『アオハライド』:2014、日本

高校生の吉岡双葉は恋より友情派だと自称し、友人たちには「恋愛経験なんて無い」と言っている。しかし、それは真っ赤な嘘だった。そんな中、廊下でぶつかった転校生の男子は、13歳の頃に好きだった田中洸の面影を感じさせた。慌てて追い掛けた双葉だが、別の男子が「馬渕」と呼び掛けるのを見て、すぐに姿を隠した。しかし洸に似ていると感じた双葉は彼のことが気になり、下校する時に尾行した。声を掛けた双葉は、やはり彼が洸だと知った。
洸は親が離婚したこと、ずっと長崎で暮らしていたことを話す。双葉が何となく恥ずかしがっていると、彼は「田中洸は、もういないよ」と静かに告げて立ち去った。以前と大きく異なる洸の態度に、双葉は戸惑いを隠せなかった。中学1年の頃、双葉と洸は互いに意識し合うクラスメイトだった。夏休み、双葉は洸から祭りに誘われ、指定された待ち合わせ場所へ赴いた。しかし約束の時間になっても、洸は姿を見せなかった。新学期が始まっても、洸は学校に来なかった。
洸と再会した翌日、昼休みの売店でパンを購入した双葉は、従業員から代金の支払いを求められる。双葉は支払ったことを話すが信じてもらえず、友人たちも「さっさと払って謝ったら」と擁護してくれない。近くで見ていたクラスメイトの槙田悠里が声を発しようとしたところへ洸が現れ、「ちゃんと払ったよ」と双葉をフォローした。同級生の村尾修子が「私も見た」と口にして、洸の友人である小湊亜耶も「俺も見た」と続いた。従業員は同僚が来て「さっき貰ったよ」と言うと、「紛らわしい、じゃあ行っていいわ」と告げる。
双葉の友人たちは途端に態度を変え、従業員を批判する。洸は「それは違うだろ」と指摘し、従業員には謝罪するよう求めた。双葉は洸を追い掛けて礼を言うが、嫌味っぽい態度で「あんなの友達ごっこじゃん。くだらない」と冷たく告げられる。双葉が昼食を取っていると、悠里が来て「さっきはごめんなさい。一番近くで見てたのに」と謝った。友人たちが彼女の悪口を言い出したので、洸の言葉を思い出した双葉は思わず批判した。友人たちに去られた後、双葉は洸から声を掛けられた。双葉は洸が去ってから中学で一人ぼっちだったこと、高校では自分に嘘をついて友達付き合いをしていたことを語った。双葉が泣き出すと、洸は彼女を抱き寄せて優しい言葉を掛けた。
ある日、学校行事の企画を担当するイベントリーダーを決めることになり、合同リーダー研修の指導を担当する教師の田中陽一が2組へ説明に来る。立候補する生徒が現れない中、「まだ何も始めてない」という洸の言葉を思い出した双葉は手を挙げた。すると続いて悠里、修子も立候補した。修子に惚れた亜耶は挙手し、洸も巻き込んだ。合同リーダー研修合宿が始まると、亜耶は修子に積極的な態度を取る。修子は全く相手にせず、陽一にアプローチするが、軽く受け流された。
双葉が作業を誰にも手伝ってもらえずに苦労していると、6組の菊池冬馬が助けてくれた。学校行事の意義について考えを発表する時間になるが、双葉は他の面々の協力が得られなかったため、何も思い付かなかった。陽一は2組のメンバーに、みんなで考えて研修が終わるまでに再提出するよう指示した。双葉は徹夜で文章を考え、いつの間にか眠り込んでしまった。双葉を見つけた洸は、そっと上着を掛けてやった。明け方に目を覚ました双葉は、一人で佇んでいる洸を見つけて話し掛けた。双葉が考えた「楽しい思い出作り」という意義について、洸は「いいと思うよ」と感想を述べた。
それぞれ意義を考えていた修子、亜耶、悠里は双葉と洸を見つけ、全員で朝日を眺めた。合宿を経て、リーダー会には亜耶の決めた「用が無くても週に一度は集合する」というルールが定められた。双葉は悠里から洸が好きになったと告白され、激しく動揺する。「何となく、双葉ちゃんも好きなのかなって思って」と言われた彼女は、「無い無い。中学一緒だっただけで」と否定する。しかし洸への気持ちを隠しておくことが出来ず、すぐに「ごめん、私も洸が好き」と修子も同席する前で悠里に打ち明けた。すると悠里は「やっぱり双葉ちゃんもか」と笑い、「どっちが上手く行っても恨みっこ無しね」と口にした。トイレに駆け込んだ悠里は涙を浮かべるが、戻って来ると平静を装った。その様子を見ていた修子は、陽一に惹かれていることを話した。
双葉は洸に「ちゃんと今の洸を知りたい。長崎であったことも」と言い、質問攻めにする。すると洸は疎ましそうに、「お前に関係ないだろ。頼むから、これ以上は他人の領域に踏み込んで来るな」と告げた。夏休みに入ってリーダー会が集まっても、洸は姿を見せなかった。気になった双葉が家を訪ねると洸は不在で、陽一が現れた。驚く双葉に、陽一は洸が弟だと打ち明けた。陽一は両親が離婚して洸が母親と長崎へ行ったこと、1年前に母親が病死して戻って来たことを語る。
洸は母に何もしてやれなかった自分の無力さが許せず、何かに夢中になったり笑ったりすることを避けるようになったのだった。そのことを陽一から聞かされた双葉は、夜の街で洸を見つけ出した。洸が歩きながら自分の気持ちを吐露すると、双葉は「大事な物を無くすのが怖くて、みんなを遠ざけているなら無駄よ。だって私たちにとって洸は、すっごく大事な存在になってるから」と言う。真っ直ぐな目で訴えた彼女を、洸は強く抱き締めた。
夏祭りのポスターを見つけた双葉に、洸は4年前と同じ時間、同じ場所で会う約束をする。しかし当日、また洸は現れず、双葉が電話をすると「どうしても外せない用が出来た」と告げる。電話の向こうからは長崎弁の女性の声が聞こえ、その日から洸とは連絡が取れなくなった。不安な気持ちのまま二学期を迎えた双葉は、教室に洸の姿を見つけて安堵する。しかし洸は携帯で誰かとメールをしてばかりで、リーダー会にも全く参加しなかった。
双葉は悠里から、夏休みに告白して洸に振られたことを明かされた。その時に「ほっとけない奴がいる」と話していたことも、彼女は教えてくれた。ファーストフード店で洸を見つけた双葉は声を掛け、「長崎の同級生が色々あって、良く連絡が来るんだ」と聞かされる。洸は「夏祭りの埋め合わせ、今からする?」と誘うが、そこへ長崎から電話が入ったので「また今度な」と彼は立ち去った。双葉が落ち込んでいると、様子を見ていた冬馬が話し掛けて来た。「大丈夫?彼氏、出て行ったけど」と言われた双葉が「彼氏じゃないよ」と否定すると、冬馬は嬉しそうな表情を浮かべる。洸は中学時代の同級生である成海唯から、「お母さんと暮らすようになったとよ。そっちに行くことになったけん、また会えるね」と告げられた。唯は話を続けようとするが、洸は双葉の元へ戻ろうとする。しかし双葉が冬馬と話す様子を見て、店には戻らずに去った。
学園祭で2組はカフェを出し、女は執事姿、男はメイド姿で働く。そこへ唯が来たので、洸は双葉や修子たちに紹介した。双葉が動揺しているところへ冬馬が現れ、「即席バンドなんだけど」とライブに誘った。双葉がライブ会場に来ると、冬馬は喜んで思わず呼び掛けた。洸は双葉を見つけると、唯と別れて彼女に歩み寄る。亜耶がぶつかった弾みで、洸と双葉の唇は重なった。双葉が突き飛ばして立ち去ると、洸は後を追って「あんなの気にするなよ、事故なんだし」と言う。双葉が悲しくなって「あんなの無意味、お互い何の意思も無い」と漏らすと、洸は「じゃあ、事故じゃなきゃいいの?」と問い掛ける。「嫌なら逃げればいい」と彼は言い、双葉にキスをした。
洸は夏祭りの一件を謝罪し、唯の父親のお通夜だったのだと釈明した。「特別な人なの?」と問われた彼は、「友達。でも俺、あいつの気持ち、誰よりも分かるから」と答えた。そこへ陽一から電話が入り、洸は唯が家出して来たことを知る。唯の母親には新しい家族がいて、同居を拒絶されていたのだ。唯が警察に保護されたと知った洸は、慌てて迎えに行く。唯は泣いて洸に抱き付く様子を、追い掛けて来た双葉が見ていた。その日から、洸は学校に現れなくなった。亜耶は双葉たちに、洸が唯の傍にいることを話す。双葉は「私は洸の笑顔を取り戻したい」と言い、唯の元を訪れて「洸を解放してあげてほしい」と頼む。しかし「ウチには洸ちゃんしかおらんけん。そのためなら何でもする」と強気に言われ、双葉は落ち込んで立ち去る…。

監督は三木孝浩、原作は咲坂伊緒『アオハライド』(集英社『別冊マーガレット』連載)、脚本は吉田智子、製作は市川南、共同製作は岩田天植&渡辺直樹&弓矢政法&吉川英作&高橋誠&宮本直人、エグゼクティブプロデューサーは山内章弘、企画プロデュースは臼井央&春名慶、プロデューサーは川田尚広&大西孝幸、プロダクション統括は佐藤毅、撮影は山田康介、美術は花谷秀文、録音は豊田真一、照明は川邉隆之、編集は坂東直哉、音楽は林ゆうき。
主題歌『キラリ』いきものがかり 作詞・作曲:水野良樹、編曲:本間昭光。
出演は本田翼、東出昌大、新川優愛、吉沢亮、藤本泉、高畑充希、千葉雄大、小柳友、岡江久美子、ベンガル、原扶貴子、渡辺道子、佐藤真弓、津村知与支、野間口徹、岩崎名美、松島純菜、松尾薫、濱田和馬、小林辰也、松島広太郎、田爪愛里、板垣璃生、柴田杏花、出倉俊輔、田邊敦、鈴木鐡太郎、高實子美歩、黒柳友里、里内伽奈、真辺幸星、内藤治、植田恭平、片貝樹、河内美澪、岡田夏海、大谷誠、永沼貴士、宮本卓幸、荒栄亮太、高畠宗久、川向輝弥、西島史祥、福島瑛里、宮島愛夏、清水優実、平居進、水田早紀、馬場杏子、穴場素波、古藤勇魚、西方望祐、出村匡輝、本間奈々、吉村結希ら。


『別冊マーガレット』で連載された咲坂伊緒の同名漫画を基にした作品。
監督は『陽だまりの彼女』『ホットロード』の三木孝浩、脚本は『奇跡のリンゴ』『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の吉田智子。この両名は『僕等がいた』前後篇でも組んでいたコンビだ。
双葉を本田翼、洸を東出昌大、修子を新川優愛、亜耶を吉沢亮、悠里を藤本泉、唯を高畑充希、冬馬を千葉雄大、陽一を小柳友、洸と陽一の母親を岡江久美子、神父をベンガルが演じている。

この映画の難点はハッキリしていて、それは「主演の2人がミスキャスト」ってことだ。
撮影当時、本田翼は22歳で東出昌大は26歳。
年齢を出した時点で何が言いたいか分かる人も多いだろうけど、ようするに「高校生としては年を取り過ぎちゃいませんか」ってことだ。
とは言え、問題は「高校生に見えるかどうか」ってことだ。実年齢が離れていても、高校生に見えれば何の問題も無い。
もう少し細かく説明するならば、「実際の高校生に見えるかどうか」ではなく、「映画の中の高校生役に合っているかどうか」である。

例えば『岸和田少年愚連隊』シリーズでは、ナインティナインや千原兄弟が中学生の役で出演していた。その番外編である『カオルちゃん最強伝説』シリーズでは、竹内力が中学生役で出演していた。
わざわざ言うまでもないだろうが、もちろん彼らが中学生を演じるのは当時であっても絶対に無理がある。
しかし、それらのシリーズでは、「中学生にしては年を取り過ぎている」なんてことは問題じゃなかった。
あのシリーズは、それで成立する世界観やテイストだったのだ。

『クローズZERO』シリーズでも、似たようなことが言える。
あのシリーズでは小栗旬や山田孝之が高校生役を演じており、もちろん実際の高校生からは年齢が大きく離れている。しかし、そのことは全く気にならなかった。
こうやって並べてみると、基本的に「不良」であれば、実年齢が役柄より上であっても大きな影響は無いようだ。
そもそも不良って実年齢より老けて見える人も少なくないけど、それよりも「ファンタジー」として受け入れられるってことが大きいんだろう。

さて本作品に戻るが、これは青春恋愛物語だ。高校生の瑞々しさやピュアな部分を、強く打ち出さなきゃいけないような作品だ。
少女漫画が原作なので、ある意味では「ファンタジー」と捉えられなくもない。しかし、それは『岸和田少年愚連隊』や『クローズZERO』の持つファンタジーとは全く質が異なる。
それは「年齢を完全に無視できる」という類のファンタジーではない。
この映画の場合、やはり高校生らしい「若々しさ」や「キラキラ感」のあるキャスティングが望まれる。

それを考えた時に、本田翼と東出昌大はコレジャナイ感が強すぎる。どっちの学生服姿も、ただのコスプレにしか見えない。
本田翼は可愛いけれど、それは「学生のコスプレをした本田翼」としての可愛さだ。どう頑張っても、高校生には到底見えない。
もっと酷いのが東出昌大で、誰のセンスでキャスティングが決まったのかと言いたくなる。
原作ファンじゃない私でさえ、「こいつは洸じゃないだろ」と断言できる。
あまりにもモッサリしていて、ちっとも若々しさや瑞々しさが感じられない。

映画の序盤、「中学1年の時に洸のことが好きだった双葉は、高校で久しぶりに再会した彼が昔と大きく変わっているので戸惑う」という展開がある。
そこで双葉が戸惑うのは、「内面が別人のようになっていたから」ってのが理由だ。
しかし、洸を東出昌大が演じていることによって、「すっかり老けて外見が別人のようになってしまった」ということへの戸惑いじゃないのかと言いたくなる。
ちなみに学年では1つ下の小柳友が兄貴役を演じているけど、東出昌大の見た目が若いわけではないので、「兄弟」としては違和感が拭えない。そこの配役にも問題があるんだよな。
修子が陽一に惹かれていることに嫉妬した亜耶が「オヤジに惹かれる女の気持ちが分かんない」と言うシーンがあるけど、オヤジ扱いされる小柳友よりも東出昌大の方が年上なのよね。

東出昌大は2012年の『桐島、部活やめるってよ』が役者デビューだが、その時も高校生役だった。その時点で既に高校生としては実年齢が離れていたが、あの映画では全く問題が無かった。
それは、役柄が「若々しさ」を求められるキャラではなかったし、映画のテイストにも合っていたからだ。
この映画でも、例えば千葉雄大は何の問題も無い。年齢からすると高校生から大きく離れているが、原作ファンからも「彼しかいない」と望まれていたぐらいだから、まあ見事なぐらいにハマっている。
ようするに、年齢だけの問題ではなくて、「本田翼と東出昌大だからミスキャスト」ってことなのだ。

それでも演技力の部分で健闘していれば、リカバリーできたかもしれない。しかし残念なことに、本田翼も東出昌大も芝居が上手いとは言えないのだ。
どっちかの演技力が高ければ、2人が絡むシーンでは引っ張っていくことが出来たかもしれない。しかし、どっちも上手くないので、どうにもならない。つまりミスキャストというだけでなく、力不足という問題も抱えているわけだ。
ただし、それほど演技力が高くなかったとしても、「高校生らしい瑞々しさや若々しさ」を充分に放つことが出来ていれば、それが観客の許容範囲を広げることに繋がることもある。そういう意味でも、キャスティングのダメージは相当に痛かったと言わざるを得ない。
原作のイメージとは合致しないだろうけど、いっそのこと双葉を新川優愛、洸を吉沢亮で良くねえかと思っちゃうほどだ。

ここまで脚本と演出には全く触れていないけど、とにかくメイン2人によって生じた負債がデカすぎるのだ。
ただし脚本と演出も、手放しで称賛できるわけではない。
そりゃあ配役の問題からすると比較にならないぐらいマシだけど、難点は少なくない。
例えば序盤、晴れていたのに雨が急に降り出すシーンは、「双葉が過去を回想する」というトコへ繋げるための手順なんだけど、あまりにも嘘臭くて陳腐に見えてしまう。

限られた時間の中で、複数の主要キャラを動かさなきゃいけないという事情があるのは分かる。
ただ、学食のエピソードで双葉と洸だけじゃなくて修子と亜耶と悠里を絡ませ、修子に至っては初登場ってのは、上手い処理とは言えない。
そこは「ぶっきらぼうになったけど、洸の優しさは変わらない」ってことを示すのが何より重要なわけだから、その2人だけでもいいぐらいなのよね。
あと、そこは「洸に助けてもらって双葉が礼を言う」という展開に繋がるわけだが、「修子も助けてくれたよ。礼を言わなくていいのか」と思うし。

学食のエピソードは、「洸の指摘を受けた双葉が、上辺だけの友人たちと離れる」という展開にも繋がっている。
だけど極端に言っちゃうと、それも要らないんだよなあ。
前述したように上映時間は限られているわけで、その中で「双葉がハブられることを恐れて上辺だけの友達付き合いをしていたけど、それを断ち切る」というエピソードの必要性が高いとは思えない。
そういう手順を入れるってことは、そこから「双葉が修子や悠里と仲良くなる」という手順を入れなきゃいけなくなる。でも、この映画で何より大事なのは「双葉と洸の恋愛」であって。そこに重点を置くことを考えると、双葉が既に修子や悠里と仲良くしていた方が得策だろう。
「それだと原作と全く違う」ってことになるのは分かるけど、TVシリーズや二部作じゃないので、時間制限を考慮した改変は必要だろう。

リーダー合宿に双葉が立候補すると、悠里と修子が挙手し、亜耶が洸も巻き込んで後に続く。
亜耶は修子が目当て、洸は巻き込まれて仕方なくだから、双葉に協力しないのは分からないでもない。しかし、合宿に入っても全員がバラバラで、学校行事の意義について相談することも無いまま発表の時間になっているのは、話の運び方として上手くない。
だったら、最初から双葉以外は立候補じゃない形で選出されたことにでもすればいい。それなら、まるで協力せずバラバラでも理解できる。
修子に関しては、合宿に入ってから陽一にアピールしているから、そもそも挙手した時点で彼目当てだったのかもしれない。ただ、立候補した時点では、そんなの分からないのよね。
亜耶の「修子が目当て」ってのが露骨なだけに、そっちが分からないのは無意味な引っ張りでしかない。

っていうか繰り返しになるけど、やっぱり最初の時点で「双葉と修子と悠里は友達関係」ってことにしちゃった方が、色んな意味で都合がいいと思うんだよね。
逆に「そこを最初は単なるクライメイトにしておいて、映画が始まってから友人関係を構築する」という形にしてあることのメリットは何なのかと考えた時に、何も思い付かないのよ。
もちろん、そこを上手くドラマとして充実させていれば、映画の質を高めることになるだろう。
でも実際は、「まるで時間が足りない」ってことになっているわけでね。

合宿の途中、全員で早朝に集まるシーンがある。その時に双葉は「この朝日をみんなで見たこと、絶対に忘れない」と笑顔で言うんだけど、「そんなことを口にするほど仲良くなってねえだろ」とツッコミを入れたくなってしまう。
合宿で距離が縮まった相手は洸だけであって、他の面々に関しては「朝日が昇る直前に合流した」というだけだ。修子たちは自分なりの意義を考えてレポートを書いているけど、それを双葉は知らないし。
っていうか陽一から「みんなで考えろ」と言われたのに、別々で考えているんだよな。
「バラバラだった連中が一緒に行動して仲良くなる」という経緯が全く無いのに、最後の「仲良くなった」ってトコだけ描かれてもピンと来ないよ。

配役としては千葉雄大がピッタリの冬馬だが、キャラとしての扱いは褒められたものではない。
前半では申し訳程度に3回ほど姿を見せるだけで、ストーリー展開には何の影響も及ぼさない。初登場の時点で「双葉に惚れて、洸にとっては恋のライバルになる」という展開を容易に予測させるようなアピールをしているものの、実際に「双葉にアプローチする役回り」として始動するのは後半に入ってからだ。
でも、ほぼ機能していないに近いので、「その程度なら要らんわ。ていうか邪魔だわ」と言いたくなる。
同時に唯というライバルも出現しており、そっちだけでも話としては成立しちゃうんだよね。

あと、ライブ会場の「大音量の中だから洸が双葉に顔を近付けて話していると、歩み寄ろうとした亜耶が他の生徒にぶつかられ、転倒する彼に突き飛ばされた洸が双葉にキスをしちゃう」という「アクシデントのキスシーン」は、あまりにもバカバカしくて笑ってしまった。
基本的にはシリアス度数が強くて、それどころか「洸の心が閉ざされている」ってトコに重点を置いたせいで陰気な雰囲気が強くなっているけど、たまに意図せぬバカバカしさが出現するのよね。
まあ、それがバカバカしく感じられるってのは、そういうテイストで作られていないからなんだけどね。

(観賞日:2016年8月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会