『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』:2007、日本

ケツだけ星人の乗った宇宙船に、大きな隕石が接近してきた。ケツだけ星人は多数の爆弾を放出し、隕石を粉砕した。だが、爆弾の1つは 不発のまま、地球へと落下した。一方、野原一家はひろしの勤続15年の褒美で沖縄旅行に来ていた。海でシロと遊んでいたしんのすけは、 爆弾を発見する。遊んでいる最中、爆弾がしんのすけへと向かう。それに気付いたシロは、しんのすけを庇って飛び出した。すると、爆弾 はシロのお尻にくっ付き、おしめのような状態になった。
国際宇宙監視センターUNTI(ウンツィ)では、長官・時雨院時常の指揮の下で宇宙からの侵入物を監視していた。時雨院は爆弾の飛来を 知り、回収のため隊員を沖縄へ向かわせた。野原一家はシロの尻にある物が爆弾だとは知らず、取り外そうとする。だが、ひろしが力を 入れて引っ張っても、全く離れない。帰宅してから外すことにして、一家は空港へと向かった。
空港に到着した野原一家を、UNTI隊員2名が張り込んでいた。2人は隙を見てシロを奪おうとするが、なかなかチャンスが来ない。そんな 中、謎の女性2人組が現れ、しんのすけが気付かぬ間にシロを奪った。女性2人組とUNTI隊員はシロの争奪戦を繰り広げるが、偶然にも シロはトイレから出て来たしんのすけのリュックにスポッと収まってしまう。結局、女性2人組とUNTI隊員は空港での奪取を断念した。 そんな争奪戦があったことを、野原一家は全く知らなかった。
空港に現れた女性2人組は、ひなげし歌劇団のメンバーだった。ひなげし歌劇団の団長・お駒夫人は、爆弾を手に入れて世界を制圧しよう と企てていた。ひなげし歌劇団所属の三人娘、うらら&くらら&さららは、計画遂行の先頭に立つことを名乗り出た。野原一家は車に乗り、 羽田から春日部に向かう。その途中、歌劇団のサイドカーとトラックが接近し、お駒夫人が姿を見せた。彼女はしんのすけに黄金カンタム を見せ、シロとの交換を持ち掛けた。しかし、ひろしが高速を下りたため、取引は失敗に終わった。
野原一家が帰宅すると、時雨院が側近2名を伴って待ち受けていた。時雨院は一家に、シロの尻に付着した物体が地球を滅亡させる威力を 持つ恐ろしい爆弾だと説明した。彼は爆弾をロケットに乗せ、宇宙に打ち上げて危機を回避する計画を立てていた。時雨院はシロの爆弾を 解除しようとするが、失敗に終わる。そこで時雨院はシロの譲渡を持ち掛け、一家には各人が喜ぶチケットを渡した。
取引の途中、テレビでスナック菓子カールケッツのコマーシャルが流れた。その歌に反応し、爆弾が変化を示した。時雨院とUNTI隊員は 動揺し、慌てて家の外に退避した。シロが爆弾をポンポンと叩いていると、元の状態に戻った。UNTI隊員はシロを捕獲するため、外で準備 を進めた。だが、しんのすけは引き渡しに反対し、シロを連れて家を飛び出した。
しんのすけはUNTI隊員に追われるが、かすかべ防衛隊の面々の協力も得て必死に逃げ続ける。だが、体力を使い果たしたしんのすけは、 とうとう眠り込んでしまう。UNTI隊員が近付く中、シロはしんのすけのことを心配し、自ら捕獲された。しんのすけが目を覚ますと、 UNTI本部の救護室だった。周囲にはひろし、みさえ、ひまわりがいたが、シロはいない。既にロケットに監禁され、打ち上げを待つ状態と なっていたのだ。ひろしとみさえは、「地球のためなら仕方が無い」とシロのことを諦めていた。
しんのすけはシロを奪還するため、ベッドから体を起こした。しんのすけの熱い思いに打たれ、ひろしとみさえもシロを取り戻そうと決意 した。しんのすけはロケットに辿り着くが、ひなげし歌劇団の急襲によって連絡通路が分断されてしまう。お駒夫人はロケットに乗り込み 、しんのすけにシロの引き渡しを要求する。ひろしとみさえは時雨院の元に乗り込み、打ち上げ中止を要求する。だが、スケジュール通り に進めることを最優先する時雨院は、しんのすけやお駒夫人も乗せたままロケットを打ち上げようとする…。

監督はムトウユージ、原作は臼井儀人(らくだ社)、脚本はやすみ哲夫、チーフプロデューサーは茂木仁史&太田賢司(テレビ朝日)& 生田英隆(ADK)&中島一基(双葉社)、プロデューサーは和田泰(シンエイ動画)&吉田有希(シンエイ動画)&西口なおみ (テレビ朝日)&すぎやまあつお(ADK)&増尾徹(双葉社)、作画監督は原勝徳&大森孝敏&針金屋英郎&間々田益男、 キャラクターデザインは原勝徳&末吉裕一郎、美術監督は川口正明&村上良子、設定デザインは末吉裕一郎、絵コンテはムトウユージ& 増井壮一&平井峰太郎、演出は石田暢、撮影監督は梅田俊之、編集は岡安肇、色彩設計は野中幸子、色指定は蝦名佳代子、特殊効果は千場豊 (アニメフィルム)、ねんどアニメは石田卓也、音響監督は大熊昭、音楽は若草恵&荒川敏行&丸尾稔。
オープニングテーマ:『ユルユルでDE-O!』作詞:ムトウユージ/作曲:中村康就/編曲:岩崎貴文/歌:野原しんのすけ(矢島晶子)&クレヨンフレンズ from AKB48。
エンディングテーマ:『Cry Baby』作詞:Naoki Takada/作曲:Naoki Takada & Shintaro "Growth" Izutsu/編曲:Shintaro "Growth" Izutsu/歌:SEAMO。
声の出演は矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、こおろぎさとみ、真柴摩利、林玉緒、一龍斎貞友、佐藤智恵、玄田哲章、小桜エツ子、 京本政樹、戸田恵子、来宮良子、此島愛子、ゆかな、折井あゆみ、大島麻衣、今井優、浦野一美、野呂佳代、松山鷹志、西村朋紘、 嶋村カオル、樹元オリエ、若菜よう子、瀬那歩美、倉田雅世、江川央生、長嶝高士、後藤史彦、大西健晴、福崎正之、山中真尋、高城元気 、幸田昌明、河野裕ら。


人気TVアニメの劇場版シリーズ第15作。
監督は「伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃」から3作目となるムトウユージ。
TV版のレギュラー声優陣の他、時雨院の声を京本政樹、お駒夫人を戸田恵子が担当している。
また、当時のAKB48のメンバー5名が、ひなげし歌劇団員やUNTI隊員役で出演し、「クレヨンフレンズ from AKB48」としてオープニング テーマ曲『ユルユルでDE-O!』を野原しんのすけ(矢島晶子)と共に歌っている。

沖縄から話を始めたことの意味が分からない。
そこは春日部から始めていいと思うんだけどなあ。
春日部じゃないこともあって、かすかべ防衛隊がなかなか出て来ないし。
っていうか今回、防衛隊ってほとんど絡んで来ない。家族の絆がテーマだから仕方の無い部分はあるけど、それにしても、ないがしろに しすぎだろ。先生たちが全く出てこないのは許すとしても、防衛隊が1シーンだけで終了ってのは、扱いが悪すぎるんじゃないかと。
ムトウユージ監督になってからの3作は、かすかべ防衛隊への関心が薄すぎる。

どうやらムトウユージ監督はミュージカルをやりたかったようだが、違和感がとても強い。
ケツだけ星人が歌って登場するのは別に気にならないが、沖縄のシーンで野原一家が歌い出す場面における居心地の悪さは、ハンパじゃない。
野原一家にもミュージカル・シーンを用意するのであれば、歌っても不自然にならない状況を作ってあげるべきではなかったか。
例えば歌の大会に参加するとか、それこそミュージカルの舞台に出演するハメになるとか。

というか、ミュージカルの中軸にいるのは歌劇団だと思うが、その歌劇団の存在意義がそもそも分からない。
第3勢力というのは新機軸だが、上手く捌くことが出来ていない。無駄に話を散らかしているだけにしか思えない。
歌劇団は爆弾を手に入れることで「世界を制圧し、自分たちの舞台を見せて支配する」と言うが、そんなセリフでは爆弾を手に入れようと する動機の説明になってない。
ムトウユージ監督は前作で「なぜ敵は瓜二つのニセモノを送り込むのか」「なぜ敵はサンバを踊らせたいのか」という行動理由の部分に 説得力を持たせる意識が薄弱だったが、今回も歌劇団の行動理由に対する設定がフワフワしている。
そもそも「いつ、どんなタイミングで起動するか良く良からない」という爆弾を手に入れて、具体的にどういう風に利用するつもりだったのかと。

UNTIが悪党として登場するが、それほど悪い組織に見えないんだよな。
確かに時雨院は冷徹で横暴な行動を取る。
だが、その目的は「地球の爆発を阻止すること」であり、それに関しては否定されるようなものではない。
ここは歌劇団と組織をミックスして、「正義のために動いていると見せ掛けて、実は裏で悪事を企てている」という設定にした方が 良かったんじゃないのかなと。

シロの尻に付着した物体が危険な爆弾だということが、表現として分かりにくくなっている。
観客は冒頭シーンを見ているから、それが爆弾だということはもちろん分かっている。
しかし、ひろし&みさえは、それを知らない。
UNTIの言葉による説明だけでは、「それが危険な爆弾だ」と納得させるには弱いと感じる。それが爆弾だという証拠は何も無いのだ。
例えば「他にも同じ爆弾が落下していて、それを宇宙に打ち上げて爆発させた証拠映像」などにより、本物だという説得力を持たせて ほしい。
あとカルーケッツのCMで爆弾が起動するという場面が2回ほどあるが、何かの伏線なのかと思ったら(それを利用して解除したり、 あるいは敵を倒したりする展開があるのかと思いきや)、そのまま放り出されて終わっている。
それはダメだろ。

本人の意思なのか、上から「原恵一監督みたいな路線で行ってくれ」という要請があったのか、ムトウ監督は今回、「観客を感動させて 泣かせる」ということを狙っているようだ。
しかし、あまり得意ではないようで、上手く行っていない。
しんのすけやシロが泣いても、こっちが貰い泣き出来るほど気持ちを高ぶらせるためのドラマが、そこまでに盛り上がっていない。
それと、「感涙させる場面」まで向かう行程も、どこかズレているんじゃないかと思ってしまう。
後半、UNTI本部のベッドで目を覚ましたしんのすけは、シロを引き渡したことに関して両親に怒りをぶつける。だが、それより先に 「自分が眠り込まなければシロを渡さずに済んだはずなのに」というところへ、悔恨へ考えが至るべきではないのかと。

それと、しんのすけはシロの自己犠牲に関して、心を痛めるべきではないのか。
そもそも爆弾がシロにくっ付いたのは、しんのすけを庇ったためだ。
だったら、しんのすけが「それが無ければ自分に爆弾がくっ付いていた。今度は自分がシロを助ける番だ」という意識で行動を起こすという方程式を、なぜ使わないのか。
使わないのなら、なぜ序盤にそんな場面を用意したのかと。

「シロは家族だから宇宙へ打ち上げられてサヨナラなんてイヤだ」という、しんのすけの気持ちは分かる。
しかし、シロを引き渡さないと地球が爆発するという問題はあるわけで、しんのすけはともかく、大人たちはその問題を無視して「家族 だから取り戻す」と簡単に考えるべきではない。
どこかで「引き渡さないためには爆弾を解除する方法を考えないと」という考えに向かうべきだ。
しんのすけが自ら爆弾の解除について考えるというのがキャラ的に難しいのであれば、かすかべ防衛隊の誰かや、ひろし&みさえが、 「シロを渡さずに済むように、爆弾を解除する方法を考えよう」と促し、そこで話を展開させていくべきだ。そして、しんのすけが一家や 防衛隊と一緒に爆弾解除のために奔走するという展開でも良かったのではないか。
この映画だと、ひろし&みさえってシロを救うために、これといった仕事をしてないんだよな。

さらに歌劇団のポジは第3勢力ではなく、解除方法を見つける協力者にした方が良かったのではないか。
っていうか、歌劇団なんか出すよりも、ケツだけ星人をもっと絡ませれば良かったんじゃないの。
こいつらが、しんのすけ一家のとこへ来て解除方法を教えるが、時雨院は胡散臭い連中だと思って、もしくは敵対宇宙人だと思い込んで、 全く信用しないとかさ。
そんで結局、爆弾は何の苦労も無く唐突に外れてしまうんだよな。
なんだよ、そりゃ。

「シロも家族だから引き渡せない」というところで泣かせに入るのは、まあ理解できる。
ただ、「家族のためなら他の大勢が犠牲になるのは構わないのか」という問題が生じているのに、そこはスルーしちゃうんだよな。
こっちは、そこが引っ掛かって仕方が無い。
そうじゃなく、しんのすけはもう少しで爆弾が解除できそうなところまで来ているのに、時雨院は「そんなの待っていられない」と 問答無用でロケットを打ち上げようとする形にすれば良かったのでは。

(観賞日:2008年3月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会