『WASABI』:2001、フランス&日本

強引な捜査を繰り返すパリの刑事ユベールは、署長の息子を病院送りにしてしまい、上司のスクアールから謹慎処分を言い渡された。ユベールにはソフィアという恋人がいるが、かつての恋人・小林ミコのことを忘れられずにいる。19年前に諜報部員として日本で勤務していたユベールは、ミコと付き合っていたが、急に彼女は姿を消したのだ。
ユベールは日本の弁護士イシバシからの連絡で、ミコが死亡したことを知らされる。東京へ向かったユベールは、諜報部員時代の同僚モモと再会する。イシバシの弁護士事務所を訪れたユベールは、ミコと自分の間にユミという娘が生まれていることを知る。
ユベールはイシバシから、遺書と鍵を渡された。遺書には、ユミが成人するまでユベールが後見人になるよう書かれていた。ユミが成人するのは、2日後だ。ユベールは、父親だと名乗らず、ユミに会った。彼女は酒を飲んで警官を殴り、留置所から出て来たばかりだった。ユミはミコから、父親は自分をレイプして妊娠させたと聞かされていた。
ユベールはユミと共に、ミコが火葬される斎場を訪れた。ユミコの遺体を見たユベールは、ガンで死んだはずの彼女の顔に、青酸カリの結晶が付着しているのに気付く。さらにユベールは、ミコの爪の間に土が挟まっているのを発見した。
葬儀を済ませたユベールは、ユミと共にミコの姉の元を訪れた。ミコのカルテを調べた後、ユミと共に出掛けたユベールは、ユミの口座に200億円が入っているのを知る。それは、ユミも知らないことだった。やがて2人は、タカナワ率いるヤクザ達に狙われる…。

監督はジェラール・クラヴジック、脚本&製作はリュック・ベッソン、製作総指揮は小滝祥平&佐倉寛二郎、撮影はジェラール・ステラン、編集はヤン・エルヴェ、美術はジャック・ビュフノワール、衣装はアニエス・ファルク、音楽はエリック・セラ&ジュリアン・シュルタイス。
出演はジャン・レノ、ミシェル・ミューラー、広末涼子、キャロル・ブーケ、リュドヴィク・ベルティヨ、ヤン・エプスタイン、ミシェル・スクノー、クリスチャン・シニジェ、ジャン=マルク・モンタルト、アレクサンドル・ブリク、ファビオ・ゼノーニ、ヴェロニク・バルム、ジャック・ボンドー、ヨシ笈田、ハルヒコ・ヒラタ、オサム・ツルヤ、アキヒコ・ニシダ、エロディーフレンク、中村愛美、KEE他。


リュック・ベッソンが設立した“ヨーロッパ・コープ”の『キス・オブ・ザ・ドラゴン』『YAMAKASI』に続く第3回作品。
ユベールをジャン・レノ、モモをミシェル・ミューラー、ユミを広末涼子、ソフィアをキャロル・ブーケ、タカナワをヨシ笈田が演じている。
『キス・オブ・ザ・ドラゴン』はジェット・リー、『YAMAKASI』はヤマカシを全面に押し出したスター映画の作りになっていた。というわけだから、これはジャン・レノを全面に押し出したスター映画なんだろう。で、ヒロスエは『レオン』のナタリー・ポートマンの役回り。

リュック・ベッソンは、『フィフス・エレメント』や『TAXI2』などの脚本を書いた人である。そういうことである。
つまり何が言いたいのかというと、「リュック・ベッソンなので、シナリオが大雑把でメチャクチャなのは当たり前」ということ。「諦めましょう」ということだ。
ただし、『フィフス・エレメント』にはSF的なキャラクターや舞台装置、『TAXI2』にはカーアクションと、それぞれに「デタラメなシナリオを救うための武器」が存在した。それが、この映画には無い。アクションシーンは一応あるが、ジャン・レノはアクション俳優ではない。
ってことは、ただボンクラな話だけの映画ってことだ。

ユベールは手荷物検査をしようとする税務署職員を殴るが、何の御咎めも無し。モモはユベールの来日を知っていたが、その理由は「元諜報部員だから」という説明になっていない説明で処理される。で、秋葉原なのに「新宿だ」と主張する場所に行く。
弁護士事務所は障子戸になっている。 そこで、ミコが19年間も連絡さえ取っていない男に娘の後見人を頼むというヘンテコな考えの持ち主だと分かる。さらに彼女、娘に対して、「私は強姦されてアンタを生んだのよ」と教えている。すげえな。
ところで、19年前にミコと別れたユベールが、20歳になる娘の存在を知らないというのは、ちょっと計算が合わないと思うんだけどね。どこかで時間軸がズレちゃったのかねえ。あと、ミコが200億円もどうやって手に入れたのかも、良く分からないね。

ユベールが出会う日本人は、みんなフランス語が堪能。一方で、ずっと日本にいるはずのモモは、ほとんど日本語を話せない。百貨店で客とヤクザが争っているのに、警備員は駆け付けないし、警察も現れない。ゲームセンターでも銃を発砲して何人も死んでるのに、警察は動かない。そのくせ、最後だけは警察が駆け付ける。
さて、ミコの娘なので、ユミもアッパラパーだ。2日前に母親を亡くしたのに、ニコニコ笑って友達と喋ってる。ムリに明るく装っているのではなく、心底から陽気なのだ。母親の火葬シーンでも、この娘はハデハデなファッションに身を包んでいるアーパーだ。

ユベールの「医者だから」というウソを聞いたユミは、「私の鼻を整形してよ」と陽気に話す。それ、母親の遺体の前でのシーンである。たまに泣くことはあるが、すぐに脳天気モードになって楽しく遊び回る。どうやら、オツムが不憫な娘のようだ。
死化粧された後のミコの死体には、結晶が付着したままになっている。ってことは、それまで誰も気付かなかったということになる。そして、医者は青酸カリの中毒死と癌を間違えたということになる。つまり、日本人はバカばっかりということになる。
ユベールは「医者だから」とウソをついて、死体から結晶を勝手に回収。ミコの遺灰は、無断で東京湾に撒かれる。許可を得たとしても、沖合いに出た場所でなければならないはずだが、港から撒いている。遺体を焼いた後なのに、霊柩車が待っている。

ヤクザから呼び出されたユベールは、危険な場所のはずなのに、なぜか娘を連れて行く。よっぽど離れたくないらしい。それにしては、ヤクザにユミが連れて行かれた時、全く助けようとしなかったな。こいつもユミと同じく、オツムが不憫なんだろう。
娘が連れ去られたユベール、モモと一緒に居酒屋へ飲みに行く。ノンビリしたオヤジだな。で、注文したわけでもないのに、ワサビの大盛が運ばれてくる。どんな店だ、それは。で、ミコがヤクザ組織に潜入捜査をしていたと分かるが、日本に潜入捜査は無い。あったとしても、ヤクザへの潜入捜査に使うなら、女より男を選ぶだろうね。

さて、ユベールは京都に行くのだが、明日の朝10時にはユミが20歳になって口座凍結が終わるので、それまでに東京に戻らねばならない。京都に到着したのが、タイムリミットの朝。そこから清水寺に行き、用事を済ませて東京に戻る。どう考えても、10時には間に合わない。でも、間に合ってる。たぶん、どこでもドアでも使ったんだろう。
銀行を訪れたタカナワは、受付の人間にフランス語で話し掛ける。ちなみにタカナワ、日本人である。さて、対応するのは受付に化けたモモ。日本の銀行でフランス人が受付をしているのに、全く疑わないタカナワ。こいつもオツムが不憫なんだな。

そんな感じで、とにかくツッコミを入れ始めるとキリが無い。特に日本人にとって気になるのは、やはり日本に関する描写だろう。しかし、それらのヘンテコな描写は、全て「笑いとしてワザとやっている」と考えれば、いちいち腹を立てる必要も無いだろう。
この映画は、何もかもがデタラメだ。しかし、だからといって「デタラメじゃないか」と文句を言っても、製作サイドに奇妙な顔をされてしまうだけだ。「最初からデタラメな映画として作っているんだから、当然じゃないか」ということなのだ。
たぶんね。

 

*ポンコツ映画愛護協会