『亜人』:2017、日本

亜人とは、死ぬことが出来ない新しい人類である。どれだけ肉体が傷付いても、一時的に死ぬ事で元通りに再生する特徴を持つ。26年前にアフリカで初めて発見され、現在までに全世界で46体が確認されている。日本政府は亜人管理委員会を設立し、謎を解明するために研究を重ねている。東都大学付属病院の研修医である26歳の永井圭は、トラックにひかれた直後に復活した。日本では5年ぶり3例目の亜人だと判明した彼は、国に保護された。
厚生労働省が管轄する亜人研究所に送られた圭は拘束され、戸崎優の指揮下で研究員たちが手足を切断する実験を何度も繰り返した。1つの実験が終わると圭は殺害され、すぐに「リセット」として復活した。視察に来た厚生労働大臣が同席する中で、警視庁副総監は戸崎に「2年前のこともある」と注意するよう促した。戸崎が「警備は万全です」と自信たっぷりに言うと、大臣は実験が公になることを絶対に避けるよう釘を刺した。
亜人の佐藤が相棒の田中を引き連れて研究所に乗り込み、監視カメラを見つけて戸崎を挑発した。日本で最初に発見された佐藤は、3年前に研究所を襲って田中を連れ去っていた。戸崎は大臣をセーフルームへ避難させ、部下の下村泉たちに非致死性麻酔薬の使用許可を出して「眠らせて捕獲しろ」と命じた。しかし佐藤は麻酔弾が当たると自殺し、すぐにリセットして警備員を殺していく。彼は実験室へ辿り着き、圭を解放して「政府は亜人をモルモットとしか考えていない。共に戦おう」と持ち掛けた。
佐藤は実験室の隣にいた研究員たちを追い詰めると、圭にマシンガンを渡して「君に苦痛を与えた奴らだぞ。君に殺す権利がある」と言う。しかし圭は殺害を拒否し、「僕が嫌な思いをするだけです。デメリットしかない」と告げる。佐藤が1人の研究員を射殺すると、圭は彼をマシンガンで乱射した。佐藤は「君はとんだ期待外れだ。ブチ殺してやる」と告げ、自殺してリセットした。圭は罠を仕掛けて佐藤に襲い掛かるが、すぐに反撃を食らった。大怪我を負った彼は、自殺してリセットした。
圭が逃亡を図ると、佐藤は「黒い幽霊」を出現させた。圭も幽霊を出したので、佐藤は能力の高さに感心する。佐藤は幽霊を戦わせ、圭に「これが亜人の持つ能力だ」と言う。圭はスタンドを倒され、佐藤に撃たれる。しかし2体目の幽霊を出現させ、佐藤を襲わせて研究所から逃亡した。佐藤は患者衣に着替えて車椅子に乗った田中と合流し、研究所に押し寄せたマスコミの前に登場した。彼は大手企業が亜人の人体実験を繰り返していること、それによって国が莫大な利益を得ていることを暴露した。その証拠映像を彼はサイトにアップしており、亜人に人格を認めて亜人特別自治区を設置してほしいと訴えた。実験によって毒ガスを製造していると佐藤に指摘されたフォージ重工業社長の石丸竹雄は取材を受け、全面的に否定した。
当ても無く田舎を歩いていた圭は、一人暮らしをしている老女の山中と遭遇して家に招待される。山中は圭を孫のパジャマに着替えさせ、食事も用意した。泉は圭の妹である慧理子が入院している病室へ行き、情報を得ようとする。しかし慧理子は圭から連絡が無いことを告げ、連絡があったとしても話さないと言う。田中は病院の外に現れ、遠隔操作の幽霊に泉を襲わせた。人間には幽霊が見えないため、慧理子や駆け付けた警官たちは困惑した。実は亜人だった泉は幽霊を出現させ、反撃に出た。近付くために病院へ足を踏み入れた田中は泉の前に現れるが、看護師や患者たちが集まって来たので立ち去った。
戸崎は記者会見を開き、サイトの証拠映像は捏造だと嘘をついた。佐藤はアジトに闇商人を呼んで大量の銃と弾薬を受け取り、腎臓や肝臓と交換した。圭はラジオのニュースで妹のことが報じられているのを知り、病院へ赴いた。彼は屋上へ呼び出した慧理子から今後について問われ、「こっちが聞きたいぐらいだよ」と愚痴をこぼした。佐藤は要求から5日が経っても政府からの返答が無いため、動画を公表して「11月25日の午後3時に厚生労働省を壊滅させる。第1ウェーブだ」と述べた。彼は日本中にいる他の亜人たちに向けて呼び掛け、自分の考えに賛同する者は共に戦おうと誘った。
圭は慧理子を山中の家へ連れ帰り、面倒を見てもらうことにした。慧理子は山中に、自分の病気を治すために圭が医者を目指したことを語る。圭は佐藤が襲って来ることを予期し、幽霊を操るための練習を積む。11月25日の午後3時、佐藤は飛行機を厚生労働省のビルに激突させた。佐藤はビルが崩壊した場所に現れ、SATを待ち受けた。そこへ呼び掛けに応じた7名の亜人が現れると、佐藤はしばらく見物しているよう促した。佐藤は田中に動画を撮影させ、国民に呼び掛けて「私の本気を証明しよう。これが第2ウェーブだ」と告げる。彼は圭に呼び掛け、「しっかり見届けてくれ。亜人の力ってものを」と述べた。
SATは戸崎の進言を受け、殺し続けることで佐藤の復活を阻止して自由を奪おうと目論む。しかし田中が狙撃して時間を作り、佐藤を復活させた。佐藤が次々にSATを始末する様子を、圭はパソコンで見ていた。彼は近所の人々が山中家に押し寄せたのを知り、慧理子を連れて逃亡することにした。最初から圭が亜人だと気付いていた山中は、「ここは私が何とかする」と告げて2人を裏から逃がした。佐藤はSATを全滅させると、政府に対して「20日後の午後8時までに東京を明け渡し、亜人の特別自治区にする」という要求を出す。この要求が実現しなかった場合、特殊神経ガスAJVXを東京都全域に散布することを佐藤は通告した。彼は「東京を人間の住めない街にリノベーションする。これが第3のウェーブだ」とカメラに向かって言い放った。
政府は危機管理センターを設置し、戸崎はテレビ電話で政府が決定した「九州南部の無人島か北海道の一部に自治区を制定する」という案を佐藤に持ち掛けた。しかし佐藤は拒否し、交渉を打ち切った。その強硬な態度に4名の亜人が反発すると、佐藤は弾丸を浴びせた。彼らの処分について佐藤がアイデアを求めると、奥山という男が「首を切ってドラム缶に封印」と提案した。戸崎は内閣官邸内対策会議室の4名に呼び出され、交渉決裂の責任を全て押し付けられた。対策会議室は陸上自衛隊の特殊部隊による対亜人特選群、略称「対亜」の編成を決定した。
マスコミは亜人の動きについて、圭も佐藤たちと行動しているかのように報道した。圭は戸崎に接触し、佐藤を止めるために手を組むよう持ち掛けた。その条件として、彼は妹を政府の保護下に置くこと、事態が収束したら自分に新しい身分を与えて捜索しないことを要求した。圭は戸崎に婚約者がいることを調べ上げており、約束を破れば殺すと脅した。戸崎は取引を承諾し、泉と4人の傭兵を集めて少数精鋭のチームを編成した。
AJVXはフォージ重工の本社にしか存在しないため、それを盗みに来る佐藤たちを叩く作戦が立てられた。AJVXは佐藤の人体実験によって製造されており、圭は彼が自身と同じ苦しみを人間に与えようと企んでいるのではないかと推測した。佐藤は20年もの間、実験材料として使われていた。圭たちはフォージ重工の本社ビルへ赴き、AJVXが社長室の金庫に保管されていることを確認した。圭は社長室の隣まで一味をおびき寄せ、そこに罠を仕掛けて叩こうと考える…。

監督は本広克行、原作は桜井画門『亜人』(講談社『good!アフタヌーン』連載)、脚本は瀬古浩司&山浦雅大、製作は市川南、共同製作は吉崎圭一&畠中達郎&吉羽治&弓矢政法&高橋誠&吉川英作&板東浩二&坂本健&舛田淳&荒波修、エグゼクティブプロデューサーは山内章弘、プロデューサーは佐藤善宏&臼井真之介&牧野治康、プロダクション統括は佐藤毅&鈴木嘉弘、アクション監督は大内貴仁、VFXスーパーバイザーは荻島秀明、撮影は佐光朗、照明は加瀬弘行、録音は加来昭彦、衣裳デザインは岡田敦之、美術は禪洲幸久、編集は岸野由佳子、音楽は菅野祐悟、主題歌はTHE ORAL CIGARETTES『BLACK MEMORY』。
出演は佐藤健、綾野剛、吉行和子、玉山鉄二、城田優、千葉雄大、川栄李奈、浜辺美波、志賀廣太郎、HIKAKIN、大森一樹、大林宣彦、山田裕貴、平埜生成、中村育二、堀内正美、升毅、高杉亘、品川祐、緋田康人、森田順平、國本鍾建、今野浩喜、須田邦裕、永岡佑、木原勝利、蔵原健、田中壮太郎、中川晴樹、信太昌之、中山克己、オラキオ、森岡龍、稲垣成弥、大和孔太、堀内佑太、森本のぶ、梅宮万紗子、北山雅康、森功至、鈴村健一、上石愛、荒木貴裕、石川健一、石渡愛、伊藤玄紀、伊藤麻衣、井上良明、今泉玲奈、今田真治、岩田明、梅中悠介、及川達郎、大崎浩一、折舘早紀、笠野龍男、鍛冶幸宏、鹿野浩明、川崎正和、川末敦、木川淳一、木全晶子、清野茂樹、具志堅英喜、国島太郎、久保亜沙香ら。
声の出演は宮野真守。


桜井画門の同名漫画を基にした作品。
監督は『踊る大捜査線』シリーズの本広克行。脚本はTVアニメ版『亜人』のシリーズ構成を担当した瀬古浩司と、『ハルチカ』の山浦雅大による共同。
圭を佐藤健、佐藤を綾野剛、山中を吉行和子、戸崎を玉山鉄二、田中を城田優、奥山を千葉雄大、泉を川栄李奈、慧理子を浜辺美波、警備局長を志賀廣太郎が演じている。
アニメ版の声優である鈴村健一がアナウンサー役で出演し、宮野真守がIBMの声を担当している。
HIKAKINが本人役、大森一樹がニュースキャスター役、大林宣彦が日栄大学の藤川教授役で出演している。

冒頭に「亜人とは、死ぬことが出来ない〜」という文字が出て、亜人についての簡単な説明をする。
だが、それだけじゃ全く足りないことは、言うまでもないだろう。
劇中の映像として、亜人が死なないことを実際に描く必要がある。その一発目として用意しているのが「圭が実験体にされる」というシーンで、次に「トラックにひかれた圭が直後に起き上がる」というシーンだ。
しかし残念ながら、この2つでは観客の気持ちを掴む力が弱い。

そこが弱い理由は2つあって、1つは「亜人は死なない」ってことの見せ方が下手ってことだ。
実験のシーンでは、手足の切断を指示する声は聞こえるが、実際に手足が切断される映像は無い。だから当然のことながら、それが元に戻るシーンも無い。それだと亜人の特殊能力は全く伝わらない。
あと、全身が包帯でグルグル巻きにされているけど、手足を切断したら、それもやり直さなきゃいけなくなるんじゃないのか。いちいち面倒だろ。
それと、包帯に血が全く付着していないのも不自然だし。圭が体を起こすと背中の部分には血がベッタリと付着しているんだけど、それも含めて不可解だぞ。

「トラックにひかれた圭が復活する」というシーンの方は、「死んだ直後に蘇った」という風には見えない。トラックにひかれて倒れた彼が、すぐに体を起こしているだけだ。体から黒い煙は放出しているけど、インパクトはゼロと言ってもいい。
もう1つの理由は、そもそも「実験」「事故」という状況が弱いってことだ。
それよりは、「攻撃を受けた亜人が簡単に復活する」という形で見せた方が、確実に衝撃は大きいはずだ。
つまり、構成に難があるってことだ。

佐藤と田中が研究所に乗り込むと、戸崎は大臣をセーフルームに避難させ、2人を眠らせて捕獲するよう部下に指示する。
それは分かるが、なぜ圭は放置したままなのか。
研究所にとって、圭は大事な実験体のはずでしょ。なのに、別の場所に移そうという気も無い。しかも、佐藤と田中が圭を狙っていることも分かっているのに、実験室に大勢の部下を配置して攻撃させることもない。
何の策も取らないってのは、どういうつもりなのか。
過去に佐藤に逃げられ、田中も奪われているのに、また襲われて圭に逃げられるんだから、学習能力が無いのか。警備は万全と言っていたけど、杜撰極まりないじゃねえか。

圭で3例目の実験体になるのに、まだ厚労省は「亜人の手足を切断する」ってことだけを繰り返している。
他にも色んな実験方法があるだろうに、どんだけボンクラな連中なのかと。
そんな実験を繰り返しているだけなのに、よく色んな企業の製品開発に繋がったな。そんな実験しかやっていないのに、どうやって毒ガスの製造に結び付いたのか、サッパリ分からんよ。
それともボンクラなのは厚労省の研究所だけで、大手企業はもっとマトモな実験をやっているってことなのか。

圭が佐藤から研究員の殺害を指示され、それを拒否する理由が良く分からない。
これが「殺人に対する恐怖で断る」ってことなら分かる。でも、そうじゃなくてクールな態度で「デメリットしかないから」と断っているのよね。
佐藤が言うように、ユニークな性格ってことなのかもしれない。ただ、こっちは包帯グルグル巻きで実験体にされている様子しか見ていないので、その対応をスンナリと受け入れることは難しい。
保護される前のシーンに時間を割いて、圭が風変わりな奴ってことを紹介しておけば違和感は解消されただろうけど。限られた尺で話を収めなきゃいけないとか、早くアクションに入りたいとか、色んな理由はあるんだろうけど、やはり構成には難がある。

佐藤と田中は研究所を襲撃する時、バズーカ砲やマシンガンを使っている。亜人は「絶対に死なない」という以外の特殊能力は無いのかと思っていたら、佐藤がスタンド、じゃなかった黒い幽霊を出現させて圭を襲う展開が訪れる。
もう面倒だからスタンドって言っちゃうけど、そんな能力があるのなら最初から使えばいいんじゃないかと言いたくなる。
スタンドを使える時間が限られているとか、体力の消耗が激しいとか、そういうことがあるならともかく、何も説明は無いし。
あと、スタンドは亜人の意志で操れるのかと思ったら、圭が練習するシーンでは反抗的な態度を取ったりするので、どういうことなのかサッパリ分からんぞ。

近所の人々が山中家に押し掛けるのは、どういうことなのかサッパリ分からない。そこに亜人がいるという情報は、どこから漏れたのかと。
そりゃあ、報道で顔がバレているのに、変装もせずに平気で外を歩き回る圭は不用意だと思うよ。でも、そこまでに「近所の人々が圭を見て不審を抱く」とか、「圭が亜人ではないかという噂が広まる」とか、そんなシーンは無かったわけで。
あと、前夜の内に山中家まで着て様子を窺っているのに、翌朝になってから押し掛けるのも意味不明。亜人を始末したいのなら、前夜の内に乗り込めよ。
っていうか、絶対に殺せないのは分かっているのに、どうやって倒すつもりなのかはサッパリ分からんけど。

あとさ、そんな風に近所に住む普通の人々が簡単に圭を見つけているのに、政府は全く発見できていないのよね。山中家から脱出した後も、圭は簡単に戸崎と接触できているし。
そもそも捜索している気配さえ無いんだよな。
なので、「発見できないも何も、最初から見つける気なんて無い」ってことなら、そっちの方が「なぜ発見できないのか」という部分については腑に落ちるわ。
ただし、そうなると今度は「なぜ見つけようとしないのか」という部分の疑問が湧くけどね。

厚労省のビルを破壊した場所に佐藤が現れると、数名の男たちがやって来る。
軽いノリの奴もいるし、「興味半分の野次馬が様子を見に来た」ってことなのかと思ったら、そいつらが「佐藤の呼び掛けに賛同した亜人」という設定だった。
ただ、彼らはどうして自分が亜人であることを知ったのか、それは良く分からない。
亜人だと判明するような出来事があったら政府が保護するはずだが、放置されている事情も全く分からない。

そこで集まった連中の中には奥山もいるのだが、その時点では全く気付かなかったよ。佐藤が戸崎とテレビ電話で交渉するシーンになって、ようやく存在を認識できるようになる。
ただ、存在意義は皆無と言ってもいい。右脚を引きずって杖を使っているが、その事情も全く分からないままだし。
そこで集まった亜人の連中は、「佐藤と田中だけじゃ足りないから、数を増やした」というだけだ。
奥山については、「1人ぐらいは、おとなしくて頭の良さそうなキャラも入れておこうかな」という程度のキャラに過ぎない。

(観賞日:2019年4月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会