『映画ドラえもん のび太の宇宙漂流記』:1999、日本

のび太やドラえもんたちは未来のゲーム『スタークラッシュ』で仮想の宇宙空間に入り、戦いを繰り広げていた。のび太、ドラえもん、しずかが撃たれてゲームオーバーとなり、仮想空間の外に放り出された。勝ち残ったジャイアンとスネ夫はゴールを目指し、ゲームを続行した。『スタークラッシュ』で遊び始めたのは、のび太がスネ夫に張り合おうとしたのが発端だった。スネ夫は誕生日に父親から宇宙旅行をプレゼントされて自慢し、ジャイアンとしずかの分も頼んであげると言い出した。彼はのび太に対し、訓練が必要だから無理だと告げた。宇宙旅行が21世紀に入ってからだと聞いたのび太は馬鹿にして笑い、ドラえもんに頼んで今すぐに連れて行ってもらうと口にした。そこでドラえもんは、『スタークラッシュ』を出したのだ。
ジャイアンとスネ夫は戦闘艇を撃墜されて不時着するが、ゲームオーバーになったのに仮想空間から脱出できなかった。同じ頃、裏山では宇宙から来た一団が地球の植物を調査していた。一団は自分たちの住める星だと確信し、生物の様子を見るために光の球が派遣された。ドラえもんはおざしき宇宙船を出し、のび太&しずかと一緒に楽しんだ。だが、のび太が誤ってボタンを押したため、家全体が無重力空間になってしまった。ママも無重力に巻き込まれ、のび太の部屋の窓が割れて『スタークラッシュ』は庭に放り出された。おざしき宇宙船は爆発して停止し、無重力空間は消滅した。
ドラえもんたちが部屋を片付けている間に、ママはゴミとして『スタークラッシュ』を捨てた。ゴミ捨て場を観察していた光の球は、ママが帰ってから『スタークラッシュ』を持ち去った。ドラえもんたちは『スタークラッシュ』が無いことに気付き、ママが捨てたと知った。3人は慌てて探しに行くが見つからず、おくれカメラを使って光の球が持ち去ったことを知る。3人は光の球を追って裏山に辿り着き、そこにいたUFOが『スタークラッシュ』を持ち去ったことを知った。
のび太はUFOの乗組員が落とした光る石を発見し、ドラえもんは宇宙救命ボートでUFOを追跡することにした。UFOはワープ航法を使った直後、イオン嵐に襲われた。激しい揺れで『スタークラッシュ』の蓋が開き、ジャイアンとスネ夫は脱出した。部屋には『スタークラッシュ』の他にも、光の球が地球で集めた大量の荷物が積んであった。ジャイアンとスネ夫は部屋の外へ出ようとするが、ドアは開かなかった。ドラえもんたちはUFOを発見するが、イオン嵐で宇宙救命ボートが損傷してしまった。ドラえもんはタイムふろしきで修理しようとするが、失敗に終わった。そこでドラえもんは、UFOに乗り移った。
ドラえもんたちはジャイアン&スネ夫と再会し、UFOはイオン嵐を抜けた。ドラえもんたちは地球に戻ってもらうため、UFOの乗組員と交渉しようとする。彼らが通り抜けフープで廊下に出ると、乗組員であるリアン&ログ&フレイヤ&ゴロゴロが現れた。リアンは勝手に乗り込んだ罪で、ドラえもんたちを部屋に閉じ込めた。イオン嵐の影響でワープ航法装置が故障したため、リアンたちは未調査の星に降りて修理することにした。
ドラえもんはどこでもドアを使えば地球へ帰れることに気付くが、のび太が「せっかく本物の宇宙に来たのに、冒険もしないで帰るの?」と言い出した。ジャイアンも同調し、ドラえもんは「少しだけなら」と承諾した。ドラえもんたちはスペースイーターでUFOに穴を開け、外へ出た。巨大な金属グモに襲われた一行は、どこでもドアで地球へ戻ろうとする。しかしどこでもドアは使えず、ドラえもんは地球から遠く離れ過ぎたのだと理解した。地球に戻るには、UFOで向かってもらう以外に手は無いと一行は考えた。
金属グモの群れがUFOを襲撃するが、ドラえもんたちがハメルンチャルメラで追い払った。リアンは礼を言い、ドラえもんはジャイアンとスネ夫が『スタークラッシュ』に入っていたことを説明した。リアンはワープ装置が壊れたことを明かし、地球へ戻るには1億800万年が必要だと告げた。するとフレイヤは、銀河漂流船団へ行けば何とかなるだろうと語る。リアンはドラえもんたちに、自分たちは星に住んでいないのだと教えた。
300年前、リアンたちの祖先は環境破壊で住めなくなった母星を捨て、緑溢れる理想の星を求めて宇宙を漂流するようになった。途中で同じように星を無くした人々が集まり、銀河漂流船団になった。リアンたちは宇宙船で生まれた新世代で、宇宙少年騎士団として太陽系を調査するために派遣されたのだった。スネ夫が「地球は僕らの星だぞ」と抗議すると、リアンは「侵略するつもりは無いよ。話し合いによる平和的な移住が目的だ」と説明した。
リーベルト司令官は側近のアンゴルモアから、送り込んだスパイの情報で地球が理想の星だと判明したことを知らされた。アンゴルモアは部下たちに、「我々の星を手に入れるため、一日も早く完成されるのだ」と命じた。リアンたちはワープ装置以外の損傷を修理し、UFOを出発させた。ワープ航法が使えないため、途中の星でエンジンを休ませることをリアンはドラえもんたちに伝えた。フレイヤは着陸可能な星を見つけたと告げ、リアンはUFOを降下させた。すると星は霧が深く、UFOは不時着してドラえもんたちは意識を失った。
ドラえもんたちが目を覚ますと、UFOのハッチが開いていた。UFOの外に出て霧が晴れると、そこは地球だった。一行は別れ、ドラえもんとのび太が家に戻るとパパとママは豪勢な食事を用意していた。のび太がポケットに入れていた光る石に触れると、全ては幻覚だと判明した。パパとママは樹木の怪物で、のび太はドラえもんを連れて逃げ出した。我に返ったドラえもんは遠くの人目ざましを使い、他の3人も現実に戻った。
ドラえもんたちは怪物に襲われ、慌ててUFOに戻る。リアンたちは5人を助けようとするが、ハッチが閉じて開かなくなっていた。リアンたちが必死で叩いていると、ハッチは開いた。しずかが怪物に捕まるが、フレイヤが助けた。リアンはUFOを発進させ、幻惑の星だったと説明した。UFOは宇宙船の墓場で鉱石生命体にエネルギーを吸われ、動かなくなった。そこへ無人宇宙船が飛来し、UFOを基地に連行した。そこに待っていたのがリーベルトだったので、リアンは驚いた。
アンゴルモアは「ここは独立軍の前線基地だ」と言い、リアンたちが調査に出た後でリーベルトが独立軍を組織したことを話す。リアンは独立軍が地球の侵略を企んでいること、フレイヤがスパイであることを知らされてショックを受けた。リーベルトは一行を監禁し、リアンは彼が自分の父親だとドラえもんたちに明かした。ログはドラえもんたちに、アンゴルモアが来てからリーベルトも仲間たちも変わってしまったのだと語った。
ドラえもんたちは潜地艦で脱出し、UFOに辿り着いた。一行は敵に襲われるが、フレイヤが助けに駆け付けた。リアンはフレイヤも乗せて、UFOで基地を脱出した。UFOは独立軍の無人船に襲われるが、銀河漂流船団の母船に救われた。ドラえもんたちは評議員のマズーラ議長と面会し、評議会に出席した。評議員の意見はまとまらず、マズーラは「聖域の神に教えを乞う」と宣言した。彼らの神は「ユグドの木」と呼ばれる大樹で、のび太が拾った光る石が幾つも付いていた。それは石ではなく、持ち主を危険から守る神樹の実だった。リアンが神樹の実に触れると死んだ母の幻影が出現し、超能力でリーベルトを操っているアンゴルモアを倒すよう促した…。

監督は芝山努、原作は藤子・F・不二雄、脚本は岸間信明、プロデューサーは山田俊秀&木村純一&梶淳、作画監督は富永貞義、原作作画は萩原伸一(藤子プロ)、美術設定は沼井信朗、美術監督は森元茂、撮影監督は梅田俊之、編集は岡安肇、録音監督は浦上靖夫、効果は庄司雅弘、演出は善聡一郎&パクキョンスン、メカニカルデザインは宮武一貴、色彩設計は松谷早苗&稲村智子、特殊効果は土井通明、音楽は大江千里&堀井勝美、主題歌『季節がいく時』はSPEED、『ドラえもんのうた』は山野さと子。
声の出演は大山のぶ代、小原乃梨子、たてかべ和也、肝付兼太、野村道子、内海賢二、白石冬美、野沢雅子、荘真由美、玄田哲章、有本欽隆、伊藤美紀、渡部猛、千々松幸子、中庸助、田中亮一、中嶋聡彦、広瀬正志、菅原正志、茶風林、けーすけ、大川透、高戸靖広、遠近孝一。


「大長編ドラえもんシリーズ」を基にした劇場版シリーズ第19作。ドラえもん映画TV20周年記念作品。
監督はシリーズ第4作以降、全て芝山努が担当。脚本は前作に引き続き、岸間信明が手掛けている。
ドラえもん役の大山のぶ代、のび太役の小原乃梨子、ジャイアン役のたてかべ和也、スネ夫役の肝付兼太、しずか役の野村道子らは、TVシリーズの声優陣。
他に、アンゴルモアの声を内海賢二、リアンを白石冬美、ログを野沢雅子、フレイヤを荘真由美、ゴロゴロを玄田哲章、リーベルトを有本欽隆、リアンの母を伊藤美紀、マズーラを渡部猛が担当している。

ジャイアンとスネ夫が『スタークラッシュ』でゴールを目指していると急に戦闘艇がコントロール不能に陥り、不時着して脱出できなくなってしまう。
明らかに深刻な異常事態が発生しているのだが、原因はハッキリしないまま、「ゲームが壊れた」ということになっている。
でも、壊れるような原因が何も見当たらないのよ。
ゲームの箱に強い衝撃を与えたり、外から強力な妨害電波が放たれたり、そんなことは何も無いんだから。

どうせ「おざしき宇宙船のトラブルで庭に放り出される」という出来事があるんだから、その時の衝撃で壊れる形にしておけば良かったんじゃないのか。
そのタイミングまでは、ジャイアンとスネ夫がゴールを目指している設定にすりゃ済むでしょ。
っていうか、理想としては、『スタークラッシュ』の故障でジャイアンとスネ夫が閉じ込められるトラブルは、「宇宙少年騎士団が地球の調査に来ている」とか、「アンゴルモアが地球の侵略を狙っている」とか、そういう要素と関連付けた方がいいんだけどね。

ドラえもんたちはジャイアンとスネ夫を救出したら、早く地球に帰りたいと思っている。ジャイアンとスネ夫にしても、早く自分の家に帰りたいと思っている。
しかし、どこでもドアで地球へ帰れると分かった途端、のび太が「せっかく本物の宇宙に来たのに、冒険もしないで帰るの?」と言い出す。
のび太らしいとは言えるのかもしれないけど、その呑気さに呆れてしまうぞ。
直後に巨大グモの群れに襲われているので、「ほら見たことか」と言いたくなる。

そもそも宇宙救命ボートを使う時、ドラえもんは「宇宙はとっても危険な所だよ」と警告している。それに対し、のび太は「分かってるけど、2人を放っておけないよ」と言っている。
つまり危険なのは理解していたはずなのに、あっさりと自分の言葉を忘れたのか。
あと、過去の劇場版で宇宙に行っているはずなんだけど、それも覚えていないのかね。
もっと言っちゃうと、どこでもドアで地球に帰れると判明したのなら、とりあえず地球へ戻ってみて、もし冒険したければ改めて行けばいいんじゃないかと思ってしまうわ。

どこでもドアが使えないと分かったドラえもんたちは、「UFOで地球に行ってもらう以外に方法は無い」と考える。その直後に「襲われるUFOを助ける」という展開が訪れるため、それは「リアンたちを救うため」ではなく「自分たちが地球へ帰るため」の行動に見えてしまう。
終盤に入ると、銀河漂流船団が独立軍と戦う時にドラえもんたちたちも出撃する。この時に「地球を守るため」と言っているが、つまり「リアンたちを助けるため」ではない。
また、「地球を守るため」ってのも、「人類のため」ではなく「自分たちのため」に思えてしまう。
でも、このシリーズは「ドラえもんたちが困っている仲間を助けるために奔走する」という話であるべきだと思うのよね。

ドラえもんたちの行動理由が、かなりボンヤリとした状態になっている。
もちろん「地球に帰る」という目的は明確にあるのだが、そこに関しては自分たちで出来ることが皆無に等しい。
なので、基本的には宇宙少年騎士団に委ねて、ただ同行するだけになってしまう。
また、独立軍が地球の侵略を狙っていることも、前線基地に連行されるまでは分かっていない。
そのため、そこに関しても、ドラえもんたちは何も行動を取れない時間帯が続くことになる。

本作品のドラえもんたちは、ザックリ言うと終盤までは「巻き込まれ型サスペンスの主人公」みたいなポジションになっている。
これが上手くハマれば良かったのかもしれないが、「残念ながら」と言わざるを得ない。
少なくとも中盤辺りでは明確な目的を見つけ、能動的に活動できるようなシナリオの方が良かったんじゃないかと思うんだよね。
巻き込まれ型が必ずしも悪いわけではないんだけど、その形で話を進めるには、牽引力が足りていないんじゃないかと。

幻惑の星に不時着した時、目を覚ましたドラえもんたちはハッチが開いているのを見た途端、「先にリアンたちは外へ出た」と決め付ける。そして船内にリアンたちがいるかどうかも確かめず、さっさと外へ出る。
そして霧が晴れて地球だと確信すると、そのまま家へ帰ってしまう。
なんでだよ。地球まで送ってくれたんだと誤解したのなら、リアンたちに礼を言うべきだろうに。
幻惑の星のパートに関しては、ドラえもんたちの行動に色々と不自然さが多すぎるぞ。

フレイヤがスパイなのは、それが明かされる前からヒントが出ているので気付く人も少なくないだろう。
ただ、なぜ彼女が独立軍のスパイになったのか、その理由が全く分からない。アンゴルモアの正体や超能力についても、どれぐらい知っていたのか分からない。
どうやら彼女は「独立軍のスパイ」と言うよりも「アンゴルモア直属のスパイ」のようだが、アンゴルモアが武力による地球侵略を目論んでいると知った上でスパイになる理由は何なのか。
彼女はスパイだったことがバレると「リアンのため」と弁明するが、何をどう解釈すればリアンのためになるのかサッパリ分からない。
そして、それについてフレイヤが本人の考えを説明することも無い。

ドラえもんは「アンゴルモアは地球を征服する前に、武力で母船を制圧する作戦に出るだろう」とのび太たちに話した後、「アンゴルモアは何者なんだろう」と呟く。
そんなことを台詞で言わせている以上、「その正体は」という種明かしを用意するのが当然の流れだろう。しかし、最後まで正体は良く分からないままなのだ。
リーベルトの傍らにいたアンゴルモアはロボットで、実体は不定形の存在であることは終盤で判明する。
でも、あくまでも「見た目」としての正体が明らかになるだけであって、「何者なのか」という問いに対する答えは謎のままだ。
なぜ地球の侵略を目論んだのか、その目的は不明なままだ。

ンゴルモアが倒されたのだから、リアンが言っていた「話し合いでの平和的に地球へ移住したい」という希望は復活しているはずだ。
しかしリアンたちが地球への移住を目指す話は、いつの間にか立ち消えになっている。
そして、のび太が「可哀想だから何とか出来ないの、ドラえもん」とドラえもんに頼むようなことも無い。そのまま呑気に見送るので、リアンたちは宇宙漂流を続けることになる。
それって、なんか薄情に見えちゃうのよ。
もちろん、船団には大勢の人々がいるので、地球への移住は簡単じゃないよ。でも劇場版ののび太なら、細かいことは考えずに「何とか助けてあげたい」と思うんじゃないかと。

(観賞日:2023年4月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会