『悪と仮面のルール』:2018、日本

財閥の御曹司である久喜文宏は11歳の時、父の捷三から書斎に呼び出された。捷三は「今から人生において重要なことを話す」と前置きし、「お前の命は私が意図的に作った。お前は私の手による1つの邪となる。悪のかけらと言ってもいい」と語る。さらに彼は、「邪とは、この世界を不幸にする存在。我々の家系で時々行われることだ。お前はこの国の中枢か、中枢に対峙する何かに入り、悪を成す。願わくばこの世界が終わるように。お前には、そのために他の兄弟たちより資金を多く残しておく」と述べた。捷三は「お前は力のある人間になり、悪に飲みこ込まれなければならない。そのために14歳の時を前に、地獄を見せる」と言うと、養女の香織を書斎に呼んで「この子には、地獄を見せる時に重要な役割を果たしてもらう」と文宏に語った。
成長した文宏は整形手術で別の男に変貌し、新谷弘一という故人の免許証とパスポートを整形外科医から受け取った。彼は探偵の榊原に会い、捷三の失踪を報じる新聞記事のコピーを見せる。文宏は「久喜捷三が貴方を使って何を調べていたのか、それが知りたい」と告げ、5千万の報酬を約束した。榊原が捷三など何も知らないとシラを切ると、文宏は「本当の依頼を言います。報酬は通常の3倍出します」と告げる。久喜香織の生活状況や望みについて詳細に報告してほしいと彼が依頼すると、榊原は承諾した。
榊原の調査により、香織が江東区のマンションに住んでいること、六本木のクラブ『リー』に勤めていることが判明した。榊原は文宏に、香織の指名している常連客の矢島孝之が詐欺師だと知らせる。矢島の狙いは、香織の口座に振り込まれている捷三の遺産の分配金だった。久喜家の顧問弁護士に雇われていた社員の1人が知り合いで、矢島は遺産の情報を知ったのだ。矢島は狙った女に薬物を使い、強引に服従させていた。自分の他にも香織を探っている人間がいることを榊原が伝えると、文宏は調査を依頼した。
矢島への対応について榊原が訊くと、文宏は少し目を離すよう指示した。彼は矢島を尾行し、久喜家の人間だと告げて接触した。文宏は矢島を騙して計画を聞き出し、風俗嬢を部屋に連れ込んで関係を持った。翌朝、矢島は車中で遺体となって発見された。文宏は風俗嬢から、夜中に「もうすぐ死ぬから、ごめんなさい」と何度も口にしてうなされていたことを聞かされた。警察は矢島の死をシアン化合物による毒殺と断定し、刑事の会田が捜査を開始した。
榊原は文宏に、香織を調べていた人間が海外との武器輸出入を仲介している商社に出入りしていることを教える。その会社の筆頭株主は、捷三の次男で現在の久喜グループのトップである幹彦だった。幹彦の評判が良くないと聞いた文宏は、調査を依頼した。香織の様子を密かに観察していた文宏は、上着のポケットから響く携帯電話の着信音を耳にした。それは所有していない携帯であり、いつの間にかポケットに入っていたのだ。文宏が携帯を取ると、相手は「久喜文宏さんですよね。1時間後、品川の港南口にいろ。断ったら久喜香織に危害が及ぶ」と告げた。
少年時代、文宏は香織に惹かれるようになり、告白に至った。香織は文宏の気持ちを歓迎し、キスをした。文宏は捷三が香織を性的に虐待していると気付き、殺そうと決意した。彼は静岡の別荘へ出掛けた時、父を地下室に閉じ込めた。捷三は全く動じず、笑いながら「やはりお前には、邪となる素質があったな。お前に地獄を見せることは出来なくなったが同じことだ。お前は決定的に歪むだろう。もうお前に幸福は無い。覚えておくといい。幸福とは、閉鎖だ。全てを破壊しろ。それがお前の生きる道だ」と語った。
品川の港南口に赴いた文宏は、伊藤良祐という男と会った。「顔が違う」と伊藤が戸惑っていると、文宏は「俺は文宏の知り合いだ。彼は自殺した」と説明した。伊藤が「俺は久喜家から枝分かれした家の人間だ。俺も文宏と同じ邪の家系だ」と明かすと、文宏はJLの一員ではないかと指摘する。さらに彼は、伊藤が文宏を脅して金を手に入れようとしたこと、あわよくば仲間に引き入れようと考えていたことも見抜いた。
文宏は金を渡してもいいと持ち掛け、その代わりに香織について知っている情報を全て渡すよう要求した。伊藤は「その話は後だ」と仲間になるよう誘い、文宏が断っても構わず「たまに資金を提供してくれりゃいいよ。また俺と会え。具体的な話を聞かせてやるよ」と告げて去った。文宏がマンションに戻ると、「お久しぶりですね」と会田が声を掛けてきた。新谷弘一は8年前に鈴木サエという女を殺した容疑を掛けられたが、アリバイが証明されて無罪放免となっていた。しかし会田は弘一が犯人だと確信し、まだ逮捕を諦めていなかったのだ。会田は文宏を動揺させようと質問を繰り返し、「もう逃げないでくださいね」と言って立ち去った。
文宏が部屋に入ると、幹彦の部下が待ち受けていた。男は「大丈夫。新谷弘一は人を殺していない。でも気を付けた方がいい。鈴木サエというのは新谷の元恋人で、8年前に自殺しています」と説明した。男は幹彦が会いたがっていることを告げて脅しを掛け、文宏は車に乗り込んだ。文宏と会った幹彦は、整形手術で別人に成り済ましていることを指摘した。彼は椅子に拘束した男を暴行しており、「あまりにも憂鬱でねえ」と口にした。
幹彦は自分の下で働くよう文宏に持ち掛け、「私は軍事に関する仕事をしている。戦争を仕掛けるんだ」と述べた。彼は久喜家が第一次世界大戦で銃器や船舶を売って莫大な利益を上げたこと、邪として作られた捷三が第二次世界大戦で余興の延長として従軍させられたことを話す。幹彦は「香織に矢島を近付けたのは私だ。あの女を薬物中毒にして私の元に連れて来いと命じた。お前に地獄を見せるために用意された女、いわば生贄みたいな女だ。息子の俺が損なう。面白いだろう?」と語り、再び香織に男を近付けることを通告した。それが嫌なら香織を薬物中毒にして連れて来いと彼は要求し、「今度会う時、なぜお前が香織に惚れたのかも話してやろう」と告げた。
文宏は榊原に、幹彦の行動パターンを調べるよう依頼した。彼は伊藤と接触し、JLのアジトであるアパートヘ案内してもらった。伊藤は仲間の佐藤を紹介し、他の仲間はバラバラに行動していること、議員を殺したのはJLではないことを話す。他にも便乗犯による犯行は多いが、JLは仲間が暗号を入れたメッセージを後から出して組織を大きく見せていた。伊藤はJLの目的について、「俺たちは世直しを考えているわけじゃない。全ての物を下へ引きずり落としていくんだよ。この世界への侮辱だよ」と語った。彼は次に会う時に資金を用意してくれと言い、数日だけ預かってくれと告げて文宏に爆弾を渡した。
榊原は文宏に幹彦の資料を渡し、それを読めば彼について分かるはずだと言う。榊原は部下の小西あずさを文宏に紹介し、店に入って彼女を指名すれば香織を紹介してくれると告げた。クラブへ赴いた文宏は指示に従い、緊張しながら香織と会った。香織は彼に、「どこかで会ったような。不思議な感じです」と告げた。数日後、文宏は伊藤からの電話を受け、佐藤が警察に追われていることを知らされる。文宏が「俺には関係ない話だ」と突き放すと、伊藤は「佐藤は香織を知ってる。奴とは連絡が取れない。ヤケになってるかもしれない」と逃走資金を用意するよう要求する。
会田が待ち受けているのに気付いた文宏は、途中で電話を切った。会田は文宏を追及し、「私は別の意味で、貴方に目を付けています」と告げて去った。文宏は香織を襲撃しようとする佐藤を捕まえ、揉み合いになった。文宏が窮地に陥っていると、幹彦の部下が現れて佐藤を殴り倒した。男は「あの人からの伝言だ。1週間以内に久喜香織を連れて来い」と通告し、佐藤を車に乗せて去った。文宏は榊原に香織の警護を要請し、爆弾の入った鞄を手にして幹彦の元へ向かった…。

監督は中村哲平、原作は中村文則『悪と仮面のルール』(講談社文庫)、脚本は黒岩勉、製作は坂本敏明&本田晋一郎&小西啓介&セオドール・ミラー、プロデューサーは松橋真三&平野宏治、ラインプロデューサーは角田道明、撮影は鯵坂輝国、照明は中川大輔、録音は岡本立洋、美術は橋本創、アクションは小池達朗、編集は中村哲平、脚本開発協力は白石和彌&登米裕一、音楽は佐藤和郎。
主題歌『追憶のふたり』Uru 作詞・作曲:Uru、編曲:Kan Sano。
出演は玉木宏、新木優子、吉沢亮、柄本明、村井國夫、光石研、中村達也、橋本さとし、呉汝俊、尾上寛之、小林且弥、渡辺奈緒子、MEE、板垣李光人、野呂真愛、亀石侑里、小林真穂、渡邉翔、岩井拳士朗、今野祐輔、ちずみ、坂井絢香、大塚麻由美、斎藤綾子、山本知之、飯島裕子、矢崎恵一、小笠原主悦、門馬清、棚橋透、平塚重彦、Imani Jessica Dawson、J'Nique Nicole、Jayda B、Ligny 光義 Aymeric、Aaron Delaney、中村蓉子、斉藤一太、斉藤陽太、永井雄貴、北島康男、氏野安那ら。


中村文則の同名ベストセラー小説を基にした作品。
監督はUVERworldの音楽ドキュメンタリー映画『THE SONG』を手掛けた中村哲平。
脚本は『黒執事』『ONE PIECE FILM GOLD』の黒岩勉。
脚本開発協力として、『凶悪』の白石和彌と『くちびるに歌を』の登米裕一が携わっている。
文宏を玉木宏、香織を新木優子、伊藤を吉沢亮、会田を柄本明、捷三を村井國夫、榊原を光石研、幹彦を中村達也、幹彦の部下を橋本さとし、整形外科医を呉汝俊、佐藤を尾上寛之、矢島を小林且弥、あずさを渡辺奈緒子が演じている。
本物の卓球選手である水谷隼、石川佳純、吉村真晴、浜本由惟、木造勇人、伊藤美誠 も、フラワー卓球クラブの対戦相手としてゲスト出演している。

ちょっと『堕靡泥の星』や『MW』を連想したけど、ようするに漫画チックな匂いが強いってことだ。
ただ、『堕靡泥の星』や『MW』も名作漫画だし、それが悪いってことではない。
でも、かなり荒唐無稽ではあるので、そっちへ振り切って徹底しちゃった方が、たぶん作品の内容には合っていたんじゃないだろうか。
ただし原作は小説で、著者は芥川賞作家なんだよな。ってことは、ひょっとすると原作の方は、かなり雰囲気も内容も違うのかな。原作は未読なので、その辺りは良く分からないんだけど。

ともかく映画に関しては、まず「捷三は悪を成すための存在として文宏を作った」という設定が登場した時点で、荒唐無稽を強く感じる。「ああ、ってことはリアルな手触りを求められる作品じゃないのね」という印象を受ける。
村井國夫は重厚な芝居を見せているし、場面としてもバリバリにシリアスな雰囲気を醸し出しているが、それでも苦笑したくなるほどのバカバカしさを強く感じる。
ただし、どれだけ歪んでいても、そこに確固たる信念や哲学が見えれば、それがキャラクターの深みや物語の牽引力に繋がるだろう。
しかし本作品には、そういうモノが全く見えない。「悪を成すための存在として息子を作る意味は何なのか」ってのが、全く分からないしね。

冒頭で捷三が文宏に長々と説明するのは、導入部としては理解できる。ただ、タイトルの後、文宏が整形外科医に長々と喋るシーンは、何の意味があるのかと言いたくなる。
ここで文宏は「幸福なら、僕はもうずっと昔に経験しています。例えば、ハッピーエンドで終わる何かの物語があったとして、でもその人物の物語は、その後も続くわけです。そのすぐ後に、急に死ぬかもしれないのに、その物語は物語として幸福に終わる。それと同じで、僕の人生は、いい所で区切れば、それは幸福だった物語として提示できるように思うんです」と語る。
でも、そんなことを聞かされても、「だから何なのか。お前は何が言いたいのか」と感じるだけだ。
その長い言葉によって、文宏という男に魅力を感じることもなければ、物語に引き込まれることも無いのだ。

しかも文宏の無駄な喋りは、それだけに留まらない。
この映画は最初に少年時代のパートを片付けず、途中で何度も挿入する構成になっているのだが(粗筋では2つのパートにまとめたが、実際は何度にも分割されている)、そこでモノローグが流れるケースもある。
これが短い時もあるが、長い時は「いや要らんよ」と疎ましく感じる。
「あの時、なぜ僕は父の部屋の前で、動きを止めたのか。香織は小刻みに震えながら、醜い父の前に立っていた。父は僕を邪にするために、香りを損なうと言っていた。それは僕が忘れていた恐怖だった〜」などと長いモノローグが入るシーンは、「そんなに詳しく説明しなくても、映像だけで大半のことは伝わるぞ」と言いたくなる。

文宏が父を殺すシーンでは、「どうすれば1人の人間を誰からも発覚されずに殺せるだろう。歴史上、多くの人間が考えたことを、当時の僕も考えた。僕の中の最高の価値は、善でもなく、世界でもなく、神ですらなく、香織だった。正しくなくて構わない。最高の価値は道徳や倫理を超えるはずだと僕は思った」などと語る。
でも、そういうのをドラマで見せてこそ、映画の意味があるんじゃないかと。
それを全て言葉だけで伝えるのなら、それこそ小説で充分なわけでね。そのモノローグの最中に画面に写し出される映像は、もはや挿絵としての価値すら感じさせないし。
いや、モノローグやナレーションが、どんな映画でもゼロでいいとまでは言わないよ。それが意味や価値を持つケースは幾らだってある。
でも、この映画の場合、ほぼ全カットでもいいぐらいだわ。

っていうか、そもそも「何度も小分けにして少年時代のパートを回想劇で挿入する」という構成そのものが、成功しているとは思えない。
一気に少年時代のパートを済ませようとしたら、なかなか玉木宏が登場しないので、それを避けようとする狙いがあったのだとしたら理解できなくもない。
ただ、それなら最初に玉木宏を登場させて、すぐさま回想パートに入って少年時代の出来事を描くという形にでもすればいいんじゃないかと。
ともかく、文宏が整形する事情や香織を守ろうとする理由については、さっさと明かしてしまった方がいい。そこにミステリーを置いても何の効果も無いし、むしろ物語に入り込むことを妨げている。

冒頭、文宏の「人間を殺すことを、世界では悪だと言うが、だとしても僕は、悪で構わないと思った」という語りが入る。しかし、文宏が実際に「悪」として描かれているかというと、そんな風には全く見えない。
もちろん殺人を「悪」とするなら、確かに彼は悪だろう。でも、惚れた女を守るために人を殺しているだけなので、ちっとも「悪」という印象を受けない。
それに、映像表現としても、彼が悪に見えるような作業は乏しい。殺人を無慈悲に遂行する様子なんて皆無だ。
例えば矢島の時は、ただ接触する様子を描いただけ。翌朝になると矢島は車の中で死んでいる。矢島の死に様も、無残な印象は全く無い。

榊原は文宏から「捷三が何を調べていたのか知りたい」と言われると、大金を積まれても「何も知らない」と告げる。それを受けて文宏は、「金に転ばない人間なので信用できる」ってことで本来の仕事を持ち掛ける。その依頼については、榊原は、即座に引き受ける。
だけど、捷三と繋がっていたことを全否定した人間が、それに関連して香織の調査を依頼された時には迷わず引き受けるってのは、なんか違和感があるのよね。
その依頼を引き受けるぐらいなら、「捷三が何を調べていたのか知りたい」という依頼もOKすりゃ良くねえかと。
そっちを断るなら、そんなことを口にした奴から出た別の依頼も断るべきじゃないかと。ひょっとすると、目的は「捷三が何を調べていたのか知りたい」という部分に繋がることかもしれないんだし。

っていうかさ、そもそも文宏が榊原に香織の調査を依頼している時点で、「その必要性ってあるのかな」という疑問が浮かぶ。
香織の住所や勤務先ぐらいは、文宏が自力で調べられるんじゃないかと。
彼は整形して、別の人間に成り済ましているんでしょ。だったら、もしも香織に気付かれたとしても、すぐに正体がバレる恐れは無いはずだし。
実際、香織の様子を頻繁に観察している上、途中で我慢できなくなって接触しちゃってるし。

始まってから15分後辺り、文宏が榊原から報告を受ける直前のシーンで、「日本全国で愉快犯と思われる犯行を繰り返している自称テログループのJLがマスコミに新たな犯行声明を出した」ってことがテレビで報じられている。
「幸福って閉鎖なんだよね」という声明を知った文宏が表情を変えるという描写があるが、この時点では何のことか分からない。
「幸福とは、閉鎖だ」と文宏が捷三に言われたことが回想シーンで描かれると、文宏が犯行声明に反応した理由が分かるようになる。
ただ、「そのタイミングで反応した理由を明かした方が、絶対に得策だよね」と感じる。

その後、JLが議員を殺したことを報じるニュースが開始から32分辺りで出て、こいつらが単なる愉快犯ではないことが明らかになる。
そんな風にJLを取り上げるシーンを挟むのは、文宏が伊藤から勧誘される展開に繋げるためだ。
でも、「この組織、丸ごと要らんなあ」と感じる。
恐ろしい組織としての印象はゼロで、ただの甘っちょろい集団だし。
伊藤と文宏の犯罪に関する問答も、心底から「どうでもいい」としか感じない。伊藤に対する文宏の優しさも、「グラブ・ジャムンにサッカリンを塗ったように甘いわ」と感じるし。

文宏のモノローグだけじゃなく、幹彦のクドクドとした説明も、これまた疎ましさに満ちている。
彼は自分がどういう考えを持っているか、どんな行動を取ろうと目論んでいるかについて、登場する度に詳しく説明する。それによって彼の不気味さをアピールし、恐怖や緊張感を煽ろうとしているのかもしれない。
でもね、「強大な力は持っているかもしれないけど、チンケな奴だな」としか感じないのよ。
あと、前述した伊藤と文宏の問答も含めて、そういう「台詞による説明」は、まるで押井守の悪癖みたいなことになっているぞ。

文宏は「香織を守るために悪になる」と誓ったはずなのに、その覚悟は中途半端にしか見えない。
本気で「悪になる」と決めたにしては、やたらと怯えすぎているのも気になる。もっと冷酷非道に徹しなきゃいけないはずなのに、無駄に人間味が見えすぎている。
それは「悪」としての脆さや弱さにしか感じられない。幹彦が脅しを掛けて「俺を殺すか」と迫った時も、「その場で殺せばいいのに」と思っちゃう。そこでビビっているだけでおとなしく引き下がるのが、「いや、ちっとも悪じゃねえし」と言いたくなる。
香織の優しさや愛に触れた時、少しぐらい綻びが見えるのは別にいいのよ。だけど、文宏は最初から定まっていない印象なのよね。
しかも、伊藤や矢島の前では冷静沈着なのに幹彦の前ではビビッているので、「弱者には強いけど強者には弱い」って感じになってるし。

(観賞日:2019年5月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会