『ローグ アサシン』:2007、アメリカ&カナダ

サンフランシスコ。FBI捜査官のジョン・クロフォードは相棒のトム・ローンと共に、倉庫へ突入する。しかし標的にしていた連中は、何者かによって殺害されていた。チタンの薬莢を見つけたクロフォードは、殺し屋のローグによる仕業だと確信した。ローグは大物ヤクザのシロー・ヤナガワが中国マフィア「トライアド」と抗争になった際、雇い入れた男だった。クロフォードはローグと遭遇するが、発砲を受けて負傷する。しかしトムが駆け付けて顔面に弾丸を撃ち込み、ローグは海に転落して姿を消した。
3日に渡る捜索が行われたが、ローグの死体は発見されなかった。トムは自宅で妻子といる時にローグの襲撃を受け、家を燃やされた。トムの家に赴いたクロフォードは、全焼した現場でチタンの薬莢を発見した。それから3年後、ヤクザ街のクラブ・ゼロにヴィクター・ショウという男が現れ、店にいたヤクザたちを全滅させて立ち去った。地元刑事が現場検証をしていると、FBIアジア組織犯罪捜査課のクロフォードが仲間のウィックや新人のゴイたちを引き連れて現れた。彼はチタンの薬莢を見つけ、ローグが戻ったと確信した。
分析の結果、現場に残されていた薬莢が3年前の事件で使われた物と一致した。クロフォードは仲間たちに、日本のヤクザと中国マフィアの抗争を説明する。シローはヤクザ街を仕切る大物だが、アメリカへ来たことは無い。トライアドのボスであるチャンは、マリン街に豪邸を構えている。30年前、シローはチャンの一族を殺害し、家宝を奪った。彼は今までに多くの家宝を売り払い、今度は馬の彫像がアメリカへ運び込まれることになっていた。
ローグはチャンの邸宅に呼ばれ、「馬の彫像は本当に入手できるんだろうな」と確認した。ローグは「大丈夫です」と約束すると、チャンは側近であるウーとジョーイのチー兄弟を使うよう促した。ローグは自分からチャンに売り込み、シローを裏切ってクロブ・ゼロのヤクザを始末していた。日本で暮らすシローの元には、娘のキラがアメリカから戻った。キラが「積荷は今夜、サンフランシスコに到着します」と報告すると、シローは「先にアメリカへ戻れ」と指示した。
クロフォードはチャイナタウンの賭博場へ行き、店主のベニーと会った。ベニーは秘密捜査官であり、ローグにチタンの薬莢を作った男が殺されていること、整形を担当した形成外科医2名も死んでいることをクロフォードに教えた。ローグは半年ごとに整形し、顔を変えているのだ。ヤクザはアンドリュース警部を抱き込み、ヤクを運んでいた。彫像をトラックで運ぶ際も、アンドリュースと話を付けていた。しかしローグが手を回したことでアンドリュースが裏切ったため、輸送を担当したヤクザはチャンの手下たちに殺された。
ローグはチャンの手下たちに指示し、彫像を倉庫へ運ばせた。クロフォードはヤクザの犬だったアンドリュースが寝返ったと見抜き、拳銃を突き付けて詰問した。するとアンドリュースは、「チャンに雇われた男から、家族を殺すと脅された。名前は知らない」と白状した。クロフォードと仲間たちは、アンドリュースの身柄を保護しようとする。しかしローグが建物の屋上から狙撃し、アンドリュースを始末した。クロフォードは逃げるローグを追い掛けるが、姿を見失った。
ヤクザたちは復讐心を燃やすが、キラから「父の命令があるまで何もするな」と釘を刺された。ローグはクロフォードに電話を入れて、「ブツが欲しいか?16番倉庫へ1時間後に来い」と告げた。チャンが手下を連れて倉庫に入ろうとした時、クロフォードが仲間を連れて到着した。クロフォードがチャンに倉庫を開けさせると、ローグが待ち受けていた。ローグは武器を所持しておらず、無抵抗で身体検査を受け入れた。クロフォードがパスポートを見ると、ヴィクター・ショウと書かれていた。
クロフォードはウィックたちに倉庫を調べさせ、トムと妻子を殺された憎しみをローグにぶつけた。クロフォードは銃を突き付けるが、ローグは冷淡な態度で「過去に生きても苦しいだけだ」と口にした。倉庫では何も発見できず、ウィックはクロフォードに「必ずチャンスは来る」と落ち着くよう諭す。クロフォードはローグに「次は決着を付けてやる」と言い、その場を後にした。チャンはローグを信頼し、自宅での警護も依頼した。ウーはローグに反感を抱き、「ここを仕切ってるのは、今でも俺だ」と告げる。ローグは全く表情を変えず、「世の中の動きは刻々と変わる」と述べた。
ローグはヘルメットで顔を隠し、バイクでジョーイと仲間たちの前に現れて挑発的な態度を取った。ジョーイたちは相手がヤクザだと思い込み、逃げるローグをバイクで追った。ローグはヤクザ街にジョーイたちを誘い込み、シローの手下たちとの争いを誘発した。ローグはジョーイを殺害し、凶器であるシローの紋が入った日本刀を現場に残した。全面戦争になると確信したクロフォードは、チャンの邸宅やヤナガワ・モーターズなどの見張りを仲間に指示した。ウィックとゴイは、タカダが営む白湯茶房の張り込みを担当した。
弟を殺されたウーは復讐心を燃やすが、チャンは「今、動けば我々の組織が危うくなる。必ず仇討ちは果たすから、時期を待て」と諭した。ウーが1人になると、ローグは白湯茶房のマッチを渡して「家族の名誉を守るのが男の務めだ」と吹き込んだ。ウーが手下を引き連れて白湯茶房を襲撃したため、ゴイはクロフォードに連絡を入れた。ウーたちはヤクザと銃撃戦を展開するが、そこへクロフォードが仲間を引き連れて突入した。クロフォードはウーたちを取り押さえるが、連行しようとするとローグが狙撃した。
ゴイはローグを発見して発砲するが、その間にウーが逃亡を図る。クロフォードがウーを捕まえるが、ウィックがヤクザに撃たれて犠牲となった。クロフォードはヤクザを始末した後、車で逃走するローグを追跡する。ローグはクロフォードを撒いた後、チャンに連絡を入れてウーの行動を報告した。彼はキラの元へ行き、「ご苦労様、お父様もお喜びになるわ」と告げられる。キラは父からの伝言として、チャンの妻子を殺す命令をローグに告げた。クロフォードはベニーから知らせを受け、メキシコに身を隠した形成外科医のシャーマンを訪ねる。クロフォードがショウの写真を見せて詰問すると、シャーマンは「3年前に来た時、彼の顔は剥がれ落ちそうになっていた。その際、この顔に変えた」と証言した…。

監督はフィリップ・G・アトウェル、脚本はリー・アンソニー・スミス&グレゴリー・J・ブラッドリー、製作はスティーヴ・チャスマン&クリストファー・ペツェル&ジム・トンプソン、共同製作はジョセフ・P・ジェニエ&ステファニー・デントン、製作総指揮はマイク・エリオット&マイケル・パセオネック&ピーター・ブロック&ジョン・サッキ、撮影はピエール・モレル、美術はクリス・オーガスト、編集はスコット・リクター、衣装はシンシア・アン・サマーズ、武術指導はコリー・ユン、音楽はブライアン・タイラー。
出演はジェット・リー、ジェイソン・ステイサム、ジョン・ローン、デヴォン青木、ルイス・ガスマン、ソウル・ルビネク、石橋凌、サン・カン、マシュー・セント・パトリック、ナディーン・ヴェラスケス、アンドレア・ロス、マーク・チェン、ケイン・コスギ、ケネディ・ローレン・モンタノ、テリー・チェン、ステフ・ソン、アニカ・フー、ニコラス・エリア、ケネス・チョイ、エリック・キーンレイサイド、ポール・ジャレット、ジョンソン・ファン、キム・ジョンヨル、ヒロ・カナガワ他。


2001年の『ザ・ワン』に続き、ジェット・リーとジェイソン・ステイサムが共演した2本目の作品。
監督のフィリップ・G・アトウェルは、エミネムやスヌープ・ドッグなどのMVを手掛けてきた人物。2000年にはラッパーたちのツアーを追ったドキュメンタリービデオ『ザ・アップ・イン・スモーク・ツアー』を監督しているが、劇場作品はこれが初めて。
脚本のリー・アンソニー・スミスとグレゴリー・J・ブラッドリーは、いずれも本作品がデビュー。
ローグをリー、クロフォードをステイサム、チャンをジョン・ローン、キラをデヴォン青木、ベニーをルイス・ガスマン、シャーマンをソウル・ルビネク、シローを石橋凌、ゴイをサン・カンが演じている。

この映画は、肝となる仕掛けの部分で大きな失敗をやらかしている。
公開当時に「ローグ、お前は何者なのか?」という惹句が使われていたからも分かるように、ローグは謎めいた存在として造形されている。オープニングの倉庫での戦いでも、トムの自宅へ侵入するシーンでも、顔は写し出されない。
そこから3年後に飛ぶと、今度はジェット・リーがローグとして登場する。
この段階で、ジェット・リーが本物のローグかどうかは別にして、冒頭の殺し屋とは別人であることがバレバレになってしまう。「ローグは半年ごとに整形している」という情報を後から提示しても、ミスリードとしての力は全く無いし。
それなら冒頭シーンでも顔を見せればいいわけでね。

もう1つ、ジェット・リーの演じる男(とりあえず「ショウ」と呼ぶことにする)が悪党でないこと、それどころか悪党を退治しようとしていることも、かなり早い段階でバレバレになってしまう。
前述したように、ローグを謎めいた存在としており「何者なのか、目的は何なのか」というトコで観客を引き付けようとしているのに、序盤から情報が随分と出ちゃってる状態になるのは、どう考えても上手くないでしょ。
ローグの正体や目的に関するどんでん返しが終盤に用意されているけど、序盤の段階で、ほぼ崩壊しているのよ。

クロフォードは16番倉庫でショウと対峙した時、「その目に見覚えがある。整形外科医でも目は変えられない。トムを覚えてるか」などと、相棒を殺された憎しみを向けている。
しかし「目に見覚えがある」と言っているクロフォードの確信は、大外れであることが終盤になって判明する。
面倒だからネタバレを書くけど、倉庫でクロフォードに発砲した男はショウと別人なのよ。つまり「犯人の目だ」と彼は断定していたけど、それは間違いなのよ。
それはダメでしょ。観客に対して、すんげえアンフェアなことになってしまうでしょ。

ショウはヘルメットで顔を隠し、ジョーイと仲間たちを挑発する。ジョーイたちは相手をヤクザだと思い込み(そう思った理由がイマイチ分かりにくいが、どうやらスカジャンがヤクザの目印ってことのようだ)、追い掛けてヤクザ街に入る。で、トライアドとヤクザが争いになるのを確認してから、ヘルメットを脱ぐ。
つまり映画としては、そのタイミングで「実はローグでした」と観客に明かす形となっている。
でも、よっぽど鈍い人じゃなければ、ジョーイたちの前にヘルメットのバイカーが現れた時点で「これがローグで、おびき寄せる目的で挑発しているんだな」ってことはバレバレだ。
この映画、そこに限らず、ほとんどの仕掛けがバレバレになっている。

日本の要素を持ち込んだハリウッド映画では良くあることだが、この作品でも「ヘンテコな日本」の描写が用意されている。
序盤から「ヤクザ街」という謎の場所が登場するし、クラブ・ゼロは普通のクラブなのに奥には畳の和室がある。そこではヤクザが日本っぽい賭場を開いているのだが、和室なのに靴を履いている。ソファーに座っている奴もいるし、ドーベルマンもいる。
刑事は「ヤクザは殺した数だけ腕に輪を彫る」という、どこで聞いたのか良く分からないデタラメな知識を話す。
クロフォードは英語の分からないヤクザに事情聴取できない刑事に対し、「ヤクザ街のデカなら日本語ぐらい覚えろ」と鋭い口調で告げる。そんな言い方をするぐらいだから、さぞ自分は流暢な日本語を話すんだろうと思っていたら、まあ見事なぐらいのカタコトだ。ハッキリ言って、かなり頑張って聞き取ろうとしないと、何を喋っているのか良く分からない。
そのくせ、変に任侠映画の脅し文句みたいなことを言おうとするもんだから、ますます滑稽なことになっている。

白湯茶房の入り口には、「柳雪折れなし」「馬鹿ほど恐いものなし」という奇妙な言葉を書いた札が立っている。店内には、「弱肉強食」「下手の横好き」「掃き溜めに鶴」といった言葉が大きく書かれている。
ヤナガワ・モーターズの入り口には「乱を忘れず」「に愧じず」という言葉が大きく記されている。特に凄いのは「に愧じず」の文字で、最初は「に」の上の部分が隠れて見えないのかと思ったのだが、それで全てなのよね。
シローはショウの裏切りを知った後、「戦国時代を思い出す。大名たちは天下統一を夢見ていた」と口にする。でも、そんな時代にシローが生きているわけは無いので、「思い出す」のは変だ。
「大名たちは天下統一を夢見ていた」という言葉に続けて、シローは「それを成し遂げたのが、織田信長だ」と語る。でも厳密に言うと、織田信長は天下統一を果たしたわけではないからね。しかも、シローは信長を自分なぞらえて「だから逆らう奴は殺す」的な考えを口にするけど、信長は家臣の謀反を受けて自害に追い込まれているからね。

完全ネタバレになるが、ショウの正体は本物のローグではなく、トム・ローンだ。
3年前に自宅を襲撃された時、トムは妻子を惨殺したローグを始末した。そして整形によってローグに成り済まし、ローグを雇ったシローへの復讐を誓ったのだ。
ただ、それなら日本へ飛んでシローを狙えばいいだろうに、なぜ3年も経過してから計画を遂行するのか。
それに、シローへの復讐が目的にしては、「シローの命令で動きつつ、裏切ったように装ってチャンの仕事を引き受けて云々」とか、中国マフィアとヤクザを争わせるとか、手間と時間が無駄に多く掛かっていると感じるのよね。

どんでん返しで観客を驚かせようと考えるのは、もちろん理解できるし、何も間違ってはいない。
ただし、どんでん返しってのは、それほど安易に使えるような仕掛けではない。
重要なポイントが2つあって、それは「観客が歓迎できる仕掛けになっているか」「どんでん返しのためのどんでん返しになっていないか」ってことだ。
この映画は、その2つを兼ね備えている。
つまり、最もダメなことを2つともやらかしているってことだ。

序盤でトムと妻子がローグに殺され、クロフォードが復讐心を抱くのであれば、そこは「クロフォードがローグを討つ」という復讐劇のカタルシスを用意すべきだ。
それなのに、「とっくにトムがローグを片付けていて」という真相が終盤に明かされるのは、誰が得をする展開なのかと。
おまけに「クロフォードがシローのスパイで、その密告によってトムが狙われ、妻子が殺された」という種明かしまで用意されているけど、見事なぐらい「どんでん返しのためのどんでん返し」だわ。
一応、「あの台詞は、そういうことだったんだよ」ってことで回想シーンが短く入るけど、それを伏線と呼ぶのは無理がありまくりだぞ。

トムが「シローへの復讐」という目的な対して無駄な手間を掛けたせいで、白湯茶房の女性店員やウィックなど、無関係な人間が犠牲になっている。それなのにトムは、これっぽっちも罪悪感を抱かない。
復讐心で非情になっているとしても、そこは不快感に繋がってしまう。
そんでラスト、トムは妻子を死に追いやったクロフォードと対峙する。ようやくジェット・リーとジェイソン・ステイサムのマトモなバトルになるかと思いきや、トムがゴイに狙われると、クロフォードが今さら中途半端に罪悪感を見せて彼を庇う。
悪党をヌルくするのもアウトだが、もっとドイヒーなのは、自分を庇ってくれたクロフォードを、その直後にトムが躊躇なく銃殺すること。
幾ら復讐心に燃えているからって、それは全くカタルシスの無い終わり方だわ。

(観賞日:2016年4月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会