『APPLESEED アップルシード』:2004、日本

廃墟となった市街地で、傭兵デュナン・ナッツは襲い掛かってくる敵と戦っていた。そこへES.W.A.T.と書かれた軍用ヘリコプターが現れ、 複数の隊員が降り立った。彼らはデュナンを襲っていた連中を倒した。デュナンは逃亡を図るが、麻酔弾で眠らされた。ヘリの中から、 ヒトミという女性と戦闘サイボーグのブリアレオスが現れ、デュナンを確認した。ESWATはデュナンをヘリに乗せ、オリュンポスと 呼ばれる場所へ向かった。
デュナンは夢を見ていた。相棒のブリアレオスと一緒に戦っていた頃の夢だ。まだブリアレオスは人間だった。ヒトミが近付くとデュナン は起き上がり、彼女を人質にして逃亡しようと試みる。そこへブリアレオスが現れ、デュナンに呼び掛けた。デョナンはヒトミから、 世界大戦が終結し、どの国も勝利しなかったことを知らされた。かつての総合管理局がオリュンポスと名を変え、世界を治めているのだと ヒトミは説明した。何も知らされないまま、デュナンは意味の無い戦いを繰り返していたのだ。
オリュンポスこそ人類が辿り着いたユートピアだと、ヒトミは告げた。彼女は、「優秀な戦士だから、ここへ連れて来た。貴方の名前は ESWATのヒト強化リストのトップに挙がっている」と説明した。デュナンはブリアレオスと話した。ブリアレオスは、北アフリカ戦線 で1年前に体を失ったことを述べた。襲って来た連中の心当たりをデュナンが訊くと、「無い」とそっけなく答えた。
立法院の七賢老は、行政院の総監アテナの前に姿を見せた。彼らは「あの襲撃はアテナの仕業だね」「金目当ての傭兵など、ESWATの敵 ではないだろう」「バイオロイドの使命を忘れてしまったのかい」「軍部に知れたらウラノス将軍の思う壷だよ」「もう我々の力では 抑えきれない」「アテナ、もう時間が無いのだよ」などと口々に言い、そして姿を消した。アテナは部下のニケを呼び、「筒抜けだ。 ESWATに内偵が必要だ」と告げた。
アテナは「最悪の事態は免れた。目的の物は見つからなかった。しかし火の粉は払いのけねばならない。デュナン・カッツを確保せよ」と ニケに命じた。オリュンポス正規軍のハデス大尉は、人型メカのランドメイトが保管されている場所を訪れた。彼は男に「ESWATはダミー を追っているようだ」「これ以上、バイオロイドの思うようにはさせない」などと告げた。立法院では、七賢老が「結論は出ているが、 それでも議論を続けなければいけない」「再びガイアとの対話を始めましょう」と言い合っていた。
翌日、ヒトミはデュナンを街に連れ出した。ヒトミは、街の50パーセントがバイオロイドだと告げた。バイオロイドとは、優良種を 混合したハイブリッドのクローンだという。ヒトミは、自分もバイオロイドだと明かした。バイオロイドは、人と人との緩衝材の役目を 担っているという。タルタロスとダイダロスという2つの建物には、オリュンポスを管理する巨大な“IN”のブレインが収められている。 INとは、インテリジェンスド・ネットワークのことで、通称はガイアだ。
ガイアは自己増殖しながらオリュンポス全体、特にバイオロイドを管理している。バイオロイドは感情を抑制されており、だから憎んだり 恨んだりすることが無い。タルタロスの頂上にはDタンクと呼ばれるウイルスタンクがあって、それを発動させるといつでもバイオを滅亡 させることが出来るという。ガイアはバイオロイドが人に与える精神的影響を監視しているという。
ヒトミは、ウラノス将軍のことも語った。ウラノスはオリンポス正規軍の総司令で、バイオロイドを嫌っている極端な回顧主義者だという。 オリンポスの行政は全てバイオロイドが担当している。アテナ総監もバイオロイドだ。総監とは大統領みたいなものだ。しかし軍部は人が 指揮している。最近、アテナ率いる行政院管轄のESWATの勢力が増大しており、正規軍と折り合いが悪くなってきた。しかしオリュンポス の最終的な意思決定はガイアに委ねられている。
デュナンは尾行されていることに気付いた。襲撃してきた敵のサイボーグと戦っていると、ブリアレオスが加勢に駆け付けた。敵の一人は 「アップルシードの封印を説いてはいけない」と言い残して死んだ。ヒトミはデュナンを七賢老の元へ案内した。七賢老は、「目元などは カールに良く似ている」と言う。カールはデュナンの父だ。「父を知っているのですか」とデュナンが尋ねると、七賢老はバイオロイドの 大半がカールの遺伝子の一部を受け継いでいることを告げた。
ハデスはヘリで降り立ったウラノスを出迎え、「立法と行政に対立が見られます」と報告した。「アテナが追っているのは本当にカールの 娘なのか?」と訊くウラノスに、「間違いありません」とハデスは返答した。七賢老はデュナンに、「ガイアは揺らぎが皆無だ。心や感情 は持てない。我々7人の人の心が加わって、ガイアの思考をより柔軟にしている」と告げた。
七賢老は「我々の仕事は常にガイアと議論することだ。人は欲望の続く限り戦いをやめない。人とバイオロイドの共存こそが人類の最後の 希望だ。バイオロイドは子孫の繁栄ができない。定期的に延命処置を施さないと、急速に老化が進んで死に至る。我々は人との差別化を 図るためにバイオロイドの生殖機能を抑制し、ライフサイクルを変化させた」と説明した。
ESWATに加入したデュナンは、2年ぶりの再会となるブリアレオスに「なぜ狙われるの、あいつらは何者?アップルシードって何?」と 矢継ぎ早に尋ねるが、「全て分からない」という淡白な答えが返ってきた。デュナンがバーで飲んでいると、ヒトミが現れた。彼女に質問 され、デュナンは父が大戦前に病死したこと、母の記憶は全く無いことを語った。「ブリアレオスと恋人同士だったのよね」と言われ、 デュナンは「彼がまだ生身の体だった頃の話よ」と返した。するとヒトミは、「恋って、どんな気持ち?情報としては理解できるけど、 本質を感じることは出来ないの」と述べた。
デュナンはメカニックの義経から説明を受け、ランドメイトに乗り込んだ。その時、緊急出動警報が鳴り響いた。複数のランドメイトが バイオロイドケアセンターに侵入したという。そのまま出動したデュナンは、センターを破壊して逃走する一体のランドメイトを追跡する。 だが、ランドメイトは待ち受けていたブリアレオスを吹っ飛ばして逃げ去った。
バイオロイドケアセンターに現れたアテナは、ニケから「第三期バイオロイドは全滅。延齢処理用のDNAオリジナルも焼き払われました」 と報告を受けた。アテナはタルタロスとダイダロスの全面封鎖を決定し、緊急議会を召集するよう指示した。一方、ヒトミは義経の前で 倒れ、意識を失った。彼女は延齢処理のタイムリミットを3日もオーバーしていたのだ。
緊急議会に出席したアテナは、正規軍を差し置いての行動を怒るウラノスに「我々にはガイアを守る義務がある。最善の処置を取っただけ」 と告げた。七賢老は「このままではバイオロイドの未来が閉ざされる。オリンポスを危機から守る方法が一つだけ残されている。ガイアは 議論の末に決断を下した。ガイアはバイオロイドを活性化し、生殖機能を復活させることを支持した」と語った。
ウラノスは「そのテクノロジーは抹消され、再開発不可能なはずだ」と言うが、七賢老は「基礎データは消滅していない。アップルシード と名付けたデータは今でも存在する。我々はもうすぐアップルシードに辿り着くでしょう」と述べた。デュナンは、立法院で保護された ヒトミを訪ねた。七賢老は「眠っているだけで、アップルシードさえ見つかれば助かる」と告げた。
デュナンは七賢老から「ギリアム博士を知っているかい?」と問われ、「いいえ」と返答した。ギリアムはアップルシードの開発者だ。 七賢老は立法院を訪れたアテナに、「ガイアはついに決断した。アテナ、次は貴方の番だ」と告げた。アテナはデュナンに「力を貸して 欲しい」と言い、今まで隠していた古いディスクを渡した。それはアップルシードを探す唯一の手掛かりだった。
デュナンはESWATのブリアレオスやクドー、レイトンたちと共に研究施設へ行き、ディスクをセットした。すると、ギリアム博士の映像が 浮かび上がった。施設が敵に襲われ、アテナが「時間が無いので早く逃げて下さい」と言う中、博士は「これだけは処分しなければ」と 機械を操作していた。そこに、目を覚ました娘がやって来た。その様子を見たデュナンは驚き、「母さん」と呟いた。ギリアム博士は、 デュナンの母親だったのだ。
デュナンの中に、ある記憶が蘇った。それは、ギリアム博士からペンダントを渡され、「ここにはママの大切な研究データが入っている。 悪い人たちが奪おうとしているから、隠すことにした。だからデュナンがペンダントを守って。もしアテナが欲しいと言ったら、アテナ には渡してね」と告げられた記憶だった。その時のペンダントを、デュナンは首から下げていた。
デュナンがペンダントのことをブリアレオスに告げたところへ、オリュンポス正規軍が現れた。ハデスは不敵な笑みを浮かべ、デュナンに 「久しぶりだな」と告げた。レイトンはESWATを裏切って正規軍に付いており、デュナンたちに銃を向けた。逃走を図ったデュナンたちだが、 正規軍に追い詰められた。ハデスはデュナンに、「ケアセンター襲撃を持ち掛けたのはブリアレオス」と明かした…。

監督は荒牧伸志、原作は士郎正宗、脚本は半田はるか&上代務、プロデュースは曽利文彦、エクゼクティブプロデューサーは三宅澄二、 プロデューサーは植木英則&渡邊直子、共同プロデューサーは小西規夫、CGプロデューサーは豊嶋勇作、 CGディレクターは大塚康弘、キャラクターデザインは山田正樹、メカニックデザインは高倉武史、プロダクションデザインは荒牧伸志、 多脚砲台デザインは竹内敦志、音響効果は鶴岡陽太、サウンドデザインは笠松広司、オリジナルスコアは高橋哲也、音楽プロデューサーは安井輝、 音楽はBoom Boom Satellites、主題歌「Dive For You」はBoom Boom Satellites。
声の出演は小林愛、小杉十郎太、松岡由貴、小山茉美、山田美穂、藤本譲、子安武人、森川智之、仲木隆司、松岡文雄、永田博丈、 桑垣紀彦、金子由之、西川幾雄、小山武堂、篠原恵美、川上とも子、西前忠久、稲田徹、河相智哉、西村太祐。 モーションアクターは三輪明日美、宮下敬夫、加藤としみ、古田耕子、浪谷実、饗場圭一、健太、桑垣紀彦、宍戸佑衣ら。


漫画家・士郎正宗のメジャーデビュー作品を基にしたアニメーション映画。
原作は完結しておらず、作者が凍結を宣言している。1988年にはOAVが発売されている。
デュナンの声を小林愛、ブリアレオスを小杉十郎太、ヒトミを松岡由貴、アテナを小山茉美、ニケを 山田美穂、ウラノスを藤本譲、ハデスを子安武人、義経を森川智之が担当している。

この作品は『ピンポン』の監督を務めた曽利文彦がプロデュースとして参加し、「フル3Dライブアニメ」という表現方法が用いられて いる。フル3Dライブアニメとは、実際の人間の動きを3DCGキャラクターに取り込む“モーションキャプチャー”と、3DCGを セルアニメのような画風に変換する“トゥーンシェーダー”という2つの技術を融合させた造語だ。
デュナンやヒトミは、顔の表情、通常の演技、アクション場面と、それぞれに分けてモーションキャプチャーが行われている。
で、そのフル3Dライブアニメはどうかというと、正直、高い評価は出来ない。
だって、ものすげえ違和感があるんだもん。
セルアニメのキャラって、動きや表情を簡略化したり省いたりするものだ。
一方、3DCGは、実写に近付こう、リアルにやろうという方向性がある。
で、全く違うベクトルを向いている2つの表現方法を融合させようってトコロで、やはりキツいコトになってるんじゃないかと思ったり するんだよな。

冒頭のアクションシーンからもう、強い違和感がある。
キャラクターはセルアニメ的に塗っているが、機械や背景はそのままなので、キャラが背景から浮いて見える。キャラをセル的に 塗るのなら、機械や背景も同じようにすべきだろうが、でも機械や背景をセルアニメ的に塗るのなら、もはや3DCGにする必要性なんて 無いんだよな。最初からセルアニメでいいってことになる。
また、キャラの動きがスムーズとは言えず、TVゲームを見ているかのような感覚になる。
表情も不自然だ。常に筋肉が強張っているかのような状態で、表情が硬く、感情の移り変わりが伝わりにくい。
一応、「泣いている」とか「怒っている」という分かりやすい喜怒哀楽は伝わるけれど、それは「人形を動かして作った嘘の表情です」 というような感じになっている。

そういうのは、「初めての体験だから、時間が経てば慣れる」という類のものではない。
見慣れないから違和感があるのではなく、事実として背景とキャラが馴染んでいないし、キャラの動きや表情にスムーズさが欠けている のだ。
3Dじゃなくてセルアニメなら、動きや表情がリアルでなくても、それほど気にならないのだろう。セルアニメというのは、そういう部分 を省略しても、そこを人間の脳内で補完させるように出来ているものだからだ。
しかし、3DCGは「リアルにやろう」という方向性であり、それでも誇張したキャラクター造形で「いかにもアニメなキャラ」なら 違ってくるのだろうが、この映画のキャラは「実写に近付こう」という造形にしてあるので、その不自然さが際立って 感じられるのだ。
「2つの技術を融合させた」と前述したけど、3DCGとセルアニメが反発し合っているように思える。

映像的な部分を離れても、やはり出来映えが良いとは言い難い。
まず冒頭にヨハネ黙示録の一節がテロップで表示されるが、それに何の意味があるのかサッパリ分からない。物語に聖書や黙示録が絡んで くることは無いし。
ストーリーやテーマが黙示録を意識したものになっているのかもしれないが(っていうか、たぶんそうなんだろう)、正直、最初の テロップなんて、その内容を全く覚えていない。
だから関係があったとしても、効果は全く無いよなあ。

内容としての大きな欠点は、あまりにも情報量が多く、しかし一方で色々と説明が不足しているということだ。
冒頭からセリフも無しにバトルが続くが、何の説明も無いので、何が何やら良く分からず、気持ちが乗らない。
「ワケが分からんなあ」と思いながら見ているので、気持ちが散漫になっている。
そこで分かるのは、「戦っている女が主役だ」ということぐらいだ。

ヒトミがデュナンに街を案内するシーンで、オリュンポスとバイオロイド、ウラノスとアテナ、行政院と正規軍について一気に説明するが、 あまりにも情報量が多すぎて、頭に入り切らない。
デュナンとブリアレオスの関係は、かつて恋人で相棒だったらしいが、説明が不足している。オリュンポスが、行政管理局と呼ばれていた 頃はどういう存在で、どう変わったのかも分からない。
デュナンはハデスと知り合いらしいが、世界大戦前の関係は良く分からない。ハデスは後半に入って「俺を除隊に追い込んだカールへの 復讐だ」と言い出し、「バイオは皆殺しにしてやる」と私怨で動き出すが、そんなことをセリフだけで言われても、そういうカールとの 因縁は全く描かれていないし、そこで急に持ち出されてもピンと来ないよ。カールなんて名前しか出て来ないし。大戦の前に、カールが どのような存在だったのかも良く分からないし。
ウラノスは戦友で、幼少時代のデュナンにも会ったことがあるらしいが、その辺りも説明が足りていない。

デュナンは戦闘サイボーグとなったブリアレオスを見ても、そんなに驚いていない。人間が戦闘サイボーグになることは、そう珍しくも ない世界観ってことだろうか。
ただ、ブリアレオスの他に、似たような体の奴は全く登場しない。
っていうか、珍しくないにしても、恋人が変わり果てた姿で登場したら、もっと驚くのが普通だろう。それなのに、そこでのデュナンの 感情が全く見えない。
もっと激しい動揺、心の揺れ動きというものが、あって良さそうなものなのに。
で、デュナンとブリアレオスの関係を軸にして物語を進めていくべきだろうに、そこは脇に追いやって、バイオロイドがどうとか、正規軍 がどうとかいう話になっていく。人間ドラマは全く膨らまない。
さらに、デュナンとギリアムの親子関係まで描こうとする。
欲張りすぎて、完全に話が散らかっている。
デュナンは母のことで泣くより、ブリアレオスのことで泣くべきだろうに。

話が進むに連れて、っていうか序盤からそうなんだけど、ブリアレオスの存在意義が全く感じられないんだよな。
彼がデュナンの恋人だったことも、戦闘サイボーグになったことも、全く意味の無い設定と化している。
終盤になって、ようやくデュナンとブリアレオスの関係にスポットが当てられるが、遅いし薄いよ。
色々な出来事が起きても、色々な奴らと出会っても、常にこの2人の関係がしっかりと軸に太く存在しているべきなんだよ。

「人類と他の種族の対立と共存」というテーマは使い古されているし、そこで新しいアプローチ、意外な切り口で描いているわけでも ないし、今までとは異なる飾りや味付けも無い。既視感に満ち溢れている。
っていうか、隠されていた計画・真実が明らかになっても、今一つ何が言いたいのか良く分からない。
それは言葉が頭に入ってこないからだ。
色々とそれらしい言葉で説明しているんだけどね。
基盤となる部分の設定の説明が不十分だから、そこを前提にした真相の説明をされても、なかなか入ってこないってことだろう。
世界観が掴み切れないまま展開していくことが、話に乗っていけない大きな要因になっている。

(観賞日:2009年12月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会