『アンダルシア 女神の報復』:2011、日本

財務大臣の村上清十郎はG20国際会議に出席するため、パリを訪れていた。彼は会議に先立ち、アメリカのクーパー財務大臣と会食する約束を取り付けた。しかし案内されたのが場末の料理店だったため、村上は不快感を示して外に出た。すると、そこへクーパーが現れた。クーパーは留学中に馴染みだった店が移転したことを知り、そこへ来たのだという。店主と再会して上機嫌のクーパーに、村上は会議に向けての根回し交渉を行う。店を手配したのは、邦人テロ対策室の外交官・黒田康作だった。
フランス・スペイン国境のアンドラ公国。日本人投資家の川島直樹は、微笑を浮かべながら雪山をスキーで滑走していた。彼は崖からジャンプし、転倒して怪我を負う。ホテルで川島と会う予定になっていたヴィクトル銀行の行員・新藤結花は、彼に電話を掛けた。電話を受けた川島が「頼む、ルカスに会わせてくれ」と懇願すると、結花は困惑の表情になる。結花はルカスという男の通訳係だった。
その夜、結花は川島の部屋でパソコンを操作し、情報を引き出そうとする。しかしパスワードが解読できなかったために断念し、強盗が侵入したように偽装工作を施した。室内には川島の死体が転がっている。結花はパソコンと周辺機器を持ち去り、部屋を出た。だが、廊下の向こうから宿泊客の声が聞こえてきた。彼女は部屋に戻り、シーツに包んだパソコンと周辺機器を窓から雪山に投げ捨てた。
G20国際会議に出席した村上は、マネー・ロンダリングを防ぐための規制強化を訴えた。その様子を眺めていた黒田は、室長の安藤康介からの電話を受ける。アンドラ公国で邦人の殺人事件が発生したので、調査に向かってくれというのが安藤の用件だった。亡くなったのは警視総監の息子だという。インターポール捜査官・神足誠はホテルに赴き、事件の第一発見者である結花の事情聴取を開始した。結花は「部屋を訪ねようとしたら銃声が聞こえ、中に入ると既に死んでいた。川島は銀行の顧客」と説明した。
室内では、黒田が鑑識係が撮影した写真をジロジロと眺めている。神足は「ここからは捜査情報も含みますので」と言い、黒田を厄介払いした。神足は物盗りの犯行と断定し、事情聴取を終えて結花を送って行こうとする。そこへ不審を抱いた黒田が戻って来て、疑問点を指摘する。わざわざ客のいる部屋に犯人が侵入したことが、不自然だというのだ。しかし神足は相手にせず、黒田を軽くあしらった。
夜になり、結花はパソコンの回収に向かおうとする。その時、男が部屋をノックした。危険を感じた彼女がベランダから逃げ出すと、男は追い掛けて来た。張り込んでいた神足と黒田も、それぞれ彼女を追跡する。神足と相棒が男に銃を向けている間に、結花は逃げ出す。そこに黒田が現れ、「こっちだ」と車に乗せてアンドラ公国から一番近いバルセロナの日本総領事館へ向かう。神足は発信機で結花の位置を掴む。黒田が「さっきの男は?」と訊くと、結花は「知りません」と答えた。
黒田は総領事館に到着し、結花の保護を依頼した。応対した職員が難色を示していると、かつて黒田と一緒に仕事をした安達香苗が来て「無条件で保護すべきです」と意見する。彼女が事件の捜査に首を突っ込もうとするが、黒田は無視した。黒田は結花を領事館に任せて外出し、顔見知りのフリーライター・佐伯章悟と接触してヴィクトル銀行について情報を求める。佐伯によれば、ヴィクトル銀行はあこぎな取引を取り返しており、最近になって顧客が大損をしたという。佐伯は新聞記事を見せ、「名乗り出ない客が多いってことは、後ろ暗い金を投資していたんだろう」と語る。
結花が領事館を抜け出し、バルセロナへ来ていた神足と相棒が追跡する。黒田も安達からの情報で、結花の逃走を知った。黒田が結花を捕まえると、神足が来て「手間を掛けた。後はこっちで保護する」と彼女を連行しようとする。黒田が「彼女は嘘をついてる。だから逃げようとするんだ」と口にすると、結花は「黒田さんの言う通りです。逮捕してください」と言う。インターポール本部での取り調べに、黒田も同席した。結花は「川島が死んでいたのは本当だが、強盗の仕業に偽装したのは自分」と認めた。
結花は「昼に川島と話した、万が一のことがあったらヴィクトル銀行に関わった全ての証拠を消してくれと頼まれた」と述べた。川島は「本当は雪山で死のうと思ったが、危険なお金を取引で失った。証拠が見つかると日本にいる知人や貴方にも危害が及ぶかも知れない」と語ったのだという。しかし彼女の証言に黒田は疑問を抱き、部屋にはパソコンがあったのではないかと考える。彼は結花を追及しようとするが、神足に追い出された。
黒田は屋上で神足に話し掛け、「最初から彼女の嘘に気付いていたんだろ。単なる物盗りの犯行で終わらせたかったのはインターポール。いや、警視庁も一緒だろ。そうすれば警視総監の息子が犯罪に関与していたことを隠すことが出来る。だから彼女が余計なことを喋らないように監視してた。川島はマネー・ロンダリングしてたんじゃないのか」と述べた。結花はインターポールの用意したアパートに身柄を移され、黒田は領事館職員から預かった荷物を彼女に渡した。
黒田は安達から、ヴィクトル銀行がアンドラ国内では敵がいないほどの力を持っており、大手のスペイン投資銀行とライバル関係にあるという情報を得る。さらに安達は、結花のデータも黒田に渡す。結花はロンドンの大学に入ってから1度も帰国していなかった。彼女は幼い頃に家族を交通事故で亡くし、自分だけが助かっていた。一方、神足の同僚たちはルカスというブローカーがヴィクトル銀行の不正融資に関与していると突き止めるが、その顔が分からない。そこで複数の人物の写真を結花に見せるが、彼女は該当者がいないと答える。
黒田は佐伯から、2年前に現役キャリア警官だった神足が警察の不正経理を内部告発した事件を知る。黒田は神足が結花を取り調べに連れて行く際、タクシーに同乗した。その途中、タクシーは武装した一味に襲撃される。神足は銃を構えたものの、震えるだけで全く動けない。黒田は死んだ運転手を外に出して運転席に座り、神足と結花を乗せて逃走した。神足は黒田を調査し、彼が外務省の極秘部署である邦人テロ対策室の所属だと知る。
神足は黒田から内部告発のことを言われ、「組織の中じゃ、正義なんてものを振りかざすような奴はバカを見る」と漏らす。彼は黒田に「さっきの礼だ」と数枚の写真を渡し、ルカスという男が黒幕であること、その中にルカスがいることを教えた。結花が取調室で食事をしていると、頭取から電話が入った。頭取の脅しを受けた結花は、捜査官の中にスパイがいることを知る。食事に毒が混入されている疑念にかられた彼女は、慌てて吐き出した。そこへ黒田が現れ、取り乱す結花を落ち着かせて「必ず守る」と告げた。
結花は黒田の説得に応じ、事件の裏を明かした。翌朝、黒田は神足を「捜査官の中にスパイがいる」と言って外に連れ出し、彼女から聞いた事実を説明する。アンダルシアにヴィクトル銀行の頭取が持つ別荘がある。そこで明日、ある取引が行われる。相手は国際テロ組織ARMの幹部イグナシオ・ラロだ。仲介したブローカーはルカスだった。黒田は、結花が示したルカスの写真を神足に見せた。
取引現場を押さえれば一気にマネーロンダリングを暴くチャンスだが、協力を求められた神足は難色を示す。黒田は「ちゃんと目を開けていなければ、何が正義なのかも分からなくなる」と彼を諭す。黒田、結花、神足は、アンダルシアへ向かう。その途中、列車の中で家族の事故死について神足から問われた結花は、それが心中だったことを明かす。父が中小企業を経営していたが、景気の悪化で多額の借金を抱えて倒産したという。彼女が「父も犠牲者だったんだと思います」と口にすると、黒田は「犠牲者は巻き込まれた家族じゃないのか」と冷静に指摘した。
黒田と結花はアンダルシア州ロンダのホテルにチェックインし、神足は取引現場を押さえるための準備に取り掛かる。神足は警視庁時代の上司からの電話を受け、捜査を中止するよう要求される。上司は息子のことを話題に出し、「奥さんが亡くなって何年になる?ずっと息子と離れたままじゃ寂しいだろう」と揺さぶりを掛ける。一方、結花は黒田の部屋に行き、酒に混入した薬で彼を眠らせた。彼女は闘牛場へ神足を呼び出し、「川島の秘密を隠蔽したいのなら、私を逃がして。川島の金の出所はルカスも知らない。知ってるのは私だけ。警察が隠したいのはそれでしょ。私さえ黙っていれば警察の名誉は守れる」と取引を持ち掛けた。
神足が「だったら答えろ。誰が川島を殺した。それを話したら、アンタの言うことも信じてやる」と言うと、結花は「自殺したのよ」と告げる。川島から「ルカスに騙された。彼に会わせてくれ」と言われた結花は、「ルカスさんを詐欺罪で訴えることになると、貴方の運用していた資金についても捜査が入ることになります。そうなると、貴方の周りの人は黙ってはないんではないでしょうか。世間に知られると一番困るのは貴方ではないですか。それでいいとおっしゃるのなら連絡してください」と告げた。すると川島は拳銃で自害したのだという。「黒田はどうする。あいつは絶対に諦めないぞ」と神足が言うと、彼女は「警察なら、どうとでも出来るでしょ」と去った…。

監督は西谷弘、原作は真保裕一『アンダルシア』(講談社刊)、脚本は池上純哉、脚本協力は酒井雅秋、製作は亀山千広&市川南&寺田篤&水口昌彦&杉田成道&永田芳男、エグゼクティブプロデューサーは石原隆、プロデューサーは臼井裕詞&和田倉和利、協力プロデューサーは牧野正 、アソシエイトプロデューサーは小林裕幸&上原寿一、ラインプロデューサーは森賢正&鶴賀谷公彦、撮影は山本英夫、照明は小野晃、美術は清水剛、録音は藤丸和徳、編集は山本正明、音楽は菅野祐悟、主題歌『Time To Say Goodbye(Con Te Pariro)』はIL DIVO。
出演は織田裕二、黒木メイサ、戸田恵梨香、伊藤英明、福山雅治、夏八木勲、大杉漣、鹿賀丈史、谷原章介、音尾琢真、岸博之、品川徹、川島鈴遥、遠藤璃菜、小室優太、堤匡孝、山口芙未子、高木ララ、三浦誠己、MADISON MASON、INIGO ARANBURU、PEP MOLINA、SANTI PONS、XAVIER RUANO、ROLANDO RAIMJANOVら。


『アマルフィ 女神の報酬』に続く黒田康作シリーズの第2作。
前作と今作の間に、TVシリーズ『外交官 黒田康作』が放送されている。
黒田役の織田裕二、安達役の戸田恵梨香、佐伯役の福山雅治は、前作から引き続いての登場。安藤役の鹿賀丈史は、TVシリーズからの続投。結花を黒木メイサ、神足を伊藤英明、村上を夏八木勲、神足の元上司を大杉漣が演じている。
監督は前作と同じく西谷弘。

戸田恵梨香は3番目に表記されるが、友情出演なのかと思うぐらいの出番しか与えられていない。
ぶっちゃけ、いてもいなくても全く支障が無い程度の存在だ。
福山雅治は特別出演だから、大して意味の無いような扱いや少ない出番でもいいけど、戸田恵梨香はもう少し活用すべきだったんじゃないの。
まあ黒田がスーパーマン的なキャラになっている上、相棒は神足、ヒロインは結花という風に役割分担が完全に埋まっちゃってるので、使い方が難しいという事情はあったかもしれんが。
っていうか、だったら最初から要らないわ。

あと、村上の存在も、ほとんど意味が無い。
一応は「サミットでマネーロンダリング防止が議題になる」というところで本筋との関連を持たせているけど、かなり薄い繋がりだ。
会議の結果はクロージング・クレジットでも描かれているけど、ルカスの事件はそこに何の影響も与えていないし。
村上は黒田が外交官の仕事をしていることを示すためだけに用意されたような存在で、本筋には全く絡まない。
ここを上手く絡めるべきだと思うんだけどね。

前作の「アマルフィ」と同様、今回のアンダルシアも、タイトルにしている割りには、そこがメインの舞台に使われていない。
メインの舞台はアンドラで、アンダルシアは終盤に取引現場として使われるだけ。アンダルシアである意味は皆無に等しい。
っていうか、これも前作からそうだけど、海外を舞台にしている意味は薄い。
「スケール感を出すため」ということでやっているのは分かるけど、物語を冷静に見てみると、実は国内でも成立しそうな中身だったりする。

神足が黒田に「アンタ、本当に外交官か」と言うシーンがあるのだが、それがシャレになってないんだよな。
「外交官だけど、お役所仕事だけをやっているわけじゃなくて、優れた才覚や行動力を発揮する」というレベルじゃなくて、もはや外交官という設定の意味が無いんじゃないかと思うような活動なのよね。
黒田という男はスゴい奴なので、インターポールで神足が結花を取り調べる際、当たり前のように同席している。結花がインターポールの用意したアパートに写る時も、当たり前のように同行している。
どんな権限があるんだろう。
っていうか、それを神足も認めてるのね。

神足が「いつから外交官は何でも有りになったんだ」と言うけど、その通りなんだよな。
「外交官が外交官の枠を超えて」ということじゃなくて、そもそも黒田って「邦人テロ対策室」という特殊な部署の所属だし、外交官としての仕事はほとんどやってないし、外交官という表向きの職業設定の意味が薄いんだよな。どこかの領事館や大使館にいるわけじゃなくて、フリーで動いている感じだし。
いや、そりゃあジェームズ・ボンドを意識したキャラ設定なんだろうってのは分かるんだけどさ、なんかイマイチなんだよな。
あと、この話だったら黒田よりも神足を主人公に据えた方が、しっくり来るように思える。
で、それだと黒田のキャラが強すぎて扱いに困るので、彼の存在は削ぎ落として、ごく普通の外交官を脇役に配置すればいい。
もはや黒田康作シリーズじゃなくなってしまうけどね。

神足が内部告発でインターポールに異動させられたことを佐伯が黒田に語る時、「飛ばされた」と表現するんだけど、いやいや、左遷じゃないでしょ。
黒田から「インターポールは出世コースだろ」と言われた神足は「左遷だ」と吐き捨てるけど、それを左遷と言っていたら、ホントに内部告発で左遷されたような人たちから石を投げられるぞ。
なかなか息子に会えないことを示して「神足が左遷された」ということをアピールしようとしているけど、だったら息子も連れて来ればいいんじゃないの。
嫌がったら知らんけどさ。

結花は家族が心中だったことを明かす時に「父は中小企業を経営していて」と言っているけど、普通、父親の仕事を語る時に、そんな表現 をするかな。
「小さな会社を経営していて」とか、「小さな工場をやっていて」とか、そういう表現をするもんじゃないかな。
父親の仕事を「中小企業の経営」と表現するのは、かなり違和感が強いぞ。
それと、そういう過去を設定したことが、あまりに意味の無いモノになっているんだよね。
一応、川島を結花が「父親と同じ」と評する辺りで絡めようとはしているんだけど、結花というキャラの描き込みが浅いこともあって、「別にそんなの無くても大して支障は無いんじゃないか」と思えてしまう。

っていうか、犯行動機の部分でも、バカバカしく思えてしまうんだよな。
完全ネタバレになるが、ルカスの正体は結花だ。
で、彼女が川島を騙した理由として、「目障りだったから騙しただけ。万が一の時は必ず親が助けてくれるっていつも言ってた。そうやって巻き込まれる家族がどれだけ苦しい思いをするか。川島は私の父親と一緒。自分の失敗に家族を巻き込んで、それでも平気な人間なのよ」と語る。
だけど、「そんな動機なのかよ」と唖然としてしまうのよ。

それと、「結花がルカスという偽名を使って顧客を騙していた」ということが明らかになった時点で「事件は解決」みたいに形になっているけど、違うでしょ。
ヴィクトル銀行がマネー・ロンダリングを繰り返していたという疑惑については、放り出されたままなんだよね。
だって、今回の犯罪は結花個人でやっていたことなんだから。
取引現場に来た連中をインターポールが検挙しているので(なぜか突入シーンを全く描写しないという意図の不明な演出になっているが)、そこから銀行の悪事が暴かれるのかもしれないが、劇中では処理されない。

あと、取引現場に来た連中をインターポールが捕まえたら、結花にとってはマズいことになるんじゃないの。
だってさ、そこに来た一人の男の写真を、彼女は「彼がルカス」と黒田や神足に断言しているのよ。
それがルカスじゃないと分かったら、結花に疑いの目が向くのは必至でしょ。
そう考えると、結花の作戦って杜撰だよな。
そもそも川島のパソコンを外に持ち出そうとしているけど、入っている情報を抜き取らなくても、データを破壊しちゃえば証拠は隠滅できたんじゃないの。

川島の殺害事件があって、それに関して黒田が調査に赴くというところから本編が始まっている。
で、その事件に関連して、結花はインターポールの取り調べを受けているはずだ。
ところが、途中でインターポールはルカスの存在を掴み、ヴィクトル銀行の不正融資を捜査するために彼を見つけ出そうとする。
で、そうなると、川島を殺した犯人の捜索は、すっかり放り出してしまうのよね。

インターポールにとって、当初の事件捜査は、どうでもいいことなのか。
神足は警視庁にいる元上司から指示を受けているので、川島の事件を物盗りの仕業として処理しようとするのは分かる。
だけど、それは神足個人に対しての指示であり、インターポールの捜査を止めることは出来ないはずでしょ。
だから、インターポール全体として、川島殺害犯の捜査が止まっているのはおかしい。
っていうか、実際は殺人じゃなくて自殺だけどさ。

終盤、神足が黒田を射殺するシーンがあるんだけど、何のサプライズにもなっていない。
主人公の黒田が死ぬはずはないってのは分かり切っているし、そこを「黒田が防弾チョッキで助かった」とか、そういう形に持って行くのではなく、「神足と黒田が結花を騙すために仕組んだ作戦で、殺した芝居をしているだけなんだろうな」ということは容易に予想できる。
まあ予想って言うか、ほとんど確信に近いものがある。
で、その通りになるのであった。

(観賞日:2012年6月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会