『アズミ・ハルコは行方不明』:2016、日本

両親と祖母の4人で暮らす安曇春子は、母からトイレットペーパーを買って来るよう頼まれる。ドラッグストアへ出掛けた彼女は、店員として働く幼馴染の曽我雄二と再会した。春子が去ろうとすると、彼は「今日ヒマ?」と声を掛けた。成人的に出席した木南愛菜は、中学の同級生だった富樫ユキオが来ると喜んで抱き付いた。DVDショップで働く三橋学が作品を眺めていると、「サボッてんじゃねえぞ」と先輩に叱られた。春子は外を歩く学を目撃して同級生ではないかと思うが、誰かは思い出せなかった。
春子が夕食を取っていると、母は痴呆の祖母を世話して苛立った。春子は曽我に呼び出され、彼が住む亡き祖父の家へ赴いた。春子は彼に同級生である杉崎ひとみのことを問われ、結婚したと告げる。春子の愛猫であるミーちゃんが今も生きていると聞いた曽我は、「連れて来てよ」と言う。春子が「嫌だよ、こんなトコ」と断ると、彼は窓を開けて「じゃあ、あそこからでいい」と告げた。その場所から、春子の実家の2階にある彼女の寝室が見えるのだ。帰宅した春子は窓に近付き、ミーちゃんを掲げた。そして彼女は、ミーちゃんを拾って曽我と話した頃のことを振り返った。
春子は社長と専務とOL2名の小さな商事会社で働いている。37歳の吉澤ひろ子が外出すると、社長と専務は春子に「彼氏いないの?」「もう少し女らしい格好した方がいい」と余計なことを言う。彼らはひろ子を「変わってる」と評し、見下した態度を取る。愛菜はユキオとラブホテルへ行き、セックスして甘える。彼女はユキオの誕生日プレゼントとして、ドキュメンタリーDVDをプレゼントする。店員として働く学を見た愛菜は、相手が誰なのか気付いた。
春子はコンビニへ買い物に行き、同級生の川本と出会う。28歳になった川本は感想を問われ、「見りゃ分かるだろ。最悪だよ」と告げた。愛菜は昼間はアクセサリー店、夜はキャバクラで働いている。先輩キャバ嬢の今井えりが中日ドラゴンズの二軍選手と結婚すると知った彼女は、羨ましがって「愛菜も結婚する」と口にする。えりは「結婚なんて、ただの奴隷契約だから」と言い、妊娠したことを話す。彼女は愛菜に美容師かネイリストになるよう勧め、「これからは手に職だよ」と述べた。結婚式の二次会に参加した春子は、同級生のえりと再会する。中学時代、ひとみも含めた3人は仲良しグループだった。えりは春子に、離婚して名古屋から戻ったことを語った。
夜道を運転していた春子は、道路に飛び出してきた女子高生グループを危うくひきそうになる。車を停めた彼女が後を追うと、女子高生グループに暴行された曽我が倒れていた。春子が心配して声を掛けると、彼は「このこと、誰にも言うな」と告げた。夜中に照明の点滅で呼び出された春子は、彼の家へ行って傷を手当てした。被害届を出すよう彼女が促すと、曽我は「いいって」と拒絶した。春子が「じゃあ、セックスでもやりますか」と告げると、曽我は軽く笑った。
春子が「じゃあチカチカして何の用?」と訊くと、彼は「別に」と告げる。しかし春子が「やめてくんない?寝てたんだけど」と呆れて去ろうとすると、曽我は絞り出すように「したいです、セックス」と口にした。コンドームが無かったので、彼はネットで作り方を検索しようとする。だが結局、2人はコンドーム無しでセックスした。愛菜はユキオに何度も連絡し、疎ましがられていることを知らなかった。ユキオは学に「愛菜が死ぬほどウザい」と愚痴り、「でも頼めば、すぐヤラせてくれるぞ」と告げた。彼は学ぶに「ヤベえから」と言い、ドキュメンタリーDVDを渡す。「興味無いから」と言った学だが、DVDを見ると興奮してユキオに電話した。
春子は社長と専務から、「卵子は腐る」「吉澤さんは女として終わってる」と告げられる。ひろ子は春子と2人になると、社長たちの陰口は知っていることを明かして「全然気にしてないよ。若い子と入れ替えたいんだよ。給料10万ちょいで仕事押し付けて、威張ってんのが理想なんだよ」と語る。春子は13万の月給だが、ひろ子は社長と専務が100万円だと教える。彼女は春子に「これが資本主義だよ」と言い、早く結婚して会社を辞めるよう勧めた。
ユキオと学はドキュメンタリーDVDに影響され、グラフィティー・アートを真似してみる。ユキオがスプレーで壁に落書きしても、思うような絵にならなかった。しかし学が手を加えると、それっぽく見えるようになった。ユキオはチーム名を「キルロイ」に決め、オーベイのアンドレを模倣してジャイアント馬場のアイコンを落書きした。2人は沢井という警官が勤務する派出所へ行き、行方不明者である春子の顔写真を気付かれないよう撮影した。
春子は社長と専務に「彼氏できた?」と問われ、「出来ました」と答えた。ユキオは春子のアイコンを作成し、肖像権について心配する学に「この女広めて、見つかったら俺らの手柄じゃん」と軽く告げた。春子は曽我に、ひろ子がフランス人と結婚してブルキナファソへ移住することを語った。ユキオと学は、春子のアイコンがネットで話題になっているのを知って浮かれた。愛菜は2人の活動を知り、キルロイに参加することにした。
少女ギャング団による男性を狙った暴行事件が頻発し、警察は注意を呼び掛けた。春子のアイコンと少女ギャング団の関連性がネットで噂されるようになると、ユキオは不快感を見せ、学は「僕たちの描いた安曇春子が、少女ギャング団を呼んだんだ」と口にした。落書きで前科が付くと知ったユキオは、途端に怖がって「辞めた」と言い出す。彼は証拠隠滅を愛菜と学に指示し、その場から走り去る。残された2人はラブホテルへ行き、関係を持った。
学は愛菜に、ユキオが「頼めば一発ヤラせてくれる」と言っていたことを教えた。腹を立てた愛菜は、ユキオに電話するよう要求した。学から連絡を受けたユキオは、愛菜と話すことを拒否した。彼がLINEで知り合ったギャルと会う約束をしていることを話すと、学は約束した時間と場所を尋ねた。社長と専務は新しい社員を募集し、春子をオバサン扱いする。届いた履歴書を見る社長と専務は、春子が男を勧めると、「男は給料を一杯払わなきゃいけないから」と言う。
愛菜と学は車でファミレスへ行き、ギャルを待つユキオを発見した。学は愛菜を駐車場で待機させ、店に入ってユキオと話す。学が愛菜と関係を持ったことを聞き、ユキオは彼女を馬鹿にした態度を取る。学は愛菜から、早くユキオを連れ出すようLINEで催促された。スマホで愛菜と話しながら外へ出た学は、少女ギャング団から暴行を受けた。橋で佇んでいた春子は少女ギャング団を目撃し、後を追った。「一緒に来る?」と誘われた彼女は、「女子高生じゃないから」と遠慮した…。

監督は松居大悟、原作は『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎文庫) 山内マリコ、脚本は瀬戸山美咲、エグゼクティブ・プロデューサーは大田憲男&藤本款&伊藤久美子&小西啓介&本田晋一郎、プロデューサーは枝見洋子、共同プロデューサーは平野宏治&深瀬和美、ラインプロデューサーは原田文宏、撮影は塩谷大樹、照明は西田まさちお、録音は矢野正人&加来昭彦、美術は高橋達也、衣裳は星野恵理、編集は小原聡子、劇中アニメーションは ひらのりょう、音楽は環ROY。
主題歌『消えない星』チャットモンチー 作詞:福岡晃子、作曲:橋本絵莉子、編曲:チャットモンチー。
出演は蒼井優、高畑充希、加瀬亮、国広富之、太賀(現・仲野太賀)、葉山奨之、石崎ひゅーい、菊池亜希子、山田真歩、落合モトキ、芹那、徳永ゆうき、富岡晃一郎、柳憂怜、花影香音、早咲心結、結城亜美、Yumiko、イチコ、海谷ひとみ、水木薫、平川和宏、小貫加恵、しのへけい子、関口清斗、藤巻杏慈、岡部恭子、璃乃、三浦エミリ、豊嶋花(幼少期の安曇春子)、本間愛咲、安藤美優、升水柚希、宇田彩花、岩谷茜里、高山智未、望月祐治、ヤマダン、小高三良、中村章吾、神田奈美、奥野瑛太ら。


山内マリコの同名小説を基にした作品。
監督は『ワンダフルワールドエンド』『私たちのハァハァ』の松居大悟。
脚本は劇団「ミナモザ」を主宰する劇作家の瀬戸山美咲で、これが初めての劇場映画。
春子を蒼井優、愛菜を高畑充希、沢井を加瀬亮、社長を国広富之、ユキオを太賀(現・仲野太賀)、学を葉山奨之、曽我を石崎ひゅーい、えりを菊池亜希子、ひろ子を山田真歩、川本を落合モトキ、ひとみを芹那が演じている。
シンガーソングライターの石崎ひゅーいは、これが映画初出演。

導入部は短いシーンが幾つも連なる構成になっている。
車を降りて煙草を吸う春子。映画館で大騒ぎしていた女子高生たちが、上映が開始されると静かになる様子。「消えちゃえば?」と春子に言われて戸惑う愛菜。春子のアイコンの大きな幕が燃えるのを眺める愛菜。男を暴行する少女ギャング団。
キルロイの3人が落書きする様子。春子が結婚式の二次会に出席し、ひろ子から離婚して戻ったことを聞く様子。沢井が春子を捜索するポスターを掲示板に貼る様子。
そこまで描いて、タイトルが表示される。

導入部は断片的な映像のコラージュであり、ワケが分からない状態だが、時系列をシャッフルしているのだから当然だろう。
もちろん観客を掴むために用意した演出だろうが、功を奏しているとは思えない。無駄にガチャガチャして、取っ付きにくくなっているだけだ。
そんな時系列のシャッフルは、タイトルの後も続く。導入部のように短いシーンを重ねるガチャガチャした構成ではないが、同時進行で描かれる出来事は同じ時間に起きているわけではない。
順番としては、まず春子が曽我と出会って交際を始める出来事がある。彼女が行方不明になった後、愛菜たちがキルロイの活動を開始する。

具体的に書くと、車を降りて煙草を吸う春子のシーンは、曽我がひとみと不倫していることを知った春子が彼に冷たくされた後、母からトイレットペーパーを買って来るよう頼まれて出掛けた時の出来事。
幕が燃えるシーンは、ユキオに捨てられた愛菜が彼の手掛けた施設へ赴いた時の出来事だ。
そんな風に時系列を正しく入れ替えた構造が明らかになった時、「バラバラだったパズルのピースがピッタリとハマった」という心地良さでもあれば、その仕掛けは成功と言っていいだろう。
しかし残念ながら、「まるで意味なくね?普通に時系列順で描けばよくね?」としか思えないわけで。
なので、策士策に溺れたかな、完全に外しているかなと。

春子が暴行された曽我を公園で助けた後、「同じ場所で別の男を少女ギャング団が暴行する様子を、春子が木陰から覗き見る」という様子が描かれる。春子は気付かれて怯えるが、少女ギャング団のリーダーぱ貴方は襲わない。私たちは男に復讐してるだけ」と言い、近くにいた他の男を暴行する。
その直後に春子が目を覚ますカットになるので、それは彼女の見ていた夢だったってことだろう。
ただ、そんな構成にしている意味ってあるのかなあと思ってしまう。
普通に、「春子が少女ギャング団を追ったら曽我が暴行されていて、隠れていたけど気付かれて」という形で良くないかと。

少女ギャング団は両方のパートに登場するため、ここは時系列を分かりにくくする一因となっている。
ここを解釈するために必要なのは、「寓話」として受け止めることだ。
少女ギャング団は、「女の男に対する復讐心」を表現するためのメタファーなのだ。
劇中では実際に暴れ回っているグループとして動かされているが、想像上の存在ではない可能性もある。現実か幻覚かを突き詰めて考えることは、あまり意味が無い。

時系列順に構成した場合、蒼井優は前半だけで退場し、終盤まで再登場しなくなる。
一方、高畑充希は後半まで登場しなくなってしまう。
主演を張る2名の登場シーンに偏りが出てしまうので、それを避けるために時系列をシャッフルしたのかもしれない。
ただ、時系列を組み替えた構成にするとしても、早い段階で「まず春子の物語があって、彼女が失踪してから愛菜の物語が始まる」という内容ってことが観客に伝わりやすいようにしておいたらいいんじゃないかなと。

春子がユキオの誕生日にプレゼントし、学が興奮するドキュメンタリーDVDは、バンクシーが初監督を務めた『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』だ。
パッケージは画面に写るが、実際に見たことが無ければ何のDVDなのかは絶対に分からない。
観賞して興奮した学が落書きを始めるので、グラフィティー・アートに関連するドキュメンタリーだろうってことは推測できる。ただ、それで興奮した学が落書きを始める感覚は、まるで理解できないだろう。
ただし、仮にDVDの1シーンを挿入したり内容を詳しく解説したりしたとしても、どっちにしろ無駄だっただろうけどね。ユキオと学が落書きを始める経緯の見せ方に関しては、かなり無理がある。

キルロイが作った春子のアイコンの噂がネットで広まる展開に入ると、「既に春子は殺されている」とか「犯人を見た」といった書き込みの文字が画面に表示される。
それは「何の根拠も無いデタラメな情報が軽薄に蔓延していく」というネット社会の愚かしさや恐ろしさを風刺する意味合いで、用意された演出かもしれない。
ただ、そういうことをザックリと描いていること自体、軽薄に感じられる。
それと、そもそもの問題として、「この映画のテーマから外れてないか。欲張り過ぎて散らかってないか」という印象も受ける。

少女ギャング団が学を襲うのは、明らかにユキオと誤解しての行動だ。
そりゃあ学だって決して褒められた男ではないし、色々と問題はある。だがユキオに比べれば、遥かにマシだろう。っていうか劇中に登場する男性陣の中では、ダントツで真っ当な男だ。少女ギャング団の標的から1人だけ逃れることが出来るなら、学だと断言できる。
そんな学は暴行されるのに、ユキオは最後まで襲われずに済んでいる。社長や専務も、ひろ子の「フランス人と結婚する」という言葉に唖然とする様子はあるが、その後で全く反省していない様子を見せる。
そのように、まるで成敗されていない連中がいる一方で学を暴行するので、少女ギャング団が単なるクズどもになってしまう。

少女ギャング団は「クズな男どもに復讐する女たち」として爽快感を抱かせるべき存在なのに、それはマズいんじゃないか。
こいつらが「女の男に対する復讐」のメタファーであり、幻想である可能性が濃厚であるのなら、現実の春子と愛菜がクズ男のせいで嫌な思いを強いられたとしても、そっちぐらいはスカッとカタルシスが生じるような形にしておかなきゃダメじゃないかと思うのだ。
なのに、曽我が暴行を受けた後でクズっぷりを露呈するなど、少女ギャング団による暴行が全く爽快感に繋がっていない。
ユキオにしても、担当した夢ランドのイベントに客が来ないってだけで、そのクズっぷりに比べて受ける罰がヌルすぎる。

春子はユキオに裏切られて「死にたい」と口にする愛菜に「優雅な生活が最大の復讐」と告げ、「消えちゃえば?」と持ち掛ける。
しかし、彼女たちが行方不明になることで介抱されて幸せを感じたとしても、残されたクズ男どもは他の女を苦しめることになるはずで。
映画の作りを考えると、そこは放置せず少女ギャング団によって成敗されなきゃダメなんじゃないかと。
最終的に少女ギャング団が警官隊から逃亡しても、それをハッピーエンドとは感じない。色んな物を散らかしたまま、放り出しているような印象を受ける。

(観賞日:2017年11月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会