『レディ・ガイ』:2016、アメリカ&カナダ&フランス

カリフォルニア州メンドシーノ精神科病院。レイチェル・ジェーンは拘束衣を着せられて椅子に座り、新しく担当となったラルフ・ガレン医師の面談に臨んだ。レイチェルは免許を取り消されているが、かつては医師だった。約2年前の11月22日夜、サンフランシスコ警察に匿名の通報があって、事件が発覚した。現場には身元不明の死体が4つ転がり、レイチェルは意識を失って手術台に横たわっていた。それまでレイチェルは違法にクリニックを開設し、手術を行っていた。
レイチェルはラルフに、「手術が必要なのに、高額な費用が払えない人のためよ」と主張する。助手のアルバート・ベッカーが弾切れの銃を握って死んでいたことにラルフが触れると、彼女は「フランク・キッチンの銃よ」と告げた。その銃の線条痕は、他の遺体やレイチェルの胸から取り出された弾丸と一致した。レイチェルは複数の罪で逮捕されたが、裁判に耐えられない精神状態と判断された。彼女は定期的な精神鑑定を受けており、正常になったと判断されれば拘置所に戻されることが決まっている。ラルフはレイチェルに、弟のセバスチャンとの関係を尋ねた。レイチェルは彼に、「仲が良かった。特別な関係だった」と告げた。
3年前、ニューヨークのソーホー。ドラッグに溺れて無軌道な生活を送っていたセバスチャンは、殺し屋のフランクに殺害された。それを知ったレイチェルは大金を払って犯人を突き止めたが、警察やラルフはフランクという男が存在しないと考えていた。22ヶ月前。フランクはサンフランシスコのシャンハイホテルにチェックインし、部屋に入ってシャワーを浴びた。そこへオネスト・ジョンという男が、手下2人を引き連れて現れた。以前からレイチェルはジョンに、ホームレスを拉致する仕事を依頼していた。そして彼女は、そのホームレスを使って実験を繰り返していた。
ジョンは2年前にも、フランクに殺害の仕事を依頼したことがあった。彼はベニー・ホン・リーという男の殺害を依頼し、自分の金だけでなくビジネスも盗もうとしているのだと告げる。ただしベニーは自分の縄張りではないベガスにいるため、1週間後に始末してくれと要請した。彼は2万5千ドルの報酬を渡し、ホテルを去った。その夜、バーへ出掛けたフランクはジョニーという女を口説き落とし、ホテルに連れ帰って関係を持った。翌朝、ジョニーは連絡先のメモを渡し、フランクと別れた。
ラルフは主任のターリーに、レイチェルとの面談について話す。彼はレイチェルがシェイクスピアやエドガー・アラン・ポーについて講義し、自分の賢さを見せ付けようとすることを語る。ベニーは再びホテルを訪ね、フランクに「問題が起きた。お前は悪い相手を敵に回した。そっちと交渉して、満足な取引が出来た。そっちを優先する」と告げる。フランクは彼の手下たちに襲われ、意識を失った。彼は手術を施され、意識を取り戻すと別のホテルでベッドに寝かされていた。
包帯を外したフランクは、自分が女性に性転換させられたことを知った。室内にあるICレコーダーをフランクが再生すると、レイチェルのメッセージが吹き込まれていた。レイチェルは復讐として手術を施したこと、身体を維持するためには女性ホルモンが必要であることを語った。フランクはレイチェルが用意しておいた錠剤を飲み、雑貨店で購入した酒を飲んだ。ホテルのフロントで金を盗んだフランクは、気付いたオーナーをバットで殴り倒した。
安ホテルを出たフランクはシャンハイホテルに戻り、何者かが自分の部屋を荒らしたことをオーナーのティン・リーから聞く。ベッドの下の荷物は持ち去られていたが、隠しておいた2万5千ドルは残っていた。レイチェルはラルフから財産の多い理由について問われ、死んだ父が残してくれたのだと答えた。彼女は医学界に多くの敵がいたこと、医師免許を失ってから違法な性別適合手術を始めたことを語った。フランクはジョニーに連絡を取り、ダイナーで会う約束を取り付けた。ダイナーに来たジョニーは、フランクの性別が変化していることに驚いた。「ヤバイ連中を敵に回して困ってる」とフランクが明かすと、ジョニーは自分の部屋で匿うことにした。
レイチェルはラルフから「貴方が金持ちなら、なぜ弟に都合してやらなかったのか」と質問され、「弟は渡した金をドラッグやギャンブルで使い果たした」と答えた。ラルフはフランクの存在を証明する物は何も無いことを指摘し、この事件は性的能力の欠如に起因するのではないかと問い掛ける。レイチェルはベッカーと性的関係を持っていたことを語り、「ベッカーが犯人なのではないか」と問い詰めるラルフに憤慨して掴み掛かった。
8ヶ月前、フランクはオークランドのアラメダ・ホテルに宿泊し、弁護士に渡すためのビデオメッセージを撮影していた。フランクは自身に起きた出来事について語り、復讐の開始を宣言した。フランクは銃を手に入れ、ジョンの手下たちの情報を得た。フランクはオイスター・バーでアール・ホーキンスを射殺し、リッチモンドへ飛んでニカラグア人2名を始末した。さらにジョー・キャディガン、ウラジミール・ゴルスキー、ヒロシ・コーを射殺し、最後にジン・タオを始末した。
レイチェルはラルフに謝罪し、自白したいので検事に供述書を取ってもらいたいと告げた。フランクはクリニックでリン医師に診察してもらい、男に戻すことは可能なのかと尋ねる。リンは少なくとも半年のカウンセリングが必要だし、見た目を戻すのは可能でも機能は無理だと告げられる。ラルフはレイチェルの供述書を取ってもらうため、検事代理のポール・ワインコーツを呼んだ。レイチェルはポールに、復讐としてフランクに性的適合手術を施したと語った。
レイチェルは実験が目的だったと言い、「元々の性別がアイデンティティーを作るなら、性的適合手術を施しても変わらない」という仮説が正しかったと告げる。彼女は自分の手術が科学の発展に必要だったのだと主張し、質問に答えることを拒否して部屋に戻った。フランクはジョンのオフィスに乗り込み、ボディーガードの連中を始末した。フランクはジョンを椅子に縛り付けて脅迫し、黒幕が医師免許を剥奪された女医だと聞き出した。ジョンは数年前に従弟を殺され、フランクに恨みを抱いていた。ジョンはフランクに、ジョニーが監視役であることも話す…。

監督はウォルター・ヒル、原案はデニス・ハミル&ウォルター・ヒル、脚本はウォルター・ヒル&デニス・ハミル、製作はサイド・ベン・サイド&ミヒェル・メルクト&ハーヴェイ・カーン、共同製作はジョン・リンド、製作協力はケヴィン・チネイワイズ&ケイト・メルクト&デニス・ハミル&トッド・ジルー、撮影はジェームズ・リストン、美術はレネ・リード、編集はフィリップ・ノルデン、衣装はエレン・アンダーソン、テーマ曲はジョルジオ・モロダー、音楽はラネイ・ショックニー。
出演はミシェル・ロドリゲス、トニー・シャルーブ、シガーニー・ウィーヴァー、アンソニー・ラパーリア、ケイトリン・ジェラード、ブレント・ラングドン、エイドリアン・ハフ、ケン・カージンジャー、ダリル・クオン、キャロライン・チャン、ジョン・カランダー、ビル・グロフト、テリー・チェン、ザック・サンティアゴ、エリー・ハーヴィー、アレックス・ザハラ、セルヒオ・オスナ、エリザベス・タイ、ジェイソン・アスンシオン、ポール・マクギリオン、ヒューゴ・アテオ、ラウロ・チャートランド、エルティー・ピアース、ポール・チー=ピン・チェン他。


『デッドロック』『バレット』のウォルター・ヒルが監督を務めた作品。
原案&脚本はウォルター・ヒルと『ターク182』『S.O.S.ドクター・ノーグッド!』のデニス・ハミルによる共同。
フランクをミシェル・ロドリゲス、ラルフをトニー・シャルーブ、レイチェルをシガーニー・ウィーヴァー、ジョンをアンソニー・ラパーリア、ジョニーをケイトリン・ジェラード、ターリーをブレント・ラングドン、セバスチャンをエイドリアン・ハフ、ベッカーをケン・カージンジャー、ジンをダリル・クオンが演じている。

「男が序盤で女に変身する」という仕掛けがあるが、ここを成立させるための方法は幾つかある。
1つは、男性の時と女性の時で別の役者を使うという方法だ。
ただし、この場合は「性別は異なるが良く似ている男女の役者」を見つけるのが難しい。まるで似ていない男女でも内容によってはOKだろうが、この作品だとマズいだろう。
他には、男性の役者を使い、性転換後は女装してもらうという方法もある。そして当然のことながら、その逆もある。
そして本作品は、3つ目の選択肢を選んだ。

主演に起用されたミシェル・ロドリゲスは、まず「男のフランク・キッチン」として登場する。男であることをアピールするために、序盤で「シャワーを浴びてチンコ丸出しになる」というシーンまで用意されている(当たり前だが日本だと股間にボカシが入る)。
ただ、残念ながら、その男装姿は、ミシェル・ロドリゲスにしか見えない。
何しろ、特殊メイクやCGなどで精密に作り上げているわけではなく、ちょっとヒゲを付けた程度に留めているなのだ。言ってみれば、軽い変装レベルなのだ。
そのため、序盤から「安っぽい映画だな」という印象を感じさせる羽目になっている。
そして実際、チープな映画なのだ。

「男の殺し屋が手術で女に性転換させられる」という珍妙なアイデア一発だけで勝負しているような、かなりキワモノの作品だ。
もはやコメディーじゃないと成立しないんじゃないかと思うような仕掛けなのだが、これを徹底的にマジなトーンで描いているので、どういう風に受け止めればいいのか困惑してしまう。
テイストがシリアスであっても、荒唐無稽さを全面に押し出していれば、マジじゃないんだってことは分かる。
でも、そうじゃなくて、本気でシリアスなアクション映画として作っているのである。

大真面目に描くぐらいだから、いわゆるジェンダーの問題をテーマに掲げているのかというと、そんな気配は微塵も無い。男が女に性転換させられたことでの苦悩や葛藤を表現するのかというと、そんな様子も皆無に等しい。
この映画において、「男が強制的に女にされた」という仕掛けが何の意味を持っているのかと考えた時に、その答えが全く見えて来ないのだ。
あえて言うなら、「ミシェル・ロドリゲスが序盤で男装し、男装姿でのシャワーシーンまで披露している」ということぐらいだろう。
ただし、「それに何の意味があるのか」と質問された時、私は何の答えも思い付かない。

「男の殺し屋が手術で女に性転換させられる」というアイデア自体は、陳腐だと一笑に付して片付けるようなことでもない。上手く使えば、面白い映画に仕上げることは可能だったはずだ。
ところがウォルター・ヒルは、そのアイデアで思考停止に陥ってしまったのか、まるで使いこなせていない。
そもそも、そのアイデアを思い付いた時に、どこに彼は面白さを感じたのだろうか。
自分が面白いと感じた部分を際立たせ、誇張して膨らませれば良かったはずなのだが、この映画からは何も見えて来ない。

そもそも、弟を殺されたレイチェルが復讐としてフランクを性転換手術するというのが、全く理解できない。なぜ復讐の方法が、殺害や拷問ではなく性転換手術なのか。
彼女はレコーダーで「暴力から解放してあげた」と言い、必要な錠剤まで用意している。つまりフランクが女性として生活していけるような手はずは、それなりに整えているのだ。
でも、「いや、なんでだよ」とシンプルなツッコミを入れたくなる。
相手は殺し屋なんだから、生かしておいたら復讐に来ることは容易に想像が付くはずで。それなのに、なぜ性転換なのかと。
一応はボディーガードを雇っているけど、そんなことするより殺しておけば済んだ話でしょ。

フランクは性転換を知った直後こそショックを受けているものの、それ以降は粛々と復讐を遂げて行く。
女になったことで、苦労する様子も無い。
なので、性転換手術の要素を完全に排除して、「殺し屋のミシェル・ロドリゲスが自分を騙した相手に復讐するアクション映画」として作ったとしても、ほとんど内容は変わらないのである。
むしろ、そういう形にしておけば序盤の「どこからどう見てもミシェル・ロドリゲスでしかない男装姿」のバカバカしさは消えるし、メリットしか見えないのだ。

映画はレイチェルがラルフと面談する様子から始まり、回想劇を挟んで何度も2人のシーンに戻って来る。
最初はレイチェルが逮捕された事件の詳細について明かされていないので、もちろん「実はこんなことがありまして」というトコへ繋げるための構成だ。
しかし、何度も面談シーンに戻って来ることが、話のテンポを悪くするマイナスにしか繋がっていない。
面談シーンではレイチェルがシェークスピアやポーについて語ることもあるが、それも「だから何なのか」と言いたくなるだけだ。

レイチェルとラルフの会話シーンには、ミステリーを紐解いていく方向での面白さも無ければ、無駄話としての魅力も無い。それどころか、ほとんど話は先に進んでいない。
そこで繰り広げられる会話の大半は、「不毛」の一言で片付けられる。
レイチェルが金持ちだとか、医学界に敵が多かったとか、そんなことをダラダラと喋られても、回想シーンとは何の繋がりも無い。
本来なら、回想劇に入るための序奏であったり、あるいは謎解きの手掛かりであったり、そういう内容になっているべきだろうに、単なる時間の浪費であり、単なる無意味な寄り道でしかないのだ。

面談シーンで何の効果も得られていないのだから、変な小細工は放棄して、シンプルに時系列順の構成を取れば良かったんじゃないかと思ってしまう。
そしてフランクの復讐劇を、ケレン味たっぷりのハードボイルドなアクションで飾り付ければいいんじゃないかと思ってしまう。
っていうかさ、この映画、形としては復讐劇だけど、アクションの面白味は無い。
ウォルター・ヒルが監督なのでアクション重視だと思うのは当然だと思うが、それを期待すると大いに肩透かしを食らう羽目になる。

フランクは凄腕の殺し屋という設定のはずなのに、そして不意打ちを食らったわけでもないのに、シャンハイホテルでたった2人の攻撃に負けて昏倒する。
もちろん彼が意識を失ってくれないと、性別適合手術のシーンに入れないのことは分かっている。
ただ、だからと言って、そんな不恰好な形で捕まる必要なんて絶対に無いわけで。
そこは「普通に襲われたのなら簡単に片付けていたが、罠を仕掛けられたので殴り倒された」という形にでもしておいた方が、得策でしょうに。

フランクが復讐を宣言してジョンの手下たちを次々に血祭りに上げていくシーンは、話を盛り上げて観客を興奮させるには絶好のチャンスのはずだ。
しかし、ただフランクが敵のいる場所へ行って発砲する様子を、ナレーションベースで淡々と処理するだけ。だからカタルシスなど、微塵も無い。
そもそもシャンハイホテルでフランクを襲ったのはヒロシ・コーとジン・タオの2人だけなので、他の奴らは復讐に何の関係も無い連中なのだ。
レイチェルの元へ乗り込むシーンでも、後はラスボスだけなんだから一気に畳み掛ければいいものを、「変装したのに正体がバレていて簡単に捕まる」という手順を踏んじゃうし。

(観賞日:2019年5月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会