『青空エール』:2016、日本

白翔高校に入学した小野つばさは、学校へ向かう途中で自分の靴を見下ろす。彼女は緊張の面持ちで、学校へ向かった。クラスの自己紹介が始まると、脇田陽万里や城戸保志が元気に挨拶する。自分の番が来たので、つばさは小声で緊張しながら話し始めた。しかし途中で他の男子たちが大声で喋り出すと、彼女は早々に切り上げてしまった。続いて指名された山田大介は、堂々たる態度で「野球で甲子園へ行く」と宣言した。
放課後、つばさは同じ中学だった陽万里に話し掛けられ、一緒に帰ろうと誘われる。つばさが吹奏楽部へ入る考えを明かすと、陽万里は「大丈夫、ここの吸部って、超厳しいらしいじゃん」と言う。つばさがコンクール金賞のトロフィーが幾つも並ぶ展示場所を眺めていると、隣に大介がやって来た。吸部のトロフィーの隣には、野球部のトロフィーも展示されているのだ。大介はつばさに、小学生の頃に甲子園で白翔高校の試合を観戦し、それで憧れたことを話した。するとつばさは、自分も同じ試合を見ていたことを明かした。観客席で応援する吸部のトランペット奏者を見て、彼女は憧れを抱いたのだ。
大介が「俺、絶対に甲子園へ行くから。スタンドで応援してくれる?約束ね」と言うと、つばさは「はい」と答えた。彼女が音楽室へ行くと、トランペットのパートリーダーを務める春日瞳から全体練習を見学するよう指示される。顧問の杉村容子による厳しい指導とレベルの高い演奏に、つばさは圧倒された。容子はつばさが初心者だと知ると、ゴム風船を渡して膨らませるよう告げる。つばさは全く膨らませることが出来ず、容子は「それを膨らませることが出来るようになってから出直して」と冷たく告げた。つばさは学校を去る時、野球部に入った大介が捕手の練習をする様子を目撃した。家に戻った彼女は、自室で腹筋を始めた。
容子は林原教頭に予算申請書を出し、「幾ら名門とは言え、吸部ばかり湯水のように使われてもねえ」と嫌味を言われる。つばさは容子の前で風船を膨らませ、入部を認められる。城戸はつばさと陽万里に、大介が他の高校から幾つも推薦が来ていたこと、中学の先輩だった碓井航太が引っ張って来たことを話す。瞳はつばさが野球の応援をしたくて入部したと聞き、呆れた様子を見せる。彼女は森優花に、基礎からおしえるよう頼んだ。つばさは自分の楽器を持っていないので、学校のトランペットを使わせてもらうことになった。
つばさは優花に基礎から教えてもらい、音が出ただけでも喜んだ。しかし同じ新入生の水島亜希は、1年生なのにホールメンバーに入っていた。水島はつばさに、「辞めてほしい。レベルの低い人が入ると足を引っ張られる。みんな本気で全国行きたいから白翔に来てる」と告げる。つばさは「約束したから、迷惑掛けないように頑張るから」と言い、自主練習に励んだ。練習で演奏を聴いた水島は彼女の努力を認め、「そのトランペット、音が酷すぎる。買ってもらった方がいい」と口にした。
全員参加の定期公演が行われるが、怖くなったつばさは吹いているフリで誤魔化した。水島は彼女に冷淡な視線を向け、「これからも吹き真似していくつもり?それって、やる意味ある?」と問い掛けた。教室で落ち込んでいたつばさは、大介に怖くて吹けなかったことを語る。「いつも足元ばかり見てた。今度こそ変われるって思ったのに」と彼女が漏らすと、大介は彼女の上履きの先端にペンでスマイルマークを描いた。彼はつばさに、「これで下を見ても大丈夫。俺、小野がやれるって信じてる」と告げた。
つばさはトランペットパートの先輩たちに謝罪し、水島に「ありがとう、ちゃんと怒ってくれて」と告げる。容子が住吉のお祭りの日に練習をオフと決めたので、つばさは吸部の高橋まるこ&栗井佑依と浴衣で遊びに行く。陽万里はつばさを見つけ、大介と城戸の所へ連れて行く。彼女はつばさが大介に惹かれていると気付いており、2人きりにするため城戸を連れて去った。つばさは「めざせ!普門館!」と書いた絵馬を奉納し、コンクールを目指して頑張ることを大介に語った。
野球部が決勝戦に進出したと知り、つばさは喜んだ。決勝戦は吹部も応援に行くことが決まっていた。正捕手の碓井が右肩を痛めたため、大介は決勝でマスクを被るよう指名される。つばさは接骨院から出てくる優花と遭遇し、「ただの腱鞘炎。誰にも言わないで」と頼まれた。決勝戦は0対0で9回表まで進み、大介が2塁打を打つが無得点に終わった。その裏、白翔は2塁打を打たれた後、大介がキャッチャーへのファールフライに飛び付いて1アウトを取る。しかし大介は肩を痛め、低めのボールをこぼした。大介はランナーを3塁で刺そうとするが、悪送球でサヨナラ負けを喫してしまった。
大介が落胆していると、つばさが立ち上がってトランペットを吹いた。亜希が彼女を制止し、容子は団体行動の自覚を持つよう叱責した。大介は碓井から野球日誌や手袋を託され、「お前は後輩を甲子園へ連れてってやれよ」と言われる。彼はつばさが謹慎処分を受けたと知り、彼女の元へ心配して会いに行く。「俺、もっと強くなって、小野1人に吹かせるようなこと、もう絶対にしないから。友達に、そんなことさせないから」と彼が言うと、つばさは「友達」という言葉に寂しさを感じた。
つばさが「友達じゃなくて、好きって言ったら困る?」と口にすると、大介は戸惑いながら「今は野球に集中したい。だから小野とは付き合えない」と述べた。瞳は優花の腱鞘炎を知り、「治るまでメンバーには戻さない」と告げた。1ヶ月後のコンクールに間に合わないことは確実で、優花は「それなら辞める」と告げて部活に出て来なくなった。つばさは毎日、彼女のマンションに押し掛けた。最初は母親に帰るよう言ってもらっていた優花だが、つばさの訪問が続くのに耐えかねて「何なの?」と怒鳴った。つばさは「部活に来てください。先輩にいてほしいんです」と言い、優花が罵って「もう来るな」と怒鳴っても「また来ます」と諦めなかった。
つばさに同調した部員たちも、一緒に優花のマンションへ赴いた。しかし優花は部屋に閉じ篭もり、彼女たちに呼び掛けに応じない。そこへ瞳が現れてドアを激しくノックし、「みんなアンタを必要としてるのに、なんで分からないの。出て来い」と言う。彼女は泣きながら、「1年の時、一緒に普門館へ行くって約束したじゃんか。みんなアンタと行きたいんだ」と語る。つばさも泣きながら、部活にきてほしいと訴えた。
全国吹奏楽コンクール北海道大会の当日、優花は会場に現れた。彼女は瞳たちに、「心配掛けてごめん。客席で、ちゃんと見届ける」と告げた。彼女は客席でつばさの隣に座り、謝罪した。つばさは優花に、「いつか私も、あのステージに立ちたいです」と言う。コンクールの結果は銀賞で、白翔は全国大会への出場を逃した。瞳が「全国へ連れていけなくてごめん」と泣くと、優花は「そのごめんは要らない。ありがとう」と涙をこぼした。その様子を見たつばさが泣いていると、容子は「泣いていいのは、3年間、全てを懸けてきた人だけ。先輩たちの涙を、ちゃんと焼き付けなさい」と告げた。つばさは大介に会い、「大介くんが強くなりたいって言ってた意味、やっと分かった。私、強くなるね。だから、これからも大介くんのこと、応援していいかな?」と問い掛ける。大介は「うん」と言い、同じ場所を目指す同志としての握手を求めた。
2年後。つばさと大介は3年生になり、クラスは別々になった。2年の時に吹部は地区大会の銀賞、野球部は準優勝だったため、まだ2人は目標を達成できずにいた。容子はコンクールで演奏する自由曲として、初めて白翔が全国に出て一金を獲った時の曲を選んだ。それは白翔の象徴とも言うべき曲であり、水島はつばさに「絶対に全国は外せない」という覚悟が必要だと語る。しかし水島はクラリネット担当の三石静香たちから、「金管が足を引っ張っている」と責められる。部長の水島は責任を感じ、1年生部員である瀬名俊行に厳しく当たる。つばさが「追い詰め過ぎじゃない?」と言うと、彼は「人のこと心配してる場合じゃないでしょ」と告げた。
つばさは瀬名の個人練習に付き合い、先輩として優しく指導した。ホール練習のメンバーが発表され、瀬名は選ばれるがつばさは外れた。ショックを受けるつばさに追い打ちを掛けるように、城戸は大介が紅白戦で怪我をしたことを教える。つばさが病院へ行くと、右脚を骨折した大介はリハビリを始めていた。つばさはメンバーから外されたことを明かせず、「大介くんだったら、すぐ部活に戻れるよ」と励ます。病院を去ろうとした彼女は、野球部マネージャーの澤あかねから「怪我で弱ってる時に、適当な気休め言わないで。先輩のこと好きなら、そってしてあげてください」と責められる。つばさが「誤解してる。とっくに振られてるから。友達として応援するのもダメかな」と口にすると、あかねは「友達だったら、なおさら放っといてください」と告げた。
城戸はつばさと陽万里に、大介が夏には間に合わないかもしれないと明かす。つばさは容子に、「どうしたら、もっと上手くなれますか」と質問する。容子は彼女に個人指導し、大事なのは練習の内容だと説いた。つばさが居残り練習する様子を、大介は目撃した。静香たちはホールメンバーでもないつばさに容子が付きっきりで指導したり放課後も教室を使ったりしていることについて、不公平という声があることを告げる。つばさが困っていると、水島は「そんなくだらないこと話し合って、演奏が良くなるわけ?」と声を荒らげた。
水島は容子に、「僕に部長は無理です。みんなをまとめる力が無い」と漏らした。すると容子は「一心不乱」と書かれた旗を示し、全国の常連だった吹部が銀賞だった自分たちの代が「本当に全力を尽くしたのか」という思いで作った物だと話す。彼女は水島に、「部長だけが部をまとめてるわけじゃない。みんなの思いは同等」と告げた。大介は医師から「思ったより経過が良くない。夏までに復帰できる可能性はゼロに近い」と言われ、ショックを受けた。つばさはあかねから話を聞き、雨のグラウンドで立ち尽くす大介の元へ向かう。すると大介は、「ごめん。やっぱ俺、小野との約束守れない」と口にした…。

監督は三木孝浩、原作は『青空エール』河原和音(集英社マーガレットコミックス刊)、脚本は持地佑季子、製作は市川南、共同製作は村田嘉邦&市村友一&柴田康之(東末吉史は間違い)&弓矢政法&木下暢起&吉川英作&高橋誠&林誠&堀義貴&青井浩&山本浩&荒波修、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは臼井央&春名慶、プロデューサーは川田尚広&石黒裕亮、プロダクション統括は佐藤毅、撮影は清久素延、美術は花谷秀文、録音は豊田真一、照明は小笠原篤志、編集は坂東直哉、音楽は林ゆうき、音楽プロデューサーは北原京子。
主題歌『キセキ〜未来へ〜』唄:whiteeeen、作詞:GReeeeN、作曲:GReeeeN、編曲:JIN。
出演は土屋太鳳、竹内涼真、上野樹里、志田未来、葉山奨之、堀井新太、小島藤子、松井愛莉、平祐奈、山田裕貴、佐戸井けん太、松本穂香、渡辺佑太朗、福山翔大、黒瀬サラ、岩崎愛、榮林桃伽、奥咲姫、三上紗弥、佐藤奈織美、小林凌磨、舟津大地、崎山凛、粟島瑞丸、野間口徹、安澤千草、クノ真季子、日比大介、俵木藤汰、小林喜日、羽野真央、淺野京介、渡邊恵理、柿崎鮎美、小椋麻衣、梅津美希、野元真佳、栗島聖奈、橋本佳奈、工藤優、池田恵理、岡田柚葉、緒方若葉、カメロ フェルナンダ、佐伯真由華、酢谷有紀子、園田望、津村峻矢、八谷花梨、村野里菜、山中萌、青柳智暁、河合匠、北村耕佑、近藤晃充、サンギニ アリ、鈴木健斗、竹内雅人、田村杏太郎、芳賀祐太、原健太、深尾久徳、山元祥真ら。


河原和音の同名漫画を基にした作品。
監督は『ホットロード』『アオハライド』の三木孝浩。
脚本は『管制塔』『くちびるに歌を』で三木孝浩と組んでいる持地佑季子。
つばさを土屋太鳳、大介を竹内涼真、容子を上野樹里、優花を志田未来、水島を葉山奨之、城戸を堀井新太、瞳を小島藤子、陽万里を松井愛莉、あかねを平祐奈、碓井を山田裕貴、静香を松本穂香、瀬名を渡辺佑太朗、神崎を福山翔大、まるこを黒瀬サラ、佑依を岩崎愛が演じている。

冒頭の自己紹介シーン、つばさが話し始めてもクラスメイトが誰も見ておらず、無視して口々に話しているのは不自然だ。他の生徒の時はちゃんと聞いているのに、なぜ彼女の時は無視なのか。イジメの対象ならともかく、違うんだし。
しかも、喋っているのは土屋太鳳だぞ。少なくとも男子の大半は注目するだろ。
あと、普通は自己紹介って五十音順、もしくは座席順で進めるモノじゃないのか。それを考えると、「脇田」陽万里や「城戸」保志が「小野」つばさより先に自己紹介しているのは変でしょ。
その次が「山田」大介ってのも変だし。座席の順番で考えても、その並びは辻褄が合わないし。

つばさは陽万里から中学で吹奏楽部に入っていなかったことを指摘されると、「やりたかったんだけど」と口にする。
だが、その流れで入部しなかった理由を説明することは無い。物語が進む中で、「実はこういう理由で入部しなかった」と明かされることも無い。
たぶん、単純に「内気だから入部を躊躇した」ってことなんだろうとは思う。
だけど、白翔ではオドオドしつつも入部を志願しているからね。そこは、まだ大介との約束が影響していない段階だし。

大体さ、つばさは小学生の頃から、ずっと白翔の吹奏楽部に憧れを抱いていたんでしょ。だったら、どれだけレベルが高いのか、どれだけ名門なのかは分かっているはずだ。
それなのに、全くトランペットを吹けない初心者として入部しようとするって、どんだけ無謀なのかと。
白翔の吹奏楽部が好きなら、ちゃんと情報を集めていたはずだよね。
練習が厳しいことや、大半の新入生は推薦で入って来ることなんかを知らなかったのか。だとしたら、憧れていたにしては準備不足が甚だしいぞ。

つばさは容子から出直すよう言われた後、自宅で腹筋する様子がチラッとだけ写る。次に彼女が登場すると、もう風船を膨らませることが出来るようになっている。
ひょっとすると「何日か経過して」ということなのかもしれないが、映画を見ていると翌日のようにも思える。
なので、「ちょっと腹筋しただけで、あっという間に風船を膨らませるようになったのか」と感じる。類まれなるセンスがあったという設定ならともかく、そうじゃないので「簡単なのね」と言いたくなる。
そこに長い時間を割いていられないのは分かるけど、もうちょっと「必死で努力した」ってのが分かるように表現できなかったものかと。

水島の「辞めてほしい。レベルの低い人が入ると足を引っ張られる。みんな本気で全国行きたいから白翔に来てる」という言葉は、口調は冷淡だけど、そこまで酷いことを言っているとも思えない。
「応援がしたいとか、軽い気持ちでウチに入られると迷惑だ」と彼は言うけど、それって事実なんだよね。
白翔の吹部はコンクールでの優勝を目指しており、野球部の応援は重要な目的ではない。
コンクールに優勝するため、必死の思いで努力するのだ。

そもそも、つばさが「甲子園で応援したい」という目的を持っているのなら、白翔である必要性は高くない。
野球部は甲子園に出られそうな強豪で、そこまでレベルの高くない吹部のある高校を狙えばいい。
もしも「白翔の応援演奏に心を奪われた」ってことなら、「甲子園で応援すること」に目的が限定されるのは不可解だ。
白翔の吹部に憧れを抱いたら、他の演奏も様々な媒体でチェックしているはず。そして、「白翔の吹部で演奏すること」自体に憧れを抱くはずだからだ。

つばさが「いつもいつも足元ばかり見てた。今度こそ変われるって思ったのに」と漏らすと、大介は上履きにスマイルマークを描いて「これで下を見ても大丈夫」と言う。
それが元気付けるための行動なのは分かるけど、そんなの教師に見つかったら絶対に注意されるだろ。その時に、つばさが上手く釈明できるとは到底思えないし、彼女に迷惑を掛けることに繋がるんじゃないか。
あと、それは1年生の時に描いているのに、3年生になってもクッキリとマークが残っているのよね。どんだけ耐久性のあるペンを使ったのかと。普通は汚れたり洗ったりして、薄くなっていくだろ。
あと、つばさは3年間、ずっと同じ上履きを使い続けたのかよ。

つばさが部室で優花と一緒にトランペットを構えるシーンや、風呂場でマウスピースを吹くシーンは、「練習を積んでいる」という描写として理解できる。だけど、登校した時に靴箱の前でメモを見ながらブツブツと何か呟いているのは、どういうシーンなのか。
メロディーや指使いを暗記しているってことなのかもしれないけど、その段階にはまだ達していないんじゃないかと。
まだマトモな音も出せないレベルなのに。色んなパターンで「つばさが頑張っている」ってのを見せたいのは分かるけど、「他の人の何倍もの練習。血の滲むような努力」みたいなのは全く感じない。
つばさの演奏レベルが低いのは、練習量が足りていないんじゃないかと思ってしまう。

時間の都合で仕方がないんだろうけど、少女漫画の実写映画作品が陥りがちな「段取りの消化に精一杯で慌ただしくなる」という状態になっている。
例えば、水島がつばさに「辞めてほしい」と言ってから、一定の評価を示して楽器の購入を勧めるまでに約3分。そこから彼が定演での吹き真似を咎めるまで、また約3分。
それは、あまりにも性急だ。
これが「つばさと水島の関係を軸にした話なら、そこを密に描くことには意味があるので、まだ分からんでもない。だけど、そうじゃないのでデメリットしか無い。

つばさは祭りの絵馬に「めざせ!普門館!」と書いているが、実際に彼女が「コンクールのために」という目的へ向かっているようには全く思えない。
あと、吹部がコンクールを目指すのと、野球部が甲子園を目指すのって、まるで関係が無いのよね。
「つばさと大介が互いに切磋琢磨して」ってことで共鳴する話にはなっていない。
なぜなら、この2人を結び付けているのは「大介が野球部で甲子園へ行き、つばさが吹部で応援する」ということだからだ。

容子は練習のオフを告げる直前、「来月からは野球部の大会があって、決勝に進めばウチも応援に参加することになるから」と説明する。そこから祭りのシーンを経ると、つばさが「野球部は準決勝に勝った」という知らせを聞いている。
そこも慌ただしさを感じる。
恐ろしいことに、そこまでに野球部のシーンは「大介が捕球の練習をしている」ってのがチラッと写っただけだ。1年生だから控え捕手だろうとは思うけど、それさえも明確になっていない。準決勝の後に「決勝で先発」と指名された時、初めて控えなのが明らかになる。
っていうか、つばさは野球部の決勝進出を知って喜んでいるけど、仮に優勝したとしても、大介が控え捕手のままだと甲子園ではプレーできないんだぞ。
「甲子園で野球部を応援する」というつばさの夢は叶うかもしれないけど、大介との約束は果たせないぞ。

決勝戦のシーンでも、9回表からしか見せない。
なので、「初めて公式戦でマスクを被る大介が試合前に緊張している」とか、「最初はミスもあったが次第に慣れていく」とか、そういう様子は全く描かれない。「つばさが大介の先発マスクを知って驚く」とか、「大介のプレーの1つ1つに興奮したり緊張したりする」といった様子も描かれない。
ここも時間の都合で、大幅に省略されていると感じる。
これが連続ドラマだったら、その試合だけで1話分を使ってもいいぐらいなのに、ものすごく淡白で薄っぺらくなっている。

大介のエラーでサヨナラ負けを喫した途端、つばさは立ち上がってトランペットを吹く。
これを「感動的なシーン」のように描いているが、ただの迷惑で身勝手な行為だ。相手チームに対して失礼極まりないし、高校野球に対する侮辱と言ってもいい。
まだ「野球部が頑張っていたのを知っているので、どうしても元気付けたくなったから」ってことなら、情状酌量の余地はある。しかし、つばさが吹いた理由は、容子の「好きな子でもいたの?」という指摘が正解なのだ。
「好きな相手が落ち込んでいたから、元気付けたくて勝手な行動を取った」ということなので、擁護できる要素が何も無い。

その後、つばさはさらに身勝手で不快感の強い行動を取る。優花が吹部を辞めると言って練習に来なくなると、毎日押し掛けて部活に戻るよう求めるのだ。
優花の「アンタはいつも、そうやって綺麗事ばっかね」という非難は、その通りだと感じる。
そもそも、優花は腱鞘炎が治るまで練習に参加できないのだ。なので、「吹部を辞めないでほしい」と頼むなら分からんでもないが、「部活に来てほしい」ってのは残酷なだけだ。
おまけに、来てほしいと訴える理由は、「一緒にしてほしい」ってことなのだ。相手を思いやる気持ちとか、そういうのは全く無いのだ。
「しばらくは放っておいてやれよ。お節介が酷すぎるだろ」と言いたくなるわ。

厄介なことに、つばさだけでなく他の部員たちも優花の家へ押し掛け、さらには瞳までやって来る。
そこを感動的なシーンとして見せたいみたいだけど、瞳に対して「いやテメエがメンバーから外したから優花が落ち込んでいるんじゃねえか」と言いたくなる。「みんなが必要としてるのに、なんで分からないの」って、どの口が言うのかと。
瞳は「1年の時、一緒に普門館へ行くって約束したじゃんか」と言うけど、メンバーから外しておいて何を言ってんのかと。
「メンバーからは外れても部員ではあるから、一緒に行くことになる」ってことで納得しろと言いたいのか。本人がそう解釈して受け入れるならいいけど、メンバーから外した奴が発するべき言葉じゃねえわ。

吹部がコンクールで銀賞になり、つばさと大介が同志として握手した直後、なんと2年後へ飛んでしまう。
時間の都合で様々な箇所に省略があるが、ここが最も大きな省略であり、そして最も大きな欠点でもある。
これが中学2年から高校1年とか、高校3年から大学2年とか、進学を挟む2年の経過なら、それほど大きな問題は起きにくい(この作品では全く関係ないけど)。途中で転校する設定でも大丈夫だ。
だけど、同じ高校で1年から3年に飛ぶってのは、普通なら「これはダメな省略だな」と考えて避ける方法だ。

そこを飛ばしたせいで、「どちらも2年では全国へ行けなかった」ってことも省略されている。
っていうか思うんだけど、それなら3年に飛ぶよりも「2年生に進級して目標達成を目指す」ってことでいいんじゃないのか。3年生として描いている内容を2年生にしても、そこまで大きな問題は無いんじゃないか。
大介が2年でレギュラーを取るのも、そんなに珍しくはない。そもそも彼は碓井から、「お前は後輩を甲子園へ」と託されているんだし。
つばさにしても、「努力したから2年でホールメンバーに入れた」ってことにすればいい。
容子が「泣いていいのは、3年間、全てを懸けてきた人だけ」と言っているので、「3年間の努力の成果」ってことで見せるために3年生の設定にしたのかもしれない。だけど、どうせ2年生を省略したから「3年間の努力」は全く伝わらないし。

大介の怪我を知ったつばさが医療センターへ行くと、もうギプスを装着してリハビリを開始している。
治療が早すぎるだろ。
「怪我の情報を知ったのと見舞いに行ったのは、別の日だったりするのか。だとしても、全く伝わらんぞ。
あと、なぜリハビリ室に大介しかいないのか。せめて1人はスタッフが付いていないと危ないだろ。
「つばさと大介が抱き合って、会話を交わして」という段取りを消化するために、無理しまくっているのよ。

つばさから「どうしたら上手くなりますか」と質問された容子がアドバイスするのは分かるけど、個人指導ってのは顧問として問題があるだろ。ちょっと教える程度じゃなくて、どうやら何日も続けて熱心に個人指導している感じなのよね。
それが許されるなら、個人指導してほしい部員は何人もいると思うぞ。
まだ「飛び抜けて才能があるので伸ばすために個人指導」ってことなら分からんでもないけど、むしろ能力の低い部員だし、その特別扱いはマズいでしょ。
静香たちの批判は「愚かで間違った行為」みたいに描かれているけど、当然のことだと思うぞ。

つばさは大介が落ち込んでいることを知り、吹部の面々に「一緒に病院へ行って演奏してほしい」と頼む。
1年生の時に野球場で勝手に演奏して叱られたのに、まるで反省してないじゃねえか。
水島は「誰かの心を動かす力を与える、そういう吹部をもう一度、みんなで取り戻したい」と彼女の味方をするんだけど、そこの意識が全く違うのよ。
つばさが「苦しんでいる人を放っておけない。頑張っている人を応援したくなる性分」ってことなら分かるのよ。だけど彼女が一緒に演奏してくれと頼むのは、その対象が惚れた相手だからなのよ。
静香の「貴方のワガママに吹部を巻き込まないで」という批判は、もっともだぞ。

野球部は地区大会の決勝戦に臨むが、大介は怪我の影響で先発を外れる。0対0で試合は進むが、9回表に1点を先制されてピンチが続く。ここでタイムが掛けられ、アナウンサーは城戸の球威やコントロールが疲労で明らかに落ちていることを指摘する。
ところが、ここで白翔は捕手を大介に交代させるのだ。
いやいや、交代させるのなら、絶対に城戸だろ。そこで捕手を交代させるって、どんなボンクラ監督だよ(っていうか監督は存在するけど、全く存在感が無いな)。
結果としてピンチを凌ぐけど、そこで大介を投入するぐらいなら最初から使えよ。まるで怪我の影響を感じさせないプレーを見せるんだし。彼を途中で投入するなら、どう考えても9回裏の代打でしょ。
そんで大介は9回裏にサヨナラ本塁打を打つんだけど、つばさの応援とか全く関係ないのよね。

野球部の決勝戦がクライマックスになっているが、まだ吹部のコンクールは終わっていない。
どうするのかと思ったら、エンドロールの途中でコンクールの様子がチラッと写し出される。
ただし吹部が演奏するシーンは、バッサリとカットされている。最後の最後で「つばさたちがゴールド金賞を獲得して大喜びする」という様子だけが写し出される。
でも、そういう見せ方だと、こっちの心に響くモノなど微塵もありゃしないぞ。

(観賞日:2018年8月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会