『ロラックスおじさんの秘密の種』:2012、アメリカ&フランス

スニードヴィルはプラスティックの町だが、住民たちは気に入っている。木々は全て人工で、自然は一つも無い。ゴミの行方や水の汚れのことなど、人々は全く気にしない。スノボもサーフィンも、一年を通して楽しむことが出来る。オヘアという男が空気を売って大金持ちになり、町を整備している。彼のおかげで綺麗な空気を吸うことが出来るので、町の人々は感謝している。町の四方は壁で封鎖されており、外に出ると空気は汚染されている。
テッド少年は好意を寄せる高校生のオードリーと会うため、わざとラジコン飛行機を彼女の敷地内に落下させた。テッドが訪れると、彼女は「見せたい物がある」と招き入れる。オードリーは裏庭の壁に絵を描いており、「これこそ本物の木よ。この辺り一面に生えていたんだって」と言う。「この世で一番見たい物は、本物の生きてる木よ」と彼女が言うので、テッドは「ある男が夢を叶えたらどうする?」と問い掛けた。するとオードリーは、「すぐに結婚する」と口にした。
帰宅したテッドは、ママに「本物の木が欲しい」と言う。しかしママは、「どこがいいの?意味が分からない」と相手にしない。祖母のノーマはテッドに、ワンスラーを捜すよう促した。ノーマは「木に何が起きたかは、彼に訊けば分かる」と言い、町の外に住んでいることを教えた。テッドはバイクに乗り、外へ繋がる扉を勝手に開けて町を出た。新たな金儲けについて考えていたオヘアは、テッドの動きについて部下から報告を受けた。そこでオヘアは、テッドの狙いを探るよう命じた。
テッドは古びた家に暮らすワンスラーを訪ねるが、追い払われそうになる。しかしテッドが「木の話を聞きたい」と言うと、ワンスラーは「木が消えたのは俺のせいだ。発明したスニードのせいだ」と告げて過去を語り始めた。まだ若い頃、ワンスラーはスニードという発明品で成功しようと考えた。家族は馬鹿にしたがワンスラーは自信満々で、スニードを作るための材料を見つけに行くことにした。彼はロバのメルヴィンに荷馬車をひかせ、家を出発した。
しばらく旅を続けたワンスラーは、トラッフラの木が大量に生えている谷に到着した。ワンスラーは動物たちをマシュマロで手懐け、1本の木を切り倒した。ワンスラーは谷に家を建て、トラッフラの木からフサフサの葉を摘み取った。一方、切り株からは森の番人であるロラックスが出現した。彼は動物たちと共に、切り倒された木を弔った。ロラックスはワンスラーの元へ行き、谷から出て行くよう要求した。しかしワンスラーは拒否し、「必要なだけ木を切り倒す」と告げた。
ロラックスはワンスラーに、「日が暮れても谷に留まっていれば、自然界のあらゆる力が解き放たれ、命尽きるまで災いをもたらす」と警告した。しかしワンスラーは警告を無視し、スニードを編み上げて眠りに就いた。テッドはワンスラーから「続きを聞きたかったら、明日来い」と言われて追い払われた。翌日、テッドが出掛けようとするとオヘアが立ちはだかり、「二度と町を出るな」と脅した。テッドはオヘアが去ったのを確認し、町の外へ出てワンスラーの家に赴いた。
ワンスラーは前夜の続きを、テッドに語り始めた。夜、ロラックスは動物たちに指示し、ワンスラーをベッドごと川に流して谷から追い払おうとした。しかし失敗に終わり、改めてロラックスは谷から出て行くよう要求した。スニードの試作品を完成させていたワンスラーは、「二度と木を切り倒さない」と約束した。ワンスラーは町へ行き、帽子や雑巾など様々な用途に使えるスニードを人々に売り込もうとする。しかし全く売れなかったため、諦めて谷へ戻った。ところが、ひょんなことからスニードで町で大評判となり、大勢の人々が谷へ押し掛けて売って欲しいと要求した。ワンスラーは人手が必要になったため、電話で家族を呼んだ。ここまで話したところで、ワンスラーは2日目の話を終わらせた。
次の日、テッドが町を出ようとすると、オヘアによって扉は封鎖されていた。テッドはバイクで壁を飛び越え、ワンスラーの元を訪れた。ワンスラーは彼に、昨日の続きを語った。谷へやって来たワンスラーのママは、掌返しで彼を絶賛した。家族はトラッフラの木の葉を採取するが、それは時間の掛かる作業だった。スニードを迅速に生産するため、ママはワンスラーに木を切り倒そうと提案した。ワンスラーは承諾し、家族は木の伐採を開始した。ワンスラーは約束を破ったことでロラックスから責められるが、全く気にしなかった。彼は大工場を建設し、谷の木を次々に伐採した。だが、ついに全ての木を切り倒したため、会社は潰れてしまった…。

監督はクリス・ルノー、原作はドクター・スース、脚本はケン・ダウリオ&シンコ・ポール、製作はクリストファー・メレダンドリ&ジャネット・ヒーリー、製作総指揮はオードリー・ガイゼル&ケン・ダウリオ&シンコ・ポール、共同監督はカイル・バルダ、製作協力はロバート・テイラー、プロダクション・デザイナーはヤーロウ・チェイニー、アート・ディレクターはエリック・ギロン、編集はケン・シュレッツマン&クレア・ドッジソン&スティーヴン・リュー、音楽はジョン・パウエル、歌曲はジョン・パウエル&シンコ・ポール、音楽製作総指揮はクリストファー・“トリッキー”・スチュワート。
声の出演はダニー・デヴィート、エド・ヘルムズ、ザック・エフロン、テイラー・スウィフト、ベティー・ホワイト、ロブ・リグル、ジェニー・スレイト、ナシーム・ペドラド、ジュエル・スウェトウ、マイケル・ビーティー、デイヴ・B・ミッチェル、デンプシー・パピオン、エルマリー・ウェンデル、ダニー・クックセイ、スティーヴン・トボロウスキー、クリス・ルノー他。


ドクター・スースの児童書『The Lorax』を基にした長編3Dアニメーション映画。
クリス・メレダンドリの設立したイルミネーション・エンターテインメントが、『怪盗グルーの月泥棒』『イースターラビットのキャンディ工場』に続いて製作した3本目の映画。
監督は『怪盗グルーの月泥棒』のクリス・ルノー、脚本は『怪盗グルーの月泥棒』『イースターラビットのキャンディ工場』のシンコ・ポール&ケン・ダウリオ。
ロラックスの声をダニー・デヴィート、ワンスラーをエド・ヘルムズ、テッドをザック・エフロン、オードリーをテイラー・スウィフト、ノーマをベティー・ホワイト、オヘアをロブ・リグル、ママをジェニー・スレイトが担当している。

この映画はミュージカル形式になっており、オープニングではスニードヴィルの住民たちが「木々は全て人工で自然は一つも無い。ゴミの行方や水の汚れのことなど気にしない」といった内容を歌い上げる。
それは皮肉を込めた歌詞なんだろうけど、「住んでいる人々が幸せを感じているのなら、別にいいんじゃないか」と思ってしまうのよね。
住民による環境汚染が外部に影響を与えていれば問題だけど、むしろ外部に環境汚染が広がっている中で町だけは綺麗に保たれているわけで。
それで住人がハッピーに暮らしているのなら、部外者がとやかく言う問題ではないでしょ。

そもそも、スニードヴィルが人工的な町になったのは、自然が全て破壊されてしまったという、仕方の無い事情があるからだ。
オヘアはともかく、住民たちが率先して環境を破壊し、自然を拒絶しているわけではない。そもそも自然が無いのだから、自然を大切にすることなんて不可能なのだ。
だから冒頭の歌詞で皮肉めいたことを言おうとしても、ちょっと違うんじゃないかと思ってしまう。
自然の大切さや環境破壊への警鐘というメッセージを訴える狙いがあるのなら、初期設定に問題があるような気がするんだよな。

オードリーは壁の絵をテッドに見せて「これこそ本物の木よ。生きてる木よ」と興奮した口調で話すのだが、その絵が本物の木には全く見えない。何しろ、葉っぱは渦を巻いたような形だし、赤や黄色やピンクだからだ。
むしろ、スニードヴィルに設置されている植物の方が、遠くから見れば本物に見えるんじゃないかと思ってしまう。
しかし回想シーンで谷に生えているトラッフラの木は、オードリーが描いた木なのだ。
それは原作通りなのかもしれんけど、どうにも違和感が拭えないのよね。
ワンスラーが谷を発見した時に「なんという美しさ」とか「パラダイス」と感激するんだけど、なんか人工的な印象があるから、ちっとも同調できないし。

あと、オードリーが木について「香りは、まるで甘い甘いミルクよ」とウットリした様子で話すけど、木に対して「甘いミルクの香り」というイメージなんて全く無いわけで。
そりゃあトラッフラの木は、ミルクの香りがするという設定なのかもしれないよ。
だけど我々が良く知っている一般的な木々は、そんな甘い香りなんて放っていないわけで。
観客に対して自然の大切さを訴える作品のはずなのに、現実社会における「木に対するイメージ」から大きく逸脱したモノを持ち込んじゃうってのは、なんか違うんじゃないかと。

オヘアが悪玉扱いされているが、自然破壊によって空気が汚染される中、町の空気を綺麗にしたのは彼なのだ。
もちろん金儲けのためにやったことではあるが、そのおかげで住民たちは綺麗な空気を吸って暮らすことが出来るようになったわけだから、それを果たして悪党と呼ぶべきかどうかは疑問だ。
テッドが木の種を植えるのを阻止しようとする辺りは、確かに悪玉としての行動になっている。
でも、むしろ本作品で本当に悪玉扱いされるべきは、間違いなくワンスラーでしょ。

ワンスラーはテッドが訪問すると荒っぽい態度で追い払おうとしたのに、「木の話が聞きたい」と言われると途端に態度を豹変させ、なぜ木々が消えたのかを自分からベラベラと喋り始める。しかも、どこか自慢話のように語り始めるのだ。
ワンスラーのせいで全ての木々が消滅したのに、罪悪感や責任感を抱いている様子は全く見えない。
罪の意識を心底から感じているのなら、もっと口は重くしておくべきだろう。
軽いノリで自慢げに話し始めるなんて、絶対にやっちゃダメだわ。

ロラックスがテッドに語る昔話は1日で終わらず、3日を費やしている。その度にテッドは町へ戻り、またロラックスの家を訪問するという手順が必要になっている。
それは無駄に回想劇を分断し、モタモタしているという印象を受ける。
一応、オヘアが脅しを掛けたり、扉を封鎖したりという様子は挟まれているけど、必要性が乏しい。
それを含めて、流れをブツブツと切断しているように感じられる。

構成に関しては、もっと大きな問題がある。それは、現代パートと回想パートが上手く結び付いていないってことだ。
現代パートの主役はテッドで、回想パートの主役はワンスラーだ。
この2人の関係性は、「テッドがワンスラーから話を聞く」という薄い繋がりしか無い。現代パートでテッドがロラックスと絡むことは一度も無いし、回想パートにテッドは登場しない。
ようするに、完全にバラバラになっているのだ。
どう考えたって、現代パートでもワンスラーを積極的に動かすべきだ。テッドを狂言回しにして、ワンスラーを実質的な主役に据えるべきだよ。

最初にワンスラーが「スニードは万能の発明品」みたいなことを言っていた時点では、スニードの正体が何なのかは全く分からない状態だ。
で、ロラックスたちに説明するシーンになって、それが帽子や雑巾など様々な用途に使える布ってことが判明する。
でも、スニードを作るのに必要なのは葉っぱの部分だけなので、「なんでワンスラーは木を切り倒したのか」と言いたくなる。
葉っぱを摘み取って集めれば、それでスニードは作れたはずでしょうに。

あと、色んな用途に使えることはワンスラーが説明しているけど、それでもスニードって、かなりアバウトな製品なんだよね。
だから、それが大人気になるってのは無理があると感じるし、「別にトラッフラの葉っぱじゃなくても作れるんじゃないか」と思ってしまうのよね。
「金儲けのために木を全て伐採する」という展開を作りたいのは分かるよ。
でも、木を伐採する目的となる「スニードの材料にする」という部分が、なんかフワフワしちゃってるんだよなあ。

ワンスラーが1本の木を切っただけで、動物たちは極度の落胆を示し、ロラックスは激しく非難する。
でも、後先考えずに次々と伐採しているわけではなく、たった1本を切っただけなので、ちょっと引っ掛かりを覚える。
例えば家を建てるにも、木は必要なわけで。人間が生きていく上で、木を伐採することは避けられない。
だから「木を切る」という作業そのものを全否定するような描写に対して、やや過剰なモノを感じてしまうのだ。
木を切ることを全面的に「自然破壊だから悪いこと」と位置付けてしまったら、もはや人間の存在そのものが自然破壊に繋がっちゃうわけで。でも、そんなイカれた環境保護テロリストみたいなことを言い出したら、シャレにならんでしょ。

結果的にワンスラーは全ての木を伐採しているので、ロラックスの懸念は正しかったということになるのよ。
ただし、そういう展開に突入すると、別の問題が生じる。
前述したように、「オヘアよりもワンスラーの方が、よっぽど悪党でしょ」ってことだ。
オヘアは自然破壊で汚れた空気を綺麗にしてくれたけど、ワンスラーは何の責任も取らず、謝罪もせず、ただ逃げ出しただけだ。
住民たちが非難すべき相手はオヘアではなく、絶対にワンスラーでしょ。

ワンスラーはテッドに「誰かが何かしなければ変わらない」と告げ、最後に残っていたトラッフラの種を渡して全てを委ねるが、「お前が行動しろよ」と言いたくなる。
諸悪の根源はテメエなんだから、責任を取れよ。
テッドに「お前が関心を引いて、町のみんなに見せろ。世界を変えろ。確かに1粒の種は小さいが、大切なのは未来だ。やがて大きく育つ。それはただの種じゃない。お前がただの子供じゃないように」と説いているけど、どの口が言うのかと。
ワンスラーにメッセージ性の強い台詞を喋らせても、説得力はゼロだぞ。
本人が大きな罪を犯しておきながら何の責任も取らず、他人にケツを拭いてもらおうとする卑怯者なんだから。

現代パートのラストでロラックスは出現し、ワンスラーに「よくやった」と声を掛けている。
そこを「感動の再会劇」みたいに描いているけど、ちっとも心を揺れ動かされない。
だって、ワンスラーは何も無し遂げていないのよ。
彼はテッドに種を渡しただけであり、オヘアの妨害を突破して町に種を植えたのはテッドだ。
つまり、ロラックスが称賛すべきはテッドであって、種を渡しただけでワンスラーが過去の罪を許されるってのは、とてもじゃないが受け入れ難いのよ。

テッドにしても、「オードリーと結婚したい」という私欲から本物の木を手に入れようとしただけだ。
どうやら終盤は使命感を抱いているようだけど、そこで目覚めたのかはボンヤリしているし。
それならワンスラーを「自然を破壊して人工的な町を作ろうとする悪党」ってことでオヘアと合体させたようなキャラにして、テッドとロラックスの交流で物語を構築し、「最初は不純な動機だったテッドが使命感に目覚め、自然を取り戻そうとする」という話にでもした方が良かったんじゃないかと思うぞ。
少なくとも、こんな陰気でアンバランスな内容にするよりは、マシだったんじゃないかと。

(観賞日:2015年9月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会