『クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』:2006、日本

野原家の息子・しんのすけは、いつものように幼稚園の送迎バスを待たせた。ところが、よしなが先生は普段とは別人のように機嫌が良く 、しんのすけの下ネタにも乗ってきた。幼稚園では、マサオくんが「あいちゃんの様子がおかしい」と言う。いつもは無関心な彼女が、 マサオくんが呼んだだけで駆け付ける。マサオくんが「あいちゃんはニセモノだ」と口にすると、ボーちゃんは「自分のそっくりさんが 出現し、本物はいなくなってしまう」というカスカベ都市伝説を仲間に語った。
よしなが先生は園長先生に、お遊戯会の出し物でサンバを踊る案に賛成だと言い出す。昨日までは嫌がっていたのに、彼女は別人のように 態度が変わっていた。帰宅したしんのすけは、父・ひろしと共にテレビでカリフォルニア州サンタモナカのサンバ・カーニバルの映像を 見る。サンタモナカではカーニバル条例が可決され、毎日サンバを踊っているという。
翌日、風間くんは幼稚園で、よしなが先生が画鋲を踏んだのに全く痛がらないのを見て怖くなる。それに気付いた園長先生とよしなが先生 は風間くんを恐ろしい形相で取り囲むが、しんのすけが現われたために何でもない素振りをした。風間くんが帰宅すると、ママはノリノリ でサンバを踊っていた。風間くんは不安になって抱きつくが、ママの顔が醜く変貌するのには気付かなかった。
野原一家はスーパーマーケットへ買い物に出掛けた。迷子になったしんのすけは、「ツンデレ」と書かれたジャンパーを着ている女性に 出会う。そこへ母・みさえが来るが、まるで別人のように優しかった。その時、しんのすけは、もう1人のみさえを目撃した。ツンデレ服 の女は、目の前のみさえを蹴り飛ばした。すると、みさえは腕がグニャリと曲がり、人間離れした動きで逃走した。後には、ホイッスルが 落ちていた。がしんのすけは、本物のみさえとひろしの元へ戻った。
翌日、幼稚園ではかすかべ防衛隊の面々が疑心暗鬼になっていた。そこへ園長先生とよしなが先生が現われ、お遊戯会の出し物でサンバを 踊ることに決定したと告げる。ラジカセでサンバを流すと、かすかべ防衛隊以外の園児は全て踊り出した。まつざか先生と上尾先生も、 踊らなかった。それがニセモノの習性だと察知したしんのすけたちは、まつざか先生が自らを犠牲にして園長先生らを食い止めている内に 幼稚園から逃走した。
ひろしは会社で、部下の川口がニセモノに変わっていることに気付いた。定規が頭に刺さったのに、川口は全く痛がらなかったのだ。一方 、かすかべ防衛隊は公園に集まり、両親もニセモノに変わっているのではないかと口にする。風間くんは「ママはニセモノじゃない」と 叫び、公園から走り去る。仕事を終えて駅に到着したひろしは、川口と黒いマントの集団に取り囲まれる。しんのすけたちは、もし両親が ニセモノに変わっていたら公園に集まることを決め、解散する。風間くんが帰宅すると、ニセモノの自分とママがいた。 川口たちから逃亡したひろしが家に戻ると、ニセモノの自分がしんのすけと風呂に入っていた。ニセモノはみさえに見抜かれ、逃走する。 ひろしたちが家の外を見ると、川口と黒マントの軍団が包囲していた。篭城しようとするひろしだが、飼い犬のシロがしんのすけを威嚇する。 ひろしとみさえは、しんのすけがニセモノだと気付いた。そこへ、川口たちが車で突っ込んできた。
ひろしたちは川口と黒いマント軍団に捕まりそうになるが、そこへ1台のバスが突っ込んできた。そこには本物のしんのすけが乗っており、 ツンデレ服の女性が運転していた。ひろしたちはバスに乗り込み、野原邸から逃走する。ツンデレ服の女性は、SRI(サンバのリズム いいね)という組織の特捜員ジャクリーン・フィーニー、通称ジャッキーだと自己紹介した。公園に集まっていたネネちゃん、マサオくん、 ボーちゃんは黒マント軍団に捕まりそうになるが、しんのすけたちのバスが駆け付けて救出した。
春日部はニセモノに占拠されており、ジャッキーはバスを山道へと向けた。だが、ヨシリンとミッチーのニセモノに襲われ、妨害電波に よってSRI本部への連絡も不可能となった。ジャッキーは、このニセモノ騒ぎがサンタモナカで始まり、春日部は6番目の都市だと説明 する。ジャッキーによれば、ニセモノに乗っ取られた町はサンバ一色になる。ニセモノを作り出しているのは、バイオテクノロジーの権威 アミーゴ・スズキだ。
ついに捕まったしんのすけたちは、一味の工場に連行される。そこではアミーゴ・スズキの生み出したコンニャクローンという技術により、 ニセモノが生産されていた。工場にサンバが流れ出し、アミーゴ軍団は踊り始めた。そこに、一味のボスであるアミーゴ・スズキが登場 する。だが、それは正確にはアミーゴではなく、彼が化けた女性アミーガ・スズキだった。
アミーガ・スズキは手下のチロに音楽を流させる中、ひろしが1年前からニセモノだったと言い出す。ひろしは、慌てて自分が本物だと 釈明する。だが、みさえもしんのすけも妹・ひまわりも、ひろしが本物だと分かっていた。ジャッキーはコンニャクローンを溶かす液体を しんのすけたちに渡し、自分はアミーガ・スズキにサンバ対決を挑む…。

監督はムトウユージ、原作は臼井儀人、脚本はもとひら了、プロデューサーは和田泰(シンエイ動画)&西口なおみ(テレビ朝日)& すぎやまあつお(ADK)、チーフプロデューサーは茂木仁史&太田賢司&生田英隆、アシスタントプロデューサーは大澤正享 (シンエイ動画)、絵コンテはムトウユージ&きむらひでふみ&増井壮一&平井峰太郎、キャラクターデザインは原勝徳、 作画監督は原勝徳&大森孝敏&針金屋英郎&間々田益男、演出助手は平井峰太郎、撮影監督は梅田俊之、編集は岡安肇、 美術監督は川口正明&古賀徹、色彩設計は野中幸子、音響監督は大熊昭、特殊効果は干場豊(アニメフィルム)、ねんどアニメは石田卓也、 音楽は若草恵&荒川敏行&丸尾稔、
オープニングテーマ:「ユルユルで DE-O!」作詞:ムトウユージ/作曲、編曲:中村康就/歌:野原しんのすけ(矢島晶子)
エンディングテーマ:「GO WAY!!」作詞、歌:倖田來未/作曲、編曲:小松寛史
声の出演は矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、こおろぎさとみ、真柴摩利、池田秀一、田島令子、渡辺明乃、中江真司、 長州小力、セイン・カミュ、林玉緒、一龍斎貞友、佐藤智恵、納谷六朗、高田由美、富沢美智恵、三石琴乃、川澄綾子、立木文彦、 中村大樹、玉川紗己子、大塚智子、阪口大助、大本眞基子、友永朱音、足立友、茶風林、野川さくら、倖月美和、後藤史彦、 川中子雅人、福崎正之ら。


人気TVアニメの劇場版シリーズ第14作。
TV版のレギュラー声優陣の他、アミーゴ・スズキの声を池田秀一、アミーガ・スズキを 田島令子、ジャッキーを渡辺明乃、チコを中江真司、長州小力&オカマバーのママを長州小力、SRI隊長をセイン・カミュが担当している。
監督は前作「伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃」に引き続いてムトウユージ。
脚本はシリーズ1作目以来となる、もとひら了。2005年から僧侶になっていた彼にとって、脚本家としての復帰作となる。

SRI特捜官の名前がジャック・フィニィをもじったジャクリーン・フィーニーになっていることからも、この映画が『盗まれた街』を モチーフにしていることは明白だ。そのため、前半は子供向け映画のレヴェルを超えているんじゃないかと思えるほど、ホラーとしての 味付けが強い。
ただ、恐怖描写が子供向け作品としてどうなのかと引っ掛かる部分はあるものの、映画としてのまとまりはいい。不気味さ は醸し出されているし、流れとしても上手く行っている。
しかし、「本物とニセモノが入れ替わる」というホラーの要素と、「サンバ」という要素を、どのようにフィットさせるのだろうかという疑問があった。
結果としては、「結び付いていない」ということになる。
『盗まれた街』とサンバが全く噛み合っていないのだ。
そのため、後半に入って「なぜサンバなのか」という種明かしに入ると、一気に崩れてしまう。

別にバカバカしいことへの固執であろうとも、敵がサンバを無理にでも広めようとする理由がちゃんとあればいいのだ。
ところが、「なぜサンバを踊らせたいのか」という質問に対して、アミーガ・スズキは「昼も夜も踊っているお前たちが見たいから」と 言うが、理由になっていない。
そんな「そこに山があるから登る」的な説明ではイカンのよ。
「なぜ皆が昼も夜も踊っている姿を見たいのか」という部分を説明してこそ、サンバや踊りに対する敵の思い入れを描写してこそ、成立するものだろうに。
大体、サンバを踊らせることと、そっくりなニセモノを送り込むことは、何の関係も無いのだ。
サンバを踊らせることが目的なら、「そのコンニャクを食べた人間は誰もがサンバを踊りたくなる」ということでいいはずだ。
この映画には、敵がサンバを踊らせる理由も無いが、ニセモノを送り込む目的に関しては「そこに山があるから」的な説明さえ無いのだ。

そのサンバの動きが、アニメーションとしては単にジタバタしているだけにしか見えないというのもキツい(そういえば、敵の追跡から 逃亡するというアクションシーンでも、動画の躍動感がイマイチだったなあ)。
音楽の質も低い。
そのため、サンバを踊るシーンが何度も出てくるのだが、そこにノリの良さ、高揚感を全く感じないのだ。
観客をノリノリにさせるようなサンバ音楽を作れないのなら、既存の有名なサンバの曲でも使用すればいいじゃないか。

アミーガ・スズキが「ひろしは1年前からニセモノだ」と言い放ち、野原家の面々がひろしを信じるという場面は、家族の絆をアピール 出来るポイントだ。
ところが、ものすごくあっさり風味で処理してしまう。
わざわざ話の流れを止めてまで、野原家が疑心暗鬼になる(ような素振りを少しだけ見せる)という場面を持って来たのに、その淡白さは無いわ。

クライマックスが、なぜ水着姿になったジャッキーとアミーガ・スズキのサンバ対決になるのか、ワケが分からない。
ナンセンスな面白さなど、そこには無い。ただ呆気に取られるだけだ。
アミーゴ軍団の追跡や捕獲といった場面は普通に「戦い」としてのモノだったのに、なぜ最後は普通に「戦い」を見せないのかと。
戦いの中で、例えばしんのすけがバカな行動を取るとか、ひろしが靴の匂いで敵を撃退するとか、そういう形で笑いの要素を持ち込めばいいんじゃないのかと。

無理にサンバを踊らせる敵を倒すために、なぜこっちまでサンバを踊らなきゃいけないのか、その論理がサッパリ分からない。
そこに来て「サンバで勝負」とか言われても、何が勝ちで何が負けなのかサッパリ分からないし。
アミーガ・スズキが劣勢になるとチコがジャッキーを撃つんだが、だったら最初から普通に戦えばいいじゃねえか。
ジャッキーが「自分のサンバを見つけた」と言い出し、ひろしやみさえ達も自然に体が動いて踊り出し、かすかべ音頭に移行すると いう展開も、ただダラダラと続けているだけにしか感じない。
結局、アミーゴ軍団との戦いは、ジャッキーとアミーゴ・スズキの間でしか成立しないような納得によって結末を迎える。

今回は敵を倒すのに、しんちゃんも野原家の面々も、ほとんど活躍していない。SRIがダダっとやって来て、ジャッキーが踊って、 それで解決している。かすかべ防衛隊も、前作に引き続いて全く活躍していない。監督は風間くんにしか興味が無いのか(風間くんだけは 、かすかべ防衛隊の他の面々に比べて大きな扱いになっている)。
敵の目的が良く分からないのも、前作と同じだ。しんのすけサイドに戦う意義を持たせていないのも、これまた同じだ。本当なら、そこは 「見た目は同じでも中身が違うと別人なのだ、中身で繋がっていてこそ家族である」というトコロで敵と戦わせたいところなのだ。だが、 そもそも敵がニセモノを送り込んだ目的がそういうところに繋がらないので、無理なのだ。

とどのつまり、この映画の諸悪の根源はサンバにある。
サンバなど無理に持ち込まず、『盗まれた街』だけで統一しておけば、もっとマトモな作品になったはずだ。
で、「どう考えても『盗まれた街』とは合いそうもないサンバの要素を、なぜ無理矢理に持ち込んだのか」ということだが、 マツケンサンバのヒットに便乗しようとしたんだろう。
ただ、マツケンサンバのヒットから本作品の公開までには随分と間があるわけで、まあ完全に出し遅れの証文だわな。

それとね、この映画にサンバを持ち込むよう言い出した人間は、大きな勘違いをしている。
ブームになったのはマツケンサンバであって、サンバではないのだ。
それに、マツケンサンバという曲は、あれはサンバではない。
だからマツケンサンバのブームに便乗するのであれば、重視すべきは「サンバ」よりも「マツケン」なのだ。
何が言いたいかというと、悪党のボスでも皆を助けるヒーローでもどっちでもいいから、マツケンサンバの衣装を着た松平健を登場させるべきだったんじゃないのかってことよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会