『連理の枝』:2006、韓国

ネット会社を経営する青年実業家のミンスは、色んな女と遊んでいるプレイボーイだ。彼にとって、女は遊び相手でしかない。運転の最中 、隣の女性ドライバーをナンパした彼は、前の車に追突して首を痛めた。先輩のキョンミンは、彼を同乗させて病院へ向かう。雨の中で バス停に立っていたヘウォンは、キョンミンの車が通り過ぎる際に水を浴びてずぶ濡れになった。ミンスはお詫びとして彼女を車に乗せ、 病院へ送っていく。ミンスはヘウォンを看護師だと思っていたが、なぜか彼女は警備員を見ると顔を隠した。
ミンスは連絡先を聞こうとするが、ヘウォンはさっさと降りてしまう。だが、ヘウォンは携帯電話を車に忘れており、ミンスはキョンミン に「3日で落とせるかどうか賭けましょうか」と言う。検査のために入院したミンスはヘウォンを探すが、見つからない。それもそのはず 、彼女は看護師ではなく患者だった。彼女はウォン看護師長の名を騙ってラジオの生番組に出演し、ウォンが好意を寄せるビョンホ医師 への思いを饒舌に語った。
ウォンにラジオ出演がバレたため、ヘウォンは慌てて向かいの病室に逃げ込んだ。すると、そこに入院していたのがミンスだった。ミンス は携帯電話を失くしたと嘘をつき、「新しいのをプレゼントする」と告げてヘウォンを連れ出した。携帯を購入した後、ヘウォンは男たち から「ぶつかってきて車が傷付いた」と因縁を付けられた。ミンスは「車を移動させる」と称し、ヘウォンを連れて車に乗り込んだ。彼は 車を急発進させ、少し行ったところで停めた。男たちが追って来たので、ミンスはヘウォンの手を取って走った。
ヘウォンはミンスに、「冷たいビールでも飲まない?」と誘った。そこへ、ミンスが遊んだ女が現れた。空港にいると聞かされていた彼女 に問い詰められたミンスは、「夜の便に変わった」と適当に言い繕い、ヘウォンのことは「従姉妹だ」と告げた。ヘウォンは親友スジン、 ミンスはキョンミンを呼び出し、4人はバーで飲んだ。かつてミンスが店でバイトをしていたと知ったヘウォンは、カクテルを作るよう 求めた。ミンスは巧みなフレアバーテンディングを披露し、カクテルを作った。
翌日、ミンスはヘウォンをドライブ・イン・シアターへ連れ出した。不意にキスをすると、ヘウォンは激しく動揺した。ミンスは初めて キスにときめきを感じた。ミンスはキョンミンから、「好きな女が出来た。近付く方法を教えてくれ」と求められ、「女は花に弱いんだ」 とアドバイスした。次の日、キョンミンは、スジンがメイク係として働く映画ロケ現場へ赴いた。スジンは、自分が紹介した役者が来て いないので困っていた。そこへキョンミンが来たので、スジンは半ば強引に代役を務めてもらった。
ヘウォンは病院を抜け出し、ミンスの会社へ行ってみた。しかしビルからミンスが出て来ると、偶然を装った。ミンスから夕食に誘われ、 ヘウォンは喜んだ。病院に戻ったヘウォンは、ウォン看護師長から外出禁止を言い渡される。だが、その夜も彼女は病院を抜け出し、 ミンスとレストランで食事をした。ヘウォンはミンスが誕生日だと店の人に嘘をつき、サービスを受けた。
レストランには、ミンスが遊んだ例の女も来ていた。ミンスを見つけた彼女は、「また彼女も飽きたら捨てるの?」と嫌味っぽく言う。 ミンスは「言葉に気を付けろ」と怒った。女に「この人は誰?」とヘウォンのことを訊かれ、ミンスは「愛する人だ」と答えた。店を出た 後、ミンスは「さっきのは本心だ。付き合おう」と持ち掛けた。ヘウォンは「今まで傷付けた女の人全員に謝って。そうすれば考える。 ただし証拠が無ければ無効よ」と告げた。
ヘウォンは守衛の酒を拝借してミンスに振る舞い、2人でラジオの音楽を聴いた。彼女は病院を去るミンスに、「今度の週末、遊びに 行きましょ」と告げた。週末、ミンスはヘウォンを郊外の湖へ連れて行った。ミンスは魚釣りをするが、結果は全くダメだった。夜遅くに なり、ミンスは「泊まっていこうか」と言うが、実は昨日の内に車を置きに来ていた。車で病院へ送る途中、ミンスはヘウォンの携帯に 送信した予約メッセージの映像で「君が好きだ」と伝えた。
次の日、病院へ赴いたミンスは、ビョンホ医師から「話がある」と呼び出された。ビョンホの話を聞いたミンスは、浮かない顔になった。 ヘウォンと約束していた動物園へ出掛けても、ずっと黙り込んだままだ。雨が降り出す中、走り出したヘウォンは急に倒れてしまい、病院 に運ばれた。ミンスがビョンホから聞かされたのは、ヘウォンが原発性肺高血圧という難病を患ってるという事実だった。それは特別な 症状が無いまま死に至ることもある病気だという。
後日、ミンスが病室を訪れると、ヘウォンは回復した様子だった。ヘウォンはミンスに、「以前のようには出来ないわ」と告げる。ミンス が「何も変わってない」と反論すると、ヘウォンは「貴方に会うと辛い。黙って私の前から消えて」と悲しそうに言った。ヘウォンは退院 し、スジンと同居生活を始めた。ミンスは家に行くが、スジンに「ヘウォンは会いたくないと言ってる」と告げられた。だが、雨の夜に外 で立っていたミンスを目にしたヘウォンは、自分の心に素直になり、彼と正式に付き合うことを決める…。

監督はキム・ソンジュン、脚本はキム・ソンジュン、プロデューサーはソ・ジュンワン、撮影はソク・ヒョンジン、音楽はパク・ キョンジン、主題歌はシン・スンフン。
出演はチェ・ジウ、チョ・ハンソン、チェ・ソングク、ソ・ヨンヒ、チン・ヒギョン、ソン・ヒョンジュ、キム・スミ、ヒョニョン、イ・ グミ、オ・ヒョンギョン、イ・インチョル、キム・ユニ、チョン・ダビン、キム・ヒス、 ウォン・エリ、チョン・ジェフ、チェ・ヨンジュ、キム・ヨンス、キム・ヨンジン、キム・テフン、イム・ゴンヒョク、ハン・チョル、 キム・ジョンサン、キム・ゴン、キム・ダンビ、チェ・ユンジョン、チョ・ヨンギョン、ソ・ジヌク、パン・ヘラ、オ・チャンギョン、 パク・チャングク、チョ・ソギョン、イム・ホンビン、キム・ヨンホ、オ・スンテ、パク・シウ、キム・ヨンジュ他。


TVドラマ『冬のソナタ』で日本でも人気を集めた韓国の女優、チェ・ジウの主演作。
1919年にセシル・B・デミルが監督した同じ邦題のアメリカ映画があるが、何の関係も無い。
ヘウォンをチェ・ジウ、ミンスをチョ・ハンソン、キョンミンをチェ・ソングク、スジンをソ・ ヨンヒ、ウォン看護師長をチン・ヒギョン、ビョンホ医師をソン・ヒョンジュが演じている。

チェ・ジウの主演作ということで、日本で公開された時は大々的に宣伝されていたが、中身は完全にC級の恋愛劇。
「涙の女王」という異名を持つチェ・ジウが主演だし、「難病を抱えたヒロインの恋愛劇」という大枠だけ聞くと悲恋のドラマっぽいが、 始まってみると、思い切りロマンティック・コメディーとしてのノリで進んでいく。
ミンスがヘウォンの病気を知らされるまでは、ヘウォンが少し走っただけで息切れする場面はあるものの、難病ドラマ、悲恋物語としての 匂いは皆無に等しい。

ヘウォンが「車にぶつかって傷付いたじゃねえか」と男たちに因縁を付けられると、ミンスは近付いていって車に乗り込み、急発進させる。
で、しばらく走ったところで停車させ、ヘウォンを連れて走る。
何がしたいのかサッパリだ。
ところが、走っている最中に、ヘウォンも楽しそうに笑っている。
そんな彼女の感覚もサッパリ分からない。
問題を解決するどころか、むしろ余計に迷惑を掛けられているんだから怒っても良さそうなものなのに、笑っちゃうのね。

その直前までミンスに反発し、不愉快そうにしていたのに、ヘウォンは一緒に逃走した途端、いきなり好感に変化する。
そこで好感に変化する要素はゼロだと思うんだが。
で、なぜか購入したばかりの携帯電話にスジンから電話が入り、ヘウォンはミンスを飲みに誘う。
反発が少しずつ好意に変化していくドラマをスッパリと省略してしまい、最初に「ヘウォンはミンスの失礼な態度に不快感を抱く」と いうところから入った意味をゼロにしている。

ヘウォンは病院の患者なのに、ミンスは微塵のためらいもなく病院から連れ出している。
彼女が何の病気なのかを気にする素振りも無い。ビョンホ医師に病名を教えられるまで、ミンスからヘウォンに入院の理由を尋ねることは 一度も無い。
ウォン看護師長がヘウォンに「安静にしていても危ないのに、ずぶ濡れになるなんて」と言う場面があるが、そんなに気を付けなきゃ いけない病気の患者なのに、ヘウォンは簡単に病院から抜け出せている。
外出禁止を命じても、監視が付くわけでもない。

ミンスはレストランで遊んだ女に「また彼女も飽きたら捨てるの?」と言われると、「言葉に気を付けろ」と怒る。
「この人は誰?」と訊かれると、「愛する人だ」と答える。
でも、そういうセリフや態度は、その女にちゃんと別れを切り出した後ならキマるけど、その関係にちゃんと整理を付けず、嘘をついて 逃げ回っていたのに、その女に対して「失礼なことを言うな」と怒られても、「お前の方が失礼だ」と言いたくなる。
まずは、彼女にちゃんと謝るのが先じゃないのかと。

「付き合おう」と持ち掛けたミンスに、ヘウォンは「今まで傷付けた女の人全員に謝って。そうすれば考える」と言う。
では、すぐに次のシーンへ移動し、ミンスが女たちに謝る様子を描くのかと思ったら、一緒に酒を飲んだりラジオを訊いたりする様子へと 繋げる。
おまけに、ヘウォンは自分から遊びに誘っている。
そこは、ちゃんと女の人全員に謝る約束をミンスが果たすまで、自分からは誘わず、むしろ距離を置こうと考える方がいいんじゃ ないのか。

その後も、ヘウォンが遊び相手との関係を清算しようとする動きは描かれず、遊びに行く様子に移る。
「泊まればいい。猫を被る年かよ」と言っておきながら、昨日の内に置いた車を見せて「最初から送るつもりだった」というのをアピール したり、携帯の動画で「好きだ」と告げたりする様子が描かれる。
でも、「そういうのはプレイボーイだから、やり慣れているだろ」と感じる。そんなことより、遊び相手との関係をキッチリと清算しろと 言いたくなる。
その約束を果たさずに口説き落とそうというのは(なぜかヘウォンも全く気にしていないが)、不誠実な態度に見える。
「今までのプレイボーイとしての遊びじゃなくて、今回は真剣だ」というトコロが、あまり見えてこない。表情やセリフでは本気度を アピールしているけど、やっていることの差が伝わらない。

ミンスはビョンホ医師からヘウォンの病気を知らされても、平気でデートに出掛けている。
で、ヘウォンが倒れた後、観客には彼女の病気が「特別な症状が無いまま死に至ることもある病気」という、おそろしく都合のいい設定の 病気だということが明かされる。
今まで病気なんて全く感じさせず健康そのものだったのは、特別な症状が無い病気だからだ。
で、動物園に行った時だけは、なぜか都合良く倒れたというわけだ。
いやあ、すごいね。

でも、原発性肺高血圧って、今は肺動脈性肺高血圧症に改名されているけど、実際にある病気なのよね。
ただし、それは特別な症状が無いまま死に至る病気ではない。初期症状は軽い動作での息切れや立ちくらみ、疲労感といったものなので、 「その病気特有の症状が無い」ということは言えるが、「特別な症状が無いまま死に至る」ってのは明らかに違う。
それに、ヘウォンの場合は「安静にしていても危ない」と言われるぐらいだから、かなり症状は進行していたはずなのに、そんな様子は 全く無かったぞ。
それと、肺動脈性肺高血圧症なのに酒を飲みまくっている時点で、この女、生きる気が無いだろ。

退院したヘウォンが会ってくれず、その後にミンスは遊んだ女の元へ行って許しを求めるが、それだとタイミングが遅すぎる。
ヘウォンは、その約束が果たされないから会おうとしないわけでもないし。たぶん、そんな約束、とっくに忘れてるし。
それに、ミンスは遊び相手の元へ行く時にキョンミンに付き添ってもらい、彼に「許してやってくれ」と言ってもらっているが、それは 一人でやるべきだろ。
あと、色んな女を回るわけじゃなくて、あのストーカー女だけで、しかも許してもらえていない。
なんだ、そりゃ。

雨の夜、眠っていたヘウォンは目を覚まし、窓が開いているのに気付く。窓を閉めようとした時に、外の道に濡れながら立っているミンス を見つける。
でも、ヘウォンが気付かなかったら、ミンスはどうするつもりだったのか。
なぜ、そこに立ち尽くしていたのか。
そういう行動は、例えば「家を訪れて呼び掛けたが拒否され、外で待つ」とか、「来てくれなくてもずっと待っていることを伝えて、外で 待つ」とか、そういうことなら成立するけど、何も言わず、勝手に外に立ち尽くしているだけって、アホだろ。

終盤、ミンスも脳腫瘍で長くないことが判明するが、その展開には、ひたすらバカバカしさしか感じない。
勝手にやってろって感じ。
ちなみにヘウォンは退院した後、まるで病気の症状が無くて健康そのもの。でも、また急に倒れる。
そして退院すると、また普通の生活に戻り、病気の症状で苦しむとか、衰弱した様子を見せるとか、そういうのは全く無い。
ホント、安い映画だこと。

(観賞日:2010年3月8日)


2006年度 文春きいちご賞:第7位

 

*ポンコツ映画愛護協会