『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ夕陽のカスカベボーイズ』:2004、日本

春日部の幼稚園児・野原しんのすけは、かすかべ防衛隊の仲間である風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんと一緒に遊んでいる内に、古びた映画館“カスカベ座”の前に出た。中に入ると、閉館されて無人のはずなのに、なぜか映写機が回っていた。映画を見ていたしんのすけは途中でトイレに行くが、戻ってみると風間くん達の姿は無かった。
しんのすけは、かすかべ防衛隊の仲間が勝手に帰宅したと考え、自分も家に戻った。ところが、風間くん達は家に戻っていないという。しんのすけは仲間が映画館に残っているのではないかと考え、父・ひろし、母・みさえ、妹・ひまわりと共にカスカベ座に向かった。しかしスクリーンを見つめている内に、野原一家は西部劇の世界に入り込んでしまう。
ジャスティス・シティという町に辿り着いた野原一家は、保安官となった風間くんに出会った。ところが風間くんは、しんのすけを「全く知らない奴だ」と拒絶する。保安隊に捕まりそうになった野原一家は逃亡し、つばきという少女に助けられた。空き家に案内された野原一家は春日部に戻る方法を尋ねるが、つばきにも分からないらしい。
拷問を受けていたマイクという男を救った野原一家は、彼の話を聞いた。マイクによれば、カスカベ座でスクリーンを見ていた人々が、映画の世界に入り込んでしまったらしい。彼が拷問を受けていたのは、この世界に3箇所存在する立ち入り禁止区域に入ったからだ。そこに行けば春日部に戻る方法が見つかるのではないかと、マイクは考えているのだ。
この世界では太陽が同じ場所に留まり、同じ日が続いていた。しかしマイクによれば、春日部に戻るための研究をしているオケガワ博士が毎日同じ時間に拷問に遭うので、その回数を数えることで何日が経過したのか分かるらしい。マイクから「この世界にいる内に、どんどん春日部のことを忘れていく」と言われた野原一家だが、帰りたい気持ちを持ち続けようと心に誓う。
しんのすけは風間くんに会った後、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんとも会った。マサオくんとネネちゃんは、結婚していた。2人とも春日部のことをほとんど覚えていなかっただけでなく、この世界での生活に愛着を感じているようだった。町外れに一人で暮らすボーちゃんは、マサオくんやネネちゃんよりも春日部に関する記憶を持ち続けていた。
春日部に戻る方法が見つからないまま、日々は過ぎていった。ひろしは知事ジャスティスの下で強制労働に従事し、みさえは酒場で働いた。やがて、しんのすけが「この映画は未完成であり、完成させれば春日部に戻れるのでは」と思いつく。ひろしとマイクは住民を集め、映画を終わりにして春日部に戻ろうと告げる。
だが、皆で「映画は終わりだ」と念じても、全く何も変化が無い。やはり映画を終わらせるには、ふさわしい形が必要なのだ。西部劇のハッピーエンドといえば悪を倒すことであり、だから知事のジャスティスを倒せば春日部に帰れると、ひろしやマイクは考える。みんなが同じ気持ちになった時、太陽が動き始めた。
オケガワ博士は、履くことでヒーローになれる5枚のパンツを発明していた。パンツがピッタリだったのは、しんのすけだった。しんのすけは、残り4枚の内の3枚をネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんに履かせた。さらに、保安隊に裏切られた風間くんにも、強引にパンツを履かせた。しかし、みんなの気持ちが1つにならないと、本当のパワーは発揮されないようだ。
しんのすけ達の前にジャスティスが現れ、「この映画の主人公は自分であり、既に作品は完結している」と告げて攻撃してきた。しんのすけ達は、つばきの言葉を受けて、立ち入り禁止区域に春日部へ戻る方法が隠されていると考える。しんのすけ達は、汽車に乗ってへ立ち入り禁止区域へ向かう。だが、保安隊が汽車を追い掛けてきた。
しんのすけ達は激しい攻撃を受けるが、マイクが呼び寄せたガンマン達が加勢してくれた。しんのすけが風間くんを救ったことで、防衛隊の気持ちも1つになった。保安隊は何台もの車まで持ち出して追い掛けてくるが、しんのすけ達はガンマンの協力もあって保安隊を捻じ伏せた。しかし、ジャスティスは巨大ロボットを操って攻撃してきた…。

監督&脚本は水島努、絵コンテは水島努&原恵一、原作は臼井儀人、プロデューサーは山川順市&和田泰&西口なおみ&すぎやまあつお 、チーフプロデューサーは茂木仁史&生田英隆&木村純一、キャラクターデザインは末吉裕一郎、作画監督は原勝徳&針金屋英郎&大森孝敏&間々田益男、美術監督は森元茂&古賀徹、ねんどアニメは石田卓也、撮影監督は梅田俊之、編集は岡安肇、録音監督は大熊昭、音楽は荒川敏行&宮崎慎二、主題歌はNO PLAN「○(マル)あげよう」。
声の出演は矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、こおろぎさとみ、真柴摩利、林珠緒、一龍斎貞友、佐藤智恵、小林清志、小林修、大塚周夫、内海賢二、内村光良、三村マサカズ、大竹一樹、ゴルゴ松本、レッド吉田、ふかわりょう、齋藤彩夏、村松康雄、長嶋高士、宝亀克寿、玄田哲章、大友龍三郎、島香裕、江川央生、川津嘉彦、田中一成、大西健晴、今村直樹、坂口賢一、中尾みち雄、服巻浩司、新千恵子。


臼井儀人の漫画を基にしたTVアニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版シリーズ第12作。
テレビ版のレギュラー声優陣の他、ジャスティスを小林清志、助っ人ガンマンのクリスを小林修、オライリーを大塚周夫、ヴィンを内海賢二、つばきを齋藤彩夏、マイクを村松康雄、オケガワを長嶋高士が担当している。また、テレビ朝日系の深夜番組『内村プロデュース』から誕生したユニット「NO PLAN」のメンバー(内村光良、三村マサカズ、大竹一樹、ゴルゴ松本、レッド吉田、ふかわりょう)が本人役で出演し、主題歌も担当している。

NO PLANのメンバーのゲスト出演は、ものすごく悲惨な状態になっている。
全く馴染んでおらず、「後から強引に捻じ込みました」という感じがありありだ。
しかも、笑いに繋がるわけでもない。
エンディングテーマ曲も彼らが歌うのだが、あまりにもヘタクソでキツすぎる。
ハッキリ言って、ものすごく邪魔な存在になっている。

導入部分は、いい感じだ。これから映画や映画館を巡る物語、ノスタルジーや哀愁を喚起する作品が始まるのだろうと期待させる。
だが、どうやら水島努監督は、映画にも映画館にも、何の思い入れも無いようだ。
だから、平気で「映画を捨てよ、現実に戻ろう」というメッセージを訴える。
娯楽映画に携わる人間が、娯楽映画に浸ることの素晴らしさを全否定するのだ。

映画を愛している人なら、きっと「映画に浸る喜びを描き、哀愁を抱きつつ現実に戻る」という物語にするだろう。
しかし水島監督は、「映画は夢を与えるものだ」ということは否定しないくせに、映画の夢に浸ることは否定する。
ケンカを売っている相手が映画ファン全体なので、るーみっく・わーるどに浸る面々を否定した『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』よりもタチが悪い。
子供向けということを度外視するのはともかく、映画ファンを突き放すような作品を作るのは、いかがなものか。

最初に「なぜ閉館となった映画館で映写機が回り続けているのか」「なぜカスカベ座は観客を映画の中に取り込んでしまうのか」という謎が提示されているにも関わらず、それを放置したまま(最初から謎解きをする意思が全く無い)で話を進め、そして終わらせている。
そこを追求していくことで、エモーションを揺り動かす作品になるはずなのに。
しんのすけ達が迷い込むのは西部劇の世界なのに、西部劇のセオリーは全く持ち込まない。
いきなり巨大ロボットが倒れている時点で、もうアウトだろう。『ワイルド・ワイルド・ウエスト』のパロディーをやっているつもりなのかもしれないが、あれは純然たるウエスタンではない。ここに持ち込むべきネタではないだろう。

途中、マイク達が「西部劇にふさわしい終わり方は、悪党を倒すこと」と言っている。
しかし、「西部劇にふさわしいこと」を考えるのであれば、なぜ最後が決闘ではないのか。
実際の銃撃戦をやらせると、血なまぐさいものになるという懸念があったのか(だが、それまでにガンマンが思い切り銃撃戦をやっているのだが)。
しかし、最後を決闘シーンを持ってくるにしても、しんのすけ達に本物の銃を撃たせる必要は無いのだ。そこは、空気銃やゴム鉄砲でもいいのだ。
それに、『荒野の7人』のパロディーを持ち込んでいるのだから、例えば『荒野の用心棒』ネタを使えば死者を出さずに済む。
少なくとも、巨大ロボットとの対決にするような有り得ない展開に比べれば、遥かにマシだろう。

巨大ロボットを登場させる他にも、西部劇とは無縁の要素を監督は持ち込む。
しんのすけ達は終盤に「ヒーローのパワー」を発揮するのだが、その時に背中から飛行機の翼が生えて、空を飛ぶのだ。
そもそも「ヒーローになるパンツ」という段階で西部劇らしくないのだが、その後も「西部劇の世界で遊ぶ」という意識は全く感じさせない。
ロボット登場やセオリー無視など色々なことから考えるに、監督は西部劇に大して興味が無いのだろう。
西部劇が好きではないのなら、最初から舞台設定に使わなければいい。
西部劇を持ち込んだのであれば、たとえ好きではなかったとしても、西部劇映画を見て研究し、そのエッセンスを取り入れようとすべきだろう。

ラストシーン、つばきは春日部に戻ってこない。
どうやら、「最初から映画の住人だった」という設定らしい。
しかし、だとすれば西部劇に「つばき」という名前の人物が最初から存在したというのは、納得しかねる。
そこは、例えば「つばきはカスカベ座の魂だった」という設定にするなり、もっと意味のあるキャラクターにすることは可能だっただろうに。

 

*ポンコツ映画愛護協会