『ライアンを探せ!』:2006、アメリカ&カナダ

ニューヨークのセントラル・パーク動物園の人気者であるライオンのサムソンは、自分がアフリカで王者として君臨していた武勇伝を、いつも息子のライアンに聞かせている。その日のサムソンは、ムーの群れを雄叫び一つで怖がらせた経験を語り、ライアンにも雄叫びを上げるよう促した。だが、ライアンは勇猛に吼えることが出来ず、檻の前にいた客たちから笑いが漏れた。「前より良くなったぞ」とサムソンは褒めるが、ライアンの気持ちは晴れなかった。
ライアンが「本気で吠えろっていうなら、野生の世界へ連れて行ってよ」とせがむと、サムソンは「ここ以上に素晴らしい生活があるか」と言う。するとライアンは、「もう退屈だ。こんな所にいたら吠える必要なんか無いもん。でも僕、どうすれば野性の世界に行けるか分かった。鳩が緑の箱に乗れば行けるって」と語る。サムソンは「あの箱は危険だぞ。ここにいるんだ。焦る気持ちは良く分かる。だが、大事なのは野性の心だ」と諭すが、ライアンは「聞き飽きたよ」と漏らした。
ライアンは大親友であるリスのベニーに、どうすればサムソンが上手く吠えられるのか相談する。ベニーが「プレッシャー掛けすぎてるんじゃない?お前の野性時代の話ばっかりしてさ」と言うと、サムソンは「ライアンの大好きな話だ。あれでやる気を出す」と述べた。日が沈んで閉演すると、動物たちは自由行動を開始する。ベニーはキリンのブリジットにアタックするが、まるで相手にされない。亀のカーリング大会に参加するサムソンは、ライアンに「応援に来てくれ」と持ち掛ける。だが、木の上で落ち込んでいいるライアンは、「後で行くよ」と口にした。
サムソンが去った後、ライアンの元へ親友であるカンガルーのデュークとカバのイーズがやって来た。彼らはライアンに、「ガゼルにどこまで近付けるかやってみない?」と告げた。その頃、サムソンはベニー、ブリジット、コアラのナイジェル、ヘビのラリーでチームを組み、ペンギンチームと対決していた。一方、ライアンはガゼルに接近しようとするデュークとイーズを止めるため、飛び出して吠えた。その声を耳にしたガゼルたちは、暴走を開始してしまう。
サムソンチームが逆転を狙った秘密のプレーを繰り出したところで、ガゼルの群れが会場に乱入した。ライアンの謝罪を受けたサムソンは厳しく叱り付け、つい「上手に吠えられないせいか」と口にしてしまう。ハッとなったサムソンに、ライアンはライアンは「あの木の上でずっと考えてたんだ。野性の王者サムソンが僕の父親じゃなかったら良かったのにって。そしたら無理に頑張らなくても済んだのに」と言い、その場から立ち去った。
サムソンが「出来ることは全部したのに」と漏らすと、ベニーは「ホントに?ライアンにホントのこと言ったのかよ」と問い掛けた。「それだけはどうしても出来ない。あの子は、真実を知ったら俺をどう思う?」と言うサムソンに、ベニーは「けど、言わなかったらライアンは離れてくぜ」と告げた。ライアンは柵を越えて緑色の箱、すなわちトラックの荷台に入り込んだ。しかし扉が閉じられた途端、ライアンは「やっぱり行かないよ、助けて」と叫ぶ。その声を耳にしたサムソンの眼前で、トラックは走り去ってしまった。
ライアンとベニーは、鳩のハミールにトラックの行き先を尋ねる。ハミールは「あいつの所へ行くんだ」と怯えながら、自由の女神像を指差した。そしてハミールは、「もっと恐ろしいことがある。日の出と共に緑の箱は船で出て行き、二度と戻って来ない」と語った。サムソンきトラックを追い掛けるため清掃車に乗り込むと、チームの仲間も同行した。途中でベニーが落下し、清掃車はニューヨークの都心部に辿り着いた。
サムソンたちはトラックから外に出て周囲を見回すが、緑色の箱は見当たらない。数匹の野良犬が襲って来るので、サムソンは逃げるよう仲間たちに促した。ブリジットが「犬ぐらいすぐにやっつけられるでしょ」と言うと、サムソンは「これも作戦の内なんだよ」と述べた。行き止まりに追い詰められたサムソンたちは、地下の下水溝に逃げ込んだ。アリゲーターのスタンとカーマインに遭遇したライアンたちは、恐怖におののいた。だが、スタンとカーマインは親しげに話し掛けてきた。ライアンたちが自由の女神像の場所について尋ねると、2頭は道案内を買って出た。
サムソンたちが港のバッテリー・パークに到着すると、もう夜が明けていた。サムソンたちは緑色の箱を発見するが、それを積みこんだ船は出航してしまう。その直後、サムソンたちの乗ったボートが走り出した。ブリジットに尻尾を踏まれたサムソンが吠えたので、操縦していた男は海に転落した。ボートは暴走するが、サムソンが舵を取った。ライアンの乗せられた船を見失ったサムソンたちの元へ、雁の群れに乗ってベニーが到着した。彼はサムソンたちに、空から見えた船の方向を教えた。
サムソンから協力を求められた雁たちは、先導を引き受けた。サムソンたちは何日も海を航行し、やがてアフリカの浜辺に辿り着いた。そこでサムソンは、保護されていたキリンたちがコンテナに入っていくのを目撃する。遠くに目をやると、火山が噴火していた。サムソンは、そこに到着した数台のトラックが野性動物たちを助けようとしているのだと悟った。だが、何も知らないライアンは扉が開いた途端、ジャングルに駆け込んでしまう。慌てて後を追うサムソンだが、すぐにライアンを見失った。
サムソンはライアンの匂いを嗅ぎ、仲間たちと共に追跡する。だが、「ここだ」と確信した場所には、タヌキのコリンがいた。サムソンが「確かにライアンの匂いだった。野生の本能が蘇って来た」と言うと、ナイジェルは「ちょうどいい。野性の恐ろしさを見せてやれ」とコリンを食べるよう持ち掛ける。ライアンは困惑しながら大口を開けるが、すぐにコリンを放して「さっさと行け。変な奴を食うと、じんましんが出るんだ」と告げた。
サムソンは不審を抱いたナイジェルたちに指摘され、野生の世界は初めてだと打ち明ける。「ここで君たちを守ることは出来ない。早く船に戻ってくれ」と彼は言い、ジャングルの奥へ向かう。船に戻ろうとするナイジェルたちに、ベニーは「俺たちは仲間と一緒だ。でも、サムソンもライアンも、一人っきりなんだ」と語り掛ける。そこで彼らは、サムソンの後を追うことにする。途中でナイジェルが姿を消し、そこへヌーの群れが現れた。
ナイジェルは気付かない内に、別の場所を移動中のヌーの背中に乗っていた。そのヌーが火山に辿り着くと、大勢の仲間たちが集まっていた。そこにいた指導者のカザールは、ナイジェルに「これから俺は肉食になる」と宣言した。一方、サムソンを見つけたハゲタカたちは、「ライアンの子供だ。カザールに知らせに行こう」と火山へ向かう。カザールはナイジェルに、「俺の予言通り、野生の世界で一番弱い者として生きるのは、もう終わりなのだ」と述べた。
カザールは「俺はあのメッセージを信じた。貴方の使いが現れたのだ」とナイジェルに言い、動物園で売られている彼のトーキング人形を見せる。飛行機から落下したトーキング人形は、カザールがライオンの群れに追い詰められていたところへと落下した。紐が動いて人形が喋り出すと、ライオンたちは怯えて逃走した。そのため、カザールはナイジェルのことを、「自分たちを食われる者から食う者へ導く偉大な存在」として認識していたのだ。
カザールの元にハゲタカたちが現れ、「ライオンの子供を見つけた」と知らせる。ナイジェルが「大人のライオンは?」と口にすると、カザールは部下たちに、ライオン2頭を連れて来いと命じる。彼は野生の世界で最も強くなるため、ライオンを食べようと目論んでいた。ライアンがハゲタカたちに襲われて悲鳴を上げ、それをサムソンが耳にした。雄叫びでハゲタカを追い払ったサムソンは、ライアンに真実を打ち明けようとする。
そこへヌーの群れが現れたため、サムソンはライアンと共に木の上へ避難し、真実を打ち明ける。まだ子供だった頃、サムソンはサーカスにいた。父親から雄叫びを上げろと促されたサムソンだが、それが出来ずに動物園へ送られたのだ。それを語り終えたところで、ヌーたちは木に頭突きを何度も食らわせる。激しい振動で落下したライアンは、ヌーたちに捕まった。サムソンは木と一緒に崖下へ転落し、意識を失ってしまう…。

監督はスティーヴ・“スパズ”・ウィリアムズ、原案はマーク・ギブソン&フィリップ・ハルプリン、脚本はエド・デクター&ジョン・J・ストラウス&マーク・ギブソン&フィリップ・ハルプリン、製作はクリント・ゴールドマン&ボー・フリン、共同製作はエド・デクター&ジョン・J・ストラウス&ジェーン・パーク、製作協力はジム・バートン&ダグ・ショート、製作総指揮はケヴィン・リマ&ウィル・ヴィントン&ステファン・シムコウィッツ、編集はV・スコット・バルセレク&スティーヴン・L・ワグナー、美術はクリス・ファーマー、キャラクター・デザイン監修はエリック・リグリング、音楽はアラン・シルヴェストリ。
声の出演はキーファー・サザーランド、ジェームズ・ベルーシ、エディー・イザード、ジャニーン・ガラファロ、ウィリアム・シャトナー、リチャード・カインド、グレッグ・サイプス、コリン・ヘイ、マイルス・マルシコ、ジャック・デ・セーニャ、ドン・チェリー、クリスチャン・アルゲッタ、デヴィッド・カウギル、レニー・ヴェニート、ジョセフ・シラヴォー、コリン・カニンガム、パトリック・ウォーバートン、ジョナサン・キメル、エディー・ゴスリング、クリントン・リュープ、ケヴィン・マイケル・リチャードソン他。


ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ(日本ではブエナビスタ)が配給した長編アニメーション映画。
サムソンの声をキーファー・サザーランド、ベニーをジム・ベルーシ、ナイジェルをエディー・イザード、ブリジットをジャニーン・ガラファロ、カザールをウィリアム・シャトナー、ラリーをリチャード・カインド、ライアンをグレッグ・サイプスが担当している。
スティーヴ・“スパズ”・ウィリアムズは1996年までILMでコンピューター・グラフィックスを担当していた人で、これが初監督。

「ディズニー映画」という形で宣伝されていたから誤解している人もいると思うが、ピクサーの映画と同じで、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズは配給を担当しただけ。自社制作のアニメ映画ではない。
制作したのは、俳優のウィリアム・シャトナーらが創設したカナダのC.O.R.E Feature PictureというCGIアニメーション制作会社。
それまで様々なテレビ番組や映画の特殊効果を担当していて、最初に制作したアニメーション映画が本作品。
そして、これが自社制作した唯一のアニメーション映画となった。
1994年に創設された会社は、2010年に潰れている。
この映画がコケたことも、会社が潰れた原因の1つじゃないかと思う。

粗筋を読んで気付いた人もいるだろうが、キャラクター設定やストーリーに『ファインディング・ニモ』や『マダガスカル』と似ている部分が多い。
物語の大枠なんか、まんま『マダガスカル』だよな。
ちなみに『ファインディング・ニモ』は2003年、『マダガスカル』は2005年のアニメ映画で、『ファインディング・ニモ』に至ってはウォルト・ディズニー・ピクチャーズが配給した映画だ。

特に『マダガスカル』との類似点が多く、まずメインの動物たちがニューヨークのセントラル・パーク動物園にいるというのが一緒。主役がライオンなのも、野性を知らないのも一緒。
他にも、「動物が木箱で運ばれ、船で野生動物保護区へ移送される」「動物たちがアフリカのジャングルに迷い込む」「ジャングルの動物たちと揉め事になる」といった類似点がある。
ご丁寧なことに、ヌーたちがにステップを踏んで歌うシーンまであるのだ(『マダガスカル』ではキツネザルの群れが歌い踊るシーンが有名)。
近い時期に公開されたアニメ映画と良く似ているという時点で、興行的に厳しくなることは容易に想像できたはず。

この映画が、『ファインディング・ニモ』や『マダガスカル』を模倣しているのかどうかは分からない。
だが、模倣ではなく、それらの映画が公開される以前から企画が進められていたとしても、大幅にシナリオを変更するか、思い切って製作を中止するか、そういった判断をすべきではなかったか。
C.O.R.E Feature Pictureが決断するのは難しいだろうけど、ディズニーなら出来たんじゃないか。公開前から、勝ち目が無いことは濃厚なのに。
「走り始めたから、もう引き返せない」というのでは、どっかの国の政治屋と変わらんぞ。

『マダガスカル』と比較せず(そもそも『マダガスカル』にしても、出来が良かったわけではないし)、これだけを取ってみても、やはり出来栄えが芳しくない。
まず冒頭、サムソンが得意げに武勇伝を語っていることに引っ掛かる。
後で明らかにされるが、サムソンは野性の暮らしを経験しておらず、その武勇伝は全て嘘だ。にも関わらず、得意げに何度も語っているのは、好感の持てる奴ではない。
「息子からせがまれて仕方なく」というのならともかく、息子は「嫌って言うほど聞いたよ」などと口にしている。
そして、そんな武勇伝を喋っていることに対して、罪悪感も、出来れば話したくないという消極的な態度も、まるで見せない。堂々と喋っている。

サムソンが緑の箱に乗り込むまでのシーンを、音楽ベースで処理してしまうのは雑だ。
そこは、父親に責められたサムソンの心情を丁寧に描き、「だから緑の箱に乗って野性の世界へ行こうと考えた」というところに説得力を持たせるべきじゃないのか。ぶっちゃけ、なぜ彼が緑の箱に乗ろうと思ったのか、まるで伝わって来ないぞ。
それと、サムソンがトラックに乗り込む直前には、ライアンが息子に真実を告白しようと決意する展開を盛り込んだ方がいい。
前提として、「ライアンは息子にせがまれて武勇伝を何度も語っているが、それは全て嘘なので、打ち明けるべきかどうか悩んでいる」という描写を入れておくべきだと思うしね。
あと、サムソンが野生未経験であることは、ジャングルに移動してから初めて明らかにされるけど、どうせバレバレだし、観客に対しては早い内に明かしてもいい。

部隊がアフリカに移動してからは、動物たちがバラバラになる。そもそもサムソンは別行動だし、ライアンも一頭で移動を開始するし、残った面々からもナイジェルがはぐれてしまう。
そのため、4つの視点が混在する状況が訪れてしまう。
それを上手く捌けば、物語に厚みや広がりが出たのかもしれない。しかし結果としては、ただ話が散らばっているだけ。
むしろ、さっさとライアンがサムソンを発見し、一緒に行動する中で様々な出来事を経験する構成にしてもいいんじゃないかと思うぐらいだ。で、「途中で父親が野生じゃないと知ったサムソンが幻滅し、でもライアンが勇気を振り絞って頑張るので見直す」という流れにでもしたらどうだろうか。
幻滅したところで、ライアンがサムソンの元を離れるという展開であれば、そこで視点が2つになるのは構わない。
まあしかし、前述したように既存の映画と類似点が多すぎるので、細かいトコを修正しても無駄で、根本から変えないと、どうにもならん作品ではあるんだけどね。

(観賞日:2013年3月31日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)

ノミネート:【最悪のアニメーション映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会