『あなたの番です 劇場版』:2021、日本

2019年春、手塚翔太と菜々はマンション「キウンクエ蔵前」に転居し、どちらが住民会に出席するかをジャンケンで決めた。翔太が出席すると、床島比呂志は「俺のこと、殺したい?」と尋ねて来た。彼は藤井淳史が「ここの住民、全員が俺のことを嫌ってる」と言い出したと語り、人間は誰かを殺したいタイミングがあるはずだと主張する。浮田啓輔が同調すると、マンションの住民で交換殺人をやろうという話題になった。不穏な空気の中、翔太は「無関係の人間じゃないから交換殺人は成立しない」と笑いながら説明した。
2年後、翔太と菜々は結婚パーティーに出席するため、クルーズ船に赴いた。予定より遅れて到着した2人は、出迎えた西村淳から早く乗船するよう促された。児嶋俊明は久住譲と藤井淳史に同部屋になることを話し、妻は英会話教室を休めないと説明した。藤井は黒島沙和が二階堂忍と歩くのを目撃し、「俺のことが好きだと思っていたのに」と落胆した。シンイー、クオン、イクバルは、妊娠中の尾野幹葉と挨拶を交わした。
作業員の南雅和は、荷物を運んでいた。赤池美里は幸子から罵られたり嫌がらせを受けたりしても耐え忍び、吾朗は黙って見ていた。床島は美里から、「計画通りで」というメールを受け取った。蓬田蓮太郎は浦辺優にカメラを向け、嫌がる彼女の写真を撮影した。榎本早苗は正志と乗船したが、留学した総一のことを気にしていた。船長は部下から濃霧の心配があることを知らされるが、パーティーが入っているので出航停止には出来ないと告げた。
黒島は二階堂から部屋を別々に取っていると言われ、残念そうな様子を見せた。細川朝男は翔太からパーティーでのスピーチを頼まれて困るが、仕方なく承諾した。翔太が去った後、彼は電話で誰かに「しつこいよ。今夜は有り得ないから」と告げた。木下あかねは案内図を見ながら、船内を調べていた。コンテナに置かれた木箱からの蓋が開き、潜んでいた何者かが抜け出した。夜、結婚パーティーが開かれ、何者かが外から密かに覗き込んだ。
パーティー終了後、乗客は各自の部屋に戻った。西村は木下と海底バーで飲み、パーティーに関する愚痴をこぼした。カウンターでは久住と藤井と児嶋が話し、壁にはタービン銃が飾られていた。船が激しく揺れ、久住たちが小窓の外を見るとロープで縛られた床島が出現した。床島は目を開いて苦悶し、息を引き取った。彼の遺体は甲板に引き上げられ、知らせを受けて駆け付けた美里は絶叫した。菜々は床島の死に責任を感じ、翔太が慰めた。
2日目。神谷将人や水城洋司たちが乗船し、捜査を開始した。船長はロープがスクリューに絡まり、航行停止状態にあることを説明した。防犯カメラのハードディスクは、電動ドリルのような物で全て破壊されていた。黒島は実証実験で乗船している江藤祐樹に声を掛けられ、早川教授もいることを知らされた。翔太は蓬田が撮影した写真を見せてもらい、二階堂がパーティー会場を覗いていたことに気付く。神谷や水城たちは、木箱に何者かが隠れていた形跡を発見した。木箱の中には、電動ドリルや毛髪の束が残されていた。彼らの動きを観察していた内山達生は、誰かに電話を掛けた。神谷と共に聞き込みを行った水城は、浦辺が部屋のカーテンを閉め切っていることへの疑念を示す。シンイーはイクバルの鞄を隠そうとして灯油のポリタンクを発見し、背後に何者かが現れた。
神谷はパーティー客を集め、船の故障で数日は留まってもらうことを説明した。何者かが配電盤を破壊し、停電が発生した。黒島が部屋に入ろうとすると、火だるまの南が飛び出して来た。南は逃げる黒島を追い掛け、甲板で倒れて死亡した。消火器を使おうとした二階堂は、黒島が不気味な薄笑いを浮かべているのに気付いた。南の服からはマスターキーが見つかり、黒島の部屋には何者かが灯油を流し込んだ形跡が残されていた。内山は黒島のベッド下に身を隠し、「盗聴と報告(警告)を続けます。また今後のために、ひとつ提案があります」とメールを送った。
3日目。幸子が早朝から部屋を抜け出し、吾朗は美里が関わっていると疑って問い詰める。彼は美里が床島と密かに何か企んでいたことを悟っており、遺産目当てで幸子を殺害する計画を立てていたのだろうと追及した。美里が遺産に絡んで床島と密談していたのは事実だが、殺害の標的は幸子の孫娘に当たる黒島だった。床島が殺された後、美里は黒島から「落ちてましたよ」と証拠のメールが残ったスマホを見せられた。美里が逃げ出すと黒島は内山にスマホを渡して捨てるよう命じ、報酬として自身の頭髪をプレゼントした。
翔太は謎解きごっこを開始し、南が7年前に殺された少女の父親だと知った。彼は細川に、菜奈を守るために一緒に寝てほしいと依頼する。細川は困惑するが、翔太は真剣な態度で要請した。田宮君子が去ろうとする水城に食い下がって揉める様子を見た翔太は、制止に入った。君子は翔太に、犯人を教えたのに警察が捕まえてくれないのだと話す。君子は黒島が犯人だと断言し、黒島に暴力を振るう元彼を淳一郎が通報した過去について言及した。その元彼は死んでおり、君子は周囲で死者が続出している黒島を犯人だと断定したのだ。淳一郎は防犯カメラに写っていた内山が船にいるのを目撃し、何か企んでいると推察していた。
翔太は黒島を守るために二階堂が南を殺したのではないかと睨み、彼の元へ赴いた。話している間に、彼は黒島と二階堂が結託していると考えた。翔太に詰め寄られた二階堂は、投げ飛ばして追い払った。その間に黒島は菜奈の元へ行き、相談があると告げた。部屋に戻った菜奈は二階堂からプロポーズされ、「もう以前の私とは違うから」と断って別れを告げた。黒島と遭遇した翔太は、南を知っていたのではないかと詰め寄った。そこへ菜奈が来て翔太を注意すると、その間に黒島は逃げた。菜奈は黒島と2人になったことを翔太から責められ、警察に任せるべきだと説いた。
4日目。甲板に出て鳥を撮ろうとした蓬田は、マストに括り付けられている黒島の遺体を発見した。甲板に出て来た翔太は、菜奈と視線が会うと慌てた様子で逃げるように去った。菜奈が部屋に戻ると、彼はいなかった。早苗は正志に、黒島が誰かに復讐されたのだと告げる。彼女は黒島と同じ種類で親しかった総一も復讐されるのではないかと考え、激しく狼狽した。浦辺が女児が豪雨で死亡した記事や黒島を盗撮した写真のスクラップを見ていると、クローゼットで物音がした。
木下は水城と神谷に、シンイーが姿を消したこと、浦辺の部屋にいる痕跡が見つかったことを知らせた。水城が浦辺の部屋に行くと、翔太が飛び出して来た。室内では浦辺が意識不明で倒れており、水城は翔太を拘束しようとする。翔太は抵抗するが、二階堂が蹴りを浴びせて昏倒させた。水城がクローゼットを開けると、シンイーが監禁されていた。総一は水城たちの元へ来て、早苗が大変なのだと訴えた。水城たちが甲板に行くと、早苗は海を泳いで岸に戻ろうとしていた。
浦辺は医務室に運ばれ、医師は肋骨が折れていて複数の痣があることを水城に説明した。翔太と早苗も、医務室のベッドに運ばれていた。菜奈は二階堂に、黒島から「色々あって恨まれている。過去を二階堂に話すべきだろうか」と相談されたことを打ち明けた。彼女は翔太が無実だと主張し、黒島の過去を知っている人間が犯人ではないかと告げた。すると二階堂は、自分より黒島に詳しい人間が船に乗っており、犯人の可能性があると話す。しかし彼が疑いを抱いていた内山は、遺体となって発見される…。

企画・原案は秋元康、脚本は福原充則、監督は佐久間紀佳、企画・原案は秋元康、脚本は福原充則、製作は沢桂一&山田克也&松岡宏泰&藤本鈴子&高津英泰&佐藤政治&秋元伸介&小泉守、エグゼクティブプロデューサーは伊藤響&福士睦&三上絵里子、プロデューサーは鈴間広枝&松山雅則&櫛山慶、撮影は宮崎康仁、照明は谷本幸治、DITは錦織健三、録音は小松崎永行、美術プロデューサーは高野雅裕、美術デザインは樫山智恵子、VFXスーパーバイザーは小坂一順、編集は山中貴夫、音楽は林ゆうき&橘麻美、主題歌はAimer『ONE AND LAST』。
出演は原田知世、田中圭、西野七瀬、横浜流星、生瀬勝久、木村多江、竹中直人、田中哲司、徳井優、田中要次、長野里美、阪田マサノブ、大方斐紗子、峯村リエ、門脇麦、酒向芳、浅香航大、奈緒、山田真歩、三倉佳奈、大友花恋、金澤美穂、坪倉由幸(我が家)、中尾暢樹、小池亮介、井阪郁巳、荒木飛羽、前原滉、大内田悠平、バルビー、板倉チヒロ、中山求一郎、舟津大地、袴田吉彦、片桐仁、真飛聖、和田聰宏、野間口徹、皆川猿時ら。


日本テレビ系で放送されたTVドラマ『あなたの番です』の劇場版。
監督の佐久間紀佳と脚本の福原充則は、TVシリーズのスタッフ。
菜奈役の原田知世、翔太役の田中圭、黒島役の西野七瀬、二階堂役の横浜流星、淳一郎役の生瀬勝久、早苗役の木村多江、床島役の竹中直人、南役の田中哲司、吾朗役の徳井優、浮田役の田中要次、君子役の長野里美、正志役の阪田マサノブ、幸子役の大方斐紗子、美里役の峯村リエ、神谷役の浅香航大など、TVシリーズのレギュラーキャストは大半が続投している。
浦辺役の門脇麦と早川役の酒向芳は、劇場版で新たに登場するゲスト。

この映画はTVシリーズの続きではなく、同じキャラクターが登場する「もしもの世界」という設定になっている。
TVシリーズでは多くの人物が死亡し、犯人も明らかになってる。なので普通に考えれば、その続編を作ろうってのは無理がある。しかし大ヒットしたので、もっと儲けたいと製作サイドが考えるのは理解できる。
そこで捻り出したアイデアが、「もしも」の世界に落とし込むことだった。
反則技のような方法だが、この作品に「反則だろ」と文句を言っても無意味なのは、TVドラマを見ていた人なら分かるだろう。

TVドラマは回を追うごとに話題を呼び、視聴率が向上して大ヒットを記録した。しかし最終回が放送された途端、それまで大好きで見ていたファンが一気に離れたという印象を受けた。
それまで伏線を張り巡らせて引き付けておいて、雑に梯子を外された気持ちになった人も少なくないだろう。
私なんかは「だって秋元康プロデュースだもの」と、ある意味では納得できた。
でも「秋元康プロデュース」の本質を知らずに見ていた人からすると、「それゃ無いだろ」と怒りや失望、落胆を覚えたようだ。

「もしも」の世界ではあるがパラレルワールドではないので、登場人物の性格や行動理念はTVシリーズと全く変わっていない。
なので、今さらネタバレもへったくれも無いだろうけど、TVシリーズで殺人狂だった黒島は今回も殺人狂だ。
しかも、その黒島を「純粋に二階堂を愛したのに殺される悲劇のヒロイン」みたいに扱っているんだから、「おいおい」と言いたくなった。
モラルの感覚が、見事なぐらいドイヒーなことになっているのね。

黒島が殺人狂なのは前半で明白になるので、翔太が「黒島を守るために二階堂が南を殺した」と決め付けて激しく詰め寄るのが愚の骨頂にしか見えない。その後の翔太の言動も、いちいちバカ丸出しで騒がしい。
っていうか全体を通して、翔太がどうしようもなく疎ましい奴になっている。
一応は主人公のはずだが、ダントツで邪魔な存在だ。いない方がスッキリと見やすくなる。
トリックスター的に話をかき回す役割ではなく、シンプルにイライラさせるだけの奴になっている。

TVドラマを映画化する際、ドラマ版の世界観や設定を踏襲した上で、「TVシリーズと同じことを繰り返すだけでは映画化する意味が無い」という問題を解消することが求められる。
開き直ってTVシリーズと何も変わらない状態に仕上げているケースもあるが、それだと「じゃあTVシリーズの続編やスペシャルドラマでいいじゃん」ってことになる。
そこでTVドラマとの差別化を図るため、良く使われる方法が2つある。
「ゲストを出演させる」「舞台を変える」という方法だ。

「ゲストを出演させる」という方法に関しては、たぶん9割以上の劇場版で用いられているんじゃないだろうか。特に「映画ならではの大物」を登場させることで、箔を付けるケースは少なくない。
最近は「映画スター」という存在そのものが日本だと絶滅危惧種になっているので難しい部分はあるだろうが、ともかく「新たなキャスト」で差別化を図るのは定番だ。
「舞台を変える」という方法も、多くの作品で使われている。TVシリーズを踏襲しつつ変化を付けるには、最も簡単な方法と言えるだろう。
舞台を海外にしてスケール感を出すとか、東京が舞台の作品なら地方に遠征するというパターンもある。

この映画は、そういった2つの方法をストレートに持ち込んでいる。
この作品に限ったことではないが、劇場版が製作されるのは基本的にTVドラマ版が人気だった時だ(例外もある)。なので果敢に挑戦なんかしなくても、安易な安全策だけを採用しても、一定の観客動員が見込めるのだ。
挑戦して予想外の大ヒットを狙いに行くよりは、確実に稼ぐ方法を選んだ方が、商売としては賢明だろう。
最近の邦画は製作委員会が作るので、外れた時のリスクを最大限に考慮する必要があるだろうしね。

「これは伏線ですよ」というポイントや、「これは怪しいアイテムですよ」という物品には、ものすごく分かりやすくカメラがアップで捉えたりズームインしたりする。
「この人は何か企んでますよ」とか、「この人は怪しんでくださいね」という時には、対象となる人物が大げさに芝居をする。
パロディー的な匂いさえ感じるほど、そういうアピールは強い。
むしろパロディーとして徹底的に作り込んでいれば、それはそれで有りだったんじゃないかとも思うけど、そういう方向での丁寧さなど無い。

TVシリーズを見た人なら既に分かっているだろうが、ミステリーとしての醍醐味など全く無い。
ミステリーとして真正面から受け止めると、痛い目を見ることは確実だ。
TVシリーズと同様に、今回も伏線を綺麗に回収する気など皆無。一応は伏線を回収していく流れがあるが、全てがバカバカしさに満ち溢れている。
被害者の死に様など、わざと陳腐にしている部分もあるんだろうとは思うが、それで得られるメリットが私には全く分からない。シンプルに陳腐という印象を与えるだけにしか思えない。

登場人物は次々に意味ありげだっりた怪しげだったりする言動を取るが、その大半は「ただ意味ありげだったり怪しげだったりするだけ」である。
表面上の飾り付けに過ぎず、「実は」という種明かしにミステリーの面白さがあるわけではない。それどころか、そもそも深い意味なんて無い言動も少なくない。
どっちにしても、ミスリードのための仕掛けとしては全く成立していない。
そもそも、ミスリードとしての意図を本気で考えていたのかさえ疑問だ。

ギミックがミスリードのためのモノではなく、「たくさんのギミックを用意する」という目的を達成するためだけのモノにしか見えない。
だから「実はこういう裏がありまして」と種明かしされても、謎解きの面白さなんて感じられない。
伏線と呼ぶには遠すぎる描写や、都合の良すぎる設定も少なくない。
トンチキな行動を取る連中ばかりが揃っているし、真相が明かされても「なんだそりゃ」と呆れるばかり。
種明かしも含めて、何もかもがバカバカしい。

映画のエンディングでNG集が付いていたり、DVDの特典でスペシャル・ムービーが入っていたりするケースがあるが、それと似たようなモンだと思えばいいんじゃないだろうか。
ようするに、これは『あなたの番です』というTVドラマの「オマケ」みたいなモンだ。
TVシリーズと同じキャストを揃えて、「今回は違う役回りを担当する」とか「今回は生き残る」ってのを楽しんでもらう企画だと断言してもいいだろう。
それ以上でも、それ以下でもない。

(観賞日:2023年1月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会