『あのコの、トリコ。』:2018、日本

高校生の鈴木頼は堀切学園前でバスを降りようとするが、他の乗客に行く手を塞がれている間にドアが閉まって出発しまう。学校に着いた彼は受付で転入手続きをしようとするが、声が小さくて職員に何度も聞き返された。堀切学園には芸能コースもあるが、頼は普通コースに転入した。立花雫を見つけた女子生徒たちが「やっぱ可愛いよねえ」と騒ぐので、頼も視線を向けた。雫は頼に気付くと、再会を喜んだ。内気な性格の頼は、なぜ転入して来たのか問われて「どうでもいいじゃん」と誤魔化す。「どうでもいいわけないじゃん。だって頼は私の大切な」という雫の言葉に頼はドキドキするが、「大切な友達じゃん」と言われてガッカリした。雫はモデルとして活動していることを語り、頼とメールを交換する。彼女はスタンプを送り、「後で返信して」と告げて去った。
9年前、頼と雫、東條昴の3人は、同じ子役オーディションを受けた。雫と昴は俳優志望で、当時から元気に面接を受けていた。しかし頼は引っ込み思案な性格で、「大きな声で喋れるようになりたい」という理由でオーディションに来ていた。雫と昴は合格し、頼は不合格だった。雫は公園で頼を励まし、「いつか昴くんと3人で映画に出よう」と約束を交わした。雫は昴に誘われ、ジャングルジムに登る競争を始めた。手が滑って雫が落下したので、頼は慌てて抱き止めようとする。しかし頼は力が足りずに転倒し、昴は「何やってんだよ」と告げた。現在、昴も雫と同じく堀切学園に通っている。しかし既に俳優として大人気なので、学校にはあまり来ていなかった。
頼は学校で昼食を取ろうとしている時、雫の所属事務所の社長を務める奥井広道から電話を受けた。頼が奥井企画の事務所を訪れると、雫の付き人が1人辞めたので代わりに仕事をやらないかと奥井に誘われる。頼が困惑していると、奥井は雫の推薦だと話した。バラエティー番組の収録に行くよう指示された頼は、映画監督の近藤啓とぶつかって資料を落としてしまった。頼が去った後、近藤は奥井に「彼は?」と尋ねる。奥井は雫の付き人だと答え、「なんか役者志望みたいで」と勝手に説明した。
頼がテレビ局のメイクルームへ行くと、雫は初めてのバラエティー番組に「ここで爪痕を残して、女優への足掛かりを掴まなきゃ」と意気込んでいた。頼は「目立つような真っ赤なリップを買って来て」と言われ、ドラッグストアへ赴いた。リップを購入した彼は、1年前のことを思い出す。親の転勤で引っ越しを繰り返していた頼は、雫と約束した俳優になる道を諦めていた。ある日、コンビニへ行った彼は、彼は雫が表紙を飾っているファッション雑誌を見つけた。頼は雫や昴がモデルや役者として活躍していることを知り、「なんでもいいから雫に憧れられる男になりたい。近くに行きたい」という思いにかられて上京を決意したのだった。
雫はモデルとしては順調に活動を続けているが、役者としての仕事は一向に入っていなかった。彼女は関東ローカルのコマーシャル撮影が入ったと知り、頼から下着メーカーだと言われても「水着と一緒だよ」と喜んだ。昴が共演者だと知り、彼女は頬を緩ませた。撮影の当日、雫は大勢の前で下着姿になることが恥ずかしくなり、楽屋から出ようとしなかった。昴の所属事務所の社長を務める時田可奈江は、次の仕事の時間が来たので「もう待てない」と苛立ちを示した。
頼はキグルミの頭部を貸してもらい、それを被って雫を励ました。雫は頼のふざけた芝居に呆れつつも、元気を取り戻した。しかし彼女がスタジオに行くと、昴が次の現場へ去って撮影は中止になっていた。雫は謝罪するが、スタッフの酒井から「お前なんかクビだよ」と激怒される。頼は「契約違反ですよ。不当解雇です」と反論するが、雫が慌てて「昴の事務所は凄い力を持ってるのよ。あの社長が決めたことなら従うしかないの」と諭した。CMディレクターを務める近藤は、昴の代役に頼を立てるよう提案した。頼は「雫のためなら何だって出来る」と承諾し、撮影は無事に終了した。スチール写真が街に出回ると、頼は注目を集める存在になった。しかし眼鏡を外して出演したため、街を歩いていても全く気付かれなかった。
雫は配信のミニドラマのオーディションを受けることになり、頼に台詞合わせの練習相手を務めてもらう。しかし頼が棒読みだったので、雫は「このオーディションに命懸けてるんだからね」と真剣に付き合うよう要求した。すると頼の芝居はガラッと変わり、「やれば出来るじゃん」と雫は笑顔になった。そこへ久々に登校した昴が来て雫に話し掛けたので、頼は少し距離を取った。雫がオーディションを受けると知った昴は「近い内に共演できるといいな。最近、綺麗になったね」と話し、頼には一瞥もくれずに去った。オーディションは不合格になり、雫は気晴らしのために頼を誘って遊びに出掛けた。
後日、雫は近藤が演出する舞台劇『ロミオとジュリエット』の出演が決まり、頼に抱き付いて喜んだ。出演が決まったのは近藤の推薦で、ロミオ役は昴だった。雫が「自信が無い」と弱音を吐くと、頼は「チャンスを掴むのも実力の内です」と元気付けた。昴は乗っていた車が事故に遭い、全治1ヶ月の怪我を負ってしまった。本番まで1ヶ月を切っており、稽古だけでも代役を立てなければ準備が間に合わない状況だった。その日の稽古は中止が決まるが、頼は「雫の夢は必ず叶える」と考えて代役に立候補する。「台詞は全部入ってます」と頭を下げると、近藤はOKした。稽古が始まると、頼は何の問題もなく代役をこなした。
ゲネプロ当日も、頼は昴の代役を務めた。退院した昴が劇場に来ると、気を取られた雫は誤ってセットから転落してしまった。慌てて駆け寄った頼は彼女を抱き止め、足を痛めるが今度は倒れずに済んだ。昴が復帰したので、頼は彼と交代した。昴がゲネプロに参加すると、雫は違和感を覚えた。雫は頼の足の骨にヒビが入っていたと知り、電話を掛けて謝罪する。「何でも無いんです。舞台に専念してください」と頼が言うと、彼女は「もう敬語はやめて」と声を荒らげた。しかし頼は「付き人と女優の関係だから」と他人行儀な対応を変えようとせず、お見舞いに行きたいと言われても「初日まで時間が無い」と舞台に集中するよう説いた。
退院した頼は劇場を訪れ、ステージ袖から芝居を見学した。雫と昴は熱演し、観客の喝采を浴びた。終演直後、昴は雫に「好きだ。子供の頃からずっと好きだったんだ」と告白した。動揺した頼が去ろうとすると、昴が追い掛けて来て「お前は絶対、俺に勝てない」と告げた。頼は近藤からの電話で、映画の仕事をオファーされた。雫は奥井から、頼がアート系映画の主演に抜擢されたこと、相手役が共演者キラーで有名な演技派女優の山田華であることを知らされた。
雫は頼と話し、「仕事を受けたら付き人が出来ない」と言う彼に受けるよう告げる。頼は彼女に、「子供の頃、俳優になりたい夢があったことを思い出した」と述べた。雫は彼に、昴と共演する恋愛映画の仕事が来ていることを教えた。頼と雫も昴は、同じ映画スタジオで撮影に入った。2人は互いにスタジオで姿を見ることもあったが、声は掛けなかった。雫は近藤監督と遭遇し、特別に映画のラッシュ映像を見せてもらった。華とのラブシーンを演じる頼の姿を見て、雫は嫉妬心を抱いた。そこへ華が来て「私、役に入り込むから相手役を好きになっちゃうの」と言うと、雫は動揺を隠し切れなかった。
頼は昴に呼ばれ、「雫は渡さない。お前が付き合ったら雫の株を下げるだけだ。諦めろ。お前は最初から俺に負けてるんだ」と言われた。 頼は「まだ勝負は付いてないんじゃないかな。もし僕が日本シネマ大賞の最優秀新人賞を受賞獲得して、一歩先を行ったら?」と話すが、低予算のアート系作品で規模の大きい商業映画に勝つことなど不可能に近かった。それでも彼が「そういう作品だって高い評価を得て歴史に残る作品もある」と語るので、昴は「分かったよ。最優秀新人賞を獲ったら告白しろ。その代わり、俺が賞を獲ったら雫は俺のモンだ」と告げる。2人が約束を交わす会話を、雫は密かに聞いていた…。

監督は宮脇亮、原作は白石ユキ『あのコの、トリコ。』(小学館Sho-Comiフラワーコミックス刊)、脚本は浅野妙子、製作は村田嘉&勝俣英夫&久保雅一&片岡尚&志村彰、企画・プロデュースは大畑利久&高石明彦、プロデューサーは宮城希&古林都子、アソシエイトプロデューサーは岡本順哉&高尾沙織、撮影は川口次男、照明は森泉英男、録音は金子徹、美術は小林大輔、編集は張本征治、音楽は吉俣良、主題歌「トリコ」はNissy(西島隆弘)。
出演は吉沢亮、新木優子、杉野遥亮、岸谷五朗、高島礼子、古坂大魔王、内田理央、水上剣星、大幡しえり、池端レイナ、SUPER★DRAGON、中野マサアキ、中村公隆、中村僚志、東加奈子、伊藤麻実子、日向丈、今井隆文、本村健太郎、杉本愛里、黒坂莉那、M尾咲綺、鈴木築、河井佑樹、友部康志、木島杏奈、生見愛瑠、丸山蘭奈、Vanri、安藤裕美、太田唯、市原茉莉、田中貴裕、MANU、BLAKE C、JANNI O、大江優成、吉田空、萩原壮志ら。


白石ユキの同名漫画を基にした作品。
脚本は『彼女がその名を知らない鳥たち』『ママレード・ボーイ』の浅野妙子。
監督の宮脇亮はTVドラマの演出を手掛けて来た人物で、これが映画デビュー作。
頼を吉沢亮、雫を新木優子、昴を杉野遥亮、近藤を岸谷五朗、可奈江を高島礼子、奥井を古坂大魔王、華を内田理央、酒井を水上剣星、雫の親友2人組を大幡しえり&池端レイナが演じている。
スターダストプロモーションのダンス&ボーカルユニット「SUPER★DRAGON」が、本人役で出演している。

頼が雫とメールを交換した後、9年前の回想シーンに入る。ここで昴も含めた3人が同じオーディションを受けている様子が描かれるが、現在のシーンで昴は未登場だ。
これは話の進め方として上手くない。先に現在のシーンで昴を登場させておくべきだ。もちろん、ただ登場させておくだけでなく、何をやっているのか、どれぐらい活躍しているのかも提示しておくべきだ。
それを考えると、実は雫の見せ方も足りていない。
学校では「やっぱ可愛いなあ」と言われているし、本人が「モデルやってる」と口にしているが、これだと「どれぐらいの活躍なのか」ってのが全く伝わらない。回想に入る前に、彼女のモデルとしての姿を示しておくべきだ。

あと、回想シーンだと3人が同じオーディションを受けている様子は描かれているけど、いわゆる幼馴染なのかどうかがボンヤリしている。
公園で一緒に遊んでいるので、そういうことなんだろうとは思うのよ。
でも、「そもそも幼馴染で、一緒にオーデションを受けるようになった」ったということなのか、「幾つもオーディションを受けている内に親しくなった」ってことなのか、あるいは「同じ子役事務所に所属していて親しくなった」ってことなのか。その辺りは全く分からない。
「そんな細かいこと、どうでもいいじゃねえか」と思うかもしれないけど、地味に「あった方がいい情報」じゃないかなあ。

もっと言っちゃうと、コマーシャル撮影のシーンより先に、頼と昴を再会させておいた方がいい。そして雫と昴が話すシーンも用意した方がいい。
「幼馴染の3人組が高校生になって」というトコからの三角関係を描こうとしているのに、昴のポジションが遠すぎる。
もちろん、彼に全く勝ち目が無いことなんて、最初から分かり切っている。でも、それにしても昴の存在感が薄すぎて、恋のライバルとしての役目を微塵も果たせていないんだよね。
まあ、そもそも雫も「かつて昴に惚れていた」ってわけでもないし、彼に気持ちが揺れ動くことも皆無ではあるのよ。だから昴が片想いしているだけなんだけど、そんな片想いとしてのアタックも脆弱すぎるし。

近藤は映画監督だが、雫が起用されたコマーシャルのディレクターを務め、舞台劇『ロミオとジュリエット』の演出も手掛ける。
もちろん、映画監督でもコマーシャルを撮ったり舞台を演出したりする人は、別に珍しくもないよ。ただ、あまりにも都合良く使われているので、ちょっとバカバカしくなっちゃうなあ。
あと根本的な問題として、近藤が著名な映画監督であることを、全く観客に伝えないままで話を進めているという問題があるぞ。
それと、彼が頼を特別扱いする展開も、もうちょっと丁寧な表現が必要だと思うぞ。ただ顔が綺麗だったからってことになると、舞台の代役に起用するのは筋が通らないし。
そこで起用するからには、容姿以外に役者としても何らかの可能性を見出したはずだけど、そこで感じたのかサッパリ分からないし。

雫の親友2人組は序盤にチラッと絡むが、途中から完全に消える。
可奈江は芸能界で強大な力を持つ大物社長らしいが、頼や雫に何かしらの圧力を掛けたり壁として立ちはだかったりすることは無い。
華は頼を巡る恋のライバルになるのかと思いきや、ただ雫を動揺させるだけで終わる。
そのように、脇役の面々は全くと言っていいほど有効活用されずに終わっている。
近藤でさえ都合のいい道具に留まっており、メインの3人以外のキャラクターは、ほぼ記号と化している。

「冴えない女の子が眼鏡を外したら美女に」ってのは、漫画で良くあるパターンだ。この作品では、それを男子でやっている。
とは言え、そもそも頼を演じているのが吉沢亮なので、態度がオドオドしているだけであって、眼鏡を掛けていようが明らかにイケメンだ。
なので、「眼鏡を外したらガラリと変わる」という表現は、まるで成立していない。
でも、そこのバカバカしさは置いておくとして、そんな展開を用意した以上は「イケメンだと判明してからの大きな変化」を描くべきだろう。

しかし、雫は最初から頼に好意を抱いており、「イケメンだと分かって対応が変化する」ってことは無い。好意がハッキリとした恋愛感情に変わるのも、それより後のタイミングだ。
また、スチール写真は話題になるものの、そこから頼が注目を浴びて次々に仕事が舞い込むような展開も無い。
なので、「眼鏡を外したらイケメン」という設定を持ち込んだ意味が全く無いのだ。
っていうかさ、スケール写真だけで話題になるようなイケメンなのに、どこかのメディアが「あの子は誰」と取材に来たり、仕事のオファーが来たりすることが皆無なのは、かなり無理があるように思うぞ。

頼は「雫に近付くため」という理由で上京しており、役者になるつもりなど全く無い。そして付き人になった後も、やはり「雫のため」という思いからコマーシャル撮影や舞台の代役をこなしている。
しかし近藤組のオファーを受けた後、彼は「子供の頃、俳優になりたい夢があったことを思い出した」と言う。
つまり子役オーディションの頃から「雫が好きだから一緒にいたい」という気持ちだけだったわけではなく、当時は「俳優になりたい」という夢を持っていたのね。
でも、そこはボンヤリしているなあ。

そして成長した頼の、「最初は雫の役に立つことしか考えていなかったけど、次第に思いが変化して」というドラマも全く描けていない。
そこが雑だから、「ハリウッド映画のオーディションを受けるために渡米する」という決断も全く綺麗に決まらないんだよね。
ハリウッド映画のオーディションってのが建て前に過ぎず、「雫への思いを断ち切るために現実逃避として渡米する」ってのが本音に思えちゃうのよ。
最終的には告白して両思いが確定しているけど、撮影の邪魔をしていることも含めて、綺麗に決まったとは感じないし。

(観賞日:2021年11月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会