魔法世界は、もしもボックスによって新たに誕生したのではなく、そういうパラレルワールドが当初から存在していたという設定になっている。
旧作での登場が唐突だったドラミを最初に絡ませておいたり、終盤だけの出演だったメジューサの扱いを大きくしたりしている。
現実世界にも満月博士と美夜子を登場させ、2つの世界をリンクさせている。

しかし彼は、あまりにもその部分ばかりを気にしすぎて、大切なことを忘れていたようだ。
娯楽映画において、ファミリー向けアニメ作品において、ドラえもん映画において、少なくとも本作品において、整合性よりも何よりも、 ストーリーの面白さが大切なのだ。
仮に矛盾点があったとしても、話として面白ければ、その穴は許されるものだ。
だからこそ、旧作は多くのドラえもんファンから傑作として高い評価を受けているのだ。

この映画がダメなのは、旧作にあった「のび太たちが様々な難所を乗り越えてデマオンの元へ辿り着く」という部分をゴッソリとカットして いることだ。
タイトルに「魔界大冒険」とあるのに、肝心の「冒険」部分を削り落としているのだ。
そんなのは言語道断だ。
そこまでに時間を使いすぎて、足りなくなっているのだ。
時間配分を間違えているのだ。

何度もドラえもんがネズミを怖がって追い払う場面とか、美夜子の母の設定とか、別に要らないだろ。
そんなことより冒険させてよ、冒険を。
ファンタジー・アドベンチャーとして構築すべきなのに、そこのボリューム、グラマラスな描写に対する意識が全く無いのだ。
あと、「出木杉君は嫌いだから」という理由で出番を削り、魔法と科学の関係に関する説明を薄くしてしまうのも愚行。

(観賞日:2008年3月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会