『ワイルド・タウン/英雄伝説』:2004、アメリカ

ワシントン州キッツアップ郡。クリス・ヴォーンは特殊部隊を除隊し、8年ぶりに故郷の町へ戻って来た。かつて働いていたハミルトン製材所を訪れると、既に閉鎖されていた。そこへ保安官のスタン・ワトキンスがパトカーで通り掛かり、製材所が3年前に潰れたこと、町の中心は“ワイルド・チェリー”というカジノであることを教える。ワトキンスは相手が昔馴染みのクリスだと気付き、嬉しそうに握手を求めた。ワトキンスは運転席にいたラルストン保安官補にクリスを紹介し、「送って行くよ」とパトカーに乗るよう促した。
クリスがハースタッド保安官のことを尋ねると、ワトキンスは5ヶ月前に居眠り運転で木に激突して死んだことを話す。自宅の前で車を降りたクリスに、ワトキンスは保安官選挙のチラシを渡して「よろしくな」と告げた。自宅に戻ったクリスは、救急隊員になっていた姉のミシェル、その息子のピート、そして両親と再会した。製材所で働いていた父は家具職人になり、母は代理教員として働いていた。ピートは赤ん坊の頃にクリスと会ったきりだった。
翌日、幼馴染のレイ・テンプルトンがクリスの元を訪ねて来た。彼はシアトルへ出て音楽活動をしていたが、ドラッグに溺れた挙句に泥棒で2年の懲役を食らった。出所した彼は気持ちを入れ替えて故郷に戻り、現在は建築現場で働いていた。レイはクリスの旧友たちに連絡を取っており、全員でフットボールの試合をすることになった。ハミルトン競技場という看板が気になったクリスに、友人たちは「ジェイの持ち物だ。親から受け継いだ製材所をすぐに閉鎖したんだ」と語る。そこへジェイが現れ、カジノを経営していることを話した。
クリスのチームは、ジェイのチームと試合をする。ジェイたちは荒っぽいプレーを繰り返し、クリスのチームを破った。クリスは観客席にいたピートが悪友たちから大麻を勧められているのを目撃しており、試合後に「もうハッパはやめろ」と注意する。だが、ピートは軽く受け流し、バイクで去った。その夜、クリスはジェイから正体を受け、仲間たちと共にワイルド・チェリーへ赴いた。「カジノを開くことが出来るのか?」と疑問を口にするクリスに、レイは「金の力さ。ギャンブル委員会を買収したんだ」と告げた。
ワイルド・チェリーは、静かだった町に似合わない派手な店構えだった。ジェイはクリスたちをVIP席に招待し、「酒は俺のおごりだ。金が必要なら言ってくれ」と告げて去った。仲間たちはクリスを奥の個室に案内し、「楽しめよ」と告げて出て行った。それはストリップが楽しめる個室だったが、現れたダンサーが幼馴染のデニだったのでクリスは驚いた。浮かない表情で仲間たちの元へ戻ったクリスは、カジノで遊ぶことにした。しかしクリスはイカサマに気付き、ディーラーに詰め寄った。そこへボディーガードの連中が駆け付け、乱闘になった。クリスはスタンガンで体の自由を奪われ、取り押さえられた。
一味はクリスを奥の部屋に連行して特殊部隊の認識票を奪い取り、胸に幾つもの切り傷を負わせた。橋に捨てられたクリスは通り掛かったトラックに助けを求め、病院に運び込まれた。退院したクリスは、父が勝利してくれたトラックで一緒に買い物に出掛けた。クリスが購入した大量の材木を運んでいると、ジェイがやって来た。クリスが非難すると、彼は「彼らは手荒なことをやり過ぎたが、乱暴な客が多いから仕方が無い。厳しく罰しておいた。しかし君もやり過ぎだ。店を壊され、弁護士は君を訴えると言っている」と話す。
クリスが睨み付けると、ジェイは「君を警備主任として雇い入れよう」と持ち掛ける。クリスが断ると、彼は金を渡して懐柔しようとする。クリスは金を突き返し、ジェイを追い返した。クリスは保安官事務所を訪れ、「カジノの一件で訴えを起こす」とワトキンスに言う。しかしワトキンスは「あの事件はカジノが内部調査して終わった」と軽く告げ、「製材所が閉鎖されて、カジノは町の収入源だ。だから治外法権なんだよ」と説明した。「俺は引き下がらない」とクリスが口にすると、ワトキンスは「命があるだけ有り難いと思えよ。俺は保安官だ。言うことを聞け」と脅すように述べた。
ピートがドラッグを吸って病院に運ばれるという出来事が起きた。駆け付けたクリスに、ピートは「初めてなんだ」と告げる。一緒にいた悪友の1人は、「本当だ。俺たちが無理に勧めたんだ」と述べた。クリスが誰から買ったのか追及すると、彼はカジノのボディーガードだと明かした。怒りに燃えたクリスは自宅へ戻り、ショットガンに銃弾を装填する。父は「取り返しの付かないことになる」と制止するが、クリスはトラックでカジノへ向かう。
クリスはショットガンではなく、荷台に積んであった角材を掴んでカジノに乗り込んだ。クリスはカジノの機械を破壊し、襲って来るボディーガードたちを次々に叩きのめした。クリスがVIP席のガラスを破ると、ジェイは「お前との関係も変わる」と宣告した。クリスは逮捕され、裁判に掛けられる。弁護士から司法取引を持ち掛けられたクリスだが、それを拒否した。不利な証言が続く中、クリスは弁護士を解雇して陪審員に語り掛け、「無罪になったら保安官に立候補する」と宣言して胸の傷を見せた。
無罪評決を勝ち取ったクリスは保安官選挙で当選し、ワトキンスの助手たちをクビにした。クリスはレイを保安官補に据えようとするが、「俺は犯罪者だぞ」と断られる。しかし「力を貸してくれ。ドラッグの情報がほしいと」クリスが説得すると、レイは承諾した。レイはクリスに、ドラッグがジェイの手下によって工房で製造されていることを教えた。ただし物的証拠が無いので、麻薬常用者を捕まえて売人の名前を聞き出し、取引場所を吐かせるよう彼は助言した。
クリスとレイは売人のブースを捕まえて脅しを掛けるが、彼は口を割らなかった。悪を正そうと突き進むクリスを心配した父は、「気を付けろよ」と忠告した。クリスはレイに「今夜、俺は署に泊まる。お前は俺の家族を守ってくれ」と頼んだ。クリスがカップ麺を食べていると、デニが夕食を持って来てくれた。彼女はカジノの仕事を辞めたことを告げ、「貴方が町を変えるなら、私も変わろうと思う」と言う。翌朝、ジェイの手下たちが保安官事務所を襲撃して来た。同じ頃、一味の別働隊はクリスの自宅も襲っていた…。

監督はケヴィン・ブレイ、オリジナル版脚本はモート・ブリスキン、脚本はデヴィッド・クラス&チャニング・ギブソン&デヴィッド・レヴィーン&ブライアン・コッペルマン、製作はジム・バーク&ルーカス・フォスター&ポール・シフ&アショク・アムリトラジ&デヴィッド・ホバーマン、共同製作はビル・バナーマン、製作協力はマーシャンヌ・フリーズランド、製作総指揮はキース・サンプルズ&ヴィンス・マクマホン、撮影はグレン・マクファーソン、編集はジョージ・バウアーズ&ロバート・アイヴィソン、美術はブレント・トーマス、衣装はガーシャ・フィリップス、音楽はグレーム・レヴェル、音楽監修はG・マーク・ロズウェル。
出演はザ・ロック、ジョニー・ノックスヴィル、ニール・マクドノー、クリステン・ウィルソン、アシュレイ・スコット、クレオ・トーマス、ジョン・ビーズリー、バーバラ・ターバック、マイケル・ボーウェン、ケヴィン・デュランド、アンドリュー・ターベット、パトリック・ギャラガー、ジョン・スチュワート、エリック・ブレッカー、ライアン・ロビンス、マイケル・アダムスウェイト、ダーシー・ローリー、フレッド・キーティング、ベン・カーディナル、ケット・タートン他。


ジョー・ドン・ベイカーが主演した1973年の映画『ウォーキング・トール』のリメイク。
クリスをザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)、レイをジョニー・ノックスヴィル、ジェイをニール・マクドノー、ミシェルをクリステン・ウィルソン、デニをアシュレイ・スコット、ピートをクレオ・トーマス、クリスの父をジョン・ビーズリー、母をバーバラ・ターバック、ワトキンスをマイケル・ボーウェン、ブースをケヴィン・デュランドが演じている。
監督は『グッドボーイズ』のケヴィン・ブレイ。

1973年版は実在したビュフォード・パッサーという保安官をモデルにしており、彼の名前がそのまま主人公の役名に使われていた。しかし今回の主人公は、クリス・ヴォーンという名前になっている。
その他にも、元プロレスラーという設定が元特殊部隊に、妻がいた設定が妻子がいない設定に、舞台がテネシー州マクナリー郡からワシントン州キッツアップ郡になっているなど、幾つかの変更点がある。
ただ、よりによって、なんで元プロレスラーの設定を変更したのか分からん。
せっかくザ・ロック様が主演なんだから、そこはそのまま使うべきじゃないのかと。
そもそも、そこがあるから、ザ・ロック様でのリメイク企画が立ち上がったんじゃないのかなあ。

オリジナル版は字幕無しの英語版をザックリと見ただけなので、詳しい比較検証は出来ないが、作品の雰囲気が随分と異なっていると感じた。
徹底してオリジナル版はシリアスなテイストであり、妻が殺されるという展開も含めて、痛々しさや復讐劇の凄みを感じた。
それに対してリメイク版は、もう少し柔らかい雰囲気になっている。
「凄絶なテイストが強すぎると多くの観客を引き付けることが難しくなるし、もっと娯楽映画として見やすいように変えよう」という狙いがあったのかもしれないが、それが成功しているとは言い難い。

オリジナル版より痛々しさを減らそうってのは、それだけで全面的に否定するようなことではないと思う。ただ、柔らかさの塩梅ってモノを完全に間違えている。
ものすごく違和感があったのは、退院したクリスがソファーでテレビを見たり、その隣でレイが大笑いしたりというシーン。
なぜかコメディー的な雰囲気が紛れ込んでいるんだよな。
そんなトコに、そんな類の緩和は要らないでしょ。
理不尽な暴力で殺されそうになった直後なのに、なぜ張り詰めた空気を無理にブチ壊そうとするのか。

後半、保安官になったクリスがレイと共にヤクの捜査を進める箇所でも、妙に陽気で軽快だ。そこも違和感が強いなあ。
そもそも、レイがコメディー・リリーフ的なポジションで登場しているのも引っ掛かっていて、この映画に果たしてコメディー・リリーフなんて必要なのかと思うんだよな。
うーん、そう考えると、やっぱりソフトにする必要なんて無かったかもなあ。もっと「凄まじい暴力と復讐の息詰まるドラマ」で良かったかも。
それがザ・ロック様に合うかと問われると、合わないようにも思うが(じゃあダメじゃん)。

オリジナル版の上映時間は125分で、このリメイク版は86分。クロージング・クレジットを除くと、実質的な上映時間は74分。随分と短くなっている。
それが「無駄な部分を削ぎ落とし、テンポ良く物語が進行する」という改善になっていれば、もちろん何の問題も無い。ただ、どう考えても時間が足りていない。
クリスが保安官に当選した時点で、物語は後半に入っている。保安官になってから大して時間が経たない内に、もうクライマックスに突入してしまう(具体的には保安官就任が開始から47分で、ジェイ一味の襲撃が60分)。
だから、全体の時間調整が上手くないと感じてしまう。

「家族を痛め付けられたクリスが、怒りに燃えてジェイのドラッグ工房へ殴り込む」という展開そのものは、決して間違った筋書きだとは思わない。そして、クライマックスとして配置されているんだから、殴り込みに入るタイミングも悪くない。
ただ、80分という上映時間で、「保安官になったと思ったら、すぐにクライマックスが訪れる」というのは、どうにも構成が上手くない。
そうなると、もはや「保安官になる」という展開が要らないんじゃないかと思ってしまうのだ。
保安官になる手順を思い切ってカットし、「厄介なクリスを排除するためにジェイが家族を襲撃し、激昂したクリスが殴り込みを掛ける」という筋書きでもOKなんじゃないか。
あるいは、「保安官選挙にクリスが立候補して当選しそうなので、ジェイが妨害工作を繰り返し、ついには家族を襲う。激昂したクリスが保安官への道を捨てて殴り込みを掛ける」ということでもいいだろうし。
ただし、そうなると『ウォーキング・トール』のリメイクとは言い難い内容になってしまうんだけど。

あと、裁判に掛けられたクリスが弁護士を解雇し、陪審員に語り掛けて無罪を勝ち取るという手順も、ちょっと邪魔に思えるなあ。
例えば、「クリスの演説が陪審員の心を打つ」ということで、そこがアクションとは別の見せ場として用意されているなら、まだ分からないでもないんだよ。でも、そうじゃない。
「昔は誰もが誇り高く生きており、カジノなど許さなかった」と語る程度であり、陪審員が無罪評決を出したのは胸の傷を見せられたからだという風に伝わってくる。
そもそも、ザ・ロック様に熱い演説をさせたところで、スティーヴン・セガールの演説みたいなモンで、そういうのは得意分野じゃないしね。

そこを描いていたら時間が足りないってことなんだろうけど、保安官選挙のシーンはバッサリと省略されており、裁判で無罪評決が出て、シーンが切り替わるとクリスは保安官になっている。
それでも「保安官になってからクライマックスまでの間隔が短い」と感じるんだから、やっぱり上映時間と構成に無理があるんだよ。
ただし、仮に100分や120分で作っていたら面白くなったのかと考えてみると、そうは思えない。
上映時間は80分のままで、中身を大幅に改変した方が、まだ可能性が少しはあったかなと。

あと、クリスの家族は襲撃を受けるけど、実は大したダメージを受けていない。家は少し壊されるけど、爆破されるとかってわけではない。また、レイが敵と戦って傷を負うけど入院しなきゃいけないほどの大怪我ではないし、クリスの家族は父がビンタを食らう程度。
だから、最後の殴り込みは「復讐劇」という形になっていない。
そうなると、家族が襲われる手順って、別に要らないんじゃないかと。クリスが襲われて返り討ちにした後、工房になっている製材所へ乗り込むという流れだけで充分なんじゃないかと。
「家族が痛め付けられて怒りに燃える」という筋道が成立していないんだから。

(観賞日:2013年11月29日)


第27回スティンカーズ最悪映画賞(2004年)

ノミネート:【最も嬉しくないリメイク】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会