『アラスカ物語』:1977、日本

宮城県石巻市出身の安田恭輔は1887年、20歳の時に渡米した。1890年、彼は沿岸警護隊ベアー号のキャビンボーイとして働き、フランクと呼ばれていた。船は季節外れの流氷に閉じ込められ、食糧が尽きた。安田は船員3人から食糧の横流しという罪を着せられ、激しい暴行を受けた。そこへ船長が現れ、船員たちを制止した。安田は200キロ離れたポイント・バローへ救援を求めに行く使者に志願し、船を出た。猛吹雪に見舞われた彼は衰弱し、倒れて意識を失った。そこへエスキモーの2人が犬ゾリで通り掛かり、安田をポイント・バローの交易所まで運んだ。
安田が目を覚ますと、所長のチャールス・ブロワーが声を掛けた。ブロワーは船長の手紙を読んでおり、十時間後に救援隊が出発することを教えた。安田は救援隊と共に、ベアー号へ戻った。しかしブロワーが去ろうとすると、連れて行ってほしいと志願した。船長は了承し、安田は交易所で働き始めた。すると鯨捕りの親方であるアマオーカが現れ、安田をエスキモーだと誤解して「どこから来た?」と質問した。安田がブロワーに通訳してもらって「日本から来たエスキモーだ」と答えると、アマオーカは歓迎した。
アマオーカたちは安田のために宴を開き、歌と踊りを披露した。その年の初めての太陽が顔を出すと、エスキモーは一斉に願い事をする。その様子を見た安田は、太陽に両手を合わせた。アマオーカの娘のネビロは、彼に好意を抱いた。ブロワーはエスキモーのナトックと結婚しており、安田に「日本に帰るつもりか?ここで死ぬまで暮らすか?」と問い掛けた。安田は子供たちに笑われながらも犬ゾリを扱う練習を積み、アザラシ狩りに出掛けた。彼はタッチャンガに教えてもらい、銃の撃ち方を学んだ。
鯨漁の季節が近付くと、祈祷師のモリサックが占って数名の男を選んだ。選ばれた男は、しかるべき女を抱くよう求められる。女の匂いが、鯨を呼び寄せると信じられているからだ。安田も占いで選ばれ、タッチャンガの妻のリッキーナを抱くよう指示された。タッチャンガもリッキーナも快諾するが、安田は「それは無理だ」と断る。タッチャンガは「鯨が捕れなかったら、お前のせいになるぞ」と言うが、安田は拒否して逃げ出した。
安田はネビロから「女が怖いの?」と責められ、陰で笑い者になっていることを知らされた。交易所にブロワーを訪ねて来た2名の白人は、タッチャンガとリッキーナに金を払わずに不遜な態度を取った。その様子を見た安田が仲裁に入ると2人は殴り掛かり、タッチャンガにも暴力を振るった。知らせを受けたネビロは、急いで交易所へ向かう。安田は反撃し、2人とも撃退した。そこへ駆け付けたネビロを見て、安田は笑顔を浮かべた。
鯨漁に出た安田たちは、すぐに1頭を捕獲した。だが、それから何日が経過しても、2頭目を見つけることは出来なかった。鯨だけでなくアザラシやカリブーも不漁のまま、冬が訪れた。モリサックは占いを執り行い、「不漁は我々の1人が神の言葉に背いたからだ」と述べた。安田は災いを招く男として、エスキモーから敬遠された。エスキモーの掟では、災いを招く者は自ら命を絶たねばならなかった。安田はブロワーに促され、ポイント・バローを去ることにした。
安田が犬ゾリでポイント・バローを出発すると、すぐにネビロが追い掛けて来た。彼女が一緒に連れて行ってほしいと頼むと、安田は「俺はフラックスマン島へ行くんだぜ」と告げる。ネビロが「両親には話してきた。どこへでも行く」と覚悟を語ると、彼は「俺は日本人だ、エスキモーじゃない。一緒にいても幸せになれない」と諭す。ネビロが「私は幸せになりたいんじゃない。貴方の奥さんになりたいの」と訴えると、安田は強く抱きしめた。安田はテントを張ってネビロと肉体関係を持ち、今日からエスキモーになると約束した。
1年半後、安田とネビロはフラックスマン島で産まれた娘のキョーコを連れて、久々にポイント・バローへ戻った。すると村は寂れた様子で、生気の無いナトックが生後間もない女児を抱いて立っていた。ネビロはナトックに歩み寄り、赤ん坊が死んでいると気付いた。安田はブロワーと話し、「2年続きの不漁だ。飢饉の時、赤ん坊は女の子から間引きされ、雪中に放置されて殺される。ナトックの子は肺炎で死んだ。彼女は自分の手で殺さずに済んだ」と聞かされた。
アマオーカは安田に、「鯨の群れは来るが、白人の捕鯨船が全て捕まえてしまう。白人の大砲を海に沈めることが出来るのはお前だけだ」と告げる。安田はブロワーに勧められ、再びポイント・バローで暮らし始めた。白人の乱獲で海の動物は減少しており、彼はタッチャンガと共に山へ赴いた。2人はカリブーの群れを発見し、数頭を仕留めてポイント・バローへ戻った。安田はタカブックなど他の仲間も連れて再び山へ行くが、今度は何日待ってもカリブーを見つけることが出来なかった。
ある夜、犬たちが吠えるので安田がテントの外に出ると、空にオーロラが出ていた。タッチャンガたちが「不吉なオーロラだ。何か悪いことが起きている」と言うので、安田はポイント・バローへ戻った。すると麻疹が流行し、キョーコが死んでいた。ポイント・バローでは麻疹によって、300人の内の120人が命を落とした。毛皮交易船が救援食糧を届けに来た時、鉱山師のトム・カーターが乗船していた。彼はブロワーの紹介で安田と会い、金鉱探しの協力を要請した。
カーターは安田に、金鉱探しに取り掛かると2年か3年は掛かること、その間は食糧も自給生活を余儀なくされることを話し、ポイント・バローからブルックス山脈を越えるルートにエル・ドラドがあると推理していることを明かした。彼は銀行の口座に一銭も残っておらず、ブロワーが準備資金を提供していた。カーターは安田に、どちらが先に金鉱を発見しても利益は半々にするという契約書への署名を求めた。安田が契約書を呼んでいるとリッキーナが来て、ネビロの危機を知らせた。安田が飛び出すと、交易船に乗組員2人がネビロを襲っていた。安田は助けに行くと、乗組員の1人が威嚇発砲する。安田が怯まずに歩み寄ると、乗組員は本当に撃とうとする。カーターが彼を射殺するともう1人は逃亡した。
安田がカーターへの協力を決めると、村民は連れて行ってほしいと頼む。安田は「今は連れて行けないが、必ず鯨やアジラシに代わる獲物が捕れる新しい土地を見つけて迎えに来る」と約束し、ネビロとタカブックを連れて小舟で出発した。フラックスマン島からカニング河を遡った一行は、ポイント・バローを越えてから3ヶ月でブルックス山脈を越えた。ユーコン河流域で砂金を探し始めた安田たちは、周囲にインディアンがいると知って警戒した。
安田たちは森を歩き、場所を移動した。ネビロは岩場を削りに向かった安田たちと別行動を取った時、インディアンに包囲された。そこへ日本人のジョージ大島が現れてインディアンを追い払い、ネビロに「金鉱を探している日本人を知らないか?」と尋ねる。彼は砂金探しの最中に食糧が尽きてしまい、安田の噂を知って捜しに来たのだ。ネビロは大島をテントに案内し、食事を与えた。テントに戻って来た安田はネビロから大島のことを聞き、日本人と知って喜んだ。
カーターは安田に、「南北戦争で戦友だったというアメリカ人が良く来たが、3度も金を騙し取られた」と忠告した。大島は熊本の士族出身で、安田は一緒に食事を取りながら会話に花を咲かせた。翌朝、大島は自分への警戒心を崩さないカーターを見て、安田に「白人野郎に人種差別の偏見がある限り、いつか必ず裏切られるぞ」と告げた。彼はインディアンの勢力範囲で銃を使わないよう忠告し、エスキモーを毛嫌いしていると教えた。大島は簡単に他人を信用しないよう助言し、安田に別れを告げて去った。
夜、安田はネビロから「日本のことを話してくれない」と寂しさを吐露され、抱き寄せて詳しく教えた。ネビロが妊娠を明かしたので、彼は大喜びした。一行は砂金探しを続けるが一向に見つからず、カーターはワイズマンの町で援助を要請するが断られた。彼は安田たちに、「鉱山局の役人から、今頃やって来ても金鉱など残っていないと言われた。パーティーを解散しようと思う」と語る。安田は「ここで投げ出すわけにはいかない。ポイント・バローの人たちは私だけを当てにしている」と告げ、カーターに翻意を求めた。カーターとタカブックは犬ゾリを使った運送業を始め、安田は酒場の下働きの仕事を見つけて資金作りに励んだ。ある夜、安田が出産間近で体調の悪いネビロと小屋にいると、狼の群れが襲い掛かって来た。安田はネビロを守りながら、必死で戦う…。

監督は堀川弘通、原作は新田次郎(新潮社版)、脚本は井手雅人、製作は田中友幸&藤井浩明&山田順彦、撮影監督は岡崎宏三、美術は薩谷和夫、録音は原島俊男、照明は小島正七、編集は黒岩義民、音楽は佐藤勝。
出演は北大路欣也、三林京子、宍戸錠、夏八木勲、丹波哲郎、宮下順子、岡田英次、丹波義隆、ダン・ケニー、ウイリアム・ロス、デェイブ・フリードマン、タム・ガレインジ、ジム・バワーズ、タリア・アルカーネン、川口節子、記平佳枝、小松英三郎、細井利雄、佐々木久男、石矢博、湯川勉、奥村真悟、野坂信一ら。


新田次郎の同名小説を基にした作品。
監督は『王将』『告訴せず』の堀川弘通。
脚本は『喜劇 競馬必勝法』『黒部の太陽』の井手雅人。
安田を北大路欣也、ネビロを三林京子、ジョージを宍戸錠、タッチャンガを夏八木勲、アラシュック大酋長を丹波哲郎、リッキーナを宮下順子、アマオーカを岡田英次、タカブックを丹波義隆、ブロワーをダン・ケニー、カーターをウイリアム・ロスが演じている。
配給は東宝だが製作は東京映画で、東京映画創立25周年記念作品となっている。

粗筋で記した冒頭部分、「沿岸警護隊ベアー号のキャビンボーイとした働く」という辺りまでは、ナレーションだけで処理される。
安田が初めて登場するのは、3人組に暴行されるシーンだ。
そこで彼は「フランク」と呼ばれているのだが、それはナレーションで説明されていなかったため、暴行されているのが安田ってことが無駄に分かりにくい。
暴行で顔が腫れて血も出ているので、北大路欣也ってのも少し分かりにくいのよ。そこは「フランクと呼ばれてる」ってことに、先にナレーションで触れておけば良かったでしょ。

安田がポイント・バローへ向かうまでの展開は、5分ぐらいで片付けられる。前述したように、その大半はナレーションだけで処理される。
決してテンポ良く進んでいるわけではなく、ただ拙速なだけだ。
渡米の理由については、「何かド外れたことをやってみたい年頃だ。故郷の目の前の海は、俺に取って夢だった。理想と冒険が海の向こうにある」という語りだけで軽く済まされる。そして地図が表示され、ポイント・バローと文字が出る。
でも、その時点ではポイント・バローが舞台になっていないので、後で安田が目指す時に表示すればいいでしょ。そのタイミングで出している意味は全く無い。

っていうかさ、リンチされるシーンで安田が初めて登場するのなら、そこから映画を始めれば良くないか。
そこまでの経緯なんて、最初にナレーションで雑に触れておかなくてもいいよ。後から本人の台詞で触れさせてもいいし、いっそのこと触れなくてもいい。
渡米の理由を語ったところで、大した効果は無いんだし。
で、そこまではナレーションで饒舌に喋っていたのに、安田がポイント・バローへ向かうと、打って変わって映像だけで進める。
過酷な自然と、それに挑む安田を見せるだけで観客を引き付けられると思ったのかねえ。

安田がベアー号の仕事を辞めてポイント・バローに移ることを決めたのは、そこが気に入ったからではない。ベアー号での生活が辛いので、逃げたかっただけだ。
なので、ポイント・バローでの生活を続けるのなら、「最初は逃避が目的だったが、そこが次第に気に入って」という過程を描く必要があるはずだ。
だが、そこが雑で、あっという間に馴染んでいる様子だ。
そのため、「なぜ?」と感じる疑問への答えは、何一つとして用意されていない。

安田が交易所で白人を撃退した時、ネビロが駆け付ける。たぶん、「ネビロが安田の勇敢な行動を知って見直す」ということを描きたいんだろう。
ただ、そもそもネビロは安田が来た時から彼に惚れていたので、見直す作業なんて不要なはずで。そこで安田の行動を見て印象が変わるってのを描きたいのなら、笑い者にしていた村民たちに目撃させた方がいいんじゃないかと。
ただ、その後には「災いを呼ぶ存在として安田が村民から敬遠される」という展開があるので、そうなると「白人を撃退する安田を見て印象が変わる」と手順は邪魔になるわな。
タッチャンガにしても、安田に助けてもらったけど、占いの結果を受けて避けているし。

で、そんな風に考えると、安田が白人を撃退する手順って何のためにあったのかと思っちゃうのよ。後の展開に上手く結び付かないの要らなくないか。
そこの問題を解決しようとするなら、順番と人物の入れ替えが必要じゃないかと。
まず、安田が交易所で助ける対象を、タッチャンガ&リッキーナからネビロに変更する。そして、その手順を先に描き、その後で「鯨漁の前に占いがある」という展開を描く。そして安田がリッキーナとのセックスを拒否し、鯨が全く見つからないので「神の言葉に背いたせいだ」と村民から疎んじられる流れにする。
そうすれば占いのシーンは1度で済むし、色々なことがスッキリするんじゃないかと。

安田はネビロが追って来ると、フラックスマン島へ向かうことを告げる。そしてネビロを連れて行くと決めるので、そこからは安田たちがフラックスマン島で暮らす展開に入るのかと思いきや、1年半後に飛んでいる。
キョーコという女児が誕生しており、ポイント・バローに戻るとブロワーが「飢饉だと赤ん坊は女の子から間引きされる」と話す。なのでキョーコに危機が迫る展開があるのかと思いきや、それは全く無い。
なので、そこの手順は何だったのかと言いたくなるぞ。
ナトックの娘が肺炎で死んでいるのも、何のための設定なのかと。そこは単純に、「不漁続きで村民が困窮している」ってだけで良くないか。

っていうか、実は不漁続きってことじゃなくて、ホントは鯨の群れが来ているのに白人の乱獲でエスキモーの所まで回って来ないという状況なのよね。
で、安田はアマオーカに白人の大砲を海に沈めることが出来るのはお前だけだ」と言われてポイント・バローに戻るのだが、じゃあ白人の乱獲問題を解決するために動き出すのかというと、山の動物を探しに行く。
そうなると、彼が村へ戻った意味が無いだろ。
あと、村民は災いをもたす男として安田を疎んじていたのに、1年半が経って忘れちゃったのかよ。

当然っちゃあ当然なんだろうけど、エスキモーを演じているのは全て日本人だ。
白人役の外国人は手配できても、そこは難しいだろうしね。
それでも無名の役者ばかりなら大して気にならなかったかもしれないけど、そういうわけにもいかないので三林京子や夏八木勲といった有名俳優を使っている。
そのため、さすがに「日本語を喋らせエスキモーの言語という設定にする」ということは無いけど、エスキモーが登場した時点で日本人ってことは簡単に分かる。

安田は大島が日本人と知って喜び、無条件で歓迎する。「久々に日本人に会えた」ってことで、彼は大喜びで心を許すのだ。
ただ、設定としては理解できるけど、前述したように、こっちはエスキモー役の日本人を序盤から何人も見ている。なので、「久々じゃないけどね。ずっと日本人と一緒だったけどね」と言いたくなる。
あと、安田がポイント・バローでエスキモーとして暮らす物語が続くのかと思ったら、途中で金鉱を探す旅に出る展開へと突入するのよね。そうなると、安田が「エスキモーになる」と決意した意味は完全に消え失せるのよ。
終盤に入って「エスキモーを移住させるために先導する」という展開に入るけど、「別に安田がエスキモーじゃなくてもいいのでは」と思ってしまったなあ。

インディアンが来ても大きなピンチには至らず、大島と出会うイベントはあるものの、大きな盛り上がりは無いまま時間は過ぎて行く。
このままじゃマズいってことなのか、狼の群れが小屋を襲う展開で緊迫感のある見せ場を作ろうとしている。
資金稼ぎのために働くだけでは何のドラマも生まれないだろうから、何かイベントを用意するのは分かる。ただ、小屋に何度も突撃し、壁を破壊して安田たちに襲い掛かるってのは、もはや狼じゃなくてモンスターにしか見えないぞ。人食い熊じゃあるまいし、狼がそこまでの行動を取るかねえ。
で、ネビロは腹から出血して苦悶しているんだけど、翌朝のシーンに切り替わると赤ん坊が産まれていてネビロも穏やかに眠っている。
あの状況で、よく母子共に無事だったな。

終盤、エスキモーが移住のために交渉が長引くと、タッチャンガが苛立って「このままでは飢え死にする」と安田に訴える。食料は充分にあるはずだと安田が言うと、彼は「生肉が食べたい」と主張する。安田が少し待つよう言ってもタッチャンガは受け入れず、勝手に狩りを初めてインディアンに殺される。
ここを悲劇として描いているけど、自業自得でしかないので呆れるだけ。
その後、安田は自ら交渉に行くが、ここで登場するインディアンの大酋長を演じているのが丹波哲郎。
もうさ、丹波哲郎がインディアンの大酋長を演じているだけで完全にギャグでしょ。だから、そこは緊張感溢れる交渉シーンのはずなのに、なんか笑っちゃうのよね。

(観賞日:2022年3月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会