『映画ドラえもん のび太と銀河超特急(エクスプレス)』:1996、日本

巨大な宇宙戦艦に乗った面々が次の獲物を狙い、新銀河に接近した。宇宙を高速移動する列車を発見した彼らは文明のレベルが低いと考え、次の獲物にすることを決めた。彼らは目立たない無人星に着陸し、様子を見ることにした。スネ夫は行き先が分からないミステリー列車の切符を3枚だけ手に入れ、ジャイアンとしずかを誘った。そこへのび太が来たので、スネ夫は誘わないと言い放つ。しかしのび太は全く興味を示さず、3日前からドラえもんが何の連絡も無いまま帰らないことを明かした。
夜遅くまで捜し回ったのび太が帰宅すると、ドラえもんが部屋に戻っていた。ドラえもんは22世紀で大人気のミステリートレインの切符を手に入れるため、3日間も並んでいたのだと説明した。ミステリートレインはミステリー列車と同じく、行き先が分からない列車だった。ドラえもんは明日の夜に出発する切符を手に入れ、ジャイアン&スネ夫&しずかも誘うつもりで個室を取っていた。しかしミステリー列車とスケジュールが重なったため、のび太と2人で行くことになった。
ドラえもんはのび太に、何日掛かるか分からないこと、どこでもドアで好きな時に帰れることを語った。2人は夜を待って裏山へ出向き、ミステリートレインを待った。2人が到着したミステリートレインに乗り込むと、車掌や機関士の姿は見当たらなかった。他の乗客の姿も無い中、ミステリートレインは出発して宇宙へ飛び出した。ドラえもんはのび太を連れて、展望室へ向かった。のび太は窓の外に忍者の姿を見つけて驚くが、ドラえもんが確認すると誰もいなかった。
2人が展望室に着くと車掌が現れ、本社に呼ばれて帰りが遅くなったことを釈明した。彼は乗客が600人ほど乗っていること、今は個室で休んだり、どこでもドアで戻ったりしていることを話す。個室に戻ったのび太は、鏡に吸血鬼が出現したので驚いた。しかしドラえもんが確認すると、何も異変は無かった。ドラえもんとのび太は個室で就寝し、翌朝になるとどこでもドアで家に戻った。のび太は学校へ行く途中、ミステリートレインの体験をジャイアンたちに自慢した。スネ夫は嫉妬し、「あっちに行けば良かったと思ってるんだろ。さっさと行けば」とジャイアンとしずかに告げて走り去った。
ジャイアンがしずかを連れてのび太の家を訪れると、先にスネ夫が来ていた。ドラえもんは4人を連れて、ミステリートレインに戻った。ミーティングルームに入ったのび太は西部のガンマンと遭遇して慌てるが、ジャイアンを呼んでいる間に姿を消した。のび太がしずかと展望室へ行くと、真っ暗で何も無かった。突然の閃光にのび太は意識を失い、展望室にいた乗客のボームが保護した。ボームはしずかに、バーチャル映像で宇宙の誕生を流しているのだと説明した。
意識を取り戻したのび太は、バーチャル映像が退屈なので個室へ戻った。するとスネ夫は海賊、ジャイアンは恐竜を目撃して怯えていた。のび太は2人と共に、ずっと姿の見えないドラえもんを捜索する。彼らが展望室にいると車掌と共にドラえもんが現れ、「大変なんだ。後はミーティングルームで」とのび太たちに告げた。ドラえもんは4人をミーティングルームに集め、ダーク・ブラック・シャドー団という凶悪な宇宙強盗団が海賊艇で暴れ回っていることを伝えた。
5人はどこでもドアで帰ろうとするが、超空間がバリアーで封じられていた。ドラえもんとのび太が屋根に上がって先頭車両へ行くと、車掌がいた。そこへボームが現れ、ドラえもんとのび太にコスモタイムズの記者だと自己紹介した。シャドー団が攻撃を仕掛けて来ると、車掌は列車に取り付けられている信号弾で応戦する。のび太が狙撃を交代するが、多勢に無勢でミステリートレインは撃ち落とされた。ドラえもんたちが意識を取り戻すとミステリートレインは地上に墜落しており、周囲は霧に包まれていた。
どこからかアナウンスが聞こえ、霧が晴れると目の前にはテーマパークのドリーマーズランドがあった。ボームはドラえもんとのび太に、「ハテノハテ星群に遊園地を作っている噂を聞いたが、ここだったのか」と告げた。ドリーマーズランドの音声ガイドにより、シャドー団の襲撃が最初のアトラクションの「列車強盗ショー」であることが判明した。ドリーマーズランドは周辺の小惑星に忍者の星や西部の星、恐竜の星など幾つもの冒険コースを用意していた。
ミステリートレインを降りたアストン、ドン、ジェーンの子供3人組は、昔の格好をしているのび太たちに目を留めた。のび太が挨拶して20世紀から来たことを話すと、彼らは馬鹿にして笑った。同じ頃、宇宙戦艦に乗るヤドリの天帝たちは、ドリーマーズランドに大勢の知的生命体が入るのを確認した。天帝はスパイを送り込み、調査することにした。しずかは用事があるのでどこでもドアで帰宅し、ジャイアンとスネ夫は忍者の星、ドラえもんとのび太は西部の星へ行くことにした。ドラえもんはしずかに、メッセージを残した。
ドラえもんとのび太はレンタルロケットを借りる時、禁断の星へ行かないようガイドから釘を刺された。ドラえもんはのび太に、昔は禁断の星でメズラシウムという鉱石を掘っていたこと、今は無人で危険だから立ち入り禁止になっていることを説明した。西部の星に着くと、保安官助手を選ぶための射撃大会が開かれた。ドラえもんとのび太、ガストンらが採用されると、直後に銀行を襲った強盗団が逃走した。ドラえもんとのび太がタケコプターで追い掛けようとすると、市長から使用を禁じられた。ドラえもんとのび太が馬で谷へ向かうと、先に到着していた他の助手たちは全員が強盗団に敗れていた。のび太は強盗団を退治し、保安官に任命された。
ジャイアンとスネ夫は忍者の里で修業を要求され、面倒なので去ろうとする。忍者の先生は3つの忍法が使える仮免許皆伝の巻物を彼らに渡し、城へ侵入して機密文書を盗み出せば本免許を与えると約束した。ジャイアンとスネ夫は城に忍び込むが、失敗して捕まってしまった。ジェーンはアストンとドンにジャンケンに勝ち、2人を連れてメルヘンの星に向かった。ジェーンが望んだ白雪姫コースは大人気で順番待ちになっており、前の組を見学させてもらった。すると7人が同時進行しており、その中にしずかの姿もあった。王子様がしずかを選ぶと他の客が文句を言い、それを見たジェーンは参加を取り止めた。
ガストンたちがメルヘンの星を去る時、ヤドリの小型円盤が狙いを付けた。ヤドリはガストンの体を乗っ取り、ドンとジェーンを置き去りにして飛び去った。報告を受けたヤドリの総司令部は銀河全体を乗っ取るため、第二次工作隊を差し向けた。ドラえもんやのび太たちは合流し、それぞれの体験を語り合った。ヤドリはコントロールセンターの通信タワーに勤務する通信士の体を乗っ取り、翌日の作戦実行を待つことにした。コントロールセンターでは、ドリーマーズランドの全てのロボットを操作していた。
次の日、ドラえもんやのび太たちは恐竜の星へ行き、恐竜ロボットと触れ合った。しかし急に恐竜が動かなくなったため、中央事務所へ乗り込んで文句を言う。すると係員は困った様子で、全てのロボットは中央惑星のコントロールセンターで管理しているが連絡が取れないと説明した。恐竜が勝手に暴れ出し、ドラえもんたちは中央惑星に赴いた。コントロールセンターからは煙が上がっており、彼らは手分けして調べることにした。するとヤドリがスネ夫の体を乗っ取り、ドラえもんたちを騙して宿舎に監禁する…。

監督は芝山努、原作・脚本は藤子・F・不二雄、作画監督は富永貞義、美術設定は沼井信朗、美術監督は川口正明、撮影監督は高橋秀子、特殊撮影は渡辺由利夫、編集は岡安肇、録音監督は浦上靖夫、監修は楠部大吉郎、効果は柏原満、プロデューサーは別紙壮一&木村純一&山田俊秀、演出は塚田庄英&平井峰太郎、色彩設計は松谷早苗、特殊効果は土井通明、音楽は菊池俊輔、主題歌『ドラえもんのうた』は山野さと子、『私の中の銀河』は海援隊。
声の出演は大山のぶ代、小原乃梨子、たてかべ和也、肝付兼太、野村道子、千々松幸子、内海賢二、塩沢兼人、伊倉一恵、真殿光昭、菅原淳一、丹下桜、秋元羊介、石田弘志、中村大樹、中庸助、矢田稔、田中亮一、北村弘一、佐久間レイ、江森浩子、天野由梨、まるたまり、菊池正美、森川智之、中博史、桜井敏治、石川和之、土井俊明、関根章恵、今井由香。


藤子・F・不二雄の「大長編ドラえもんシリーズ」を基にした劇場版シリーズ第17作。
藤子・F・不二雄は1作目から全て脚本も手掛けている。
監督はシリーズ第4作以降、全て芝山努が担当している。
ドラえもん役の大山のぶ代、のび太役の小原乃梨子、ジャイアン役のたてかべ和也、スネ夫役の肝付兼太、しずか役の野村道子、ママ役の千々松幸子は、TVシリーズの声優陣。
他に、天帝の声を内海賢二、ボームを塩沢兼人、車掌を伊倉一恵、アストンを真殿光昭、ドンを菅原淳一、ジェーンを丹下桜が担当している。

ミステリートレインは、どこでもドアを使って好きな時に家へ帰れる旅行企画となっている。
でも、それだと「列車で行き先の分からない旅をする」という企画の意味が無いでしょ。
あと、22世紀で大人気の列車なのに、ドラえもんとのび太が20世紀で待っていたら来るのは変じゃないのか。そこは22世紀に行かないと乗れない設定じゃないと、おかしくないか。
時代に無関係で、どんな場所で客が待っていても来てくれるってことになると、旅行企画としての根幹が崩れているような気がしてしまうぞ。

ドラえもんとのび太がミステリートレインに乗ると車掌や機関士どころか、乗客の姿さえ無い。
展望室に行くと車掌がいて、その後で数名の乗客が現れる。
ドリーマーズランドに到着した時には、大勢の客が乗っていたことが明らかになる。でも、最初の内に「誰もいない」という状況を用意し、しばらく話を進めた意味がサッパリ分からないのよ。
そこで不穏な雰囲気を漂わせて、何かあるのかと変な深読みをさせても意味が無いでしょ。

ミステリートレインには「見た目は8両だが実際は120両」という設定があるのだが、これって全く要らないでしょ。
普通に、見た目通りの車両でもいいでしょ。どうせ乗客の数にしても、そんなに大勢を出す必要性は無いんだし。
8両だと短いなら、10両か12両ぐらいにしておけばいいし。
ぶっちゃけ、「見た目は8両だが実際は120両」ってのは、「展望室まで行くのに走っていたらのび太がヘロヘロになり、タケコプターを使えばいいことにドラえもんが気付く」というネタぐらいにしか利用できていないぞ。

のび太がしずかを展望室に連れて行くと真っ暗なので焦り、閃光に驚いて意識を失う。
でも、すぐにバーチャル映像だと判明するんだし、そんなコケ脅しなんて要らないよ。
前述した「しばらくは誰もいない状況が続く」ってのもそうだけど、なんかダメなホラー映画にも似たノリを感じるんだよね。
変なトコで脅かしたり不安を煽ったりして、力を入れるポイントを間違えているとしか思えない。
ひょっとすると、後に待っている「シャドー団が狙っている」という部分に繋げる狙いがあったのかもしれないけど、だとしても違うなあ。

しばらく姿を消していたドラえもんは車掌と共に現れ、のび太たちにシャドー団の存在を知らせる。
でもシャドー団って、アトラクションの一環なのよ。それを他の乗客よりも先にドラえもんだけが車掌から知らされるのは、どう考えても変でしょ。
さらに言うと、のび太たちだけミーティングルームでシャドー団のことを聞かされ、他の乗客には車掌が説明するのも変でしょ。
それがアトラクションの一環であるなら、車掌が全員を同じ場所に集めて説明しないとマズいでしょうに。

ドラえもんとのび太が先頭車両に来た時、車掌が一緒にいるのを容認したり、のび太が信号弾を撃つのを認めたりするのも変でしょ。
もし何かトラブルが起きたら、そのツアー自体が中止になるかもしれないんだし。
あと、どこでもドアをバリアーで封じているのも、もちろんアトラクションだとバラす前に乗客が逃げ出すのを防ぐための処置なのは分かるよ。でも、そんなことが出来るってことは、ツアーを企画した会社が何か悪いことをしようとしたら、乗客を閉じ込めるのも可能ってことになるわけで。
それは色々と問題があるでしょ。

シャドー団の存在を知らされてジャイアンたちが怖がっていると、のび太が「やっと面白くなってきたじゃない。僕たちはいつも、こんな冒険をして来たんじゃなかった?何度も戦い、その度に乗り越えて来たじゃない。今度も逃げないで、ぶつかって行こうよ」と前向きな言葉を口にする。
スネ夫が「のび太は映画になると、いつもカッコイイことを言うんだから」とネタにしているけど、そこの台詞は大いに引っ掛かるぞ。
確かにスネ夫の言う通り、のび太は劇場版だと勇ましい言動を取ることも少なくない。だが、それは「仲良くなった誰かが困っているので助ける」という場合だ。
今回は状況が全く違っていて、自分に危険が迫っているのだ。
こういう時にのび太が勇ましい態度を見せるのは、幾ら映画版だからって、キャラの動かし方がおかしいと感じるぞ。

列車がドリーマーズランドに到着し、強盗団の襲撃はアトラクションだったことが判明する。
だけど、それで襲撃に関しては納得できても、忍者や吸血鬼、海賊や恐竜が窓の外や鏡の中に出現していた出来事に関しては全く説明が付かないぞ。それは列車強盗ショーと何の関係も無い現象なんだから。
「周辺の小惑星に忍者の星や西部の星、恐竜の星などの冒険コースを用意されている」という設定があるけど、だからって小惑星のロボットが列車に現れるのは変でしょ。全く理屈が通らないぞ。

保安官助手を決める射撃大会で、ガストンは5つの的に全て命中させる。次の順番ののび太は自信を見せ、1つの的だけを狙い続ける。
1つしか当たっていないと指摘されると、的になった缶に6つの弾丸が全て入っているのを見せて採用になる。
でも、そこまで変に凝ったことをやらなくてもいいよ。
普通に「それまでの最高記録は3発だったけど、ガストンは4発を命中させる。でも、のび太は全て命中」みたいなことでもいいし。
なんか1つの的だけを狙う見せ方だと、のび太が調子に乗り過ぎている嫌な奴に見えるのよ。

「列車に乗って宇宙旅行に出る」ということで話が始まるのだが、20分ぐらいでドリーマーズランドに到着して、もう「列車の旅」は終了してしまう。後は、ドリーマーズランドでのアトラクションを楽しむ展開になる。
だったら、もう列車なんて要らなくねえか。最初から、「ドリーマーズランドに行く」ということで良くないか。
なんか列車で旅をしているパートって、しょっぱい形で『銀河鉄道999』を模倣しているだけになってないか。
シャドー団の一件での、肩透かしのサスペンスぐらいしか無いでしょ。

この映画には致命的な欠点があって、それは「ドラえもんやのび太たちが遊んでいるだけの時間が長すぎる」ってことだ。
今までの劇場版だと、最初は遊びで始まっても、前半の内に本物のピンチやトラブルと直面し、真剣に敵と戦ったり、誰かを救うために行動を起こしたりする展開へと移行していた。
でも今回は、ずっと遊びの冒険が続く。
西部の星で強盗団と戦っても、忍者の星で機密書類を盗むために城へ忍び込んでも、所詮はアトラクションに過ぎないので、本物の危機が訪れないのは分かり切っているのだ。

映画開始から50分ぐらい経過してガストンがヤドリに乗っ取られるシーンが訪れ、ようやく本格的に敵が行動を開始する。ところが、まだドラえもんやのび太たちは、そんな危機が迫っていることを知らない。
だから、その後も遊びの時間は続いてしまう。
さらに困ったことに、ようやく状況を悟った後も、「ロボットの暴走」という『ウエストワールド』的な危機と、「寄生生物が人間の体を乗っ取る」という『SF人喰いアメーバの恐怖』的な危機が並立し、ピントが定まらない。
おまけに、ドラえもんやのび太たちが禁断の星に逃走し、また別の展開が待ち受けている。「機関車を探して云々」という展開が始まり、「敵との戦い」という図式から外れた冒険になってしまう。
もう最終決戦へ向けてまっしぐらに突き進んでもいい時間帯なのに、変なトコへ寄り道するのだ。

(観賞日:2023年4月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会