『アキハバラ@DEEP』:2006、日本
プログラマーをしている25歳のページは、電話を受けて目を覚ました。「0時売り、始まっちゃうよ」という声に時間を確認すると、夜の 11時50分だった。ページが慌てて待ち合わせ場所へ行くと、Webデザイナーをしている25歳のボックスと、パソコン修理工をしている28歳 のタイコがいた。ページたちがIT企業のデジタルキャピタル本社へ行くと、既に大勢の行列が出来ていた。
デジタルキャピタルCEOの中込が、ペンギンのキグルミ姿で登場した。その隣には、第二社長秘書で中込が作った自前の親衛隊SSの 隊長でもある渡会の姿がある。「世界第7位の金持ちだし」と歓迎の眼差しで中込を見るページとタイコに対し、ボックスだけは「王様 気取りだな」と批判的だった。デジキャピが製作したソフト「スウィンギング・ペンギン」リミテッド・バージョンの販売が始まるが、 光の点滅を見たタイコが失神した。
ページとボックスは、タイコをグランドコスプレカフェ「あかねちん」に運び込んだ。ステージにはフリーターで格闘家でもある23歳の アキラがメイド姿で登場した。人気投票ナンバーワンの彼女に対しても、ボックスは悪態をつく。極度の潔癖症であるボックスは、アキラ が近付くと顔を背け、離れるよう頼む。ボックスはアキラへの批判を並べ立て、彼女に「締め落とすぞ」と脅された。
翌日、ページ、ボックス、タイコが待ち合わせ場所で座っていると、バイクでアキラが現れた。そこへ運転手付きの車でやって来たのは、 アムロ・レイのノーマルスーツを着用してヘルメットを被った16歳のイズムだった。システムエンジニアの彼はアルビノで、紫外線を 浴びないために、そのような格好をしているのだ。5人は潰れた酒屋の店舗へ赴いた。築40年、家賃は64000円。そこがページたちの設立 する会社「アキハバラ@DEEP」の事務所になる。
この3ヶ月、4人で労働して作った資金は80万円。ページはジャンク品ブローカーのインド人アジタに必要な品物を注文していた。そこへ オンボロ車でアジタが到着し、品物を運び込んだ。ホコリだらけの部屋を掃除したページたちが品物の箱を開けると、全てバッタモンの パソコンだった。5人はパソコンを起動させ、初めて会った時のことを思い出す。5人は全員、カルト的人気を誇った人生相談サイト 『ユイのライフガード』のヘビーユーザーだった。そこは修道女のようなユイという女性が主催していた。
3ヶ月ほど前、ユイが死んだというメールがサイトの管理人からページたちに届けられた。ページ、アキラ、ボックス、タイコの4人が 集まると、そこに管理人として現れたのがイズムだった。彼は、ユイがオーバードーズで自殺したことを明かした。ユイはリストカットの マニアだった。イズムはユイの遺言を預かっていた。そこには「変われる人間から、まず変わっていこう」と書かれていた。
遺言を聞いた時点で、既にページ、ボックス、タイコの3人は、ユイの勧めを受けて会社を設立することを決めていた。イズムは、自分と アキラも加えて欲しいと頼んだ。こうして5人が集まったのだ。ページはアキラたちに、「サイトがアキラのアイドルコンテンツだけでは 寂しい気がする。ユイのライフガードを復活させたい」と言う。「ユイさんの意志を継ぎたい。俺達だけ救われていいはずないだろう?」 と語る彼に、残りの4人は賛同した。既にイズムが、ユイの人工知能プログラム開発に取り組んでいた。
ページ、ボックス、タイコは、アキラの出場する格闘技大会の観戦に出掛けた。隣の客が「次が事実上の王座決定戦」と話し掛けてくるが 、それに出るのがアキラだった。隣の客は、「立ち技ならアキラは東京でナンバーワン。だけど今回の相手は柔道の元オリンピック選手」 と語った。観客席には中込と渡会もやって来た。隣の客はページたちに、渡会もファイトクラブの出身で無敵のチャンピオン、中込に スカウトされるまでは警視庁ナンバーワンの警護官だったと説明した。
無差別級スペシャルマッチに、アキラはアキハバラ@DEEPの所属選手として出場した。相手の工藤に馬乗りになられた彼女は、子供の 頃に義父から虐待を受けていたことを思い出した。アキラは反撃し、飛び膝蹴りでKOした。試合後、中込がページたちの元に来て、 デジキャピでアキラのサイトを立ち上げないかと持ち掛けた。ボックスが「来週にはウチで立ち上げる予定ですと説明した。
中込が「デジキャピで発売する格闘技ソフトのイメージキャラにもなってほしいと思った」と言うと、アキラは条件次第で引き受けると 口にした。その条件とは、ポスターのキャッチコピーとデザインを無報酬でいいからアキハバラ@DEEPにやらせてほしいというものだ 。中込は「タダほど怖いものは無いから」と言い、「デジキャピが君らのサイトに毎月500万円で広告を出す」と提案した。
デジキャピの格闘技ゲームソフト「ガールズ・バトル・パーク」は爆発的に売れた。渡会が「飼い犬にエサを与えない方がいい」と中込に 意見すると、執行役員で秘書室長の平井は「平井はあいつらに牙なんて無い、それより社内の不平分子を抑える方が先だ」と言う。ネット では、中込に対する誹謗中傷が書き込まれていた。中込はお礼として、ページたちの事務所に人間サイズのザクを送る。さらにボーナスと して、現金の入った封筒も付いていた。
ページたちは、中込から届いた金で焼肉を食べに出掛けた。イズムは「両親は海外にいて、4年も一人暮らしです」と語り、アメリカに いた頃に高校は飛び級で卒業しており、今はマサチューセッツ工科大学を休学中であることを述べた。ページは仲間たちに、全く新しい サーチエンジンを作りたいと言い出した。「ヤフーやグーグルに無い魅力があれば、それを越えられる。イズムの作ったユイの人工知能 プログラムをうまく使えないかと思うんだ」と彼は語った。「一緒に悩んで一緒に探してくれるエンジンか」とアキラが呟くと、ページは 「使い込むほどに自分だけのカスタマイズが出来る進化型サーチエンジンだ」と説明する。
イズムが「しかし気の遠くなるようなプログラムを書き込まないといけません」と言うと、4人も手伝うことを約束した。イズムは「これ からの3ヶ月を自分に下さい」と4人に告げ、彼らはプログラム製作に取り掛かった。デジキャピの傲慢な不当解雇に抗議するデモ行進が 、秋葉原で行われた。デモ参加者は全員が覆面を被っていたが、中込や度会たちは先頭に立っているのが開発第4局の契約プログラマー・ 加藤だと知っていた。デモ隊は自分たちをダリットと呼んでいた。
ページたちは新しいサーチエンジン「クルーク」について、キャラクターが異なる5種類のAIを検索プログラムに組み込もうと提案した 。自分たちをモデルにして、多重人格の人工知能にするというのだ。物事を冷静に考えて吟味するラウンダーはイズムがモデルで、身近に いて細かいことに気を配るネイバーはタイコ、天邪鬼で反対意見を言いたがるオポーザーはボックス、失敗を恐れず発想を飛躍させる ジャンパーはアキラ、ユーザーの身になって振るいに掛けるまとめ役のコンストラクターがページだ。それらが連動して検索するという システムを、ページたちはクルークに取り入れた。
デジキャピの執行役員でチーフクリエイターの遠阪直樹は、役員会議に参加した。中込から「会社が一丸となって盛り上がれるようなネタ は無いか」と問われた彼は、「ちょっとした小ネタなら」と前置きした上で、開発途中の段階であるクルークのことを口にした。別の 執行役員も、クルークの存在を知っていた。「ちょっとひねくれたサーチエンジンです」と言われた中込は、自分でもクルークをチェック して「面白い奴らだな」と漏らした。
中込は渡会に命じてアキハバラ@DEEPの事務所に電話を掛けさせ、自宅に招待したいとページたちに連絡した。アキラと定期健診の あるイズムは辞退し、残り3人が参加した。中込の住まいは、本社ビルの上にあった。彼は3人に「ディープに出資をするか、丸ごと 買い取りたい」と言い、クルークの価値として20億円での買収を持ち掛ける。アキハバラ@DEEPはデジキャピグループの一員になり、 ビルの1フロアや最高の設備を用意すると彼は説明する。著作権を放棄したくないのなら、10億を出資すると言う。
ページが利用者から金を取るのか尋ねると、中込は「キラーコンテンツだから少々の金を取っても世界中から人が押し寄せるよ」と告げる 。ページが「無料で公開するオープンなやり方を守りたい。それがネットの海への恩返しなんです」と言うと、中込は「君たち、いい奴ら だな。だけど、いつか海賊版が出回る。その前に俺が特許を取って法律でクルークを守ってやる」と口にした。
中込は「秘密のペットを見せてやる」と言い、奥の部屋に3人を案内した。すると、そこではブルマー姿の少女が巨大なボックスの中に 閉じ込められ、薬を打たれていた。中込は平然とした態度で「アルバイトで1週間の契約をしている」と言い、アームで食事を与えている こと、排泄も箱の中で行われることを説明した。うつろな目をしている少女を眺めながら、中込は「僕としては、もっと壊れていく過程を 見たいんだけど」と嬉しそうに言う。ボックスは、それを見て嘔吐した。
事務所に戻ったページたちは、アキラとイズムも加えて話し合いを持った。デジキャピでは労働者が階級で分類されており、90パーセント が契約社員で、会社ではスードラと呼ばれる奴隷階級に属していた。ページは「昔ハッカーだったからわかるんだけどさ、ネット社会の 多様性を脅かす権力として、昔からデジキャピは悪名高い」と語った。5人はデジキャピとの契約を断ることに決めた。
中込から事務所宛てに、ガールズ・バトル・パークのヒット祝いのパーティーへの招待状が届いた。ページたちが会場へ行くと、中込は アキハバラ@DEEPとの独占業務提携を一方的に発表した。ページは「僕らが作りたいのは無料で自由に使えるコンテンツです」と言い 、独占契約を結ばないことを通達した。中込の平井たちを使い、5人の家と事務所へ泥棒に入ってクルークのデータが入ったコンピュータ やサーバーを盗み出した。平井たちはカモフラージュとして、同じ管内で11件も窃盗事件を起こしていた。
事務所にやって来た刑事は、「所轄に被害届を出しといて」とページたちを軽くあしらった。平井たちは加藤を襲撃し、病院送りにした。 中込はタレビ番組に出演し、次期主力コンテンツとして検索エンジンを発売することを発表した。法廷闘争を仕掛けるにしても何年も 掛かるため、泣き寝入りするしかなく、5人は絶望感に捉われる。そんな中、ページは街で遠阪から声を掛けられた。2人は同じ時期に ハッカーとして活動していた仲間だが、顔を合わせるのは初めてだった。
遠阪はページに、「デジキャピにサイバーアタックは通用しないが、クルークを取り戻す方法が無いわけじゃない」と告げた。ページと アキラは遠阪に案内され、脳挫傷で意識不明となって入院している加藤の病室へ赴いた。遠阪はページたちに、22階のA区画にクルークの データがあると教える。クルークを取り戻すためには、厳重な警備の敷かれている区画へ侵入する必要があった。ページたちは遠阪から IDを受け取り、クルークを取り戻そうとする。だが、その動きを嗅ぎ付けた平井たちは遠阪を暴行し、ページたちにも襲い掛かった…。監督は源孝志、原作は石田衣良、脚本は源孝志&成田はじめ、企画は遠藤茂行&石井徹&伊藤満、プロデューサーは香月純一&旭正嗣& 小笠原宏之、撮影は袴一喜&足立真仁、編集は斉藤和彦、録音は山方浩、照明は武田淳一、美術は山崎秀満、衣裳デザインは小峰リリー、 音楽は小西康陽、音楽スーパーバイザーは佐久間雅一、音楽プロデューサーは津島玄一。
主題歌「Let it beat!」作詞:田辺智沙、作曲・編曲:渡辺未来、アーティスト:AAA。
挿入歌「REAL YOU」作詞:石田衣良、作曲・編曲:松井寛、アーティスト:山田優。
出演は成宮寛貴、山田優、佐々木蔵之介、萩原聖人、寺島しのぶ、忍成修吾、荒川良々、三浦春馬、森本レオ、田口トモロヲ、板谷由夏、 田口浩正、AAA、今井朋彦、松尾政寿、ユセフ ロットフィ、神取忍、博多華丸、山崎邦正、諏訪太朗、小須田康人、 諏訪間幸平(全日本プロレス)、坂口拓、佳本周也、奈之未夜、みろ、若林亮、田島剛、イーグル沢井、遠藤美月、下江昌也、笠井海夏子、楓、武田愛可、柏木恋、 友田安紀、赤山健太、吉本大介、しのへけい子、平賀育未、宮下実香、新井希望、桑田尚樹、安田佳史、松末博行、上條公太郎、浦島博文 、佐藤洸、秋山智彦、福智幸太、中野賢一朗、原田純ら。
石田衣良の同名小説を基にした作品。
監督は『東京タワー』の源孝志。
ページを成宮寛貴、アキラを山田優、中込を佐々木蔵之介、遠坂を 萩原聖人、渡会を寺島しのぶ、ボックスを忍成修吾、タイコを荒川良々、イズムを三浦春馬、平井を今井朋彦、加藤を松尾政寿、アジタを ユセフ ロットフィ、工藤を神取忍が演じている。
また、デジタルキャピタル役員役で森本レオ、刑事役で田口トモロヲ、ユイ役で板谷由夏、格闘技大会でページたちに話し掛けてくる男の 役で田口浩正が友情出演している。ページは吃音、アキラは義父からの虐待、ボックスは極度の潔癖症、タイコは点滅する光を見ると体が硬直する持病、イズムはアルビノと 、5人はそれぞれに病気や心の傷を抱えている。
しかし、シリアスな問題を抱えていることの意味は、全く無い。
掘り下げが深いとか浅いとかいうレベルではなく、これっぽっちも使われていない。その設定は、物語において何の価値も持っていないに 等しい。
ページたちが心の傷を乗り越えるドラマがあるわけでもないし。ページたちはデジキャピが製作したソフト「スウィンギング・ペンギン」リミテッド・バージョンを買いに行くが、どういうソフトなのか サッパリ分からない。
その翌日にイズムが登場するが、これはバランスが悪い。前日に4人を出したのなら、こいつも同日に出すべきだ。
あと、イズムは簡単にヘルメットのシェードを開いて顔を見せているが、アルビノだったら、それもマズいんじゃないのか。
微量の紫外線でも浴びたらマズいんだろうに。5人が店舗へ赴いた時点で、どうやら会社か何かを立ち上げようとしていることは何となく分かるが、具体的に何をやるための会社なのか は分からない。
5人が出会った頃の回想が終わった後、彼らがサイトを立ち上げてアキラのアイドルコンテンツをやるつもりだったことがようやく分かる が、それは説明が遅いよ。
で、ジャンク品が届くと、みんなパソコンに詳しい連中だということが分かるが、いきなり差別化が弱くなっている。
なんせ、その時点ではテロップで職業が示されただけで、それぞれが仕事をしているシーンは、アキラを除くと無いからね。ページたちはユイの勧めで会社を作ることを決めているが、なぜユイがそんなことを勧めたのか、なぜ彼らはその気になったのか。 5人が会社を作る理由、集まるモチベーションが高いとは言い難い。
自分とアキラも加えて欲しいとイズムが言い出すが、イズムがなぜそう思ったのか。
また、本人の意志とは無関係だったはずなのに、なぜアキラは戸惑ったりすることもなく、あっさりと参加しているのか。
その辺りもフワフワしている。ページは「ユイのライフガードを復活させたい。ユイさんの意志を継ぎたい。俺たちだけ救われていいはずないだろう?」と言うが、彼ら がどうしようもなく追い込まれていて、ユイのおかげで救われたということが全く伝わって来ないんだよね。
それも当然で、そういう描写は無いんだから。
登場した時点での彼らは、特に深い悩みや暗い過去があるような雰囲気は皆無だし。
あと、ユイによって繋がっているのに、そしてユイの意志を継ぎたいということで全員が意見が一致するぐらいなのに、そのユイの存在が 薄いってのはツラい。ページたちのギークとしての能力を見せる前に、アキラが試合に出場するシーンによって、彼女の格闘家としての能力を見せて しまう。
ちっともアキバ的なモノが見えない。
そもそも、アキラに格闘家の才能を設定している時点でどうかと思うぐらいなのに。
で、その後にアキハバラ@DEEPのサイトは立ち上がるが、「誰かがサイトを見ている」というだけの淡白な処理。ようやく完成した、 アップロードした、というページたちの様子は全く描かれない。
それは手落ちでしょ。
そもそも、コンテンツを作る過程も、写真を撮影しているだけで、実際にパソコンを使っての作業は全く描写されないし。
こいつら、なかなかパソコンを使わないんだよな。平井が「社内の不平分子を抑える方が先だ」と言い、中込がネットでの誹謗中傷について語るシーンがあるが、その時点で、その書き込み は画面に出てこない。
それも手落ちだ。
焼肉を食べに行くシーンでイズムが「両親は海外にいて4年も一人暮らし。アメリカにいた頃に高校は飛び級で卒業しており、今は マサチューセッツ工科大学を休学中」と語るが、そういうのは、もう少し早い内に提示すべきだろう。
会社の立ち上げ、サイトの立ち上げ作業が進められるのと並行して、ページたちのステータス、バックグラウンドは、あらかた説明して おくべきなんじゃないのか。ページは新しいサーチエンジンを作りたいと言い出すが、ユイの意志を継ぐ話はどこへ行ったのか。
それに関する作業も、全く描かれていない。
ページは「ずっと考えてたんだ、何か新しいことができないかって」と言うが、まだサイト設立したばかりなのに、もう別のこと なのか。
「イズムの作ったユイの人工知能プログラムをうまく使えないかと思うんだ」って、まだプログラムを当初の目的で使ってもいないのに、 もう別の目的で使う話になってしまう。
「一緒に悩んで一緒に探してくれるエンジンか」とアキラは漏らすが、まだ人工知能プログラムがどんなものか全く画面に登場していない ので、まるでピンと来ないのだ。イズムが「気の遠くなるようなプログラムを書き込まないといけません」と言うと4人も手伝うことを約束するが、つまり、5人とも プログラムの能力を持っているのだ。
全く差別化が出来てないじゃねえか。
プログラムが出来るのは一人だけにしておこうよ。
それだとサーチエンジンなんて3ヶ月で作れないって?だったら、その設定ごとやめちゃえよ。
だって、特にトラブルも無く、あっさりと完成してしまうんだぜ。
そこに苦労が見えなかったら、それを取り戻す展開にも気持ちが乗らないよ。
「必死で苦労して作ったものを奪われたから取り戻す」じゃなくて、「すげえ簡単に出来たものを取り返す」というのではね。っていうか、サイトの運営に関してはどうなっているのか、それも全く描かれないし。
ガールズ・バトル・パークが爆発的に売れたってことは、そのポスターがデカデカと貼られたりCMを流したりしているのだから、アキラ の人気や知名度は高まっているはずだが、その反応に関する描写も全く出て来ない。
アキラが街に出た時に、彼女を知っている人々に騒がれるようなことも無い。デジキャピの傲慢な不当解雇に抗議するデモ行進が秋葉原で行われるが、実際に中込の恐怖政治や不当解雇の実態が描かれているわけでは ないので、そこに「悪玉の中込を糾弾する」という説得力が無い。
加藤が不当な扱いを受けているような様子も無かったし。
大体、そこで初めて社内の問題が示されるのも遅いし。
加藤なんて、登場シーンでは「ただ顔を出しただけ」で終わっていたもんな。ワシがネットに疎いからなのかもしれんが、っていうか、たぶんそういうことなんだろうが、ページたちが高揚した様子で熱く語っている 新しいサーチエンジンのアイデアが、あまり魅力的には感じられないんだよな(2006年当時の感覚で解釈しても)。
これって、ネットに詳しい人だったら画期的で魅力的だと思えるのかな。
だけど、そうだとしても、そんな一部のギークな人々にしか伝わらない時点で、話としてはマズいでしょ。中込は「お帰りなさいませ、御主人様、何をお探しですか」とメイドが動くクールクのトップページを見て「面白い奴らだな」と漏らすが 、まだ何も検索していないのに、それだけで面白いかどうか判断できちゃうのかよ。
で、彼は「キラーコンテンツだから金を取っても世界中から人が押し寄せる」と使用者から金を取る方針を口にするが、ヤフーにしろ グーグルにしろ使用者からは金を取っていないぞ。
その考え方は、中込のキャラとしてやっているんだろうが、ちと無理があるんじゃないか。
そこで無理をしなくても、中込の悪党キャラは描写できるはず。
「金儲けしか考えていない」ということを描写するにしても、無理がある。ブルマー姿の少女が巨大なボックスの中に閉じ込められているシーンが無かったら、中込への社内からの抗議も、中込との契約に反対する ページたちも、まるで納得できないものになっていただろう。
しかし、「少女を奴隷のように扱っているから」というところに、中込の悪玉としての価値を頼るのは、本筋から外れているんじゃ ないのか。
本来、「社員への不当な扱いや独裁者ぶりがあるから抗議される」という形であるべきだし、「ページたちへの態度やクルークに対する 考え方が酷いから嫌悪する」という形になるべきだろう。
ページたちが中込の住まいから戻ったところで、ようやく「デジキャピの90パーセントが契約社員で、スードラと呼ばれる奴隷階級だ」と いう説明があるが、それでは遅すぎる。
あと、ページが「昔ハッカーだったからわかるんだけどさ、ネット社会の多様性を脅かす権力として、昔からデジキャピは悪名高い」と 言うが、それも今さらかと。もっと早い内に触れておくべき事柄でしょうに。中込はテレビ番組に出演して「次期主力コンテンツとして検索エンジンを発売する」と宣言するが、これが良く分からないん だよな。検索エンジンを発売するって、どういうことなんだろう。
それと、加藤を襲撃する辺りからデジキャピが暴力に走るんだが、これは違和感が強いなあ。
そこはコンピュータなり悪知恵なりを使って悪行を働いてくれないと、ディープじゃなくてチープになってしまう。
「中込は俺たちと同じ人種じゃないんだ、オタクじゃないんだ」と遠阪は言っており、だからアナログな手口をあえて使わせているのかも しれないけど、そんな解釈をしても、やっぱり納得できないなあ。
強引な手口は使ってもいいけど、暴力に頼るのは違うわ。ページは「(デジキャピに対して)俺たちらしいやり方で戦おう」と言うが、「俺たちらしいやり方」ってのは、トレーニングを積んで体 を鍛え、武装して侵入するというアナログ的な方法なのかよ。
ちっともオタクとしてのやり方じゃない。
結局、彼らは最初に設定されたオタク的な技能は、全く発揮されていないのだ。
そこは、それぞれのギークとしての技能を使って敵に立ち向かうべきじゃないのか。
エレクトリック・マーケット、テクノロジーのミュージアムとしての秋葉原というテリトリーでしか上手く生きていけないオタクたちを 描いているはずなのだから、その復讐の方法も、ギークとしての手口を使って欲しい。
それにさ、ページたちのキャラ設定で、終盤が格闘アクションって、そりゃ無いでしょ。あと、「僕の首を取るつもりか」と中込に質問されたページが「ええ」と言うのだが、「それだけじゃ済まさないよ」ということで何が あるのかと思ったら、中込のズラをデモ隊に掲げて歓声を浴びる。
そりゃ無いわ。
それなら、クルークを奪って去った方がマシだ。
ズラを奪って、そんなもんで満足なのか。
もっとコメディータッチなら成立したかもしれんけど、かなりシリアスになっちゃってるから、そのオチは厳しい。(観賞日:2010年11月9日)