『ワルキューレ』:2008、アメリカ&ドイツ

北アフリカのチュニジア。ドイツ第10戦車師団のシュタウフェンベルク大佐は、ヒトラー総統がドイツの敵になっていると感じていた。彼は兵を退却させてベルリン防衛に向けるべきだと将軍に進言し、その考えは受け入れられた。その直後、英国軍の激しい空爆が行われた。1943年3月13日。トレスコウ将軍はヒトラーと同行するブラント大佐を騙し、爆破装置を仕込んだ酒瓶を持たせた。彼は飛行機を爆破し、ヒトラーを暗殺しようと目論んだのだ。しかし爆破装置は起動せず、作戦は失敗した。
トレスコウは証拠を隠蔽するためにベルリンへ戻り、酒瓶を回収した。しかし同志のオステルが逮捕されたため、彼は部下のオルブリヒト大将に新たな仲間を見つけるよう指示した。シュタウフェンベルクの妻であるニーナは、ミュンヘンの軍中央病院を訪れた。そこに夫が入院しているからだ。シュタウフェンベルクは左目や数本の指を失いながらも一命を取り留め、病院に収容されていた。オルブリヒトは退院した彼に目を付け、仲間に加わるよう持ち掛けた。
妻子のことを心配しつつも、シュタウフェンベルクはレジスタンスの秘密会議に参加する。しかしヒトラーを排除した後のプランが何も無い連中の論議に呆れた彼は、絶対に暗殺計画が成功しないと感じて立ち去った。トレスコウは「重要なのは行動を起こすことだ」と説くが、シュタウフェンベルクは「それでは物足りない」と告げる。暗殺を成功させることの必要性を彼が訴えると、トレスコウは方法を考えるよう促した。
シュタウフェンベルクは自宅でワーグナーのレコードを聴き、反乱勢力を鎮圧する「ワルキューレ」の使用を思い付いた。彼はSSのクーデターを偽装してワルキューレ作戦を発動させ、鎮圧のために行動していると見せ掛けて政権を奪取しようと目論んだのだ。ただし現状だとワルキューレ作戦でSSを排除することは無理なので、指令書を書き換えねばならない。それにはヒトラーの署名を貰う必要がある。そこでレジスタンスのベック参謀総長たちは、出世欲の強いフロム上級大将を抱き込もうと考えた。
シュタウフェンベルクはフロムと面会し、レジスタンス側に付くよう求めた。さらに彼はフェルギーベル大将と会い、協力を要請した。前線へ転属となったトレスコウは、シュタウフェンベルクを計画の責任者に指名した。シュタウフェンベルクはオルブリヒトから昇進を聞かされ、困惑の色を示す。するとオルブリヒトは、ヒトラーに近付いてスケジュールを知ることの必要性を説いた。オルブリヒトはシュタウフェンベルクの副官として、ヘフテン中尉を付けた。
1944年7月4日、シュタウフェンベルクはヘフテンを伴ってヒトラーの山荘を訪れた。彼はワルキューレ改訂の承認を要請し、ヒトラーの署名を貰うことに成功した。クイルンハイム大佐は鉛筆に見せ掛けた小型爆弾を用意し、その使い方をシュタウフェンベルクに説明した。総統大本営「狼の巣」を爆破してヒトラーを暗殺し、混乱に乗じて同胞がベルリンを制圧するというのが、シュタウフェンベルクの考えた計画だ。オルブリヒトやゲルデラー博士がヒムラーも同時に殺す必要性を訴えたため、シュタウフェンベルクは承知した。
1944年7月15日、レジスタンスが集結する中、ワルキューレ計画の実行が通達された。オルブリヒトは予備軍の待機命令を各地に配布し、それはベルリン防衛隊のレーマー少佐たちに届けられた。シュタウフェンベルクは小型爆弾を忍ばせたブリーフケースを持ち、ヘフテンを伴って狼の巣に向かった。事前に計画のことを知らされていたニーナは、子供たちを連れて車で避難した。シュタウフェンベルクは狼の巣に入り、テーブルの下にブリーフケースを置いた。そこへヒトラーが現れ、作戦会議が開始された。
会議の場にヒムラーが見当たらないため、シュタウフェンベルクはオルブリヒトに電話を入れた。彼が計画遂行を求めると、オルブリヒトはベックに連絡を取った。クイルンハイムはベックが許可しなかったことをシュタウフェンベルクに伝えるが、「私は遂行しろと言う」と告げた。しかしカイテル元帥がブリーフケースに気付いたため、持ち去らざるを得なかった。オルブリヒトは予備軍の待機について、訓練だと説明する文書を配布した。勝手な指令に激怒したフロムは、「また同じことをやったら2人とも捕まえる」と宣告した。
ゲルデラーが弱腰だと感じたシュタウフェンベルクは、激しい非難の言葉を浴びせる。ゲルデラーはシュタウフェンベルクを計画から排除すべきだと主張し、仲間たちの前で賛同を募る。するとベックはヒムラーが逮捕状を公布したことを知らせ、ゲルデラーにドイツから去るよう助言した。7月20日、再び狼の巣を訪れたシュタウフェンベルクは、ムッソリーニと昼食を取るために会議の時間が繰り上がったことを知る。彼はフライエント少佐に、「耳の障害が残っているので、なるべく総統の近くにいたい」と頼んだ。シュタウフェンベルクはフェルギーベルに電話を掛けてもらい、ブリーフケースを残して作戦会議室を立ち去った…。

監督はブライアン・シンガー、脚本はクリストファー・マッカリー&ネイサン・アレクサンダー、製作はブライアン・シンガー&クリストファー・マッカリー&ギルバート・アドラー、共同製作はネイサン・アレクサンダー&ヘニング・モルフェンター&カール・ウォーケン&クリストフ・フィッサー&ジェフリー・ウェッツェル、製作総指揮はクリス・リー&ケン・カミンズ&ダニエル・M・スナイダー&ドワイト・C・シャール&マーク・シャピロ&ジョン・オットマン、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、編集はジョン・オットマン、美術はリリー・キルヴァート&パトリック・ラム、衣装はジョアンナ・ジョンストン、視覚効果監修はリチャード・R・フーヴァー、音楽はジョン・オットマン。
主演はトム・クルーズ、共演はケネス・ブラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプ、トム・ウィルキンソン、カリス・ファン・ハウテン、トーマス・クレッチマン、エディー・イザード、ケヴィン・R・マクナリー、ジェイミー・パーカー、クリスチャン・ベルケル、デヴィッド・バンバー、トム・ホランダー、デヴィッド・スコフィールド、ケネス・クラナム、ハリナ・ライン、ウェルナー・ダーエン、ハーヴィー・フリードマン、マティアス・シュヴァイクホファー、ワルデマー・コブス、フローリアン・パンツァー、イアン・マクニース、ダニー・ウェッブ、クリス・ラーキン、マシュー・バートン他。


実在したドイツ将校のクラウス・フォン・シュタウフェンベルクと、彼が指揮したヒトラー暗殺計画を題材にした映画。
監督は『X-メン』『スーパーマン リターンズ』のブライアン・シンガー。
脚本は『ユージュアル・サスペクツ』『誘拐犯』のクリストファー・マッカリーと、本作品がデビューとなるネイサン・アレクサンダー。
シュタウフェンベルクをトム・クルーズ、トレスコウをケネス・ブラナー、オルブリヒトをビル・ナイ、ベックをテレンス・スタンプ、フロムをトム・ウィルキンソン、ニーナをカリス・ファン・ハウテン、レーマーをトーマス・クレッチマン、フェルギーベルをエディー・イザード、ゲルデラーをケヴィン・R・マクナリー、ヘフテンをジェイミー・パーカーが演じている。

この映画はドイツが舞台であり、アメリカ人のトム・クルーズやイギリス人のケネス・ブラナーなど英語圏の俳優がドイツ人を演じ、英語の台詞を喋っている。
ハリウッド映画だから、アメリカ人やイギリス人が英語の台詞で喋るのは当然っちゃあ当然であり、今さら本作品にだけ文句を付けても始まらない。
ただし、サイエントロジーはドイツではカルト宗教の扱いであり、その熱心な信者であるトム・クルーズが自国の英雄クラウス・フォン・シュタウフェンベルクを演じるってのは、ドイツ人が怒るのも理解できる。

トム・クルーズがシュタウフェンベルクを演じているとか、ドイツなのに台詞が英語とか、そういう部分を度外視しても、やはり本作品は駄作である。
まず何よりも、「ワルキューレ作戦は成功するのか否か」という部分に主眼を置いたサスペンスとして構築している時点で失敗だろう。
世界史に詳しくない私でも、ヒトラーが暗殺されていないことぐらいは知っている。つまり、ワルキューレ作戦が成功しないことは大多数の人間が知っているわけで、そこをサスペンスの重点にされても、こっちの緊張感は高まらない。
あらかじめ失敗が分かっている作戦を悲劇として描くとか、そこに関わった人々の重厚な人間ドラマとして描くとか、色々と方法はあったはずなのだが。

最初はヒトラーの信奉者であり、彼の理念を実現させるために部下として戦っていたシュタウフェンベルクが、どの辺りから疑念を抱くようになり、どういう経緯で「暗殺すべし」というところまで考えが至ったのか、そういうことが全く描かれていない。
登場した段階で、既にシュタウフェンベルクは「ヒトラーはドイツの敵であり、倒すべきだ」と考えている。
だから、いかにヒトラーの残虐非道な振る舞いを行っているかというのも、まるでアピールされない。そして、「ヒトラーは悪い奴に決まってるでしょ。だからシュタウフェンベルクが暗殺しようとするのも当然でしょ」ということで、どんどん話を進めて行く。
そのことは、シュタウフェンベルクのキャラクターやドラマを薄っぺらくしている。

そりゃあ、「アドルフ・ヒトラーはユダヤ人を迫害した残虐非道な独裁者である」ってのは大多数の人が持っているイメージだろう。
特に例外的なキャラクターとしての言及が無い限り、映画などにヒトラーが登場する場合は、そのイメージで造形されていると解釈して間違いないだろう。
とは言え、当時のドイツ軍人は、少なくとも最初の内は、そんなヒトラーを信奉し、彼のために行動していたわけで。
だったら、シュタウフェンベルクの心情が変化した経緯は描くべきだし、それにはヒトラーの残虐性やユダヤ人迫害といった部分を描写する必要もあるはずなのだ。

冒頭、シュタウフェンベルクがチュニジアの最前線で空爆を受ける様子が描かれるが、これは「彼が片目になる」という外見上の変化を説明するためだけに用意されているシーンである。
一応、「死の床で色々と考えた結果、国を救うためにはヒトラー暗殺しかないという考えに至った」という風に説明されているけど、そんなのは後付けみたいなモンだ。そもそも、その空爆が直接的に「ヒトラーは悪人だ」「ヒトラーを暗殺しないとドイツの未来は無い」と思わせる出来事になっているわけではない。
しかし前述したように、そういう外見の変化を示すためのシーンを冒頭で描くよりも、シュタウフェンベルクの心情変化を示すためのドラマが欲しいのだ。
「ドイツ軍人であるシュタウフェンベルクが、なぜ自らのボスであるヒトラーに疑念を抱き、ついには暗殺まで決意するようになったか」という部分が説明されないと、主人公に感情移入することは難しい。

ワルキューレ計画の発動が決定すると、それ以降は大きな問題も起きずにサクサクと進んでいく。これといったピンチやトラブルは見られない。
一応、「フロムに協力を要請した時、断られるどころか上に報告されたらどうしようとか、「ヒトラーに署名を求めた時、断られたらどうしよう」とか、そういった部分で緊迫感を醸し出そうとしている意識は感じられる。そして、ある程度の緊迫感を出すことには成功している。
ただし、実際には全て簡単にミッションをクリアしており、「ギリギリのピンチを何とか脱する」とか、「予定外のトラブルを咄嗟の判断で切り抜ける」とか、そこまでのスリルは見られない。
しかも、計画の決定から遂行当日までに訪れる緊迫感のシーンは、その2つぐらいなのだ。

それと、フロムやフェルギーベルに協力を要請した時にしろ、ヒトラーに署名を求める時にしろ、そこで失敗した場合、それは即座に「計画失敗」ってことになるんだよね。そこで失敗したら、もう挽回して作戦を成功に導くのは不可能なのよ(まあフロムの説得は成功とは言い難いけど、でも黙認してくれているのでOKだろう)。
だから裏を返せば、「そこで失敗することは無いだろう」ってことも透けて見えるわけで。
「失敗するかもしれないけど、修正や挽回が可能なピンチやトラブル」というのを用意して、そこでサスペンスを生み出す方向で考えたが良かったんじゃないかと。
そりゃあ、描かれているのは史実だから、あまり大幅に改変できないという事情はあったのかもしれんけど、そもそもシュタウフェンベルクを作戦のリーダーのように描いている時点で史実と異なるんだし。

計画遂行の当日になると、予定外の事態が幾つか待ち受けている。ただし、計画当日になるとシュタウフェンベルクは作戦会議室に入ってしまうので、仮にトラブルが起きても、それを回避するために出来ることは限られてくる。
しかも、トラブル回避のための行動なんて、これといったモノは何も無い。
1度目は単純に「未遂に終わったので立ち去る」というだけだし、2度目にしても「小型爆弾の準備中にフライエントが部屋に入って来ようとするので、慌ててドアを閉める」という程度だ。
解消されないまま残される問題(爆弾を1つしか使わなかった、ブリースケースの位置を移された)に関しては、それが暗殺失敗の要因になっている。

ドイツの人には申し訳ないけど、っていうかドイツ人も同じように思うのかもしれないけど、この映画を見てもシュタウフェンベルクを「優れた英雄」と感じ取ることは出来ない。
むしろ、ボンクラな男に見える。
まず計画に関しては、「もしも想定外のことが起きた場合」の対策を何も用意していない。
また、爆破した後、ヒトラーが確実に死んだかどうか確認していないのも手落ちだろう。本気でヒトラーを殺すべきだと考えたのなら、ちゃんと死体を確認すべきだ。

ヒトラーの死を確認するために現場へ留まっていたら、犯人として処刑される可能性が高いだろ。
しかし、そもそもヒトラーを確実に暗殺しようと考えたのなら、自らも作戦会議室に残った状態で爆破した方がいいはずだ。
ようするに、シュタウフェンベルクが爆弾を置いて会議室を立ち去り、ヒトラーの死を確認しないまま逃亡したのは、「ヒトラーは殺したいけど、自分は安全な場所に留まりたい」という覚悟の弱さに思えるのだ。
彼は「ヒトラーを暗殺する気が無い」とゲルデラーを批判したが、本人の覚悟も弱いんじゃないかと。

ヒトラーの生死が未確認であることを理由に予備軍の待機命令を出さなかったオルブリヒトに対し、シュタウフェンベルクは「私は爆発を見た」と激昂する。
しかし、ヒトラーの死が確実でないのなら、その後の計画遂行に対して慎重になるのは当然のことだろう。
ようするに、ワルキューレ計画が失敗した原因はオルブリヒトが弱腰になって指示が遅れたからではなく、全てはシュタウフェンベルクがヒトラー暗殺に失敗したことが原因なのだ。

オルブリヒトの最初の指示は遅れたが、その後の計画の進行具合を見る限り、ヒトラーが実際に死んでいれば反乱は確実に成功しただろう。
実際はレジスタンス側が相当に混乱していたらしいので、ヒトラーが死んでいてもクーデターは失敗したのかもしれないけど、この映画だと、前述したような印象なのだ。
だから、シュタウフェンベルクが「ヒトラーは死んだ。爆発を見た」と主張し、先頭に立って堂々たる態度で指揮を執っても、「お前のせいで計画が失敗するんだぞ」と言いたくなってしまう。
一応、終盤までは「ヒトラーの生死は不明」という状態で話を引っ張っているけど、前述したように、暗殺計画が失敗したのは分かっているしね。

(観賞日:2015年1月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会