『ア・ホーマンス』:1986、日本

大島組の山崎道夫が暮らす街、新宿に、バイクに乗った男が現れた。浮浪者に素性を聞かれた男は、記憶喪失で何も覚えていないと答える。だが、山崎は男が関西組織の鉄砲玉か警察のスパイではないかと疑い、手下の井沢達に調査させる。
調査の結果、山崎は男がヤクザでも警察のスパイでもないと判断した。山崎は何にも動じず平然としている男に興味を持ち、彼に会う。山崎は男から仕事を紹介してほしいと言われ、彼を“風(ふう)”と名付けて自分の管轄の風俗店で働かせることにした。
同じ頃、大島組では、対立する旭会の組員に組長が狙撃されるという事件が起きた。代貸の藤井は山崎に旭会副会長を殺させ、それで手打ちにしようと考える。そんなやり方に納得できない山崎だったが、気持ちを抑え付けてシャブの取引に向かった。すると山崎の前に“風”が姿を現し、強引に手伝いを申し出た。
シャブの取引を終えた後、山崎と“風”は刑事の取り調べを受けるが、2人とも自白せず、釈放される。山崎は“風”に、街を出るように告げる。山崎は組に戻らず、会長の仇討ちをしようと考えていた。藤井は組員達に、山崎を始末するよう命令する。
新宿を出たはずの“風”が戻って来た。“風”と面会した藤井は山崎の殺害を指示するが、“風”は逆に山崎に手を出したら命が無いと藤井に告げる。山崎は旭会会長を撃つが、彼自身も大島組の鉄砲玉に撃たれる。そこに“風”が姿を現した…。

監督は松田優作、脚本は丸山昇一&松田優作、製作は黒澤満&青木勝彦、撮影は仙元誠三、編集は冨田功、録音は宮本久幸、照明は渡辺三雄、美術は今村力、音楽は奈良敏博&羽山伸也、主題歌はARB。
主演は松田優作、共演は石橋凌、手塚理美、阿木燿子、ポール牧、石橋蓮司、小林稔侍、片桐竜次、平沢智子、剛州、梅津栄、加藤善博、工藤栄一、伊藤洋三郎、新屋英子、中村育二、ジャンボ杉田、船橋淳、古庄一誠、岡村つこ、二東ミサ、野瀬哲男、飯田浩幾、荻原紀、福井章子、藤原益二、森美智夫、大石源吾、松岡滋、川口仁、志賀実ら。


作・狩撫麻礼、画・たなか亜希夫による漫画を映画化した作品。
当初は小池要之助監督がメガホンを執るはずだったが、彼の演出方針に主演の松田優作が難色を示したために降板。松田優作が初監督を務めることになった。

松田優作は自ら脚本にも携わっていることもあり、この作品に賭ける意気込みは相当なものであっただろう。映画作りに対する強い情熱は、ひしひしと伝わってくる。ただし、どれほど強い情熱があっても、それが上手く作用せずに空回りする場合もある。

松田優作という人は、本当に映画が好きなんだろう。だから、この作品でも色々なことを試みている。音に対しても、映像に対しても、実験的なことを仕掛けている。例え、そういった実験が、映画の基本となるべき物語を殺してしまうことに繋がったとしても。

松田優作が凄い役者だということは、多くの人が認めるところだろう。その存在は、時に映画の枠を飛び越えてしまう。この作品に関しても、彼の存在感は圧倒的だ。彼が演じる“風”という男は、映画そのものを破壊するほどの存在となっている。

“風”は単なる記憶喪失の男ではない。彼の正体は、実はサイボーグである。彼には人間としての感覚がわずかに残されてはいるものの、肉体の内部は機械によって構成されている。いわば、ロボコップのような存在なのだ。

“風”が表情に乏しく台詞も極端に少ないのは、彼がサイボーグであり、人間のような感情を持っていないからである。“風”の攻撃がポール牧の演じる藤井に向けられないのは、おそらくオカマ喋りの相手を人間として認識できなかったからだろう。

 

*ポンコツ映画愛護協会