『あした世界が終わるとしても』:2019、日本

幼い頃、狭間真は母に手を引かれて歩いていた。父の源司は仕事が多忙で家を空けることが多く、母は大事な研究をしているのだと真に説明した。その直後、母は急に転倒し、そのまま息を引き取った。そんな夢で目を覚ました高校3年生の真は、突然死が増え続けて年間10万人超になっているというニュースを携帯電話で見た。登校した彼が教室で転寝していると、幼馴染の泉琴莉が声を掛けた。父について問われた真は、今朝も帰って来なかったことを告げる。源司は3日前から帰宅していないが、「どうせ好きで帰ってないんだろ」と真は言う。源司が勤務する泉重工は、琴莉の父が経営する会社だった。
琴莉はクラスメイトの倉瀬に呼び出され、交際を持ち掛けられた。琴莉は困惑しながら断るが、倉瀬は「試しに付き合おうぜ」と強引に手を握る。その会話を耳にした真が姿を現し、「もうやめな」と倉瀬に告げた。放課後、琴莉は一緒に帰ろうと真を誘う。なぜ断ったのかと真が尋ねると、彼女は「そろそろ察してよ。いつまでも待てないよ」と口にする。真がためらいながら「明日、デートしませんか」と言うと、琴莉は喜んでOKした。真が帰宅すると、源司の姿があった。しかし源司は時間が無いので仕事に戻ることを告げ、「勝手にしろよ」と真は冷たく告げて自分の部屋に入った。
翌日、真はデートの途中で琴莉に告白しようとする。同じ頃、別世界では源司と瓜二つの男が群衆の前で処刑されていた。琴莉と瓜二つの女は群衆の喝采を浴び、「公女コトコ」と名乗る。彼女は群衆に対し、「我を常に崇め、常に愛し、その忠節心を一瞬たりとも忘れるな」と告げた。琴莉は父である宗からの電話を受け、源司が突然死したことを真に伝えた。葬儀に参列した宗は、なかなか源司を家に帰らせてあげられなかったと真に詫びた。真が「親父が勝手にやってたことですから」と言うと、宗は「彼の研究は多くの人を救えるはずだった」と告げた。コトコは側近のユーリからミコとリコを送り込む準備が出来たと報告を受け、「始めるとするか。この日本をやり直そう」と口にした。同じ頃、別世界に住む真と瓜二つの男は、「俺が、この日本を変える」と決意していた。
第二次世界大戦の最中、日本軍は秘密裏に物質転送の研究を行っていた。転送実験は失敗に終わったが、その影響で次元に歪みが生じ、世界は2つに分裂した。2つの世界には、それぞれ相対する人物がいる。お互いの命はリンクしており、片方が死ねば、もう片方も死ぬ。そのことを知らぬまま、それぞれの世界で、それぞれの日本は異なる歴史を歩んだ。1つは、戦争を忘れつつある、この日本。もう1つは、内戦が続く日本公国。こちらの世界では、格差は限界に達しようとしていた。
進路指導で教師に呼ばれた真は、進学を辞めて就職する考えを伝えた。下校途中で琴莉に質問された彼は自分の意思を語り、金が無いから進学を諦めるのだと説明した。琴莉と別れた真は携帯に目をやり、連続通り魔バラバラ殺人事件で8人目の犠牲者が出たというニュースを知った。そこへ真と瓜二つのジンという男が現れ、「お前は俺が守る」と言う。少女のミコが襲い掛かると、ジンは真を連れて逃亡した。事件現場にやって来た琴莉が落ちている真の携帯に気付いた直後、ミコが「見つけました。貴方はミコが守ります」と告げた。
ジンは真に、相対する別世界から来たことを説明する。ミコも琴莉に別世界から来たことを話し、自分はコトコが計画を実行するために生み出した知能搭載遠隔人型兵器のマティックだと説明した。ジンは真の両親が相対世界の法則によって死んだのだと教え、「人為的に命を奪った場合は、もう片方の世界では強制的に命を絶たれる」と言う。彼は2つの世界の移動技術や遠隔人型兵器は自分の両親が開発したこと、それを奪うためにコトコが2人を殺したことを語り、彼女の相対を殺すために来たのだと言う。真が「ちょっと付いて行けない」と帰ろうとすると、ジンは遠隔人型兵器のアルマに阻止させて「今出ると危険だ」と告げた。
ミコは真がいる廃校を見つけ出し、琴莉を連れて中に入った。ジンはアルマにミコを撃退させ、琴莉に気付く。琴莉の悲鳴を耳にした真は、助けに行こうとする。ジンは彼を取り押さえ、アルマに琴莉を始末させようとする。しかし琴莉に変化が起き、アルマの攻撃をかわした。ミコがアルマを吹き飛ばし、琴莉と共に真とジンの元へやって来た。ジンは「フィックスしたのか」と驚き、ミコはジンを蹴り飛ばす。彼女は真を連れ、琴莉と共に逃走した。
真は危険なので家に来ないかと琴莉に誘われるが、「いいよ」と断った。コトコは「ミコのフィックスを感じない。やられたのか」と不安になり、リコを差し向けることにした。琴莉は母の許可を得て、真の家で泊まることにした。ミコも一緒に泊まり、琴莉に「なんで私とフィックスしたの?」と問われて「アルマからの攻撃を受けた時、向こうの世界からの通信機が破損し、コトコ様とのフィックスが切れてしまいましたので、接続先を琴莉に変更しました」と説明した。
ミコは琴莉の気持ちを理解し、彼女が真と一緒にいたいだけだと知る。真はバラバラ殺人事件の被害者の写真をミコに見せ、全員がコトコを補佐する公卿の相対だと知った。琴莉を寝かし付けた直後、ジンが真の家にやって来た。真が警戒しながら応対に出ると、少し話したいだけだとジンは言う。ジンは真を呼び出し、必ず琴莉を殺すと告げる。公卿の相対も殺しているのではないかと指摘すると、ジンは否定した。そこにリコが現れて真を殺そうとすると、ミコが駆け付けて阻止する。ミコはリコに、状況が変わったので説明したいと言う。リコは武器を収め、ミコは真とジンにも「話したいことがあります」と告げた。
ミコはコトコの目的が国の解放だと言うが、ジンは「国を縛ってるのは公女だろ」と反発した。するとリコは、ジンの父を処刑したのは公卿を欺くための苦渋の決断であり、コトコも心を痛めていたと語る。政治の実権を持つのは公卿であり、無慈悲な決断を拒否すれば公女は殺されるのだとリコは説明した。ミコは真とジンに、「コトコ様は公卿の不正を正すため、ミコたちを作り、この世界に送り込んだのです」と述べた。話を聞いた真は、連続通り魔がリコだと悟った。
目的は同じなので琴莉の殺害を中止してほしいと要請されたジンは、休戦を承諾した。翌朝、目を覚ました琴莉は、真&ジン&ミコ&リコが一緒にいるのを見て戸惑った。琴莉は説明を聞いて状況を理解し、ジンやミコたちは抹殺すべき相手が他にもいることを口にした。琴莉が休日なので遊びに行こうと提案すると、ミコ&リコは快諾した。ジンは困惑するが、結局は同行した。コトコは計画を知った公卿に包囲され、リコは慌てて飛び去った。琴莉はミコに「どうやら貴方を守れないようです。計画は失敗しました」と言われて状況を把握し、真に「もうすぐ死んじゃうみたい」と告げた。
コトコは処刑され、琴莉は真の前で急死した。公卿たちは次の人柱として、駆け付けたリコを使うことにした。宗は泉重工防衛待機事業部に真&ジン&ミコを呼び、何が起きているのか話すよう求めた。ジンの説明を受け、宗の部下たちがアルマを発見した。宗は対策本部を設置し、真たちに協力を要請した。公卿は死を恐れぬ新たな戦士「アルマティク」を誕生させ、リコは人々に「もう1つの日本の秩序を正す」と宣言した。
アルマティクは新宿に出現し、警察官や自衛隊員、そして閣僚を次々に始末した。日本政府抹殺の計画は完遂され、リコは側近に「あちらも日本公国の領土だ。不要な物は排除する」と告げた。ジンは真とリコを連れて、新宿へ向かった。ジンはアルマティクと戦うが、ミコは真とフィックスしなければ動けない。しかし真が自分の殻に閉じ篭もっているため、フィックスできない状態だった。真は琴莉の幻影に「諦めないで」と言われ、フィックスしたミコと共にジンの加勢に駆け付けた。
新宿の敵が一掃されると、リコは「こちらの世界の人口密集地に、あれを落とせ」と側近に命じた。爆弾の投下によって、日本では甚大な犠牲者が出た。宗は政府からの正式な協力要請を受け、部下の硴塚浩二に特殊武器の準備を急がせた。硴塚は真とジンに、遠隔人型兵器に弾丸を撃ち込むとフィクサーの脳細胞に破壊プログラムを送り込む銃を用意した。宗は真を呼び、琴莉の遺体を生前の状態で保存していることを明かした。彼は源司が突然死から息子を守るために研究していたことを話し、「突然死を防ぐ方法は見つかっていた。2つの世界、命のリンクを断ち切る理論に辿り着いていた。今までは実行する手段が無かったが、君なになら救えるかもしれない」と述べた。真とジンは銃を手に取り、ミコ&アルマと共に日本公国へ移動した…。

監督・脚本は櫻木優平、原作はクラフター、プロデューサーは石井朋彦、エグゼクティブプロデューサーは古田彰一、製作は高橋敏弘&古田彰一、共同製作は野村明男&山本浩&西川徹&長澤一史&渡辺章仁、共同プロデューサーは田坂秀将&山崎康史&藤巻直哉、キャラクターデザイナーは河野紘一郎、CGディレクターは川崎司、モデリングディレクターは宮岡将志、アニメーションディレクターは高江智之&松浦宏樹、美術監督は岡本有香、色彩設計は田中美穂、撮影監督は淺川真歩、編集は今井剛、サウンドデザイナーは荒川きよし、リレコーディングミキサーは鈴木修二、音楽はカワイヒデヒロ、主題歌/挿入歌は あいみょん。
声の出演は梶裕貴、中島ヨシキ、内田真礼、千本木彩花、悠木碧、水瀬いのり、森川智之、古谷徹、水樹奈々、津田健次郎、上田燿司、野島裕史、結城萌子、青山玲菜、和田将弥、田辺留依、浜口慎太郎、秋山諒、西島梨央、各務立基、橋本晃太朗、吉山博海、杉崎亮、原口馨、高橋春香、黒田崇矢、佐藤晴男、丹沢晃之、増谷康紀、河合優、大河元気ら。


博報堂グループの映像コンサルティング会社「クラフター」によるHuluオリジナルアニメ『ソウタイセカイ』をベースにした作品。
監督&脚本は、クラフターの子会社「クラフタースタジオ」に所属するCGディレクターの櫻木優平。
TV『イングレス』や『ソウタイセカイ』で監督を務めて来たが、映画は初めて。
真の声を梶裕貴、ジンを中島ヨシキ、琴莉を内田真礼、コトコを千本木彩花、ミコを悠木碧、リコを水瀬いのり、宗を森川智之、恭子を水樹奈々、源司を津田健次郎、ナレーションを古谷徹が担当している。

ベースとなった『ソウタイセカイ』は、新世代アニメ「スマートCGアニメーション」プロジェクトとして制作されたアニメーション作品である。
スマートCGアニメーションとは、手描きアニメーションのルックを最新のCG制作システムで表現するクラフターのオリジナル技法のこと。
「どちらの長所も併せ持ち、幅広い用途に応用できる技法」ってのがセールスポイントになっている。
クラフタースタジオは、これを武器にしてビジネスを展開している。

たぶんスマートCGアニメーションってのは、色々と便利な面は多いんだろうと思う。コストの削減にも繋がるんだろうとは思う。
ただ、申し訳ないけど、ルックとしては「決して質が高いとは言えないCGアニメ」にしか見えないんだよね。
製作サイドからするとメリットが多い技法なのかもしれないけど、こっちからすると「両方の美味しいトコ取り」なんてことは微塵も感じないのよ。
キャラクターが背景から浮いているように見えちゃうし。

あと、動きをスムーズに描いているつもりなんだろうけど、逆に違和感を覚える状態になっている。
たぶん表情も「自然な動き」を意識しているんじゃないかと思うけど、その結果として「動きが小さくて気持ちが伝わりにくい」というトコが多くなっている。
通常の手描きアニメだったら、もっと表情を誇張したり、あるいは表情だけに頼らず感情を表現したりするだろう。
手描きアニメとCGアニメを掛け合わせた結果、むしろダメなトコが露出しちゃってないか。

体の動きだけじゃなくて、心の動きにも違和感を覚える。
序盤、真はやる気の無さそうな様子を見せ、琴莉が「1人で大丈夫?今日、ウチに泊まる?」と誘っても全く反応が無い。慌てることもなく、淡々としている。倉瀬の告白を聞いている時も、どことなく面倒そうな様子を見せている。「もうやめな」と助けに入っているもの、そこに「琴莉が好き」という感情は全く見えない。
しかし琴莉に「いつまでも待てないよ」と急かされると、緊張した様子でデートに誘う。
いやいや、惚れてたのかよ。そんなこと、まるで見えなかったぞ。
最初から惚れていたのなら、そういうのを感じさせなきゃダメなんじゃないのか。

あとさ、「表情が云々」って前述したけど、「それ以前の問題」と感じる箇所も少なくないんだよね。
例えば、琴莉が父からの電話を受け、真に源司が突然死したことを伝えるシーン。
突然の電話で、「惚れてる男の父が急死した」と知らされたんでしょ。それにしては、琴莉のリアクションが弱いのよ。自分の父親じゃないにしても、もうちょっと狼狽させた方が良くないか。
真に伝える時も、「決意を固めて」みたいな態度になってるけど、それはキャラの動かし方を間違ってると思うし。そんな簡単に割り切って、しっかりした態度で父親の死を恋人に伝えられるかね。
どんだけ肝っ玉が据わってるんだよ、琴莉って。

映画が始まって少し経つと、「どうやら真や琴莉たちと瓜二つの人間が住む別世界が存在するらしい」ってことが分かる描写が挿入される。なので、話が進む中で「真や琴莉が瓜二つの人間と遭遇し、そこで事情を知る」という展開になるんだろうと思っていた。
しかし実際は、開始から15分ほど経過した辺りで「こういう世界観でして」とナレーションで説明するのである。
いや、ナレーションで初期設定を説明する手法を一概にダメとは言えないけどさ、この作品に関しては「カッコ悪さの極致」と感じるぞ。
そういうのは、話を進めながら「最初は困惑していた真や琴莉が少しずつ理解していく」という流れにして、観客を引き込む力に繋げた方が得策だろう。

ナレーションで一気に片付けてしまう方法を選んだのは、もしかすると「時間の都合」ってことが大きいのかもしれない。
上映時間が93分しかないので「少しずつ明らかにしていく」という方法を取れるほど尺に余裕が無いってことだ。TVシリーズだったら可能だっただろうけど、1本の映画だと難しい。
ただ、そういう世界観を用意し、映画という媒体を選択し、93分という上映時間を設定したのは、全て製作サイドなわけでね。だから厳しいことを言っちゃうと、何の言い訳にもならないんだよね。
急にナレーションの説明が入った時は、「これは『ソウタイセカイ』の続編という扱いで、それを見ている人たちなら分かるだろうってことなのか」と思っちゃったぞ。

ともかくナレーションでザックリとした世界観が説明されるのだが、それが明らかにされた瞬間に「ディティールが粗いなあ」と感じる。
後から疑問点を全て解消してくれれば問題は無いけど、そんなことが出来るぐらいなら最初にやっているだろうし、そもそもナレーションベースで片付けようとしないだろう。なので、最後まで「雑な設定」のままで放置される。
例えば、「世界は2つに分裂した」と語るけど、映像だと実際に分裂しているのは地球だけ。太陽や月も分裂しないと色々な影響が生じるはずだが、そこは完全に無視されている。
また、「世界は」と言っているのに、実際に相対しているのは日本だけで、海外については完全に無視されている。

2つの世界では「片方が死ねば、もう片方も死ぬ」らしいが、「誕生」については何も説明されない。
「相対する人間が同じタイミングで誕生する」ってのが全人類で続いていないと成立しない世界観なのだが、まるで異なる世界になっているので「有り得ない」と断言できる。
日本と日本公国で、全ての男女が同じカップルで結び付き、同じタイミングでセックスし、同じタイミングで出産するなんてことは絶対に無いでしょ。それが成立しているとしたら、人類を操作する神のような存在がいるってことになるぞ。
あとさ、真&ジンと琴莉&コトコは相対で見た目が瓜二つなのに、声が全く違うってのも辻褄が合っていなくねえか。なんで1人2役で演じさせなかったのよ。

ジンは真に、「人為的に命を奪った場合は、もう片方の世界では強制的に命を絶たれる」と説明する。
ってことは、病死だったら同じ時期に発症し、同じペースで症状が悪化して死に至るのか。
では、例えば事故死の場合はどうなのか。片方の世界で事故死した時、相対する人間が全く異なる状況にいたとして、それでも「事故死」するのか。人為的に命を奪っていないが、それでも突然死するのか。
そういった細かいことを気にすると、キリが無いんだよね、この映画って。

八琴莉がアルマに殺されそうになると、心象風景のような映像に切り替わる。ミコが現れて手を差し出すと、琴莉は「そうか、私たち」と口にする。2人が額をくっ付けて目を閉じると、現実世界の琴莉がアルマの攻撃を交わして俊敏に動く。彼女の目が赤く光り、「真は私が守る」と言う。
でも、こっちには何が起きているのかサッパリ分からない。
ジンが「フィックスしたのか」と驚くが、「フィックス」が何のことなのか全く分からない。真の家に泊まる時、琴莉がミコに「なんでフィックスしたの?」と訊くが、「その前にフィックスを説明しろよ」とツッコミを入れたくなる。
なんで琴莉は、いつの間にかフィックスの意味を理解しているんだよ。

中盤、コトコが公卿たちに処刑され、琴莉が急死するシーンがある。ここ、ホントなら観客も真と同じぐらい悲しみを感じるべきシーンのはずだ。
だけど、「コトコが公卿に包囲されて、琴莉が死期を悟って、コトコが処刑されて、琴莉が死んで」という展開が慌ただしくて、悲劇を味わうような余裕が全く無いのよ。
しかも、そこで琴莉が死ぬことによって、真がすっかり殻に閉じこもってしまうのよね。なので、「ずっと主人公が陰気で動かない」という状態が持続しちゃうのよ。
そんな話、誰が喜ぶんだよ。

っていうかさ、「そこでヒロインを殺しちゃうって、どういうつもりなのか」と言いたくなるわ。
「ヒロインを守れませんでした。何も出来ない無力な男でした」って、どういう展開だよ。
まだ序盤で「無力さに打ちのめされて」というシーンを配置して「そこから始まる物語」みたいにしてあるならともかく、中盤というタイミングで、その展開は無いだろ。「母を救えなかった」という過去があるんだから、「今度は必ず救う」ってことじゃないとダメだろ。
そこはオーソドックスでいいのよ。そこを捻っても、「誰も求めていない裏切り」でしかないのよ。

琴莉が死んで真は自分の殻に閉じ篭もり、ずっと陰気な奴になっている。日本公国が攻めて来ても、相変わらず塞ぎ込んでいる。しかし、琴莉が脳内の世界に現れて「諦めないで、私まだここにいるんだから」と呼び掛けると、急に「僕は諦めない」と言い出す。
そんなに簡単に変われるのかよ。その唐突で安易な展開には、苦笑するしかないわ。
そんなに簡単に変われるのなら、もっと早くリコが彼に琴莉の幻覚を見せてやれば良かったんじゃないのか。
そこまで何の動きも無く引っ張っておいて、そのバカバカしい処理は何なのかと。

公女となったリコが群衆に「もう1つの日本の秩序を正す」と宣言するけど、日本公国では「もう1つの日本」の存在は周知の事実なのか。
今までは「一部の人だけが知る極秘事項」みたいな扱いだったはずなのに、そんなことを堂々と公言して群衆が盛り上がるってのは、どういうことなのか。
日本公国では誰もが知っていることだとすれば、もっと市民も行動を起こしそうなモンだけどね。
この映画、細かいことは完全に無視しているのよね。

宗は真たちから話を聞くと対策本部の設置を指示し、「もう1つの日本からの接触に対して万全の態勢を整える」と言う。
だけど、コトコを始末してリコを後任に据えたことで、もう公卿たちは目的を果たしているはずでしょ。なんで「日本公国が日本に攻めてくる」ということが確定しているような感じで話を進めちゃってるのよ。
そんなこと、公卿たちは一言も口にしていなかったでしょ。
コトコにしても、それを危惧してミコとリコを差し向けたわけじゃなかったでしょ。

公卿が「ジンとミコが自分たちの相対を殺すはず。だから2人を殺せねば」と考えて刺客を差し向けるとすれば、それは理解できる。
ただ、なぜか公卿たちは、日本公国で日本の政治家の相対を次々に始末するのよね。それは「以前から進めていた計画」ってことらしいけど、急に出て来た設定にしか思えんよ。
それに、公卿たちが日本を支配する目的が分からん。
「日本の支配」ってホントは目的を達するための手段じゃないといけないのに、その先のビジョンが無いから、それ自体が目的化しちゃってんのよね。

公卿はアルマティクを日本に差し向けて次々に人を殺すけど、「何がしたいのか」と言いたくなる。
日本政府の関係者を始末したいのなら日本公国で彼らの相対を始末すれば済むはずでしょ。わざわざ向こうに刺客を差し向ける必要なんて全く無い。
それに、日本を支配するにしても、閣僚を全滅させる必要は無いはずで。
しまいには日本公国に爆弾を落として両方の国で甚大な死者を出しているけど、それで何を得ようとしているのかサッパリ分からんよ。支離滅裂にしか思えんよ。

最初に琴莉が真の幼馴染として登場し、彼女の相対であるコトコも姿を見せる。なので普通に考えれば、琴莉とコトコがヒロインとして動かされるべきだろう。
ところが途中で2人とも死んでしまい、物語も佳境に入った辺りでミコとリコがヒロインのような扱いになる。
その後、最後の最後で「いつの間にか琴莉が蘇っている」という展開が用意されているが、何も取り戻せていないからね。
しかも唐突に復活しているから、バカバカしさしか感じないし。

(観賞日:2020年12月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会