『あしたのジョー』:2011、日本
昭和40年代、高度成長期の東京。墨田区泪橋を渡ったドヤ街に、白木財閥の令嬢・白木葉子が高級車でやって来た。彼女は、既に閉鎖 されている養護施設「愛育園」の建物を眺める。一方、矢吹丈という若者が、土手で眠っていた。ドヤ街の子供たちが密かに金を盗もうと すると、彼は「金なんてねえぞ」と言う。慌てて逃げ出す子供たちを追い掛けたジョーは、金が無いのを隠し、食堂で飯を食った。すると 、ベロベロに酔っているボクサー崩れの丹下段平が絡んで来た。
ヤクザの西寛一たちが食堂に現れ、丹下に借金の返済を要求した。西に殴り倒された丹下は、笑って「いいパンチしてるじゃねえか、俺と 組まねえか」と言う。葉子は野次馬に道を塞がれ、車を降りた。そこへ丹下が吹っ飛ばされてきた。食堂の外では、西の兄貴分である 安藤洋司が観察している。ジョーは食堂から出ると、ヤクザたちを次々に殴り倒した。丹下から「俺と明日を目指さないか。俺がしごけば 一流のボクサーになれる」と持ち掛けられるが、ジョーは「やらねえ。今日が楽しけりゃ、それでいいんだよ」と返した。
ジョーは駆け付けた警官に捕まり、警察署へ連行された。釈放を求める丹下に、刑事は「あいつには山ほど前科があるんだよ。ガキの頃 からどうしようもないチンピラだ」と告げる。丹下は警察署の前で、「俺はお前を諦めねえからな」と叫んだ。全く反省の色が見えない ジョーは、東光特等少年院に送られた。同じ房には西も入っており、「お前とは、もう懲り懲りや」と言う。西は先輩の囚人から暴力を 振るわれても、低姿勢で媚を売る。しかしジョーは生意気な態度を取り、いきなり暴力騒ぎを起こした。
独房に入れられたジョーの元に、丹下からのハガキが届いた。そこには「あしたのために(その1)」として、ジャブの打ち方が詳しく 記されていた。丹下はジョーのためにジムを建てようと考え、建築現場で働き始めていた。独房から出たジョーは、すぐに食堂で喧嘩騒ぎ を起こす。「俺はどこにいたって自由なんだよ」と叫ぶジョーの前に、1人の囚人が現れた。彼はジョーを殴り倒し、「お前の言う自由 ってのは、好き勝手に暴れることか」と告げる。ジョーは立ち上がって殴り掛かるが、一発のパンチも当たらなかった。
その男はプロのボクサーである力石徹だった。ジョーが丹下のハガキ思い出してジャブを繰り出すと、それは命中する。だが、力石の パンチをボディーに食らって倒れ込み、看守たちに取り押さえられた。また独房へ入ったジョーの元に、今度は右ストレートの打ち方を 教える丹下のハガキが届いた。ジョーは「何が何でも倒したい男がいる」とハガキを丹下に送り、パンチの打ち方を書いたハガキを次々に 送るよう要求した。
丹下は葉子と共に、ジョーの面会にやって来た。葉子は「ボクシングの試合に出てほしいの」とジョーに提案した。刑務所に更生プランと としてボクシングを持ち込もうと考えており、まずは模範試合を開催したいのだという。ジョーは断ろうとするが、相手が力石だと知って 考えを変える。力石は、葉子が経営する白木ジムの所属選手だ。丹下はジョーに、力石は事件を起こしていなければ今頃はチャンピオンに なっているボクサーだと言う。丹下はジョーに、一か八かの必殺パンチを教えた。
葉子は力石に会い、ジョーとの試合を求めた真意を尋ねる。模範試合は葉子の考えではなく、力石の要望だった。力石は、1ラウンドで KOしてみせると自信を示した。試合当日、少年院には葉子の祖父である幹之介もやって来た。丹下はジョーに、「今日は地獄を見て もらうぜ」と言う。丹下はレフェリーに、フリーノックダウンで試合をするよう要求した。自信を持っていたジョーだが、パンチは全く 当たらず、何度もダウンを食らう。しかしジョーは何度でも立ち上がり、力石が不用意にパンチを出したところでクロスカウンターを 繰り出した。試合はダブルKOで終了した。
「待ってるぞ」と言い残して一足先に少年院を出た力石は、復帰戦をKOで飾った。丹下の出迎えで少年院を出たジョーがドヤ街に行くと 、橋の下にはオンボロ小屋の「丹下拳闘クラブ」が建てられていた。そこには、先に少年院を出てジム入りしていた西の姿があった。 ジョーはトレーニングを開始し、そしてプロテストに合格した。そんな中、ジムに安藤が現れた。ボクシング経験のある彼はジョーに、 「モノにならなかったら、いつでも俺のトコへ来な」と言う。
安藤は「こんな半端な街に、いつまでもしがみついてちゃいけねえぜ。まあ、このドヤ街も、いつまであるか分からんがな」と言い残し、 ジムを去った。ジョーは西から、ドヤ街を壊して再開発する計画があることを聞く。それは白木財閥の仕事であり、先頭に立って指揮して いるのは葉子がだ。西によると、ドヤ街全体を総合スポーツ施設にする計画で、何年も前から密かに準備をしていたのだという。
ジョーのデビュー戦が決まった。会場には葉子と力石が観戦に来た。ジョーは相手の村瀬をノーガードで挑発し、わざと何発かパンチを 浴びてから、クロスカウンターを放って1ラウンドKO勝利を収めた。一方、力石は連勝街道を突き進み、ついに世界ランク入りを果たす 。彼はマスコミのインタビューに対し、「チャンピオンより前に倒しておかなければならない男がいる」とコメントした。
ジョーにこだわる力石に、葉子は「階級が違うし、貴方は世界ランカーで彼は駆け出し。住む世界だって違う」と告げる。だが、力石は 「世界戦はあいつとの決着を付けてからにしてください」と言う。ジョーはデビュー以来、全ての試合をクロスカウンターで連勝した。 葉子は丹下に、白木ジム所属のウルフ金串とジョーの試合を持ち掛ける。しかしバンタム級日本ランカーであるウルフとの試合に、丹下は 「ジョーを潰す気か。そんな無茶な試合はお断りだ」と声を荒げる。
ドヤ街再開発の工事を進めようとする葉子は、反対運動を続けている住民たちから激しい抗議を受けた。葉子は冷淡な態度で、「そっちの 建物のオーナーとは話が付いています」と告げる。そこにジョーが現れて「今日のところは帰りなよ。その代わり、ウルフと試合して やるよ」と言う。白木ジムは専門家を集め、クロスカウンター破りの手を研究する。力石は葉子から、世界戦の打診が来たことを聞く。 力石が意見を述べようとすると、葉子は有無を言わせぬ態度で立ち去った。
力石の前にジョーが現れ、葉子の言いなりになっていることを見下した態度で指摘した。そこへ1人のスポーツ記者がやって来て、力石に ネチネチと嫌味をぶつける。彼は、力石が少年院に入っていた理由が、特ダネを取った同僚を殴って半殺しにしたことだと言う。特ダネの 内容は、葉子がドヤ街出身だということだった。ジョーが「ドヤ街ぶっ壊すのも、テメエの過去を隠すためじゃねえか。くだらねえ」と 吐き捨てると、力石は「くだらねえかどうかは、お前が決めることじゃない」と鋭く告げた。
幼い頃、ドヤ街の施設「愛育園」に預けられた葉子は、子供たちからイジメを受け、所持品を奪われた。力石はジョーに、彼女が「この町 に染まってはいけない。そうすれば、いつかは必ず迎えに来てくれる」という思いだけを支えに生きて来たのだと語る。だが、葉子を 守ろうとする力石に対し、ジョーはバカにした態度を取った。その場で戦おうとするとジョーがに、力石は冷静な態度で「ウルフを倒して 来い。決着はリングの上だ」と告げた。
ジョーは「ノーガードはやめろ、クロスは狙うな」という丹下の指示を無視し、ウルフ金串との試合でもノーガードで近付いた。しかし クロスカウンターは破られ、ジョーはダウンする。ウルフはジョーにダブル・クロスカウンターを浴びせたのだ。次のラウンドも懲りずに ノーガード戦法を取ったジョーだが、またもクロスカウンター破りでダウンを食らった。すると力石はリングサイドに駆け寄り、「立て、 矢吹!」と叫んだ。ジョーは血だらけで立ち上がり、トリブル・クロスカウンターでウルフをマットに沈めた。
フェザー級の力石はバンタム級のジョーと戦うため、過酷な減量を開始した。試合に激しく反対する葉子に、力石は「どうして、そんなに 反対するんです?俺以上にこだわってからじゃないですか、矢吹ジョーという男に」と言う。ハッとする葉子に、彼は「初めて出会ったん です。命を懸けてでも倒したい男に」と告げた。力石は体重を落とすため、たったコップ一杯の水さえも飲むことを避けた。
あまりにも過酷な減量を続ける力石の姿を見かねた葉子はジョーの元を訪れ、「出来ることなら何でもしますから」と試合を中止するよう 頼み込む。しかしジョーは「止まんねえよ、俺も力石も。金持ちも貧乏人も関係ねえ。真っ白なリングの上で、どっちかがぶっ倒れるまで 殴り合う。それだけだ」と静かに告げる。彼は葉子に、「アンタもいいパンチ持ってんだ。使い方間違えんな」と言う。ジョーも力石も 計量にパスし、ついに対決の日が訪れた。場所はボクシングの聖地、後楽園ホールだ…。監督は曽利文彦、原作は高森朝雄&ちばてつや(講談社刊)、脚本は篠崎絵里子、製作は渡辺香、藤島ジュリーK.&島谷能成&服部洋& 吉羽治&辰巳隆一&羽雁彰&遠藤和夫&松田英紀&北山有一郎&松本哲也、エグゼクティブプロデューサーは濱名一哉、企画・ プロデュースは伊與田英徳、アソシエイトプロデューサーは大原真人&渡辺敬介&葭原弓子、ラインプロデューサーは吉田浩二、撮影は 橋本桂二、照明は石田健司、美術は佐々木尚、録音は中村淳、視覚効果は松野忠雄、特殊メイクは松井祐一、編集は洲崎千恵子、 サウンドデザインは笠松広司、ボクシング監修・アクション&減量指導は梅津正彦、VFXスーパーバイザーは松野忠雄&三橋忠央、 企画協力は今井勉、音楽は高橋哲也&北里玲二、主題歌『Show Me Love(Not A Dream)』は宇多田ヒカル。
出演は山下智久、伊勢谷友介、香川照之、香里奈、津川雅彦、倍賞美津子、勝矢、モロ師岡、西田尚美、加藤浩次、杉本哲太、虎牙光揮、 蓮ハルク、正名僕蔵、芳岡謙二、田鍋謙一郎、滝藤賢一、高橋努、阿部亮平、平賀雅臣、中村靖日、水木薫、野口逢里、岩田丸、中島大和、瀧澤明弘、湯沢勉、 犬山ヴィーノ、五頭岳夫、銀次郎、畠山彩奈、吉松亨真、福本晟也、青木勁都、澤田陸、原金太郎、杜澤たいぶん、松澤仁晶、 コビヤマ洋一、樋口浩二、中野裕斗、飯田覚士、おぐらとしひろ、吉水孝宏ら。
高森朝雄(梶原一騎)&ちばてつやによるボクシング漫画を基にした実写作品。
監督は『ピンポン』『ICHI』の曽利文彦、脚本は『映画 クロサギ』の篠崎絵里子。
ジョーを山下智久、力石を伊勢谷友介、丹下を香川照之、葉子を香里奈、幹之介を津川雅彦、マリを 倍賞美津子、西を勝矢、食堂の親父をモロ師岡、食堂の女将を西田尚美、ウルフ金串を虎牙光揮、ジョーのプロデビュー戦の対戦相手を 蓮ハルク(元WBA世界スーパーバンタム級王者の佐藤修)が演じている。最初に評価するポイントを2つだけ挙げておく。
まず香川照之は素晴らしい。どう頑張ってもギャグにしかならないようなメイクなのに、丹下段平に成り切っている。
それから、山下智久と伊勢谷友介が役作りのために体重と体脂肪率を減らしてボクサー体型を作ったことも評価すべきだろう。
パッと見て「原作のジョーと力石ほど体格差は無さそうだな」と感じたし、実際に山下は減量前の体重が62kg、伊勢谷は67kgだから、原作 と比較すると体重差は少ないけど、そこにイチャモンを付ける気には全くならない。
誉めるポイントは、その2つだけ。
ここから下は批判的なコメントしか書いていないので、あしからず。TBSが『SPACE BATTLESHIP ヤマト』に続いて、ジャニーズのタレントを主演に起用し、人気アニメ(漫画)を実写化するという無謀な 試みに挑戦した映画である。
そしてヤマトに引き続き、やはり無謀だったことを証明した作品である。
ヤマトでは山崎貴、この映画では曽利文彦と、VFXを得意とする人を監督に据えているが、2人とも人間ドラマを描くセンスに難がある 人なんだよな。だから本作品は、やはりキャラ描写や人間ドラマが薄味になっている。原作の筋を追うだけで精一杯になっている。
ただし、それは脚本にも問題がある。特に序盤の展開なんて、もっと大幅に改編しないと難しいでしょ。
それをやらないから、ジョーと丹下の関係も、ジョーと力石の関係も、どうしても描写が薄くなってしまう。そこを充実させるより、話を 先に進めることが優先されてしまう。
ゆっくりしていたら、時間が足りなくなるからだ。時間に余裕が無いので、マリなんかはエキストラに近いような扱いになっている。
ウルフもセリフは全く無いし。
幹之介や安藤も、意味のある使われ方はしていない。
あと、実は紀子も登場しているようだが、ほぼエキストラのような扱い。
力石との試合に向けてランニングをするジョーをドヤ街の人々が応援するシーンで登場しているが、たぶん登場シーンって、その1カット だけじゃないかな。実写化したことで、ジョーが少年院に収容される展開に無理が生じている。
山Pはともかく、伊勢谷や勝矢はオッサンにしか見えない。
これが『岸和田少年愚連隊』とか『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』だったら、年齢的な無茶は余裕で受け入れるけど、マジに やっているので、そこのバカバカしさは厳しいなあ。
かと言って、実際に少年院に入れる年齢の役者を力石や西役に起用したら、それはそれで「ちっとも力石や西に見えない」ということに なっちゃうだろう。
そう考えると、思い切って「ジョーが暴れて少年院に入り、力石と出会う」という筋書きを変更するぐらいのことをやらなきゃダメ だったんじゃないか。時代設定を原作と同じ昭和40年代の高度成長期にしてあるけど、この映画で高度成長期にしてある意味って、まるで無いんだよね。
むしろ、現代に置き換えて作った方がいいんじゃないかと思ってしまう。
ただし、そうなると当然のことながら、大幅に内容を変更する必要が出て来る。ドヤ街なんて使えないしね。
で、そこまで無理をしてまで実写映画化する意味があるのかと考えると、まあ無いわな。葉子をドヤ街出身にしたのは大失敗。財閥の令嬢である葉子が、どういう事情でドヤ街の養護施設に預けられることになったのか、それが サッパリ分からないし。
あと、彼女がドヤ街出身という設定変更に伴って「再開発を推進する葉子」vs「反対するドヤ街住民」という対立の図式を持ち込み、 ジョーの戦いをリンクさせようとしているけど、上手く消化できていない。
ウルフと試合をすると聞いたドヤ街住民たちがジョーを応援するのを「ドヤ街の代表として試合に挑む男への応援」ということにしたい みたいだけど、そんな風には解釈できないよ。
ウルフは単なる白木ジムのボクサーであって、再開発には全くタッチしていないんだし。あと、ジョーが葉子に「今日のところは帰りなよ。その代わり、ウルフと試合してやるよ」と言うのは、セリフとしておかしい。
だって、ジョーは別にウルフとの試合を断っていない。やりたがっていなかったわけではない。丹下が勝手に断っただけだ。
むしろジョーは、力石との試合に近付くためにも、ウルフとの試合は望むところだったはず。
だから「その代わりに試合をしてやる」と言い出すのは、筋が全く通っていないのよ。131分という上映時間内で収めなきゃいけないんだから、色んなことを削らなきゃいけないわけで、ある意味では開き直って、ジョーと 力石の関係に絞り込んでしまった方がいいでしょ。
それなのに、逆に再開発という余計な要素まで盛り込んでしまう。
ところが、ウルフとの試合の前に少し触れるだけで、それ以降は再開発の話なんて全く出て来ない。
だから、やっぱり葉子の出自に関する部分を設定した意味が全く無いってことになるのよ。葉子は力石に「どうして、そんなに反対するんです?俺以上にこだわってからじゃないですか、矢吹ジョーという男に」と言われ、図星を 突かれたような表情になるが、それも無理がある。
その頃には、葉子はジョーに好意を持っているという設定なのか。
だけど、そこまでの展開の中で、彼女がジョーに惚れているような様子は微塵も無かったぞ。
そもそもジョーと葉子の恋愛劇に関しては、原作でも「ちょっと無理があるなあ」と感じるぐらいなのに、それを前倒しにした結果、 ますます無理筋になってしまっている。ウルフとの試合が終わった後、もうジョーと力石の試合が決定している設定になっている。
いつの間に決まったんだよ、その試合。そこは試合決定までのプロセスを描写すべきでしょ。
あと、この展開には1つ、大きな問題がある。
それは、その試合がノンタイトル戦だということだ。
つまりノンタイトル戦だから、力石がバンタム級のリミットに合わせて減量をする必要性は無いのよ。契約リミットを上げればいいわけ だから。
そうなると、それでも力石がバンタムに合わせて無理な減量をするのは、ただのバカってことになってしまう。
それは原作でも存在する問題ではあるんだけど、原作の場合、丁寧に地均しをしているので、そんなに気にならない。ジョーと力石の試合が終わり、力石が死んだ後、葉子は丹下の元を訪れてドヤ街の再開発を中止したことを話す。
その理由として彼女は「2人の試合を見ていたら、ずっと逃げてた自分に気付いたんです」と語る。
だけど別にジョーと力石は、「ホントは逃げてもいいはずなのに前を向いて戦った、立ち向かった」というわけじゃないぞ。
2人は戦いたいから戦った、それだけのことだ。
だから、そこで彼女が話すことは、どういう論理なのか良く分からない。この映画で難しいのは、全体の構成だ。
やはりジョーと力石の試合をクライマックスとして配置したい。だが、そうなると、力石の死も描くことになる。
そのまま終わるとスッキリしないから、そのショックからジョーが立ち直るところまでは描く必要がある。
原作だと、ジョーが立ち直るまでには相当の時間が必要なのだが、それを映画でやるには尺が足りないし、限られた尺の中で「再生までの 日々」を描こうとしたら、力石との戦いを中盤辺りに配置しなきゃいけなくなってしまう。で、映画ではどう処理したのかというと力石の死から1周忌へと飛び、「ドヤ街にジョーが戻ってくる」というのを描く。
だから、ジョーがどうやって力石を死なせてしまったショックを振り払ったのか、どういうきっかけでボクサーを続けていく気になった のか、それは全く分からないまま、「またボクサーをやる気になりました」という結果だけを描いているのだ。
それは手落ちも甚だしいぞ。ただし、そこの問題を解決するための方法としては、「もしヒットしたら続編で残りの物語を描く」という風に決めて、「力石との試合が 始まったゴングが鳴って飛び出したところでエンドロールに突入」という構成にするとか、それぐらいの方法しか思い付かないなあ。
ジョーと力石の試合を描かずに終わるってのは、それはそれで観客が納得しないだろうし、難しいところではある。
最初から2部作として発表されていれば、そこはクリアできる問題だけどね。(観賞日:2012年2月10日)
第8回(2011年度)蛇いちご賞
・男優賞:山下智久