『暗殺教室〜卒業編〜』:2016、日本

椚ヶ丘中学校3年E組の生徒たちは、卒業まで半年を切っても殺せんせーの暗殺に成功していなかった。そんな中、生徒たちは進路指導を受けることになり、中村莉桜や寺坂竜馬、赤羽業たちは自分の希望を殺せんせーに語った。しかし潮田渚だけは、まだ進路が何も決まっていなかった。殺せんせーは渚に暗殺者としての才能があることを認めた上で、それを他の道に使うよう説いた。彼は渚に、「大事なのは、その才能を何のために使うのか、誰のために使いたいかです」と語った。
学園祭の時期が近付き、E組は『桃太郎』の芝居を上演することになった。しかし上演は昼の時間帯であり、場所が離れの校舎なので、多くの訪問者は期待できなかった。やる気の出ない生徒たちに対し、烏間惟臣は殺せんせーを暗殺するチャンスだと告げた。律は生徒たちに、学園祭で生徒以外の人間も来れば殺せんせーの注意力が散漫になると説明した。政府も殺せんせーを始末するため、レッドアイというスナイパーを派遣することにしていた。
学園祭当日、レッドアイはビラ配りをする殺せんせーの位置を確認し、ライフルで狙撃した。しかし殺せんせーは簡単に回避し、姿を消す。イリーナは来場した男たちに次々と接触し、色仕掛けで芝居を宣伝する。主役を希望していた殺せんせーは、桃の姿で舞台に出た。芝居の流れに沿って生徒たちが桃を割ろうとすると、殺せんせーは逃げ回った。レッドアイは改めて狙撃するが、また殺せんせーに逃げられた。殺せんせーはレッドアイを赤鬼の格好に変化させ、芝居に巻き込んだ。
レッドアイが観念して殺すよう告げると、殺せんせーは生徒たちが彼に負けじと頑張ったことに対する礼を述べて立ち去った。同じ頃、高校生の不良3人組が茅野カエデ、神崎有希子、奥田愛美を体育倉庫に拉致し、エロ動画を撮影しようとしていた。業と寺坂が助けに行くが、カエデたちを人質に取られて何も出来なくなってしまう。そこへ殺せんせーが駆け付け、3人組を撃退した。カエデたちが去った後、殺せんせーは「雪村先生、貴方が私にくれた縁を、私は上手く繋げているでしょうか?」と呟いた。
学園祭が終了し、殺せんせーはカエデから片付けの手伝いを頼まれた。殺せんせーが承諾すると、カエデは「最後まで気付かなかったね」と不敵な笑みを浮かべた。彼女は対先生物質用の布で殺せんせーを包囲し、首元から触手を出して襲い掛かる。カエデは自分が雪村あぐりの妹で偽名を使っていたことを打ち明け、殺せんせーに「人殺し」と言い放った。彼女は弱点を突いて殺せんせーを追い詰めようとするが、激しい頭痛に見舞われたために退散した。
戦いの様子を目撃したE組の生徒たちは、殺せんせーに説明を要求した。殺せんせーは過去を全て話すことを了承するが、全員が揃ってからという条件を付けた。頭痛の治まったカエデは、あぐりにがいる研究施設を訪れた時のことを回想した。施設では爆発が発生しており、カエデが中に入ると姉が死んでいた。その近くにいた殺せんせーが逃亡し、カエデは姉が彼に殺されたと確信した。彼女はメンテナンスを怠れば地獄の苦しみが待っていると知りつつ、復讐のために触手が生える注射を打ったのだ。
殺せんせーがカエデを見つけ出すと、彼女は改めて対決を要求した。殺せんせーはカエデが危険な状態にあること、触手を抜く必要があることを生徒たちに説明し、わざと心臓を突かせるので一瞬だけ彼女に殺意を忘れさせるよう頼んだ。カエデが殺せんせーの心臓を突くと、背後から近付いた渚がキスをした。カエデが気絶すると、殺せんせーは触手を引き抜いた。その様子を密かに観察していた柳沢誇太郎は、「使えない娘だ」と口にした。殺せんせーに気付かれた柳沢は、挑発するような言葉を残して立ち去った。
カエデが意識を取り戻してから、殺せんせーは今までの経緯を説明する。かつて彼は、千人を超える人間を始末して「死神」と呼ばれる殺し屋だった。2年前、死神は非公式の組織に捕まり、柳沢による反物質研究の実験台に使われた。彼は薬を投与され、あぐりが監視役を担当した。あぐりは親同士が決めた柳沢の婚約者で、昼間は椚ヶ丘中学校3年E組の担任教師として働いていた。あぐりは死神に学校のことを話し、生徒たちとの接し方について相談した。
死神は柳沢の実験材料となりながらも、その内容を把握して密かにコントロールしていた。あぐりは死神にネクタイをプレゼントし、自分を支えてくれたことに対する礼を述べた。柳沢は月で実験していたマウスが爆発したことを知り、死神にも同様の事態が起きると確信する。もしも死神が分裂限界によって爆発すれば、地球は滅びてしまう。そこで柳沢は、死神を処分することに決めた。話を盗み聞きしていたあぐりは、そのことを死神に伝えた。すると死神は監禁されている場所から簡単に抜け出し、施設を逃亡しようとする。あぐりは死神を止めるために抱き付き、触手地雷で致命傷を負った。死神はあぐりの遺言を聞き、E組の教師になることを決めたのだった。
殺せんせーは放っておいても来年の3月には死ぬのだと話し、「君たちに殺されたい」と告げた。しかし冬休みに入ると、生徒の誰も彼を殺そうとしなかった。3学期が訪れると、渚はクラスメイトに「殺せんせーを助ける方法を考えたい」と提案した。賛同する生徒もいたが、一方で殺せんせーの望みどおりに暗殺すべきだと主張する面々もいた。賛成派と反対派で真っ二つになる中、殺せんせーは双方の代表者として渚と業にタイマン勝負を持ち掛けた。
渚と業はクラスメイトが見守る中、ナイフを当てられるかどうかの対決をする。業が圧倒的優位に戦いを進めるが、渚の熱い思いに心を動かされた彼は「降参だ」と口にした。クラス全員で話し合った結果、殺せんせーを救うための方法を探しながら、卒業までは全力で暗殺を続けることが決まった。渚たちは殺せんせーを救う薬を作るため、柳沢の研究所に忍び込んで初期データを盗み出した。彼らが薬の製造に取り組む中、防衛省は北条司令官の指揮下で殺せんせーを抹殺するための作戦を開始した…。

監督は羽住英一郎、原作は『暗殺教室』松井優征(集英社ジャンプコミックス刊)、脚本は金沢達也、製作は石原隆&渡辺直樹&藤島ジュリーK.&市川南&加太孝明、プロデューサーは上原寿一&森井輝&片山怜子&古谷厚、ラインプロデューサーは道上巧矢、撮影は江崎朋生、照明は三善章誉、録音は柳屋文彦、アクションコーディネーターは諸鍛冶祐太、美術はあべ木陽次、VFXスーパーバイザーはオダイッセイ、編集は松尾浩、音楽は佐藤直紀、主題歌は『さよならセンセーション』せんせーションズ。
出演は山田涼介、菅田将暉、山本舞香、椎名桔平、成宮寛貴、知英、二宮和也、橋本環奈、加藤清史郎、桐谷美玲、竹富聖花、優希美青、上原実矩、阿部力、橋本さとし、中原丈雄、加藤雄飛、長村航希、高橋紗妃、宮原華音、荒井祥太、志村玲那、小澤顧亜、市川理矩、吉原拓弥、大岡拓海、菅原健、大熊杏実、田中日南乃、金子海音、武田玲奈、岡田隆之介、三河悠冴、高尾勇次、佐藤ありさ、長谷川ティティ、上松大輔、吉田健悟、松田陸、堀丞、柿本光太郎、朝比奈寛、七瀬公、佐川大樹、三濃川陽介、新岩正人、川崎和平、難波拓也、山田崇夫、玖導成近、大村一隆、大里祐貴、崇岡白、藤田佳秀、訊侍郷金、歩、国広徳之、吉味和則、武田良輔、古島裕敬ら。


松井優征の人気漫画を基にした2015年の作品『映画 暗殺教室』の続編。
最初から2部作として製作されている。
だから監督の羽住英一郎、脚本の金沢達也などのスタッフは前作と全く同じ。
出演者も渚役の山田涼介、業役の菅田将暉、カエデ役の山本舞香、烏間役の椎名桔平、イリーナ役の知英、律役の橋本環奈、イトナ役の加藤清史郎、あぐり役の桐谷美玲、莉桜役の竹富聖花、有希子役の優希美青、愛美役の上原実矩ら大半が続投組。
二宮和也が前作に引き続いて殺せんせーの声を担当している他、死神役として出演も兼ねている。
今回からの登場は、柳沢役の成宮寛貴、レッドアイ役の阿部力、北条役の橋本さとし、烏間の上役の中原丈雄など。

学園祭のエピソードは、ゴッソリとカットしていいんじゃないかと感じる。
まずレッドアイが殺せんせーの命を狙う要素は、全く要らない。どうせレッドアイはその場限りのキャラだし、前作の時点で「普通のスナイパーに殺せんせーは殺せない」ってことは明確になっている。
また、「暗殺という非日常的な要素を含みつつ描かれる、穏やかで和やかな日常」ってのも、前作で充分に描いている。なので大まかに言っちゃうと、「前作と同じことの繰り返し」に過ぎない。
女子生徒を助けるエピソードも、要らない。殺せんせーが生徒を窮地から救うキャラなのは分かり切っているし。
あと、「雪村先生、貴方が私にくれた縁を、私は上手く繋げているでしょうか?」と言うのは取って付けたような印象しか無くて、まるで上手く繋がっていないし。原作にある台詞だから、無造作に入れただけって感じだ。

日常のスケッチを用意するよりも、物語を転がして次の展開へ進めることを意識した方がいい。
日常風景をスケッチするとしても、「生徒たちの変化」ってのが充実した描写になっていれば構わないのよ。でも、そうじゃないからね。
っていうか、そこに全く厚みが無いのは、致命的な欠点じゃないのか。ぶっちゃけ、この話で「生徒たちが殺せんせーの暗殺に成功するかどうか」なんて、どうでもいいことなのよ。「暗殺」というミッションを通じて生徒たちと殺せんせーの関係性が少しずつ変化していき、生徒たちが人間的に成長していくドラマこそが肝だと思うのよ。
それなのに、成長のドラマが見事なぐらい、おざなりになっているのよね。

前作では慌ただしく主要キャラクターを次々に登場させるだけで精一杯になってしまい、各人の描写がペラペラになっていた。
今回はゼロからキャラクター紹介をする必要性が無いのだが、状況は余計に悪化している。個人としてマトモにスポットを当てられているのは、渚とカエデぐらいだろう。大半の生徒たちは、ほぼモブ状態と化している。
そもそも登場キャラクターが多いから、それを捌くのは大変だという事情はある。ただ、それにしても雑だわな。
そう言えば前作では潮田渚の幼馴染で3年B組の斎藤綾香という生徒が登場していたけど、今回は全く出て来ないのね。もはや「存在しなかった生徒」みたいな扱いなのね。

本性を現したカエデは、事情をベラベラと喋って説明する。それが終わると、今度は殺せんせーが過去についてベラベラと喋るシーンが用意されている。
一応は回想シーンも描かれるが、基本的にはナレーションベースの進行となっている。
それ以外でも、とにかく登場人物は自分の気持ちや状況説明を、やたらと台詞にする。それが不細工であることは、わざわざ説明するまでも無いだろう。
また、殺せんせーが今までの経緯を説明するシーンは、全て「彼が生徒たちに話している内容」として処理されているのだが、回想シーンが延々と続くのは構成として不恰好だと言わざるを得ない。

あぐりはただの中学教師なのに、非公式な組織で危険な実験の手伝いをしている。婚約者だからというだけで、柳沢は特殊なスキルがあるわけでもない彼女に危険な殺し屋の監視を任せている。あぐりは相手が危険な殺し屋なのに、警戒心ゼロで接している。
ちなみに殺し屋が捕まった時の見た目は、明らかに『ダークナイト ライジング』のペインを模倣している。
その回想シーンだけでも、ツッコミ所を挙げたらキリが無い。
だけど前作の段階で、「ツッコミを入れたら負け。全て華麗にスルーしておかないと、ストレス無しに最後まで観賞するのは厳しい」ってことは既に分かっている。
だから、そういうのは「今さら」なのよ。

あぐりは死神が凶悪な殺し屋なのに、担当しているクラスのことをベラベラと喋って相談する。死神は冷徹な殺し屋のはずなのに、あぐりと話す時は早い段階から穏やかで柔和な人間になっている。
柳沢を悪玉、殺せんせー(死神)を善玉としてアピールしておきたいのは分かるけど、そもそも死神って大勢の人間を殺した凶悪犯だからね。
あぐりは「貴方は本当に優しい」って言うけど、設定だけを考えれば全く賛同できんよ。
あぐりと接している死神の様子だけを見ていれば、そんなに悪い奴という印象は受けないだろう。ただ、それはそれで、死神の設定に全く合っていないという問題があるし。

そもそも大勢を殺した凶悪犯を善玉として扱うという初期設定自体に、かなりの無理があるんだよね。もちろん「改心して云々」ってことではあるんだけど、贖罪が全く足りていないし。
っていうか、死神の犯した罪の重さからすると、善玉として扱えるような贖罪なんて無いでしょ。
死神があぐりと触れ合うことで本当に改心したのなら、処分されると聞いた時に逃亡を図るのではなく、贖罪の意味も含めて死を選ぼうとするべきだし。
でも彼は逃亡を図り、それを止めようとしたあぐりが命を落とすのだ。なので、死神があぐりを殺したようなモンなのよ。
カエデが「人殺し」として殺すせんせーを憎むのは、間違っていなかったのよ。

後半、渚たちは殺せんせーを救う延命薬を作るため、柳沢の研究所から初期データを盗み出す。
しかし延命薬を殺せんせーが飲んだ直後、そこに現れた柳沢の発言によって、そのデータは偽物だったことが明かされる。
ただし、偽物を飲んだ殺せんせーに何か異変が生じるのかというと、何も起きない。単に「延命の効果は無い」というだけ。
ちなみに柳沢がデータを偽物にしておいた理由は「生徒たちに無意味な行動を取らせ、殺せんせーの反応を見るのが復讐」ってことらしいが、すんげえチンケな阿呆にしか思えんよ。

まあ色々と文句ばかり書いて来たけど、もしも前作を楽しめた人であれば、この批評は全く気にする必要が無い。
前作を素直に面白いと思えた人なら、この続編も間違いなく楽しめるはずだ。前作で登場人物の紹介は片付けてあるので、後はストーリー展開を追えばいいだけになっているしね。
それと、「卒業編」なのに続編を匂わせるような中途半端なことはせず、ちゃんと話を完結させているのも潔いしね(まあ原作付きだから当然ちゃあ当然だが)。
というわけで、最後の最後になって、申し訳程度に肯定的なことも書いてみた。
これは完全に気まぐれだけど、1つだけ本音を書くと、前作よりは良かったと思うよ。いやマジでマジで。

(観賞日:2017年5月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会