『悪夢ちゃん The夢ovie』:2014、日本

明恵小学校6年2組の担任教師である武戸井彩未は、生徒たちの前で「私は今、とても後悔しています」と口にした。彼女は予知能力を持った悪夢を持ってしまう古藤結衣子の存在に触れ、「現実では良い夢に変えていこうと約束したことを後悔しています」と話す。彼女は結衣子を立たせると、「貴方が悪夢を見るんじゃない。貴方が見るから悪い夢になる。貴方の心が悪いからだ」と非難する。そして、無意識で生徒を差別している、普通な人間と嫌いな人間の悪夢は見ても内緒にしているのだと指摘した。
彩未が「みんなに貴方の心を見せるのよ」と促すと、怪鳥ハルピュイアに乗った少年夢王子が教室に現れた。少年夢王子は生徒たちを剣で次々に切り裂き、黒煙に変えて消滅させる。少年夢王子は彩未も狙うが、夢王子が盾になった。夢王子を軽く始末した少年夢王子は、彩未の首を切って消滅させた。少年夢王子は結衣子に、「これで普通の人間と嫌いな人間はいなくなったよ。これからは僕が、君の悪夢を受け止めてあげる。だから安心して、僕と一緒に未来を作ろう」と告げる。
結衣子は「それなら私とチューして」とせがむが、彩未の生首が出現して「お前の夢も、ただの欲望になったなあ」と笑う。結衣子は悲鳴を上げてベッドから体を起こし、夢から醒めた。結衣子は祖父の万之介に「昨夜の夢だけは絶対に見ないで。もし見たら絶交だから」と釘を刺し、学校へ向かった。結衣子は彩未を避けようとするが、すぐに呼び止められる。悪夢を見たと悟った彩未が興味本位で質問するが、結衣子は「何も見てません」と否定した。
その朝、6年2組に渋井完司という転校生がやって来た。彼が少年夢王子と瓜二つだったので、結衣子は驚いた。小泉綾乃は「あのことも話すんですか」と彩未に質問し、「渋井君には、きっと何かあると思います。昨夜、その人が転校して来る夢を見ました」と言う。すると他の生徒たちも次々に、完司の夢を見たと言い出す。それぞれ内容は異なっていたが、全員の夢に完司が登場していた。彩未は自分も完司の夢を見たことを打ち明けた。
結衣子の無意識に全員が影響を受けたのでないかと、綾乃は推測を述べた。他にも同意する生徒たちがいたが、彩未から質問された結衣子は「分かりません」と答える。「どういうクラスなんだ?」と漏らす完司に、子供たちは予知夢を見る生徒がいることを教えた。綾乃が「古藤さんは渋井君の不吉な未来を見たんじゃないですか」と指摘すると、完司は「俺の未来を返せよ」と結衣子に詰め寄った。完司がカッターナイフを構えたので彩未が止めようとすると、悪夢を思い出した結衣子は「来ないで」と告げた。
完司が「お前が消えれば、俺の未来も消えるんだろ」とカッターナイフを振り上げると、教師の貝原聡子が駆け込んで「やめなさい」と告げる。完司が「冗談だよ。みんなが真剣に冗談を言うから」とカッターナイフを下ろしたので、生徒たちは安堵した。職員室に戻った彩未は、完司について同僚の麦山勇市や稲本克行たちと話し合う。家庭に問題があるのではないかと貝原が言うと、教頭の中込真也は完司に母親がいないことを話した。
保健室で落ち込んでいる結衣子を見つけた彩未は、完司の夢を見たのだろうと指摘する。養護教諭の平島琴葉が興味津々の態度を見せる中、彩未は結衣子に「その夢を見せてよ」と言う。しかし自分がチューをせがむ内容なので、結衣子は「駄目、見たら殺す」と拒絶した。しかし「人を好きになるって、どういうこと?」と彼女が琴葉に訊いたので、彩未は「渋井完司が好きになっちゃったの?」と質問した。すぐに結衣子は「殺す、違う」と否定し、布団を被った。
完司は下校する途中、ハム焼きの屋台を密かに覗いているクラスメイトの井上葵を目撃する。完司が「美味しそうだよね」声を掛けると、彼女は「あんなの美味しいわけないから」と告げて立ち去った。屋台に近付いて「1つ下さい」と告げた完司は、主人の達彦が葵の父だと知った。彩未は完司のアパートを訪れ、父の幸介と会う。幸介は長距離トラックの運転手で、「完司には寂しい思いをさせています」と言う。「前の学校で何かあったんですか」という質問には「いいえ」と否定した幸介だが、真剣な顔付きで「何かあれば、すぐに連絡を下さい」と口にした。
翌日、綾乃たちは完司に、結衣子の無意識に影響を受けて夢を見たことを改めて説明する。「結衣子ちゃんは悪夢に苦しんで来た。だから私たちは平気でいなきゃいけない。そう彩未先生に教わった。どんな悪夢でも、自分の未来はで切り開くと決めた」と彼女たちは話すが、完司は呆れたように「お気楽でいいなあ」と言う。「自分の未来は自分で変えるなんて、出来ないよ」と告げた完司は、「じゃあさ、人の未来は変えられると思う?」と問い掛けた。
完司は綾乃たちを連れて達彦の屋台へ行き、草笛を吹いた。すると綾乃たちは布袋から一斉にネズミを取り出し、屋台に乗せた。綾乃たちは屋台を破壊し、完司は少年夢王子となって葵の前に降り立った。少年夢王子が「君の未来は、僕が作る」と肩を抱くと、結衣子が駆け付けて「駄目」と止める。結衣子は手を振って葵を消滅させ、少年夢王子にチューをせがんだ。そこに生首を抱えた彩未が現れて高笑いを浮かべ、結衣子は夢から醒めた。
その朝、登校した綾乃たちは葵に、「ハム焼きをみんなで買って食べた。美味しかった」と告げる。その様子を見ていた結衣子は、満足そうな笑みを浮かべる完司に気付いた。ハム焼きの着想について葵から質問された達彦は、昔のハムのCMから思い付いたのだと答えた。ハムのCMを見た2組の生徒たちが「これを全面に押し出すべき」と話し合う様子を、完司は意味ありげな笑みで眺める。そんな彼の様子を、結衣子だけが見ていた。
彩未は万之介と会い、結衣子に内緒で彼女の夢を見せてくれないかと頼む。しかし結衣子から絶交だと言われている万之介は、「個人情報だから」と断った。そこへ志岐貴が結衣子を連れて現れ、「夢は個人情報だ。それを見る権利は、誰にも無い」と言う。しかし結衣子は彩未に、「夢を見てもらわないといけないかもしれない」と告げる。一方、生徒たちはチラシを作成し、「なつかしのハムパンケーキ」としてハム焼きを宣伝する。屋台の仕事も積極的に手伝い、そのおかげで大勢の客が集まるようになった。
彩未は研究所へ移動し、琴葉や山里峰樹と共に結衣子の夢を見た。しかしチューをせがむ直前で結衣子は「この先は見ちゃダメ」と叫び、夢札を機械から外した。彼女は彩未に、葵の無意識と繋がったことを話す。怪鳥の顔がシスターマリカに似ていたので、彩未は不思議に思った。その怪鳥がハルピュイアであること、名前が「ひったくる者」を意味することを、彼女は知っていた。マリカは拘置所にいるため、子供たちの夢に関わることは出来ない。志岐は「乗っている少年が問題なんじゃないか」と指摘し、彩未は完司が子供たちを操ろうとしているのではないかと考える。
綾乃たちは貸し店舗を見つけ、そろそろカフェを持つよう葵に提案する。葵は「いいよ、そこまで」と困惑するが、「私たちの努力を無駄にしないでよ」という押しの強さに負ける。達彦から相談された妻の佳美は、ケーキ屋を潰した上に新たな借金を作ることに反対した。しかし達彦は積極的に動くべきだと主張し、カフェを開くことを決める。結衣子は葵がハム焼きにゴルゴンゾーラを入れ、新商品が大人気になる夢を見た。生徒たちは新メニューを考えるが、名案が出ない。綾乃からアイデアを求められた結衣子は、完司の視線を気にしながら「ゴルゴンゾーラ」と口にした。
ゴルゴンゾーラを入れた新メニューは大人気となり、結衣子はクラスメイトから称賛される。結衣子から相談を受けた彩未は、仕方なく手を貸すことにした。結衣子の夢の続きを見ると、完司を乗せたハルピュイアが糞を落とし、ネズミ人間に変身した達彦が溺死していた。綾乃たちから「私たちはちゃんと人の未来を変えられたでしょ」と言われた完司は、「だから言ったんだ。自分の未来は変えられないって。人間は、周りによって変わるだけなんだ。それを君たちは、ちゃんと証明したじゃないか」と述べた。
完司は腐らせた牛乳を隠し持ってカフェに行き、手伝いを申し出た。厨房に入った彼は達彦の目を盗み、腐った牛乳を生地に混入させた。食中毒患者が大量に発生したため、保健所の職員が店の調査に入った。ハム焼きが原因だと判明したため、カフェは閉店に追い込まれた。心配した彩未が家へ行くと、達彦は外出したまま戻っていなかった。夏休みの家族写真を見た彩未は、結衣子の夢で達彦が溺死した川が写っていることに気付いた。
達彦は吊り橋から身を投げて自殺を図る、駆け付けた彩未、琴葉、葵が発見したために一命を取り留めた。責任を感じた葵は学校を休み、彩未は生徒たちに責任を感じるよう説教する。生徒たちが「何も悪いことをしようとした覚えは無い」と反発すると、彼女は「それは未来を変えることではなく、ただのお節介だ」と声を荒らげた。葵の気持ちを考えずに行動したのは支配欲に過ぎないのだと、彼女は厳しく説教した。扇動したことをクラスメイトに指摘された完司は、「井上さんは運が無かっただけだと思うよ」と冷淡に告げて。
生徒たちが完司を責めていると、彩未は怒鳴り付けた。「私は今、とても後悔しています。貴方たちに、未来を作る力はまだ無い」と言い、予知夢の話をすることを禁じた。彩未は完司を保健室へ連れて行き、「貴方、何者なの?」と尋ねる。「僕は何者でもありませんよ。自分が無いんです。だから未来も無いんです」と完司は言い、本当の母親に捨てられたことを話した。彼は彩未に、「だから、今の親にもいつ捨てられるか分からないじゃないですか。自分で未来は決められないんですよ。まだ子供だから」と言う。
完司は「そんなことを訊いてくれたのは先生が初めてです。まさか自分が安全な場所にいて、僕を変えるなんてことはしないですよね」と話し、不敵な笑みを浮かべた。彩未は拘置所へ赴いてマリカに面会し、完司のことを話す。マリカは完司のことを知らなかったが、幸介が彩未と同じ施設で育ったことを語る。幸介は数年前に施設を訪れ、彩未が自分について描いた予知の絵について尋ねていた。そこでマリカは、その絵を幸介に渡し、現在の彩未について教えたのだと語った。マリカは彩未に、「彼を助けてあげて」と告げた。
彩未は夢獣に頼み、幸介と完司の無意識の世界へ連れて行ってもらう。夢獣は彼らが出会った場所の近くへ案内し、「この夢は、もうすぐ貴方の予知夢に変わろうとしている」と言い、姿を消した。すると完司に導かれた2組の生徒たちが現れ、崖から海へ次々に身を投げた。完司は制止しようとする彩未の背中に、ネジ巻きを差し込んだ。その様子を灯台から見ていた結衣子は、完司の草笛で飛び降りた。彩未もネジ巻きに動かされ、崖から身を投げた。彩未と結衣子は、同時に夢から醒めた。
完司は届いた宅配便の「斉藤志保」という名前を見て、本当の母親が静岡県下田市に住んでいることを知った。結衣子は完司が母親に会いたがっていると感じ、彼のアパートへ行く。すると完司は彼女を連れて電車に乗り、母の元へ連れて行くと説明する。彼は「ずっとお母さんを殺したかったんだ。その未来を変えられるもんなら変えてみろよ」と、結衣子に言い放った。結衣子と完司が失踪したため、彩未は仕事中の幸介に連絡を入れた。彩未が教室に戻ると、生徒全員が姿を消していた…。

監督は佐久間紀佳、原案は恩田陸『夢違』(角川文庫)、脚本は大森寿美男、製作は城朋子&佐野讓顯&市川南&細野義朗&藤門浩之&柏木登&安田猛&鈴木聡、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、Co.エグゼクティブプロデューサーは神蔵克&大平太&鈴木光、プロデュース協力は伊藤響、プロデュースは戸田一也、プロデューサーは佐藤貴博&野村敏哉&千葉行利&大塚英治、アソシエイトプロデューサーは北島直明、ラインプロデューサーは坂本忠久、撮影は北信康、照明は渡部嘉、美術は高野雅裕、録音は湯脇房雄、編集は田中愼二、VFX&特殊造形プロデューサーは岡野正広、VFXスーパーバイザーは熱田健太郎、音楽は横山克、音楽プロデューサーは石井和之。
主題歌『泣いてもいいんだよ』 ももいろクローバーZ 作詞・作曲:中島みゆき、編曲:瀬尾一三。
オープニングテーマ『サラバ、愛しき悲しみたちよ』ももいろクローバーZ 作詞:岩里祐穂、作曲:布袋寅泰。
出演は北川景子、GACKT、優香、小日向文世、藤村志保、田中哲司、阿南健治、キムラ緑子、木村真那月、濱田マリ、岡田圭右(ますだおかだ)、川村陽介、和田正人、佐藤隆太、マリウス葉(Sexy Zone)、六角精児、本上まなみ、森尾由美、雛形あきこ、西山繭子、立原麻衣、脇知弘、鈴木福、中原果南、深水元基、西沢仁太、高橋琉晟、木村葉月、鍋本凪々美、内藤るな、川嶋紗南、南乃彩希、大友花恋、白本彩奈、田爪愛里、豊田留妃、石橋宇輪、土岐瑞葵、春名風花、斎藤夏鈴、高村竜馬、千葉裕太、清水優哉、原田一輝、若山耀人、稲田羅倭、井水大輔、大田愛翔、石黒雄大、新井雄貴、渋谷龍生ら。


日本テレビ系列で放送されたドラマ『悪夢ちゃん』の劇場版。
ドラマ版の演出家だった佐久間紀佳が、初の映画監督を務めている。脚本はドラマ版に続いて『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』『次郎長三国志』の大森寿美男が担当。
彩未役の北川景子、志岐&夢王子役のGACKT、万之介役の小日向文世、琴葉役の優香、結衣子役の木村真那月、貝原役の濱田マリ、麦山役の岡田圭右(ますだおかだ)、稲本役の川村陽介、山里役の和田正人、甘澤校長役のキムラ緑子、中込役の阿南健治、2組の生徒を務めた子役たちなど、ドラマ版の主要キャストが続投している。
完司&少年夢王子役のマリウス葉(Sexy Zone)は、TVドラマ『悪夢ちゃんスペシャル』に続いての登場。
他に、幸介を佐藤隆太、達彦を六角精児、美保を本上まなみが演じている。

TVシリーズだけでなく、その後に放送された『悪夢ちゃんスペシャル』とも繋がっている。
つまり、この2つを事前に観賞していないと、映画に付いて行くのは大変だということだ。
一応、冒頭で「これまでのこと」と題した作文を読み上げる結衣子のナレーションが入り、今までのストーリーを軽く説明している。
ただし、ドラマを全く見ていなかった人が、そのザックリした説明だけで登場人物やら物語やら世界観やらを全て把握できるのかというと、それは絶対に無理だ。

ようするに冒頭のナレーションってのは、「ドラマ版を見ていた人に向けた復習」という程度の意味合いに過ぎない。
この映画に限ったことではなく、TVドラマの劇場版では仕様となっているが、いわゆる「一見さん、お断り」の作品ってことだ。
裏を返せば、「ドラマの視聴者だけでも充分に稼ぎを出すことが出来る」と製作サイドは考えているはずだ。だからTVシリーズの視聴者さえ満足させることが出来れば、商売としては成功ってことになる。
しかし興行的に惨敗したので、どうやら当ては外れたようだ。

前述したように、冒頭では結衣子のナレーションによる説明が入る。そんな結衣子が悪夢を見るシーンがあって、登校シーンでも彼女のモノローグが入る。だったら、その後も結衣子のナレーションが入るんだろうと予想するのは普通のことだろう。
しかし登校シーンの後、永井一郎がナレーションを務めるタイトルバックが入る。ただし、ここは「オープニングの決まりごと」と考えれば、そんなに大きな問題は無い。
しかしタイトルが明けた後、「そんな悪夢ちゃんが私のクラスにやって来て半年が経つ」といった彩未のナレーションが入るのは、さすがにマズい。ナレーション担当は、彩未か結衣子の片方に限定しておくべきだ。
少女漫画なんかだと複数の人物がナレーションを交代していくケースも多いし、それは何の違和感も無い。ただ、この映画では違和感しか無い。

2組の生徒たちが目標を書いた習字が壁に貼り出されているシーンでは、「ワールドカップ優勝」などの文字がある中、「ムダな続編はつくらない」という榎本歩夢の目標をカメラがアップで捉える。
このノリはどこかで見たことがあるなあと思ったが、堤幸彦監督だった(『トリック』とか『SPEC(スペック)』とか)。
ただ、それ以外にも「CO2削減のため息を止める」「人生は計画的に」「TPPよりTPO」など、微妙にふざけた習字があり、1つ前にカメラが捉えるのは「刑務所もネット社会に」だ。
オチの前で既にマジじゃないモノが幾つもあるので、オチの部分が弱くなってしまう。

っていうか、そこはカメラをパンして「ムダな続編はつくらない」の習字をアップで見せるより、「全体を写した中に、そういうネタが混じっている」というフワッとした見せ方にしておいた方が良かったんじゃないかと思ったりもするんだよな。
まあ根本的なことを言ってしまうと、「そいうネタと物語が上手く融合していない」という問題があるんだけどね。
「本筋の部分よりユルい小ネタの方に力が入っているんじゃないか」っトコまで、堤幸彦テイストに似ているのね。

子供たちが達彦の屋台を破壊し、少年夢王子が葵の前に出現するシーンは、結衣子が夢から醒めた時点では「どこからが彼女の夢なのか」ってのが分からない。
たぶん意図的に、現実と夢の境界線を不鮮明にしてあるんだろうとは思うのよ。
ただ、そうすることのメリットとデメリットを天秤に掛けた時、「境界線が分からないことで混乱してしまう」というデメリットが遥かに大きいような気がするんだよね。
っていうか、メリットが見当たらないなあ。

屋台を破壊するシーンは、たぶん完司が教室で綾乃たちに「じゃあさ、人の未来は変えられると思う?」と問い掛けるところまでが現実だろう。そこでカットが切り替わり、彼らが屋台へ行くシーンからが結衣子の夢なんだろう。
翌朝のシーンで綾乃たちが葵にハム焼きを食べたことを喋っているので、完司は綾乃たちに「人の未来は変えられると思う?」と問い掛けた後、屋台へ連れて行ってハム焼きを食べさせたんだろうと思われる。
ただ、当該シーンを省略して、翌朝の台詞による説明だけで済ませるのは、これまた話が分かりにくくなる原因になっている。
そこは省略しない方がいいよ。

ハム焼きが美味しかったと話す綾乃たちを見た完司が意味ありげにニヤリとするのは、自分の作戦通りに事が運んでいるからだ。
その後、生徒たちがハムのCMを見て宣伝のプランを相談したり、屋台が繁盛したりすることに対しても完司は含みのある笑みを浮かべる。それも当然のことながら、「狙い通り」と思っているからだ。
ただ、宣伝方法を考えたり行動したりするのは、完司が作戦を仕掛けて子供たちを巧みに操った結果ではないのよ。生徒たちが自主的に考え、行動しただけでしょ。
だから、そこで「全てワシの目論み通りというニヤニヤ笑いを浮かべるのは、ちょっと引っ掛かるのよね。
そういう動かし方をするなら、彼が全て仕組んだ形にした方がいい。そうじゃないと、「たまたま生徒たちが完司の思惑通りに動いてくれた」という偶然の要素が大きくなり過ぎている。

達彦が自殺を図った後、彩未は生徒たちを厳しい口調で説教する。でも、その論点がボンヤリしているので、何がどう悪いと言いたいのかが良く分からない。
彩未は「人の気持ちを考えずな自分は安全な場所にいて、相手に主張する親切は未来を変えることでは無く、その人を変えようとする行為です。暴力です。それを支配欲と呼びます」と説教するんだけど、映画を見ている限り、確かに押しの強さはあったものの、生徒たちの行為に「支配欲」なんてモノは全く感じられなかった。
そもそも、葵が押しに負けて「カフェを持とう」と思ったとしても、達彦がOKしなけりゃ実現しないわけで。
この一件はクラスメイトと葵の関係性だけで成立することじゃなくて、達彦という大人が最終決定権を持っているんだから、彩未の説教はピントがズレているように感じるんだよね。

彩未は「人をコントロールして優越感に浸るようなものです。自分の欲望に従っただけのことだ」と非難するけど、生徒たちにそんな様子は全く見えなかったのよね。
っていうか、達彦が自殺を図って葵が責任を抱いたことで、生徒たちが攻められる筋合いは全く無いと思うし。
だって、完司が腐った牛乳を混入させる犯罪さえ犯さなければ、全て上手く行っていたんだから。
あと、そもそも彩未に生徒たちを非難する権利なんて無いでしょ。生徒たちの行動を全て把握し、完司に疑念を抱いていたにも関わらず、達彦が自殺を図るまで全く手立てを講じずに放置していたわけで。

つまり、その事件が起きた責任は、彩未にもあるでしょ。むしろ担任なんだから、彼女の方が責任はデカいでしょ。
生徒たちを非難する前に、まず自分が反省すべきじゃないかと。
後になって彩未が「自分は間違っていた」と気付く展開はあるけど、それまでは誰かが「その主張は間違っている」と指摘することも無ければ、本人が迷いや揺らぎを見せることも無い。
だから、「彩未が生徒たちを非難したのは全面的に正しい」ってことで話が進んでしまうのだ。
しかも、彩未が自分の間違いに気付いても、そこから彼女が謝罪して生徒たちとの関係が改善されるドラマを描く時間の余裕が無いだけに、「もう遅い」ってことになっちゃうのよね。

完司は幼少時代に児童虐待を受け、記憶を封印している。母親に捨てられたと感じ、幸介にも捨てられるのではないかと不安を抱いている。
そういう「不幸な境遇」という設定は用意されているが、「だからカフェで食中毒事件を起こして廃業させ、達彦を自殺に追い込んでも許される」というわけではない。かなり醜悪な犯罪者だ。
それでも、まだ食中毒事件でストップしていれば、何とかリカバリーできる余地は残っていた。
しかし達彦が自殺を図っても全く反省せず、不敵な笑みを浮かべている時点で、完全にアウトだ。

終盤に入り、完司は母親に暴力を振るう男を殺害していたこと、幸介が死体を処分して事件を隠蔽していたことが判明する。幸介、志保、完司は事情聴取のために、警察署へ連行される。
でも、それは過去の事件が露呈したというだけであって、現在の完司が犯した罪の後始末が付いているわけではない。食中毒事件や達彦を自殺に追い込んだことに関して、何の贖罪もしないまま完司は退場するのだ。
おまけに、葵と達彦は全く救われていないし。
葵は「お父さんは元気になったし、大丈夫」と笑顔で話し、完司を非難しないけど、全ては「物分かりの良すぎる生徒たち」というトコロに頼りまくっているだけなんだよね。
安易でヌルい「善意」と「良心」だけで解決に持ち込むぐらいなら、完司に償うべき犯罪なんて起こさせるべきじゃないよ。

「そもそも、この映画が想定している観客の年齢層って幾つぐらいなんだろう?」ってのが気になる映画であった。
小学校が舞台だし、タイトルになっている「悪夢ちゃん」も小学生なので、同じ年代を主なターゲットに想定しているんじゃないかと思うのだ。ただ、それにしては、かなり内容がキツい。
「子供に見せる作品は健全&明朗でなきゃダメ」とは言わない。辛い出来事や悲しい物語が持ち込まれたり、毒やトゲがあってもいい。
ただ、度合いや見せ方の問題ってのがあるだろう。
しかし、じゃあ大人の鑑賞に堪える映画なのかというと、それも厳しいわけで。

(観賞日:2016年1月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会