『あの、夏の日 −とんでろ じいちゃん−』:1999、日本

都心からそれほど離れていない新興住宅地の真ん中に、大井由太が通っている小学校がある。由太と同じ5年B組には、他にも3人の 「ユウタ」がいる。だから勉強の出来る長谷川雄太は「デキタ」、すばしこくて調子のいい川原勇太は「チョロタ」、ハンサムでスポーツ が万能な優太・モンゴメリィ・高橋は「モテタ」と呼ばれている。いつも考える癖がある由太は、「ボケタ」と呼ばれている。担任の 椎名真弓は生徒たちに、明日からの夏休みで事故に注意するよう告げた。
この夏、由太はヘンテコなアルバイトをすることになっていた。両親の昌文と香里から、ボケてきた祖父・賢司郎の見張りとして尾道へ 行くよう頼まれたのだ。かつて高校の校長だった賢司郎は、かなり怖いおじいちゃんという印象が由太にはあった。そんな賢司郎が、急に 他人の家に上がり込んでお供え物を食べてしまったり、他人の葬儀に乱入して参列者にラジオ体操をやらせたりしたらしい。由太は両親と 姉のエリカから、賢司郎の前では常にニコニコしているよう促された。
新幹線に乗った由太は、福山駅で待っていた祖母・亀乃と合流した。2人は在来線に乗り換えて尾道を目指す。新幹線は新尾道駅にも停車 するのだが、亀乃によると、賢司郎が「海沿いに汽車で来りゃあワシが空を飛んで途中まで迎えに行ってやる」と言うので、仕方なく途中 で乗り換えるルートを選んだのだという。賢司郎が「燕みたいに空を飛ぶ」と言っていたことを聞き、由太は好奇心を抱いた。電車の窓 から外を眺めると、賢司郎が空を飛んで行く姿が見えた。
6年ぶりに祖父母の家を訪れた由太は、奥の部屋にいた賢司郎に挨拶した。すると賢司郎は険しい顔で、「通信簿を見せい」と言う。由太 は香里から持たされた通信簿を差し出し、言われていた通りに笑顔を作った。成績の悪さを見た賢司郎は、通信簿を丸めてゴミ箱に投げ 捨てる。しかし由太がそれを指摘すると、賢司郎は「ワシがいつ、そんなボケやったか」と言う。由太がゴミ箱を見ると、通信簿はチラシ に変わっていた。なぜか賢司郎は、由太がボケタと呼ばれていることを知っていた。
由太が「あの時、おじいちゃんは空を飛んでいたんだね」と言うと、賢司郎は「どうしてワシが空を飛べるんじゃ」と呆れる。賢司郎が変 な歌を口ずさみながら部屋を去った後、由太は亀乃から、葬儀の様子を撮影したビデオ映像を見せられた。そこでは確かに、賢司郎が 参列者に指示を出してラジオ体操をさせていた。由太は亀乃に、賢司郎から「後でメダカやドジョウを掬いに連れてってやる」と言われた ことを話す。すると亀乃は、自分たちが子供の頃は生息していたが、今は全くいないことを教えた。
賢司郎は由太を連れて外出する。由太が「網やバケツなんかは?」と尋ねると、彼は「そんなモノは要らん。メダカやドジョウを持って 帰ってどうする?」と言い、遊んだら感謝して逃がすのだと説いた。埠頭に到着すると、賢司郎はいきなり服を脱いで「向かいの島まで 泳ぐんじゃ」と口にした。由太が別の方法を提案しても、彼は耳を貸さない。由太が賢司郎から渡されたメガネを掛けると、周囲の光景が 変化した。向かいに島はあるのだが、現在のような建物がほとんど無いのである。しかしメガネを外すと、元通りだった。
由太が「沈んで死んじゃうよ」と泳ぐことを怖がると、賢司郎は「仕方がにゃあ。奥の手を使うとするか」と言う。彼は「目をつぶれ。 ワシがええと言うまで息を止めるんじゃ」と命じる。由太が言われた通りにして手を取ると、賢司郎は「マキマキマキマキ巻きましょう。 マキマキ巻いたら夢の中」と唱える。すると由太の体が急に軽くなった。「ええぞ」の声で目を開けると、向かいの島にいた。
由太が賢司郎の後に付いて島を歩いていると、いきなり現れた少年・多吉から「賢司郎様?」と声を掛けられる。彼は「どうして帰って しもうたんじゃ。あの白玉団子が気に入らなんだんかのう」と不安げな顔をする。横から割って入った賢司郎が「賢司郎はあの白玉団子を 食うたせいでバカにされたんぞ。もう少しマシなモン出せ」と怒鳴ると、多吉は「分かりもうした」と謝って走り去った。
賢司郎は由太に、「今のはホラタコの多吉じゃ。この村の漁師の子じゃ。由太を子供の頃のワシと間違うたようじゃの」と語った。大きな タコと戦ったというホラを吹いたことで、ホラタコと呼ばれるようになったのだという。その多吉は、漁に出たまま戻らなかったらしい。 賢司郎と由太が川に到着すると、たくさんの鯉が泳いでいる。鯉が喋ったことに由太が驚くと、賢司郎は平然と「昔は犬じゃろうが猫 じゃろうが、年を食うたモンは、みんな子どもとお喋りしたもんじゃ」と述べた。
賢司郎がずんずん先へ進むので、由太は慌てて追い掛けた。すると岩下吾市という少年が立ちはだかり、「昌文」と父の名を呼んだ。彼は 「みんなが待っとるぞ。おみゃあのお父さんに言って弁償してもらうけん。あの携帯ラジオは先生の結婚祝いにみんなが高い金を出して プレゼントしてくれたもんじゃのに、それを勝手にいじくり回して壊したんじゃけん、責任を取ってもらわにゃのう」と言い、由太の手を 引っ張った。由太が神社の境内へ連れて行かれると、大勢の子供たちがいた。多吉もいるが、頭がパックリと割れていた。
不気味な機械声の久保勝彦先生が、「モタモタせんで号令掛けるんじゃ」と由太に告げた。背後から賢司郎が現れ、「心配するな。この 携帯ラジオを壊したのは、ホントは多吉なんじゃ」と教えた。由太が「怖いよ」と言うと、彼は「もう帰ろう」と告げる。由太は賢司郎に 指示された通り、目を閉じて手を握って一緒に呪文を唱える。しかし賢司郎は体操の号令を掛けるばかりで、なかなか「ええぞ」と言って くれない。その内、由太は息が苦しくて気が遠くなった。
由太は亀乃に声を掛けられて目を覚ました。どうやら、いつの間にか昼寝をしていたらしい。賢司郎も奥の部屋で昼寝をしていた。由太が 目を覚ました賢司郎と一緒にいると、オニヤンマが部屋の中を通過した。賢司郎は「この辺は、昔はホタルが一杯おったし、何と言っても 人気の王者は玉虫じゃったのお」と漏らした。何か思い出したような表情を浮かべた後、彼は変な歌を歌って眠ってしまった。
数日後、由太は亀乃に連れられて潮干狩りへ出掛けた。賢司郎の眼鏡について尋ねると、ただのガラス玉だという。由太は亀乃は、バスで 島の反対側へ行く。海で遊んでいた由太は、長恵寺の娘・ミカリと母・雪路に出会った。4人であずき屋に入ると、主人の治助は長恵寺に ある弥勒様の壊れた小指について語り出す。その小指を壊したのは多助で、それは関東大震災の前の年だったらしい。
由太が初めて本物のカニを見て興味深そうにしていると、ミカリは「玉虫知っとるか。見せたるけん、ウチへ来い」と言う。彼女は由太を 寺に連れて行き、虫カゴに入った玉虫を見せる。由太は彼女に頼んで、小指の取れた弥勒様も見せてもらった。ミカリは「もっと面白い とこ見せたろか」と言い、「開かずの間」へ案内する。彼女は蓄音機で掛けたレコードを掛け、「この部屋の主が好きだった歌じゃ」と 言う。それはミカリの祖母の妹・お玉さんで、肺病持ちの彼女は部屋から出ることの無いまま死んだという。
レコードを聴いていた由太は、賢司郎が口ずさんでいた変な歌だと気付いた。その夜、彼は賢司郎に「長恵寺へ行ってみない?あそこへ 行ってみれば色んなことが分かると思うんだ」と持ち掛けた。賢司郎が「そんなことはおみゃあには関係にゃあ」と怒鳴るので、由太は 「おじいちゃんは、何か忘れようとしてるんだ」と指摘した。迷っていた賢司郎は翌朝になって、「長恵寺へ行く」と告げた。
由太は賢司郎の手を取り、目をつぶって息を止め、呪文を一緒に唱えた。こっそり目を開けると、彼は空を飛んでいた。隣を見ると、手を 繋いでいる相手は賢司郎ではなく、自分と同年代の少年になっていた。「ええぞ」と声がしたので目を開けると島にいたが、賢司郎の姿は 無い。由太は賢司郎を見つけて追い掛ける、昔の長恵寺にやって来た。彼は通せんぼする多吉を突き飛ばし、階段を上がった。
少年時代の賢司郎が開かずの間を眺めていると、窓の所に玉が現れて彼に気付いた。しかし当時の住職・法弘が現れ、「おきゃあり くだしゃあ」と賢司郎を叱責した。賢司郎が寺から走り去ると、玉は部屋を抜け出して追い掛けて来た。「どうして?」と賢司郎が訊くと 、彼女は「好きじゃけん」と口にした。それから彼女は、「ほいじゃけど、もう帰らにゃ。ウチゃあ、かげろう。この夏が終わると、 かげろうと一緒に消えてしまう」と語った。
玉は「じゃけん、おねだりしてええ?裸になって。ウチも裸になるけえ。大切な思い出にしたいけえ」と言い、賢司郎と彼女は裸になった 。玉は「このことは賢司郎さんとウチだけの秘密。約束してくれたら、もっと生きる」と言い、賢司郎と指切りする。それを由太が目撃 した。少年の賢司郎は消え、老人の賢司郎が現れた。彼は「あの時も、誰かに見られた気がしたが」と呟いた。その時、向こうから多吉の 呼ぶ声がしたので、玉は走り去った。老人の賢司郎は消えて、再び少年の賢司郎が出現した。
賢司郎は多吉に「玉虫を見つけやした」と言われ、一緒に寺へ行く。由太が付いて行くと、弥勒様の右手の小指の所に玉虫が止まっていた 。由太は床に落ちている弥勒様の小指を発見し、それを拾い上げた。賢司郎は多吉に渡された棒を使い、玉虫を取ろうとするが、右手が 壊れて落ちてしまう。賢司郎と多吉は、慌てて逃げ出した。多吉は「賢司郎様の仕業だとバレたら、大変なことになるかも。でも多吉は 絶対に言いやしません」と言い、その代わりに口止め料の支払いを要求した。
現在に戻った後、由太は賢司郎に、過去から持って来た弥勒様の小指を渡した。すると賢司郎は「ワシがこの小指を折ったから、バチが 当たってお玉ちゃんを死なせてしまったんじゃ」と言う。由太は「でも犯人は、おじいちゃんじゃなかったかも。僕が小指を拾ったのは、 賢司郎君が弥勒様の右手を壊す前だったんだもの」と教える。由太は寺へ行って確かめようと提案し、賢司郎と共にタイムスリップした。 すると2人が戻ったのは、まだ弥勒様の小指が壊れる前の時代だった。2人が寺にいると多吉が現れ、玉虫を取ろうとして弥勒様の右手と 小指を壊してしまった。犯人は多吉で、その罪を賢司郎に被せたのだった…。

監督は大林宣彦、原作は山中恒「とんでろ じいちゃん」旺文社刊、脚本は石森史郎&大林宣彦、企画・製作は芥川保志&大林恭子、 プロデューサーは大林恭子&芥川保志、撮影は坂本典隆、美術は竹内公一、照明は西表灯光、音響デザインは林昌平、録音は内田誠、編集 は大林宣彦、ビジュアルエフェクトは徳永徹三、音楽は學草太郎&山下康介(編曲・指揮)、音楽プロデューサーは土屋浩、 音楽ディレクターは加藤明代。
主題歌「あの、夏の日」詞・曲:學草太郎、編曲:山下康介、コーラス:コールリリック。
主題歌「やくそく」 詞・曲:學草太郎、編曲:山下康介、唄:佐野奈波。
出演は小林桂樹、厚木拓郎、勝野雅奈恵、菅井きん、嶋田久作、松田美由紀、入江若葉、上田耕一、佐野奈波、石田ひかり、小磯勝弥、 宮崎あおい、ベンガル、根岸季衣、ミッキー・カーチス、大前均、大和田伸也、久光邦彦、林泰文、天宮良、山本晋也、芥川志帆、 山本静孝、山内秀一、石井浩太郎、西尾勇気、高田恭平、近藤桃子、石島昇竜、石川潮、松田文香、濱尾幸慈、海老原辰太郎、蓼沼千晶、 大谷みづほ、藤原恵理香、日暮兵士郎、土生スミ、高山幸夫、鵜飼優衣、宮本八五一、笠間雅一、古沢智子、伊藤里絵、ゲルシー、 田中克典、松本裕美子、藤田絵利加ら。


『ふたり』『あした』に続く「新尾道3部作」の3作目。尾道市制百周年記念映画。
原作は山中恒の小説『とんでろ じいちゃん』。
大林宣彦監督が山中恒の原作を映画化するのは、『転校生』『さびしんぼう』『はるか、ノスタルジィ』に続いて4度目となる。
賢司郎を小林桂樹、由太を厚木拓郎、ミカリを勝野雅奈恵、亀乃を菅井きん、昌文を嶋田久作、香里を松田美由紀、雪路を入江若葉、法善 を上田耕一、エリカを佐野奈波、真弓を石田ひかり、多吉を小磯勝弥、玉を宮崎あおいが演じている。

大林監督は相変わらず、「ノスタルジックな雰囲気の作品では、特殊効果も古臭いモノにする」という大きな過ちをやらかしている。
っていうか大林監督って話の内容に関わらず、特撮は絶対にレトロにしている印象がある。
何なんだろうなあ、そこの変なこだわりは。最新の特撮技術を知らないとも思えないし。
本人としては、その方がノスタルジックな雰囲気が表現できると信じ込んでいるのかなあ。

ミカリって由太に対して恋愛感情らしきモノを示しているんだけど、ショタコン設定なのかな。
そこで恋愛劇を作ろうとするなら、年齢差がありすぎるだろ。
そりゃあ、現実世界で、そういう男女関係が絶対に無いのかと言われたら、あるかもしれんよ。だけど映画としてのリアリティーが欲しい トコでしょ。そこは、「ファンタジーだから」ということで許容できる類のモノじゃない。
それはファンタジーじゃなくて、ただバカバカしいとしか思えない。

冒頭でボケタ以外の「ユウタ」たちの紹介があるけど、そいつらもクラスメイトも全く物語に絡まないんだから、そこから話を始める意味 って無いでしょ。担任の先生も同様だ。
だったら、いきなり夏休みから始めちゃえばいい。
ぶっちゃけ、由太がボケタである必要性さえ無いよな。
そんな風に、色々と無駄な描写や余計なキャラが多いなあ。姉のエリカも、存在価値が全く無いし。
結局、携帯ラジオを巡るタイムスリップ先でのエピソードも、まるで後に繋がらないし。

やたらと説明臭いセリフが多くて、それがテンポの悪さに繋がっている。
その台詞に脈絡が無くて、「話を進めるために強引に持ち込んでいる」というのが不恰好な形で見えてしまう。
例えば治助が唐突に多吉や弥勒様の話を始める箇所とか、カニを初めて見た由太にミカリが「玉虫知っとるか。見せたるけん、ウチへ来い 」と持ち掛ける箇所とか。
カニの話題だったのに、なんで急に玉虫なのかと。

様々な出来事の見せ方が上手くないので、なんか妙にゴチャついている印象になってしまう。
タイムスリップ現象とか、そこで由太が体験する出来事とか、もうちょっと分かりやすく見せる手口があったんじゃないかと。
過去と現在、過去の人物と現在の人物の境界線を曖昧にして、そこを混ぜ合わせる演出自体は否定しない。
ただ、もうちょっとスッキリさせてほしかったなあと思ってしまうのだ。

それと、由太が祖父や父に間違えられるというのは全て削除して、彼を「タイムスリップした祖父と過去の人々の交流を見ている目撃者」 「物語の語り手」という役割に徹底した方が良かったんじゃないかな。
彼自身の物語を半端に持ち込もうとしたのは、失敗ではないかな。
あと、少年の賢司郎が住職に叱責されて逃げ出したり、追い掛けて来た玉と喋ったりする時、そこに由太が存在せず、観客だけに見せると いうのはダメでしょ。
タイムスリップした場所での出来事を描く時には、常に由太の視点が必要なはず。

若手女優を脱がすのが得意な大林監督だが、今回は脱がしてはいないものの、無駄に勝野雅奈恵の水着シーンが長い。
海で初登場した時点で水着が壊れてブラ紐が外れているという、全く物語の進行には無関係なエロスをやらされている。
その後、ブラの無い状態で上に大きめのカッターシャツ1枚だけを羽織ったままで移動し、寺に戻っても全く着替えようとしない。
開かずの間では、カナブンが服に入ったのでシャツを脱ぐというシーンもある。後ろ向きなので乳は写らないが、そもそも、そんなシーン 、まるで必要性が無い。

最初に由太がミカリを見た時に、そこで水着が壊れてブラを押さえている姿にドキドキしたり動揺したりすることも無い。シャツを脱いで 裸になった時も、興奮するようなことは無く、淡々としている。
つまりミカリがエロい格好にさせられても、それが由太には何の影響も与えないのだ。
普通、ボケタみたいな性格の小学5年生が女子高生の裸を見たら、かなりのインパクトだと思うんだけど、サラッと流されてしまう。
ミカリに特別な関心を抱くという様子も無い。
大林監督が、ただ脱がせたかっただけだよな。

で、ミカリって役割としては、それだけで終わりと言ってもいいぐらいなのよ。
終盤になって少しだけ出て来るけど、賢司郎にオッパイを触られるという、これまた不必要なセクハラ攻撃を受ける。
ただエロいサービスのためだけに使われたようなものだ。彼女がいなくても、まるで物語に影響は無い。
ミカリだけじゃなくて、玉も「裸になって。ウチも裸になるけえ。大切な思い出にしたいけえ」という違和感ありまくりなセリフを吐いて 裸になる。
画面にヌードは写らないけど、そこで少女を脱がすクレイジーなセンスは、さすが大林監督だね(これが誉め言葉なのかどうかは、皆さん の判断に任せます)。

(観賞日:2012年3月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会