『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』:2015、日本

静岡県清水市に住む小学3年生のさくらももこは、みんなから「まる子」と呼ばれている。たくさんのプリンが出て来る夢を見た彼女は、お母さんに起こされても布団から出ようとしない。お母さんの怒鳴り声で目を覚ましたまる子は遅刻しそうだと知り、慌てて学校へ行く。クラスメイトの花輪くんは英会話スクールの先生に頼まれ、日本にホームステイしたい外国の子供たちを預かっていた。世界中の国から来た小学5年生の6人で、昨日からホームステイしているのだと彼はまる子やたまちゃんたちに話した。日本が好きなので、全員が少し日本語を話せるのだと彼は言う。
花輪くんは6人に日本を満喫してもらいたいと考え、ホームステイさせてもいいというクラスメイトを募集した。しかし滞在期間が昨日を含めて10日間の予定だと聞いたまる子たちは、長すぎると感じる。そこで花輪くんはクラスメイトを自宅へ招待し、子供たちと会わせることにした。まる子やたまちゃん、ハマジ、野口さん、丸尾くん、永沢くん、小杉といった面々が花輪くんの豪邸へ行き、6人と会った。アメリカから来たマーク、インドのシン、ハワイのネプ、香港のシンニー、イタリアのアンドレア、ブラジルのジュリアだ。
まる子が自分の呼び名を口にすると、アンドレアは「僕はマルコが好きです」と告げた。いきなりの大胆発言に、まる子は戸惑った。ネプは小杉と大食い競争を始め、シンニーはたまちゃんと仲良くなり、シンはハマジに親近感を覚えた様子だった。まる子はアンドレアから、ニックネームの由来を問われる。まる子が面倒に感じていると、アンドレアと仲良くなろうとした丸尾が割って入った。まる子は帰宅し、花輪くんから提案された一件を話す。おじいちゃんは「日本語が分かるのなら1人ぐらいは迎えられそうだな」と言い、まる子はシンニーが来てほしいと希望を口にする。しかしお父さんとお母さんは、10日間という滞在期間に難色を示した。
まる子の家をヒデじいが訪れ、シンがハマジ、シンニーはたまちゃん、ネプは小杉、ジュリアは野口の家でホームステイすると決まったことを話す。マークは他の家へ行かず、花輪くんの豪邸で留まることを選んでいた。ヒデじいは、アンドレアがまる子の家を希望していることを話す。丸尾はホームステイを持ち掛けても、彼はまる子がいいと主張していた。おじいちゃんはヒデじいへの友情から、まる子が嫌がるのも無視してホームステイを引き受けた。
翌日、花輪くんはまる子たちに、土日は旅行へ行くので全員を招待すると告げる。担任の戸川先生は、明日から日本の学校を体験するために6人がクラスへ来ることを説明した。夕方、アンドレアがまる子の家へやって来た。お母さんは夕食にスパゲッティーとハンバーグを用意し、アンドレアは「ボーノ」と感想を口にした。花輪くんはマークから、旅行は京都に行きたいと聞かされる。花輪くんは彼に、京都なら全員が賛成するだろうと告げた。
アンドレアはまる子の家族にイタリア土産を渡し、日本語は祖父から習ったこと、祖父はカメラマンとして日本で暮らしていた時期があることを話す。祖父の名前がマルコだと聞き、まる子はアンドレアが自分に興味を持った理由を知った。その祖父が半年前に亡くなり、好きだった日本を訪れてみたいと考えたのだとアンドレアは語った。同じ夜、シンやシンニー、ネプ、ジュリアたちも、それぞれの家で歓迎を受けて過ごしていた。
次の日、音楽の大石先生は生徒たちに、みんなで歌を作ることを提案した。先生は外国人の子供たちに今の気持ちを尋ね、歌詞を作った。曲を思い付く生徒がいなかったため、先生は「今度までに曲が作れる人は考えてきてね」と告げた。放課後、花輪くんはまる子たちに、旅行は京都へ行こうと話す。アンドレアが「出来れば大阪へ行きたいです」と言うと、ネプ、ジュリア、小杉、野口が賛同した。ハマジと小杉が喧嘩を始めたので、まる子と花輪くんが仲裁に入った。
まる子は帰り道、大阪へ行きたい理由をアンドレアに尋ねた。するとアンドレアは、かつて祖父が知り合った夫婦が大阪にいることを話す。ただし道頓堀で『のんき屋呑兵衛』という店を営んでいることしか分からず、名前も不明だった。その夜、ヒデじいから電話が入り、旅行は京都チームと大阪チームに分かれると決まったことがまる子に伝えられた。京都チームはヒデじいとタマちゃんのおじいさん、大阪チームはまる子のおじいちゃんと野口さんのおじいちゃんが引率することになった。
翌日、外国から来た6人は、まる子たちには内緒で歌を練習した。土曜日、まる子たちは静岡駅から新幹線に乗り込んだ。アンドレアはまる子に、祖父が夫婦から貰った栓抜きを見せた。祖父が宝物にしていたという栓抜きには、店の名前が刻印されていた。大阪へ到着したまる子たちは、通り掛かったおじさんの案内でたこ焼き屋に入った。昼食を終えた一行が道頓堀へ行こうとすると、野口さんがなんば花月へ行きたいと言い出した。通りすがりのおばさんが8枚の割引券をくれて、一行はなんば花月へ赴いた。
まる子たちはなんば花月で漫才や落語、新喜劇を満喫し、道頓堀へ移動した。まる子たちが交番の警官に『のんき屋呑兵衛』の場所を訊くと、何年も前に無くなっていることが判明した。夕食を取るためお好み焼き屋に入ったまる子たちは、女主人から『のんき屋呑兵衛』の夫婦に関する情報を聞かされる。夫婦は「りょうさんとチエちゃん」という名前で、20年ほど前に東京へ引っ越していた。女主人は夫婦に詳しい隣のおじさんを連れて来てくれた。おじさんはマルコが日本にいた頃、親しい関係だった。彼は夫婦が上野でスパゲッティー屋を始めると言っていたことを話すが、店名も住所も知らなかった。
静岡へ戻ったまる子は、大阪での出来事を家族に話す。夫婦の消息は分からなかったものの、アンドレアは大坂を満喫したことを楽しそうに語った。月曜日、音楽の授業で大西先生が「曲が出来た人はいますか」と問い掛けると、マークが手を挙げた。彼はピアノを演奏し、外国から来た仲間で合唱した。花輪くんは1日早いお別れパーティーを開き、まる子たちを招待した。カメラマン志望のアンドレアは、たまちゃんのお父さんが持っているライカに興味を示した。彼はたまちゃんのお父さんに、1枚だけ写真を撮らせてほしいと頼む。ライカを借りたアンドレアは、まる子の写真を撮った。
翌日、6人は学校で、まる子たちに別れの挨拶をした。帰り道、まる子とアンドレアは夕立に見舞われ、呉服屋の前で雨宿りした。すると店主の佐々木さんが出て来て、おじいちゃんが来ていることを告げる。まる子たちが店に入ると、おじいちゃんはアンドレアのために浴衣を選んでいた。その夜に行われる巴川の灯篭流しへ行く時に、浴衣を着れば思い出になると考えたのだ。まる子とアンドレアは家に戻り、浴衣に着替えた。まる子はアンドレアに、願い事を書いて流す紙を渡した。
まる子とアンドレアは巴川へ出掛け、それぞれ「またアンドレアに会えますように」「またまる子に会えますように」と書いたことを知る。2人は受付で紙を渡し、灯籠に付けてもらった。まる子は2つの灯籠が離されていくのを見て、「もう会えなくなっちゃうよ」と目に涙を浮かべた。まる子とアンドレアは灯籠流しを見終わると、屋台へ移動した。途中で人込みに紛れた2人は、はぐれそうになってしまう。まる子とアンドレアは互いの名を呼び、必死で手を伸ばした。2人は手を繋いで合流し、屋台を楽しんだ…。

督は高木淳、原作・脚本は さくらももこ 集英社『りぼんマスコットコミックス』刊、製作は石原隆&石川和子&市川南&桜井徹哉&中田安則、制作管理は本橋寿一、プロデューサーは土屋健&狩野雄太&井上孝史&田中伸明、キャラクターデザインは船越英之、美術監督は野村可南子、音響監督は本田保則、総作画監督は西山映一郎、作画監督は荒牧園美&あべじゅんこ、色彩設計は小森谷初、音響効果は松田昭彦&神保直史、録音は安藤徳哉、編集は貴村純美、演出は堂山卓見、音楽は中村暢之。
オープニング曲『おどるポンポコリン(映画スペシャルバージョン)』大原櫻子 スペシャルコーラス:トータス松本、作詞:さくらももこ、作曲:織田哲郎、編曲:亀田誠治。
挿入歌『キミを忘れないよ』 大原櫻子 作詞:さくらももこ、作曲・編曲:亀田誠治。
エンディング曲『おーい!!』ウルフルズ 作詞:さくらももこ、作曲:トータス松本、編曲:ウルフルズ&菅原龍平。
声の出演はTARAKO、キートン山田、島田敏、屋良有作、一龍斎貞友、佐々木優子、水谷優子、渡辺菜生子、菊池正美、カシワクラツトム、田野めぐみ、飛田展男、茶風林、中川大志、劇団ひとり、パパイヤ鈴木、渡辺直美、ローラ、高橋克実、清水ミチコ、真地勇志、森迫永依、亀田誠治、大原櫻子、トータス松本、間寛平、中田カウス・ボタン、笑福亭仁鶴、軽部真一、笠井信輔、永島優美、関純子、山本圭子、ならはしみき、沼田祐介、真山亜子、浦和めぐみ、川田妙子、陶山章央、菅沼久義、掛川裕彦、園部啓一、田中一成、西脇保、高塚正也ら。


さくらももこの原作を基にしたフジテレビ系列のTVアニメ『ちびまる子ちゃん』の劇場版。
アニメ放送25周年記念作品であり、23年ぶり3作目の映画。
原作者であるさくらももこが、脚本も担当している。
TVシリーズの演出や絵コンテを手掛けてきた高木淳が、初めて映画監督を務めている。

まる子役のTARAKO、ナレーショのキートン山田、おじいちゃん役の島田敏、お父さん役の屋良有作、お母さん役の一龍斎貞友、おばあちゃん役の佐々木優子、お姉ちゃん役の水谷優子、たまちゃん役の渡辺菜生子など、TVシリーズのレギュラー声優は揃って出演している。
アンドレアの声を中川大志、シンを劇団ひとり、ネプをパパイヤ鈴木、ジュリアを渡辺直美、シンニーをローラ、マルコを真地勇志が担当している。
オープニング曲の編曲と挿入歌の作曲&編曲を手掛けた亀田誠治がアンドレアの父、オープニング曲と挿入歌を歌う大原櫻子がアンドレアの母、エンディング曲を歌うウルフルズのトータス松本がたこ焼き屋を教えてくれるオッサンの声を担当。
2006年のドラマ版でまる子を演じた森迫永依が幼少期のアンドレア、同じくドラマ版でまる子の両親を演じた高橋克実&清水ミチコがりょう&チエを担当。なんば花月に出演している芸人として、間寛平、中田カウス・ボタン、笑福亭仁鶴が本人の声を担当している。

冒頭、夢を見ていたまる子はお母さんに叩き起こされ、遅刻しそうなので泣きながら学校へと急ぐ。そんな彼女がカメラに向かって走る様子で、タイトルロールに入る。
それはタイミングとして、ちっとも上手くないでしょ。
何もオチてないし、きっかけに適した出来事が描かれているわけでもない。
そんなキャッチーさ皆無のアヴァン・タイトルを用意するぐらいなら、いきなりオープニング・タイトルから入った方がいいでしょ。

主題歌が流れてタイトルロールが始まると、外国人の子供たちが登場する。地球儀が画面に表示され、「この国から日本へ来た」ってことが矢印で説明される。
だけど、それならアヴァン・タイトルの時点で、外国人の子供たちを登場させておいた方がいい。タイトルロールで彼らの姿だけを見せられても、「こいつら誰だよ」ってことになるわけで。
タイトルロールが終わると「昨日から来ている」ってことになるので、ようするにタイトルロールは「前日の出来事」を描いている設定なんだろう。
ただ、それは構成として不恰好だわ。

まる子とアンドレアの交流がメインだが、一応は他の子供たちとホームステイに来た外国人が交流する様子も描かれている。ただし、ほぼオマケみたいなモンだ。
そもそも、1970年代前半に世界各国から6人の外国人が来るってのは、すんげえ現実離れしているよな。
「だって漫画だから」と思うかもしれんけど、これって「原作者の子供時代を描いている」という体裁のはずで。ある程度は虚構が入るのもいいけど、そこまで現実離れしちゃうと「ノスタルジー」という要素が破綻しちゃうよな。
あと、それだけ多くの外国人が一度に来たら、もっと大きな騒ぎになると思うけどね。まる子たちって、すんげえ簡単に受け入れているのね。

まる子たちが大阪に到着すると、通りすがりのオッサンがたこ焼き屋まで案内してくれたり、なんば花月の割引券をくれたりする。その辺りは「大阪の人は異常に世話好き」という誇張をユーモアを含んだ形で描いているので、そんなに気にならない。
しかし京都チームの方で「シンが財布を無くすと、一緒に旅をしている仲間だけでなく通りすがりの学生たちまで探してくれる」という様子が描かれると、そこは引っ掛かるモノがある。
そうやって「日本人は親切」ってのをアピールするのは、ちょっとカッコ悪いわ。
アンドレアが祖父の影響で日本に興味を持ったとか、実際に来たことで日本をもっと好きになるとか、そういう形にしてあるのは何の文句も無いのよ。ただ、他の5人の外国人も使って、映画全体を通して「日本人は親切で優しく、日本は素晴らしい国だ」ってことを訴えようとする意識が強すぎるのは、うすら寒いし気持ち悪いわ。

作品のテイストを考えると、長編映画に向いているとは思えない。
ゆったりとしたテンポ、ユルいノリ。そんなにドラマティックな展開は起きず、大きなストーリーが展開するわけでもない。なので長編映画を作るのであれば、短編を串刺し式に配置する構成の方がいいんじゃないかと思うのだ。
実際、この映画では1つのストーリーを用意して話を進めているんだけど、内容が薄いし、話は退屈だ。
旅行へ行くエピソードでチームを分割するのは、厚みを持たせようとしたのかもしれない。だけど京都チームは明確な目的があるわけじゃないし、ただ話が散らばっているだけにしか感じない。

大阪チームにしても、ほぼ観光映画に近い状態になっているんだよね。
TVシリーズも含めて、まる子が静岡を出るのは初めてだから、「映画版ならではの内容」とは言えるだろう。
ただし、それが作品の大きなセールスポイントになるのかというと、それは厳しいでしょ。今時、観光映画のような要素だけで観客を引き付けようとしてもね。
前述したように、お笑い芸人が本人の声を演じるという趣向は用意されているけど、それもセールスポイントと言えるほどの力は無いしね。

灯籠流しへ出掛けたまる子とアンドレアが人込みに飲まれてはぐれそうになり、伸ばした手が繋がると挿入歌が流れ出す。
たぶん、ここは感動させようとする狙いがあるんだろうと思うけど、かなり弱い。
そこに限らず、空港での別れのシーンなんかも感涙させようという意識が顕著に感じられる。トータルとしては「感動のドラマ」に仕上げようとしているんだろう。
それは映画版の『クレヨンしんちゃん』とか『ドラえもん』に悪影響を受けたのかもしれんけど、なんか違うんじゃないかと。

灯籠流しのエピソードが訪れた段階で、「もうすぐ別れの時が」というトコまで雰囲気を高めているはずだ。
それなのに、いざ旅立つ当日になると、「まだ飛行機が離陸するまでに時間があるから、上野へ行ってマルコと親しかった夫婦を捜そう」という展開に入る。
そりゃあ、アンドレアが来日した一番の目的は「祖父と親しかった夫婦に会う」ってことだろうし、それを達成できないまま終わるのは消化不良になっちゃうかもしれないよ。
だけど流れや雰囲気を考えると、蛇足になっちゃってんのよね。

(観賞日:2017年5月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会